終わりよければすべて良しとか言う奴にはジャーマンスープレックス
江戸の騒乱から、
かぶき町にはいつも通りの、騒々しくも平和な日常が戻っていた。
それは、万事屋・坂田銀時も同じで──
「……え、ちょっと待って。……2年後? 2年後って何? 前回あんな綺麗に終わったのにいきなり
「至極明快……それは……私が……この2年間…体力の回復のため……暫し眠っていたからだ……」
「いや現在進行形でテレビでアニメ垂れ流したまま漫画とかポテトチップスとか菓子散らかしてGBAしながらだらけてる奴の台詞とは思えねーよ!! 昼過ぎまで寝てた夏休み中のガキの感覚か!? 何やってんだおめーは!!」
「後継を…育てている……この小さな筐体で…斯様なことができるとは……特にこの「げんせんこたい」とやら……素晴らしい……極限まで練り上げられた肉体の完成形……これほどの戦士を拝むのはそれこそ三百年振りか……」ゾクゾク
「ポケ●ンで武者震い感じられるってお前の三百年なんだったの!? それでいいの!?」
「よせ銀時! ──
「だからなんだよ!!」
ポテトチップスをつまみながらワンダースワンをしている桂を屋敷の柱に叩き込む。
「オメーは桂で合ってるけどなんかちげーんだよその台詞ゥゥ!! つかなんでテメーも呑気にゲームして2年後に順応してんだ! 揃いも揃ってSwitchどころか一世代前以前の懐古ゲームばっかやってんのもなんかムカつくし!! 修行パートでもねえのにたった1話で2年も時が経ってた
(つらいだろう 叫び出したいだろう ──"わかるよ")
(しかし時を巻いて戻す術はない)
「モノローグで語りかけてくんじゃねェェェ!!」
「おい、騒がしいぞ銀時。もう少し静かにできないのか」
するりと襖を開け、割烹着を着た朧が入ってくる。
盆にはオレンジジュースが入ったグラスが乗っており、さながら友達の家に遊びに行った時の友達の母親のようなムーヴだ。
え、何? おれがおかしいの? と銀時は頭を抱える。
「普通逆だろ! 2年間眠ってた
銀時の脳内は、もはや混乱からぐるぐるしている。
「もうやだよ俺前みたいに六股もフラグ乱立させてたら*2。裁判したら完全に
最近大手少年漫画のアニメや映画に出ずっぱりなのをいいことに、流れるように中の人ネタを言う銀時。
「落ち着け銀時、流石にそんなことはない。顔と名前が非常に似ている孫世代でもないし、同姓同名の転生した別人でもない。
「いや、一番聞きたくなかったタイプの報告ゥゥゥ!! 俺知らないんだけどその特大イベント!? まあでもゴリラは放っといても野生に帰るからどうでもいーわいつものことだから!」
「相変わらず、ああ言えばこう言うなお前は……。2年経とうが、サザエさん時空には変わりないのだ。諦めて受け入れろ」
「おい、兄弟子からサザエさん時空ってワードとか聞きたくなかったんだけど! 一番縁遠いワードだろお前とは」
「そうでもない。天照院奈落にいたときは、土日祝日は休みだったからな。日曜日のサザエさん症候群には、どの奈落も陥っていたものだ」
「あ、意外とそういうとこはホワイトなんだ奈落って……」
「……随分と……混乱しているようだな……では……私から……説明しよう」
フラッシュをしていないおつきみやまの中でしっかりレポートを書いた巌勝が、GBAを置いて、身なりを改めて正座をする。
「あ、喋り方に間の多いお前が長文説明するとクソ読みづらいから、地の文で頼むわ」
「…………」
「銀時ィィィ!! 師範も地味に気にしていることを言うな!! 次回作はおそらく師範もメインで出てくるがゆっくりした喋り方の割にセリフ量多いから映画2時間の枠で収まるかな?とか戦闘シーンとかモノローグとかのテンポ大丈夫かな?といった不安は製作委員会の演出や中の人の技術力でどうにかなるのだ! 余計なことを言うな!!」
「いや余計なこと言ってんのはテメーだよ!!」
「ったく……仕方のねえ奴らだ。これじゃあいつまで経っても話が進まねえ、俺から説明してやる」
「た、高杉!?」
いつの間にか縁側に座っていた高杉がゆっくりと振り返る。
冷血硬派高杉くんはギャグ適性がないとも言えないが、あるわけでもない。手鬼などの
「てか何? この空間カオスすぎるだろ。犯罪者の巣窟になってんだけど」
改めて──虚を巡る騒動から、二年。
江戸の街そしてかぶき町は、多くの者の助力によって驚くほどの速さで復旧を遂げ、かつての平和な喧騒を取り戻していた。
そしてその間、巌勝は消耗した体力を回復するため、深い眠りについていた。
とはいえ巌勝がターミナルで一度起きた時から、身体はすっかり
一方でこの二年間、世情も劇的に変化した。
何よりも大きく変わったのは幕府ひいては政府の体制──特に、
現将軍の謀殺・蹴落としすらも画策していた一橋喜喜だったが、虚による先の混乱の中、その傍若無人な態度は部下達の多くからも反感を抱かれていたため──彼はあっさりと見捨てられてしまっていた。
天人や奈落たちに用済みと殺されかけたそこを救ったのが、坂本辰馬率いる快援隊。辰馬の下で捕虜にされつつも──全てを失ったうつけ者すら守る辰馬の心意気に、喜喜は感化された。
喜喜は依然、貪欲な姿勢はそのままだが……それでも、前よりは随分とまともになったらしい。
