ミッターマイヤーのキャラを知って欲しくて、書きました。
その人は、銀河英雄伝説を全く知らないので。
第123回 帝国新兵「憧れの将軍」アンケート
帝国暦○○○年。
オーディン郊外、士官学校付属の広大な訓練場。
朝靄の残る演習場に、整然と並ぶ新兵一万二千名。
毎年この時期に行われる、古き良き伝統行事が始まろうとしていた。
――「憧れの将軍アンケート」
教官が名簿をめくりながら無感情に告げる。
「自分が目指す、あるいは憧れる大将以上の軍人をあげること。
なお、このアンケートの結果は、人事評価・査定・将来の配置に――
一切関係しない。(建前上は)」
新兵たちの背筋が、一斉に固くなった。
◆ミッターマイヤー大将であります
素早く先陣を切って声を上げたのは最前列の新兵だった。
「自分の憧れはミッターマイヤー大将であります!」
とても早口で言い切った!
ざわめきは――起きず。
「ああ、はいはい」
「まぁ、そうだよな」
「王道だ」
理由を問う者は一人もいない。
疾風。無敗。人望。忠誠。そして私生活すら無傷。
“説明不要の憧れ”
それがミッターマイヤー。
「よし、同じと思う者は東へ移動」
6割ほどの新兵が、迷いなくキビキビと東へ進んだ。
「憧れるだけあって、みな素早いな」
◆ビッテンフェルト様だ
次の新兵は跳ねるように手を挙げた。
「自分の憧れは! ビッテンフェルト様だ!」
掴みかかってくるのではと思うほどの勢いで叫んだ。
一拍置いて、
「ああ……ね」
「なるほど」
「うおおタイプ、だな」
止められはしない。勧められもしない。だが否定もされない。
教官が重く問いかける。
「……白兵戦、得意か?」
「はい!」
「だろうな」
南側へ移動する彼らの鼻息は、全体的に荒かった。
記録欄には「突撃適性:大」
◆「…オーベルシュタイン閣下です」
その名が出た瞬間、空気が冷えた。
「私の憧れは……オーベルシュタイン閣下です」
「……え?」
「お前、本気か……?」
「ヤツは大将ではないんだが…いや軍人ですらない」
新兵は淡々と答える。
「合理的判断です…」
教官が名簿を閉じる音が、重く響いた。
記録
知能指数:高
協調性:要経過観察
心理傾向:冷静
「まあ、同じ意見の者は会議室に集まれ」
(集まったら監視カメラを回し、鍵をかけておけ)
◆キルヒアイス将軍です
-この項目は事情により削除されました-
◆ラインハルト様ただ一人です
後方から静かな声が落ちてきた。
「なりたいなどと、恐れ多いことは決して申しませんが
絶対的に憧れるのは、ラインハルト様ただ一人です!」
「あっ、お前」
「ずるいぞそれ!」
「それは反則だろ!」
「それがアリなら皆そうじゃん」
新兵は胸を張る。
「自分に嘘はつけないであります!」
教官は深く嘆息した。
「……お前ら…ルールをねじ曲げ過ぎ」
「だが、その心は認めよう」
これもまた、一定数の者が同じ場所に集まった。
◆ヤン・ウェンリー提督です
澄んだ声が響く。
「自分の憧れは、ヤン・ウェンリー提督です!」
即座にツッコミが入る。
「敵じゃん!」
「お前、それ同盟軍じゃん!!」
「敵側の英雄じゃん!」
新兵は慌てて付け足す。
「で、ですが、陛下も認めた人物であり――」
「敵としてな」
「あっ……」
記録:
戦史理解:優秀
所属意識:やや希薄
思想:黄色信号
「同じ意見の者は……いないな。じゃあお前はここで立っていろ」
◆ロイエンタール閣下であります
「自分の憧れは、ロイエンタール閣下であります!」
――空気が止まった。
「……それは」
「どういう方向性で、かな?」
新兵は困惑する。
「もちろん、 優秀で、陛下の信頼も厚い将軍閣下としてですが」
「……そうか」
「それならまあ……」
「セーフ、か……?(今後要観察だが)」
記録:
能力評価:良好
志向性:要観察
将来性:やや不安定
ロイエンタール組は皆、
ニヒルな笑いや陰のある表情をしている。
かなり癖の強い集団となった。
◆総評
教官が最後に口を開く。
「いいか、
ミッターマイヤーになれる者は少ない。
ビッテンフェルトを目指す者は、危険を乗り越えろ。
オーベルシュタインを目指す者は、孤独を恐れるな。
キルヒアイスを目指す者は、自分を大切にな
ラインハルト様になれる者は――別の宇宙にしかいない。
ヤン側になる者は、まあ、ここにはいないと信じている。
ロイエンタールになる者は……自分に酔い過ぎるなよ」
新兵たちは背筋を伸ばした。
「では、解散!」
その日のアンケートデータは、
翌朝、オーディン中央区のある男にも届けられた。
彼は集計表だけを眺め、興味があるのかないのか分からぬ声で
眉ひとつ動かさずに呟いた。
「……人材は、毎年それなりに揃うものだな」
こうして第123回「憧れの将軍アンケート」は、
今年も「比較的、平穏」の評価と共に静かに幕を閉じた。
最後の男の台詞が
“あの人”の声色で脳内再生されたら
「銀河英雄伝説」初心者卒業です。