スカード・スワロウ・アンド・サンベリーナ・ドロイド   作:nallowship

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スカード・スワロウ・アンド・サンベリーナ・ドロイド #7

静かな空に、海鳥の羽音が鳴った。

夜明け前の海。一定のリズムで潮騒が音をぬぐい去り、海へと帰り、また打ち寄せる。音に溢れていてしかし無音、小さな命に溢れていてしかし虚空、無限の始点とも言うべきゼンめいた空間があった。ーーただひとつを除いて。

波の合間、濡れた砂に3、4つの足跡が残り、消える。

波打ち際を1人の少女が歩いていた。ブーツを両手に、裸足でぎこちなく軽やかなタップを踏む。快適とは感じられない冷たい飛沫の上を、それでも楽しげに歩き、時折、砂に紛れた薬莢を蹴りあげた。

ーーふと、少女は何かを見つけ、乾いた浜辺へと踏み出した。かかとの砂を、白い泡が洗った。

「何これ?」

少女がつまみ上げたのは、鮮やかなネオンレッドのラインが入った、片足分のテクノスニーカーだった。治安の悪いダウンタウン路地裏で、悪童が好んで履くタイプのデザインだ。新品ではないが履き潰したという程でもない。少し目線を上げると、もう片方が靴底をこちらに向けている。近くに赤い差し色。白い衣服が人目を避けるように薄く砂を被り、点々と落ちている。

ーーその傍らに足跡。

海へと続く2人の足跡は、緩やかな夜風に撫でられ、既に消えていた。だが海から続く2人分の足跡は、枯山水めいた静謐の地平に、かろうじてその痕跡をとどめていた。小さなカニが、砂に刺さった小枝の影から窪みを下り、何事もなかったかのように通りすぎた。

少女はまず海を、そして浜を眺めた。一瞬、波間へと駆けていくカワイイな水着姿の生徒たちの幻が浮かぶ。だが足跡の先に少女が感じたのは、それとは別種のカワイイなアトモスフィアだった。

足跡が2列に増え、風に消えるまでの僅かな時間、砂に残った。ーー閉鎖されているはずのシャワールームへ向かって。

 

 

【スカード・スワロウ・アンド・サンベリーナ・ドロイド】#7

 

 

海鳥の鳴き声。

仕切り板の隙間から、ほのかな明かりが入ってくる。潮風と、潮騒と、海の香りも。内蔵時計を確認するまでもない。世界は無慈悲に時を刻み、傷つき倒れた者を捨て置いてはくれない。

「おはようございます、ミサキ。おねぼうさんですね……遅くまで起きてるからですよ」

毎朝のようにーー3日前までアリスにそうしていたように、ケイは膝枕したミサキの頭をなでた。乾いた海水で荒れた前髪を、指で巻くようにすく。ーー改造AMASの筐体ではできなかった挙動だ。この身体なら、あれに出来る動作はだいたい出来る。LANケーブルがあればインターネットへの直結も。ふてぶてしいモモイのフートンを引き剥がすことだって……

(…………出来るはずなのに)

髪をなでる手が、止まる。

痛覚センサーがリブートし、クローンヤクザに撃たれた右腕がうずいた。力加減を間違えないよう、いったん手を離す。

ミサキはまだ眠っている。

体温が戻り、呼吸も落ち着いた。致命傷はない。だが彼女は傷だらけだった。錆じみた疲労と死の気配に、キノコ・コンポストめいて侵食されているようだ。今すぐにでも病院に運ぶべきなのだろう。だが、ここは時季外れのアウトロービーチで、ミサキは指名手配犯で、ケイも賞金首で、学籍も、救援も、クレジットも、通信手段もなかった。

「何でもできる」などと思い上がってはいない。だが「何かはできる」「いずれはできるようになる」という確信はあった。人としての、生徒としての営みの先に、いずれは。まずはあのAMASの筐体から抜け出せれば。

(……ミサキはそんな私を助けに来てくれた。アリスの言う「勇者」のように。そして私もーー)

思い上がりだった。

現実は無慈悲だ。何もできない。彼女に助けられ、彼女を助けられる。……そう思っていたのに。

昨夜のあの声がメモリから消えない。

(ミサキは最初から、一度も私を見ていなかったんですね……)

