蟻ですが、なにか? 作:夢幻人.
お待たせしました
目の前には傷を負った火龍。後ろには深淵魔法の準備をしている蜘蛛子ちゃん。そして私のやることは時間稼ぎして隙を作ること。
『楽勝ですね』
既にスキルで自身を強化していますし、ステータスを速度重視にしてあります。もはや奴は私には追いつけないでしょう。
その状態で私は火龍に突撃。攻撃を当てると反撃してくるので即座に距離を取って逃げ回り、隙を見つけて再度攻撃してを繰り返すヒット&アウェイ。速度重視にした結果攻撃力が低下しているので大して体力が減っていないがこちらにヘイトを向けるには充分でした。
「──!!」
すると火龍が口を開けて力を溜めているのが分かりました。間違いなく特大の炎のブレスが来る……!
ちょこまかと逃げ回る私に痺れを切らしたんでしょうね。だから強力な攻撃でここら一帯を破壊しようとする訳だ。範囲攻撃なら逃げられないだろうと。
──ですが、残念ながら狙い通りだ!
『それを待っていました!』
私は迷う事なく火龍の顔へ目掛けて突撃しました。どう考えてもブレス直撃コース。ですがそれで良い!
そして炎のブレスが放たれて炎が私を覆い尽くす──と、思うじゃん?
炎は私の体へとどんどん吸収されていく。
『灼熱の加護』で炎を我が物とし、『混沌』のスキルで吸収して力を蓄える。
そして一つ残らず炎のブレスを吸収しました。
さあ!今蓄えたエネルギー分全て返してあげましょうか!
吸収した炎を魔力に変換。周囲の大気も吸収してその魔力と混ぜ合わせる。そうする事でとある魔法が完成する。
『喰らえ!
それは風魔法の最上位。それを創り出せるのだから改めて『混沌』のヤバさが窺えますね……
すると私を中心に竜巻が発生。それを『暴風の加護』で制御する。
まるで生き物のように蠢く竜巻は周囲の瓦礫を巻き込みながら火龍に直撃。
その傷ではこの瓦礫まみれの竜巻の中で動く事は難しいでしょう。つまりそれは大きな隙が生まれるという事で……
『蜘蛛子ちゃん、準備できました?』
『あたぼうよ!巻き込まれないように下がってて!』
私は竜巻の制御に意識を集中させながら即座に蜘蛛子ちゃんの辺りまで下がる。
そして蜘蛛子ちゃんが魔法を放った。
途端、辺りが暗くなる。
マグマから発せられる光さえ飲み込む極大の闇が地面から這い上がってきて、マグマを飲み込み、地面を飲み込み、魔物を飲み込む。溢れんばかりのその闇はすべてを飲み込む。
深淵魔法 地獄門
闇系統の魔法の最上位で魂ごと破壊するというイかれた魔法。ちなみに今の私だと多分防げない。『祓魔の加護』で防げれば良いけど、その加護ごと殺されそうな気がするんですよねぇ……というかこれでレベル1ってマジですか?
そのまま深淵魔法が火龍の体力を削り切りました。
やったね!と蜘蛛子ちゃんとハイタッチ的な事をする。
《経験値が一定に達しました。個体、ビア・レットがLV15からLV19になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました──
──条件を満たしました。称号『龍殺し』を獲得しました》
《称号『龍殺し』の効果により、スキル『天命LV1』『龍力LV1』を獲得しました》
《『身命LV9』が『天命LV1』に統合されました》
《『竜力LV6』が『龍力LV1』に統合されました》
長いスキルレベルアップが終えたかと思えばどうやら称号を得たようです。
あれ?蜘蛛子ちゃんがトドメを刺したのに私にも龍殺しの称号貰えるんですね。協力者にも平等に与えられるとか?それともあれか、嵐天魔法を最期まで喰らわせてたから同時にトドメを刺したことになっているんですかね?
あ、ヤバい……蜘蛛子ちゃんの深淵魔法で地盤が沈んでいる。このままじゃマグマが押し寄せて来てしまう。
『蜘蛛子ちゃん!』
『分かってる、運ぶの手伝って!』
そうして私達は安全なところまで火龍の死骸を運びました。そこで火龍の鱗を蜘蛛子ちゃんと剥いでいる。そんな鱗剥ぎが終わったタイミングで空間の歪みを確認した。
ん?空間の歪み?誰かここに転移してくるってことですか?マジか……このタイミングでって事は、まさか火龍の敵討とか……
そして現れたのは全身黒い男。目だけは異様に赤く輝いている。
うーん、でも私の体の色と比べると薄く見えてきますね……私の体はもう真っ黒なんてもんじゃないし。
なんにせよ、この男は強すぎる。次元が違うと言っていい。そう断言できる程の異様な何かがあった。でも敵意はなさそうですね。
「**********?」
おうふ……何言っているか全然分かりませんね。日本語でおけ。それ以外の言語を使うんじゃあない。
蜘蛛子ちゃんが身振り手振りで言葉が通じないことを伝えようとしているがどうやら伝わらないようです。
結果3人揃って首を傾げてしまう始末。はてさてこの先、どうなりますことやら……
なんて思っていたら、どこからかスマホが落ちてきた。
うえ?スマホ!?なんで!?
『
声が二重に聞こえてきました。片方は日本語、もう片方は先程の黒男が話した異世界語。
すると黒男がそのスマホと話し出した。しばらくすると話が終わり去っていきます。
『お待たせしました。蜘蛛さん、蟻さん。彼には話をしておきましたので、今後あなたに自ら関わることはないでしょう』
うーん……そもそも彼は何なのか、ついでにこの管理者Dとかいう人もどういう立ち位置の人なのかいまいちよく分からないんですよね。だからそんなこと言われてもどんな反応したら良いのか……
『私は世界最悪の邪神です。彼は……そうですね、とりあえず私に逆らえない立場の人だと思っておけば良いと思います』
うん?もしかして心読まれました?
『ええ。読みました』
あ、やっぱりか……
『蜘蛛さん。蟻さんを見習ってプライバシーだとか騒がないで冷静になる事をお勧めしますよ?』
『でも私達、念話で話せますし心を読む必要ないのでは?』
などと蜘蛛子ちゃんと管理者Dが話しています。
それを聞いている途中でふと気になる事を思い出しました。あの『混沌』と『叡智』は何だったんです?
『ああ、あれは頑張っているあなた達へのご褒美です。有効活用しているようで何よりです』
なるほど、ご褒美ですか……人が大変な思いをしてるというのに随分と楽しんでいるようですね。
『蟻さんは察しが良いですね。分かってしまいますか。私は世界最悪の邪神ですから、人のもがき苦しむ様を見るのが楽しみなのです』
『別に私の娯楽のためにその世界が作られたわけではありませんよ?私はその世界から見れば部外者です』
おそらく蜘蛛子ちゃんの心の中で何か言ったのでしょうね。それにしても部外者ですか……それなのに管理者してるの?どういう事?
『ここから先は教えられません。教えてしまったらつまらなくなりますから』
ケチ。
『これからもせいぜいあがいて私を楽しませてください。その先にあなた達の求める答えがあるかもしれませんよ。では、また』
スマホが消える。まるでそこには最初から何もなかったかのように。
『とりあえず、火龍でも食べますか』
『……そうだね』
蜘蛛子ちゃんは何だかボーッとしてますけど、私としては特に害があるわけではないので気にならないかな。何ならご褒美くれたしね。むしろ感謝しかない。いや、まぁ気味が悪いのはその通りなんですけどね。
兎にも角にもそれが、管理者Dとの出会いだった。