もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

23 / 23
3-4.ユウリとカービィ(後編)

 カービィにはなにが起きているのか、理解できていなかった。

 ユウリの相手が、なにか難しいことを言っていて、そこに悪意は感じないけれど、ユウリがショックを受けていることだけはわかる。

 そのあとユウリが何かを叫んでいたが、カービィはやっぱりわからない。

 

 けれど、カービィはひとつだけ分かる。

 

 どうして、そんなにかなしそうなの?

 

 苦しんだ表情を浮かべて、ユウリは泣いて、その場で崩れ落ちた。

 だからカービィは、こう思った。

 

 ゆうりがつらそう。

 

 そしてカービィは戦いのことなんて忘れて、ユウリの元へ駆け寄った。

 カービィは悩みがないヤツだから、きっとユウリの辛さをわかってあげられない。

 だから、カービィはこう考えるのだ。

 

 おいしいゴハンを食べよう。

 それからいっぱい昼寝をしよう。

 その後はたくさん遊ぼう。

 

 ユウリは真っ黒な瞳でカービィを覗きこむ。

 だからカービィは、小さく短い手をユウリの前につきだす。

 

「もう一人じゃないよ」ってそっと差し伸べた手が。 

 キレイなピンク色の手をしていた。

 吸い込まれそうな笑顔。

 

 そのピンクの戦士はたたかう。

 大切なトモダチの笑顔を取り戻すために。

 理由はあまりにも単純で、だから決して揺るがない。

 

 ────彼の名は、星の戦士カービィ。

 

 暗く濁っていたユウリの瞳に、少しずつ光が戻っていく。

 

 

 ★

 

 

 その瞬間、ユウリは思い出した。

 まるで走馬灯のように、次々と浮かび上がる記憶。

 

『あなたはなんていう名前のポケモンなの?』

『カービィ!!』

 

 ハロンタウンで、初めて出会った時のこと。

「プリンによく似たポケモンだ!」とあの時はそんな風な印象を抱いた。

 

『わたしのポケモンになってくれない?』

『ぽよ!』

 

 それから、そう、ダンデと試合をすることになって、あの時、カービィは自分のポケモンになってくれた。

 それが、たまらなく嬉しかった。

 

『うわぁ! また全部食べちゃっている! しかも作ったばっかりのカレールー!!』

『ぷやぁ?』

『もー、カレーはご飯とルーが一緒だからね! わかった?』

『はぁい!!』

 

 ワイルドエリアで過ごした夜のことが、すごく記憶に残っている。

 なぜか無性に心が温かくなって、ベッドにくるまった後はいつも空虚な気持ちになるけれど、その日はそうじゃなかった。

 

『こらっ、ラビフット! カービィをボールみたいに蹴らない! ……っていうか、なんでカービィ、手足が消えて、ボールみたいになっているの?』

『ぽよ!』

『ああ、さっきモンスターボールを吸い込んだから……?』

 

 ジムチャレンジに参加して、行ったことも見たこともない、いろんな場所を冒険した。

 その隣にはいつもカービィがいた。

 

『いやー、たまには練習も一日休んで、ひなたぼっこもいいね』

『すやぁ……すやぁ……』

『……あ、もう寝てる。……トマトカレーできているよ!』

『……!! とまと、とまとかれー!!』

「あはは、起きた起きた」

 

 だから、ちっとも寂しくなかった。

 むしろまるで自分の心の奥に、その思い出が結晶みたいに残り続けている。

 

『ねえ、カービィ。どうしてわたしのポケモンになってくれたの?』

『ぽよ……? うーい、とまと、かれー、ゆうり、ゆうり!』

『あはは、やっぱりわたしのトマトカレー目当て? もう……』

 

 カービィが一緒にいるとき、不思議と、あの空虚な気持ちが薄れる。

 自分がこの世界で生きていないような、そんな感覚。

 もしそうなってしまっても、カービィがいると、なぜか自然と引き戻されるのだ。

 

 きっとカービィと過ごす時間が、あまりにも楽しすぎたから。

 だから、ユウリはずっとカービィと一緒にいたいと思った。

 いつか別れが来るとしても、その時までずっと……。

 

 

 

 

 

 回想が途切れる。現実の風景が映し出される。

 ユウリの目の前にカービィがいる。

 まるでいつものように、そこにいる。

 

「……あ、なんでこんな簡単なこと、忘れていたんだろ」

 

 自分は空っぽで、だから何も手に入れられない?

 自分の冒険は、なにも意味がなかった?

