その魔族は功績もなく名もなく何も遺せぬまま塵と消えた。
過去を語らず報酬も求めずただ人間を嫌い魔族を憎んだ魔族ゲルトルーネ。

それは『葬送のフリーレン』の隙間にあったかも知れない物語。

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※原作1~4巻既読推奨です。ごめんなさい。


『その時』と『あの時』、『今この時』

「ゲルトルーネがどんな魔族か、か」

 

 山道を徒歩で進みつつの道中、フリーレンは反芻する。

 尋ねた本人であるフェルンは一つ頷きつつ補足した。

 

「はい、これから向かう先の魔族。フリーレン様ならより詳しく御存知なのではないかと」

「当然知っているよフェルン。アレは中々魔法を扱うのが巧みな魔族だ」

 

「魔族だったらみんな大なり小なり厄介な魔法の使い手だろ? 会いたくないなぁ」

 

 苦しい戦闘が予見される状況にうんざりした口調でシュタルクが割り込む。

 話の腰を折られたフェルンがムッと眉を顰めたが彼がそれに気付く様子は見られない。

 

「……名前の響きからして女性でしょうか?」

 

 シュタルクに軽く体当たりをしながらフェルンが話を続ける。

 彼女が何故機嫌を損ねたか分からないシュタルクは「なんだよ…」と縮こまって見せた。

 

 そんな同行者たちのやり取りに内心で吐息を漏らしつつフリーレンは言葉を返す。

 

「そうだね。本人は『女性なんてガラじゃない。雌で充分だ』と返すだろうけど」

「……お知り合いなのですか?」

 

 思った以上に距離感の近さを感じさせる回答にフェルンが目を丸くする。

 シュタルクも同様のようで驚愕の表情を浮かべている。

 

 腐敗の賢老クヴァールを討伐した時のように退治目的だと思っていたからだ。

 その時にシュタルクはまだ一行に加わっていなかったがその恐ろしさはよく聞いている。

 

 魔族とは人類に対する絶対的な脅威であり敵対者である。

 その前提が崩されかねない状況に二人が戸惑いの表情を見せる。

 

 ほんの少し迷う素振りを見せてからフリーレンは口を開いた。

 良い機会だろう、と彼女の中に期する何かがあったことは否めない。

 

「あまり公言して欲しくはないれどね。アレとは、かつてともに旅をしていたこともある」

「え? そ、それってひょっとして師匠や勇者ヒンメルとも…」

 

「そうだよ、シュタルク。つまりアレは魔族なのに『勇者一行』でもあるんだ」

 

 道すがらの雑談にしてはあまりにあまりな内容であるため二人は揃って言葉を失う。

 

 なんせフリーレンは基本的に魔族に心を許さない。

 エルフがかつて魔族に徹底的に滅ぼされたとされる以上当然と言えば当然である。

 

 そんな彼女が一人の時にどんなに友好的な存在であろうと魔族とともに旅をするだろうか? 

 

 とてもではないが想像できない。

 それがフェルンとシュタルクの偽らざる感想であった。

 

 となれば旅に同行を許したのは彼女一人の結論ではないだろう。

 消去法的に勇者一行の存在があったのかと問えば、まさかのドンピシャだったとは。

 

「……どういったきっかけでともに旅をすることになったんですか?」

 

 フェルンは恐る恐るといった様子で、それでも興味を隠せず更に問いを重ねる。

 

「ん。……あまり愉快な出会いではなかったね」

 

 フリーレンは語り始める。

 とある村での出来事を。

 

 魔王が健在ということもあり、人類は今よりももっと死が身近であった時代だ。

 一匹のみすぼらしい魔族の少女と遭遇したのだ。

 

 人間で言えば十歳に届くか届かないかといった外見。

 

「それがゲルトルーネ?」

「ぜんぜん違う」

 

 シュタルクの問い掛けはにべもなく切って捨てられた。

 ショックを受けて俯くシュタルクの背をフェルンがそっと撫でた。

 

「そいつは哀れを誘う声音で『お母さん』と鳴いてみせた」

 

「フリーレン様、それは…」

「そうだね。十中八九、罠。あるいは状況を好転させるための方便だっただろうね」

 

「うっ…」

 

 少しその魔族の『少女』に同情しそうになっていたシュタルクは気不味そうに目を逸らす。

 そんな同行者の様子を半目で睨むフェルン。

 

 二人のやり取りを眺めながらフォローというわけではないがフリーレンは言葉を続ける。

 

「あの魔族の演技は真に迫っていた。ヒンメルも剣を収めるほどに」

「それは…」

 

「退治の様子を見守っていた村人も戸惑う姿勢を見せ始めた」

「まずい傾向だな…」

 

「ついには村の人々が魔族の前に立って歩み寄り庇う言葉を発し始めたんだ」

 

 それは魔王が健在な時代。

 人々が手探りで魔族への脅威に対抗しようとしていた時代。

 

 そして…

 

 ── それは『魔族というモノをまだ人々がよく理解していなかった時代』でもあった。

 

