バイオハザード2での初登場から、 re4→デジェネレーション→インフィニットダークネス→ダムネーション→ナンバリング6→ヴェンデッタ→デスアイランド。
レオンの人生の軌跡に、クレア、エイダ、2人の女性がどう関わってきたかを書いてみました。
壮大な「Leon’s clonicle」です。

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レオンズ・クロニクル

①恐怖の夜をかけぬけて(バイオハザードRe2)

 

ラクーンシティに着いた夜の匂いを、今でも覚えている。

 

ガソリンと雨、そして焦げた煙の臭い。

初任務に胸を高鳴らせていた俺は、まさかその夜が地獄への入口になるとは思ってもいなかった。

 

あのとき、彼女がいなければ、たぶん、俺はどこかで心が折れていただろう。

 

初めて出会ったガソリンスタンドのキオスクの中。

銃を構えてドアを開けた俺の目の前に、彼女はいた。

 

「撃たないで!」

 

「伏せろ!」

 

ゾンビを倒した俺は、あらためて彼女に向き直った。

赤みがかった栗色のポニーテール。

空の色をした瞳。

張り詰めた表情をしていても、彼女は美しかった。

 

「レオン・S・ケネディ。警官だ」

 

「クレア・レッドフィールド。兄を探してるの」

 

ほんの数十秒のやり取り。

冷たい雨の中、冷えた体。

でも俺の中に小さな灯がともった。

 

誰かを守りたいという衝動。

今でも続く俺のそれは、警官としての義務ではなく、この時のもっと個人的な願いから来ていた。

 

警察署で再会したとき、彼女は疲れているはずなのに笑っていた。

 

「無事だったのね」

 

その一言。

その時、俺は彼女に「生き残るための意志」をもらったんだと思う。

 

クレアがまだどこかで戦っているなら、俺も止まれない。

そんな思いが、何度も俺を奮い立たせた。

 

…………

 

脱出した朝、崩壊した街を振り返ったとき、世界はもう以前のものではなかった。

 

俺はその後、終わりのない闇の中を彷徨うことになったが、この時の記憶が、今の俺の中の「人間らしさ」を繋ぎ止めている。

 

その後、任務を重ねる中で、何度も思い出した。

 

敵を撃ち、仲間を失い、心を闇に覆われるたびに、心のどこかで彼女のこの声を探していた。

 

「レオン、一緒にここを脱出しましょう。」

 

 

 

 

 

② 冷えた体(コードベロニカ)

 

ラクーンシティのアンブレラの研究所の中で、クレアが出会った少女 シェリー・バーキン。

 

俺たちは彼女を安全なところに預けるために、長い道を彼女 をなだめすかしながら歩き、被災した人間が一時的に集まる施設に身を寄せた。

 

服を着替えて腹が満たされると、シェリーは安心したように眠りについた。

その後、わずかに残った配給食料で食事をしていた 俺たちに、キャンプの職員であるアメリカ陸軍の兵士が話しかけてきた。

 

「とりあえず風呂に入って着替えてきてくれ。2人とも、下水の不潔な匂いがしてる。着替え はこれを使ってくれ。」

 

そのあと俺は、彼の口からとんでもない言葉を聞いた。

 

「もう お湯がほとんどない。悪いが一緒にシャワーを浴びてくれ。パートナーだったら大丈夫だろう?」

 

彼は俺たちを夫婦、もしくは恋人同士だと思ったらしい。

そう言えば、シェリーも同じことを言っていた。

 

まあ 他人目に見たら そうだろう。

若い男と女が、子供を連れて来たのだ。

 

「私は兄さんがいたから、気にならないわ」

 

いや、俺は気になるんだ。

 

と言ったところで背に腹は変えられない。

俺は大怪我をしている上に、極めて不衛生な状態なのだ。

改めてきちんとした手当を受ける前に、清潔にしてこいと言われるのは当然だ。

 

俺たちは2人で背中を向けあってシャワーを浴びた。

いたたまれないことこの上なかった。

兄がいるから慣れてる、平気、と言ったところでクレアも 女性だ。

知り合って間もない男と一緒にシャワーを浴びることに抵抗がないわけがない。

 

俺に至っては顔から火が出そうだった。

すぐ後ろに生まれたままの姿の彼女がいるのだ。心臓が口から飛び出そうになるのを抑え、くれぐれも粗相をしないようにと深呼吸をし続けた。

 

そのあと医務室で肩の傷の縫合を受けていたら、医師が真っ赤になったいた俺を心配して、解熱剤を処方してくれた。

 

その後 すぐに彼女は、シェリーをそのままここに預けて、兄を追ってヨーロッパに飛んだ。

 

俺は 呆然としている間すらなかった。

シェリーが G ウイルスに感染していたことが分かり、そんな彼女の保護と引き換えに、俺は政府のエージェントになることになり、早速、訓練に入っていた。

 

そんな中、クリスの行方をつかんだクレアから連絡をもらった俺は、なんとかクリスに連絡をとりそれを伝えることができた。

 

彼女のそばにいたい。

兄を助けたいというのであれば、どこまでも手助けしたい。

しかし、今の俺にはもうそれができなかった。

 

ここを出たら銃殺だ。

 

心の中で彼女と彼女の兄の安全を祈るしかなかった。

 

 

 

③ 不穏なる共闘 (バイオハザードRe4)

 

冷たい風が、崩れかけた村の石壁をなぶっていた。

 

俺はハンドガンを構え、スペインの寒村をゆっくりと通りを進む。

アシュリー・グラハムの情報を手に入れようと、潜入した家を捜索している最中だった。

その瞬間、背中に冷たい気配が走った。

殺気ではない。もっと厄介な、心を撫でるような感覚だ。

 

背後から襲いかかってきた赤い影を、俺はナイフを抜き、咄嗟の動作で頭上をなぎ払う。

体は反射で動いていたが、心が追いついていなかった。

 

飛び上がって俺と距離を置いた赤い影は、美貌を歪めて笑いかけた。

 

エイダ・ウォン。

 

崩れ落ちる研究所で、彼は確かに彼女を失った。

喪失感と共に、裏切られた怒りを胸に刻んだはずだった。

 

「……エイダか。何をしに来た」

 

俺の声は、感情を抑えつけたせいで低く、ざらついていた。

ハンドガンを構える腕の筋肉が、わずかに痙攣するのを感じた。

 

「死んだんじゃなかったのか?」

 

「あの程度で死んだと思ってたの? 失礼ね、レオン。」

 

皮肉めいた声。

その冷たい響きが、俺の苛立ちを逆撫でする。

 

彼女はあの頃と何も変わっていない。

 

「ここは危険よ。村人たちはもう人間じゃない。」

 

エイダは警告する。

俺は無言でアシュリーの手がかりを探し続ける。

 

「分かっているなら、あの子はもう諦めなさい。」

 

「エイダ。……何が目的だ。」

 

「私のすることは決まってる。仕事よ。……諦めるつもりがないなら、せいぜい生き延びて。」

 

それは嘲りのようにも、深い疲労のようにも聞こえた。

俺は再びアシュリーの手がかりを探すため、手を動かし始める。

 

エイダは笑みを一つ残し、窓の外へしなやかに飛び出していった。

 

残された俺は、自嘲するとその場に立ち尽くす。

 

『6年ぶりに会ってこれか……。』

 

身体が求める熱と、頭が命じる理性が、胸の中で激しく衝突していた。

 

……………

 

教会跡の扉を蹴破ると、冷えた風が吹き込んだ。

 

壊れたステンドグラスの欠片が月明かりに淡く光っている。

血と湿気と、わずかな香水の匂い。

 

俺はハンドガンを構え、声を潜めて周囲を探る。視線を感じる。

 

「……また会えたわね。」

 

声のした方へ振り向くと、月光を浴びたエイダが立っていた。

 

「任務中だ。邪魔をするな」

 

エイダの目の奥を見たが、相変わらず感情の読めない冷たさだった。

 

「私に銃を向けても、撃てないのね。」

 

エイダの言葉に、俺は沈黙で答えた。

なぜなら、トリガーにかけた指が動かなかったからだ。

 

敵として、ウェスカーの仲間として、今ここで彼女を処理するべきだと頭は理解している。

だが、俺の背骨を伝うかつての後悔と熱がそれを許さなかった。

 

俺は唇を噛み締めた。

沈黙。

トリガーにかけた指が、未だに動かない。

いくらでも撃てたはずなのに。

 

敵として。

ウェスカーの仲間として。

 

けれど、俺の中で、あの夜の記憶がまだ生きていた。

崩壊する研究所、伸ばした手をすり抜ける赤い影。

 

あの時、彼女の手をもう一度だけ掴めていたら…

 

「……俺をまた利用するつもりか。」

 

「それが私の得意分野よ? でも、今回はあなたに手を貸すわ。ウェスカー もあなたを殺せと命令してきたけれども、今回は見逃してあげる。だってあなたには借りがあるもの。」

 

俺はエイダを嘲るように見つめる。

 

「信じろって言うのか?」

 

「信じたいのは、あなたの方じゃない?」

 

短い挑発。

その一言に、呼吸が詰まる。

彼女の言葉は、いつだって核心を突いてくる。

そして、逃げ場を奪う。

 

俺はハンドガンを握りしめる。

手が震えていることを、気づかれないようにするのに必死だった。

 

「アシュリーを助けなさい。私の目的は別。」

 

「何を企んでる。」

 

「そのうちわかるわ。ハニー」

 