彼女にとって、ケイというドロイドは「誰かの忘れ物」であり、「おつかいクエストで届ける荷物」だったのだ。クエストが失敗すればそれまでのこと。そう思い知らされた。

まだらな知識と、見当外れの常識と、役立たずの良識が、虚しくメモリに去来する。どれもミサキの背には届かなかった。その確信がある。淡々と布石を敷き、用済みとしてフェードアウトしようとした彼女を、力づくで物理肉体を捕らえ、生物学的な生に押し込めることしかできなかったのだ……

ちゃんと彼女を知りたい。

彼女に知ってほしい。

私という存在を思い知らせたい。

衒学的な言葉遊びでも、定義のプログラミングでもなく、私が、私であるために……天童ケイという1人の生徒であるために。

 

「……………~…~~……~~… ~…~~♩」

ケイの吐息が、ハミングに変わった。

 

「~………………~…~…………~………~~…~~♪」

何故なのかはケイにも分からない。ただ、こうしたい、と思った。

メモリ上には歌詞も、楽譜のデータもない。たぶんゲーム開発部が作ったどれかのゲームのBGMだろう。十中八九、クソゲーだ。いい気味だ。せいぜいうなされて最悪の寝覚めを味わうがいい。

(後は子守唄とか……ミサキ、子ども扱いされるの嫌がりそうですからね。早く起きないと終わりませんよ?)

悪戯っぽく笑うケイ。言葉に反して、ミサキの髪をすく手は優しい。

「~~~~、~…~~~~~……~、……ん?」

ケイはふと、天井を見上げた。

何かが頭上にかぶさり、曙光が陰ったような気がしたのだ。海鳥か、羽虫か……特には何もーー

 

「ヨー、そこ誰かいるの?」

 

「ヒャ、ひゃい!?」

唐突な問いかけに、ケイはつい、1オクターブ高い声で返事した。ーーALAS! そして致命的な失態に気付く!

(ーー聞かれた!? 誰!? 敵ですか!?)

まともな生徒が来るはずがない。あからさまに不審者だ。ーー無論、ケイたちも。

(は、早く逃げないと! 車のキーを……バックパックの中! もう無理、間に合わない! 服を集める暇がーーッ!)

視線が下へーーミサキの寝顔のさらに下、自分の身体に向く。服も靴も手元にない、丸裸の。代わりにミサキの服を借りてーーいや、彼女にかけた毛布でーー駄目だ、ミサキも裸だ! それに彼女は指名手配犯、顔を知られている可能性がある。いや、そういう問題ではなく人としての尊厳がーー

「あ、いた。……?」

右手にショットガンと自身の編上げブーツ、左手にケイの服とスニーカーを抱えた赤毛の少女が、怪訝そうな顔を覗かせた。バックパックから散乱したミサキの服、仕切り板の先へと辿らせた視線を、そっと逸らす。

「アー……お取り込み中ってヤツ? 外で待ってようか?」

「違います! そういうのやめてください!」

フリップアップヘルメットを被った赤髪の少女、河駒風ラブが気まずそうに後ろを向くのに、ケイは必死で抗弁した。

毛布をミサキの口元まで引き上げた以外は結局何もできず、細い腕で抱くようにして機体の前面ーー裸の身体を隠すのが精一杯だった。彼女のバストは平坦だった。

 

 

1分後。ラブから受け取ったパーカーを着たケイは、同じ姿勢で、フードを目深に被って顔を隠していた。

「死にたいです……」

「んな大げさな。チラッとしか見えてないって」

「見たんじゃないですか!」

恨めしそうにケイに睨め上げられ、ラブはガシガシと頭をかいた。姉らしき生徒を膝枕したまま脚を動かせず、フードに意識が行っているせいで、今も尻が裾から覗くのを見て見ぬ振りしてやる。ーーサイバネアイやLAN端子を優先、鼠径部のシリコン接合部までで隠すのを妥協し、羞恥を堪えるケイの意図には気付いていない。

「で、どういう状況なわけ? お姉さん? 救急車呼ぶ?」

「アッハイーーい、いえ、お構いなく!……お金、あんまりないんです」

「そう? ま、うちらも実際学籍なしの素寒貧だから、頼られてもどうにもなんないけどね。一応トリニティなら伝手がないわけじゃ……ってさすがに遠すぎか」

「い、いちおう私も医療の心得はあります」

嘘ではないが、それで思い出されるのは昨夜の無力と醜態だった。絞り出した声の末尾はモスキートの羽音めいていた。

「うっかり海で……深みで溺れかけて」

「密漁?」

「立ち寄っただけです。もう一度来たかった、私を連れて来たかった、って」

嘘ではない、と思う。ミサキは実際、ここに来たことがあるとすら言っていない。だが……

「いつもいつも世の中辛いことばっかり、良いことなんてない、みたいな顔して……でも、ちょっと……本当にちょっとだけですが……このビーチに行くって言ったとき、嬉しそうでした。だから……」