 

 いったい、自分はなにを言っているんだ。

 これまでの冒険で、自分はなにを見てきた? なにを感じた? なにを思った?

 

 どん底まで落ちていたユウリの心に、火がつく。

 

 カービィは、ちょこん、と短い手をユウリへ差し出している。

 体を起こしたユウリは、カービィの手を掴んだ。

 ぷよぷよした柔らかい感触。決して離すつもりはない、と固く握る。

 

 手に入れたものは確かにあった。

 なにも意味がないなんて、そんなわけない。

 

 地面に転がっていたユウリは、起き上がる。

 ユウリの目は、もう濁ってはいなかった。

 

「カービィ」

「はぁい」

「初めてダンデさんと試合したときのことを覚えている? その時、わたしが君に何を言ったのか?」

 

 ユウリは確かめるように問いかける。

 しかしカービィは「ぷい?」と首をかしげる。「覚えていないか……」とユウリは苦笑した。

 

「わたしのポケモンになってほしい……そう言ったよね。君はわたしのポケモンだって」

 

 そこまで言い切ると、カービィはこくりと頷いた。

 

「……カービィ、お願いがあるの」

 

 これは、あの日の再演だ。

 自分はそう切り出して、カービィに頼み込んだ。

 なら、今回も自然と、同じ前口上でこう言い放った。

 

「────わたしのポケモンじゃなくなってほしい」

 

 カービィはきょとん、としたあと、珍しくちょっとびっくりしたような顔をする。

 ユウリは、初めてカービィの驚いた顔を目撃したので、慌てた。

 

「わっ、違うの! 別に嫌いとか、もう一緒にいてほしくない、とかそういう意味じゃないの!」

 

 それからユウリは必死に弁明する。

 

「つまりね、わたしたちはトレーナーとポケモンじゃないってこと」

 

 落ち着いたカービィは首をかしげた。たしかに訳がわからないだろう話だろう。

 

「その、単純に、それだけの関係であってほしくないというか……」

 

 ユウリはなんだか恥ずかしくなって、前髪をかき上げた。

 そして「あ、別にエースバーンやアーマーガアたちが大切じゃないって言っているわけじゃないから」と補足する。

 

「わたしにとって、カービィは大切な友達ってことなの!」

 

 そもそもカービィはポケモンじゃない。

 異世界からやってきた生物。それもプププランドという国の住人だから一応は人間……なはず。

 だからそういった意味でポケモンではないだろう。

 だがそういう意味とは別の話。

 

「他の人から見れば、すごく強いポケモン。けどね、わたしにとってそんなことはどうでもいいことだったの」

 

 一緒にいて楽しい。

 カービィは、そんな気持ちにさせてくれるのだ。

 

「だからカービィ、わたしの友達になって!」

 

 世界を何度も救った、無限の力を持つ伝説のヒーロー。

 星の戦士カービィ。

 きっと自分のような何もない人間は、光のようにまっすぐな彼とは不釣り合い。

 

 それでも、とユウリは思う。

 自分にとってカービィはかけがえのない存在だ。だからそんな関係を望むのだ────。

 

 ユウリは、固くつかんだカービィの手を放す。

 それからもう一度、今度は自分からカービィへ手を指し伸ばす。

 

「ともだち、ともだち……」

 

 カービィは目を輝かせていた。それはもう、嬉しそうに。

 

「ゆうり、ともだち!」

 

 ぎゅっとユウリの手を掴んだカービィ。

 そのあと、ぴょんとジャンプして、ユウリの背中に乗る。

 ユウリは顔をほころばせた。

 

「……ありがとう、カービィ」

 

「ふふふふ……」

 

 先ほどまで黙っていたポプラが、くつくつと腹を抱えていた。

 ユウリは顔を青ざめる。

 

(あ、絶対怒っているよ……いきなり寝転んで試合放棄するし、さっきカービィと話していたせいでポプラさんを放置していたし……)

 

「あははははっ!!」

 

 まるであっぱれと言わんばかりに、ポプラは腹の底から笑っているようだった。

 

「え?」

「いやぁ、まさか、久しぶりに面白いものが見れたねえ」

 

 ポプラは満面の笑みを作って、こう告げた。

 

「白昼堂々、友達宣言! 青いねえ、いや濃密なまでのピンク色だ!」

 

 十分楽しませてもらった、と言わんばかりに。

 先ほどまでユウリを否定する言動を繰り出していたのに、この変わりようだ。

 