 人と魔族が分かり合えると夢想し、『勘違い』していた時代の話。

 

「ついにヒンメルも言ってしまった。『フリーレン。僕達には言葉がある』と」

「……そう、ですか」

 

「私は九分九厘良くないことが起こると確信していた。──でも」

「でも?」

 

「……残り一厘を埋めるだけの言葉をその場で紡ぐことは出来なかったんだ、私も」

 

 ── だからきっと、何か起こればそれは私も同罪だ。そんな覚悟のまま頷いた。

 

 フリーレンは常変わらぬ無表情ながら、その背に何処か意気消沈した様子が見て取れる。

 それを改めて指摘するほどフェルンも無粋ではなかった。

 

「けれど、そんな想定していた『最悪』は起きなかった」

「ん? そりゃどういうことだ、フリーレン」

 

「その魔族の少女は、一瞬の後に首を落とされ塵となって消えたからだよ。シュタルク」

「……は?」

 

「私は勿論、ヒンメルやアイゼンにハイターだって反応できなかった」

 

 その言葉の意味するところを理解しシュタルクは表情を青褪めさせ動揺をあらわにする。

 

「はぁ!?」

 

「そんな、ハイター様まで…?」

「いやいやいや、ありえねぇだろ! 師匠の直感をすり抜けるなんて!」

 

「だろうね。あそこまで完璧に出し抜かれたのはそうはない事例だ」

 

 そして勇者一行が臨戦態勢を取る。

 

 いつの間にか其処には魔族の少女が一匹佇んでいた。

 無論のこと、つい先程塵になって消えた『ソレ』ではない。

 

 別の魔族だった。

 

 背丈はフリーレンと同程度。

 人間から見れば充分小柄な少女の範疇に入るであろう。

 

「ただ、そうだね… 一見した印象を述べるなら、『瞳』が印象的だった」

 

「印象的な瞳? 珍しい色の虹彩を持ってたとか? でも魔族ならなんでもアリじゃね?」

「シュタルク様… 『虹彩』なんて言葉を御存知だったんですね」

 

「……フェルン、俺のことを一体なんだと思ってるわけ?」

 

 フェルンとシュタルクのやり取りを横目にフリーレンは整理して言葉を続ける。

 

「なんて言うのかな… 『熱量』、というのかな」

「つまり?」

 

「魔族は良くも悪くも冷めている。人間のことはほぼ餌としか見ていない。これはいい?」

「あぁ、そうだな。死んじまう直前まで冷静だったりするよな」

 

「ただ、アレは違っていた。……怒り? なのかな。『瞳』にそんな色が乗っていた」

「……つまり、その魔族は魔族嫌いだったから同族を殺したってワケか?」

 

「というより後から分かったことだけど魔族も人間もみんな嫌いだったみたい」

 

 なるほど、それは確かに異質な魔族だ。

 

 魔族が人間を殺すのは喰らうためだ。

 あるいは玩弄するためだ。

 

 所詮は餌であり玩具に過ぎない。

 それ以外の感情などないし、だからこそ人間と相対する時には常に冷めている。

 

 魔法の技には自負のようなものもあるだろうがそのプライドとて内に向けられている。

 特異な価値観、とは言うまい。それこそが魔族にとって『普通』なのだから。

 

 けれど、『嫌う』が故に攻撃してきたとなれば話は別だ。

 

 それはまさしく異常事態であった。

 

 勇者ヒンメルは再び剣を抜き放って詰問した。

 

 ── 何故殺した! 

 

 ── 僕達人間を殺そうとするならばまだ分かる! 

 

 ── だが何故君は同胞を殺した! 

 

 ── 人間とは対話することも許さないというのか! 

 

「その魔族は一瞬キョトンとしてから心底可笑しそうに哄笑した」

 

 少し開けた林の中、少女の甲高い笑い声が響く。

 そして笑い終えてからソイツは言った。

 

『まさかおまえ、対話なんか出来てたつもりだったのか?』

 

 

 

 

 

 

 

「心底呆れた瞳、というのはああいうものを言うんだろうね」

「変わり者の魔族、のようですね」

 

「アレに比べたらフェルンが日頃シュタルクに向ける視線なんて愛を感じさせるものだよ」

「ありませんからフリーレン様の勘違いですね」

 

「……そこで俺達を引き合いに出す意味って、ある?」

「ソイツは魔族嫌いで人嫌いだが会話は嫌いじゃないようでね。色々語ってくれたよ」

 

「無視ですかそうですか」

 

 

 

『魔族の『鳴き声』に一々反応してんなよ。そんなだから美味しい餌と思われるんだぜ』

 

『人間様は自分たちの言葉を使って貰えたら嬉しくてたまらないのか? おめでたいねぇ』

 

『じゃあお返しに魔族の言葉も教えてやろうか? なぁに、簡単さ』

 

『どんな言葉、文法でも意味するところはただ一つ。『大人しく騙されて食われろ』だ』

 

『そう怒るなよ! だって、お互い様だろう?』

 