「うん、ワカル。他の団の連中どいつもこいつも総連合会の思い出自慢ばっかりしてきてさあ……で、浜辺ではしゃいで溺れた?」

「あ……ハイ」

肯定。ミサキには不名誉と思ったが、自分から誤解してくれるなら都合がいい。ケイには実際、これ以上の説明ははばかられた。

「まったく、妹ちゃんに何心配かけてんのよ。お祝いされて浮かれるにも限度があるでしょ」

「え、お祝い?」

「へ?」

ケイとラブは顔を見合わせる。

「あれ? さっきの歌、誕生日ソングじゃないの? いや、うちも聞いたことない曲だけど曲調がそんな感じだったからてっきり……」

「あ、いえ……違います。私、あまり音楽詳しくなくて」

まだ歌ったことも、歌われたこともない歌。どこかで記録した別の歌の、童謡めいてシンプルな歌詞を、仮想メモリが詠み上げる。

「でも……今はそれで良かったと思います」

そう言って、ケイは再びミサキの髪をなでた。

 

すぐ後に仲間に呼ばれたラブが、潰れたメロンパンを押し付けて立ち去ってから、ケイはもう一度、ミサキのために歌った。

結局、歌詞は思い出せなかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「…………」

 

上下逆さの、憮然としたケイの顔。

 

「遅刻ですよ、ミサキ」

 

上下逆さの、まだ夢うつつなミサキの顔。

 

日が昇り、2人が潜伏するシャワールームも明度を上げていた。まだ血色の薄いミサキはいよいよ白く、見下ろすケイの目元は暗く陰っている。茫漠とした世界に取り残された小空間で、か細くおぼろげなミサキの視線を、ケイのサイバネアイは捉え続けていた。涙に滲んだように、目の奥の刻印がかすかに揺らめいた。

「ケイ……どうして……」

喘鳴のようなミサキの声。

「ミサキを待っていたからに決まっているでしょう」

合成音声めいたケイの声。

「ここ……ビーチだよね」

「もちろんです」

「でも時刻はもう……」

「ええ、盛大に遅刻してましたよ。でも私はちゃんとここにいました。探し方雑すぎないですか? ……『どうして?』って顔してますね。状況判断ですよ」

呆れたような、小憎らしく見える微笑。小さな両手が、ミサキの両頬にそっと添えられる。

「先に行くように言ったのに……」

「合流できて良かったじゃないですか。少しは喜んだらどうですか。高性能な私の判断力に感謝してください」

勝ち誇ったように鼻を鳴らす。あえて煽るように。

「まあ、自分が最適解などと思い上がらないことですね。だいたいミサキを置いていくとかあり得ませんから。ミレニアムまで連れていって、全生徒の前で盛大にセレモニー開いて表彰します。キヴォトス全土に勝利宣言して、ふざけた犯人に全部無駄な企みだったと思い知らせてやるんです。そこまでやってようやく私の完全勝利です。だから」

なんて酷い台詞だ。子どもじみているにも程がある。モモイも笑うだろう。でも、

「私をエスコートしなさい、ミサキ。ミレニアムまで丁重に」

……ミサキが呆れて、笑って、一緒に行こう、と言ってくれるなら。

 

「それは……命令?」

 

ケイの声が途切れた。

ミサキの目はまだ虚ろで、言葉から何の感情もうかがい知れない。だが意識レベルの低下による反応ではない、極めて正常なプロトコルの結果として、彼女はそう出力したのだ。

これは「答え」ではない。プログラミングの条件設定だ。そうだ、最初と変わらない。

ミサキは自身の生存を、前提条件に加えていないのだ。

ーーケイは無性に怒りを覚えた。考えていた台本、後に続くミサキのための優しい台詞は、激昂のコードに押し流された。

 

「当然です!」

 

(((ーーそんなわけないでしょう!)))

