もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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3-4.ユウリとカービィ(後編)

 カービィにはなにが起きているのか、理解できていなかった。

 ユウリの対戦相手が、なにか難しいことを言っていて、そこに悪意は感じないけれど、ユウリがショックを受けていることだけはわかる。

 

 けれど、カービィはひとつだけ分かる。

 

 どうして、そんなにかなしそうなの?

 

 苦しんだ表情を浮かべて、ユウリは泣いて、その場で崩れ落ちた。

 だからカービィは、こう思った。

 

 ゆうりがつらそう。

 

 カービィは戦いのことなんて忘れて、ユウリの元へ駆け寄った。

 カービィは悩みがないヤツだから、きっとユウリの辛さをわかってあげられない。

 だから、カービィはこう考える。

 

 おいしいゴハンを食べよう。

 それからいっぱい昼寝をしよう。

 その後はたくさん遊ぼう。

 

 それからカービィは、小さく短い手をユウリの前につきだす。

 

「もう一人じゃないよ」ってそっと差し伸べた手が。 

 キレイなピンク色の手をしていた。

 吸い込まれそうな笑顔。

 

 そのピンクの戦士はたたかう。

 大切なトモダチの笑顔を取り戻すために。

 理由はあまりにも単純で、だから決して揺るがない。

 

 ────彼の名は、星の戦士カービィ。

 

 暗く濁っていたユウリの瞳に、少しずつ光が戻っていく。

 

 

 ★

 

 

 その瞬間、ユウリは思い出した。

 まるで走馬灯のように、記憶が浮かび上がる。

 

『あなたはなんていう名前のポケモンなの?』

『カービィ!!』

 

 ハロンタウンで、初めて出会った時のこと。

「プリンによく似たポケモンだ!」とあの時はそんな風な印象を抱いた。

 

『わたしのポケモンになってくれない?』

『ぽよ!』

 

 それから、そう、ダンデと試合をすることになって、あの時、カービィは自分のポケモンになってくれた。

 それが、たまらなく嬉しかった。

 

『うわぁ! また全部食べちゃっている! しかも作ったばっかりのカレールー!!』

『ぷやぁ?』

『もー、カレーはご飯とルーが一緒だからね! わかった?』

『はぁい!!』

 

 ワイルドエリアで過ごした夜のことが、すごく記憶に残っている。

 なぜか無性に心が温かくなって、ベッドにくるまった後はいつも空虚な気持ちになるけれど、その日はそうじゃなかった。

 

『こらっ、ラビフット! カービィをボールみたいに蹴らない! ……っていうか、なんでカービィ、手足が消えて、ボールみたいになっているの?』

『ぽよ!』

『ああ、さっきモンスターボールを吸い込んだから……?』

 

 ジムチャレンジに参加して、行ったことも見たこともない、いろんな場所を冒険した。

 その隣にはいつもカービィがいた。

 

 だから、ちっとも寂しくなかった。

 

『ねえ、カービィ。どうしてわたしのポケモンになってくれたの?』

『ぽよ……? うーい、とまと、かれー、ゆうり、ゆうり!』

『やっぱりわたしのトマトカレー目当て? もう……』

 

 カービィが一緒にいるとき、不思議と、空虚な気持ちが薄れる。

 

 きっとカービィと過ごす時間が、あまりにも楽しすぎたから。

 だから、ユウリはずっとカービィと一緒にいたいと思った。

 いつか別れが来るとしても、その時までずっと……。

 

 

 

 

 

 回想が途切れる。現実の風景が映し出される。

 ユウリの目の前にカービィがいる。

 

「……あ、なんでこんな簡単なこと、忘れていたんだろ」

 

 自分は空っぽで、だから何も手に入れられない?

 自分の冒険は、なにも意味がなかった?

 

 いったい、自分はなにを言っているんだ。

 これまでの冒険で、自分はなにを見てきたんだ?

