雄英体育祭。
ヒーローの卵達が、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル。
これは、その体育祭で何かがあった世界線の物語。

どうも、作者のM.T.でございます。
なんか連載中の小説を書いていたら急にアイディアが降りてきたので、カッとなって書き上げました。
体育祭編を読み返してみたら、障害物競走のロボインフェルノのとことか、いやこれ軽く流されてるけど当たりどころ悪かったら普通に死者出るだろって思ったので、雄英の自由すぎる校風のアンチテーゼ作品として書いてみました。
A組やプロヒーロー、なんならヒーロー制度そのものへの風当たりが強い作品なので、苦手な方はブラウザバック推奨。




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第1話

――No side

 

『さあいきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門ロボ・インフェルノ!!』

 

 無数の仮想(ヴィラン)ロボットがコースを塞ぐ第一関門、主に1年A組の生徒達が、各々の“個性”を使って0ポイント(ヴィラン)ロボットを破壊し、道を切り拓いた。

 その光景を見て、観客席にいたプロヒーロー達は歓声を上げた。

 他クラスの生徒達は、A組の生徒達の妨害をまともに受け、足止めを喰らう。

 だがそんな中、事件は起こった。

 

 

 

「キャアアアアアアアアッ!!!」

 

 仮想(ヴィラン)ロボットが大量に犇くコース上に、女子生徒の悲鳴が響き渡る。

 

「嘘だろ……?」

 

「マジかよ……」

 

 地面に崩れた0ポイントロボットの残骸を見て、第一関門にいた生徒達は、青ざめた顔をしていた。

 そして叫び声を上げた女子生徒は、ロボットの残骸の前で膝をついて泣き崩れていた。

 

「いやああああ!!優子、優子!!!」

 

 ロボットの残骸の前で泣く女子生徒を見て、他の生徒が駆け寄ってくる。

 ロボットの残骸の下からは、赤い液体がじわじわと滲み出ていた。

 その光景を目撃していた審判のミッドナイトは、血相を変えて駆け寄った。

 

「っ…!!これは…!?救護ロボ、早く担架を!!セメントス、リカバリーガールに至急連絡!!」

 

 ミッドナイトが指示を出すと、セメントスが“個性”で0ポイントロボットの残骸を持ち上げ、下敷きになった生徒を救出した。

 担架には、全身の肉が潰れて血塗れになり、原型を留めていない女子生徒の姿があった。

 駆けつけてきた同級生達は、その光景を見て、言葉を失い立ち尽くしていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

――イレイザーヘッド side

 

 体育祭の予選、障害物競走で致命傷を負ったサポート科の女子生徒が、セントラル病院に救急搬送された。

 この事を受けて、体育祭は一時中止。

 競技に参加していた生徒達は、俺達担任の指示に従って教室で待機している。

 そして病院から戻ってきた俺は、重い足取りで自分の受け持つ1年A組の教室へと向かった。

 教室のドアを開けると、俺の教え子達が、ほぼ全員暗い表情を浮かべて席に座っていた。

 

「先生……」

 

 麗日や蛙吹が、不安そうに俺の顔を見る。

 他科の女子生徒の負傷に自分達が直接関与したわけではないとはいえ、自分達がロボットを倒している間に致命傷を負ったと聞かされれば、感じる責任もあるだろう。

 

「体育祭の競技中に救急搬送された、サポート科1年F組の久慈優子さんだが…搬送先の病院で死亡が確認された」

 

 俺が淡々とそう告げると、生徒達は青ざめた顔をして黙り込む。

 病院に搬送された女子生徒は、セントラルの医師が総出で蘇生を試みたが、医師達の懸命な処置も虚しく、そのまま息を引き取った。

 体育祭で負傷した生徒が搬送される事は今までにもあったが、競技中に死者が出たのは、雄英開校以来初めての事だった。

 クラスの何人かは、彼女が亡くなったのは自分のせいだと思ったのか、何かを言おうとしたが、もう遅い。

 

「そして──」

 

 暗い表情を浮かべている生徒達に対して、俺は次の言葉を発した。

 

「──本日付をもって、ここにいる1年A組20名を、全員除籍処分とする」

 

 俺がそう告げると、その場にいたほぼ全員が顔を上げて困惑の表情を見せる。

 本当なら、怒鳴ってでもこいつらに過ちを気づかせるべきだったんだろう。

 だが今の俺には、教え子達を叱って説教をする気力すら無かった。

 

