鬼滅の刃異伝〜鋼の心、血の楽園〜 もしも明治時代に最強の「鳴柱」が存在し、無惨を懐柔して人間を家畜に変える「管理社会」を築いていたら   作:斉宮 柴野

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さあさあ、お立ち会い!
此度皆様のお目にかけまするは、前代未聞、驚天動地の二重生活!
表は鬼殺隊を支える黄金の柱石、裏は夜の闇を統べる美しき下弦の鬼――この鱗滝颯の、痛快無比なる華麗な復帰戦でございます!

四つ子の出産という大仕事を終え、いよいよ表舞台へ舞い戻ったこの私!
まずは我が主・無惨様の御前へ赴きまして、理性を保ったまま鬼へ転ずる幻の霊薬『上質鬼化薬』をまんまと手に入れたのでございます!
これで次なる舞台の仕込みは万全、意気揚々と向かうは深夜の竹林!

そこで待ち受けておりましたのは、あろうことか美しき少年を盾にする、三流のチンピラ小悪党!
鬼としての美学も矜持も持たぬその外道、我が黄金の雷霆で、瞬く間に成敗してやりましたわ!
……え? 「助け出したその美少年はどうなった」ですって?
オホホホ! もちろん、私がたっぷりの慈愛を込めて、残さず美味しく「いただいて」あげましたとも!

正義の剣で悪を討ち、その裏で極上の命を喰らう!
矛盾すらも最高のスパイスとして丸飲みにして、今宵も愛しき我が子へ特濃の乳を含ませる!
懐に忍ばせた青い小瓶を切り札に、次なる舞台へ上げる役者は一体誰になるのやら!?

母にして鬼、剣士にして捕食者!
稀代の悪女・鱗滝颯が紡ぎ出す、血と狂気と極上の愛の狂言回し!
さあさあ皆様、とくとご覧あれ!


母は強し、鬼はもっと強し

「……青い彼岸花を以てしても、直ちに太陽を克服できるわけではない。この花の成分は、あまりにも強烈すぎるのだ。既存の鬼の細胞と無理なく馴染ませていくには、それこそ気の遠くなるような細かい段階をいくつも踏まねばならぬ」

 

どうやら、念願だったあの花を手に入れてからも、研究はそう簡単には進んでいないご様子ね。

 

「なるほど。何事も一朝一夕にはいかない、ということですね。ですが無惨様、そんなに焦る必要はどこにもございません。私たちには時間は無限にありますし、何より……そちらの机に置いてある副産物は、素人目に見ても素晴らしい仕上がりではないですか」

 

そこには、薄暗い部屋の中でも自己主張するように、仄かく怪しく、青く輝く液体がたっぷりと入っている。

言葉にわずかに反応し、無惨様はその青い液体の入った小瓶を細い指でつまみ上げる。

 

「……ああ。この上質鬼化薬のことか。これを使えば、ただ血を与えるのとは違い、人間時代の記憶や理性を保ったまま、鬼に転じることができる」

 

「まあ! ということはつまり、獣のような本能と破壊衝動に振り回されて暴走することもなく、無惨様がわざわざ念話で細かく統制しなくとも、己の頭でしっかりと考えて動ける、賢い鬼が作れるのですね! それは素晴らしい大発明です!」

 

無惨様は大きなため息をついて、呆れ果てたような顔で私を睨みつける。

 

「そうだ。……最近は、事あるごとにくだらぬ日常の報告を念話で寄越してきて、私の崇高な思考を妨げる阿呆がおってな。これ以上、いちいち手のかかる駒を増やしたくないのだ」

 

その言葉の裏にある鋭い棘に気づかないフリをして、私はわざとらしく目を丸くして憤慨してみせる。

 

「まあ! 無惨様の、海よりも深いお心を煩わせるなど万死に値するふつつかな輩ですね! どこの馬の骨か知りませんが、少しは己の頭で考えて自立して動けと、私からもきつく説教してやりたい気分です!」

 

「…………お前のことだぞ、風音」

 

無惨様の冷ややかな声が部屋に響くけれど、私はどこ吹く風で笑い飛ばす。

 

「あらやだ! 私は無惨様の有能な右腕であり、最高傑作ではありませんか! 些細な日常の報告も、組織の円滑な意思疎通には不可欠な潤滑油ですし。 まぁ、それはともかく。この薬があれば、無惨様はいちいち下っ端に指示を出す煩わしい手間から解放され、平穏をお約束されるというわけですね。まさに極上の品、歴史的な大発明です」

 

無惨様は私の図太さに毒気を抜かれたのか、小瓶を見つめたまま言葉を続ける。

 

「理屈の上ではな。だが、これに適合する者は極めて少ないのが現実だ。私の支配から外れて、圧倒的な力を与えられてなお、裏切らぬ人間など、そうそう転がってはいないからな」

 

「でしたら、この薬は、有能な私が責任を持って預かっておきます。もし私の目にかなうと思えるような、逸材に出会えたなら。最高の駒として引き入れてご覧に入れます」

 

「……好きにしろ。ただし、使い物にならない出来損ないを無駄に増やすことだけは絶対に許さんぞ」

 

