クサビちゃんのお顔は代表的すぎるうちは顔です。
書きたいところにまだまだ届きそうになくて、次の話どういう感じにしていこうかな、と悩んでいます。もっとシャッシャ進めていいのかな……。
黒く分厚い雲から、シトシトと雨が降り続ける。まるで泣いているように降る水を、冷えていく体を包むためにまとっているマントが吸い、クサビは体がいつもよりも重たく感じた。時折吹く風に乗って、足元からぬかるんだ土の匂いが舞い上がってくる。
「被っとけよ。頭、濡れるぞ」
そう言うオビトにフードを被らされて、クサビは驚いた声を出した。新調した服の上から着ているマントはサイズピッタリに合う物が無く、裾は泥を引きずってしまいグチョグチョになっている。フードに関しても被ると前方が全く見えず、足元とその少し先しか見えないため被っていなかったのだが、クサビは少しはにかみ、黙ってフードを被り続けた。
足元しか見えないため、クサビはグルグル越しのオビトの手をもう一度強くに握りしめる。歩みを止めない自分に引かれるクサビを心配しているのか、たまにオビトが声をかけた。途切れることが無いほど強い雨の音がフードの中に籠ってしまうため、ろくに聞き取ることもできなかったが、クサビは憶測でオビトに返事を返す。
野宿とオビトの修行を続けて、やっとクサビ達は火の国を横断し、雨隠れの里へとついた。長く続いた第二次忍界大戦や、今も尚戦火の広がりを見せる第三次忍界大戦の中、雨隠れの里は火の国、土の国、風の国という三つの大国に囲まれているせいで、大国同士の戦場になりやすい。そのせいか、あちらこちらで崩れた家々や孤児、行き倒れなどが存在している。
今クサビ達が歩く都市部だったらしき場所も、木ノ葉や他の里の戦いに巻き込まれたのか、はたまた雨隠れの人間同士が争ったのか、人の気配は少ない。金属で作られた細長い避雷針のような構造物があちらこちらにあるが、根元や真ん中の辺りでポッキリと真っ二つに折れていたり、切り刻まれたようにバラバラに解体されているものばかりだった。
「本当に、じい様の輪廻眼を持つ人間がここにいるの?」
「間違いないよ……ずっと、監視だけは続けてたしね」
クサビの質問にゼツが答える。明らかに荒廃している土地に、刻まれ続ける戦いの跡。こんな場所にいれば、マダラの輪廻眼を持つ人間が何かに巻き込まれて、既に死亡しているかもしれない。そう考えたクサビの疑問だったが、ゼツの答えからするにまだ生きているようだった。
「なんでマダラはこんな場所に、計画の要になる輪廻眼を置いておいたんだ?」
「輪廻眼っていう
「……なるほどな」
三大瞳術の白眼、写輪眼とは一線を画す、六道仙人の眼。今現在の忍界で現存しているのは木ノ葉隠れの里が有する日向一族の白眼、うちは一族の写輪眼のみであり、輪廻眼というものは今はもう存在していないものだと考えられている。
雨隠れでは木ノ葉の忍として戦いを繰り広げる白眼や写輪眼は知られていても、古来より伝えられる輪廻眼の知識は失われているのだろう。だからこそマダラは、雨隠れ内で己の輪廻眼に適合する人間を探し、それを隠した。
特徴的な眼ではあるが、それはその特徴を知っていればこそ分かるもの。有識者がいれば、噂は広まったかもしれないが、これも
「今、輪廻眼の奴はどこにいる」
「ここから近いよ。 ……輪廻眼と、女が1人、男が1人。よく一緒にいるメンツだ」
「その3人組と言えば、確か……
非暴力的な手段―――対話で、この争いの絶えない雨隠れの地から、争いを無くそうとしている組織。破竹の勢いで賛同者を増やし、近頃では雨隠れ内の人間の半数が賛同しているのではないか、とも言われているほど大規模な組織だった。
オビトは思案する。話し合い―――――過去の自分なら、とても賛同した思想だった。誰も傷つかず、誰も悲しまない道。
―――――――だがオビトは気づいてしまった、この世界は地獄であると。そんな生温いものでは、この世界から血は無くならない。
「オレが全部やる。…クサビは隠れとけ」
これからどんなことになるのかは、誰にも分からない。交渉が上手く行きスムーズにオビト達の考える通り事が進むかもしれないし、逆に決裂するかもしれない。交渉が決裂してしまえば、戦闘になる確率は高くなるだろう。
