by フランシス・ベーコン(大嘘)
「そ、それは本当ですか?!校長先生!」
「えっ?!サエちゃんマジ?」
「ま、まさか・・・冗談だろ、おい」
あまりの事態に混乱する坂柳理事長以下、高度育成高等学校の教職員たち。職員室には、文字通り阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れていた。
「は、はい。残念ながら・・・先ほど、1年Dクラス40名中38名が自主退学を申請してきました」
続く校長の言葉に、誰もが耳を疑った。そう、私が担任を務める不良品クラスが崩壊したのである。(予定調和)
本日は5月1日。我が1年Dクラスは1ヶ月間の愚行の果て、見事にゼロポイントという結果を叩き出した。学校創設以来、初の快挙(?)である。そんな愚か者たちに真実を突き付け、お通夜状態の教室をあとにしたのがつい1時間ほど前のこと。
現役生徒会長の妹に日本屈指の財閥グループの御曹司、そして最高傑作・・・今年こそはと思っていたが、やはり所詮、不良品は不良品だったか。あとは3年間、文字通りゴミのような学園生活を送るのだろう・・・『校内禁煙』の文字などお構いなしに、自らのデスクでタバコを咥えて放心していた矢先に飛び込んできた、衝撃的な一報。さすがに令和の現代っ子にとって、ゼロポイント生活は刺激が強すぎたらしい。(白目)
「なるほど・・・厳しい現実を知って逃げ出しましたか」
「理事長?!そんな悠長なことを言っている場合ではありません!申請はすぐに却下しましょう!一度にこれ程の退学者を出せば、来年度以降の生徒募集にも影響が!」
「落ち着いて下さい、校長先生。まずは皆さん、この件に関しては箝口令を敷きます。文科省に嗅ぎ付けられたら命取りですからね」
「おおっ!さすがは理事長・・・妙案ですな。ぐはははっ」
腐りきった学校上層部のやり取りを聞きながら、私は思う。新年度開始から僅か1ヶ月で1クラスが消滅・・・これは終わったな。
そして状況は、予想をはるかに超えるスピードで悪化の一途を辿っていた。
「た、大変です理事長!」
「こ、今度はどうしました?教頭先生」
最悪な雰囲気の職員室へ駆け込んできた教頭。これまで走ったところを見たことがない彼が走るとは、もはや嫌な予感しかない。そしてその予感は見事に的中した。
「は、はい。たったいま、1年A、B、Cクラスからも大量の自主退学申請が・・・」
「なんですって?!た、退学理由は何と?」
「ほとんどが『やってられるか』のひと言です。一部の生徒は今後、本校に対して損害賠償請求を行うつもりのようで・・・」
「ば、バカな・・・」
はぁ・・・だから言わんこっちゃない。こんなやり口が、いつまでも通用するはずがないのだ。騙し討ちでAクラス争いに強制参加させ、子供騙しのSシステムで生徒たちの射幸心を煽り、予算を消化するために適当な特別試験をでっち上げ、人権無視の強制退学処分・・・もし文科省の調査でも入ろうものなら、一発でアウトだろう。
先ほどの阿鼻叫喚から一転、重苦しい空気に包まれる職員室。ここまでくれば、退学申請を受理しようが却下しようが、待っているのは等しく地獄・・・
いや待てよ?ある重大な事実に思い当たり、監視カメラのモニターへと走る。画面を切り替え、1年Dクラスのリアルタイム映像を確認した私は、思わず勝利の雄叫びをあげた。ふっ・・・ふははははっ!もはや勝ったも同然!さあ始めよう、実力至上主義の教室を。このふたりならAクラスも夢じゃない!どちらもポテンシャルは一級品だ!何しろ通常のザクと比べて3倍の速さを・・・(錯乱&失神)
「サエちゃん、これ食べる?」
横合いから『きのこの山』の小袋を差し出しながら、かわいそうなものを見るような目を向けてくる
私たちがそんな素人漫才で現実逃避をしていたら、突如職員室の電話が一斉に鳴り出した。B級ホラーだろうか?(すっとぼけ)
