鬼滅の刃異伝〜鋼の心、血の楽園〜 もしも明治時代に最強の「鳴柱」が存在し、無惨を懐柔して人間を家畜に変える「管理社会」を築いていたら 作:斉宮 柴野
私こと葛城颯、またの名を下弦の壱・風音と申しまして、連れの甘雷と共に青い彼岸花を探す旅の空。
腹が減っては戦はできぬと、ふらり立ち寄ったるは人の良さそうな炭焼きの家。
美味い白飯と猪肉をたらふくご馳走になり、ついでにポロリとこぼれ落ちたるは、なんと千年探し求めた幻の花の情報!
これぞ無償の恩がもたらした宇宙の真理、恩讐の天秤ここに極まれり。
無惨様の千年の悲願はあっさりと達成され、我らは未曾有の自由を勝ち取るに至る大盤振る舞い。
世界が食卓で変わる痛快無比な顛末、それでは本編、はじまりはじまり!
【山道】
山奥というものは腹が減る。
これはもう学問でも兵法でもなくただの真理である。
道が険しければ腹が減る。
空気が澄んでいれば腹が減る。
木々が青ければ腹が減る。
鳥が鳴けばああ鳥も焼けば美味しいのかしらなどと考えてしまうからやっぱり腹が減る。
肌を焼く陽光を遮りながら、急勾配の山道を一歩ずつ踏みしめた。今は人間の姿だ。鬼名は風音、下弦の壱。
けれどこの日差しの下で歩く私は、表向きは葛城颯。亡き夫の蔵書を手がかりに薬草を探す、少しばかり食い意地の張った旅の女である。少しばかり、というところが大事だ。本人がそう言っているのだからそうなのだ。
隣を歩く気配は甘雷である。下弦の弐にして、加須底羅職人の鬼。今ここにいるのは人間の構造を模して日光に耐える分身で、本体はどこか暗いところで菓子の配合でも考えているのだろう。こいつは顔が良い。腕も良い。だが口を開けば卵と砂糖と焼き加減の話しかしない。そういう意味では同行者としては少々うるさい。
「風音よ」
「残された古い文献の資料によれば、この辺りの山域のはずだが……。本当にこんな人里離れた場所に、千年も見つからなかった青い彼岸花が咲いているというのか?」
「さあね」
日傘の角度を変え、木漏れ日を遮る。
「見つからなかったらそれはそれで、良い運動の散歩だと思って気楽にいきましょう。地道な足の努力にこそ、幸運の女神は微笑むものよ」
「お前がそういう殊勝なことを言う時は、たいてい飯の匂いでも嗅ぎつけている」
「失礼ね」
「私はいつだって任務に真剣よ。青い彼岸花の探索は無惨様の千年の悲願。これを成し遂げれば、私の立場はますます盤石になる。鬼側でも、木冊体側でも、私の発言力は跳ね上がる。さっくんの生活もより豊かにできるし、甘味の予算も増える。こんな大事な仕事を、ただの食欲でおろそかにするわけがないでしょう」
「最後に本音が漏れているぞ」
「本音を隠しすぎると血の巡りに悪いのよ」
歩みを止める。
鼻先を微かな風が撫でた。
土と木の葉の匂い。
少し湿った薪の匂い。
そしてその奥に、ふわりと甘い香りが漂ってくる。
白米だ。
炊きたての白飯。しかも薪で炊いている。釜の底で米粒がふっくら立ち、湯気に甘みが乗り、少しだけおこげの気配も混じるあの匂い。
空腹感が胃袋の底から一気に込み上げてくる。
「む……!」
隣の気配が怪訝なものに変わる。
「どうした」
「この仄かに甘い香りは、薪で炊いた炊きたての白飯の匂い!」
「やはり飯か」
「黙らっしゃい。しかも炭の香りがいいわ。あそこの木立の向こうに家がある。少し道を尋ねてみましょう」
「道を尋ねるだけか」
「そろそろ夕方でお腹も空いたし、ついでに夕飯もたかりましょう!」
呆れたような思念が隣から飛んでくる。
「貴様、花の調査が主眼なのか、ただの食事が主眼なのか、全く分からんな」
「両方よ。世の中、一つの行動で一つの得しか得ないのは下手な商いです。道を尋ね、飯を食べ、花の情報も得る。三つ得られたら大勝利。もし花の情報がなくても、飯が美味しければ損ではないわ」