クサビは前にオビトを先へと進ませるために、重症を負った。白い肌にたくさんの傷を作り、自分の血で真っ赤に染まり、水影に殺されかけていたクサビに「守る」と言ったのだから、オビトは1人で―――人造人間を引き連れて―――暁の人間の元へと向かうつもりだった。
「ダメだよオビト」
そこへクサビが待ったをかける。オビトの言い分もあれば、クサビの言い分だってあるだろう。オビトがクサビを守りたいように、クサビもオビトを守りたい。
「半分こだって、言ったはずでしょ」
ギュッとオビトの手を握って、クサビは上目遣いで己の頭上で片目しか見えず、それでも尚狼狽えていることが伺えるオビトへと、咎めるような視線を投げる。その行動がオビトの頭の中で、ある思い出をフラッシュバックさせた。
――――――『ちゃんと見てんだから』。
「だけど……」
「
更に握りこまれた手に力が込められる。目を伏せ、形の良い唇を不服そうに突き出したクサビに、オビトは降参したようにため息をついた。
「……分かったよ。ただし、交渉は基本的にオレがやる。クサビはあんま出てくんな」
「いや、交渉は私が」
―――――やる、と言おうとした声は、オビトの手によって物理的に遮られた。マダラの隠れ家から出てきた時と比べれば、年頃らしい丸みを帯びた頬を片手でオビトにこねられる。
「ダメだ。なんと言おうと、これは譲れねぇ。 ……そもそもクサビ、今まで喋る相手がいなさすぎて、知らない人相手だと人見知りしてるしな」
「……そんなことない」
嘘である。手を離されて時の衝撃により、柔らかい頬を揺らしながら、バツの悪そうな顔したクサビは半目で無骨な茶色の岩場へと視線を移した。自分も1人、相手も1人であれば物怖じせずに話すことが可能だが、相手が2人、3人と増えていくにつれ、クサビはオビトの背中へと隠れることが多い。
道中で立ち寄ってきた小さな森の中の集落などで話を聞いたり、報酬を受け取るための手伝いに関しての話し合いなどをする時は、専らオビトが応じていた。
その後ろに隠れるクサビは、集落の女性たちに「何歳?」「んまー可愛いお顔しちゃってぇ!! 兄妹かい?」「二人で旅してるなんて偉いねぇ……うちの息子なんてアンタたちみたいな歳じゃ…………」「ほらこれも持っていきなね、甘い物もあげようねぇ」と、ただ好き勝手滑りの良い顔や髪をいじられ、子供が好きそうなおやつや持ち運びのできるおかずなどを大量に持たされる係をしていたのだが、毎度毎度混乱したように小さく声を漏らすだけ。揉みくちゃにされる経験など無く、どういった反応をすればいいのか分からなかったのである。
最初に立ち寄った村も女性たちに寄って集られたことから、クサビは人が多いところではオビトがいればオビトの後ろに引っ込むようになった。 度を始めた当初はオビトも「恥ずかしがり屋で、あんまし喋んねぇヤツで……」などと言ってクサビを困らせないように務めていたが、妙齢の女性達にはそんなこと無意味。
木ノ葉でも祖母の友人だという女性たちには、オビトもよく可愛がられたものだった。これからの生活のために人に慣れることも含めて、オビトは次第にクサビに助け舟を出さずに、クサビのことを女性たちにさりげなく差し出すようになったのだが、クサビはこれに気づいていない。
「オビト、クサビに対してだけ甘すぎない? ボクらにはアレやれコレ取ってこいとかめちゃくちゃ言ってくるくせに」
「こうなったクサビは頑固だろ。ったく、なんにも聞きやしねぇ」
そう言いつつも、オビトの顔は険しくはなかった。不服そうなクサビの、深く被ったフードからチラリと見える口元だけを見て、オビトは頬を緩ませる。自分も祖母に図星をつかれるような小言を言われた時、今のクサビと同じような反応をしていたのかと、想いを馳せていた。
「アハハ、おもしろ、アダァッ!?」
アヒル口になって無言の訴えを続けるクサビに、真っ白な両腕が伸びる。容赦なく掴んだクサビの白い頬を思いっきり引っ張り、呑気に笑って遊んでいるグルグル顔に、耐えきれなくなったクサビの拳が突き刺さった。
雨隠れの里に来るまでに、オビトとクサビは色々と話し合いをした。オビトとしては、あまりクサビには表舞台に立って欲しくはないようで、裏方として自分のサポートに専念し、表では世間一般的に