「も、文科省からの問い合わせです!」
「事務室より内線!退学申請が多すぎて対応不能!」
「上級生からも自主退学申請多数!」
「こちら守衛室!校門前にマスコミが・・・」
「このあと本校OB、OG会が、都内で緊急告発記者会見を開くそうです!」
次々ともたらされる、高度育成高等学校終了のお知らせ。たちまち職員室は大混乱に陥った。そんな中、電話対応に忙殺されつつも、互いにちらちらと視線を交わす教職員たち。先ほどから漠然と感じていた不安が、頭の中で『転職』という具体的な単語に変換され始めたのである。
「し、しかし卒業生には守秘義務があるはず。記者会見なんて・・・」
「どうやら退学者の保護者に弁護士が居たらしく・・・すでに被害者の会も結成されたようです」
「先生方!落ち着いて下さい!まずは冷静に状況の確認を・・・」
そう叫ぶ理事長がいちばん狼狽えているように見えるのも、あながち気のせいではあるまい。彼もまた、単なる雇われの身なのだから。これは私も、早めに身の振り方を考えておいた方が良さそうだな・・・
そのとき、この空気を読まずにずっとスマホを見ていたあざとい保健医が、いきなり立ち上がると同時に叫んだ。
「凄いぞビズリーチ?!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~ 翌日 ~
「全員席に着け。これより朝のSHRを始める」
教卓に立ったクールな印象の女性教師へ、生徒から声が飛ぶ。
「オイオイ、全員って、もともとこれしか居ねぇんだから、わざわざ言うまでもないだろ?ククク・・・」
「ふははははっ!教室が広々として実に快適だねぇ。愚か者たちが消えただけで、これ程までに清々しい気分になれるとは。そう思わないかな、リトルガール」
「わたくしは幼女ではありません」
机に足を乗せたロン毛が嘯けば、同じ姿勢の金髪が高笑いして、クラス唯一の女子生徒へと話を振る。ここは新設された1年Eクラスの教室。中に居るのは、自主退学の嵐を切り抜けた猛者たちだけだ。つまりこのメンバーが、高度育成高等学校の現1年生全員ということになる。
「それで、こんなクラスを作ってまで私たちに何をしろと言うのかね?」
「・・・お前たちにはまず、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応してもらう」
「ふふふ・・・要するに、行き当たりばったりということですね」
学校側としても苦肉の策である。なんせ、新1年生がたったの4人になってしまったのだから。
「ところでよぉ、なんでこんな無気力イケメンが混じってるんだ?先々、足手まといになるだけだろ?」
ロン毛が後ろへ振り向いて揶揄するように言うと、美少女と金髪が同時に嘆息した。
「はぁ・・・やはりあなた程度では彼の凄さを理解出来ないようですね、ドラゴンボーイさん?」
「やれやれ、所詮きみごときでは、あのボーイの実力を見抜くことはできないだろうねぇ、ドラゴンボーイ君」
「て、てめえら・・・次にその呼び方しやがったら・・・」
「どうなると言うのです?元国王さん?」
「ちっ!ムカつく奴らだぜ」
返答に詰まったロン毛が、そっぽを向いて押し黙る。ここで改めて、教卓の女性が口を開いた。
「静かにしろ。連絡事項だ、よく聞け。本日からこのクラスは、私と坂上先生がローテーションを組んで担任を務めることになった」
「おや?真嶋先生と星之宮先生はどうされたのです?」
その問いに、女性教師の顔が僅かに歪む。彼女の全身から負のオーラが放たれるが、質問した銀髪美少女は全く動じることなく、上品な微笑を浮かべていた。
「・・・チエ、いや星之宮先生は昨日付けで電撃寿退職した。お相手はその・・・真嶋先生だ。いまごろは、ふたりでハネムーンの真っ最中だろう」
「ふははははっ!電撃寿退職!これは傑作だ!つまり君は女の戦いに敗北したのだね、茶柱ティーチy・・・がはっ?!」
