炭治郎 in 地獄の轟家 作:俺はお兄ちゃんだぞ!!
誤字脱字報告も助かっています。
「炭治郎少年!!」
オールマイトさんの必死の叫びを聞いた瞬間、全力で横に飛んでいた。
頭で考えるよりも先に身体が反応する。
さっき俺がいた場所を炎や岩が通り過ぎて壁と激突し破壊が起こる。
どれもまともにうけてしまえばよくて重傷、最悪命を落とす一撃。
突如現れた匂いの正体、見上げた先には見たことない程の巨大な人が俺達を見下ろしていた。
人、いや獣?あまりに野性的な匂いに一瞬困惑が起こる。
「驚いたかい?ギガントマキア、僕の守護者だよ」
「まさかこんな怪物までいたとは」
予想外の新手にオールマイトさんも顔をしかめる。
あまりにデカすぎる、こんなものが街で暴れたら大変なことになる。
「炭治郎少年!何をしている!早く避難を!!」
オールマイトさんの言葉でハッとなる、状況の変化に逃げることを忘れてしまってた。
俺が謝りながら再び走り出そうとした時、オールフォーワンと呼ばれていた男が口を開く。
「マキア、
その言葉が聞こえた瞬間、全身を刺すような殺意で心臓が凍ったように錯覚した。
地面や建物が砕ける音と同時に俺の頭上に影が出来る。
俺を狙ってるんだ。どうする、俺が逃げて追いかけてこられたら確実に街に被害が出る。
こんな巨体の人間が街を歩けばそれだけで凄まじい被害が生まれてしまう。
なんとかこの場に留めておかないと。
「主のめいれい!!!!」
「うっ!?」
鼓膜に響くほどの大声と共に俺に向かって攻撃が振るわれる。
手から伸びた爪が巨大な刃となって地面を抉りながら俺へと迫る。
「テキサス スマァァァシュ!!」
俺と巨大な手の間にオールマイトさんが滑り込み、腕を振るう。
たったそれだけであの巨大な手が弾き返された。
「っ!!」
振るわれた一撃から風圧が起きてその威力を物語る。
けれどそれに驚いている暇もない、俺を守ってくれたせいでオールマイトさんに隙が出来てしまった。
刀を握りオールマイトさんと相手が放った攻撃の間に割り込む。
目の前にはさっきと同じ炎などの攻撃、どれも一撃で俺の命が削られてしまうものばかりだ。
けれど逃げない、鬼との戦いだって同じだった、重い一撃は軌道を変えて逸らせ!!
「炭治郎少年!?」
背後のオールマイトさんの声を聞きながら相手の攻撃に刀を合わす。
そして太陽を描くように円形に刀を回し舞う。
灼骨炎陽、両手で握った刀でいくつもの攻撃を同時に逸らし俺達の上下左右に流す。
「っ、はぁ」
全ての攻撃を防ぎ、回復の呼吸をしながら敵を見据える。
あの男は何が面白いのか笑っていた、匂いは相変わらず強烈な悪意。
「炭治郎少年、君は無個性だと聞いていたが」
「はい!無個性です!!」
「では今のは、っ!!?」
オールマイトさんの言葉に答える前に敵の攻撃がまたやってくる。
あの大きな人の狙いは俺だ、それをオールマイトさんが庇ってくれている。
けどその隙をあの男が狙ってくる。
「っ!!