「筋が通っているようで、任務の優先順位が腐っている」
「腐ってなどいません。発酵しているのよ」
「詭弁だ」
◇◇
【炭焼き小屋】
木立を抜けると、古びた小屋と小さな民家が見えてきた。
煙突から細い煙が立ち昇っている。
炭の匂いが濃い。
火の気が安定している匂い。
隣の気配が僅かに変わる。職人としての本能が刺激されたのだろう。
「……ほう。火持ちの良さそうな炭だな」
「あなた、炭を見る目だけは本当に良いわね」
「菓子職人にとって火は命だ。良い炭は良い釜を作る」
「はいはい」
家から出てきたのは、穏やかな気配を纏った夫婦だった。年の頃からしてこの家の主夫婦だろう。山奥で炭焼きを営む家の人らしく、よく働く人のそれで、顔つきは穏やかだ。恐ろしいほど警戒心がない。私たちが鬼だったらどうするのだ。いや実際その通りなのだけれど。
「おやまあ」
父親らしき人が驚きに目を瞬かせる。
「こんな辺鄙な山奥に、綺麗な出立ちの旅のお方とは珍しい。私はここで炭焼きをしている竈門と申します。うちには何も気の利いたものはありませんが、夜露を凌ぐくらいなら、どうぞお入りくだされ」
続いて母親らしき人が、にこにこと微笑む。
「本当に粗食で申し訳ないのですが、ちょうどご飯が炊けたところです。よろしければ、夕餉もご一緒にいかがですか?」
歓喜の波が全身を駆け巡る。
勝った。
「まあ!よろしいのですか?」
旅の女らしく、遠慮深く見える笑みを作る。こういう時の私はたいへん上品だ。少なくとも最初の三呼吸くらいは。
「初対面なのに図々しくてすみませんねえ。お礼と言ってはなんですが、山道を登る途中で私が素手で仕留めた丸々と太った猪と、町で買った良いお酒がありますの。一緒にいただきましょう!」
夫婦の気配が驚愕に揺れる。
「素手で猪を?」
「ええ。少しぶつかってきたので、つい」
「少しどころか、猪の方が衝突事故に遭ったようなものだったがな」
「余計なことは言わない」
持っていた包みを下ろす。猪肉はすでに血抜きしてある。私なりにちゃんと処理したつもりだが、隣の職人は納得がいかないらしい。
「……風音よ、この猪肉、血抜きの処理が少々甘いな。私がやろう」
「はいはい、職人様にお任せします」
甘雷の意識が母親へと向く。
「奥さん、台所と包丁をお借りします。これほど火持ちの良さそうな素晴らしい炭があるなら、最高の野山の肉料理を作ってみせましょう」
母親は少し戸惑いながらも、すぐに嬉しそうに頷いた。
「まあまあ、ありがたいことです。どうぞこちらへ」
そこからはまさかの大宴会である。
山奥の小さな家で旅人二人と竈門夫婦が囲炉裏を囲む。甘雷は職人の顔になると本当に厄介なほど頼もしい。猪肉の臭みを抜き、脂のよいところを直火で香ばしく焼き、固い部位は味噌と酒で柔らかく煮る。炭の火加減を見ながら、肉の向きを半呼吸ずつ変えるその気迫は、加須底羅を焼く時と同じくらい真剣だ。
「肉は火加減が命ですからな」
炭を見つめる甘雷の横顔には、心底からの愉悦が浮かんでいる。
「お宅で焼かれた炭は、火力が安定していて本当に火持ちが良い。素晴らしい炭だ。私の菓子焼き釜にも使いたいくらいですよ」
「いやあ、炭だけが取り柄のようなもんでねえ。そう言ってもらえると嬉しいなあ」
「謙遜なさるな。火を制する者は味を制する。これは大変な腕前です」
甘雷がまともな褒め方をしている。珍しい。いや炭と火の話になるとこの男は急に真面目になる。菓子職人の本能なのだろう。
私はといえば、口いっぱいに肉と白飯を頬張っている。
「ん〜!美味しい!」
薪で炊いた白飯に、猪肉の脂が合う。味噌煮込みの濃い味を受け止める米の甘さ。直火焼きの香ばしさ。そこに町で買ってきた酒を少し。最高。これで人生が悪いはずがない。いや私は鬼なので人生というより鬼生かもしれないが、今は人間の姿なので人生でよい。