デリカシーに欠けた金髪がクリップボードの強烈な一撃を受けて吹き飛び、壁際のロッカーへめり込んで沈黙した。完全に自業自得である。
「ふぅ・・・また下らぬものを殴ってしまった。では以上だ。引き続き、有意義なスクールライフを送ってくれたまえ」
なぜか哀愁を漂わせて立ち去る担任を見送りながら、いまだクラスメイトたちの会話に入れない茶髪のイケメンは考えていた。取り敢えず、このメンバーを手駒にするのはムリだろうな、と。(あたりまえ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~ エピローグ ~
「無様だな」
生徒会室の窓から退学者の列を眺めつつ、堀北学は吐き捨てた。ひとりのシスコンぼっちが引き起こしたさざ波は、あっと言う間に高育全体を飲み込むビッグウェーブとなって教職員までをも巻き込んでいった。行き過ぎた妹への愛情が、国立エリート高校の根幹を揺るがせたのである。恐らくは当の本人も、ここまでの事態に発展するとは予想しえなかっただろう。
「見事だ、比企谷八幡。お前とは一度、どちらが本物のシスコンなのか真剣勝負をしてみたかった・・・」ボソッ
同じ妹を持つ者として、八幡へ妙な対抗心を燃やす堀北学。なお、傍から見ればふたりとも単なる手遅れなお兄ちゃんである・・・
「何か仰いましたか?」
「いや、何でもない。ところで橘、南雲はどうなった?」
「はい、昨日付けで自主退学しました。取り巻きが先に全員自主退学してしまったので、諦めたようです」
「そうか・・・あっけないものだ。まさかこんな形で決着がつくとはな」
後ろに控える忠実な書記が答え、生徒会長は小さく呟いた。ひとつ、肩の荷が降りたような感覚である。これで心置きなく、
「会長、これからこの学校はどうなるのでしょうか?」
「案ずるな。真の実力至上主義が始まるだけだ」
不安げな様子のお団子頭に応じてから、彼は話題を変えた。
「それで鈴音なんだが、あとで学生寮の裏手・・・じゃなかった。ここに呼び出してくれ。色々と調教・・・指導しなくてはならんのでな」
「はい?彼女ならとっくに自主退学しましたが・・・」
「ほぅ・・・?」(男のハイライトオフ)
しばしの沈黙のあと、おもむろに立ち上がった歴代最高。カバンを持つと、自然な足取りで出口へと向かう。そして彼が扉に手をかけたところで、困惑したように橘が声を発した。
「えっと・・・会長、どちらへ?いまはまだ生徒会活動中ですが」
しかし、
「む?家に帰るんだが?」
「これから寮に帰られるのですか?」
「いや、神奈川の実家に帰るのだ」(真顔)
「えっ?!」(白目)
~ おまけ ~
「ただいま小町~あれ?」
高育が未曾有の大混乱に陥っていた頃・・・そんなことなど露知らず、およそ1ヶ月ぶりに俺は自宅へと帰って来ていた。あれから諸々手続きがあり、結局こんな時間になってしまったのだが・・・
期待した妹の出迎えはなかったものの、玄関には彼女の運動靴が揃えてあった。どうやら部屋に居るらしい。なら、ちょっとびっくりさせてやるか。きっとあいつ「お兄ぢゃぁ~ん!」って泣きながら抱き付いてくるに違いない。あ、それってはちまん的にポイント高いかも。
感動的な兄妹の再会劇を夢想しつつ、足音を忍ばせて階段をのぼると・・・俺は妹の部屋のドアを開け放った。そう、ノックもせずに年頃の妹の部屋のドアを。大事なことだから2回言ってみたぜ?
「ただいま小町!お兄ちゃん帰った・・・ぞ?」(・・;)?
そしてお互い、見詰め合ったまま固まる千葉の兄妹。そう、すっかり俺の不在に慣れ切っていた愛しのマイシスターは、無防備にベッドの上で思春期真っ盛りなのであった。はちまん的に、ポイント高・・・
「お、お兄ちゃんのバカぁぁぁぁぁ!!」
「がはっ?!」
やはり解せぬ。ボソッ
おわり
お読み頂き、ありがとうございました。