軽くウィンクして、エイダは柱の影へと消えた。足音は風のように静かだった。

 

俺はやっと銃を下ろし、天井の穴から見える月を見上げた。

長く、深い溜息を漏らす。

 

『まただ……。』

 

彼女が敵か味方かではない。

ただ一つ確かなのは、彼女の存在が、彼の理性を一瞬で砕くということだった。

 

……………

 

アシュリーと共に村から脱出を図る俺の前に再びエイダは現れた。

絶対絶命の俺を、フックショットと銃撃で救出する形で。

 

「エイダ、何をしに来た。利用されるのはもう沢山だ。」

 

俺は顔の筋肉を硬くして言った。

 

「それでも、助けられる方はは悪くないでしょう?」

 

その笑み。

嘘と真実の境界線を、平然と歩く女の顔。

 

「あなたって、本当に変わらないわね。任務中でも、迷いが見える。」

 

「迷ってるのは、そっちだろ。」

 

俺は鋭く言い返した。

 

「そうかしら?」

 

エイダは不敵に笑う。

 

「なぜ俺を殺さない。」

 

エイダは視線を逸らした。

一瞬、月明かりが彼女の頬を照らし、俺は思わず息を呑んだ。

 

「またすぐ会うわ、レオン。」

 

そう言い残し、キスを投げると共に、エイダは上空の通路へとフックショットで消えた。

ワイヤーの音が、静寂の中に溶ける。

 

残された俺は、冷えた空気の中で、彼女が消えた上空をしばらく見つめていた。

 

『やっぱりお前は嵐だな。

いきなり来て、俺を壊して消えていく。』

 

彼の胸の中、理性と情が交錯する場所で、戦火はなお燃えていた。

 

 

 

④ 最高の戦友(ディジェネレーション)

 

スペインの寒村で、赤い羽ばたきに何度も振り回された俺が、アメリカのハーバードヴィル空港の中で、あの赤い髪を見つけた瞬間、息が止まった。

 

クレア

 

7年の年月が経っていたのに、俺の中では、彼女の記憶は少しも色あせていなかった。

 

数ヶ月前のスペインで、嵐に心を荒らされたばかりの俺にとって、クレアの姿は、傷ついた魂を癒す静かな錨のように感じられた。

 

再会の舞台が、またしてもウィルスの惨劇の中心だなんて皮肉な話だ。

アンブレラ崩壊後、事態は悪化する一方だ。

 

ラクーンシティを逃れたとき、俺たちは同じ約束をした。

 

『もう二度と、あんな地獄を繰り返さない』

 

だが現実は、何一つ変わっていなかった。

いや、むしろ巧妙になった。

 

腐敗した権力、利益のために生命を弄ぶ連中、そして、罪のない人々の犠牲。

 

バイオテロに巻き込まれたハザードの現場、空港の混乱の中で、彼女はまた立っていた。

誰かを守るために。

 

テラセイブの名札のついた白い上着、変わらず彼女の好きな赤色のシャツ。

 

アンジェラ・ミラーの兄であるカーティス・ミラーの無実を信じ、証拠を掴もうと懸命に働く姿は、記憶の中の感情に駆られる少女ではなく、一人の信念を持つ大人の女性だった。

 

子どもを背にかばう姿、グレッグ・グレンの非道に怒りを滲ませる表情。

 

あの眼差しは変わりがなかった。

曇りひとつない空の色。

 

そのことが、嬉しくもあり、彼女を巻き込んでいるこの現実に、少しだけ悲しくもあった。

 

俺は政府の直属エージェントとして、大統領の命令に従う側の人間になっていた。

任務は秘密裏に、そして時に非情に遂行される。

 

彼女は民間のNGO職員として、人権と生命を守るという正義を選んだ。

 

同じ正義を信じていながら、歩く道はすでに違っていた。

 

その差は、ラクーンシティでの純粋だった俺たちを、もはや戻れない場所へ引き離していた。

それが、今の俺たちの立場だった。

 

それでも確かに、ラクーンシティで別れた俺たちの時間が、再び動き出したのを俺は感じていた。

 

武器の無い彼女に銃を投げると、クレアは一般人とは思えない身のこなしで、それを掴み周囲のゾンビを殲滅する。

 

NGO団体の職員になってなお、戦闘訓練を受けた俺の足手まといにならない、いや、最高のパートナーとして戦える彼女。

 

あのラクーンシティの悪夢の夜の再来だが、俺の心は強く力づけられた。

 

………………

 

任務を終え、別れ際のヘリに乗り込む直前。

 

「また会えるかい?その…今度はもっと、普通の場所で……」

 

俺が求めている『再会』は、平和な世界の中での再会。

コーヒーを乗せたテーブルを挟んで、過去の惨劇とは無関係な話をする再会だ。

 

だが、俺が生きているのは、血生臭い世界。

汚れた銃と血の記憶に囲まれた世界だ。

 

つい数ヶ月前、スペインの寒村でエイダの残した熱い残響が、まだ体の中に燻っている。

そんな汚れた俺が、彼女のような人間に、また、なんて言える資格があるのか。

 

クレアは、静かに微笑んだ。

 

「そうね」

 

その短い言葉に、彼女の優しさが詰まっていた気がした。

 

ヘリが上昇し、彼女と離れたあと、俺は窓から彼女を見つめ続けた。

 

地上で、アンジェラと和やかに会話を交わしているクレア。

大方、自分にも兄がいる、などの話だろう。

彼女は、自分の信じた道を進んでいる。

俺もまた、クレアのいる世界を壊させないために、違う場所で同じ正義を追っている。

 

俺の心の奥底に、嵐の後に訪れる静寂が広がっていくのを感じた。

この静けさこそが、次に彼女に会うまで、俺を正気に繋ぎ止める命綱だった。

 

 

 

 

 

⑤ 蘇るあのぬくもり

 

クレアとは思ったより早く会えた。

 

ワシントンのホワイトハウスで、仕事中の俺のスマートフォンが振動すると同時に、画面に彼女の名前が浮かび上がった。

 

信じられない気分だった。

俺はあまり期待しないようにしていたからだ。

 

震える手で電話に出た俺に、クレアは変わらずあの、明るくて優しい声で話しかけた。

 

「レオン、今日時間ある?実は今 ワシントンに来てるの。明日にはニューヨークに戻らなきゃいけないから、ディナーだけでも?と思って。」

 

俺はまだ、片付けなければいけない仕事がたくさんあった。

だがそんなものは頭から吹き飛んだ。

 

頭の中で、明日に回す仕事を選び、急遽、片付ける 仕事を選び、同僚に押し付ける仕事を選び、なんとか夕方に出かける時間を確保できると判断した俺は、クレアと一緒にワシントン 1のピザレストランに行く約束をして電話を切った。

 

タキシードを着て行くような 洒落た店に彼女を連れて行くほど、俺は野暮じゃない。

 

仕事が終わってスーツの上着を脱ぎ捨てると、上から革ジャンを羽織ってバイクにまたがり、クレアの滞在しているホテルに向かう。

 

ホテルのロビーで待っていてくれた彼女は、相変わらず美しかった。

いつものように細いジーンズとレザーブーツ。

クリスからのプレゼントの赤い革ジャン。

 

前から気になっている、襟元のターコイズのネックレスは、もしかして ボーイフレンド(恋人)の贈り物だろうか?

 

そういえば 彼女がフリーかどうかは、聞いたことはなかった。

彼女にとって俺はなんなのか?

 

たくさんいるだろう 男友達の一人なのか?

それとも……

 

考えても仕方がない。

俺には彼女にそれを尋ねる資格も、そして当然、必要もないからだ。

 

彼女をバイクの後部座席に乗せると、俺はワシントンの街を駆け抜けピザレストランを目指す。

 

後部座席から俺につかまる彼女の手や体の、意外な柔らかさに驚かされた。

この柔らかい手と細い体で、彼女は銃はおろかロケットランチャー まで扱う。

 

今更ながら、彼女が正義感を持った 意外性の塊だということを思い知らされた。

 

………………

 

俺のお気に入りのピザ レストランは、もちろん ピサが美味いだけじゃない。

 

カジュアルな雰囲気ではあるが、ピザレストランらしからぬ値段設定なことがあり、騒々しい若者や、マナーの悪い客が少ない。

 

ロマンティックとまではいかないが、やや光の落ちた店内では、リラックスして静かに話せる雰囲気が漂っている。

 

いい大人になった俺たちには、それなりの場所が必要だ。

 

食欲が満たされ、ビールやワインが進んでいくうちに、会えずにいた7年間に何があったか 語り合った。

政府のエージェントとして話せないことが多い俺と違い、クレアは今までのテラセイブでの活動や、クリスを探しに南極まで行ったことを話してくれた。

 

そして救えなかった命。

スティーブという少年。

彼は最後に、クレアに愛を伝えて死んでいったそうた。

 

涙ぐみながら彼のことを話してくれたクレアに、俺は胸がチクリと痛んだ。

 

俺の彼女に対する気持ちは正直わからない。

だが、それが何であろうとも俺は、スティーブのように彼女を泣かせる資格はない。

 

俺はもう、人に愛されることは無い闇の世界の人間なのだ。

 

「レオン?」

 

クレアが心配そうに 俺の顔を覗き込む。

俺の気持ちが顔に出ていたようだ。

どんな時でもポーカーフェイスを保つように、徹底的に教官にしごかれたはずだが、まだまだ甘いらしい。

 

