らんま1/2 ~男溺泉の最強師匠、手違いで乱馬の「公認彼氏」になり、天道家公認で夜の営み(武術)に励んでます~ 作:この俗物怪物くん
今回は天道家の居間からお送りします。
本来なら家族団らんの温かい空間なんですが……まあ、そうはならないのが天道家。
乱馬の「風呂入れよ!」という純度100%の無自覚セクハラ提案から、
遥の宝塚級・誤解誘発スピーチ、
そして家族全員の誤解ジェットコースターが今回の目玉です。
そしてついに良牙が植え込みから復活。
方向音痴で迷った結果、泥と庭石を携えて参戦するなど、
彼の迷走は物理的にも精神的にも新境地に到達しました。
読者の皆様には、
「なんで天道家ってこう、全員そろって誤解するの?」
という平常運転をお楽しみいただければ幸いです。
それでは本編へどうぞ!
天道家 居間
らんまは、満足げに指についた肉汁をペロリと舐める。胃袋が満たされると、人間というのは次の欲求に目が向くものだ。
らんまの場合、それは格闘家としての本能に近い生理的欲求だった。
ふと、らんまの視線が横に座る遥に向けられる。よく見るとその逞しい首筋には、玉のような汗が浮かんでいる。ジム帰りだと言っていたし、何よりこの狭い居間の人口密度と熱気だ。
「おい遥」
らんまが、ごく自然に、まるで部活の後の部室でタオルを投げるようなノリで声をかける。
「お前もジム帰りなら汗かいてんだろ?結構テカってるぜ、その筋肉」
「ああ、代謝がいいものでね。男の体は熱を溜め込みやすい」
「だろ?気持ちわりーよな。……そうだ!ひとっ風呂浴びていけよ!天道家の風呂は足伸ばせるし、気持ちいいぜー!俺もちょうど入るところだしさ、背中くらい流してやるよ!」
その提案は、あまりにも純粋で、あまりにも無防備で、そしてあまりにもこの場の空気を読んでいないものだった。
「ちょっと乱馬っ!!!あんたねえ!いくらなんでも恥じらいを持ちなさいよ!はるかさんは男の人なのよ!?それとも何?公認されたからって、いきなり……いきなり……!」
あかねの言葉は尻すぼみになる。「一緒にお風呂に入る」という単語を口にするのも憚られるらしい。顔が真っ赤だ。耳まで赤い。
「そうだぞ乱馬くん!いくらわしが許可したとはいえ、順序というものがある!清らかな交際こそが美しい思い出を作るのだ!公認とはいえ、婚前交渉……いや、混浴はまだ早すぎる!刺激が強すぎる!」
彼は想像してしまったのだ。湯気の中で戯れる若い二人の姿を。それは彼の心臓にはあまりにも劇薬だ。
『破廉恥!親の顔が見たい!……あ、わしか』
玄馬も、激しく看板を書き殴り、突き出す。しかし、当のらんまは、自分の発言の何が問題なのか、1ミリも理解していない。
「えー?別にいいじゃねーか。減るもんじゃなし……。ケチくせーこと言うなよ親父。遥だってサッパリしてーよな?な?」
らんまにとって、今の自分の姿が「美少女」であることは、単なる「状態異常」であってアイデンティティではない。だから、男友達を風呂に誘うことに、なんら性的な意味合いを見出していないのだ。らんまは同意を求めて遥を見る。
シミュレーションが走る。湯船に浸かる遥。ボロン、という効果音と共に女体化する遥。それを目撃するらんま。
『あ、お前、女だったのか!?なんだよ、騙してたのか!』
そこから導き出される結末は破滅だ。遥は、らんまの「男気あるプロポーズ」を信じている。
その信頼を、嘘で塗り固めたまま裏切るわけにはいかない。いや、嘘をついているのは自分なのだが、彼の中では「愛のための変装」として正当化されている。
「いや、遠慮しておくよ」
「え?なんでだよ。遠慮すんなって!タオルくらい貸してやるし」
「そういう問題ではないんだ。愛し合っているからこそ、節度は守るべきだ」
ビシッ!!その言葉が、居間の空気を切り裂く。「愛し合っているからこそ」そのフレーズの破壊力たるや。あかねが、はわわ……と口元を押さえる。
(な、なんて紳士的なの……!目の前に、こんなに可愛い(悔しいけど)彼女がいて、しかも一緒に入ろうと誘われているのに……それを断るなんて!)