そしてクサビの言い分は、クサビは本来であれば
お互いがお互いを、危険に晒したくはないと思っている。本当に色々と話をした。実力で言えば、今まで修行をつけてきたとはいえ、クサビの方が上だ。それに、マダラとして行動する場合、この世にはまだマダラのことを知っている人間がいる。クサビの戦った水影然り、戦国の時より生きている人間たちには自分が偽物だということを気取られてはならない。
つまりは、うちはマダラとして行動するためには、うちはマダラをよく知っていなければならないだろう。それならば、オビトでは知識が足りない。クサビなら、オビトよりかは上手くやれる。
―――――――というのが、クサビの言い分だった。
だが実戦経験や、人の機敏に疎いクサビでは、人の心を意のままに操ることや、暗躍するには向いていないのではないか、というのがオビトの話。
それに―――もはやこちらの方が大事ですらある―――クサビにとって大変不服ではあるし、時が解決してくれる問題ではあるのだが。
―――――――――身長が足りない。
グルグルを纏ったオビトは、元の身長よりも大人びた印象を受ける。グルグルのおかげで顔も見えないし、正体がバレる心配もない。
クサビの場合では、そもそもの大きさが足らずグルグルは着れない。だが、着れないくらいで納得するクサビではなかった。グルグルの足をちょん切ってクサビに合うようサイズ調整を試みたり、手足が柱間細胞製なのを利用し、グルグルを着れるサイズまで伸ばして―――オビトから「さすがに化け物すぎるからやめとけ」と言われて思い留まった―――みたり。だがどうやっても納得のいく結果に行き着かず、話し合いに話し合いを重ね、クサビ達は結局マダラの言っていた通り、役割分担をする事にした。
クサビが
今回の輪廻眼の持ち主との接触では、オビトがうちはマダラとして接触する手筈だ。クサビは三歩後ろに下がり、顔を隠してオビトの後ろに付く。変化の術や身長を誤魔化すことなどせず、クサビ本来の体で暁と対峙することを考えると、予想できる反応はただひとつ。
体の小ささや覇気の無さを理由に舐められる。これ一択だろう。
「子供の姿だっていう理由付けはどうする?」
「拾った孤児だっていうのは?」
「孤児ってことにすると、私がイズナのじい様を騙れなくなるからヤダ……」
「子供、子供か……まだ暁には接触できねぇし、一旦保留だな」
また全員で頭を抱えて、一斉に大きくため息をつく。考えることばかりが増えて、まだまだ先は遠い。このまま何も思いつかないままでいても、時間の無駄だ。考えあぐねていたクサビが突然、思い出したかのように呟いた。
「あ、それにオビトがマダラのじい様になるなら、じい様の声とか喋り方とかも真似ないと」
「マダラのことを、オレが?」
「じい様のことを知ってる人だってまだ生きてるし、変なところでボロが出たらまずいでしょ。完璧、とまではいかないけど、ある程度はじい様らしい振る舞いを心がけた方がいいかと思って」
自分に人差し指を向けて、呆気に取られた表情を見せるオビトとは反対に、クサビは至極当然のように頷き返した。先程も述べた通り、忍界にはまだうちはマダラを知る人間は多い。欺くためにも、オビトにはできるだけマダラの振りをしてもらわなければならなかった。
「真似る、真似るな……真似るって言ったって……ン゛ン゛ッ!! こ、こんな感じか?」
強く喉を鳴らし、オビトは普段の溌剌としていた少年の声から、自分が出せる限界のテノールボイスへと声色を変える。木ノ葉隠れの忍者アカデミーでも、こう言った変声の技術はある程度レクチャーされてきた。だが、変化の術や己の姿形を変える忍術は数多くあるとはいえど、オビトがマダラと過ごした期間は少しだけ。しかもその期間の大半、マダラは眠って過ごしていた。
時々目覚めてポツリと話すことはあっても、人の記憶というのはまず、声から忘れていくとされている。オビトがマダラの声にあまり聞き馴染みが無く、アカデミーで習った技術を活用したところで、そっくりさんくらいが関の山だった。
「それただのオビト」
「マダラの欠けらも無いね」
「コンナクオリティーナラ、逆ニヤラナイ方ガマシダナ」