連続で技を使用してなんとか敵の攻撃を流す。
オールマイトさんと違ってこの男の動きは目で追える、対応できる。
けれど反撃に移れない、この攻撃もいつまで防げるか。
「オールマイトさん!!俺のことは気にしないで攻撃してください!!」
「ダメだ!!あの巨人の一撃はかすっただけでも致命傷になるぞ!!」
オールマイトさんの言う通り、あの巨人の攻撃はその大きさにふさわしい威力がある。
技で流せない、受け止めるなんてもってのほか。
「私があれを止める!早く逃げなさい!!」
そう言ってオールマイトさんが敵の懐に飛び込んで拳を振るう。
次の瞬間、凄まじい轟音と衝撃波が発生しあの巨体が宙に浮かぶ。
けれど。
「ああぁあぁぁぁあ!!!」
「怯みもしないとは!!」
オールマイトさんの一撃をものともせず俺へと攻撃を加えようと腕を振るってくる。
それを防ぐためにオールマイトさんも空中に移動する。
「レーザー×3+拡散+押し出す+筋骨バネ化+膂力増強+軌道変更」
「やめろ!!」
俺が駆けだして接近するよりも早く敵の技が放たれてしまう。
オールマイトさんが技を放った、迎撃が難しいタイミングを狙ってきた。
しかもさっき俺が防いだ攻撃よりも明らかに威力が違う。
「ニューハンプシャー スマッシュ!!」
攻撃が迫る中、オールマイトさんが攻撃した腕と反対の腕を振るう。
たったそれだけで風圧が発生し空中を吹き飛ぶように移動した。
すごい!あれなら空中でも攻撃を躱せる。
「だと思った」
そう言った直後、真っすぐ進んでいた相手の攻撃が急に曲がる、それもオールマイトさんを追いかけるように。
「っ、追尾するのか!」
「マキアのことを忘れてないかい?」
迫る攻撃を迎撃しようした直後、あの巨体の腕がオールマイトさんを薙ぎ払う。
オールマイトさんはその一撃を受けて轟音を響かせて地面に叩きつけられてしまう。
その後を追いかけるようにまたも軌道が変わった攻撃が迫り、そのまま彼を飲み込んだ。
「追加だよオー「円舞一閃!」
相手がさらに攻撃を加えようとする前に刀を振るう。
善逸から教わった踏み込み、それによって加速した一撃、けれどそれは硬質化した腕で防がれた。
「烈日紅鏡!炎舞!!」
技を出し続け、敵の防御を削る。
攻め続けろ、少しでも相手の余裕を削れ!オールマイトさんが回復する時間を稼げ!!
「主のめいれい!!!」
「
身体を捻り、回避のための動きに切り替える。
幻日虹には残像で敵の攻撃をずらせる効果がある、これで。
「うっ」
振るわれた巨大な爪の間をなんとかすり抜ける。
けれど同時に地面を抉って降り注ぐ瓦礫の破片が身体に刺さる。
ぐぅ、ただ躱してもダメなんだ、飛んでくる物も防がないと。
「・・・・その独特な呼吸法、それで血液の循環を速くさせて筋肉の動きを活性化させているのか」
あの男がいつの間にか距離を離して俺を観察していた。
その目は俺の身体を見透かすようだ。
何か個性を使って俺の身体の様子を把握された?まるで透き通る世界みたいに。
・・・・透き通る世界、またあれに入れればこの状況を変えられるかもしれない。
敵の攻撃を必死に躱しながら敵を注視する。
・・・・ダメだ、見えない。痣が出てないから、それとも訓練が足りてないから、きっとその両方だ。
「デトロイトスマッシュ!!」
その声と同時に巨人が吹き飛ぶ、見上げたらオールマイトさんがあの大男の頬を殴り飛ばしていた。
よかった、怪我はしているけど大丈夫そうだ。
巨人を吹き飛ばしたオールマイトさんは目を鋭くさせて高速で移動しその姿を消す。
次の瞬間には二人がぶつかりあっていた。
相手はいくつもの個性を一度に発動して辺りを吹き飛ばすほどの威力を出す。
そしてそれをオールマイトさんは腕の一振りで拮抗させている。
二人の実力は互角だ、けれどあの巨人が。
「炭治郎少年!!逃げるんだ!!」
オールマイトさんが叫ぶ、あの巨人はオールマイトさんの攻撃をくらっているのにもう回復した。
逃げる、けどそうしたら関係ない人が巻き込まれる、それなら俺がここで命をかけて戦った方がずっとマシだ。
「俺は大丈夫です!!オールマイトさんはその男に集中してください!!」
このままじゃ俺はただの足手まといだ。
この巨人を倒すには俺の力が足りない、だったらせめて時間を稼げ!