あかねの中で、遥の好感度がストップ高を記録する。
(乱馬とは大違いだわ。あいつなら、鼻の下伸ばして『へへっ、ラッキー』とか言いながら覗き見するのに……!)
当の乱馬は、目の前で「一緒に入ろう」と言っているのだが、あかねの脳内補正は強力だ。早雲もまた、深く感銘を受けている。
「おお……!なんという自制心!なんという高潔な精神!まさに武士!近頃の若者には珍しい、古き良き日本男児の鏡じゃ!君なら安心だ!乱馬くんの貞操は、君になら任せられる!」
(いや、貞操を任せられるってどういう意味だ?)
早雲は再び泣き出し、遥の手を両手で握りしめる。
「僕は、彼女の体を大切にしたい。結婚式の日まで、その清らかさを守るのが、僕の務めだと思っている」
嘘はついていない。大切にしたいのも本当だ。ただ、その動機がお湯への恐怖であること以外は。なびきが、感心したように口笛を吹く。
「ヒュー。言うねえ、お兄さん。こりゃあ一本取られたわ。乱馬くん、あんた愛されてるわねえ」
「ちぇっ、堅苦しいやつだな〜。せっかく背中流してやろうと思ったのに。男なら、もっとこう、パッと脱いでザブーンと行こうぜ!まあいいや、気が変わったら来いよな!」
「じゃあ俺、先に入って戻るわ。汗でベタベタして気持ちわりーし。あ、そうだ!親父、今日のシャンプー借りるぞ!隠してた高いやつ!」
「あっ!こら乱馬くん!あれは育毛効果のある……!」
制止も聞かず、らんまは脱衣所へと消えていく。しばらくして。ボイラーの音が低く響き、シャーッというシャワーの音が聞こえてくる。
そして。
「ふい〜〜、やっぱ家の風呂は最高だぜ〜!」
「あー、生き返る!……おい遥!ホントに入らなくていいのかー!?男同士、裸の付き合いも悪くねーぞー!」
あかねはウットリと遥を見つめている。
(本当に素敵な人……。乱馬も見習ってほしいわ)
そして、そんな平和な時間を打ち砕くように、庭の方からガサガサという不審な音が聞こえてくる。
「くそっ……!どこだ……!風呂場はどっちだ……!」
良牙である。彼はまだ、天道家の敷地内を彷徨っていたのだ。トイレを探していたはずが、なぜか縁の下を経由して、屋根裏を通り、今は庭の植え込みの中で迷子になっている。
「乱馬……!貴様だけ幸せになるなど、俺は許さん……!必ず……必ず風呂場を見つけ出し、貴様の『彼氏』の正体を暴いてやる……!」
◇◇
乱馬が縁側に姿を現す。彼は今、男の姿だ。首にはタオルをかけ、片手には冷蔵庫から勝手に拝借した牛乳瓶が握られている。
「ぷはーっ!生き返るぜ!」
体からはまだほのかに湯気が立ち上っている。その平和な静寂を、地獄の底から響くような唸り声が引き裂く。
「……待ちくたびれたぞ……早乙女乱馬……!」
庭の植え込みがガサガサと揺れ、そこから土まみれの男が這い出してくる。頭に枯葉を乗せ、服は泥だらけ、そしてなぜか背中のリュックには「庭石」が一つ入っている。おそらく、迷っている最中に躓いた石を、何らかの記念か武器として拾ったのだろう。乱馬は牛乳瓶を下ろし、呆れた顔で良牙を見下ろす。
「へっ、良牙か。なんだその格好は。風呂覗きに来たタヌキかと思ったぜ」
「黙れ!貴様が長風呂なのが悪いんだ!俺は……俺は貴様が出てくるのを、この植え込みの中で、蚊と戦いながらずっと待っていたんだぞ!」
その目には涙が浮かんでいる。方向音痴の彼にとって、天道家の庭は迷宮であり、一度入り込めば脱出困難な樹海なのだ。
「今日こそは決着をつけてやる!覚悟しろ乱馬!」
「へっ、威勢だけはいいな。丁度いい、風呂上がりの運動に付き合えよ。湯冷め防止にゃもってこいだ」
その様子を、縁側でお茶を飲んでいた七瀬遥が眺めている。遥は、静かに眉を上げる。
(おや、乱馬(男)か。いつの間に帰ってきたんだ?さっきまで『らんま(女)』がいたはずだが……入れ違いか?それにしても……学校では私の女の姿(はるか)がコテンパンにしたが、近くで見るといい体幹をしているな。筋肉の質が柔らかく、バネがある。女の方(らんま)と似ているが、骨格が太い分、パワーがありそうだ)
