個性『御廚子』   作:円満

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 感想・評価ありがとうございます。
 思っていたよりも反響があったので続きました。




USJ襲撃 前編

 

 

 『鬼才』指宿悠二。

 

 雄英高校の入学試験を過去並ぶ者がいない圧倒的な成績で突破し、入学式当日に行われた個性把握テストでは既にプロヒーローとしてデビューしても何ら問題ない総合力を証明し、オールマイト監修の戦闘訓練ではNo.2ヒーロー(エンデヴァー)が最高傑作と謳う推薦組の轟焦凍を純粋な身体能力のみで圧倒するなど、鬼神の如きその実力にクラスメイトの大半は指宿に畏怖と尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

 

『あの指宿くん……これ次の授業で使う参考書、です』

『おーい緑谷、次の授業移動教室だぜ! ……指宿も、あー、分かってるとは思うけど一応な!』

『……お前には負けねぇ』

 

 しかしその学生離れした実力故にか、はたまたその身に纏う雰囲気が原因か、孤高を貫く指宿は教室では一人浮いた存在であり周囲のクラスメイトも指宿にどのように接したらいいのかを計りかねている様子で、入学式から現在に至るまで指宿に好き好んで話しかける人間は皆無だった。

 ただ一人、オールマイトだけは旧知の仲なのか授業以外でも休み時間に指宿と擦れ違う度に話し込んでいるのをクラスメイトたちは見かけているが、二人がどう言った関係性なのかは未だに謎に包まれている。

 

「爆豪は仕方ないとして、やっぱり指宿にも振られちゃったねー」

「まぁ反省会つってもアイツは特に問題点とかなかったしな」

「俺としては是非とも指宿くんの意見を聞いて今後の参考にしたいと思っていたが……嫌がる相手に無理強いするのは良くないからな」

「嫌がるっていうかあれは無関心だったと思うんすがね」

 

 下らん、そう言い残して今日の戦闘訓練の反省会を開こうとしていた彼らの間を縫って教室を去って行った指宿の姿を思い返し、上鳴は頬を引き攣らせながらぐったりとした様子で机の上に身を投げる。

 

「指宿こえーよー……爆豪は何だかんだで揶揄ってもガチギレ一歩手前で許してくれるけど、指宿はなんかこう違うじゃん?」

「分かるぜ上鳴、けどオールマイトから仲良くしてやってくれって言われた手前な」

「タイプとしては轟に近いかもしれん」

「ていうか爆豪に関してはただの事実だし」

 

 やいのやいのと反省会を他所に学生らしい放課後を満喫する彼らだが、その言葉の通り指宿と仲良くなりたくない訳ではないのだ。

 今日の戦闘訓練で指宿ペアと轟ペアが戦っている最中にオールマイトから観戦組に友好関係を築いて欲しい旨を頼まれたとは言え、そのことを省いても純粋に指宿と仲良くしたいというのは今後長く付き合っていくことを考えれば何もおかしな話ではない。

 単純に指宿側が仲を深めようとは微塵も思っていないだけで彼らはよく頑張っている方である。

 

「にしても指宿と轟のバトル凄かったよな、最強だと思ってた轟の個性も指宿には通じなかったし」

「単純に俺たちとは肉体強度が異なるのも大きいだろうが、それでもああも簡単に氷の拘束から逃れられるとはな」

「俺も同じ異形型の個性だから今回の指宿との戦いは良い刺激になった」

「障子も指宿相手によくやったよ!」

「ありがとう。だが、俺はまだまだだ。もっと指宿のようにこの個性(身体)を使いこなせるようになりたい」

 

 轟とペアだった障子はあの戦闘訓練での指宿の動きを目の当たりにし目から鱗が落ちる思いだった。

 複製腕という自身の体の器官を複製出来る障子の個性と複眼複腕の指宿の戦闘スタイルは自身と共通する部分がありながらもその活かし方はまるで別物で、その流水の様な線の動きで相手の攻撃を受け流し、その直後に岩をも砕くほどの点の一撃で相手を沈める指宿の姿は障子にとって一種の到達点に見えたほどだ。

 あの動きをより自分の個性に見合ったものに昇華出来れば俺はまだまだ強くなれる、そんな確信が今の障子にはあって、だからこそ今回の反省会で他ならない指宿から話を聞けなかったのは心から残念だと思うし、皆のように指宿とは仲を深めたいとも思っているが、それでも収穫はあったのだから一歩ずつ進んでいこうと障子は今後の展望を脳裏に描きながら決意するように胸の前で拳を握り締める。

 

「指宿くんちょー強かったよね! 私なんて最初から最後まで殆ど見てるだけだったよ……」

「何言ってんだよ! 最後に轟捕まえたのは葉隠なんだしもっと自信持てって!」

「あれは指宿くんが私の氷を壊してくれたからで……ってあれ、何で指宿くん透明なのに私の氷ピンポイントで壊せたんだろ? 偶然?」

「指宿なら見えててもおかしくないって思っちまえるから何とも」

「え!? 私あの時手袋もブーツも脱いでたんだけど!?」

「それってつまりぜん───」

 