 

 ユウリの心に、火がつく。

 

 カービィは、ちょこん、と短い手をユウリへ差し出している。

 体を起こしたユウリは、カービィの手を掴んだ。

 ぷよぷよした柔らかい感触。決して離すつもりはない、と固く握る。

 

 なにも意味がないなんて、そんなわけない。

 

 地面に転がっていたユウリは、起き上がる。

 ユウリの目は、もう濁ってはいなかった。

 

「カービィ」

「はぁい」

「初めてダンデさんと試合したときのことを覚えている? その時、わたしが君に何を言ったのか?」

 

 ユウリは確かめるように問いかける。

 しかしカービィは「ぷい?」と首をかしげる。

 

「わたしのポケモンになってほしい……そう言ったよね。君はわたしのポケモンだって」

 

 そこまで言い切ると、カービィはこくりと頷いた。

 

「……カービィ、お願いがあるの」

 

 これは、あの日の再演だ。

 自分はそう切り出して、カービィに頼み込んだ。

 

「────わたしのポケモンじゃなくなってほしい」

 

 カービィはきょとん、としたあと、珍しくちょっとびっくりしたような顔をする。

 ユウリは、初めてカービィの驚いた顔を目撃したので、慌てた。

 

「わっ、違うの! 別に嫌いとか、もう一緒にいてほしくない、とかそういう意味じゃないの!」

 

 それからユウリは必死に弁明する。

 

「つまりね、わたしたちはトレーナーとポケモンじゃないってこと」

 

 落ち着いたカービィは首をかしげた。たしかに訳がわからないだろう話だろう。

 

「その、単純に、それだけの関係であってほしくないというか……」

 

 ユウリはなんだか恥ずかしくなって、前髪をかき上げた。

 そして「あ、別にエースバーンやアーマーガアたちが大切じゃないって言っているわけじゃないから」と補足する。

 

「わたしにとって、カービィは大切な友達ってことなの!」

 

 そもそもカービィはプププランドという国の住人だから一応は人間……なはず。

 だからそういった意味でポケモンではないだろう。

 だがそういう意味とは別の話。

 

「他の人から見れば、すごく強いポケモン。けどね、わたしにとってそんなことはどうでもいいことだったの」

 

 一緒にいて楽しい。

 カービィは、そんな気持ちにさせてくれるのだ。

 

「だからカービィ、わたしの友達になって!」

 

 世界を何度も救った、無限の力を持つ伝説のヒーロー。

 星の戦士カービィ。

 きっと自分のような何もない人間は、光のようにまっすぐな彼とは不釣り合い。

 

 それでも、とユウリは思う。

 自分にとってカービィはかけがえのない存在だ。だからそんな関係を望むのだ────。

 

「ともだち、ともだち……」

 

 カービィは目を輝かせていた。それはもう、嬉しそうに。

 

「ゆうり、ともだち!」

 

 ぎゅっとユウリの手を掴んだカービィ。

 そのあと、ぴょんとジャンプして、ユウリの背中に乗る。

 ユウリは顔をほころばせた。

 

「ふふふふ……」

 

 先ほどまで黙っていたポプラが、くつくつと腹を抱えていた。

 ユウリは顔を青ざめる。

 

(あ、絶対怒っているよ……いきなり寝転んで試合放棄するし、さっきカービィと話していたせいでポプラさんを放置していたし……)

 

「あははははっ!!」

 

 まるであっぱれと言わんばかりに、ポプラは腹の底から笑っているようだった。

 

「え?」

「いやぁ、まさか、久しぶりに面白いものが見れたねえ」

 

 ポプラは満面の笑みを作って、こう告げた。

 

「白昼堂々、友達宣言! 青いねえ、いや濃密なまでのピンク色だ!」

 

 十分楽しませてもらった、と言わんばかりに。

 先ほどまでユウリを否定する言動を繰り出していたのに、この変わりようだ。

 

「こんな最高のピンク色のコンビは初めて見た!! アンタたち満点だよ!」

「……別に、満点でもゼロ点でもどっちでもいいですよ」

 

 ユウリの背中にしがみついていたカービィが、地面に降りて、コート内に踏み入る。

 そしてユウリは、ポプラをまっすぐ見据える。

 

「さて、チャレンジャー、立ち直ったところで、試合再開といこうじゃない」

「この試合、勝たせてもらいます」

「ふふ、立ち上がったはいいが……今のままだったら、さっきと同じ繰り返しだよ」

「そうですね……()()()()()()()()()()

 

 一旦停止していた試合が続行される。

 ポプラが命令を下し、トゲキッスが動き出した。

 

「トゲキッス、しんそくだよ!」

 

 ふたたび、加速しカービィに接近するトゲキッス。

 ユウリは決意を固めて、静かに目を閉じた。

 

 夢がない。

 自分は空虚。

 ポケモンバトルに依存している。

 正しくトレーナーとして成長できていない。

 

 ユウリが抱えるたくさんの問題は、いつかは向き合わなければならないのだろう。

 しかし、そんなことは後回しでいい。

 