『下等な魔族はこっちの言葉を使って歩み寄って当然! 人間様もそう思ってるんだろ?』

 

『少しでも魔族のこと知ってたら『保護してやろう』なんて傲慢抱けねぇもんなぁ!?』

 

『知るつもりもないしこっちの価値観に合わせて当然! 勝手に理解しろってこったろ?』

 

『んで魔族が魔族なりの価値観で道踏み外したら処分しますってか?』

 

『げひゃひゃひゃひゃ! カス同士お似合いじゃねぇか! 仲良くくたばりな!』

 

『あぁ、同胞殺した理由だぁ? 人間も魔族もどっちも嫌いだからに決まってんだろ!』

 

 今思い出しても頭が痛くなる罵詈雑言のオンパレードだ。

 

 フリーレンは若干頭が痛くなりながらも伝える言葉の取捨選択に苦慮する。

 フェルンやシュタルクの教育に良くないのではないかと憂慮したのだ。

 

 ……フリーレンは彼等二人を幼い子供のように見ている節があった。

 

「……まぁ、うん。色々あってアイゼンが、続いてヒンメルも攻撃に移った」

「あれ? 会話はどうなったの?」

 

「それはいずれ。戦士職二人のこうなった際の判断は早い。完璧な奇襲… のはずだった」

 

 しかしその攻撃が魔族に届くことはなかった。

 否、正確には『届く寸前に止めざるを得なかった』のだ。

 

 息を呑むような引き攣った声。

 

 アイゼンもヒンメルも、ハイターやフリーレンすらその表情が驚愕に彩られる。

 

 その魔族の少女はいつの間にか、村の少女の首根っこを押さえ眼前に差し出していたのだ。

 まるで盾にするかのように。

 

 恐怖に震える少女を前にして、その刃は止まらざるを得なかった。

 

 そして何よりも『不可解』であった。

 一度ならず二度までもこの魔族の仕掛けを誰一人感知できなかったことが。

 

 出し抜かれるならば分かる。

 あるいは対処速度を上回られたにしても理解は出来るだろう。

 

 しかし、この期に及んでその動きの前兆すら掴めないというのは極めて不気味であった。

 

 村の少女が人質に取られたことは非常事態であるが、対処しようのない魔族の出現。

 これこそが目下最大の脅威と勇者一行は認識せざるを得なかった。

 

 それでも隙を見て魔法を放とうとするフリーレンの動きを見逃す魔族ではない。

 

 そのまま首根っこを掴んでいた少女を振りかぶるような仕草を見せ…

 

『!?』

 

 しかし、皆の予想を裏切ってのふわっと放るような下手投げ。

 

『きゃあああああああああああああああああ!?』

 

 それは綺麗な放物線を描いてフリーレンのもとへと飛んでいく。

 

 ── それが災いした。

 

 いや、おそらくは『ソレこそが狙い』だったのであろう。

 

 勢いよく投げ付けられればフリーレンは考えるより先に身体が回避していたかも知れない。

 あるいはヒンメルやアイゼンが咄嗟に割って入って止めようとしたのかも知れない。

 

 しかし、それは殺意など微塵も感じられないほどの優しい投擲。

 それも仮にフリーレンが避けても尻餅をついて足を挫くか挫かないかといった塩梅の。

 

 それに気を取られ、思わずフリーレンは杖を手放し少女を抱き留めてしまった。

 

 ── しまった。

 

 そう思った時にはもう遅い。

 あの魔族からの何らかの攻撃を予感しつつ少女を庇う姿勢を取りながら身を強張らせる。

 

 ……しかし、いつまで待っても攻撃は来ない。

 

『……いない?』

 

 そう、まるで霞のようにあの魔族は消え去っていた。

 夜風に揺れる木々の葉音がまるで川のせせらぎの如く鼓膜を揺らしている。

 

 今宵はなにもない、平和な夜であった。

 

 まさにそう錯覚してしまうほどに何の痕跡も残さないままに。

 魔族の少女は塵と消え、新手の魔族は霞と消え。

 

 何も残さず消えゆくことこそ、あるいは魔族の定めなのかも知れない。

 

「とんでもない魔族ですね…」

「確かに最悪な出会いだな」

 

「うん。さて、二人はこの魔族の扱う魔法はどんなものだったと思う?」

「え? 正解とか分かるの… って、一応一緒に旅したんだっけ」

 

「そういえばそういう話でしたね。とてもそんな仲になるようには思えませんけど」

「そう。だから本人… 本魔族から種明かしはされてるよ。本当かどうかはともかくね」

 

「そうだなぁ… じゃあ、とんでもなく素早く動ける魔法! ……とか?」

「単純だけど悪くない着眼点だね。普通に脅威だとも思う。フェルンはどう?」

 

「そうですね… では私は空間を連結する魔法、とかどうでしょうか」

「旅が便利になりそうだ。私もそんな魔法が欲しいよ」

 

「……ということはこれも不正解なんですね」

 

 否定せずに頷く。

 あまりもったいぶって焦らしても仕方ないだろう、とフリーレンは解答を発表する。

 