ふふっ、これで言質は取ったわね。

記憶と理性を完璧に保ったまま、強靭な鬼になれる夢のような特効薬。

 

これは、私がこれから仕掛ける舞台作りにおいて、役者の幅を大きく広げてくれる切り札になるはずよ。

どんな物語を紡いで、誰を舞台に立たせるか。想像するだけで胸が躍って、産後の疲れも吹き飛びそうだわ。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

深夜。

 

滅の字が染め抜かれた隊服の上に、風に軽やかにたなびく美しい羽織を纏い、腰には黄金に輝く日輪刀をしっかりと携えている。

 

さあ、愛しい我が子たちにたっぷりと乳をやるためにも、さっさとこの退屈な仕事を終わらせて、肉を喰らって精をつけなければね。

 

出産を終え、いよいよ鬼殺隊の柱としての華々しい復帰戦。

この記念すべき大舞台、誰よりも派手に、そして美しく飾らせてもらうわよ。

 

お館様も、私が休んでいる間に色々と采配を振るってくださったみたいだけれど、やはり私が現場に立たないと始まらないわよね。

 

竹林の奥から、粗野な音が聞こえてくる。

見れば、村から人を攫ってきたらしい異形の鬼が、茂みに隠れて震えていた少年を、乱暴に引きずり出そうとしているところ。

 

少年は十代の後半くらいかしら。恐怖に顔を歪めているけれど、月明かりに照らされた顔立ちは整っていて、なかなかの美少年じゃない。

 

あんな薄汚い鬼の胃袋に収まるには、いささか勿体ない素材だわ。

 

「そこまでよ、醜い化け物。その美しい獲物から、今すぐ汚い手を離しなさいな」

 

背後から声をかけると、鬼は弾かれたように肩を跳ねさせて振り返る。

 

「あァ!? なんだテメェは! いつからそこにいやがった……!」

 

鬼の血走った目が私を捉えるけれど、私は全く動じることなく、日輪刀を抜き放つ。

 

「名乗るほどの者ではありませんが、冥土の土産に聞いて驚きなさい! 私は鬼殺隊を屋台骨から支える新たな柱石、鳴柱の鱗滝颯! さあ、私の華麗なる復帰戦の踏み台として、その命を懸けて尋常に立ち会いなさいな!」

 

「な、鳴柱だとォ!? 冗談じゃねえ、ばっちり名乗ってんじゃねえか!! 話が違うじゃねえか!!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

私とのの力量差を理解したらしい目の前の鬼が、傍らにへたり込む少年を引き寄せた。白く細い綺麗な首筋に、爪を突き立てている。

 

「へ、へへっ!止まれ!それ以上一歩でも近づいてみろ、この餓鬼の喉笛を引き裂くぞ!!」

 

「ひっ……!嫌だ、助けて……!!」

 

「……むむっ。己の保身のために、自分より弱き者を盾にするとは……!なんて卑劣な真似かしら!美学の欠片もなければ、武士の風上にも置けないわね!」

 

我も人、彼も人……そして我も鬼、彼も鬼。

 

力を持つ強き鬼としてこの闇夜を統べるつもりなら、その力にふさわしい気高い矜持を持たなくてどうするのって話よ。

 

自分が生き残るために、そしてより高みへ登るために、弱き人間を喰らうのは生存の道理であり、自然の摂理なのだからしかたのないこと。

 

でも、いざ自分より強い相手に出会ったからといって、自分の身を守るために盾にして命乞いをするなんて……その辺の安い草紙に出てくるような、三流の小悪党のやることだわ!鬼としての格が下がるから、同族として本当にやめてほしいのよね。

 

「……ただの獣に堕ちたな」

 

その瞬間。瞳孔が縦に裂け、鮮やかな虹彩の中に『下弦』『壱』という文字が浮かび上がった。

 

隠していた圧倒的な鬼としての力をほんの少しだけ解放してやると、周囲の空気が、一瞬にして震えていく。

 

「な……なんだよ、テメェのその目は……!?嘘だろ、お前、鬼殺隊の柱じゃ……いや、お前も俺たちと同じ鬼なのか……!?」

 

鬼の顔が、恐怖と混乱でさらに醜く引き攣っている。

 

「『如是畜生発菩提心』………どうかしら?己の浅ましさと美意識の欠如を、今ここで悔い改める気はある?」

 

「あ、あるわけねえだろ!!テメェもろともこのガキも殺してやる!!死ねェ!!」

 

「……そう。お話し合いは無理のようね。我が誇り高き鬼族に、貴様のような矜持なき下劣な輩が加わることは、この私が許さない!」

 

私は言い捨てるなり姿勢を低く沈み込ませ、全身に激しい黄金の雷光を纏わせた。

 

「雷の呼吸・壱ノ型――霹靂一閃!」

 

耳をつんざくような轟音。

鬼が声を上げる間すら与えない。刃が閃いた瞬間、その首は胴体から引きちぎられるように宙を舞い、人質にされていた少年は、かすり傷一つないままその場に取り残された。

 

背後で、首を失った鬼の体が灰となって夜風に消えていく。

 