上から順に、グルグル、白ゼツ、黒ゼツである。棘しかない言葉を投げる人造人間3人にオビトは「んだよ、マダラの声なんてわかんねーよ! じゃあお前らやってみろよ!」と言っているが、その場面を見ているクサビの顔は渋かった。
「似てないことはない気もするんだけどな……一回私がお手本をしてみるから、よく聞いててね」
軽く咳払いをし、クサビは発声を繰り返す。まずは普段の声から、段々とマダラの声を思い出し、記憶の中の音と今自分の出している音が一致するよう、声を出し続けた。少女らしい声から少年らしい声に、少年らしい声から青年らしい声に。
そして青年らしい声から、渋みと深みのある、自分でも聞き馴染みしかない声へと変化していく。
「どう? 変?」
可愛らしい少女の口から出てくるのは、威厳たっぷりで圧しか感じない、あの椅子に座ってばかりだった老人の声。その老人の声が、若々しい口調でオビトへと投げかけられる。
「いや、変じゃねぇけど……マダラの声で、クサビの喋り方だとアレだな、違和感しかない」
「ちょっと面白ーい! 試しに一回、絶対にマダラが言いそうにないこと言ってくれない? うんことか!」
「私……じゃなくて、オレ、とか。慣れないけど、じい様らしく喋ろうと思ったらできるよ。慣れないけど」
「ねぇ言ってよ、うんこって言ってー!! クサビィ〜、絶対面白いって! マダラがだよ? うんこって言っ、ヒデブッ」
空高く殴り飛ばされ回転し、ぬかるみに顔面ごと深く突き刺さり、ち唯一好きに動かせる足をバタつかせている白い生き物を無視して、クサビは握っていた拳を軽く握ったり開いたりしてみた。少量の砂が着いているが、気にしない。
「あ、アー……これでどうだ?」
声色を変えたオビトが、クサビへと問いかける。そのオビトの声は先程よりかはマダラの声に近づいただろう。だが、まだクオリティではクサビに劣る。及第点と言ったところだろうか。
「いいんじゃない、かな? 最初よりかはうまくなったと思うから、ひとまずはこのままでいってみよう」
「それならオレがマダラをやるんだろ? クサビもマダラの弟の、うちはイズナっぽい声を出した方がいいんじゃないか?」
「イズナのじい様っぽい、声……?」
うちはイズナの声。クサビはその声の実物は聞いたことがなかった。当然だ、うちはイズナはクサビが産まれる前にはもう死んでいる。マダラから聞かされているのは、二代目火影である千手扉間に討たれたこと。昔話をされている時に聞いた、マダラの記憶に色濃く残っているイズナの声しか、クサビは知らない。
「やるだけやってみるけど……ん、ぁ、あ、あー」
「おお、声が変わってきた。クサビって案外器用だね。いがァい」
「ん、ンンッ!! ……どう?」
マダラの声とは違う、また質の違った低い声が辺りに響く。朧気な記憶から掘り出し、真似ているものであるせいで、クサビにはあまり自信がない。だが、オビト達からの反応はクサビが思っているものよりも良かった。
「まあいいんじゃねぇの? 聞いた事のないやつの声だし、オレたちにはあんまよく分かんねーし……」
「なんでクサビは知ってんの? その、誰だっけ? マダラの弟? の声」
「マダラノ幻術デ、ダロウ。マダラヨリモ先ニ死ンダンダ。イズナヲ知ル人間ハ、マダラヲ知ル人間ヨリモ少ナイト考エテイイハズダ」
「そうそうバレはしないでしょ。ボクはいいと思うよ」
「適当……」
オビトはともかくとして、いつの間にか地面から抜け出し、顔一面に泥を被ったグルグルやのほほんと返事をしている白ゼツへ、クサビは呆れたようにため息を着いた。
「あ、そういえばさ、マダラとイズナは兄弟じゃん。二人に成り代わって何かをするなら、ちゃんと兄弟の振りとかしておいた方がいいんじゃないの?」
白ゼツが水平にし開いた手のひらへ、握りこぶしをポンと置く。確かにそうだ、とクサビは思った。マダラに弟がいたことは、戦国の時代を知る人間からすれば周知の事実だろう。森の千手と双璧を成すうちは一族のリーダーをマダラと共に務めていたのだから、腕利きに違いない。
腕利きであれば、戦いばかりだった戦乱の時代に名が売れていたと考えるべきだ。名が売れているのであれば、うちはマダラを知る人間はうちはイズナも知っているはず。違和感を持たれてしまえば、様々なことからボロがどんどん出てきてしまう。
