まぞくはもうおしまいです……もうおしまいだからほっておいて…… 作:信頼できる語り手
原作:葬送のフリーレン
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 フリーレンにコロコロされる魔族オリ主杯 たぬき 女神 魔物 魔族 ソリテール 最弱 勘違い
ソレは私を敵として認識していなかった。
ソレを殺す事を、生涯の目標に決めた。
走
の
コ
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ゥ
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我は魔族である。名はコナトゥス。
外見は狸に酷似しているが、頭に生えた丸っこい角が魔族の証だ。……毛に隠れて見えない程度の大きさなので、初対面には野生動物と勘違いされる。
「! 食べ物の匂い……!」
人間の言葉を話し、騙し、殺し、食らうのが魔族の生態だ。しかし、我は未だに人間を殺した事がない。
「何!? 足に紐が絡んで……! しまった! また人間の罠か!」
何故なら、我は人間……いや、肉眼で観察可能なあらゆる生物よりも。
「誰か助けてぇ……」
──弱いからだ。
多くの魔族は生涯を1つの魔法の研究に費やす。
我の場合は『音の魔法』だ。
対象が最も心地良く感じる音を分析し、魔法で演奏してリラックスさせる。その隙に人間の食料を盗む事で、最弱の我は生き長らえていた。
「魔王様からの指令よ」
盗んだパン屑を食べていた我の体を、額に小さな角の生えた女性が抱き上げる。
愛玩動物のような扱いに腹が立ったが、抗議しても意味がない。コイツの事だ。何か人間の影響でも受けたのだろう。
「また監視役か、ソリテール?」
「それしかできないでしょ? でも、君以上に警戒されない魔族はいないわ。だから、魔王様に気に入られてるの」
ソリテールは4人の人間が描かれた紙を我に見せてくる。
「今回は大物よ。勇者『ヒンメル』、僧侶『ハイター』、戦士『アイゼン』、魔法使い『フリーレン』」
「勇者一行……。はっ、何組目だ?」
まったく、人類は愚かだ。人の身であの魔王に勝てるはずがない事くらい、考えなくとも分かるだろうに。
「命令は了解した。我を地面に下ろせ」
「まだ、駄目。変わり者の魔族同士、もう少しお喋りに付き合って欲しいわ」
お前と一緒にするな。我は好きで変わり者をやっているわけじゃない。
普通の魔族になれるなら、なりたいさ。
「どうしたんだい、フリーレン」
ソレは女神のような姿をしていた。
「歩き疲れたのでしょう。ヒンメルは足が速すぎます」
魔王配下屈指の魔力探知能力を持つ我が、最大限に接近してようやく輪郭を掴めたほどの完璧な偽装。
「……敵襲か?」
ソレは我を敵として認識していなかった。
「いや、何でもないよ。気のせいだったみたいだ。先に進もう」
故に、見逃した。珍しい事ではない。だが、我は何故か酷い屈辱を感じた。
その理由が自身の得意分野で
人生は突然変わると言うが、魔族も同じだったようだ。
我はその瞬間……生きる意味を見付けた。有象無象の人間などではなく、最初に殺すべき存在を見付けた。
──ソレを殺す事を、生涯の目標に決めた。
帝国の暗殺部隊はターゲットを葬る前段階として、徹底的に背景に溶け込むという。
我は勇者一行を慎重に尾行しながら、フリーレンが立ち寄った村の喧騒に紛れて、必ず音の魔法を響かせた。
これは布石である。我に生き物を殺す力はないが、膨大な回数と手間をかけて『仕込み』をすれば話は別だ。
標的に何度も繰り返し接近する必要がある、お世辞にも実用的とは言えない欠陥魔法。我自身でさえ実際に発動した事はない。
この魔法の行使に必要な前準備はざっと90年である。90年、常に近くに張り付いて、音を染み込ませなければならないのだ。対象が普通の人間なら先に老衰死している。
労力が掛かり過ぎる上に、最弱の魔族である我はその過程で死ぬ可能性が高い。
それでも、やると決めた。
弱い我が勇者一行の戦いを直接見る事は叶わなかったが、噂だけは誰よりも近くで聞いていた。
クヴァールを封印したらしい。アウラを撃退したらしい。そして……。
50年に1回の
我は迷わず、フリーレンを追った。
「コナトゥス。君は今、何をしてるの?」
ソリテールと久々に会った。相も変わらず、神出鬼没な奴だ。
「見えない敵と戦っている」
我は彼女のような大魔族ではない。自身の寿命が近い事は察していた。
「魔王様は死んだわ。命令はもう無効」
「知っている」
「……君、ちょっと変わった?」
「さあな」
我は魔法の最終調整段階に入っている。本来なら話し掛けられるのも鬱陶しいところだが、不思議とソリテールを追い返す気にはなれなかった。
「私はマハトに加勢しに行くよ。人類との共存……その夢物語の結末を見る為に」
「そうか……。寿命の長い連中は難儀だな。奴はきっと、これからも止まる事ができないのだろう」
我は喋りながらも思考を巡らせる。フリーレン、フェルン、シュタルク。彼女らはどう行動し、どのタイミングで仕掛ければ作戦が成功するのか。
我達の本能に刻まれた魔族としての……狩る者の思考。
「君は魔王様の仇討ちでもするつもり?」
「まさか。我は我の為だけに魔法を使う」
勇者ヒンメルの死から30年。北部高原ドラッヘ地方。
そこで決着を付ける。
「……お前達には理解できんよ」
もしも魔王が生きていたら、我の馬鹿げた生涯を何と評しただろうか。
シュタルクが竜と戦っていた。フェルンとフリーレンの意識はそちらに向かっている。
我は魔力を極限まで抑えて、フリーレンの背後に回り込んだ。
言葉はない。音はない。彼女から認識されれば我は終わる。充分だ。未来など要らない。
ただ、全霊を以て、今だけを。
「
これは致死の毒だ。
長い長い年月をかけて、我の音を対象に染み込ませ、生命活動の一部とする。それら全ての音を一気に奪う事で、生物は負荷に耐えきれず……即死する。
「ようやく姿を見せたね」
振り返ったフリーレンは我に杖を向けていた。口振りからすると、我の魔法に気付いて何らかの対策を行っていたらしい。
流石は老獪な魔法使いである。我は心の中で素直に称賛した。
「だが……成したぞ」
1つの命が消える音がする。我は確かに殺したのだ。
──フリーレンの肩の上で命を狙い続けていた、
「大した隠形だったな、我が敵よ」
ソレは女神のような姿をしていた。女神のように、実体を確認できない存在だった。
ソレは我を敵として認識していなかった。一瞬だけ気配を感知されたところで、気のせいで片付けられると高を括っていた。
ソレは想像できなかった。我の内から湧き上がる馬鹿げた執念を。
「本当に……この魔法の対策には時間と手間が掛かったよ。僧侶の力なしで凌ぐには、多数の民間魔法を組み合わせる必要があった」
そうか。我の生涯を懸けた魔法は、あのフリーレンさえも警戒する域に至っていたか。
「惜しかったね。この魔法を完全に克服できたのは、つい最近の事だよ」
……満足だ。最後の最後に彼女の魔法で葬って貰えるとは、望外の幸運である。
「これほどの『無名の大魔族』が生き残っていたとはね」
「無名? 違うな」
逃げ続けた生涯。散り際くらいは名を名乗っても良いだろう。
「
「我の名は──」
盗
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コ
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