「……あれ?」
気づけば、どこかの駅にいた。小さな駅のプラットフォームだ。古びたベンチに、掠れて読めない駅名標。
プラットフォームの周りは、見渡す限りの水平線が広がっている。凪いだ水面は鏡のように空を映し、行ったことはないけど、ウユニ塩湖を思わせた。
とても静かで美しい……そして、寂しい場所だった。
おかしいな。なんでこんな所にいるんだろう? 今まで何をしてた?……思い出せない。
誰もいない。前を見ても後ろを見ても、ただ水平線が広がるばかりだ。
奇妙なくらいに心は静かだった。
どうしてここにいるのかも、ここが何処なのかもわからないのに。普通ならもっと、不安を感じたり焦ったりするものなんじゃあないのかな? そんな風に思うことすら、どこか他人事のように遠い。
ベンチに座って、ただ水平線を見つめる。駅みたいだし、そのうち列車が来るだろう。ここで待っていればいい。
「すまないね。君にも、あの子たちにも迷惑をかけた」
いつの間にか隣に座っていた青年が話しかけてきた。座っていても見上げるような上背、だけど威圧感はない。
感じるのは、優しさと誠実さだけだった。
落ち着いた優しい声で、青年は続ける。
「僕が完全にケリをつけてあげられたら良かった。みんなのためにも――彼のためにも」
青年の見つめた先にいたのは――肉塊、としか言いようのないなにかだった。何か声をあげているが、意味はわからない。
青年は、それを両手で抱え上げた。人間の頭ほどの大きさ――いや、それは人間の頭だった。彼はわずかな間祈るように目を閉じ、それを見つめた。
「地上に戻って、さらに罪を重ねてしまったね……、君は。ここへ来る列車に君の席はもうない。海の底で静かに終わるべきだったんだ。……本当にさようならだ、ディオ」
そう言うと、青年はプラットフォームからそれを、DIOを水面に手放した。水面に着く前に、DIOの首は突然噴き上がった黒い炎に飲まれて消えた。――音もなく。
その光景に、息を飲んだ。
消えた……あいつが。――
……ああ、思い出した。
そうだ、私は、私たちはDIOと戦っていた。
――私は、勝てなかった。
いつか誰かが必ずDIOの止まった時間にたどり着いてくれると確信していたけれど。
果たしてくれた誰かが現れたんだ。
あんなに手こずらされ、たくさんの人を苦しめたあいつが、やっと消えたのか。
あれほどの悪意を振りまいた末としては、静かすぎる終わりだと言えるかもしれない。でもーー、DIOを飲み込んだ黒い炎の先は、安らぎとはほど遠いところだろう。
今、自分がいる場所もこの世のどこかじゃない。つまりは……、そういう、こと……?
必ずまた会おうと言ったのに。きっとみんな怒るだろうな。でも、やれるだけの事はやったんだ。
その果てに辿り着いたのがここなら、そう悪くはないかもしれない。でもちょっと、いや、かなり悔しいな。……帰りたかった。
思っていたよりも、達成感だとかそういうものが湧いてこない。この不思議な美しさに満ちた場所だからなのかな?
それとも。
隣にいる青年の、痛惜が伝わってくるから?
水面を見つめていた視線がこちらを向いた。
「あなたは、誰? まさか……」
「孫たちと仲良くしてくれて嬉しいよ。――君が列車に乗るのは、まだ早い。戻るんだ」
風が吹き、鏡のようだった水面が騒めく。
青い瞳のその人は、あの人たちによく似ていた。