俺はクレジットカードを取り出すと、クレアをホテルに送るために店を出た。

 

バイクでワシントンの街を走りながらクレアが言う。

 

「しばらく ワシントンには来れないかもしれない。いやもう来れないかもしれない」

 

俺は息が止まった。

もう、ここには来れない……俺の住む、この街に……。

 

「ペナ厶スタンに行くの。紛争の真っ只中だけど、あちこちに 難民キャンプができて、子供たちが私を待ってる。命が危ないと止められたけど、私は行くわ」

 

クレアは変わっていなかった。

一人でも多くの命を救うために、世界でも有数の 危険地帯に飛び込もうとしている。

 

二度と会えないかもしれない、という意味がわかった。

俺の胸が激しく痛む。

ポーカーフェイスが保てているか心配になった。

 

ホテルのロビーで俺は、いつもの自虐的なジョークで二度と会えないかもしれない彼女を送り出そうとした。

 

「気をつけて行ってきてくれよ。傷だらけになった君の体を想像すると、俺は冷静でいられなくなる」

 

やや、きわどかったかもしれない。

 

『なに想像してるのよ、このスケベ!』

 

と彼女が呆れて返してくれることを待っていた。

だが意外なことに、彼女はふと笑うと

 

「あなたの体も傷だらけよね。ラクーンシティで、彼女を庇って撃たれたもの」

 

ピクリと体が揺れた。

 

エイダはラクーンシティで、ほんのごくわずかな時間なのに俺の心を鷲掴みにした。

そしてシェリーをかばって戦い続けるクレアに対して、俺は彼女に協力することばかり考えていた。

 

彫刻のような体を覆う、露出の多いドレス。

産業スパイだと分かれば納得がいく。

自分が美しいことを、極限まで利用しようとする女。

 

あの時の俺みたいな青二才は、さぞかし利用しやすかったろう。

キス1つ恵んでやっただけで、喜んで命を差し出す。

 

そのことをクレアが口にしたと思えば、俺は凄まじい羞恥心と罪悪感に襲われた。

 

「すまなかった……」

 

俺は やはりあの時の 青二才と変わってなかった。

一番ジョークで逃げないといけない時に、逃げることができず、謝ることしかできない。

 

「…ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの。ただすごく痛そうだったから、ラクーンシティの避難施設で一緒にシャワーを浴びた時、えぐれたひどい傷が見えた」

 

俺はあの時、彼女と一緒にシャワーを浴びたことを思い出して、心臓が波打った。

 

「ああ、まあ、 見た目より痛かったよ。」

 

俺とクレア、2人でクスクスと 笑う。

 

「今でも傷になって残ってる。見るかい?あの時みたいに一緒にシャワーを浴びて」

 

なんでそんなことを口にしたのかわからない。

 

多分、いい加減、彼女の前にいるのが気まずくなったんだろう。

呆れた彼女の顔に見送られながら ロビーを後にしたいと思ったんだ。

 

だが彼女から戻ってきたのは呆れ顔ではなかった。

 

「じゃあ そうしようか……。部屋まで来て」

 

……………………

 

信じられない気持ちだった。

クレアに、こんな形で部屋に誘われるなんて。

 

「じゃあ、そうしようか……。部屋まで来て」

 

彼女の声は静かで、どこか懐かしい。

ラクーンシティのガソリンスタンドで初めて聞いた、あの強いのに優しい響きだ。

 

俺の胸が締め付けられる。エージェントの掟で心を閉ざしてきたのに、彼女の言葉はそれを一瞬で砕く。

 

ホテルの部屋に入ると、クレアはシャワーの蛇口をひねった。

湯気が立ち上り、部屋を柔らかく包む。

 

彼女は軽く微笑んで言った。

 

「ラクーンシティの避難所、覚えてる? 背中合わせでシャワーを浴びたよね」

 

「ああ……気まずかったな」

 

俺は苦笑する。

あの夜、傷だらけの体を清潔にするため、背中を向け合った。

 

「今は、気まずくないよね?不思議。」

 

クレアの声に、冗談めいた軽さが混じった。

彼女の空色の瞳が俺を見つめる。

 

「ああ俺も、今は……ここに一緒にいることが普通に感じるんだ」

 

シャワーの水音が響く中、かつて背中合わせだった俺たちは、初めてお互いを向き合った。

 

彼女の赤みがかった髪が濡れて頬に張り付き、瞳が街灯の光を映す。

ラクーンシティで初めて会った夜の、あの目だ。

警察の庭で金網越しに再会した時。

あの時の彼女は今と同じで水滴にぬれて輝くように美しかった。

 

俺はそっと彼女の髪をかき上げる。

彼女の手が俺の方に触れた。

 

心が冷える過酷な任務も、殺伐とした俺のエージェントとしての世界も、この瞬間だけは消える。

 

抱き合うと彼女の腕の細さに驚いた。

彼女が俺の肩の銃創をいたわるように撫でる。

それだけで俺の心が震えた。

 

ペナ厶スタンでの危険が、頭をよぎる。

 

「クレア……行くな」

 

言葉が勝手に零れた。

俺のその言葉に、彼女の瞳が揺れる。

そっと俺の頬に手を当て、彼女は言った。

 

「レオン、私は行かなきゃ。子供たちが待ってるの」

 

その声は、彼女の決意の表れだった。

 

ラクーンシティでシェリーを守ったあの時と、変わらない強さと優しさ。

俺は胸が締め付けられた。

 

「でも、帰ってくる。約束する」

 

彼女の言葉に、俺は目を閉じる。

そうして俺は自分の額を彼女の額に寄せた。

 

湯の滴が肩や背中をつたう。

クレアが横にいるだけで、俺の胸の奥が小さくざわめくようだ。

 

距離はわずか数十センチ。

 

肩越しに流れる水の音、足元に跳ねる滴の音、クレアのわずかな息づかい……

そのすべてが俺の胸の鼓動を速めた。

冷え切った体が徐々に熱を取り戻す。

 

「……温かいな」

 

思わず漏れた声が、低く、震えを帯びていることに気づく。

クレアは軽く微笑んで、何も言わず湯を手で受け止めた。

 

シャワーを出て、俺たちは部屋のソファに腰掛けた。

 

濡れた髪のクレアが、俺の隣で小さく笑う。

 

「また会えるよな? 」

 

「ええ、約束よ」

 

俺は彼女の手を握る。

ワシントンの夜が窓の外で静かに流れる。

 

彼女の温もりが、ただ俺の心に刻まれていった。

 

[newpage]

 

⑤ 運命の交差点(インフィニット ダークネス)

 

今日の俺の表情は、その似合わない青いスーツと同じように硬く引き締まって見えた。

ホワイトハウスでの任務に呼ばれること、かなり神経を張り詰める。

 

一瞬、廊下の先に赤い影を見た。

 

作戦会議室に向かう途中、大理石のロビー。

民間人や報道関係者が行き交うその場所で、俺は思わず足を止める。

 

クレア!

 

細いジーンズとブーツ。

ラフなスタイルに、テラセイブのロゴが入ったジャケット。

そして彼女の腕には、使い古されたスケッチブックが抱えられている。

 

俺は、近くにいる同僚のエージェント、パトリックに気づかれないよう、顔の筋肉を硬く保った。

 

しかし、心臓は勝手な鼓動を刻み始めていた。

 

『クレア……』

 

鼓動が、全身の血を一気に沸騰させた。

 

彼女にシャワーの中に誘われた夜、俺は7年ぶりに神の慈悲にすがった。

21歳のラクーンシティの夜から、俺は訓練と任務の中に自分を沈め、祈りも自分への許しも忘れていた。

 

けれど、あの蒸気の中で彼女が微笑んだとき、ほんの一瞬だけ祈った。

彼女の無事を。

神などもう信じていないはずだったのに。

 

そして今、ホワイトハウスのロビーで再び彼女に出会う。

生きて帰ってきた。

その事実だけで、俺は神に頭を垂れた。

 

ペナ厶スタン。あの紛争地帯。

クレアがそこから無事に帰り、俺の目の前に立っている。

 

その瞬間、俺の意識から任務も、ホワイトハウスの緊張感も消え失せた。

俺は無意識に右手の指先を、あの日、シャワーのお湯の中でクレアと触れた掌の感触を確かめるように動かした。

 

神よ。感謝する。

 

俺の心の中は、理性では制御できないほどの歓喜と安堵で満たされた。

まるで、地獄の底で一輪の花を見つけたような、純粋で、眩しい幸福感だった。

 

彼女がこちらに気づき、空色の瞳を細めて微笑む。

 

「レオン!」

 

クレアの声は変わらず、明るい光を帯びていた。その声が、張り詰めていた俺の緊張を、一瞬にして緩める。

 

俺は、思わず口元が緩みかけるのを、寸前で止めた。

俺は周囲に同僚たちがいることを思い出し、プロのエージェントとしての冷たい仮面を無理やり装着する。

 

俺は素早く周囲を確認してから、感情を隠すため、努めて冷静に口を開いた。

 

「クレア。久しぶりだな。こんなところで会うとはな。」

 

業務上の挨拶を装いながら、俺は一歩彼女に近づいた。

その足取りは、冷静さを装いつつも、彼女のそばにいたいという本能に導かれていた。

 

俺の視線は、クレアが抱えるスケッチブックに釘付けになる。

表紙は擦り切れ、何度も開かれた形跡があった。

 