「やっぱり、気の置けない誰かと囲む温かい食卓は最高ね!生きててよかったわ!」
「お前、鬼だろう」
「今は人間の姿よ。細かいことを言わない」
「よほどお腹が空いていたんですねえ。たくさん召し上がってください」
「ありがとうございます。お母さん、このご飯、炊き加減が絶妙です。お米の立ち方がたいへんよろしい」
「まあ、お上手ねえ」
「本心です。私は食べ物に嘘はつきません」
本当にそうだ。人間にはたまに嘘をつく。鬼にもつく。無惨様にはなるべくつかない。けれど食べ物には嘘をつかない。美味いものは美味い。不味いものは不味い。そこだけは私の信条である。
酒も回り、父親の顔にほんのりと赤みが差す。甘雷は猪肉の煮込みを改良しながら、炭の焼き方についてあれこれ聞いている。母親はこんなに賑やかな夕餉は久しぶりだと喜んでいる。本当に良い人たちだ。良い人すぎてこちらが少し心配になるくらいだ。山奥でこんな人の良さをさらしていたら、悪い鬼や山賊に狙われるのではないか。いや今目の前にいるのがその鬼の一種ではあるのだが、私たちは礼儀正しい鬼なので問題ない。たぶん。
ふと本題を思い出す。
食べ物が美味しすぎて忘れていた。危ない。だが忘れていたからこそ場が和んだとも言える。やはり食卓は情報収集の場として優れている。腹を満たした者は心も緩むのだ。
「そういえばお父さん」
「私たち、薬の原料になる青い彼岸花という珍しい草花を探して旅をしているんですけれど……この辺りで、何かご存知ないですか?」
父親は、あっさりと頷いた。
「ああ、青い彼岸花かい?それならよく知ってるよ」
箸が止まる。
隣の気配も完全に静止した。
「……はい?」
声が重なる。
「一年のうち、ほんの数日だけ、昼間の太陽の下でしか咲かない不思議な花だ。うちの裏山の日当たりの良い場所に、昔から群生地があってねえ。季節的に、ちょうど明日あたりが満開で見頃じゃないかなあ」
沈黙。
囲炉裏の火が、ぱちりと鳴る。
思考が停止している。隣の男も同様だ。あの甘雷が、菓子の話もせずに固まっている。これはかなりの異常事態だ。
嘘でしょ。
無惨様が血眼になって千年探しても見つからなかった伝説の花が。
夕飯のついでにたまたま寄った炭焼き小屋で。
あっさりと出てきた。
いや、待てよ。
心の中で、力強く拳を握りしめる。
これは偶然ではない。
やはり。
「間違いない」
微かな声が唇から漏れる。
「これこそ恩讐の理だわ!」
夫婦が不思議そうな視線を向けてくる。隣の男の呆れ果てた気配も感じる。
誇らしさが再び胸を満たす。
「このように、私が無償の恩、すなわち極上の料理と酒を与えたからこそ、その正当な報い、すなわち千年の機密情報が天秤の釣り合いとして返ってきたのよ!これぞ宇宙の真理!私は間違っていなかった!!」
冷ややかな思念が飛んでくる。
「猪を料理したのは主に私だ」
「共同成果よ」
「酒を持ってきたのはお前だが」
「そうでしょう?つまり私の恩も入っている」
「食事をたかったついでに情報が出ただけではないのか」
父親は愉快そうに微笑んでいる。
「いやあ、お役に立てたなら何よりだ。明日、案内しよう」
「花を見に行くなら、朝ご飯をしっかり食べてからにしましょうね」
この家は危ない。
人が良すぎる。
だがその人の良さが今この瞬間、日ノ本の歴史を変えた。米の匂いに釣られて寄った私も偉い。猪を料理した甘雷も偉い。酒を振る舞った私も偉い。つまり食欲と職人気質と人の善意が千年の悲願を引き寄せたのである。なんという美しい理。やはり世界は恩讐の天秤で回っているのだ。
◇◇
翌日。
太陽が高く昇った昼時、私たちは父親の案内で裏山の斜面へ向かった。