「あ……ありがとう、ございます……。た、助かった……本当に、俺は助かったんですね……」

 

「やあ坊や。無事で何よりよ。どこか痛むところや、怪我はしていないかしら?」

 

「は、はい……!何も怪我はありません……!全ては、あなた様のおかげです……!」

 

安心させるように、少年の頬をそっと撫でてあげる。

すると少年は、私の美貌と、大人の女の色香にあてられたのか、初々しく頬を赤らめた。本当に可愛い子。

 

「それは良かったわ。大事な命を拾ったわね。……でもね、坊や。お姉さん、さっきの戦闘で随分と精を使ってしまって、今、すっごくお腹が空いちゃっているの。私ね四人の子を産んだばかりで、母乳を作るのに栄養が必要なのよ?」

 

「え……?栄養、ですか……?あの、こんな俺でよければ、ふもとの村までご案内しますから、そこで何かお食事をたっぷりと振る舞わせて……」

 

私は微笑みながら、少年の耳元へとゆっくり顔を寄せた。

甘い、若々しい血の匂いが鼻腔をくすぐって、もうよだれが出そうだわ。

 

「ううん。そんな手間はかけさせないわ。だって、もう目の前に、こんなにも極上のご馳走があるんだもの。……大丈夫よ、悪いようには絶対にしない。お姉さんがちゃんと、痛くしないで、とろけるくらい気持ちよくしてあげるからね」

 

「え……んっ……あ、あれ……?なんだか急に、体に、力が……」

 

「私の永遠の美しさの一部となって、極楽へ行きなさいな……。それじゃあ、遠慮なく……いただきます♡」

 

静寂に包まれた竹林に、鬼に対する恐怖の叫びとは違う、甘く、熱っぽく濡れたような吐息混じりの悲鳴が微かに響き渡る。

 

それは客観的に見れば紛れもない捕食の光景だけれど、私からしてみれば、この少年を俗世から解放してあげる、慈愛に満ちた私なりの救済の儀式なのよ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

【鱗滝邸】

 

心ゆくまでお食事を堪能して、私は何食わぬ顔で愛の巣へと帰宅した。

 

口元の汚れや血の匂いなんて、道中で手鏡を使いながら完璧に拭き取って、香水で綺麗に消し去っているから抜かりはないわ。

 

「ただいま〜!さっくん、弥太郎!私、無事に帰ったわよ〜!」

 

「おかえり、颯。任務、思ったより早かったな。どこか怪我はしていないか?」

 

「……ん。おかえり、颯……むにゃ」

 

「ええ!ばっちり華麗に任務をこなしてきたわよ!弱者を盾にするような卑怯で醜い鬼をサクッと成敗して、村の平和をしっかりと守ってきたの!柱の鑑と言っても過言ではない、素晴らしい働きぶりだったわよ!」

 

奥の寝室から四つ子たちの泣き声が聞こえてきた。

 

「あらあら!私の可愛い可愛い子たち、お腹が空いて泣いているのね〜!待ってなさい、お母さんも外でたぁ〜っぷりと精をつけてきたばかりだから、今日のおっぱいはとびきり特濃で美味しいわよ〜!」

 

ごめんね、名もなき美少年くん。

君からいただいた甘い命の熱は、こうしてこの子たちの血肉として、大切に使わせてもらうわね。……さて、明日はどこの鬼を狩るついでに、どんな美味しい人間を食べようかしら。考えるだけで胸が弾むわ。




颯「さあさあ、本編のあとはお楽しみ! 明治コソコソ噂話の時間よ!」

左近次「今回は、我々が授かった四つ子についてだな」

颯「そうよ! ねえさっくん、自然妊娠で四つ子を身籠って無事に産まれる確率ってどれくらいか知ってる? なんと、およそ50万分の1から70万分の1とも言われているのよ! まさに天文学的な奇跡の確率ね!」

左近次「50万分の1……。途方もない数字だな。それほどまでの奇跡を乗り越えて、よくぞ無事に四人も産んでくれた。颯、お前と子供たちには感謝してもしきれんよ」

颯「ふふっ、これくらい私にかかれば朝飯前よ! なにせ私は、美しさも体力も、運の強さだって常人の何十万倍も持ち合わせた、文字通り選ばれし女なんだから! さっくんもこれからは四人の子育て、しっかり手伝ってもらうわよ?」

左近次「ああ、もちろんだ。……しかし、お前は本当に底知れん生命力だな。四人にたっぷりと乳をやり、休む間もなく夜の任務に復帰するとは。育児と柱の務め、決して無理だけはするなよ」

颯「ええ、任せてちょうだい! 私ってば、外で任務をこなしている方がたっぷりと『極上の栄養』が摂れて、かえって体の調子がすこぶる良いのよね♡ だから今日も、元気に夜のお散歩へ行ってくるわ!」

左近次「……? ああ、そうか。外で身体を動かして鬼を狩る方が、お前の血に合っているのだな。頼もしい限りだが、怪我にだけは気をつけるんだぞ」

颯「うふふ、ありがとう、さっくん! 愛してるわ! それじゃあ皆様、また次回のお話でお会いしましょうね!」
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