 そんな雑談の様な反省会は保健室で治療を終えた緑谷が帰って来るまで続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子はどうだいドクター?」

『万事抜かりなく、あの個体の調整も既に済ませているとも』

 

 光の届かない地下深くに作られた一室で、モニター越しから響く上機嫌な協力者の言葉に男は呼吸器の下で満足そうに口元を歪める。

 兼ねてより()のために調整を施していた改造人間、その中でも上位個体を更に凌駕する最高位(ハイエンド)に近しい力を持ちながらもそられとは異なる進化を遂げた純白の繭(・・・・)に包まれた特殊個体。

 男の協力者がここ数年で最も強く美しい個体だと豪語するほどには心血を注がれながら育てられ、これまで一度たりとも日の目を浴びることがなかったその個体がついに解き放たれようとしているからだ。

 

マコちゃん(・・・・・)は謂わば赤子の状態。彼との戦いを経ればより強く成長することは間違いないじゃろう』

 

 ともすれば今回の襲撃で彼を超えるやもしれん、そう得意気に語る協力者に男は脳裏に雄英の入学試験で目にした成長した彼の姿を思い起こし、それはないだろうなと思案しつつも協力者の機嫌を損ねないように耳障りの良い言葉を返していく。

 

『マコちゃんにはジョンちゃんを忍ばせておるし万が一はないじゃろうが、あの小僧の初陣と聞くとジョンちゃんだけでは少し心許ないか』

「ハハハ、心配いらないよドクター。何かあれば僕の方でその個体は回収しておくとも」

『おお! それは心強い! ではマコちゃんに何かあった時はお願いしようかのう』

 

 男の描く未来予想図では今回の死柄木弔(後継者)の雄英襲撃はまず間違いなく失敗に終わると確信している。

 それはオールマイトがいることは勿論、まだまだ雄英に対して弔の認識が甘すぎるということ、そして何よりも今の雄英には彼がいることが何よりも大きい。

 あれは生半可な戦力では降すことはおろか抑え込むことすら不可能な特級の爆弾だ。

 今でこそその特級を超える超特級(オールマイト)がいることでどうにか制御出来ているが、オールマイトが雄英に来た理由を加味すればそれも時間の問題である。

 あるいは既にその火種を譲渡していたのだとしたら───

 

「期待しているよドクター」

『任せてくれたまえ友よ、君の期待に応える働きを約束しよう』

「ああ。報告を楽しみにしているよ」

 

 その言葉を最後に通信を切った男は、映像の中にいる彼を見据えて魔王に相応しい悪魔の様な笑みを携え言葉を溢す。

 

 

「君は僕のものだ、■■───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退屈極まる。

 

 雄英での学校生活が始まってからというものの、指宿悠二の胸中は未だに何一つ満たされることなく渇き切ったままであった。

 しかしそれは自身に並ぶ者がいないからという孤独感からではなく、単純に以前の生活と比べて今の生活がつまらないからという一点に集約される。

 元よりプロでもない学生に指宿は期待などしていなかったため自身より遥かに力が劣る集団の中にいても何とも思わなかったし、むしろ定期的な業務連絡以外に必要以上に接触してこないことは指宿視点では身の程を弁えていると一定の好感を抱いていたほどだ。

 勿論例外(爆豪と轟)はいるにはいるが、それでもその程度であれば指宿自身砂利が足元に転がっているくらいの認識でしかないため、邪魔になった時に払えばいいだけのことだと気にも留めてないのが現状。

 

 しかしそれはそれとして、雄英での生活は先にも述べたように非常に退屈である。

 狩りが出来なければ食を堪能することも叶わない、授業の内容は幼稚で訓練の相手も児戯に等しいのだから端的に言って今の指宿を取り巻く境遇は不快そのものである。

 では何故指宿が己が生き方(獣の理)を変えてまでその境遇に甘んじているのかと言えば、偏にそれはオールマイトとの一件(・・・・・・・・・・)があるからであり、その約定がある限りは指宿としてもある程度は譲歩せざるを得ないからだ。

 

「ままならんな」

 

 人命救助訓練のために乗り込んだバス車内の最後部座席で一息付きながら、指宿は改めて車内全体を見渡す。

 最後列は恰幅のいい指宿がクラスメイトの荷物と共に陣取り、後列では八百万や轟などが静かに到着を待ち、中列から前列は緑谷たちが会話に花を咲かせ最前列の相澤に叱られている。

 

『───君はヒーローになれる』

 

 その光景を前にかつての言葉が脳裏を過ぎったが、指宿は特に気に留めることなくその瞼を閉じる。

 ヒーローだろうと何だろうと、生き方を制限されようと変化させようと、結局のところ己は己なのだから。

 

 

「おいお前ら、そろそろ着くぞ」

 

 そうして一同は、動乱渦巻くUSJへと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ヴィラン)たちによるUSJ襲撃。

 

 雄英教師陣ですら予想だにしなかったその奇襲は、70を超える(ヴィラン)の数も相俟って相澤と13号の二人ではとても処理しきれるものではなく、黒霧と呼ばれる敵の個性によって生徒たちは無作為に各地域へ飛ばされ大きな混乱を招く事態と化してしまう。