 今は、ただ、カービィと一緒に試合を勝利する。

 それだけを考えればいい。

 なぜならそれが、ユウリのやるべきことだから。

 

 焦りと不安で集中を欠いていた思考が、鮮明になる。

 

 もう、迷わない。

 

 ユウリは、短く一言発した。

 

「カービィ、能力を捨てて」

 

 カービィは、ビームの能力を解除し、ノーマル状態へ戻った。

 

「トゲキッスに向かって、すいこみ!」

 

 口を開けたカービィは、すいこみを開始。

 ポプラはすぐに反応した。

 

「トゲキッス! 取り込まれないように気をつけな!」

 

 もちろん、ユウリの狙いは、トゲキッスをカービィに吸いこませる……などではない。

 吸いこみのバキューム。その引き寄せる強風によって、トゲキッスの翼から1枚の羽根が外れる。

 それがカービィの口に入る。

 カービィの姿が変わった。

 翼をはやし、羽の冠を被った、ウィングカービィへと変貌をとげた。

 

「反撃の時間だよ!」

「うい!」

 

 ユウリとポプラは同時に命令した。

 

「カービィ、飛翔して、近づく!」

「トゲキッス、反時計回りに旋回しつつ、距離を取る!」

 

 スタジアムの空中を、縦横無尽に動き回るトゲキッス。

 その背後から、翼をはためかせたウィングカービィが追跡する。

 

「フェザーガンで攻撃!」

「回避して、エアスラッシュだよ!」

 

 カービィは翼から羽の弾丸を撃ちまくる。

 トゲキッスはジグザグに移動したり、急速に方向転換したりして、相手の射線から外れようとする。

 だがマシンガンのように放たれた羽の弾丸を、すべてかわしきるのは難しい。

 トゲキッスは、数発被弾してしまう。

 ポプラは苦い表情を作る。

 

「ちっ、ころころとフォルムチェンジして、厄介だね」

 

 息もつかせぬ空中戦。

 ユウリはまばたき一つもせず、両者の動きを追う。

 

「トゲキッス、トライアタックだよ」

「カービィ、避けて」

 

 ウィングカービィは、華麗な空中で回転し、相手の三連撃をかわす。

 

「カービィ! コンドル頭突き!」

 

 そのまま勢いをつけて、トゲキッスに肉薄したカービィは頭突きをくらわせる。

 頭突きをくらったトゲキッスは、大ダメージを受け、地面に叩きつけられる。

 

 ポプラは感嘆したような声を出す。

 

「……なるほど一本取られたわ。これじゃあ、さっきまでの戦法が通じなくなってしまうわけかい」

「はい、気づくのが遅れちゃいました。能力を変えれば、簡単にポプラさんの戦法を崩せちゃうっことに」

 

 ポプラが仕掛けてきたカウンター主体の戦法。

 これには致命的な弱点がある。

 それはビームカービィのような地上で戦う能力に限り有効であるということだ。

 今のウィングカービィのように、トゲキッス以上の速度と機動力で空中戦が可能ならば、話は違う。

 ウィングカービィの機動力をもって、強制的に接近すれば、もはやトゲキッスはどうしようもない。

 だからユウリは、カービィに能力を捨てさせた。

 そうしてポプラのカウンター戦法を崩せる能力へチェンジさせたのである。

 そしてポプラが握っていた試合の主導権を、冷静になったユウリが掌握している。

 

 ────ねえ、カービィ、ありがとう。

 

 ユウリは、聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。

 

「カービィ、とどめだよ。トス!」

 

 トゲキッスはさっき受けた攻撃で身動きが取れない。

 そこへ容赦がなくカービィが迫る。

 

 ────わたしと、出会ってくれて、友達になってくれて。

 

 カービィが翼をはためかせて、風を作る。

 その風に、トゲキッスが巻き上げられて、空中に浮かぶ。

 

「つづけてシャトルループ!」

 

 翼を展開し、宙に飛び上がったカービィ。

 そのままくるりと一回転しながら勢いをつけて、トゲキッスに突撃する。

 トゲキッスはそのままコートに墜落して、戦闘不能となった。

 

 ポプラは憎たらしい口調でこう告げる。

 

「どうやら2流だったようだね。……あたしゃてっきり3流だと思っていたよ」

 

 それはまぎれもなくユウリへの賞賛の言葉だった。

 

 

 




ようやくポプラ戦おしまい。思ったより長くなってしまった。
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