朝ご飯も美味しかった。炊きたての米、山菜の味噌汁、昨日の猪肉を少し炙り直したもの。私は三杯食べた。甘雷は炭の火入れを褒めながら、残った猪の脂でちょっとした焼き菓子めいたものまで作り始めた。
母親が大喜びしていた。あの人、甘雷を親戚の若者くらいに思い始めている。危ない。顔の良い鬼をそこまで信用してはいけない。まあ菓子は美味しいのだけれど。
「ほら、あそこだよ」
「綺麗に咲いてるだろう」
木漏れ日が差し込む、ぽっかりと開けた斜面。
そこに青い花が一面に咲き誇っていた。
青い。
本当に青い。
彼岸花の形をしているのに、見慣れた赤ではない。宝石のような、空の底のような、深い水を透かしたような青。
昼の光の中でしか咲かないというのも、見れば分かる気がする。花びらそのものが日を受けて輝いている。夜に見たらきっと閉じているか、存在に気づけないのだろう。無惨様が千年探して見つからないわけだ。鬼は昼を歩けない。昼に咲く花を夜の者が探しても見つからない。
「綺麗……」
「本当に青い彼岸花だわ」
「これだ……。間違いない。文献にある特徴と完全に一致する」
その手が小刻みに震えているのが気配でわかる。菓子を焼く時の震えとは少し違う。興奮と緊張だ。甘雷は慎重に根を傷つけないように花を採る。桐箱を取り出し、湿らせた布を敷き、花と根を丁寧に納める。そこだけは本当に信頼できる。
その様子を確認してから、すぐに念話の糸を辿る。
無惨様へ。
『無惨様』
一拍。
『……何だ、風音』
いつもの低い声。だが今日ばかりは少しだけ抑えた意識を送る。ふざける場面ではない。これは本当に歴史が動く報告だ。
『見つけました』
『……何をだ』
『正真正銘の、青い彼岸花にございます』
返事がない。
返事がない代わりに、無惨様の気配が、今まで感じたことのないほど強く揺れる。怒りではない。恐怖でもない。歓喜だ。あまりに大きすぎて最初は何か分からないほどの歓喜。
桐箱をそっと掲げる。
『現物も採取済みにございます。鳴女殿を通じて、ただちにお送りします』
べん、と遠くで琵琶の音が響く。
桐箱が消える。
やった。
やってしまった。
本当にやった。
私の食欲が、いや私の恩讐の理が、いや竈門家の人の良さが、甘雷の料理が、白飯の匂いが、全部つながって無惨様の千年を終わらせた。
◇◇
【無限城】
無限城の上段の間で、無惨様が現物を手にした時のことは、念話越しにもはっきりと伝わってきた。
『…………』
沈黙。
手が震えている気配が伝わる。強大な鬼の始祖が今まで見せたことのない震え。赤い瞳が見開かれ、常に冷酷だった口元が抑えきれない歓喜で歪んでいるのが、見えないのに分かる。あまりの気配にこちらの背筋まで熱くなる。
『ハ……ハハ……』
『フハハハハハハハハハ!!!』
千年。
あまりにも長すぎる年月。太陽の下を歩けない屈辱。病弱だった人間時代から続く、死への恐怖と呪縛。私は無惨様の全てを知っているわけではない。けれどその笑いの奥に、どれほど巨大なものがほどけたのかは分かる。
千年の便秘が解消されたかのような、と言うと不敬だが、まさにそんな開放感だ。いや口には出さない。さすがの私でも言わない。思うだけだ。
『でかした……!』
『でかしたぞ風音!甘雷!貴様らこそ、我が軍団における至高の部下だ!千年の呪いが……今、解ける!!』
その場で深く頭を下げる。
父親が心配そうな気配を向けてくる。
「どうかしたのかい?」
「いえ」
「とても大切な薬草が見つかったので、胸がいっぱいになっただけです」
「そうかい。それはよかった」
本当にこの人たちは良い人だ。
ただこの家には礼を返さねばならないと思った。
恩を受けたなら釣り合うだけのものを返す。それが私の理だ。竈門家は食事と情報をくれた。ならば私はこの家を守る。少なくとも鬼の食い荒らしからは外す。