 

 水難、土砂、火事と様々な演習場に飛ばされた生徒たちだったが、ただ一人指宿だけは彼らとは全く異なる場所へ、それもUSJ内部とは思えない快晴が顔を覗かせる開けた荒野の只中に飛ばされていた。

 

「…………ほう?」

 

 人の気配はない。

 しかし指宿の眼前には見たこともない巨大な純白の繭が荘厳な雰囲気を漂わせながら鎮座しており、その只ならぬ気配は指宿の興味を引くには十分すぎるもので───

 

 

 ───瞬間、繭が爆ぜて弾丸が指宿へと射出される。

 

「やるか!」

 

 真正面からその弾丸を受け止めれてやれば衝撃波と共に大地に亀裂が走る。

 指宿の巨躯をして押し返せず拮抗するその弾丸の正体は、特徴的な法陣を頭上に携え目の部分から左右2対の翼を生やした指宿を超える体躯を持つ白き怪物。

 果たしてその正体は異形型の人間か、はたまた異形の化け物か……どちらにしても指宿のやることは変わらない。

 拮抗する両上腕はそのままに、空いた下右腕で怪物のがら空きになった腹部に拳を打ち込む。

 

「(手応えがない……?)」

 

 拳に走る違和感に眉を潜めたのも束の間、何処か嘲笑うように口元を歪ませた怪物によるカウンターが指宿の脇腹を襲う。

 瞬きの後には振るわれていたその剛力で十メートル以上も吹き飛ばされながらも、しかし指宿の表情に苦悶の色は皆無。

 その脳裏を過ぎるのは疑惑、そしてそれを晴らすための数多の算段。

 吹き飛ばされる中で体制を立て直した指宿は、追撃を仕掛けんと駆けだして来ていた怪物目掛け今度は振り下ろされた拳を避けながら勢いそのままに卍蹴りを顔面に叩き込む。

 先ほど同様鮮やかに決まったその会心の一撃は、しかしその足裏から伝わる衝撃は会心とは程遠いまるで巨大なスポンジを叩いているかのような不可解な感触。

 

「(なるほど、打撃の類には耐性があるのか)」

 

 ケロリとしている怪物に足を掴まれ宙へ放り投げられるとそのまま動けずに落下する指宿へ渾身の拳打が撃ち込まれ、咄嗟に複腕をクロスさせ衝撃を緩和しようと試みる指宿ではあったものの、その体は荒野を転がり岩盤へと激突し崩落と共に土煙を周囲に漂わせその姿を隠してしまう。

 

「……」

 

 怪物はその様子を先のように追撃することはなく黙って見つめ続けていた。

 人であれば誰もが持ち得る感情の機微を一切覗かせないまま、ただじっと実験動物を観察するような研究者の如き佇まいで。

 その姿はまるで指宿の次の行動を些細まで見逃さないと言わんばかりであり、指宿がこの程度で行動不能になる訳がないと確信しているかのようだった。

 

 そして、荒野に漂う空気が一変する。

 

 

「解」

 

 

 光芒一閃。

 

 土煙を断ち切るように放たれた斬撃が大地を断割しながら怪物へ迫る。

 瞬間、遅れたように発生した突風が土煙を吹き飛ばしその光景を露わにすれば、指宿が体操服に付いた汚れを払いながら頭を両断され(・・・・・・)崩れ落ちる怪物に近づいて来ていた。

 

「先ほどの感触的に打撃の無効化というよりはショック吸収の類と言ったところだろう? 他にも色々と与えられている(・・・・・・・)ようだが、それでは斬撃(これ)は防げまい」

 

 指宿はその容姿から複腕複眼が個性だと周囲からは思われているが、実のところそれは誤りである。

 何故なら彼の異形の体は生まれついての異常性(ギフテッド)

 彼の故郷の住民たちに倣って言うのであれば、その体は母の子宮で双子を食い荒らしたことによる呪われた肉体。

 指宿悠二の真の個性はこの斬撃───御廚子と呼ばれる万物を断つ異能。

 

「それにしても改造人間とはな……()の手先なのだろうが、相も変わらず狡い真似をする」

 

 脳裏を過ぎるのは、幼少期に出会った自身を魔王と名乗る指宿にとって所縁のある男。

 人を人とも思わぬ鬼畜の如き所業はもちろん、何よりその象徴とも言える個性の複数所持という要素こそが、他でもないこの一連の事件の黒幕が件の人物であると言う何よりの証拠だろう。

 

「どうやら、まだお前たちの因縁は終わっていないようだぞ?」

 

 黎明の頃より続くその関係に微かな笑みを溢しながら、指宿は目の前の死体から視線を外しどのようにして雄英へ帰還するか思案する。

 ワープの個性の類で無理やり連れて来られたため自身が今何処にいるのかは定かではないが、幸いなことに電波は通っているようなので通信手段が取れる以上はどうとでもなるだろう。

 指宿は支給された端末を操作しながら、既に現着しているのかの確認も込めてオールマイトへ通話を試みようとして───

 

 

 ガコン

 

 

 ───法陣が廻る

 

 

 

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