「ペナムスタンから帰ったばかりよ。この後、ペナ厶スタン難民支援でね、ある議員と会う約束があるの。そうだ…」

 

クレアが持っていたスケッチブックを少し開くと、俺の目に、ざらついたクレヨンで描かれた異様な光景が飛び込んできた。

 

それは、人間が怪物に襲われる、ラクーンシティを彷彿とさせる絵だった。

 

俺の心は一瞬にして冷え切った。。

 

「クレア。これは……」

 

俺は周囲に聞こえないよう、声のトーンを下げた。

 

「そう、 これを見て欲しかったの。これはね、向こうで出会った少年が描いた絵。周りは内戦の絵だって言うんだけど……どう見てもゾンビよ。ただの絵じゃない気がするの。」

 

その時 ジェイソンの声がした。

 

「ケネディ、 急げ」

 

ジェーソン とパトリックが 怪訝そうな顔をして俺を待っている。

 

「君の探求心には敬意を払うが、いいか、これ以上、危ないことをするなよ。」

 

俺は短く言うと、彼女の言葉を待たずに立ち去った。

俺は同僚のパトリックに、「すまない、急用だ」とだけ告げ、一刻も早くクレアに接触する機会を探ろうと、頭を高速回転させ始めた。

 

『あのスケッチブックは、間違いなく厄介事だ。しかもペナ厶スタン。今から向かう場所だ……』

 

今から作戦会議 だ。

俺はせっかくクレアに会えたのに、話すチャンスにも恵まれないだろう。

そんな、自分に苛立ちを感じた。

 

 

…………………

 

 

大統領補佐官ウィルソンの陰謀をシュンメイから聞きつけた俺は、ホワイトハウスの地下施設へと潜入した。

 

そこではジェイソンが自らウィルスの影響を受け入れ、巨大なクリーチャーへと変貌していた。

人間の正義も、国家の理想も、すべて偽善だと叫びながら。

 

施設全体が警報音と赤いライトに包まれ、冷たい鉄骨と蒸気が渦巻く中、俺はジェイソンと最後の戦いを繰り広げる。

 

銃弾が金属に弾け、血と薬品の匂いが混ざる空間。

 

「レオンー!!」

 

その時、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

自分で地上の研究区画で真実を追っていたクレアは、ここでウィルソンの部下に捕らわれていたのだ。

 

やはりクレア・レッドフィールドには俺の忠告は届かなかったらしい。

 

彼女を24時間見守れたらどんなにいいか。

 

彼女専属のエージェントになれれば、こんな心配もないのに。

いやずっと、俺の一部にして俺の中に閉じ込めておけたら、こんなことにはならないのに。

 

 

施設のシステムが暴走して崩壊が始まった中、今にも酸の海に沈みそうになっているクレアに向かって俺は走った。

 

「クレア!待ってろ、今行く!」

 

炎と崩壊する構造物の中、俺はクレアの元へ辿り着き、手を差し伸べる。

 

ラクーンシティ以来、幾度も生死を共にしてきた。

今度も必ず、2人で生きて帰るんだ。

 

レオンは間一髪でクレアの腕を引き上げた。

 

安堵する暇はなかったが、俺はまた心の中で神に感謝した。

 

……………………

 

事件の後、ウィルソンの悪事の一部は闇に葬られ、ジェイソンの存在も「公式記録」から消された。

 

一方、クレアは民間NGOの立場で、この事件を告発しようとしていた。

彼女の中では、犠牲者たちのためにも「真実を明るみに出すこと」が唯一の正義なのだろう。

 

ホワイトハウスの門の前で、俺たち2人は静かに対峙した。

 

「データチップを渡して」

 

「……できない」

 

クレアの瞳にも、俺の顔にも、何の感情も浮かんでいなかった。

 

お互いが、こうなることがわかっていた上で、確認するために来たようなものだったからだ。

 

互いに譲れない正義が、俺たち2人を静かに引き裂いていく。

 

クレアは俺に静かに背を向け、ワシントンの街へ歩き去った。

もう二度と、同じ場所に立つことはできないだろう。

 

『またこの間の店にピザを食べに行かない?』

 

その一言が彼女から聞けたら、どんなに良かったろう。

だが 分かっていた。

奇跡でも起きない限りそれはないと。

 

クレアが去った後、俺は手にしたデータチップを見下ろす。

それをポケットにしまい、日が落ちかけた空を見上げた。

 

「……俺が止める」

 

君は光の中を行け。

俺はこの終わりのない闇の中で、これからも戦い続ける。

 

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⑥ 人間の証

 

中東、ドーハの裏通り。

 

灼熱の太陽が沈みきった後も、熱気が肌に纏わりつく。

俺は大統領の警護を終え、高級ホテルの一室で、ウィスキーのボトルを傾けていた。

酒のせいで視界が揺らぐが、心は常に殺伐とした任務の残像に支配されている。

 

クレアがホワイトハウスのゲート前を去ってから、3年が過ぎた。

3年前から、酒がないと眠れなくなった。

 

感情を封じ、ただ任務という名の泥水を啜ってきた。

あの日、チップを闇に葬った時、俺の光は消えた。

彼女の声は、遠い幻だ。

忘れようとした。忘れなければ、生きていけなかった。

 

そんな俺に、暗号化された通信が届いた。

 

「プラーガのデータ、欲しいでしょ? 今夜、会いに行くわ。」

 

エイダ・ウォン。

嵐のような女。

彼女の声は、いつも俺の心を掻き乱す。

 

拒むべき理由は山ほどある。

だが拒まない理由も俺には山ほどあった。

 

そして俺にはもう、すべてがどうでもよかった。

 

部屋のドアが音もなく開く。

赤いドレス。

濡れたような艶を放つ黒髪。

 

香水の甘い匂いが、ラクーンシティの記憶を呼び覚ます。

 

「レオン、ひどい顔ね。ヒーローも落ちぶれるものなの?」

 

その声は優しいが鋭利だった。

 

「データを出せ、エイダ。無駄話はいい。」

 

乾いた声が自分のものとは思えなかった。

もう彼女に心を乱されるほどの気力もない。

 

だが、自暴自棄の底で、この女の熱に救われたい自分がいるのも事実だ。

そうでなければ、おめおめと、ここにやって来たりはしない。

 

俺はソファに沈み、彼女を睨んだ。

 

エイダはゆっくり近づき、USBをテーブルに置いた。

指先が俺の手に触れる。

冷たいのに、なぜか熱い。

 

「仕事の話の前に、息抜きはどう? あなた、壊れそうよ。」

 

挑発だ。

いつも通りの、俺を苛むためのゲーム。

だが、彼女の指が首筋をなぞったとき、わずかな震えを感じた。

エイダの手は冷たいが、その瞳には熱があった。

 

俺は抗えない。

酒が理性を麻痺させていた。

 

「……好きにしろ。」

 

その言葉は、敗北の宣言だった。

俺はもうヒーローじゃない。ただのエージェント。

闇に沈んだ男。

 

エイダは微笑む。

氷のように。

だが、どこか痛みを孕んで。

 

「レオン、あなたって、ほんとつまらない男。」

 

彼女はドレスを揺らし、膝に腰を下ろす。

唇が近づく。

熱い息。

香水が頭をくらませる。

 

「今夜くらい、任務を忘れなさいよ。」

 

ドレスシャツのボタンが外され、胸元に夜の熱が流れ込む。

エイダの舌と唇がレオンの首筋をなぞる。

 

心臓が波打ち、乾いた心が揺れた。

USBがテーブルから落ち、カツンと乾いた音を立てる。

 

俺の上に覆いかぶさった彼女の、ドレスの肩紐がするりと 落ちた。

 

エイダの唇が俺の唇に触れる。

その時ふと彼女の顔色が変わった。

 

色を孕んだ手つきで俺の胸元を撫でていたその手。

それが俺の胸ポケットに吸い込まれたと思うと、エイダは何かを引っ張り出した。

 

くしゃくしゃになった小さな紙切れ。

 

5年ぶりに着た忌まわしいスーツの胸のポケットの中。

そこには、ワシントンのピザレストランのレシートが入ったままだった。

 

クレアと笑い合った夜。

赤い革ジャン、ターコイズのネックレス、青い瞳。

ビールの泡と、あの笑い声。

胸が締め付けられる。

 

エイダの熱が、突然冷たく感じた。

 

「…降りろ。」

 

俺の声は、アルコールを吹き飛ばすほどに硬く聞こえた。

力強くエイダを突き放し、半身を起こす。

エイダはベッドの上で体勢を崩したが、表情を崩さない。

むしろ 哀れみのこもった目線で俺を見ていた。

 

「…やっぱりつまらない男ね、レオン。」

 

彼女は床に落ちたレシートを拾い上げ、一瞥し、静かに俺の胸に押し返した。

 

「それ、失くさないことね。あなたの人間の心の証だから。」

 

そして、USBを拾い上げテーブルに置いた。

 

「データはそこよ。使いなさい。」

 

フックショットの音が、静寂を裂く。

窓の外へ赤い影が消えた。

 

部屋に一人残され、俺はレシートを見つめた。

エイダの香水が、まだ鼻をつく。

彼女の震える指先が、頭から離れなかった。

 

 

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⑥乾いた世界(ダムネーション)

 

『……救うことに、まだ意味があると信じているわけじゃない。

ただ、それをやめた瞬間に、自分が何者なのか分からなくなるだけだ。』

 

 

俺はそう自分に言い聞かせながら、夜明け前の灰色の街を歩いていた。

 