「っ!!うぁああああああ!!」
俺を潰すかのように振り下ろされた手を紙一重で躱す。
オールマイトさんが俺を見て叫んでいる、けれどあの男に邪魔をされてこっちに来れない。
「躱して時間を稼ぐだけなら俺でも出来ます!!」
地面に叩きつけられた手から腕へと一気に駆ける。
反対の手で攻撃されればさらに加速して躱す。
無理な加速に足に痛みが走る、けどまだ足は持つ。
この巨人から見れば俺は自分の周りを移動する小さな虫みたいなものだ。
相手の死角に移動して探させろ、一秒でも多くオールマイトさんが集中できる時間を稼げ。
「まるで羽虫、はやく主のめいれいを!!」
さっきよりもさらに速度が上がる。
自身の爪で自分の身体が傷つくのも関係なく振るわれる攻撃。
どんどん振るわれる攻撃に次第に限界が近づく。
限界まで足を使って躱し続けたせいで速度も落ちて来てる。
焦るな、考えろ、絶対に思考を放棄するな。
この巨体に俺の攻撃は無意味だ、だったら回避のことだけに集中して他の感覚を閉じろ。
猗窩座との戦いを思い出すんだ、あの時入れた感覚を。
痣が出てない訓練が足りてない、そんな言い訳はするな、思い出せなきゃ死ぬぞ。
「――――ぁ」
一瞬、巨人の身体が透けて見えた。
その少しの時間だけだったけど、相手の筋肉の収縮や肺の動き、血管の流れが見えた。
そのおかげで不可避の攻撃を躱すことに成功した。
入れた、一瞬だけど。
深く呼吸をして集中力を上げる。
透き通る世界、あれに入れれば動きの予測と攻撃の回避速度が格段に上げられる。
「手こずっているみたいだねマキア、だったら先にこっちを片付けようか」
その言葉が聞こえた瞬間、巨人が動きを変える。
さっきまで執拗に狙っていた俺に見向きもせず、今度はオールマイトさんに向かって腕を振るいだした。
いきなり予想外の動きをされて巨人の身体から振り落とされる。
明らかに致命的な隙を晒した俺を相手は無視した。
そのあまりにも割り切った行動にこの巨人はあの男の命令に絶対に従うことを理解した。
「ぬあ!!」
オールマイトさんの声が届く。
拮抗していた戦いがあの巨人が加わったことで相手側に傾いてしまう。
地面に着地しながら状況を見据える。
今ならここから脱出できる、けどオールマイトさんが危ない状況だ。
ここから出てヒーローを呼びに行くべきだろうか、けどこれだけの騒ぎでまだヒーローが来ていないのは変だ。
もしかしたら外でも何か起こっているんじゃないか。
それにこれだけの激しい戦いに参加できる人は限られる、それこそお父さんぐらいの実力者じゃないと俺と同じ立場になってしまうだろう。
「・・・・っ」
考え続けろ、今この場で一番弱いのは俺だ。
つまり一番可能性を持っているのが俺なんだ。
上弦と戦った時もそうだった、俺が弱かったからこそ状況を変えられた。
敵が警戒できる絶対数は決まっているんだ。
オールマイトさんが相手なんだ、集中していけば俺の警戒はどんどん低くなっていく。
弱い人間の俺が予想外の動きで風穴を開けられれば一気に風向きを変えられる。
「・・・・フゥゥゥ」
集中力をあげる。
匂いをかぎ分けろ、隙の糸を見つけるんだ。
マキアと呼ばれた巨人の背後に回り、その背中を駆上がる。
思った通り俺の動きに対して気にも留めない。
この巨体が相手から俺の姿を完全に隠してくれる。
一度目を閉じる。
視界の情報を閉じて匂いの感覚をより鋭くさせる。
相手を、そして自分自身を感じるんだ。
体中の血管、筋肉の開く閉じる感覚、頭の中を透明にしていく。
再び目を開けた時、そこには『
「・・・・」
視界で透ける全員の身体を観察する。
自身の身体に見える緊張を解く。
透けて見えるオールマイトさんの身体はどんどんダメージが蓄積していっている。
あの男の方もそれなりにダメージがあるけど、まだ少ない。
相手の視界から外れたことで警戒を解いて意識を集中できた、これなら。
眼下にいるあの男に向かって落下した。
