転生先:リュミルアの森   作:AliceC

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アリーゼと早坂愛とホシノが同じ声優さんだと知って戦慄している今日この頃


勝者は常に敗者の中に存在するらしい

ただ、その時の事をよく覚えていない。

 

黒だったのか、白だったのか、あるいは(どっちつかず)だったのか。

 

それさえも、分からない。

 

一つ言えるのは、強い殺意に全身が支配されていたという事だけ。

 

 殴った。

 

 折った。

 

 何かを投げつけた。

 

 椅子で殴り、

 

 電子機器を砕き、

 

 装飾物を壊し、

 

 踏みつけ、

 

 首を絞めた。

 

 

罵られたかもしれない。

 

何故と問われたかもしれない。

 

怒りを返されたかもしれない。

 

···懇願されたかもしれない。

 

助けて、と。

 

ふざけるな。

お前が、お前達が、助けられなかった人(助けたかった人)を殺したお前達が、それを言うのか。

 

怒りのままに、締め付ける力を強めようとした。

 

強めた、筈だった。

 

でも、出来なかった。

出来るはずが、無かった。

 

瞬間、頬を鋭利な刃物が掠めた。

 

否、掠めた程度に収まらない。

ざっくりと頬骨に到達せんとばかりに切り裂かれていた。

 

ああ、もう無理なのだと思った。

 

戻れない。

 

何故いつも僕は、何もかもに気付くのが遅いのだろう。

 

 

床に放られた、自身に傷を入れた凶器を握った。

 

思考はクリアに。

 

だから、その瞬間の事だけは克明に覚えている。

 

 

僕はただ、機械的に、胸を穿った。

 

 

 

跳ね起きる。

寝汗が酷い。

中身が無いのに胃液がせり上がりそうになって、気持ちが悪い。頭はガンガンと響いてうるさかった。

鏡で己の顔を見る。

未だ見慣れない顔。

両親譲りの整った容姿。来世を迎えても内面の反映される事のなかった造形。

グレイ・リュミルア。

それが今の、愚者(ぼく)の名前。

 

「ははっ…」

 

乾いた笑いが零れて、消える。

 

ああ、くそ

 

「最悪だ」

 

本当に、最悪の気分だった。

 

 

リューが森を出て二年。

僕は聖樹結界の担い手として、祖父から役目を受け継いだ。

リュミルアの森は特殊だ。

その特殊性は、やはり大聖樹にある。

リュミルアの大聖樹、その麓には()()()()()()()()が安置されている。

この精霊が大気中の魔素を集め、結界を維持し続ける。

そう、結界魔法の行使者は僕でも、祖父でもない。

僕達は行使者では無く、調律者だった。

精霊を通して結界魔法に介入し、整える。綻びを繕い、最適化する。

その為には知識が必要だった。感覚では無く理論で魔法を捉えなければならなかった。

リュミルアの書、或いは"守り人の聖書"と呼ばれる書物が僕の魔法への理解に大きく役立った。

だが、かつて森を離反したリュミルアの者は、それを悪書であると批判した。

理解は出来る。精霊の精神に干渉するというプロセスを経る以上、調律は精霊への冒涜以外の何物でもないのだから。

故に、聖樹結界に関する一切は秘匿され、一族相伝となった。

皮肉な話だ。

リュミルアの森のエルフは皆、大聖樹により選ばれている事を何よりも誇りとしている。

しかし、その誇りの源泉には、精霊を都合良く利用するという、彼等が唾棄するであろう真実が隠されている。

精霊が神の分霊であるのなら、正しくリュミルアの一族は涜神の一族だ。

初めてこの事を知った時、暗い笑いが心を覆った。

 

グレイ(どっちつかずの)リュミルア(涜神者)

 

実に僕らしい。

本当に、笑えるじゃないか。

 

リューが里を離れてから、僕が大叔母と会う機会は殆ど無くなっていた。

最近では、もう一月程会っていない。

 

祖父からの継承の準備を始めるから。

思春期だから。

当時のままの両親持ちの家で暮らしたいと思ったから。

理由は、まあ、色々付けた。

全て取って付けたものだ。

 

結局の所、僕は逃げていた。

あの日、小人族を殺す前に渡り廊下で彼女(アルマ)は言った。

 

”どうあれ、後悔だけはしないように”、と。

 

あの全てを見透かす目に、内心を暴かれたくなかった。

つまらぬ希望を打ち砕かれたあの夜に定めた心を、揺らがされたく無かった。

捨てると決めた日常を、想起したくなかった。

 