「それはそうなんだけど、姿が子供ってところをどう誤魔化すかがまだ考えきれてないから、どうしようかなって」
「あ、ハイハイ! それならオレがもうバッチリなアイディアを思いついちゃったから、任せてくれていいよ!!」
元気よく手を挙げたグルグルのことはあまり信用できないが、良い案が思いつかないのも事実。あとで詳しく話を聞こうと思い、クサビは饒舌に話始めようとしたグルグルを静止させた。
「オビトがうちはマダラで、私がうちはイズナなら……兄さん、かな」
「弟なら、そういうことになるよな」
オビトが兄。嬉しいような、なんだか違うような気もする何とも言えない気持ちがクサビの心に広がる。試しに一度、口の中で飴玉を転がすように「兄さん」と小さく独り言ちた。
深く被ったフードの下で漏れ出た声をオビトに聞かれていたようで、オビトからは「どうした?」と聞かれたが、クサビはなんだか気恥ずかしくなって、まだ余っているフードの端を思い切り下へと引っ張って顔を隠して「試しに、言ってみただけ」と返した。
「それじゃ……打ち合わせも済んだことだし、そろそろ行こうよ、
「……ああ、そうだな、
道案内をゼツに任して、二人で雨が降り止まない道を歩く。時折ぬかるみに足を取られ、ズチュリと泥を踏み抜く音が嫌に耳に響いた。
少し離れた、目と鼻の先にいる長い赤髪の男。その髪の隙間から見える左眼には、紫色に波紋が広がったような模様の瞳。間違いない。マダラから聞いていた通りだった。
「本物の輪廻眼……」
その両隣には、青い髪の女と、オレンジ色の髪をした男が談笑をしている。全員がキラキラとした希望に満ちた瞳を輝かせ、どこからか煙の匂いや、何かが焦げた匂いのするこの場所でも、どこか楽しげに笑っていた。
「見えた? あの赤髪の奴の眼!」
「あれがマダラの輪廻眼か……」
「マダラの本当の眼だよ…あの子が子供の頃に、気づかれないよう移植しておいたんだぁ〜」
明るく話すグルグルとは正反対に、オビトの声色は硬いまま。岩陰に隠れているクサビたちに気づかないのであれば、あの3人の中に感知タイプはいないだろう。いくら輪廻眼ともいえども、赤髪の男の輪廻眼は生来のものではない。マダラからの預かり物のため、完璧には使いこなせないのだろう。
本来の持ち主であるマダラであれば、感知くらいは簡単にしてみせる。輪廻眼を使うことがないくらいには、ぬくぬくと育ってきている、ということか。
「オビト、分かってるとは思うけど……」
「戦闘はするな、だろ。マダラの輪廻眼だ……オレ達じゃ、太刀打ちできない」
「長門は千手の血統で、外道魔像をマダラ以外に口寄せできる、唯一の人物なのさ」
赤髪に、千手の血統。渦の国にある、渦潮隠れの里の一族、うずまき一族の血筋。千手一族の遠縁で、千手に劣るものの生命力やチャクラ量に長けている一族だとされている。そして何より特筆するべきは、一族独自の封印術だろう。
現在では渦潮隠れの里は滅び、うずまき一族は世界各地に離散しているとされているが、オビトにとってうずまきの人間を見るのはこれで二人目だった。
「まずはマダラの言った通り、長門を手なずけて」
「散らばった尾獣共を集め、長門の輪廻転生でマダラを…」
「じい様を、甦らせる」
後ろに控えるクサビとゼツへ見向きもせず、輪廻眼の男――――長門へと、歩みを進めるオビト。殺気か何か、緊張ともいうべきものが漏れ出ていたか、はたまたさすが輪廻眼、というべきか、青髪の女―――小南―――とオレンジ色の男―――弥彦―――と話し合いをしていた長門がオビト達に気づく。
「……!? 誰だ?」
オビトは頭にすっぽりと被っていたフードを肩へと落とし、グルグルをまとった姿を露わにする。瞳を写輪眼へと変化させ、クサビも歩みを進め、より前に出て、オビトの横へと並び立った。
「うちはマダラだ」
「うちはイズナ」
「マダラにイズナ? それに、子供……?」
「…あのうちはマダラの名を騙るってことは、犯罪者か、ただのバカか………何のつもりでオレ達に近づく?」
オビト達の目的が輪廻眼を持つ長門であることに気づいているのかいないのか、弥彦が長門を守るように背に隠し、オビト達へと疑問を投げかけてくる。打ち合わせ通り、これから始まるオビト達の計画の末端だけを伝えるために、一歩足を踏み出した。