「行くぞ!!今から俺がお前を斬る!!」
落下中に叫びながら刀を構える。
俺の声に相手とオールマイトさんが反応する。
「炭治郎少年!?逃げたのではなかったのか!!」
「はは、いや位置探知の個性で気づいてはいたけど、まさか声をかけてくるとはね。不意打ちしてきたのを逆にカウンターするつもりだったのに」
相手はオールマイトさんと戦いながら背中から鞭のような細い触手を出してくる。
まるで無惨と戦った時みたいだ。
息を吸い込み、迫る触手を一息で捌く。
――――日の呼吸
「
地面に降りる直前、相手と空中で位置が重なった瞬間に刀を振るう。
硬質化した部分を透過で確認し、攻撃が通る箇所で一気に振り抜いた。
この刀で切断は出来ない、けれどダメージはしっかりと入る。
俺の攻撃で出来たその隙にオールマイトさんが強烈な一撃を相手に叩き込んだ。
「っっ!!?」
衝撃波を巻き起こしながら吹き飛んでいく。
それを見て命令を守って攻撃を続けていたあの巨人もさすがに動きを止めた。
「主!!」
「悪いが一気に決めさせてもらうぞ!!」
巨人の身体に向かってオールマイトさんの拳が何発も目に見えない速度で振るわれる。
一撃一撃が圧倒的な威力を誇るもの、やがてあの巨人からうめき声が漏れた。
「デトロイト スマァァァァァシュ!!!」
何十発、もしかしたら何百発となる連打を浴び、あの巨人は主と言いながら地面へと沈む。
それを見て俺が喜びそうになった瞬間。
「
未だかつてないほどの力を持った何かが一直線上にこっちに向かって走ってくるのがわかった。
その攻撃が向かう矛先はオールマイトさんではなく、俺にだった。
目で追えない速度の一撃に透き通る世界も呼吸も意味もなく俺は咄嗟に口を開いて叫んでいた。
「オールマイトさん離れてください!!」
あの人はヒーローだから、絶対俺を守ろうと動く。
この攻撃はオールマイトさんですら致命傷になると直感した、だから急いで叫んだ。
けれど。
「・・・・オールマイトさん」
頼もしい肉体で俺を抱きしめてくれていた。
けれどその身体から血の匂いがする。
匂いの先を追えば彼の脇腹辺りから大量の出血が起きていた。
「っ、ぐぅ、炭治郎少年、怪我は」
傷口を抑えながらも彼が最初に口にしたのは俺への心配だった。
俺の考えていた最悪の通りになってしまった。
彼の苦悶の表情を見て思わず歯をくいしばる。
そうしているとあの男の声が鼓膜に響いた。
「やっぱりこうなったね。流石だよヒーロー、よく守った」
手を叩き、喜色を混ぜて言葉を作る男にゆっくりと目を向ける。
血を流しながらもあの男はその顔に笑みを張りつけて歩いてくる。
「に、げるんだ、炭治郎少年!早く!!」
血を吐きながら俺に向かって口を開くオールマイトさん。
それを見た男はさらに言葉を紡ぐ。
「オールマイト、君の敗因は彼を助けたことだ。あのまま見捨てていれば攻撃の反動で隙を晒していた僕にトドメをさせた。愚かなことをしたね、ようやく巡ってきた僕を殺すチャンスだったというのに」
その言葉を聞いた俺の握る拳から骨の軋む音が鳴る。
体中の血管が浮き上がり、それに反応して身体も熱くなる。
この男はわかって言っている。
オールマイトさんが俺を庇うとわかっていた。
だからわざと俺を狙ったんだ。
「ぐっ、愚かなこと?、撤回してもらおうかオールフォーワン。私は何一つ間違ったことをしてなどいない」
身体を震わせながら立ち上がろうとするオールマイトさんを抑える。
出血がひどい、これ以上無理をしたら本当に死んでしまう。
「愚かだよ!結局君が守ったその少年は僕に殺される!オールマイト、君の死は世界を揺るがすが、その少年の死も重要な意味があるんだ」
何が面白いのか俺達を見ながら男は言葉を続ける。
俺の死の意味について、男は楽しそうに話し始める。
「君の家族のことはよく知っているんだ、轟炭治郎、君は家族の精神的支柱だよ。君がいなければあの家は崩壊していた、確実にね。それは他ならぬ君自身がよくわかっているだろう」
