ハジメは一先ず自分達だけで攻略することにした。
「キャスの時もそうだが………ソウジが単独で行動するってことは、そもそもソウジが反応するだけの強さを持つ奴がいるってことだ」
ドラゴンなので強者に惹かれるようだし。そもそもフェアベルゲンで真の意味で反応していたのはレグルスだろうし。そしてレグルスは剣技の腕だけで千里先まで塵に変える突き技はもちろん空間や概念すら斬る。
今のハジメ達が束になっても敵わないであろう存在。
「それが、この迷宮にいるってことですか?」
「師匠の初心者向けって言葉と矛盾する……魔法が使えなくなる迷宮なんて
この世界の主な攻撃手段である魔法を奪う迷宮。おまけに解放者の迷宮には修繕機能もある。
何かを閉じ込めるにはもってこいだ。
「言ってたらなんか来たぞ!!」
通路の奥から現れる肉塊。表面が泡立ち腕が生え伸びてくる。気持ち悪い。
「ぶっ潰れろ、ですぅ!」
シアがドリュッケンで叩き潰しハジメがドンナーで撃ち抜く。見た目通り脆くあっさり飛び散る。真っ赤な血液を撒き散らして。
「うっ………」
皮が人の皮膚に似ているだけにその光景に香織が顔を青くする。
「香織? どうしました?」
人と殺し合いをしてきたキャスにはよく解らない感覚だ。大丈夫だよ、と伝えようとした香織はキャスの背後で蠢くものに気付く。
「キャスちゃ──」
「!!」
振り向きざまに壁ごと蹴りつけ踏み潰す。気弱でもフェアベルゲンのNo.2。香織が声をかけるまでもなく気付いていたのだろう。
踏み潰されたそれは吹き飛んだ肉塊の一部。
「っ!? 此奴!」
ハジメが周りを見れば飛び散った肉片同士で集まりいくつかの塊になり襲いかかってくる。
「ん!」
再生するなら炎! とユエが燃やす。人肉の脂が燃える匂い。体積を減らしていく肉片だが、僅かに魔力光を纏うと炎から飛び出してくる。
ハジメのドンナーが肉片を撃ち抜く。今度は再生しなかった。だが、増えた敵は………
「〝吸魂〟」
キャスがそう呟くとキャスを中心に何かが広がる。肉片がべチャリと地に落ち巨大な肉塊の動きも鈍くなる。キャスはそっと口付けするかのように唇で触れると肉塊は完全に沈黙した。
「迷宮の魔物でしょうか?」
「ソウジが反応するにしちゃ弱いからその可能性が高いな…………スライムみたいな………いや、魔石が複数あるな」
魔眼石を通して魔石の位置を知れるハジメはその正体を掴む。飛び散った肉片は動くものと動かないものに分かれ、それはサイズに関係なかった。
魔石の有無。この肉塊は不定形の肉片型魔物の集合体。粘菌のようなものだ。
「こいつ自身は種さえ分かればそこまで問題じゃねえが………また来やがったか!」
新たに現れる肉塊。こちらに迫るそれが何かを踏む。瞬間、壁から飛び出してきた無数の斧が肉塊をバラバラにする。
因みに斧はハジメ達の方にも向かってきていた。
「ちぃ!」
オルクス迷宮と異なり魔力を伴わぬ物理的な罠は魔眼石では感知できない。気をつけようにも肉塊が勝手に作動させてくる。おまけに肉塊は高い生命力で物理的な罠による致命傷は受けないときた。
魔法の使えぬ環境であの特性の魔物。厄介極まりない。
「〝叛天〟!」
と、香織が肉塊に触れながら魔法を発動。体内の魔力を乱された肉塊が全身から血を噴き出しべチャリと落ちる。
ビクビク痙攣するのは反射なのか生きているのか。どの道、動けないならと魔石を撃ち抜く。ユエも威力の高い魔法で魔石を肉ごと吹き飛ばす。
「キャスと香織がいてくれて助かったな」
「ん。動きを封じられるのは強い」
「キャスさんに至ってはそのまま倒せますしね」
「う〜ん。駄目、みたいです」
「は?」
と、ハジメの魔眼石には完全に死んだと判断されていた肉塊が再び魔力を宿し動き出す。キャスが触れればまた動きが止まり、キャスは身体強化で肉塊に腕を突き刺し魔石を直接抜き取った。グロい。
魔石は複数あるので更に抉り出す。キャスの白く美しい髪や肌が赤く染まっていく。
「此奴等………等? 一つ。繋がってないけど、繋がってます」
「どういうことだ?」
「同じ魔力と、生命力です………奪われても他から貰う」
つまり複数の粘菌の様な不定形が集まって一つの存在になっているのではなく、魔石を複数持っている魔物が分裂している?
そして生命力や魔力を共有しているから、一つの塊を潰しても他から魔力や生命力を与えられる。異様な再生能力の高さは、つまりハジメ達が傷つけたのは全体から見ればほんの指先のようなものだからだろうか。
群生にして個。一なる軍勢。それがこの魔物の正体。中々面倒な魔物だ。案外ここに封印されている奴の一部なのかもしれない。そうなるとソウジの狙いはこれなのか?
「大勢で一つ…………一先ずレギオンとでも名付けておくか」
我等は大勢である。
故にレギオン。
「ふむむん?」
迷宮の奥の奥。全てを管理するそこで、それは首を傾げる。一人入ってきたと思ったら直ぐに数人。後から来た連中の反応から察するに同じチームなのは間違いないだろうが………強さに差がある。
ここは言ってしまえば頑張ればクリア出来る難易度の迷宮……だったのだが300年前吸血鬼族が誘導し連れ込んだ何かで難易度が上がってしまった。
殺しても殺しても殺しきれないそれに仕方ないかと溢れ出さない程度に間引きしていたのが、その一部が単独の方と接触した後姿を変えた。三百年前ですらまともな人の形はしていなかったのに。
しかも集団の方に似ている子がいる。
「う〜ん。一部が人型になった後、明らかにほかの動きが単純化している。意識が一つに集中している? 此奴等に意識があったから知らないけど………」
どれだけ増えても意識は一つ。一つのことに集中すれば他は反射的にしか動かなくなるのか………意識自体は複数でも生命力や魔力の共有みたいに意識も共有していて一つの肉体に意識が集まっているのか…………どちらにしろ単独行動している方は肉塊達にとって特別な存在らしい。
「群を抜いて強いしね。罠の対処の仕方からしてもう違う」
集団の方は避けたりしているが単独の方は一切気にせず切り捨てている。あまりにあっさりしすぎて心苦しくも? 心を痛めて? 本当は嫌だけど用意しておいた煽り文句の方がいっそ滑稽になっている。
「う〜ん。合流してクリアしたら、下手したら寄生クリアとして判断しなくちゃいけなくなるかも? 仕方ない。こっちは一旦放置で、眼帯君達の方の難易度上げようっと」