「アレは『意識を逸らす魔法』と言っていたよ」

 

「意識を… しかし、良く教えてくれましたね」

「あまり自分の命にも執着がなかったんだろうね。知られたら知られたでとも言ってた」

 

「はぁー…」

「魔王討伐の旅路だからね。魔族からすれば裏切り者だ。死を覚悟しても不思議じゃない」

 

「それだよそれ。どうして仲間になったんだ? ソイツ、えーと… ゲルトルーネは」

 

 言われてフリーレンは少し考える。

 

 彼女にとっては『良く分からない』ことであるからだ。

 ヒンメルやアイゼン、ハイターならば理解していたかも知れない。

 

 けれど、彼等は今ここにはいない。

 

 だから分からないなりにありのまま答える。

 

「良く分からないね。説得したのはヒンメルだから」

「わかんないのかよッ!?」

 

「フリーレン様、流石にそれはちょっと…」

「待って欲しいフェルン。私だって何も考えず流したわけじゃない」

 

「……本当ですか?」

 

 嘘ではない。

 

 分からないというの事実。

 というより、『理解し難かった』のかも知れない。

 

 あの時のことを少し胸の内で振り返る。

 

 

 

 

 

 

『……漸く見付けたよ』

 

『おまえらさ、いい加減さっさと先に進めよ。魔王様殺すんだろ? 旅立てよ、勇者ども』

 

『それも目的の一つだ。けれど僕達はこのくだらない旅そのものも楽しみたい』

 

『旅行ついでに、ってか。はっ、なんとも人間らしくて傲慢だ。嫌いじゃないぜ』

 

『そうかい。友好的な対話が望めそうで嬉しいよ』

 

『あぁ、嫌いじゃなくて大嫌いになったぜ! くたばれや、カスども!』

 

『はは、相変わらずの悪態だなぁ』

 

『殺して良い? ヒンメル』

 

『落ち着いて、フリーレン。彼女に敵意はないよ』

 

『……何を根拠に』

 

『君も気付いているだろう? あの村で人間の怪我人は出なかった』

 

『それは結果論だよ、ヒンメル』

 

『けれど結果こそが重要だ。それにあの村を積極的に害する気配も見られない』

 

『……それは』

 

『そもそも彼女の能力を以ってすれば隠れ続けることは容易だったはず。違うかい?』

 

『いや、この狭い林ん中をいつまでもガサガサされて迷惑だっただけなんスけど?』

 

『………』

 

『こうして現れたのは対話に応じるつもりになってくれたからだと僕は考えているよ』

 

『何日も何日も探し続けやがってよ。マジでうざいんだが? 聞いてます? おーい?』

 

『というわけで話をしよう! ……君のことはなんと呼べば?』

 

『聞けよカスが! ゲルトルーネだよ、畜生! いいからとっとと目の前から失せろよ!』

 

『よし、ゲルトルーネ。君も中々見目麗しいが僕やフリーレンほどじゃない』

 

『俺を女扱いすんじゃねぇ。魔族なんざ雌扱いで充分だ!』

 

『分かったよ、雌魔族!』

 

『それでいい。そもそも人間様が期待するような繁殖形態じゃねぇからなこっちは』

 

『それはそれで興味深いが口説くのはまたの機会で。いや、別の意味で口説くが』

 

『あん? 喧嘩売ってんのか? 喧嘩を売ってきたってなら流石に殺すぞ?』

 

『喧嘩ではない。純然たる交渉だ。僕はヒンメル、世界最高に格好良い勇者ヒンメルだ』

 

『顔が良かろうがおつむの出来が最悪通り越してド残念じゃねーかよ、カスが』

 

『そしてこちらがドワーフの戦士アイゼン。あと酒好きのハイターだ』

 

『僧侶です。僧侶のハイターです』

 

『雑過ぎだろ特に後者の紹介。仲間泣いてるだろ』

 

『大丈夫。アレは二日酔いに日差しが目に染みただけのいつものコンディションだよ』

 

『マジかよ。ここ数日林の中に吐瀉物撒き散らされてたのはオメーらのせいかよ死ねよ』

 

 

 

 

 

 

「こうしてなんやかんやあってゲルトルーネは仲間に加わった」

 

「いや、どういうわけだよ。全然わかんねーよ」

「ほらね?」

 

「なに勝ち誇ってるのコイツ。殴っていいかな? フェルン」

「グーはダメですよ、シュタルク様」

 

「パーでもやめてほしいな」

 

 両手で頭を防御して身体をすくめるフリーレン。

 大きなため息を吐いてからシュタルクは拳を収めて話の続きを促した。

 

「で?」

 

「うん。まぁ、魔族嫌いってのが大きかったみたい。魔王を殺せば実質魔族滅びるからね」

「なんというか… だいぶ破滅思想キマってんなぁ」

 

「人間も嫌いだったのでは?」

「言うほど人間は嫌いじゃないんじゃないかな。積極的に殺しにいかないし」

 