東スラブ共和国

 

政治も信仰も崩れ、戦争と腐敗の匂いが染みついた土地だ。

あの『プラーガ』が、ここで再び使われているとの情報が入った時、胃の奥が冷たくなった。

 

あの忌まわしい寄生体。

人間の意志を奪い、魂をも喰らうもの。

スペインで見た地獄が、また形を変えて蘇っている。

 

クレアがこれを聞いたら、さぞかし嘆いたことだろう。

 

『人間は、いつまでこんな愚かなことを繰り返すの?』と。

 

彼女はいつも、俺よりも正しいことを言う。

でも、この世の闇を知るものは知っている。

正しさだけじゃ人は守れないことを。

 

この世界で『守る』っていうのは、もう少し汚い仕事なんだ。

 

少なくともここの住民たち、慣れない手で銃をとった 国民たちはそれを知っている。

 

だからこそ、俺は彼らも守りたい。

 

潜入した大統領府の地下室で、プラグを探していた俺は、不意に背後から襲ってきた影に身構える。

 

肩からナイフを抜き、影に向かって切りつけると、舞うように俺から逃れた影は少し離れたところで 人間の姿に変わった。

 

「久しぶりね、レオン」

 

黒いスーツ姿の女が、フックショットをこちらに向けていた。

あの夜からもう2年近く経っていたが、その不敵な笑顔は、まだ俺の乾いた心を鷲掴みにしようと手を伸ばしていた。

 

「……エイダ」

 

冷たい炎のようなその目線は、まっすぐ俺の心臓を射抜いたかと思うと、舐めまわすように俺の全身をなぞった。

 

肌がひりつく。

同時に肌が青ざめる。

 

俺の恐れを見抜いたのだろうか?

エイダがからかうように言う。

 

「ねえ、あの夜の続きは、いつできるのかしら」

 

「今じゃないことは確かだ」

 

自分がレオン・S・ケネディ だと言うことを、やっと思い出した。

 

エイダは相変わらず顔色を変えない。

 

「ひょっとして……私のこと、焦らしてるの?」

 

少しだけ切なさを感じるその声色は、演技だとしたら彼女にしかできない。

 

エイダはフックショットを使って天高く舞い上がった。

 

「いいことを教えてあげる。この町はもうすぐ浄化されるわ」

 

その瞬間、外で爆音が響いた。

プラーガ感染者の咆哮。

東スラブの夜が、また地獄に変わろうとしていた。

 

世界は何も変わらない。

それでも俺は撃つ。

それだけが、まだ俺が人間でいられる唯一の証だ。

 

………………

 

手を結んだアメリカとロシアの爆撃機によって浄化された東スラブ共和国の大地から、ポーランドに脱出した俺は、ホテルの部屋でズブロッカの瓶を飲み干した。

 

胃を焼くような熱さが、かろうじて生きているということを感じさせてくれる。

テレビから流れてくるニュースと、淡々と 事件の内容を報告するハニガンの声が、なんとか自分を正気のまま この世に、この社会につなぎとめてくれている。

 

俺はこのまま正気でいられるのだろうか。

俺の乾いた心はもう酒では潤せない。

 

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⑦ 涙が溶ける場所

ニューヨーク、国連本部近くのホテル。

 

国連総会が終わった夕刻、街のざわめきが硝子越しに滲んでいた。

俺は警護チームの一員としてホテルのロビーに入った。

大統領一行が宿泊するのは、五番街沿いの高級ホテル。

任務の緊張がまだ体の奥に残っている。

一日中、銃を携え、警備員と記者の群れの中を歩き、政治の言葉に囲まれていた。

 

そんなとき、エレベーター前の人波の中で、見覚えのある横顔が目に入った。

 

赤い髪が夕陽を受けて、炎のように輝いている。

視線を向けるまでもなく、彼女だとわかった。

 

クレア・レッドフィールド。

七年前に、道を違えた彼女だ。

 

彼女は日中、国連の壇上でスピーチをしていた。

 

バイオテロの被害者を「数字」ではなく「人間」として見ることの重要性を語るその声が、まだレオンの耳に残っている。

政治家たちの演説よりもずっと人間らしく、まっすぐだった。

 

「……テラセイブの代表、か。」

 

被害者を救う側に立つ彼女と、その影で戦う自分。

もう、俺たちは違う世界にいる。

そう思っていた。

 

だが彼女は、同じホテルの受付へ向かっている。

フロントでルームキーを受け取り、スーツケースを引きながらエレベーターに乗り込んだ。

扉が閉まる瞬間、彼女が一瞬こちらを見た。

 

目が合った気がした。

いや……気のせいだ。

そう言い聞かせる。

 

 

………………

 

夜、任務を終えたあと。

警護の待機室に戻りながら、俺は何度もスマートフォンの画面を見つめた。

 

連絡を取ろうか、迷う。

だが、クレアの名前に指を伸ばしたところで止まる。

 

彼女はもう、自分とは違う場所で戦っている。

光の中に立つ彼女に、影の自分は似合わない。

 

それでも同じホテルにいる。

数十メートル先のどこかで、彼女はきっと窓の外の夜景を見ている。

疲れた体をソファに預け、静かに息をついているのかもしれない。

 

……会いに行くべきなのか。

それとも、この距離を保つのが正しいのか。

 

彼女の背中を見送ったあの日を思い出す。

あれから、自分は漆黒の砂漠をさまよい続けている。

 

俺はカーテンの隙間から、遠くに見える国連ビルの灯りを見つめた。

昼間の会議で響いた、クレアの声が甦る。

 

『私たちは、人類の希望のために行動すべきです。』

 

……希望。

その言葉を、自分がまだ信じていいのだろうか。

 

部屋を出ようとした手が、扉のノブの前で止まる。

彼女の前に立つ資格があるのか……。

その問いが、胸の奥で静かに響いた。

 

俺は一歩、後ずさる。

そして、夜の静けさに沈むように窓辺に立ち尽くした。

 

外では、ニューヨークの夜が息づいている。

自分と彼女の間には、ただ一枚の扉しかない。

それでも、その扉を開くには、もう少し勇気が必要だった。

 

 

…………………

 

 

俺は静かに、だが確かな決意を胸にシャンパンと花束を手に取る。

 

フロントを通してクレアに連絡を取ってもらうと、間もなく返事が届いた

 

『1206号室まで来てくれ』と。

 

これが最後のチャンスかもしれない。

彼女と偶然出会えることなど、長くはないだろう 残りの人生において、二度とないかもしれない。

 

その思いが俺を突き動かした。

 

ドアの前に立つと、呼吸を整え、静かにノックする。

 

「レオンね……何の用?」

 

冷たい声が聞こえてくる。

 

鍵穴から覗いているであろう クレアに、俺は花束を差し出し、シャンパンを手に意識して強く微笑む。

 

「直接、会って話したいんだ。お互い、正義の行い方は違う。

でも、努力すれば理解し合えるかもしれない。

少なくとも、俺は君の正義を理解したいと思っている。……俺に理解させてくれ」

 

ほどなくしてドアが開いた。

クレア はやつれたような、青ざめた顔をしていた。

 

「7年ぶりに会っていきなりの挨拶でなんなんだが、顔色が悪いな。大丈夫か?」

 

クレアは自分の方に顔を向けずに言う。

 

「疲れてるだけよ。あなたに心配してもらうことじゃないわ。」

 

クレアはソファーを指さし、何も言わずにコーヒーを入れてくれている。

 

優しさなのか、俺の顔見たくないのか、どちらか分からないしどちらでもいい。

 

俺は会って話したかった。

それだけだ。

 

「話って何?……お互いの結論は7年前に出たと思うけど…」

 

コーヒーを差し出すクレアに、俺は努めて笑みを浮かべて言う。

 

「あの時は全く話せなかった。いや俺が話さなかった。

君の気持ちや言い分をもっと聞くこともできた。自分の立場を説明することもできた。

いずれ自力で事件を解決し、君へ 報告したかった。

でも俺はそれを全てしなかった。

ただ君を、はねつけただけだった。」

 

クレアは何も言わずにコーヒーを口にして聞いていた。

 

「今でも間違っていたとは思ってない。

君を守ることができたと自惚れている。

でもそれからの俺の人生は、無限の闇だった」

 

クレアの眉がピクリと動いた。

 

「君は俺を非難することができた。

軽蔑して嘲笑する資格もあった。

でも君は何も言わずに背を向けた。」

 

クレアは初めて俺を見た。

 

「今からでも遅くない。

君が言いたいことがあるなら聞く。

好きなだけ罵ってくれていい。

何でもいいから 君と話したかった。

だからそれでいい。」

 

クレアはしばらく俺の目を見つめると、あの時のようにまた背中を向けた。

 

「クレア……」

 

自分の言葉が届くとは思っていなかった。

ただ一言だけ、一言だけ声が聞きたかった。

 

明日、俺はベンフォード大統領とともにトールオークスに向かう。

そこで ラクーン事件の全容を世界に向かって公表することを、クレアはまだ知らない。

 

以前のクレアなら、聞いて大喜び してくれただろう。

今、手に持っているシャンパンを開けて、2人で盛大に乾杯しただろう。

 

それを諦めることが、彼女と道を違えることを選んだ俺への、神からの報酬だ。

 

「レオン……」

 

クレアが自分の名を呼んだ気がするのは、気のせいだろうか?