彼の認識では、乱馬(女)と乱馬(男)は別人だ。おそらく兄妹か、あるいは非常によく似た親戚か何かだと解釈している。彼は武道家として、目の前の少年の素材の良さに純粋に惹かれている。
「行くぞ乱馬ぁぁぁっ!!」
彼の一歩ごとに地面が揺れ、庭の飛び石が悲鳴を上げる。良牙の拳が唸りを上げる。岩をも砕く剛腕。もし直撃すれば、乱馬の頭蓋骨など粉々になり、天道家の塀を突き破って隣町まで吹っ飛んでいくだろう。
「おらあああ!!」
良牙が地面を殴るフェイントを織り交ぜながら、乱馬の顔面へ強烈な右フックを放つ。しかし。乱馬の動きは、以前とは違っていた。
「っと。見えてるぜ、良牙」
良牙の拳が乱馬の鼻先に迫る、そのコンマ一秒前。乱馬の体が、まるで水面に映る月のように、ゆらりと揺らぐ。そこには、回避するための「踏み込み」も、「予備動作」もない。ただ、風が吹くように、柳の枝がしなるように、自然に重心が移動する。
シュッ。
乱馬は、最小限の動きで良牙の攻撃を躱し、その背後へと回り込んでいる。
「な、なんだ!?手応えがない……!?」
いつもなら、乱馬はガードするか、あるいは大きく飛び退くはずだ。しかし今の動きは違う。まるで「そこにいなかった」かのような、存在感が希薄になる動き。
「へへっ、すげーなこれ。体が勝手に動くぜ」
最近、遥との特訓で掴んだ感覚だ。「内気の練り」と「意」の応用。相手に自分の動きを悟らせない「虚」の動き。そして、体の内側の筋肉と気を連動させることで生まれる、爆発的な瞬発力。それを乱馬は、自分のものにしつつある。
「貴様……!いつの間にそんな技を!?」
「秘密だ。ま、俺の才能ってやつ?」
(……ほう)
「素晴らしいな、乱馬(男)は。誰に教わるでもなく、独学で内気の練り方と、意を消す方法を掴んでいる」
この少年(男乱馬)は見て盗んだのか、あるいは「らんま(女)」から教わったのか。
遥は、隣で煎餅をかじっている早乙女玄馬に尋ねる。玄馬は先ほどのパンダ姿から戻り、今は人間のおっさん姿で寛いでいる。
「お父さん、今の動き……あなたの指導ですか?」
遥の問いに、玄馬はバリボリと音を立てて煎餅を飲み込む。
「ん?いや、ワシは……無差別格闘流は基本的に『外部破壊』の流派じゃからな。あのような繊細な気の使い方は教えておらんぞい。ワシの教えは『とりあえず殴る』『危なくなったら逃げる』が基本じゃ」
「あれは、まるで誰か別の達人の手ほどきを受けたような……。いや、乱馬の奴、勝手に強くなりおって。親としては鼻が高いやら、寂しいやらじゃな」
「らんま(女)」は、素直で吸収力が高い、理想的な「お嫁さん」候補だ。彼女の体は魅力的だし、共に武道を極めるパートナーとして申し分ない。
だが、目の前の「乱馬(男)」はどうだ。この野性味あふれる動き。教えもしない技を体得するセンス。
そして何より、男としての肉体的な強靭さ。遥の脳内で、ある突飛な、しかし彼にとっては合理的な計画が修正される。遥の視線が、庭で良牙を翻弄する乱馬(男)の筋肉に釘付けになる。遥は、自分の性別がお湯を被れば女に戻ることを思い出す。遥の目が、ハンターの色を帯びる。
「なら天才か……?やはり、乱馬(男)を婿にしたほうが丸く収まるか?」
「らんま(女)も捨てがたいが、生物学的に男であるこの乱馬なら、私が女の姿のままで……つまり本来の私のままで、全ての問題が解決する。……いや待て、乱馬にはあかねちゃんという許嫁がいる。略奪は私の美学に反するが……。しかし、より強い遺伝子を残すのが生物としての義務……」
あかねへの義理と、優秀な種馬(乱馬)への欲求。しかし、その独り言を聞いていた周囲の人間たちは、全く別の、そして遥かに斜め上の解釈をする。縁側の反対側で聞き耳を立てていた天道なびきが、ピクリと耳を動かす。