「その判断基準は若干甘すぎる気がしないでもないけれど魔族としちゃ異常だよな」

「でもまぁ利用しようとしてくる人間にはあんまりいい顔してなかったね」

 

「というと?」

「自分で出来ないなら諦めるか自力で努力しろよ。他人に押し付けるなカスって」

 

「辛辣だ…」

「そうだね。そういうところはしっかりしてた。どっかで人間社会学んでたんだろうね」

 

「他にもなにか?」

「仲間になるにあたって報酬の取り決めとかは徹底してたね。魔族は名誉も得られないし」

 

「しっかりしてんなぁ…」

 

 口を開けば罵詈雑言の嵐だったが、その言葉に裏はほとんどなかったように思える。

 何処までも魔族らしくない魔族だった。

 

 少し口元を綻ばせながらフリーレンは続ける。

 

「その気になれば街にも出入り自由だったしね」

「え? でも角がありますよね?」

 

「例の『意識を逸らす魔法』の力だね。誰も注意を払った様子はなかったよ」

「そこまでの魔法だったのですか…」

 

「まぁヒンメルとハイターは挙動不審になってたけれどね。一緒に笑ったものさ」

「仲が良かったんですね」

 

「……余談だったね。そういえば旧黄金郷にも足を踏み入れたよ」

「え!? どうやって!? あそこ中に入ったら黄金になっちゃうんだろ!?」

 

「なんでもああいう広範囲持続型の設置魔法ってのは騙しやすいんだってさ」

「騙しやすい? どういうことでしょう…」

 

「私もアレの言葉の受け売りだからね。言わんとするところはなんとなく分かるけど…」

「今の黄金郷でも効果を発揮できるのでしょうか」

 

「それも分からない。まぁ出来ない理由もないと思うけど相手は七崩賢だしね」

「はぇー… 頼りになる仲間だったんだなぁ」

 

「おかげでアレの功績まで私の手柄ってことになって勝手に期待されて面倒だったけどね」

「功績の押し付け合い、ですか。無頓着なフリーレン様らしいですね」

 

「……否定はしないけれどもう少し言い方には気を使って欲しいかな、フェルン」

 

 会話は続く。

 

 埃の被った取り留めのない思い出の数々を記憶の引き出しから取り出しながら。

 いかにもツギハギだらけで、頼りなくて、そしてどこか他人事のそれら。

 

 それも無理からぬことであろう。

 

 だってフリーレンは長いこと他人に興味なんて抱いてこなかったのだから。

 だから、アレとの関係も一体どのように形容すれば良いのか分からないままであった。

 

 ── そして、分からないままに『その時』は訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、なんだ随分と久方振りの顔がいるじゃねーか」

 

 其処には一見するとまるで人間のような一人の少女が立っていた。

 山道から少し外れた斜面に隠れるように建てられた山小屋。

 

 ゆったりとした黒いローブを身に纏い、同じく黒のつば広の三角帽子を被っている。

 年の頃は一見すると14~15あたりであろうか。

 

 粗野な口調とは裏腹に烏の濡羽色の艶のある腰まで伸びた黒髪。

 夕暮れ時を思わせる淡い赤の瞳は気品すら感じさせる。

 

 旧知の仲であろうこちらを、正確にはフリーレンを見て片手を上げ笑みを浮かべる。

 おそらくは彼女がゲルトルーネであろう。

 

 旧友との再会を思えばなんら違和感を感じさせない物腰ではあるが…

 

「動くな、魔族め!」

 

 物々しい軍隊に囲まれていた。

 

 それは殺意と怯えに満ちた、純粋な暴力の群れ。

 

 ……だと言うのに、彼女は笑っていた。

 とても楽しそうに。愉快そうに。

 

「『問答無用』って勢いだなぁ、こりゃ」

 

「貴様には数多くの嫌疑が掛けられている!」

「だってのに『言葉で』警告する。つくづく好きだなぁ、人間ってなぁ『対話』が」

 

「其処の旅の者たちも動くな! これより尋問を始める!」

 

 如何に強大な魔力があろうと如何に強力な魔法が扱えようと。

 人間社会に属する以上、フリーレンたちはこの言葉に逆らうすべを持たない。

 

「……貴様には我がグラナト伯爵領の人々を故意に殺めた疑いがかけられている」

「そうかい」

 

「身に覚えはあるな? 魔族」

「ないな」

 

「── 貴様ッ!」

 

 激昂する兵士が剣を抜き放つ。

 

 ゲルトルーネが本当のことを言おうが言うまいがこの状況は詰んでいる。

 嵌められたのだ。

 

 それが理解できているのはこの場ではゲルトルーネ本人とフリーレンのみ。

 

 ただ顔を見ようと思って足を運んだだけがとんだことになった。

 そんなことを何処か冷静に考えつつも、フリーレンは不規則な動悸も自覚する。

 

 胸が締め付けられるような焦燥感。

 喉が引き絞られ呼吸が浅く活発になる。

 

(そうか… 私は今、『不安』なんだ…!)