 

当然の帰結として、愚行には報いが訪れる。

僕は何度重ねても、学べなかったらしい。

 

大叔母が倒れた。

急報を受けて僕は、一月振りにアルマ宅の敷居を跨いだ。

 

「グレイ様……」

 

「こんにちは、ランテさん」

 

彼女は大叔母が所属していたというファミリアの一員で、大叔母が体調を崩すようになってからは、彼女が身の回りの世話を手伝ってくれていた。

 

「アルマ様はこちらです」

 

「ありがとう」

 

大叔母の寝室へ足を踏み入れる。

久しぶりに見る大叔母の姿は、以前のそれよりも華奢に見えた。頭髪は全て真っ白で、痛み切っていて、肌には皺が目立つようになっていた。

その瞼は閉じられていて、穏やかな寝息だけが彼女が未だ生者であることを教えてくれている。

 

「久しぶり、アルマさん」

 

「僕はいつも、間違い続けてばかりだ。本当、嫌になるよ」

 

逃げて、逃げて、逃げて、向き合おうとしても結局向き合えてなんかいなくて。

知っていた筈なのに。彼女の生命が既に風前の灯である事を、僕だけは知っていた筈なのに。

僕は最後まで、自分の事ばかりだった。

 

「······義母さんとは、もう···呼んでくれないのか?」

 

「っ!?」

 

掠れていても、はっきりと聞こえた。

大叔母の声。

 

「なぁ···グレイ。······君は今、後悔···してる?」

 

何を当たり前の事を聞くのだろう。

前世においても、今世においても、

グレイ・リュミルアにとって後悔が付き纏わなかった事などただの一度も無い。

間違い続けた人生だった。

過ちばかりの己がどう胸を張って生きろと言うのだ。

 

「貴女はあの時言った。後悔だけは無い、と。僕には、それが眩しいものに見えた。

···同時に、理解できないモノにも見えた」

 

理解出来なかった。間違えてきた、その言葉に嘘は見えなかった。じゃあ、何故悔やんでいないのだろう。

何故、過去では無く未来を向いていられるのだろう。

 

「ああ······あれか。あれは···嘘···だ」

 

「···は?」

 

「今は一つだけ、後悔がある」

 

「······君とリューの仲直りを···見れそうにないことだ。···こんな事なら、呪詛(カース)を数回分···節約しとくんだったな」

 

ゴホッゴホッと、咳き込みながらも彼女は言葉を紡ぐのを止めない。

 

「ようやく···分かったんだ。私の人生は間違いだらけだった。でも、その間違いには何時だって意味付けをしていた」

 

「失敗は成功の母。···極東の友人が教えてくれた諺だ。

多くの過ちもまた、今、そして明日への過程であり道であったのだと。そう信じれば、きっと前を向く事が出来る」

 

『勝者は常に敗者の中に存在する』

 

遠い記憶の中の主人公(えいゆう)の言葉が頭の内で繋がった(リンクした)

 

「私の葬式が開かれるなら、グレイとリューが再会する口実になるかもしれない。

そこで、きっと仲直りをするんだ。ほら、これで私の後悔は無くなった」

 

簡単だろう?

 

そう言って彼女は笑った。

 

 

彼女は以前、自分と僕が似ていると言った。

 

僕は、そうは思わない。

 

思えない。

 

だって、この人はこんなにも、綺麗なのだから。

 

 

大叔母は次の日に亡くなった。

 

眠るように、息を引き取っていた。

 

程なくして、彼女の葬式が開かれる。

リューは結局、大叔母の葬式に姿を見せる事は無かった。

姿を見せられなかった、の方が正しいのかもしれない。

里を捨てた落伍者、そんな者を待つ必要は無いと、守り人のまとめ役(リューの父親)が言った。その言葉を額面通り受け取るには、彼の顔は苦渋に満ちていて。

ただ、里の総意は間違いなくそうなのだろうと言う事だけは察せられた。

僕は里を離れられない。立場が、或いは聖樹そのものが僕を縛っている。

もし、全てを無視して呼び戻せたのなら、

いや、それともあの時、()()()()()()()()()という決断が出来たのなら

あの人の憂いを払う事は出来たのだろうか。

 

遺体は燃え、灰になる。

 

死者の色。

 

終わった者の色。

 

無価値へ成り下がった者の色。

 

グレイ・リュミルアの色。

 

ふと、頭の後ろを押さえた。

 

「あれ、なんで」

 