(あ、今『乱馬を婿に』って言った。やっぱりこの人、乱馬が男だって分かってて付き合ってるんだ。さっきは『彼女』って呼んでたけど、それは世間体のためで、本音では男としての乱馬くんを狙ってるのね)
なびきの中で、遥は「男も女も愛せるバイセクシャルであり、乱馬の変身体質を知り尽くした上で、あえて男の方を求めている」という、業の深い人物として確立される。
(乱馬の変身体質を知ってるんだ……。そうよね、付き合ってるなら隠せないものね)
あかねは、遥の「生物学的に男であるこの乱馬なら」という言葉を、「呪泉郷の呪いがあろうとも、本来の姿である男の乱馬を愛している」という純愛宣言として受け取る。
(それでも『婿に』って……本当に乱馬の中身ごと愛してるのね。男とか女とか関係なく、乱馬という人間そのものを……。負けたわ……。私なんて、乱馬のこと、全然分かってなかった……)
あかねの胸に、敗北感と感動が同時に押し寄せる。自分は乱馬の男の姿にこだわり、女になった乱馬をどこか色眼鏡で見ていたかもしれない。でも、この人(遥)は違う。全ての乱馬を受け入れている。あかねの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。早雲に至っては、感動のあまり座布団の上で正座し直している。
(ううむ、体質を理解した上での求婚か。なんという深い愛だ。呪いすらも愛の一部として飲み込むその度量!普通なら『化け物』と忌避される変身体質を、この青年は『丸く収まる』と言った。つまり、どんな姿でも愛せる自信があるということ!)
早雲の中で、遥の評価は天井知らずに爆上がりしていく。もはや、乱馬のパートナーは彼(彼女?)しかいないという確信に変わる。庭では、乱馬と良牙の戦いが続いている。
「くそぉぉっ!なぜ当たらん!なぜだ!喰らえ!!」
巨大な岩(庭石)を持ち上げる。良牙が岩を投げつける。乱馬は、ふっと息を吐く。
「遅いぜ、良牙」
乱馬は、飛んでくる岩の軌道を読み、岩の側面に手を添え、回転力を利用して受け流す。岩は、乱馬の背後にあった灯篭に優しく着地する。
「なっ……!?」
(『円の動き』……!あれも私がらんまに教えた動きだ。まさか、実戦の中で自ら悟るとは……。欲しい。この才能が欲しい)
◇◇
「隙ありっ!でーーーーい!!」
乱馬の声が、静寂を切り裂く。乱馬の拳が突き出される。しかし、それはただの正拳突きではない。「意」を消した、殺気のない一撃。まるで、そこに最初から拳があったかのように、自然現象として現れる攻撃だ。良牙の防御本能が反応しない。
ドスッ!!
「ぐふっ……!?」
ドッボォォォン!!
盛大な水しぶきが上がり、良牙は庭の池へとダイブする。鯉たちが迷惑そうに跳ねる。乱馬は、残心の構えを解き、鼻の下を親指でこする。
「へへっ、一丁あがり!」
自分の成長を実感できる瞬間ほど、武道家にとって嬉しいものはない。
「見事だ!よく鍛えているな!あのタイミング、あの角度、そして何より『意』の消し方。完璧だ!君の才能は素晴らしい!今は僕にはまだ及ばないが、このままいけばどんどん強くなるぞ!将来が楽しみだ!君の筋肉の連動性は、まさに芸術の域に達しようとしている!」
乱馬は、憧れの師匠からの手放しの賞賛に、顔を一気に赤くする。
「遥!……本当か!?俺、強くなってるか!?いや〜、照れるな……。ありがとな、遥!お前のおかげだぜ!へへっ、これからも頼むぜ、相棒!」
乱馬にとって、遥は「超えたい壁」であり「目標」だ。その本人に、実力を認められたことが嬉しくてたまらない。乱馬は嬉しさのあまり、距離感を忘れる。彼は自然と遥の肩を抱き寄せ、バンバンと背中を叩く。
バシッ!バシッ!
「おっと」
(乱馬(男)とは、この姿(男)では初対面のはずだが……やけに馴れ馴れしいな。まるで長年の友人のような距離感だ。気のせいか?それとも、らんま(女)から僕の話を聞いているのか?)