現在は快援隊や見廻組助力のもと、幕府もとい地球外交として様々な星を飛び回っているのだとか。
現将軍の座といえば、虚による混乱の最中でも冷静かつ熱意を持って先陣を切り、江戸の民や多くの隊士を鼓舞した徳川茂茂は……周囲から圧倒的な支持もあり、将軍として戻ってほしいという声が多くあった。
だが──将軍だのという存在ではなく、民意こそがこの世を動かすべきだと。茂茂はあえて、その座を空けたままにしている。
傀儡でもお飾りの将軍でもなく──ただの徳川茂茂として。彼もまた、周囲からのサポートを得ながら、江戸の復旧や様々な政治的面で動いているのだという。
そしてこの国を長きに渡り裏側から支配していた天導衆そして天照院奈落は、虚の支配により事実上崩壊した。
虚本体と虚の因子が消えたことにより、天導衆や奈落たちは、未完成でお粗末な不老不死という呪いから解き放たれると同時に──虚の因子とともにその身は消滅した。
それは、天人で構成された犯罪組織集団の春雨軍も同じだ。
生き残った組織員はわずか。だが、独自に動いていた第七師団は無事だった。
師団長である神威はこれを機に、生き残った同胞たちを集め、独自の私兵集団ひいては宇宙海賊として活動することにしたらしい。
そもそも──暴発すると思われていたターミナルは、実のところ、虚は何も手を下していなかったらしい。
巌勝が心裡の内側で松陽と会話したように──虚は、巌勝を殺してから事を進めるつもりだったのかもしれない。
「なるほどな……。そうだな、なーんかそんな気がしてきたわ。うん。つか
ていうかさ、と銀時は桂と高杉を交互に見やる。
「
「当たり前だ。恒久的な平穏なんて存在しねェ。その時が来たら、いつでも──俺ァ、ただ壊すだけだ」
「そうだ。現政府が落ち着いたからと攘夷志士を辞める理由にはならん。ちょうどトップの席も空いていると聞いた。……つまり、今度は俺が将軍……いや、民意の総意として、
「いや何が民意!? 仮にそういう制度できたとしてもテロリストに国を任せられるわけねーだろ! 民主主義ナメんな!!」
銀時は、今度は巌勝と朧を見やる。
「巌勝はまあ元々ニートとして、奈落がなくなったてことは兄弟子様も無事ニートの仲間入りってことか」
「お前と一緒にするな。俺はこれまで磨いてきた身体能力を活かし、今は大江戸スーパーで働いている」
「いやスーパーで奈落の身体能力活かすとこある!? あと俺はニートじゃなくて自営業だから!!」
朧は、なるべく戦いから離れた生活をしたいらしい。そこで地元のスーパー店員として働き始めたのだが、生来の真面目さや培った身体能力により、目にも止まらぬ割引シールの貼りっぷりや品出し、棚卸しや
あと無愛想に見えて意外と親切なので、地域のおばちゃんや子どもからは人気が高いとかなんとか。
「私は……志村殿の道場で…剣の指導を手伝わせてもらう予定だ……ちょうど…指導者が足りぬとのことでな……あとは……
巌勝は、虚関連の情報収集で宇宙に上がったついでに、エイリアン討伐の報奨金として積み上げた路銀が多くある。それは、働く必要などないほどに蓄えられていた。
そもそも、人の理を外れた鬼の身に、明日を食いつなぐための労働など無用のもの。
これまでの四百年もそれからも。
巌勝はただ己の目的のために、その刃を研ぎ澄ますためだけに、他者との関わりをなるべく断ってきた。
──だが、今は違う。
鬼としての生ではなく、この世界で、「人」として息を吸うのなら。
日の当たる当たらないなども関係ない。
この国一番の侍を目指し、かつて切り捨ててきた「人との縁」を再び結び直すために。
醜態を晒しながらも生き永らえたこの命を使い、己のため、友のためにやってみようと思える景色と理想が、今の巌勝には少なからず存在していた。
「……そうかよ」
フ、と銀時が涼やかな笑みを浮かべる。
巌勝の表情はいつもと変わりない。それでも、なんとなく憑き物が落ちたような横顔に見えた。
「ま、お前らがいーんならそれでいーだろ。終わりよければ、すべて良しってな」
「──良いわけあるかぁぁぁ!!!」
突如襖を蹴り破って乱入してきた志村妙が、怒りの形相のまま銀時にジャーマンスープレックスをお見舞いした。
「何綺麗に終わらせようとしてるのかしら? ほとんど出番がなかった上に知らない間に私の卵焼きを持ち出して勝手に毒柱にされてラスボス対策にもされてて、もはや卵焼きの方が出番多かったまである私の立場は何かしら?」
「アネゴはまだ出番多かったアル! 私なんてボケも真面目シーンもほとんどなかったヨ! メガネ以下ヨ!」
「いやメガネ以下ってなんだよ! 僕の出番もさほどなかったからね言っとくけど!」
ガヤガヤと入ってきた新八たち。
特に、笑みを浮かべながらもとんでもない怒りの圧を漂わせる志村妙に、銀時は顔を引き攣らせる。
「いや、確かにそうだけどさ、あれ俺ほとんど関係ないからね? 食わせたのも食わされたのもこいつらで……」
銀時がそう言いながら振り返った瞬間、「散ッ!」という誰かの掛け声と共に、巌勝と松下村塾の面々は四方に散った。どこぞの第3班かのような抜群のコンビネーションであった。
「逃げるなアアア!! 責任から逃げるなアアア!!」
これには銀時もキレる。
「逃げるな卑怯者!! 逃げるなァ!!」
──何を言っているんだこの天パは。
脳味噌が頭に詰まっていないのか?