「・・・・」
「そんな君が死んだらどうなるかな?きっとエンデヴァーや燈矢君は僕に復讐の炎を燃やすだろうね、その身をどす黒い炎で燃やしながら家族全員を巻き込んで。その強烈な感情を僕は利用させてもらう予定だ、君の死も、家族も全員僕のためにある」
その言葉を聞いた瞬間、血液が沸騰したと感じるほど熱くなった。
体中が燃えそうなほど高温になって、頭も同じようにグラグラする。
怒りで頭がどうにかなりそうだった。
「っ、ダメだ、炭治郎少年!」
オールマイトさんが止めてくれるけど、俺はそれに応じず立ち上がる。
怒りで髪の毛が逆立つ、血が眼球まで回って視界が赤く染まる。
「――――へぇ」
俺を見て男は何が面白いのか笑みをこぼす。
いや、ずっとこの男は笑っている、悪意を乗せてずっと。
「何が楽しい、何が面白い、人を何だと思っているんだ」
「そりゃ色々さ。駒だったり、玩具だったり、用途によって役目は変わるよ」
俺の言葉に男は答える。
匂いでわかる、俺を怒らすために言っている。
けど本心だ、この男は心の底からそう思っている。
「っ、炭治郎少年!!ダメだ!今すぐ逃げなさい!!子供の、それも無個性の君がこれ以上戦っていい相手ではない!!」
「・・・・オールマイトさん、確かに俺には個性がありません。世間から見れば俺は選ばれた人間ではないんだと思います」
今の時代を生きてわかったことだ、今は個性によって人生は大きく変わる。
鍛え抜かれた身体を持つ人でも、無個性だと弱いと認識される、それくらい個性が重要な時代。
呼吸で身体能力を強化しようとオールマイトさんやこの男が持つような圧倒的な個性の前では限界がある。
もし俺にお父さんや燈矢と同じように個性があればこの状況も変わっていたのかもしれない。
「・・・・でも、それでも、選ばれた人間でなくても、力が足りずとも、どうしても退けない時があります」
人の心を持たない者がこの世にいるから。
理不尽に命を奪い、反省もせず悔やむこともない。
そんな横暴を、俺は絶対に許せない。
「やるのかい?特殊な技術を持っているけど、結局は人間の枠を出ない。異能を持たない旧人類の君に何ができる?」
「・・・・お前は人間だ、鬼じゃない。なのにどうして人の心を持たない」
「憧れたからだよ、人々から恐れられる魔王にね」
そう言って奴は掌をこちらに向ける。
透き通る世界で奴が手から何かエネルギーを溜めているのが見えた。
それを見た瞬間、刀で奴の手を上に払う。
「・・・・は?」
相手から間の抜けた声が漏れる。
それに応えることはせず、連続で日の呼吸の技を相手に叩き込んだ。
「っっ!!?」
俺の攻撃に相手の口から血がこぼれる。
反撃に体中から黒い骨、そして巨大な頭骨が襲い掛かってくる。
懐かしい感覚だった、世界がゆっくりと流れているようなそんな感覚。
黒い骨は躱し、襲い掛かってくる頭骨は奴と繋がっている骨を断ち切れば動かなくなった。
攻撃を捌き再度攻撃をしかける俺を見ながら奴が口を開く。
「・・・・さっきと髪と瞳の色が違う。額に何か
「――――日の呼吸」
身体をさっきまでと比べて倍以上の速さで動かしながら刀を振るう。
けど相手はオールマイトさんの速度に反応していた、俺の速度変化にもう対応してきた。
「個性を看破する個性で見てもやはり個性はない。轟炭治郎、何だそれは。人の枠で行える力じゃない」
「お前のような奴を倒すために引き出した、限界を超える力だ」
男の言葉で俺の今の状況を理解する。
そうか、やっぱり痣がまた出て来たんだ。
――――よかった、これで俺も力になれる。
「炎放出+加熱+マグマ+熱操作+竜化」
男の右腕から盛り上がるように現れる炎の竜。
それは俺を食らおうと身体をくねらせて追ってきた。
「
迫る竜の首を刀で刎ねる。
デイブさんの作ってくれたこの刀、俺の話を聞いて日輪刀を再現してくれたサポートアイテム。
すごい刀だ、強度も熱耐性も本物と比べて何倍も強い。