甘雷にもそう命じるし、無惨様にも報告の中で現地協力者として保護対象と書く。書類にすれば大抵のことは通る。たぶん。
数日後、私は甘雷と共に無限城へ呼ばれた。
無惨様は上機嫌を通り越していた。
いつもの威圧感が薄い。いや力そのものは変わらない。むしろ恐ろしいほど満ちている。だがその向きが違う。冷たく刺す刃ではなく、背後から後光でも差しているような開放感。あの無惨様がまるで機嫌のよい帝王みたいに見える。いや帝王なのだけれど、いつもは機嫌が悪すぎるのだ。
私と甘雷は平伏する。
「礼を言うぞ、風音、甘雷」
「お前たちの功績は計り知れん。これまでの、私への無礼の一切を許そう」
伏せたまま、目を瞬かせる。
え。
「甘雷が延々と菓子の話をしたことも、私の神聖な御前で不埒な要求を口走ったことも、全て不問とする!」
「ははっ!ありがたき幸せにございます!」
そんなことまで許すのか。無惨様、本当にご乱心では。いや嬉しい方向のご乱心なので黙っておく。
「最大級の褒美を取らす。金か?地位か?いや、千年の悲願を達成したのだ、そんなちっぽけなものでは到底足りぬな」
「お前たちは、これからもお前たちの好きにせよ!私が全てを許す!」
「お前たちの良いと思うことを、存分にやれ!私の悲願を叶えたお前たちの判断に、もはや一切の間違いはないと私が直々に保証しよう!」
え。
今、なんと。
「定期的な報告さえ怠らなければ、私が命令したこと以外は、文字通り好きにせよ!貴様らに、一切の行動の自由を与えよう!」
行動の自由。
好きにしてよい。
定期報告だけ。
命令以外は自由。
つまりさっくんたちと、このまま仲良く夫婦生活を続けてもよい。鬼殺隊の帳場も続けてよい。
竈門家を保護対象にしてもよい。甘雷の店を使って全国の情報を集めてもよい。組織改革も、粛清の誘導も、恩讐の天秤も、かなり自由に動かせる。
震えが走る。
恐怖ではない。
歓喜である。
隣の男も震えているのがわかる。たぶん理由は違う。
「ついに……」
「長崎から帝都、そして日ノ本全国への、加須底羅屋の暖簾分けの完全なる許可が降りた……。これで私は真の菓子王になれる……」
無惨様が聞こえないふりをしている。器が広くなった。青い彼岸花とはすごい。千年の悲願が叶うと無惨様ですら菓子王を聞き流せるのだ。
「ありがたき幸せにございます!」
「この風音、無惨様より賜った自由を、必ずや最大の成果へ変えてみせます!」
「期待している」
その言葉だけで、また胸が熱くなる。
やった。
ついにやってしまった。
青い彼岸花を研究し尽くせば、無惨様はやがて太陽を完全に克服し、弱点のない真の最強の生物となるでしょう。そして私は、その最強の生物から全権委任に近い言質を取った、世界で一番自由で力を持った妻であり鬼となった。
さあ私の絵図面通り。
これからもっと、私の人生は面白くなる。
風音「というわけで竈門家の炭焼き小屋は今、未曾有の繁忙期を迎えているらしいわよ」
甘雷「あれほど火持ちが良く火力の安定した素晴らしい炭だ。私の加須底羅の焼き釜に使ったところ焼き上がりのふんわり感が格段に向上した。店に出せば飛ぶように売れるのは当然の理である」
風音「おかげでお父さんたち寝る間も惜しんで炭を焼いてるみたい。人が良すぎるから注文されたら全部受けちゃうのよね」
甘雷「職人として良質な素材を求めるのは必然。適正な対価は払っているのだから問題あるまい」
風音「まあ無惨様に千年の悲願をもたらした功労者だし、たくさん稼いで豊かな生活を送ってもらうのも恩返しのうちね。ところで私の分の加須底羅は?」
甘雷「本日の分はとうに完売した。炭が足りん」
風音「ちょっと、私のおかげで手に入ったルートなのに!」