 

「私は機械です! AIです! 私の言うことやることは全部命令なんです!」

 

(((私は……人でありたくて……普通の生徒になりたくて……でないと生きていけないのに……)))

 

「王女の従者、いわば名家の令嬢ですよ!私は! わがままなんです! 言われた通りに相応の礼節をもって!丁重に!ミレニアムまでエスコートしてください!」

 

(((それがあなたには無意味なことなんですか? 他人が決めた通りに……機械みたいに……全部終わりにすることだけが例外で!?)))

 

「あなたがなんと言おうと! 拒否はさせません! 返事は!?」

 

(((私は認めません! 言い返しなさい! ミサキが言い返してください!)))

 

「いいですか! ミサキ!」

 

「……いいよ。交渉成立」

呆れたようにミサキは答えた。心の裡を見透かしたような声だった。

瞬時にCPUから熱が抜けた。ログは消えていない。

「ミサキ……わ、私は……」

違う。こんな言い方をするつもりではなかった。もっと論理的に、合理的に……生徒らしく……少しだけ小言、今後の方針、それからミサキを労って……感謝をーー

「ーーピガッ!」

(((あっ……)))

ケイの視界が暗転した。ミサキの頬にあてた両手がゆっくりと弛緩し、表情の消えた顔が静止した。

「エネジー……ない……で…ス。スシを……くだ……ピガッ、ガガピガー……」

BPMの安定しないリズムで、感情のないマイコ音声の喘ぎがリピートされた。

 

 

「……はあ」

ミサキは嘆息する。

燃料切れだろう。最初の夜、暴走からのリブートとは違い、放っておいても再起動はない。またこの重いボディを背負って歩くのか……

取りあえずケイの「意図」は分かった。言葉とは裏腹の、何か言いたいことがあったことも。……ただ、ケイの「心情」は分からなかった。苦手なのだ。自身の情動もよく分からないのに、他人の気持ちを推し量るなど。

身体を起こそうとして諦める。身体が自分の物でないかのように重い。倦怠以外の感覚がない。身体を半回転させ、両腕で支えて上体を起こそうとする。

(ただの延長戦。やることに変わりはない。ケイをミレニアムに引き渡せるところまで連れていって、後は向こうの生徒会への連絡手段をーー)

「ーーっ!」

小さいが鋭い痛みに、ミサキは反射的に手を上げた。髪が一筋、偶然耳のピアスに絡まったのだ。

肩に引っかかっていた毛布が、背をすべり落ちた。白濁したPVC仕切り板を透かして朝日がさしこむシャワールームに、ギリシャ彫刻めいて均整のとれたミサキの全身ーーピアスと包帯以外は一糸まとわぬ裸身が顕になった。

ミサキはようやく自分の格好に気付いた。同時に、脱がされ散らばった衣服と、ブードゥー・ハリコめいて枕元に置かれた木彫りのクマにも。だが彼女の手は、どれにも伸ばされなかった。

じっと手を見る。ーー新しい包帯がきれいに巻き直された手首を。指の隙間の先、袖の弾痕から汚れた包帯を覗かせるケイの腕を。

「……ああ、そういうことか」

息が詰まった。乾いた白い包帯が昨日より少しだけ強く、ミサキの喉笛を締めつけていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「まったく、あなたという人は。体調悪いなら最初にそう言ってください。心配するじゃないですか」

「……うるさい。頭痛いから静かにして。ケイだってそれーー」

「しょうがないでしょう!? 私もこんな機能知らなかったんですから! ……ミサキも食べます?」

「いらない」

「あ、生魚とかビネガー苦手ですか? 好き嫌いは良くないですよ」

「食べたことないし」

「そう言われるとなおさら食べにくいんですよ……それに私はもうエネルギー満タンでーー」

「嘘はいいって」

「……ハイ。イタダキマス」

再起動し、トラックの助手席に座るケイの膝には「半額」のシールが貼られたパックド・スシのマルチタッパー。ミサキが低所得者層向けのワンオペ営業マートで買ってきた見切り品だ。残しておいたタマゴ・スシとアナゴ・スシを、ケイはもう一度ミサキを見てから、それぞれ3口で食べた。

「ウウウ……ウマーイ!」

ドロイドボディの非常に高度なエネルギー変換メカニズムが働き、網膜ディスプレイのエネルギバーが目に見えて充填、加えてスシの甘みが電子ニューロンを癒した。エナジーバーとは比較にならぬ滋味と費用対効果だ。代わりにミサキの財布の中身は払底した。