クレアがゆっくりと振り向く。

 

「私も話したいことが 色々あるの。だからまた浴びない……?」

 

クレアはシャワールームを指さした。

 

……………

 

扉を閉めると、蒸気と水の音が外の世界を遮断し、二人だけの空間が生まれる。

 

シャワーの水が、肌の上で静かに踊る。

クレアの表情はどこか曇っていたが、その視線は確かに俺を捉えていた。

 

身体の距離が近づくたびに、俺の胸は緊張と期待で高鳴る。

肌に触れる水の感触。

弾ける水音。

クレアの柔らかな曲線。その白い肌には、いくつもの傷が刻まれていた。

 

今まで、気づかなかった。

彼女とは、これまでに何度かシャワーを共にした。

一度目は背中合わせで、二度目は蒸気の向こうで。

三度目にしてようやく、彼女のすべてをこの目に映すことができた。

 

クレアはうつむき、どこか遠くを見るように、ポツリポツリと語り出した。

 

「……あなたと最後に会って4年たった頃、島に……連れて行かれて……

上司が、ニールが………尊敬してたのに……ウイルスに感染して、私たちを殺そうとして……ずっと、私たちを試してて……」

 

つぶやく声は途切れ途切れで、息の合間にかすれていく。

それでも、彼女は言葉を手探りで紡いでいた。

 

「クリスが今、行方不明で……記憶喪失になってたのに……部下を全滅させたって苦しんで……

またいなくなって、ピアーズくんや私に心配かけて……南極のときと同じで……。みんな私を置いてく。スティーブも、私の目の前で死んだの……愛してるって言ってくれた……」

 

その声には、押し殺してきた痛みが溶け込んでいた。

クレアの中で心が散り散りになっているのが、痛いほど伝わってくる。

 

「でも私は行かなきゃいけない。

モイラのところに行かないといけない。たくさんプレゼントを持って…笑顔で……。

今は笑える自信なんかないのに……」

 

俺はひと息つき、両手を広げた。

 

「悪かった……もう、話さなくていい。おいで。」

 

クレアは一瞬、戸惑うように俺を見上げた。

けれど次の瞬間、力の抜けた肩を預け、そっと俺の腕の中へ身を委ねた。

 

湯気が俺たちを包み込む。

冷えた体。

クレアの涙が、頬を伝って俺の胸に落ちる。

それはやがて、温かな水滴と見分けがつかなくなった。

 

俺はただ、彼女の背をゆっくりと撫でながら思う。

この痛みを、少しでも洗い流したい、と。

 

彼女の指先が、俺の肩の古傷をなぞるたび、胸の奥で何かが軋んだ。

 

ラクーンシティで、背中合わせでシャワーを浴びた、あの無言の時間。

何も言わなくても確かな信頼がそこにあった。

 

湯気で霞む照明の下、いくつもの戦いの傷跡が刻まれた彼女の白い肌があった。

 

その時、俺の体に予期せぬ事態が起きた。

クレアが僅かに身じろいだ瞬間、彼女の太ももに、その予期せぬ熱が触れる。

 

時間が凍った。

柔らかな彼女の太ももに、俺の熱がぶつかる感触。

一度は凍らせた心が、今、静かに溶けて、暴走している。

 

クレアの空色の瞳が大きく見開かれる。

彼女は状況を理解し、下を見ないように俺の胸元に顔を埋めた。

 

俺の全身に、激しい熱が走る。

プロのエージェントとして、どんな状況でも冷静沈着を義務づけられた俺の顔は、今、どんな色をしているだろうか?

 

「あ、いや……これはその……」

 

俺の頭の中は、一瞬で真っ白になった。

 

クレアは俺の胸の中で、必死に笑いをこらえているようだったが、すぐに耐えきれなくなり、プッと吹き出した。

そして、ついに声を上げて笑い始める。

 

「政府の冷酷な兵器」である俺が「ダメ男」に格下げだ。

 

「レオン、あなたって……!」

 

その笑い声は、今までの悲痛な告白や涙とは全く違う、純粋で、底抜けに明るいものだった。

 

「やめろよ……」

 

俺はうなだれて、彼女の耳元で囁いた。

 

クレアは笑いながら顔を上げ、濡れた髪をかき上げた。

 

「ごめんなさい。でも、あなたが慌ててるの、初めて見たわ。しかも、こんな理由で」

 

水音だけが、鼓動のように響き、クレアの瞳に、晴れた空のような青色が戻った。

彼女は俺の赤くなった頬に、そっとキスをした。

 

バイオテロ、政治的陰謀。

扉の外側では、ありとあらゆる醜いものが蠢いている。

だが、この扉の内側は、7年を超えて俺たちが触れあえる場所になったのだった。

 

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⑧ 知らない女(バイオハザード 6)

 

炎上する街を背に、俺はゆっくりと息を吐いた。

 

トールオークスは、ラクーンシティのあの悪夢の夜を思い出させる残酷な光景だったが、胸の奥底に沈んでいた焦燥は、かつてほど鋭く疼かなかった。

 

クレアとの和解。

 

あの短く静かな夜を境に、俺はようやく、過去のいくつかの澱から解放され始めていた。

ずっと自分を蝕んでいた渇きは完全に消えたわけではないが、以前のように心の中心を占めてはいない。

 

だからだ。

この惨状の中でも、俺は冷静さを保てた。

隣を走るヘレナも、すぐに相棒として受け入れられた。

 

「こっちよ、レオン。教会が近いわ」

 

「何があるか知らないが、無茶はするなよ」

 

「もう少しだから私を信じて」

 

ヘレナは複雑な性格のように見えるが、人を騙すようには見えなかった。

人を信じる、という行為はこんなにも息をしやすくするのか。

 

俺は久しく忘れていた感覚に身を委ねた。

 

……………

 

奥へ進むにつれ、湿り気を含んだ空気が肌にまとわりついてくる。

 

教会とは、世をしのぶ仮の姿。

真実は、腐臭と薬品の匂いが混じり合う地下施設。

モニターに投影された記録映像に、ヘレナが息を呑んだ。

 

俺は目を細めた。

画面に映るのは、人型の繭。

そしてそこから、何かが生まれようとしている。

 

ひび割れ、赤い肉が破れ、形を成してゆく女。

黒髪、冷たい眼差し、あまりにも見覚えのある姿。

 

だが、それは彼女であって彼女ではない、そんな曖昧な違和感を孕んでいた。

 

「……エイダ?」

 

ヘレナが振り返る。

 

「あなたの知り合い?」

 

「知り合い……だったと思ってたんだがな」

 

俺は視線を逸らさず呟いた。

 

……知らなかった。

自分がどれほど『エイダ』という存在に、独断と偏見、そして幻想を重ねてきたかを。

 

赤いドレスの女。

危険で計算高く、しかし……信じられる時もある

……。

そう思い込んでいただけだった。

 

『本当に彼女を知ろうとしたことが、俺は一度でもあったのか?』

 

胸の奥で、鈍い痛みが静かに響いた。

 

……………

 

燃え盛る中国、蘭祥の街に、飛来したワイヤーが金属音を響かせる。

 

風を切る音ボウガンの矢の音。

瞬きの間に、闇の中から女が姿を現した。

 

赤いドレスシャツ、黒のレザーパンツ。

冷えた瞳。

それでも、その動きと気配は紛れもなく………

 

「……エイダ」

 

その名を呼んでも、彼女は表情を変えない。

 

「まるで化け物でも見るような顔ね」

 

俺が銃口を向けるべきか迷うより早く、彼女は言った。

 

「大統領殺害の真犯人……その情報が欲しいんでしょ?」

 

USBデバイスをひとつ、軽く放り投げる。

レオンが受け取り、中身を確認し目を見開いた瞬間、ヘレナも息を呑んだ。

 

「なぜ……俺にこれを?」

 

俺の声色はいつもと違っていた。

責め立てるような鋭さではない。

疑念と静かな探求の混じった、初めての素直な問い、だった。

 

「……お前は一体、誰なんだ」

 

エイダは足を止めた。

振り向いた顔は無表情のようで、その奥に何か揺れるものがあった。

 

「どうして俺を助ける」

 

声が静かな分、余計に深く届く問いだった。

 

だが、エイダは何も言わない。

彼女はただワイヤーを打ち出し、闇へ消えた。

 

残されたのは、乾いた風と、俺の揺れ続ける疑念だけだった。

 

俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。

冷たい風が頬を撫で、それでようやく俺は呼吸を取り戻す。

冷たい体が俺を現実へ引き戻した。

 

ヘレナが静かに声をかける。

 

「……何をしているの?早く追いかけないと……」

 

いや。

追えないさ、あいつは……

分かりきったことだ…。

 

「いや、いいんだ。先を急ごう……」

 

エイダを知っていたつもりで、実はその表面に触れただけだったという事実が、じわりと胸に重く沈む。

 

過去の自分なら、苛立ちや割り切れなさが先に立ったかもしれない。

だが今は、静かな感情だけが残っていた。

 

クレアと和解したことで戻ってきた心の静寂は、エイダという謎を初めて受け止められるほどに、大人になっていた。

 

「行こう。ヘレナ。まだ終わっちゃいない」

 

俺はUSBを握りしめ、歩き出した。

俺の中には、闇の中で揺れたエイダの沈黙が、いつまでも消えずに残っていた。

 

 

………………

 

 

事件の余波がようやく落ち着きを見せ始めた頃、レオンは久しぶりの 穏やかな夜を迎えていた。

 