「俺は、日々の訓練やUSJ襲撃事件を乗り越えて、君らが精神的に成長したと思っていた。だが、それが間違いだった。目の前の困難を乗り越える事よりも、ヒーローとしてもっと大事な事を教えるべきだったんだ。取り返しのつかない過ちを犯す前に、気づいてやれなくてすまなかった」

 

 そう言って俺は、教室を後にした。

 生徒達は黙って席に座ったまま、誰も俺を呼び止めようとはしなかった。

 

 サポート科の担当教師のパワーローダーから、亡くなった女子生徒の話は聞いていた。

 彼女は、明朗快活で、クラスのムードメーカー的存在だったらしい。

 “無個性”だからと決して腐る事なく、クラスの中心人物として、クラスを引っ張っていたそうだ。

 まるで、白雲のような──

 

 俺は、教え子が白雲のようにならないように、心を鬼にして更なる成長を促してきた。

 だが皮肉にも、よりにもよって俺の教え子が、あいつに似た生徒を死なせた。

 俺は、どこで教え方を間違えたんだろうか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

――飯田天哉 side

 

「ひぐっ…ぐすっ……ごめん……ごめんなさい……!!」

 

「皆、すまねえ!!俺のせいで……」

 

 相澤先生が出て行った後、芦戸君と切島君は、泣きながら皆に謝った。

 それを皮切りに、他の皆も謝り出した。

 僕も含めて何人かは、自分がサポート科の女子生徒、久慈君を死なせてしまったのかもしれないという心当たりがある。

 

 僕だけならいい。

 ご遺族の方々に恨まれ、先生方に失望されて当然の事をした。

 そもそもこんな事になったのは、クラス委員長として、クラスメイトを正しく導けなかった僕の責任だ。

 クラス委員長なのに、目の前の階段を駆け上がるのに必死で、クラスメイトに、他のクラスの皆に目を向けていなかった。

 僕だけなら、償いはいくらでもする。

 だが僕のせいで、久慈君の死に関与していないクラスメイトの人生まで壊してしまった。

 皆には、いくら詫びても詫びきれない。

 

 すると爆豪君が、椅子に寄りかかって舌打ちしながら口を開く。

 

「てめぇらアホか。謝る相手が違ぇだろうがよ」

 

 爆豪君は、怒鳴るでもなく、せせら嗤うでもなく、真剣な表情で言った。

 彼の言葉に、僕がとんだ思い違いをしていた事に気付かされた。

 僕が謝らなきゃいけないのは、クラスの皆でも、先生方でもない。

 家族が亡くなって、一番つらい思いをしているご遺族の方々だ。

 

「……皆。俺は今から、1年A組を代表して、久慈くんの葬儀に参列しに行く。それで許されるというわけではないが、久慈くんとご遺族の方々に謝罪を伝えるべきだと思う」

 

 僕が自分の意見を伝えると、真っ先に八百万君が手を挙げて僕の意見に賛同した。

 

「私も同行しますわ。まずはご遺族の方々に誠意を──」

 

「だからてめぇらアホだっつってんだよ!」

 

 僕と八百万君が皆の意見を聞こうとすると、爆豪君が口を挟んだ。

 

「てめぇで殺したモブの葬式になんざ、どのツラ下げて行くつもりだ!?人殺しが参列したって、目障りなだけだろうが!!俺らはもう、取り返しのつかねぇ事しちまったんだよ!!」

 

 そう言って爆豪君は、スクールバッグを担いで一足先に帰ってしまった。

 再び教室が静寂に包まれる中、蛙吹君が口を開く。

 

「……救助訓練の時、13号先生が言ってた事、覚えてる?『君達の力は傷付ける為にあるのではない。救ける為にあるのだ』って、先生は言っていたわ。わざとじゃなくても、お友達を死なせてしまった私達は、もう(ヴィラン)と同じなのよ」

 

 同級生を殺した僕達は、もう(ヴィラン)と同じ。

 蛙吹君の言葉が、重くのしかかった。

 僕は、兄さんのような立派なヒーローになるのだと、そう信じてきた。

 まさか自分が(ヴィラン)になってしまうなんて、思った事もなかった。

 この先どんなに真っ当に生きたって、僕はもう、兄さんのようなヒーローにはなれない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

――イレイザーヘッド side

 

 その後俺達教師陣は、亡くなった女子生徒の葬儀に参列した。

 葬儀には、彼女のクラスメイトが喪服を着て参列していた。

 俺達が女子生徒の仏前に並ぼうとすると、車椅子に乗った若い女性が近づいてくる。

 

「何しに来たんですか」

 

 車椅子の女性は、地を這うような低い声で、軽蔑と憎悪に満ちた言葉を投げかけた。

 長い髪が乱れ、目元を赤く腫らし、血走った目で睨んできた彼女は、亡くなった女子生徒の姉だった。

 

「私の妹を殺しておいて、何がヒーローよ!!あなた達なんか、ヒーローじゃない!!妹を…優子を返せ!!返してよッ!!!」

 

 女子生徒の姉は、泣きながら金切り声で俺達を怒鳴りつけた。

 妹を失った悲しみと憎しみのこもった彼女の言葉は、俺の心に深く突き刺さった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

――オールマイト side

 

 ――私の妹を殺しておいて、何がヒーローよ!!