殆ど、無意識だった。僕は今なんで、こんなことを。

 

「···あ」

 

浮かんだ。大叔母の顔が。 先生の顔が。義母の顔が。

もう、頭を小突いてくれる事なんて無い。

もう、言葉を交わすことは叶わない。

与えられることも、会うことも、存在を感じることさえ叶わない。

 

日常なんかない。全部僕が壊した。

だから、あの日々を愛おしく思うなんて、そんなの、

 

そんなこと、

 

「そんな資格なんてない。

僕には、泣く資格なんてない。だから、泣くなよ。泣いていいわけ、ないんだよ、僕は…ッ!」

 

胸の奥が痛い。熱い杭が撃ち込まれたみたいに痛い。

喉が痙攣して、自分が何を発してるのかも分からない。

嘔吐いているみたいで、気持ち悪い。

視界の異常が酷い。さっきから、ピントが一度も合わない。拭っても、拭っても何かが溢れて止まらない。

 

涙が止まらない

 

嗚咽を、止めることができない。

 

 

ああ、僕も後悔を一つ拭えたよ。

 

 

僕は最後まで、貴女に与えられてばかりだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

森が燃えている。

聖樹が、燃えていた。

エルフ達が逃げ惑う。

それを、闇派閥(かれら)は呆然と見送っていた。

 

「何が、どうなっている」

 

「我々にも分かりません···!ただ、聖樹が!ひいては森全体が燃えています!」

 

燃えていた。しかし、彼らは未だ()()()()()()()()()()()()()()

闇派閥は邪神の指示の元、各地のエルフの森を襲撃していた。こちらの強力な切り札(カード)を運用するため。そう言い含められていた。

しかし、闇派閥が侵入せんとしていた矢先、まだ何も手を下していないというのに、炎は起こった。

 

「目的は聖樹の枝。闇派閥(われわれ)が火を付ける道理も無い。ならば誰が」

 

ひとり、死んだ。

 

突然の事だった。

それまで話していたLv1冒険者の首が()()()

それは文字通り致命的なズレ。男は既に絶命している。

 

「ああ、動かないでくださいね」

 

「貴方達、闇派閥の方々ですよね?揃いも揃って間抜け面ばかり」

 

ふたり、死んだ

 

「動くなと、言ったはずです。流石ニワトリ顔の皆さん。三秒で忘れてしまうとは」

 

さんにん、死んだ

 

「ああ、ごめんなさい。生きている以上動作し(うごか)ない訳にはいかないですね。これは失礼しました」

 

よにん、ごにん、ろくにん、ななにん、はちにん、きゅうにん、死んだ。

 

一瞬で築かれた屍の山。

まるで無力な民衆達(被害者)のように、

恩恵持ちは呆気なく全滅した。

残ったのは闇派閥の冒険者達に乗じようとした、力を持たぬ商人のみ。

 

「や、やめ」

 

「やっと、はなしあいが出来るようになりました。

話し合いが出来る(せざるを得ない)人だけ残したんだから当然か」

 

殺戮者の姿を捉える。外套を羽織り、頭巾を目深に被ったエルフ。その全身は返り血に染まっている。

 

「──それでは僕からの提案です」

 

エルフは、返事を聞く間もなく商人へ対して一方的に語りかける。

 

「聖樹の枝は差し上げます。

あなた方の()()()()()()()()に、必要なんでしょう?」

 

商人が動揺する間もなく、エルフは更に畳みかけるように言葉を紡ぐ。

 

「代わりに僕をオラリオへ連れて行って下さい。ああ、僕を連れ去った事にするのも忘れずに」

 

灰の目が冷たく射抜く。

 

生命(いのち)と交換するなら、あまりに安い買い物だ。

さぁ、ほら、頷くか/死ぬか(えらべ)

 

 

悪を名乗る闇派閥(われわれ)よりもよっぽど、

 

このエルフは、悪魔を名乗るに相応しいと

 

ある商人は、そう思わずにはいられなかった。

 

「ありがとうございます。心優しい貴方に感謝を」

 

 

「───ああ、ようやく始まるよ。

見届けてみせよう。導いてみせよう。

──継ぎ接ぎながら、紡いでみせよう」

 

 

彼女(きみ)の愛した、眷属の物語(ファミリアミィス)を」

 

 






種明かしされて、何故か秒で燃える大聖樹。意味深な事を言ってイキりだしてしまった主人公。最凶古代英雄エピメテウスに第四の壁を越えて燃やされる筆者のプロット。この作品の明日はどっちだ。
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