トールオークスの灰色の空気はもうない。

そんな夜、クレアからの連絡が届いた。

 

『無事に帰ってこられた? 大丈夫?』

 

短い文章なのに、彼女の迷いのないまっすぐな声が聞こえてくる気がした。

 

レオンは深く息を吐き、電話番号をタップする。

呼び出し音のあと、明るく静かな声が出た。

 

「レオン? やっと繋がった。ずっと忙しかったんでしょ?」

 

「ああ。まあな。でも、今は……少し時間ができた」

 

クレアは、焦らず、急かさず、レオンが声の温度を整えるのをただ待ってくれる。

 

「無事だったなら、それでいいわ。でも……声がちょっと疲れてる」

 

「疲れてる、か。……そう聞こえる?」

 

「うん。あなた、無理して平気なふりするの上手だから」

 

苦笑が漏れた。

世界中どこを探しても、レオン・S・ケネディの本当の響き、に気づく人間はそう多くない。

 

クレアの言葉は、彼の防壁を軽く叩く。

 

しばらく沈黙が落ち、それからレオンはぽつりと口を開いた。

 

「……クレア。ひとつ、変なことを聞いていいか」

 

「変なことでも、ちゃんと聞くわ」

 

その返答に、俺は覚悟を決めるように息をついた。

 

「俺は……今回の事件で、エイダに会った」

 

クレアは驚きつつも、声の調子を崩さない。

 

「あの人と……。それで?」

 

「助けられた。……何度も。理由も言わず、すべての秘密を背負って、消えるように去っていった」

 

言葉にして初めて、自分でも驚くほど胸がざわついていた。

 

「俺はずっと……エイダをわかってるつもりでいた。危険で、信用できなくて、それでも……なぜか信じたい、そんな相手だと」

 

クレアは何も言わない。

俺が言いたい言葉を探し終えるまで、静かに寄り添うように待つ。

 

「でも、違ったんだ」

 

「……違った?」

 

「俺は本当は……彼女のことを何も知らなかった。名前も、素性も、何を望んでるかも。そして人間であるかどうかも。俺が知ってたのは……ただの影みたいな断片で、肝心なものは、何ひとつ掴んでなかった」

 

声は淡々としているのに、胸の奥から滲む苦さが混じっていた。

 

「今回初めて……お前は誰なんだ、と、まともに聞いた。そしてもう一つの問いだ。なぜ俺を助ける、と」

 

クレアは小さく息を吸う。

慰めでも分析でもなく、ただ受け止める音。

 

「でも結局、何も教えてくれなかった。ただ……沈黙のまま消えた」

 

俺はソファに背を預け、目を閉じた。

 

「答えがほしいわけじゃない。

だけど……なにも知らなかった、って事実が、一番堪えてる」

 

そこまで話して、ふっと笑う。

弱音でも愚痴でもない、ただの本音。

 

電話の向こうで、クレアが静かに言った。

 

「レオン。知らないって気づけたのは……ちゃんと向き合おうとしたからよ」

 

その声は優しく、芯のある響きだった。

 

「わからない、って思えるのは相手をちゃんと見てる証拠。

前のあなたなら、怒りとか苛立ちで自分の疑問を押しつぶしてたと思う。

でも今は……大丈夫。あなたは変わったのよ」

 

「変わった、か……」

 

「うん。私はそう思う。あなたの声、前よりずっと柔らかいわ」

 

俺は目を伏せ、呼吸した。

 

クレアと話すと、胸のざわめきが静かに沈んで、不思議なほど自然に、心が落ち着いていく。

 

「……ありがとう、クレア」

 

「いつでも話して。言えないことでも、言っていいから」

 

彼女の声は、救いのようだった。

 

「……ああ。今度ちゃんと会って話す。

 まだ、少しだけ……整理したいことがある」

 

「ええ、待ってるわ」

 

電話が切れたあと、レオンはしばらく天井を見つめていた。

エイダの沈黙は、まだ胸に残っている。

この静かな夜は、クレアの声がその重さを半分ほど軽くしてくれた。

 

 

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⑨ それぞれの地獄(ヴェンデッタ)

 

『ねえ、どこにいるの?連絡して。』

 

クレアから届いたメールを一瞥してから、俺はウイスキーを喉に流し込んだ。

休暇中のアメリカの山岳地帯のロッジ。

 

休暇をもらった俺はここでずっと飲んでくれていた。

普段、申請をしても却下され、なかなか休暇が取れないが、今回はあっさりと取ることができた。

 

理由は分かっている。

休暇前に 俺のいたチームが全滅したためだ。

仲間は全員、肉片と化した。

 

そんな俺の精神状態を哀れんだ本部が、半ば強引に休暇という名目で仕事から外したのだ。

 

つくづく自分の人生に嫌気がさした俺は、ここで しばらくやめていた酒をあびるように飲み、ひたすら世の中を恨んでいた。

 

何にイラついてるのかわからない。

1つは自分だろう。もう1つは自分の人生。

 

『少なくとも 小さい頃の俺は、こんな人生は望んでいなかった』

 

忘れたかった。

何かに反抗していた。

酒で自分を痛めつけることしかできなかった。

 

そんな俺のところに、招かれざる客人がやってきた。

 

引き締まった大きな体に精悍な顔つき。

髪の色から体格から、妹のクレアとは似ても似つかない。

 

クレアの美貌の評判を下げた、クレアの兄のクリスだ。

 

「レオン、仕事だ。お前の手を借りたい。酒はそこまでだ。」

 

いきなり現れて勝手なことを言うクリスに、俺もついつい 当たってしまう。

 

「休暇中なんでな。あんたの仕事を手伝う義理はない。」

 

バイオテロ 絡み なのは もう分かってる。

本来はこんな対応をすべきでないんだ。

 

クリスに俺を紹介したのは妹のクレアだった。

DSOとBSAA、全く違う組織だが、バイオテロと戦う、という1点だけで言えば仲間と言っていい存在だった。

 

いつかテロの現場できっと協力し合う日が来る。

だから今のうちに、自慢の兄を紹介しておきたい。

 

そうしてクレアは俺とクリスを引き合わせたのだ。

 

初めて会ったクリスに抱いた印象は、俺が勝てない数少ない男の1人かもしれない、だった。

 

そのクリスが手を貸せ、と言ってくる相手だ。

凄まじく巨大な相手なのが予想できた。

 

仲間を全滅させた直後だというのに、また巨大なバイオテロリストと戦わされるのか、と思うとうんざりで、クリスを嘲るように突き放した。

 

クリスはそんな俺にまっすぐな怒りをぶつけた。

酒で濁り切った俺の目をまっすぐにとらえて、民衆の危機を訴える。

 

クリスと一緒にやってきた、彼の古くからの仲間、レベッカ・チェンバースも俺の説得に回った。

 

羨ましい話だ。

古くからの仲間がいる。

常に仲間とともに仕事をしている。

 

俺のように孤独ではない。

 

たまたまこの間の仕事は、チームを組まされることになった。

一匹狼の俺には不慣れな仕事だった。

そして仲間は全滅、俺は今、1人で地獄にいる。

 

その時に ふと思った。

クリスはどうだ、と。

 

つい先ほど言っていたクリスの話を思い出した。

ここに来る前にメキシコで、仲間を全滅させた、と。

 

そうだ、そうだった。

 

いつもチームで戦うクリスは、ある意味、常に仲間と共に行動し、孤独を感じることはないだろう。

 

しかし、バイオテロの危険な現場では、人が死なないわけがない。

そうだ、クリスは、今の俺と同じ苦しみを常日頃から抱えているのだ。

 

作戦の度に、ついさっきまで親しく会話していた仲間を失うのだ。

隣にいるレベッカも、20年近くの付き合いになるらしいが、1時間後に泣き別れになってもおかしくない。

 

それがクリスの生きている世界。

彼が抱えている地獄だ。

 

俺は酒瓶をテーブルに置くと、クリスとレベッカに向き直った。

 

この仕事が終わったら、クレアにメールを返そう。

 

そのためにも 俺は生きて帰らなければ。

酔いを覚ますように、俺は奥歯を食いしめて 立ち上がった。

 

[newpage]

 

⑩ 霧の果ての光(デスアイランド)

 

BSAAヘリのローター音が、アルカトラズ島の岸辺に響く。

 

バイオテロリスト、ディランを倒し、俺ととクレア、そしてクリス、ジル 、レベッカはヘリに乗り込んだ。

 

俺は心地よい疲れに身をまかせながら、隣に座るクレアの、朝日を浴びる横顔を見つめていた。

血と汗にまみれても、彼女の空色の瞳は輝いている。

 

「また生き延びたね、レオン……」

 

彼女の囁きに、俺は小さく頷いた。

 

…………

 

俺がデスアイランドの地下施設で、偶然、BSAAのエース、ジル・バレンタインと会ったのは、DSOの任務でのことだった。

 

事件の容疑者を追っていた俺は、ジルと一緒に今回のバイオテロ の首謀者から、クレアが兄のクリスと一緒にこの島に囚われていることを知った。

 

彼女の信念からだろうか?

職業からだろうか?

はたまたあの兄のせいだろうか?