鬼の首を斬るための技術が必要ない分、他を今の時代の力で強化してくれたんだ。
奴の攻撃を斬り、流し、躱しと選びながら攻撃を加えていく。
痣のおかげで透き通る世界を維持できている、だから相手の攻撃が予測出来た。
個性の影響で男の身体からは見たことのない臓器や部位がたくさんある。
けれど身体の一部な以上、使う際には必ず反応がある。それさえわかれば十分だ。
「火車、灼骨炎陽」
「雷撃+槍化+分散+貫通」
圧倒的な異能の力、日の呼吸を使っても俺の力じゃ全ては防げない。
いくつか攻撃をくらい血を滲ませながらも刀を振るい技を繋ぐ。
ここでこの男を逃がしたらきっと俺の家族に手を出す。
それだけは絶対にさせない。
「日暈の龍 頭舞い」
相手の攻撃が直線から範囲攻撃に変わってきた。
それにより躱したり受け流したりが難しくなる。
必然的に身体に傷が増えた。
けど関係ない、血が流れようと腕や片目が潰されようと戦い抜く、今までだってそうしてきた。
「異能ではなく人の身体に秘められた力、ドクターがほしがりそうだ。けれど無意味だ」
「っ!!?」
さらに大規模な個性による攻撃に吹き飛ばされる。
衝撃波が臓器にまで響く、肺がうまく酸素を取り込めない。
「っ、はぁ、あぁ!!」
無理やり身体を動かして吹き飛ばされる身体で受け身を取る。
回復の呼吸、無理やりでも酸素を取り込め、まだ動けるだろ。
「それが無個性の君の限界だよ。今の君にこれ以上の興味は持てないな」
そう言って掌を俺に向けてくる。
透き通る世界で腕からエネルギーが収束していくのが見える。
酸素を取り込んで身体に活を入れる。
そうして回避のために動き出そうとした時。
「限界?お前にはそう見えるのかオールフォーワン」
男の横からオールマイトさんが現れ殴り飛ばす。
口からは血を吐き出し、抉られた脇腹からは未だに血が流れている。
「私がいったい何度彼の死を覚悟したか、私が限界だと決めつけた遥か先を炭治郎少年は歩いていた」
彼の身体から筋肉の軋む音が聞こえる。
力が凝縮され、俺の想像を超える力が溜まっていくのが伝わった。
「少年が限界を超えているというのに、私が超えないわけにはいかないな!!」
大地を砕き、一瞬で吹き飛んでいく男に追いついて叩きつけるように拳を振るう。
男が防御を展開するけど、それを一瞬で砕きオールマイトさんの拳が相手ごと地面を叩き、大地を揺らした。
「終わりだ、オールフォーワン!」
血反吐を吐きながらもまだ意識がある男に向かってトドメの一撃を放とうとする。
けれど次の瞬間、あの巨人が目を覚ました。
「しゅを、主をぉぉおおおおお!!!!」
「っ!!オールマイトさん!!」
駆け出し、傷が痛んで動けないオールマイトさんを咄嗟に抱きかかえて離れる。
あの巨人も限界を超えて動いている、匂いから伝わる感情はあの男を想う気持ちだった。
「っ、なんなんだお前は!!」
ふらつきながら巨人に守られて立つ男を睨む。
男の背後からは何か黒い渦のようなものが生まれていた。
「ごふ、今日はこれで帰らせてもらうよ」
「っっ、逃がすと思っているのか!!貴様との因縁は今日ここで終わらせる!!」
「僕もそうしたいところだけど、お互いこの有様だ、またの機会にしよう。腕はひしゃげて内臓はズタボロ、君も似たようなものだろうオールマイト」
その言葉にオールマイトさんは脇腹を抑えて歯をくいしばる。
二人が話している間も、俺は足を止めずに駆け出していた。
「逃げるな!!逃げずに戦え卑怯者!!!」
「・・・・また会おう、轟炭治郎」
刀を振るい、あと一歩で攻撃が届く直前、奴が消えた。
巨人も姿を消し、匂いを探すけど何も感じなくなっている。
あの黒い渦も消えてしまった、あれも個性なのか、遠くの場所に移動できる力だったら今の俺には何も。
「っ!!逃げるなぁぁぁ!!卑怯者ぉぉぉ!!」
溢れる気持ちを言葉にして叫ぶ。
オールマイトさんが大怪我をした、俺のせいだ。
なのに逃げられた、俺が弱いせいだ!