 ――あなた達なんか、ヒーローじゃない!!

 ――妹を…優子を返せ!!返してよッ!!!

 

「何がNo.1ヒーロー……私は……っ!!」

 

 亡くなった少女のご遺族の悲痛な叫びを思い出して、私は己の過ちを悔いた。

 

 体育祭の競技中に、サポート科の少女が亡くなった。

 A組の皆が倒した0ポイントロボット、そのうちの一体に潰されて命を落とした。

 その事を受けて、相澤君はその日のうちにA組の皆を全員除籍した。

 私は、相澤君の決定に強く反対できなかった。

 何もできなかった私には、相澤君を止める資格はない。

 

 あの時、観客席にいた客の中で、私だけが気づいていた。

 亡くなった少女が、同じクラスの少女を庇って飛び出した事に。

 彼女もまた、緑谷少年と同じように、義勇の心を持ったヒーローの卵だった。

 あの時、この身体に鞭を打ってでも、少女を助けていれば。

 彼女も、A組の皆も、立派なヒーローになれていたかもしれないというのに。

 その未来を奪ったのは、あの時何もできなかった私だ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

――No side

 

 体育祭から一週間後。

 サポート科の女子生徒が潰された時に近くにいた女子生徒は、精神病棟でカウンセリングを受けていた。

 あの後彼女は、クラスメイトが亡くなった事が原因で精神を病み、休学して精神病院に入院していた。

 現在PTSDの治療を受けている彼女は、主治医が差し出したホットココアを一口飲むと、ポツポツと話し始めた。

 

「優子とは、中学の頃からの親友でした。とても明るくて……誰よりも優しい子でした。あの子は、腰を抜かした私を庇って潰されたんです」

 

 そう語る女子生徒の声は震えていて、目には涙が浮かんでいた。

 俯きながら語る彼女の膝には涙の滴が落ち、病衣に斑状の滲みができた。

 

「私が腰を抜かしたりしなければ…ちゃんと避けていれば、あの子は死なずに済んだのに……今は、あの子が教室にいない事が、ただただ悔しい」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

――???side

 

 私は、雄英体育祭で妹を失った。

 あの子は“無個性”だからと卑屈にならずに、足が悪い私の為にサポート科に行って、「お姉ちゃんを楽させてあげるんだ」って口癖のように語っていた。

 頭が良くて、可愛くて、誰よりも優しい、自慢の妹だった。

 事故で両親を失い、足を悪くした私にとって、あの子だけが唯一の救いだった。

 そんなあの子が、ヒーロー科の生徒が壊したロボットの残骸に潰されて死んだ。

 体育祭の為に寝る間も惜しんでサポートアイテムを作って、「頑張るね」って笑顔で家を出て行ったあの子は、誰だかわからない程に全身の肉が潰れた姿で帰ってきた。

 あの子は、(ヴィラン)でも、災害でもなく、よりにもよってヒーローを目指す生徒に殺された。

 まるで、道端の蟻を踏み潰すみたいに。

 

 私は、すぐにでも裁判を起こして、妹を死なせた雄英を告訴して、危険な行事の数々をやめさせようとした。

 あんな酷い死に方をするのを、あの子で最後にしたかった。

 だけど私の奮闘は、惨敗に終わった。

 法律事務所には何軒も掛け合ったけど、国内最大手の名門校相手だと勝算がないと踏んだのか、誰も相手にしてくれなかった。

 「たった一人の生徒の死だけで、全国民が楽しみにしているイベントを廃止する事はできない」というのが、弁護士達の共通の見解だった。

 

 それどころか、世間は妹の死に対してあまりにも冷たかった。

 「勝手に死んでせっかくのビッグイベントを台無しにした」とかいうふざけた理由で妹を非難する声すらあった。

 「避けなかった方が悪い」だの、「自分で雄英に入ったんだから自業自得」だの、そんなのは“個性”を持った強者側だから言える事だ。

 あの子には、倒壊に耐えられる頑丈な身体も、速く駆けられる足もなかった。

 人の役に立ちたかっただけの、何の罪もないあの子が、どうして死んでもなお侮辱され続けなきゃいけないのよ。

 結局のところ世間は、妹の死より、日本のビッグイベントの存続の方が大事だったんだ。

 