「こんな最高のピンク色のコンビは初めて見た!! アンタたち満点だよ!」

「……別に、満点でもゼロ点でもどっちでもいですよ」

「はははっ、連れないことをいうじゃないかい」

 

 さきほどまでユウリの背中にしがみついていたカービィが、地面に降りて、コート内に踏み入る。

 そしてユウリは、ポプラをまっすぐ見据える。

 

「さて、チャレンジャー、立ち直ったところで、試合再開といこうじゃない」

 

 ユウリの視線を受けて、ポプラは老婆と思えない好戦的な笑みを浮かべる。

 

「この試合、勝たせてもらいます」

「ふふ、立ち上がったはいいが……今のままだったら、さっきと同じ繰り返しだよ」

「そうですね……()()()()()()()()()()

 

 一旦停止していた試合が続行される。

 ポプラが命令を下し、トゲキッスが動き出した。

 

「トゲキッス、しんそくだよ!」

 

 ふたたび、加速しカービィに接近するトゲキッス。

 ユウリは決意を固めて、静かに目を閉じた。

 

 夢がない。

 自分は空虚。

 ポケモンバトルに依存している。

 正しくトレーナーとして成長できていない。

 

 ユウリが抱えるたくさんの問題は、いつかは向き合わなければならないのだろう。

 しかし、そんなことは後回しでいい。

 

 今は、ただ、カービィと一緒に試合を勝利する。

 それだけを考えればいい。

 なぜならそれが、ユウリのやるべきことだから。

 

 焦りと不安で集中を欠いていた思考が、鮮明になる。

 

 もう、迷わない。

 

 ユウリは、短く一言発した。

 

「カービィ、能力を捨てて」

 

 カービィは、ビームの能力を解除し、ノーマル状態へ戻る。

 続けてユウリは指示。

 

「トゲキッスに向かって、すいこみ!」

 

 口を開けたカービィは、すいこみを開始。

 

 ポプラはすぐに反応した。

 

「トゲキッス! 取り込まれないように気をつけな!」

 

 もちろん、ユウリの狙いは、トゲキッスをカービィに吸いこませる……などではない。

 吸いこみのバキューム。その引き寄せる強風によって、トゲキッスの翼から1枚の羽根が外れる。

 それがカービィの口に入る。

 カービィの姿が変わった。

 翼をはやし、羽の冠を被った、ウィングカービィへと変貌をとげた。

 

「反撃の時間だよ!」

「うい!」

 

 ユウリとポプラは同時に命令した。

 

「カービィ、飛翔して、近づく!」

「トゲキッス、反時計回りに旋回しつつ、距離を取る!」

 

 スタジアムの空中を、縦横無尽に動き回るトゲキッス。

 その背後から、翼をはためかせたウィングカービィが追跡する。

 

「フェザーガンで攻撃!」

「回避して、エアスラッシュだよ!」

 

 カービィは翼から羽の弾丸を撃ちまくる。

 トゲキッスはジグザグに移動したり、急速に方向転換したりして、相手の射線から外れようとする。

 だがマシンガンのように放たれた羽の弾丸を、すべてかわしきるのは難しい。

 トゲキッスは、数発被弾してしまう。

 ポプラは苦い表情を作る。

 

「ちっ、ころころとフォルムチェンジして、厄介だね」

 

 息もつかせぬ空中戦。

 ユウリはまばたき一つもせず、両者の動きを追う。

 

「トゲキッス、トライアタックだよ」

「カービィ、避けて」

 

 ウィングカービィは、華麗な空中で回転し、相手の三連撃をかわす。

 

「カービィ! コンドル頭突き!」

 

 そのまま勢いをつけて、トゲキッスに肉薄したカービィは頭突きをくらわせる。

 頭突きをくらったトゲキッスは、大ダメージを受け、地面に叩きつけられる。

 

 ポプラは感嘆したような声を出す。

 

「……なるほど一本取られたわ。これじゃあ、さっきまでの戦法が通じなくなってしまうわけかい」

「はい、気づくのが遅れちゃいました。能力を変えれば、簡単にポプラさんの戦法を崩せちゃうっことに」

 

 ポプラが仕掛けてきたカウンター主体の戦法。

 これには致命的な弱点がある。

 それはビームカービィのような地上で戦う能力に限り有効であるということだ。

 今のウィングカービィのように、トゲキッス以上の速度と機動力で空中戦が可能ならば、話は違う。

 ウィングカービィの機動力をもって、強制的に接近すれば、もはやトゲキッスはどうしようもない。

 だからユウリは、カービィに能力を捨てさせた。

 そしてポプラのカウンター戦法を崩せる能力へチェンジさせたのである。

 