「・・・・炭治郎少年、ぅ」
「っ!?オールマイトさん!!」
何か言おうとした瞬間、出血のしすぎでオールマイトさんが倒れる。
固まっている場合じゃない!急いで手当をして病院につれていかないと。
彼を担ぎ、俺は自分の痛みは無視して全力で駆け出す。
自分の無力さに涙を流しながら。
◇
「・・・・命に別状はないよ。ただ呼吸器官半壊、胃もボロボロで摘出になるという話だ」
病院に連れていき、緊急手術を行ったオールマイトさん。
無言で佇む俺にリカバリーガールさんがそう教えてくれた。
彼女の個性の力で俺と同じように外傷は治癒できたらしいけど、内臓までは難しいらしい。
今までのようには動けなくなる、暗にそう告げられる。
「話は聞いたよ。あんたは真面目だから責任を感じるだろうけど、あの子はあんたを責めたりはしないよ」
「・・・・」
わかってます、オールマイトさんは俺を責めたりしないって。
逃げなかったことは怒るだろうけど、自分の怪我のことで怒ったりは絶対にしないだろうとわかる。
だから俺自身が自分を責めるしかない。
校長先生やオールマイトさんの関係者の人達にあの男との戦いや何があったかを話した。
そしてこのことは他の人には話したらダメらしい。
オールマイトさんが重傷だと知られたら日本は不安定になる。
そしてあの男は俺が想像していたよりも極悪人で、俺のいた時代なら無惨と同等の場所にいる人間だとわかった。
それを知らされて、俺がどれだけ場違いなところにいたかがよくわかる。
あの時、オールマイトさんの言う通り逃げていればよかったのかな。
そうすればこんなことにはならなかったのかと考えてしまう。
今更考えてもしょうがないことなのに。結局は俺が弱いせいだ。
無言で額に触る、今の俺にはあの痣が出ている。
その影響と、リカバリーガールさんの個性で俺の怪我はもう治っている。
想像していた通り、俺達が戦っている間に他の場所でもヴィランが暴れていたみたいで今はそれで大騒ぎになっている。
テレビでは被害状況が報道されていて、俺達のことは映っていなかった。
けど映像の先では彼の名を呼ぶ人が大勢いた。
「今日はもう帰りなさい、落ち着いたら私らの方から連絡するよ」
「・・・・はい」
促されるまま帰路につく。
テレビの影響もあって、みんな俺のことを心配してくれた。
痣のことを聞かれたけど、なんて答えたらいいかわからず曖昧に笑うことしか出来なかった。
お父さんは帰っていない、しばらくは帰れないだろうと連絡があったみたい。
そのまま心に靄を抱えたまま夜が過ぎ、次の日、また次の日と時間が過ぎた。
そうして事件が落ち着き、みんなが日常に戻った頃、俺に連絡があった。
そしてあの瞬間を迎える。
「炭治郎少年」
力強い声が俺の耳に届く。
目を向ければ、そこにはオールマイトの姿。
けれどその姿は傷だらけで、今も苦しそうに痛む場所を手で抑えながら荒い息を吐いている。
俺が心配から駆け寄ろうとするのを彼は手で制する。
人が少ない病院の一室、そこにいるのはオールマイト、そして付き添いの方が数人だけ。
そんな中、彼はその瞳を俺へと向けた。
痛む身体に表情を歪めながらもしっかりと俺を見つめて彼は。
「私の力を君に託したい。受け取ってくれないか」
そう言ってオールマイトは自分の手をこっちに差し出す。
何か、重要な何かが動いている気がする。
それと同時に、嫌な汗が身体を伝ったような気がした。
「あの、オールマイトさんの力?どういうことでしょう」
俺が緊張しながらそう言えば彼は自身の力について教えてくれる。
個性を譲渡できるということ、代々受け継がれてきた力だということ。
そしてあの男を倒すための力だということ。
「あの男はまだ生きている。必ずまた姿を現すだろう、そしてそれは君の前にだ」
「・・・・はい」
「君のその不思議な技術がほしいのか、あの男は君を狙っている。自身の身を守るためにも私の力を受け取ってほしい」
俺のために自分の個性を。
そう言うと、彼は静かに首を振る。
「もちろんそれだけじゃない。君なら私の後を継げると確信したからだ、新たな平和の象徴に、君はなれる」