 

 そして気付く。

 

 

 

 

 

 否、『気付けない』ことに気付く。

 

 

 

 

「やめるんだ、ゲルトルーネ!」

 

 制止の言葉は間に合った。

 今度こそ。

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

 しかし…──

 

 

「悪いがその頼みは聞けないな、フリーレン」

 

 彼女を囲んでいた兵士たちの首が落ちる。

 

 頭部を失った身体の数々が、まるで糸の切れた人形のように次々と倒れ伏す。

 

 フェルンが息を呑む。

 シュタルクが赫怒の表情を浮かべ即座に怒鳴った。

 

 裂帛の気合とともに大きく踏み込み大斧を頭上より一閃した。

 

「なんでだよ! アンタ、人間は殺さないんじゃなかったのかよ!?」

 

 ゲルトルーネはその一撃を易易と回避した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけでもない。

 

 

 胸元から鮮血が噴き出る。

 回避が間に合わず浅からぬ手傷を負った。

 

 あと一瞬でも回避が遅れていれば脳天から真っ二つであっただろう。

 

「んだよ… その技アイゼンの仕込みか。熟達した戦士ってのは厄介だな、クソが」

「アイゼンは俺の師匠だ! それより答えろ!!」

 

「あん? 理由なんざ決まってんだろ? 殺されそうになったから殺し返しただけだ」

 

 それが自分のルールだ、とばかり胸を張る。

 噴き出る血が塵となり立ち昇る。

 

「だとしても! 言葉を尽くして話し合えば…」

 

「だから尋問にゃ応じてやっただろうが。あのまま殺されろって言う気かテメーは」

「ッ!」

 

「勘違いしてんじゃねーぞ、坊っちゃん。魔族と人間じゃ扱いちげーんだわ」

 

 人間のシュタルクならば勘違いで捕まっても即刻処刑とはならない可能性が高い。

 言葉を尽くせばあるいは冤罪を晴らす道もひらけたかも知れない。

 

 しかし、魔族は違う。人として当たり前の扱いすら存在しないのだ。

 しかも既に容疑が固められている魔族だ。

 

 あの場で兵士たちが剣を抜いたのが何よりの証拠だ。即時処刑寸前であった。

 少なくともゲルトルーネはそう考える。

 

 そして好んで人間を殺すつもりはないが馴れ合うつもりもない。

 

 勇者一行とはかつて契約関係を結んだがそれだけのこと。

 相手が殺すつもりでやってくるならばそれ相応に対処するだけのこと。

 

(とはいえ、まぁ… フリーレンたちがいたのは運が良かったのか悪かったのか…)

 

 止血を試みながら薄く笑って見せる。

 

 すると、二度三度と鋭い魔法が飛んでくる。

 無様に転がり回避する。

 

「『人を殺す魔法』か。ったく、クヴァールの爺さんの魔法は大人気だなぁオイ」

 

 ……意外にもシュタルクからの追撃はない。

 

「余裕のつもりか? 見逃してくれるなら大歓迎だ。さっさと消えな」

 

 しっしっと手を振ってみせるがそんな挑発にも乗らず、彼は呟いた。

 

「どういうことだよ、オイ…」

「あん?」

 

「──『弱すぎる』。今の師匠よりも遥かに… こんなんじゃ勇者一行だなんて…」

「……チッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信じられない?」

 

 先程から押し黙っていたフリーレンがその独白に続いた。

 

「……フリーレン」

「でもそれは仕方のないことだ」

 

「仕方ない?」

 

「あぁ。ゲルトルーネは人間を食べてないんだから」

「それは… 話の流れで分かってたけど…」

 

「ううん、シュタルクは分かってない。魔族が人を食べないということのその意味を」

「おい、引っ込んでろフリーレン」

 

「断る。これは先の惨劇を止められなかったおまえと私自身への罰でもある」

 

 魔族は何故人を食べるのか。

 それをフリーレンはゲルトルーネに尋ねたことがある。

 

『……おまえ、直球だなぁオイ』

 

『あなたになら変に遠回しに聞くよりは良いと思って』

 

『ハッ、分かってんじゃねぇか。といっても俺も実際のところは良く分からねぇ』

 

『でも推測くらいは立てられているはず。違う?』

 

『妙に俺の評価高くねーか? 俺ぁオメーの嫌いな魔族だぞ?』

 

『魔族は嫌い。あなたも嫌い。けど、魔王を殺す旅の間は仲間だから』

 

『……そーだな、ったくよ。……まず魔族は魔力に依存した生命ってのは分かるな?』

 

『うん』

 

『人間にも魔力はある。だからそれを食らって取り込む。以上! 多分な』

 

『……エルフは? 普通に食べられることなく全滅させられたけど』

 

『エルフはバケモノ多いから変に欲かくより殲滅優先したんじゃね? 知らんけど』

 

『……じゃあ人間を食べないと魔族はどうなる?』

 

『逆に聞くけどよ。人間やエルフが飯食わなかったらどうなるんだよ?』

 

『……例えば牛や豚の肉とか野菜とかパンや穀物とかは?』

 