普通なら不審に思うところだ。「初対面の男に抱きつかれた」という事実は、警戒心を抱かせるに十分だ。しかし、遥は乱馬の顔を見る。そこにあるのは、屈託のない、太陽のような笑顔だ。計算も裏表もない、純粋な喜び。遥は毒気を抜かれる。
(まあいいか。この無防備さが、彼の魅力なのだろう。それに、この筋肉の感触……悪くない)
「……うん。(そういう裏表のない素直なところは)好きだぞ」
遥は、乱馬の肩に手を回し返す。その言葉に、またしても周囲が過剰反応する。縁側で様子を伺っていたなびきが、黄色い声を上げる。
「きゃ〜♡大胆〜!みんな見てる前で『好きだぞ』って!公開告白いただきました〜!」
あかねは、もはや怒る気力もないのか、深く溜息をつく。
「……もう、勝手にして。お幸せに」
あかねの中で、乱馬は完全に「あっち側の住人」として処理されつつある。
乱馬は、遥の言葉を「武道家としての好意」として受け取り、さらに嬉しそうに笑う。
「へへっ、俺も好きだぜ!お前のその筋肉!」
乱馬が遥の上腕二頭筋を触る。誤解のミルフィーユが、さらに層を重ねていく。
「くっ……!なぜだ……なぜ攻撃が当たる前に反応できん……!俺の修行が足りないというのか……!」
ずぶ濡れになった良牙が、這い上がってくる。
「くそぉぉっ!俺はまた負けたのか!あの時、北海道でヒグマと戦った経験も、沖縄でハブに噛まれた経験も、全て無駄だったというのか!」
その姿を見て、遥の「師匠魂」がうずく。彼は乱馬から離れ、良牙の前に立つ。
「……しかし、良牙君。君はもったいないな」
「な、何だと!?」
「君の肉体(フィジカル)は素晴らしい。耐久力と爆発力は乱馬以上だ。あの岩のような筋肉、そして打たれ強さ。天性の才能だ。だが、使い方が雑すぎる。感情に任せて力を振り回しているだけだ。それでは、どれだけパワーがあっても、柳のような乱馬には当たらない。空気を殴っているようなものだ」
「ぐぬぬ……!分かっている!分かっているが、どうすればいいんだ!」
「素質はあるのに、それを活かす技術(すべ)を知らない。まるで、泥にまみれたダイヤモンドの原石だ。磨けば光るのに、放置されている。どうだ?僕が君を鍛えてやろうか?乱馬に勝ちたいのだろう?」
「な……!?」
今まで、自分の力を「雑だ」と指摘してくれる人間はいなかった。ただ「馬鹿力」と恐れられるか、「乱暴者」と敬遠されるかだ。それを、この男は「原石」と言った。乱馬が横から口を挟む。
「おっ、いいじゃねーか良牙!こいつの教え方はすげー上手いぞ!マジで分かりやすいから!」
「ら、乱馬がそこまで言うなら……」
この男から感じる、底知れない強さ。そして、的確すぎる指摘。そして何より、「乱馬に勝てる」という甘美な響き。良牙の手が震える。
「……本当に、強くなれるのか?俺でも、あの乱馬に……?」
「保証する。君の迷いを断ち切り、そのパワーを一点に集中させれば、乱馬をも砕く槍になれる」
遥が力強く頷く。彼は差し出された遥の手を、泥だらけの手で握り返す。
「……頼む!俺を強くしてくれ!師匠!」
「よし、契約成立だ。明日から覚悟しておけよ。君の体(筋肉)を、徹底的にいじめ抜いてやる。……まずはその致命的な方向音痴から矯正してやる」
「ほ、方向音痴は関係ないだろう!」
「大ありだ。空間認識能力の欠如は、間合いの把握に直結する。君が乱馬に当たらないのは、そもそも『相手がどこにいるか』を正しく認識できていないからだ」
物理的な方向音痴を、武術的な欠点として論理的に解説されてしまい、良牙は反論できない。
「うぐぐ……!よ、よろしくお願いします!」
こうして、最強の師匠・遥の下に、また一人(迷子の)弟子が増えることになった。天道家の人々は、縁側でその光景を眺めながら、ポカンとしている。
読了ありがとうございました!
今回のテーマは、
「誤解と誤認と、ついでに風呂と武術と愛(?)」
でした。
乱馬の天然ボケ爆弾。
遥の高潔スピーチ誤解誘発機能。
あかねの乙女フィルター。
なびきのマネタイズ脳。
良牙の迷子力。
天道家の誤解は聞こえた瞬間に成立する能力。
もはや誰も真実を見ていないのに物語が成立するあたり、
らんま世界の治安は今日も平和です。
ぜひ、読者の皆さんの
「ここ爆笑した!」
「この誤解の層が好き!」
「遥がヤバすぎて最高だった!」
「良牙が可哀想で笑った!」
などなど、感想を教えていただけると嬉しいです。
次回も天道家は平常運転で誤解します。
またお会いしましょう!