 

 

「ごめんね、優子……お姉ちゃん、仇取ってあげられなかった。今、そっちに行くね」

 

 何もかもに失望した私は、ビルの屋上に立った。

 この世界に、ヒーローなんか居ない。

 居るのは、正義を免罪符に暴力を振り翳すだけの、ただのゴミだ。

 誰も味方がいない今、一秒でも早くこの世界から逃げ出して、妹のもとへ行きたかった。

 やっと、あの子のところに行ける。

 ビルの屋上から飛び降りて、身体を宙に放った、その刹那。

 

 

 

「可哀想に……誰も助けてくれなかったんだね」

 

 気がつくと、私の身体は力場のようなもので固定され、空中で静止していた。

 振り向くとそこには、パイプのようなものが付いたマスクをつけ、スーツに身を包んだ長身の男が宙に浮いていた。

 うまく身動きが取れずに空気を掻いて暴れていると、彼はふわりと浮かび上がって私に近づいてきた。

 

「もう大丈夫だ。僕がいる」

 

 そう言って彼は、私に手を差し伸べた。

 一度は妹の後を追って死ぬ事も考えた。

 だけど、死ぬ前にせめて、あの子を殺した上に、あの子の死を蔑ろにしたヒーロー共に一矢報いたかった。

 ()()()についていけば、それができるかもしれない。

 私は迷わず、差し伸べられた手を取った。

 

 これは、最愛の人をヒーローに殺された私が、最低最悪の(ヴィラン)になるまでの物語。

 

 

 

 

 




騎馬戦での心操の尾白くん洗脳にブチギレている人多いけど、ぶっちゃけ障害物競走の時の轟のロボ崩し妨害の方がよっぽど悪質度高いだろって思う今日この頃のワイ。
原作ではたまたま潰されたのが切島鉄哲だったから死者が出なかったけど、実際他科の生徒が避け切れてなかったらこうなってた未来もあったと思う。
その事について真剣に言及している作品を読んだ事がなかったので書いてみました。

サポート科のモブ女子をうっかりミスで殺したA組の生徒ですが、あえて誰だかわからない描写にしています。
原作A組の誰か(関係ないと明言されているお茶子と梅雨、手も足も出なかったデク、飛行で突破しようとした爆豪、瀬呂、常闇は除外)かもしれませんし、原作A組の誰かと入れ替わったオリキャラかもしれません。

ちなみに亡くなったモブ女子の名前は、久慈優子(くじ ゆうこ)です。
デクよりも先にオールマイトが見つけていれば9代目継承者に、潰されずに生き延びていれば10代目継承者になれていたかもしれないってことで、名前に9と10が入っています。

・よりによってOFA後継者の素質があった有望株が事故死
・しかもその死因がよりによってオールマイトのお気に入りのA組生徒
・そのせいでA組生徒全員除籍、AFOに対抗し得る戦力が激減
・クソ民度のせいで、世界を壊す覚悟を持った復讐者が生まれてしまう
・SSRつよつよ“個性”持ちお姉ちゃんが復讐者として(ヴィラン)連合に加入
・結果、AFOさん大勝利ルート不可避

考えれば考えるほど、AFOさん大爆笑案件で草。


ー追記ー

モブ女子とお姉ちゃんについて質問があったので、せっかくなので書きます。

◇久慈優子(くじ ゆうこ)
A組生徒のうっかりで殺されたサポート科1年F組の女子生徒。
クラスのムードメーカー。
生前は姉の為に移動系のサポートアイテムの研究をしていた。
発目に振り回されているパワーローダーやサポート科生徒にとっては天使的存在。
成績優秀、努力家、コミュ強、姉想い、美人、とモテる要素が多く、ファンクラブ的なものがあったというプチ設定。
“個性”はなし。

◇久慈賽子(くじ さいこ)
モブ女子のお姉ちゃん。(ヴィラン)連合所属。後の超常解放戦線幹部。
デザイン系の会社に勤めるOL。超美人(ここ重要)
交通事故で足に後遺症を負い車椅子生活をしていたが、後にAFOに与えられた“個性”によって回復し、連合に入ってからは車椅子を手放している。
“個性”は『籤』。
他者の運勢を操る“個性”。
使えば使うほど不運が溜まるが、溜まった不運は他者に押し付ける事も可能。
死んでもいい囮を用意すれば、実質ノーリスクで誰かを無敵状態にできる。

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