 そしてポプラが握っていた試合の主導権を、冷静になったユウリが掌握している。

 試合の結果はもう決まっているようなものだった。

 

 ────ねえ、カービィ、ありがとう。

 

 ユウリは、聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。

 

「カービィ、とどめだよ。トス!」

 

 トゲキッスはさっき受けた攻撃で身動きが取れない。

 そこへ容赦がなくカービィが迫る。

 

 ────わたしと、出会ってくれて、友達になってくれて。

 

 カービィが翼をはためかせて、風を作る。

 その風に、トゲキッスが巻き上げられて、空中に浮かぶ。

 

「つづけてシャトルループ!」

 

 翼を展開し、宙に飛び上がったカービィ。

 そのままくるりと一回転しながら勢いをつけて、トゲキッスに突撃する。

 トゲキッスはそのままコートに墜落して、戦闘不能となった。

 

 ポプラは、トゲキッスをモンスターボールに戻して、こう告げた。

 

「どうやら2流だったようだね。……あたしゃてっきり3流だと思っていたよ」

 

 憎たらしい口調だったけれど、それはまぎれもなくユウリへの賞賛の言葉だった。

 

 

 




ようやくポプラ戦おしまい。思ったより長くなってしまった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

桃色の軌跡(作者:逆襲)(原作:ブルーアーカイブ)

カービィたちが、ひょんなことからキヴォトスへとやってきます。▼キヴォトスで起きる様々な現象。カービィたちは元の世界に戻れるのでしょうか。▼星のカービィ×ブルーアーカイブのクロスオーバー作品です。▼時系列として▼・カービィ側はWiiDx後(ディスカバリーやWiiDx後の番外編も含む)▼・ブルアカ側はアビドス編3章後(イベストなどの情報は時系列関係なく使用します…


総合評価:1638/評価:8.7/連載:76話/更新日時:2026年06月04日(木) 18:00 小説情報

星のカービィin呪術廻戦(作者:春風春嵐)(原作:呪術廻戦)

▼無限の力を持つ伝説のヒーローこと、ピンクの悪魔…こと星のカービィ。▼平和な日々を送っていたら、別世界に放り込まれていた!?呪術とか呪霊とかよくわからないけれど、おともだちになれば大丈夫だよね。▼我らが星のカービィが呪術廻戦の世界でてんやわんやする話。▼呪術廻戦再熱して最後まで読んだんですが、結構なにわかなのでどうかご容赦ください。


総合評価:1611/評価:8.88/連載:7話/更新日時:2026年03月29日(日) 01:52 小説情報

お嬢様のお気に入りのプリンが少し……いや、かなりおかしいんです!(作者:生牡蠣)(原作:ポケットモンスター)

お嬢様、何度も申し上げておりますがプリンはこんな皿のタワーを作ってしまう程大食いではありません。もっと言うなら息を吸っただけで巨大な岩石を飲み込みそうになったりしませんし、空を飛ぶことはできませんし、火や氷を吐いたりしませんし、剣やハンマーを持ったりしませんし、急に星型の乗り物を呼び出すことも致しません。▼お嬢様、失礼を承知で言わせていただきます。この生物は…


総合評価:1759/評価:8.33/短編:6話/更新日時:2026年03月07日(土) 23:00 小説情報

Spring Sky StarS!(作者:笹ピー)(原作:ブルーアーカイブ)

▼『――"先生"! "カービィ"さんがキヴォトスにやって来たみたいですよ!』▼ ※なお本人はいつもと変わらないスタイルの模様▼ ただひたすらカービィチャンと生徒達とキャッキャッウフフする話を書きたかった我が欲望をぶち込んだ作品。だいたいミレニアムの生徒が多く出る予定。▼ 主にゲーム開発部のメンバーと絡みます。特にアリ…


総合評価:3226/評価:8.88/連載:39話/更新日時:2026年05月24日(日) 18:11 小説情報

透き通る世界のフツーな少年と妖怪達(作者:nalnalnalnal)(原作:ブルーアーカイブ)

▼キヴォトスにやって来てしまったフツーな少年天野ケータ。▼フツーだけど心優しいケータはキヴォトスで何を成すのか。▼フツーだけどフツーじゃないケータの先生としての日常が始まる──


総合評価:1497/評価:8.98/連載:11話/更新日時:2026年05月31日(日) 21:40 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>