俺はお前から逃げているんじゃない! お妙殿から逃げているのだ!」
「オメーかいィィィ!!」
釣られてのこのこ出てきた桂に、お妙のジャーマンスープレックスが炸裂する。
「御用改である! ここに攘夷の桂と高杉が出入りしている通報があった!」
「お妙さん〜! やはりここにいましたか! 聞いてくださいよ、俺この2年間ゴリラと結婚させられそうになっ──
「オメーはさっさと野生に帰らんかいィィィ!!」
なんか突然真選組も割り込んできたり、どさくさに紛れてお妙に近寄ってきたゴリラにお妙が勢いのままジャーマンスープレックスを三度炸裂させたり、巌勝の屋敷の中は非常にカオスなことになってきていた。
「……ま、なんだ。お前の過去とか背負うもんとか知らねーし、どうでもいーけどよ」
いつの間にステージ復帰してこのカオス空間をのんびりと眺めている巌勝に、銀時が満身創痍ながらも近づいた。
「今はその六つの眼ひん剥いて、この町を見てろよ。──案外、悪くねーだろ? 恥晒して、泥啜ってでも生きてる人間の輝きってのはよ」
銀時が、耳をほじりながらぶっきらぼうに投げかけたその言葉。
それは、あの日深淵の底で巌勝に差し出した手と同じ。彼なりの肯定と励ましだった。
巌勝は、二つの目を閉じ──暴風域と化した外や居間の惨状を──静かに開けた六つの眼で、優しく見つめる。
宙を舞うマヨネーズ。
お妙の怪力で柱に埋まるゴリラ。それを止める新八。
どさくさに紛れて本気の喧嘩をし始める神楽と沖田。
どさくさに紛れてポテチの最後の一欠片を定春と奪い合う桂。
それらを「やれやれ」と割烹着の袖で受け流し、淡々と掃除を始める朧。
そして、屋根瓦で一人、我関せずとキセルを燻らす高杉。
かつての巌勝の人生にもなかった、あまりにもくだらなく、あまりにも騒がしい時間。
虚の因子が消えたとしても、鬼から都合よく人間に戻るなんてことはない。
継国巌勝は今後も、永劫、二度と陽の下を歩くことはない。
どれだけ善行を積もうと最後は地獄に行き、そして、終わることのない業火に焼かれ続けるだろう。
それでも。
「……ああ。……悪くない……」
陽だまりは、すぐそこにあった。
江戸の空は今日も。
どこまでも高く、青かった。
駆け足気味となりますが、これにて本編は終わります。
こんなに長く連載?長文を書いたことがなかったのですが、みなさんのここすき、感想、高評価などの励ましがあったからこそ続けることができました。本当にありがとうございます。
今後は番外編として原作やパロやらのギャグ回を書きたいなと思ってます。今考えてるのはこんな感じ…。
・原作アニメの「恋にマニュアルなんていらない」に兄上とかサブちゃんも入れる回
・「もしも義勇さんが(斎藤終とは別に)真選組の三番隊にいたら」
・原作アニメの銀さんの隠し子騒動のときみたく、幼少期の縁壱そっくりの子どもが兄上の屋敷の前に捨てられ?ており、兄上が発狂したり周囲から隠し子を疑われたりする話
・善逸「なんか朝起きたら【1位↓】って謎の表示が頭の上に出てるんだけど……」から始まる鬼滅での人気投票(第2回)パロ
師匠がどう思おうがこれらを書くかどうかは俺が決めることにするよ。
それではここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。