「へ、平和の象徴ですか」
オールマイトさんの言葉を繰り返す。
彼のことはテレビやみんなの話、それにデイブさんから聞いてよく知っている。
大勢の、数えきれない人を救う本当にすごい人だ。
そんな人が、俺に力を託したいと言っている。
「君の優しさは燈矢少年の件でよく知っていた、それにデイブからも聞かされていたからね。そして今回の戦いで君の強さを知った、肉体ではなく精神のだ」
痛む身体を無視して彼は俺に近づく。
震えている、血が滲んで辛そうだ。
なのにその瞳は力強くて、真っすぐ俺を見ていた。
「もちろん無理にとは言わない。けれど私は優しく家族想いで、そして恐怖の象徴のあの男に立ち向かう勇気を持つ君にこそ受け取ってほしい」
「・・・・オールマイトさん」
その言葉を受けて一度目を閉じる。
彼の力、名前はワンフォーオールと言うらしい。
すごい個性だ、それはあの戦いを見ていたんだ、当然知っている。
そんな力を彼は俺に託そうとしている。
・・・・俺が生きていたあの時代でもたくさんの想いは託されてきた。
生きている仲間、死んでいった仲間、一般の人達、大勢の人たちから想いを託されて、それを力に変えてきた。
日の呼吸もそうだ、縁壱さんから俺達の祖先が後世に伝えて、俺にまで受け継がれていった。
たくさんの想いを、力を託されて、背負って俺は前に進んでいった。
オールマイトさんも一緒だ、想いを力を俺に託したいと言ってくれている。
だったら俺は。
「――――受け継がせていただきます。オールマイトさん達の想いを、力を」
震え血が滲む彼の手を両手で握る。
きっとこれが何でもない平和な日常の時だったら俺は断っていただろう。
俺なんかよりもふさわしい人、それこそ燈矢やお父さんにと言っていたかもしれない。
けど状況は変わってしまった。
俺のせいでオールマイトさんは大怪我をして、あの男は俺と家族を狙っている。
絶対に俺の大切な人達は傷つけさせない。
痣の影響で俺の時間は限られている、だからそれまでに必ずあの男を倒して家族が安心して暮らせるようにするんだ。
「あの男は、必ず俺が倒します」
新たにできた決意を胸に、俺は心を燃やし始めた。
◇
「・・・・どうにもきな臭ぇな」
俊典と一緒に奴と戦ったという少年がいる病室の廊下で俺はそう呟く。
俺の横では同じように話を聞いていたナイトアイや校長もいる。
「あなたもそう思いますか」
「ああ、まるでテレビドラマでも見てる気分だ」
ナイトアイの言葉に頷きながら呟く。
あの小僧、轟炭治郎って言ったか。
あのエンデヴァーの息子、個性はなし。
戦いの後、彼について調べてもらったが俊典が気に入りそうな子だ。
こんな状況になっちまった以上、力を託すのは正解だろう。
譲渡先も俊典がそうしたいんだったら俺からは文句はねぇ。
・・・・ただ。
「あまりにも
ナイトアイの呟きに同意する。
そもそもがおかしい。
あの徹底して闇に紛れて姿を見せなかったオールフォーワンがなぜ今姿を見せた。
あの小僧を狙っていた?それにしては動きが派手すぎやしねぇか。
よりにもよってオールマイトが近くにいる時にあの小僧を狙った。
聞いた話じゃ無個性の小僧相手に派手に個性を発動したらしいじゃねぇか。
そんなもん、見つけてくれって言っているようなもんだ。
・・・・なにが狙いだ。
この状況か?
ワンフォーオールをあの小僧に渡すのが狙いだというのか?
「・・・・」
「おい、顔が真っ青だぞ。大丈夫か」
「・・・・はい、心配をおかけしてすいません」
明らかに調子が悪そうなナイトアイに眉を潜める。
・・・・まさか、予知で何か見ちまったのか。
ワンフォーオールを譲渡させるのが狙いだとしたら、目的はなんだ。
あの小僧、それともエンデヴァー、他の子ども、あるいは全て。
・・・・何にせよ、これから気を引き締めねぇとな。
◇
「あぁ、ちゃんと託されたかな?轟炭治郎」
闇の中でオールフォーワンが笑う。
楽しそうに、自身が思い描く未来を想像して。
「楽しみだ、
闇の中で魔王が嗤う。