『味は分かるんだけどなー… 多分栄養にゃなってねーなー、ありゃ』

 

『……そう』

 

『言っとくが俺の食事の面倒を見るのは契約の内だ。栄養にならないからナシはナシだぜ』

 

『……それは残念だ。お金が浮くと思ったのに』

 

『ハッ、残念だったなぁ? げひゃひゃひゃひゃ!』

 

『もう一つ聞いて良い?』

 

『あん? ……聞くだけならな』

 

『……どうして人間を食べなくなったの?』

 

『さて、な。……昔なんかあったんじゃねーの?』

 

『答えになってない』

 

『答えるとは言ってねーよ』

 

 いつかのくだらなくて楽しい旅の中での出来事。

 

「今日ここに訪ねに来たのは、だ。ゲルトルーネ」

「ん」

 

「何故おまえは人間を食べないのか、その謎を解明しようと思ってね」

「そうかい。答える気はねーって言ったハズだが?」

 

「だろうね。おまえはきっとそう言うだろうね。そういうヤツだ」

 

 人間は嫌いだが、魔族はもっと嫌い。

 

 話好きだけれど人を寄せ付けようとしない。

 それでいて人の文化を、生態を、心を理解しようと努めている。

 

 過去はついぞ明かされることはなかったがそれが全てだ。

 その生き様こそがゲルトルーネだ。

 

 それでいい。

 それがいい。

 

 それで充分だ。

 だから、フリーレンは杖を構える。

 

「あなたは人間を殺すだけ殺して食べようともしない、最低の魔族だ」

「ハッ! よく分かってんじゃねぇか、カスエルフがよ」

 

「シュタルクやフェルンではなく、私が、おまえを殺す。ゲルトルーネ」

 

 魔法を放つ直前、『意識を逸らす魔法』が発動する気配を感じる。

 

 他人に興味が持てなかったあの頃ならきっと見付けることは出来なかっただろう。

 けれど…

 

「……今度は見付けられたよ、ゲルトルーネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── 初めて出来た魔族の『友達』は、塵と消えた。

 

 最後に残された表情はいつも通りの皮肉げな笑みだった。

 そして『熱』のある、どこかこの世界から浮いた『瞳』が今も目に焼き付いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マジかー… 魔王様倒しちまったかー… まさか俺まで生き延びるとはなー…』

 

『そうだね。僕達もまさか魔族と協力して世界を救えるなんて思わなかったよ』

 

『おい、勘違いすんじゃねーぞ? オメーら』

 

『そうですよ、ヒンメル。魔族としてではなくゲルトルーネ個人の協力です』

 

『そうだな。そこは履き違えるなよ、ヒンメル、フリーレンも』

 

『分かってるよ。ゲルトルーネは結構なツンデレだってこと』

 

『ブチ殺すぞテメーら! ていうかそれじゃねぇよ! ……俺のことくっちゃべんなよ?』

 

『それなんだが、本当にいいのかい? 功績のことは君の魔法があれば人間として…』

 

『ハッ! 人間様のフリして魔族らしく窮屈に日陰に生きろってか? お断りだなぁ!』

 

『物好きですねぇ… ま、そういうことならありがたく貴女の名声も戴きましょう』

 

『生臭坊主が… 地獄に落ちるぞ…』

 

『なぁに、世界を救ったのですから天国行きは確定ですとも。贅沢三昧が待ってますよ』

 

『へいへい、おめでとさーん。それより、本題はこっからだ』

 

『というと?』

 

『……契約のこと、忘れてねーよな?』

 

『あ、あぁ。魔王を倒して世界を救った暁にはなんでも言うことを聞く約束だったね』

 

『よろしい。んじゃー… フリーレン!』

 

『私?』

 

『そうだ。誰に言うこと聞かせるかは指定してなかったろ? そも仲間なら連帯責任だ!』

 

『むぅ…』

 

『お、おいゲルトルーネ。あんまり無茶な願いなら僕が…』

 

『今後50年間は王都で暮らしな。……どうせフラフラ旅に出るつもりだったんだろ?』

 

『よくわかったね。ゲルトルーネも一緒にどう?』

 

『ハッ、お断りだ! ようやくテメーらの子守りから解放されて清々するぜ!』

 

『そうですね… 割りとまともに交渉役を担ってくれてましたしね』

 

『性懲りもなくミミックに喰われるバカエルフをいつも助けてたのはこやつだったな』

 

『というか意外と人当たり良いんだよね、ゲルトルーネ』

 

『ゲルトルーネはみんなのおかん』

 

『そーだよ! マジで子守りだったわ! ストレス果てしなかったわ!?』

 

『あ、あはは… どうどう。しかし、そんな約束をしても君には得が…』

 

『ハッ、魔王様がいなくなった以上は俺の天下だ。精々指くわえて眺めてるんだな』

 

『……まぁほんの50年でゲルトルーネが満足するなら』

 

『物分かりの良いお子様は好きだぜぇ、フリーレンさんよ』

 