どんなに心配しても、どんなに 説き伏せても、彼女は危険なことに関わるのをやめない。

 

俺はプロのエージェントだ。

どんな時でもミッションは完了させる。

ただ、過酷な任務の中でも、俺はやはり彼女を守りたい。

 

とらわれている彼女を見つけると、俺は敵の攻撃で満身創痍になりながらも、彼女を牢獄から引きずり出した。

 

レベッカのおかげで、なんとか息を吹き返した彼女は、銃を取って俺と一緒に戦う。

結局、俺と彼女は切っても切れない戦友、という運命なのだ。

 

みんなで協力し合い敵を殲滅した俺たちは、夜明けとBSAAの迎えのヘリを待つことになった。

 

………………

 

サンフランシスコの灯りが近づいてくる。

朝から既に霧の浮かぶ街が、俺たちを迎えてくれた。

 

BSAAのサンフランシスコ支部の基地に着陸し、休む間もなく、俺もクリスとジルも、クレアもレベッカも、BSAAの基地内の設備を使って、連絡やら書類の提出やらで忙しなく動き回っていた。

 

中でも俺は必死だった。

この面倒な仕事を終わらせて、少しでも早く休暇が取りたい。

少しでも長く クレアと一緒にいたい。

 

彼女も多分 同じだろう。

様々な業務を一気にこなしていた。

 

……………

 

 

皆が解散し、BSAAの基地内に私室があるクリス、ジル、レベッカと別れた俺とクレアは、クリスが用意してくれた霧のベイエリアの一角のホテルにたどり着いた。

 

当然、クリスが抑えてくれた部屋は2つだ。

俺とクレアを同じ部屋にするわけがない。

 

そもそも考えつかないだろう。

可愛い妹が、付き合いのあるエージェントの男と、言葉にできない特別な友人であることを。

 

部屋に入ると、血まみれの服が重くのしかかる。

アルカトラズの悪臭が、まだ体に染みついている。

嫌が上でもラクーンシティで下水道の中を這いずり回った嫌な記憶が蘇る。

 

そんな中でも俺は、たとえ 別の部屋でもクレアと一緒にホテルにいる、というだけで気持ちが向上していた。

 

『お腹が空いたわね。またピザレストランに行かない?』

 

『一緒にシャワー浴びない? 背中合わせじゃなく、向き合って』

 

ベッドのサイドボードにいた スマートフォンが鳴らないかと、浮ついた期待をしながら、俺は荷物を解いていた。

 

でも現実は厳しい。

一向に鳴らないスマートフォンに失望した俺は、諦めて一人で寂しくシャワーを浴びることにした。

 

ラクーンシティの避難所、ワシントンのホテル、そしてニューヨーク。

しかし、このサンフランシスコでは、あてが外れてしまった。

今度は、霧の街で一人で湯気に包まれるのは妙な気分だ。

 

水音が、外の世界を遮断する。

しかし遮断されているはずのその世界で、なぜだか聞き覚えのある音がしたような気がした。

 

ノックの音……?

いや 気のせいか……。

 

構わずシャワーを浴び続ける俺の耳に、やはりノックらしい音が聞こえた。

 

やはりノックだ。

ルームサービスは頼んでない。

 

素早く体の泡を落とすと、バスローブを羽織ってバスから飛び出す。

ドアの鍵穴から見るとやはり、外にいるのはクレアだった。

 

心臓が早鐘を打つ。

 

ニューヨークのホテルで、裸で彼女と抱き合いながら粗相をしてしまったことを思い出し、恥ずかしいやら、でも嬉しいやらで、トップエージェントとは思えない無用心さで慌ててドアを開けた。

 

「クレア!……どうした……」

 

「あら、シャワー浴びてたの?」

 

クレアが大きな目をパチパチさせながら、部屋へと入ってくる。

 

「いや!まだ途中だ……」

 

『だから!!君も……』

 

と心の中で続けそうになる。

もうシャワーは浴び終わったというのに、してはいけない期待をしてしまい、ついつい罪のない?小さな嘘が口から漏れた。

 

「じゃあ シャワー浴びてきて。私はもう浴び終わったから。一緒に食べようと思って、これ持ってきたの。」

 

クレアは大きな紙箱を差し出した。

焦げたチーズの匂いが部屋を満たす。

 

「兄さんからの差し入れ。美味しい店のらしいよ」

 

見れば、クリス隊長直筆で箱に文字が書き込んである。

 

『部屋は別々だけど、これは一緒に食べろ』

 

釘を刺されたな。

あれだけ友人だと念を押したのに、妹思いの兄には通じないらしい。

 

俺はもう一度バスルームに戻ると、軽く湯を浴びて外に出た。

 

…………

 

 

彼女はソファに腰を下ろし、何も言わずに俺へ一切れ差し出す。

 

「……ねえ、レオン」

 

ピザの端をそっと指で整えながら、クレアが言った。

 

「エイダの影をまだ追ってるの?」

 

ストレートで、逃げ道のない問いだ。

クレアの声色には何も感じるものがなかった。

まるでただ、どの種類のピザが好きか?と言っているのと同じようなものだった。

 

嘘はつけない。

ただ、真実を言えば彼女はどうだろう。

彼女には裏表がない。

嘘偽りもない。

だからこそ読めない。

ある意味 俺が最も苦手とするのが、このクレア のようなタイプだ。

 

「……複雑な質問だ」

 

自分でも驚くほど、弱く、静かな声が出た。

 

「彼女は……嵐みたいな女だ。

本当の名前も、所属している場所も、どこから来たのか分からない、

ただ気づいたら、来て、俺の足元を崩して去っていく」

 

俺はビールを一口飲んだ。

 

「包み隠さず言えば、彼女に男として惹かれてた。いや、今でも多分、惹かれてる。忘れないとと何度思っても忘れられない。悔しいんだ。彼女は必ず、何かを残して去っていく。物だけじゃなくて、痛みも…想いも…」

 

クレアはうなずく。

何の悪意もない、迷い続ける俺を、大きく受け止めるような眼差しで。

 

それが怖かった。

 

ずっと胸の内で燻っていた感情が、

この瞬間はっきりと形になった気がした。

 

『……クレアは…この人は、俺がどんな答えを返しても離れていかない』

 

エイダへの長年の想いより、クレアへの確信の方がよほど俺を震わせた。

 

クレアは俺を裏切らない。

クレアは俺を見捨てない。

クレアは俺に何も求めない。

クレアは俺を人間に引き戻す。

 

だからこそ怖い。

 

俺はクレアに嘘をつけない。だから自分の心は騙せなくなる。

俺はクレアを守りたい。だから彼女を失えばもう二度と立てない。

俺はクレアを離せない。だから彼女の全てを望み、離れられない。

俺はクレアと普通の場所にいたくなる。だから自分の人生は変わってしまう。

 

俺が壊れる。

 

彼女は恋人なんかよりはるかに重い。

恋は終わればそれまでだ。

恋人ならいくらでも作れる。

でも彼女は唯一無二だ。

たから抱きしめても欲しても、一線だけは越えられない。

 

「でもね、レオン」

 

彼女の表情は柔らかく、でも奥底に揺るぎない強さがある。

 

『あなたが彼女のことで揺れるのは、当たり前だと思う。それがあなたなんだし……

誰かに乱された心を、そのまま抱えててもいいじゃない』

 

胸の奥で、何かが軋んだ。

 

『だから君は怖いんだよ、クレア。

そんな風に言われたら……俺はたぶん、どこまでも甘えてしまう。君に溺れてしまうんだ』

 

彼女は続ける。

 

「エイダは、きっとまた現れるわ。

 あなたの人生から消える人じゃない。」

 

「わかってる」

 

彼女も未来を直視して、嵐に警戒している。

俺という人間の痛みを理解しているからだ。

 

それが、さらに俺の心を締めつけた。

 

「でもな、エイダが嵐なら……」

 

俺はビールをテーブルに置いた。

 

「君は……晴れ間みたいだ」

 

クレアは驚いたように瞬きをしてから、やわらかく笑った。

 

「私は、ただのあなたの友達よ。でも…あなたが帰ってこられる場所ではありたい」

 

その言葉の重さを、俺だけが分かっている。

 

恋人ではない。

けれど恋人以上に無くしたくない存在。

 

クレアが一切れのピザをまた差し出す。

 

「ね、食べよ。ここが『普通』でしょ?」

 

俺はその手からピザを受け取る。

油紙が指先に貼りつく感触が、妙にあたたかかった。

 

「……そうだな。こうしてる時が、いちばん『普通』だ」

 

俺たちは、ただ静かに、同じ箱のピザを分け合う。

戦場の外にある、ありふれた日常。

 

その場所に戻ってこられる限り、

嵐が来ても俺は立ち続けられる。

 

俺はもう一度クレアを見た。

初めて会った時は、まだあどけなかった。

 

空色の目に、それと同じ色の青いネックレス。

綺麗な赤毛と同じ、赤い革ジャン。

白い肌と華奢な腕で、大きなバイクと銃を軽々と扱っていた。

 

今の彼女は……目が離せない。

決して一線を超えられない大切な友達。

だけど他の男に取られる日が来たら、俺はしばらく立ち直れないだろう。

 

「そろそろ戻るわ。明日ニューヨークに帰るから。おやすみなさいレオン。」

 

ピザをたいらげた唇が、チーズオイルでリップグロスのように光っている。

思わず引き寄せられた。

キスぐらいは許されるだろうか……。

 

いや やめておこう。

止まらなくなるかもしれない。

それ以前に平手打ちを食らって、ショックのあまり 立てなくなるかもしれないし。

 

部屋を後にする クレアを見送る。

また会えるな、クレア。

 

そうまたこんな「普通の場所」で。

 

I am looking forward to playing the game ”Resident Evil: Requiem”.


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