「幸せそうだね」

「システム音声です……美味しいのは実際そうですが。でもやっぱりショーユあった方が」

「何それ?」

「そこからですか!?」

髪をまとめサングラスをかけたケイと、キャミソールの上にアノテックと毛布を羽織ったミサキ。2人の車は、収穫期を終えようとする田園風景の中にあった。

ロートス園芸団地。ミサキが指定した次の合流地点。

内陸部のなだらかな丘陵地で、日射量と寒暖差、豊富な地下水を活用した農業生産が盛んな一帯である。2人のいる地点からはもう少し先だが、育種・品種改良や試験栽培を行う最新鋭の設備も多い。時季次第では研究やフィールドワークに訪れる、農学・薬学・環境科学といった専攻のミレニアム生徒の姿を見ることになろう。

ーー然り。団地の先はもはやミレニアム自治区である。ケイにとっての目的地にして安全圏、そして2人にとって最大の危険地帯だ。

研究用施設が集中する中枢部やその周辺には、知的財産権を守るための監視カメラと早期通報システムの警戒網が、ハニービー1匹逃さぬ程に張られている。何事もなければミレニアムへの連絡手段になるが、傍受の危険がある今は罠と同じだ。特にミレニアム側は、今のケイの姿も、ミサキが味方だと知る材料もない。逆に敵はケイの姿も目的地も知っている。位置的に近いのは後者だ。セミナーやC&Cの救援が来るまで待つはずがない。

中枢には近寄らないよう車を進める。何人かの生徒とすれ違ったが、知らないバックパッカーだった。ケイが知っている生徒、信頼できそうなミレニアム生徒ーーケイ1人でも問題ないとミサキが踏んだ連絡手段はまだ見当たらない。

食事を終えたケイは、小さくオジギして再び注意を車外へーー

「ケイ。聞きたいことあるんでしょ?」

ミサキの声には変わらず感情がない。

「……いいんですか?」

「聞いて楽しい話じゃないけど」

ある。ーーミサキの素性。そして包帯の下の傷と、昨日の夜のこと。

ケイは躊躇った。そして、

「またの機会にします」

そう答えた。臆病に過ぎると分かっていても、今の彼女にミサキの傷と向き合える自信はなかった。

「代わりに聞きたいんですが……」

「何?」

「……どうして私を助けてくれたんですか?」

「は? 前に言ったよね? ケイを届けないと私が狙われ続けーー」

「違いますよね?」

キッ、と小さいブレーキ音。慣性でミサキだけが少しつんのめった。ケイはサングラスを取り、ミサキの顔を見つめる。

違和感はずっとあった。今朝、ようやく確信に至った。

ミサキは無言のまま車を発進させる。……それから長い沈黙の後で、小首を傾げて答えた。

「……たぶん勘違い」

「え? 何がーー」

 

「イヤーッ!」

ダンッ!

 

2人の会話にカラテシャウトが、そして荷台に何かが落ちた音と衝撃が割り込んだ。

「ケイ! 銃を!」

車体が深く沈み、反動で跳ね上がる。ケイが何か反応するより早くミサキは状況判断し、ハンドルを握ったまま腕を曲げてハンドガンを荷台に向けた。バックミラー越しに見えたのは翻るダスターコートと、縮尺を間違えたようなリボルバーマグナム。ーーさっきすれ違った旅行者だ! ウカツ! ケイとの会話に気を取られたか!?

ミサキは指を引鉄にかけ、しかし手を止めた。荷台の不審者ーー生徒ではない眼鏡の女は、膝立ち姿勢でホールドアップしていた。

「アー……ちょっといいっスか? 穏便に話せるとありがたいんデスけど」

揺れる荷台でよろめきもせず、ズレた眼鏡を直して曖昧な笑顔を見せる。少なくとも害意はなさそうだ。ミサキは戸惑うケイを制し、銃はそのままで車を停めた。

「……誰?」

「ドーモ、シキベ・タカコ、私立探偵っス。アリウススクワッドの戒野ミサキ=サンと……ーーあ、名前は言わないで。そっちのオイランドロイド動かしてるの……天童アリス=サンの双子の妹さんで合ってますか?」

「なっ……どうしてそれを!?」

「アタリっすね。半分はセミナーからの依頼です。残り半分は私の」

ケイは絶句した。その隣でミサキは、ケイとシキベの顔を怪訝そうに見比べた。

 

 

(#8に続く)




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