『頭撫でないで。……『魔族を殺す魔法』撃つよ』

 

『ゾルトラークはやめろ!? 加減ってモンを知らねぇのかこのロリババアはよ!?』

 

『……ありがとう。君の好意に甘えさせてもらうよ、ゲルトルーネ』

 

『あん? なんのことだ? 俺ぁうるせー問題児どもを王都にまとめただけだぜ?』

 

『……俺は王都住みじゃないが?』

 

『まぁアイゼンは比較的マトモだからいいんだよ。……バケモノみてーな耐久性以外は』

 

 微妙に差別を滲ませながらも恩賞にこれっぽっちも興味を示さず彼女は北へ戻っていった。

 王都での輝かしいパレードに、ほんの少しの寂しさがあったことは否めない。

 

 そして、50年の約束をヒンメルに養われる形で怠惰に過ごして…

 

 きたるべき当然の流れとして別れの時は訪れたのだ。

 

 勇者の葬儀に王国中が泣いた。

 そして予想だにしなかったことだが、なんと自分も泣いたのだ。

 

 誰かを失って初めて。

 

 堰を切ったようにただただ泣き続けた。

 師匠のフランメの時ですら泣けなかったのに。

 

 50年という時間はあっという間で。

 伝えたいこと、やりたいことは幾らでもあったのに。

 

 でも、もう何も出来ないのだ。

 一緒に過ごせた時間だけがせめてもの慰めか。

 

 そんな時に滲む景色の向こうで黒いローブの姿が見えた気がした。

 

 駆け出す。

 周囲を見渡す。

 

 誰もいない。

 でも見間違いだとはとても思えなかった。

 

 彼女はきっと、『その時』王都に来てくれていたのだ。

 

(そうだ… 私は『あの時』から、きっとゲルトルーネを見失えなくなった…)

 

 だから会いたかった。

 

 会えたのに。

 

 あの時と同じで景色が滲んでよく見えない。

 

「フリーレン様…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、フリーレンの視界では止まない雨が降り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして日を置いて、グラナト伯爵領近郊にて。

 フリーレンは単身で七崩賢アウラと彼女が率いる不死の軍勢と対峙していた。

 

 目的はグラナト伯爵領への侵攻なのだろう。

 

 和平ムードに湧く領内で危険を察知し動けた者はそう多くない。

 そしてフェルンとシュタルクは街に入り込んだ魔族へ対処しなければならない。

 

 この場をフリーレンが受け持つのは必然と言えた。

 

 しかし、不死の軍勢を操るアウラの操作魔法を解除しながらの立ち回り。

 流石のフリーレンも劣勢を強いられていた。

 

「……久し振りだね、アウラ」

「そうねぇ。ざっと80年ぶりと言ったところかしら、フリーレン」

 

「オマケに随分と御機嫌だ」

「あら、わかる? そうね。目の上のたんこぶが片付いたのよ」

 

「………」

 

「それも二つもね」

「……ゲルトルーネのことはやはりおまえが?」

 

「あら、看取ってあげたのかしら? 流石、持つべき者は元仲間よねぇ」

「………」

 

「ちょっと和平を匂わせば面白いように『忠告』に乗ってくれたわ」

「危険な魔族としてゲルトルーネを密告し、自らの悪事の数々も擦り付けたわけか」

 

「フフ、人間って愚かよねぇ。それでみすみすくたばるゲルトルーネも同じくらい愚か」

「………」

 

「それよりそんなに魔力を浪費してて良いのかしら? というより何故解除魔法を?」

「魔法で誰彼構わずふっ飛ばして怒られたからね。ヒンメルとゲルトルーネに」

 

「……忌々しいやつ。ホント魔族の面汚しだわ。でも、だったらなおのこと解せないわね」

「なにが?」

 

「ヒンメルもゲルトルーネももういないじゃない」

 

 もともと表情を押し殺していたフリーレンの表情が更に固まる。

 凍えるような冷気と臓腑を鷲掴みにするような重圧すらをも滲ませて。

 

「そうか。良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなフリーレンの変化に気付かぬまま上機嫌のアウラは勝利を確信していた。

 

 しかし、勝ちを確信したからこそ零れ出た先の発言。

 それは最悪の失言となって皮肉にもアウラの運命を決定付ける結果となる。

 

「……やっぱりお前達魔族は化物だ。容赦なく殺せる」

 

 一切の容赦を捨てて、フリーレンは杖を構える。

 五百年生きた大魔族を相手に、千年以上研鑽を積んだ魔法使いが立ちはだかるのであった。





横たわるは時の流れ
過去の傷痕と未来の標(しるべ)

汝、その熱を忘れるなかれ

本作の続編にあたる短編を執筆するとした場合、読みたいものはありますか?

  • 特になし、不要(ここで終わってヨシ)
  • ゲルトルーネの過去(割りと鬱系かも)
  • ヒンメル一行との旅の道中でのエピソード集
  • ソリテール視点でゲルトルーネの異質さ解説
  • フリーレン一行に加わる生存IFルート

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