「……輪廻眼。古くから、それを開眼した者を正しく導くのが、我々組織に託された使命」
マダラにとって正しい、という前置きは話さずに、クサビは仰々しく話を進める。小さな子供らしき人物から、突如として飛び出してきた低い男の声に、小南は驚きを隠せず目を見開いた。その驚きようを一瞥し、クサビは重々しい雰囲気を醸し出しながら、徐々に身振り手振りを大きくする。
「
ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。暁は今、平和を求めている。血を流さず、涙を流さない平和を。聞き馴染みの良い言葉の羅列が、思いのほかスラスラとクサビの口から出て行った。
「光が当たるところには、必ず影がある」
オビトが、いつかどこかで聞いたような、懐かしい言葉を紡ぎ出す。
「勝者という概念がある以上…敗者は同じくして存在する。平和を保ちたいとする利己的な意志が戦争を引き起こし、愛を守るために、憎しみが生まれる。これらは因果関係にあり、切り離すことができん……本来はな…。だが、勝者だけの世界。平和だけの世界。愛だけの世界。それらだけの世界を創ることもできる! 我々が協力すれば、そのやり方を知ることができる」
「輪廻眼の本当の力をお前が手にした時、すぐにでもキミ達の世界が成就する……」
オビトが長門へと手を差し出す。真の平和への、片道切符。その手を取れば、マダラの夢が、オビトの夢が叶う。長門は急に突拍子もないことをまくし立てられたことからか、冷や汗を流すのみだった。輪廻眼ではない二人は、最初からオビトたちを警戒したまま、それを解こうとはしない。
「さあ……」
「……………」
「そんなことはできない」
弥彦がまた、長門へと手を差し伸べるオビトを睨みつける。その行動を不審な動きであると感じたクサビもまた、オビトの前に躍り出た。一人見ることしかできない小南の喉が、強く上下へと動く。
弥彦とクサビ、お互いの視線が交わった。フードに隠れたクサビの瞳と眼は合わないはずなのに、弥彦は強く鋭い眼光を光らせた。
「こんな子供まで利用するのか」
「見てくれの話か? 体は子供だけど……術の影響でね、
グルグルの考えた
これならイズナが死んだと知らない人間はクサビのことをうちはイズナだと思うだろうし、イズナが死んだことを知る人間も、マダラの収集していた禁術などで生き返ったのだろうという当たりを勝手につけてくれる。一石二鳥だ。
「オレ達を、利用しようってのか?」
「……ボクらは対等だ。利用する、されるような関係ではない」
――――――長門は迷っている。心のどこかでは分かっているはずだ。このまま争いを対話で無くそうとしていても、夢物語だということに。きっかけさえあれば、容易に長門はマダラの考えたこの計画に賛同するだろう。
だがこの男が、弥彦がそれを防いでいる。暁を創設し、長門と小南を導き、本気で、愚直に争いを無くそうとしている。そういったところに長門や、弥彦の下で暁として活動をしている人間は惹かれているのだ。
「ハッ……どうだかな。 ……お前たちの言っていることは、都合がよすぎる…。相手の痛みを知り、同じように涙を流せて、初めて本当の世界へ近づける」
「……同じように、涙をか。 ……つまり、復讐か?」
「いや、そういうことじゃない。理解し合うってことだ」
それこそ、その思想こそ都合がよすぎる話ではないか。この国の現状を見てみれば、大国や小国、敵同士が理解し合うことなど不可能だ。火の国を横断してきたクサビは、国境を超えてから明らかに変化が見えることに気づいた。大国である火の国と、雨隠れの里があるこの国では、生活水準が違う。思想が違う。文化が違う。理解し合えるとは、クサビには到底思えなかった。
「お前こそキレイ事を口にするな」
強い口調で、オビトが即座にそれを否定する。
「この世にそんなものは無い」
マダラが幼少の頃より、人と人の争いは今も続いている。それが答えではないかと、オビトは言っているのだ。
人は、争うことでしか同じ感情を持てない。だからこそ、同じ感情を持ってしまうからこそ、人は戦争を続けている。
オビトの発言を聞いた弥彦は踵を返し、交渉に来たはずのオビトたちを振り返らずに歩き去る。堂々としたまま長門と小南を引き連れて去ろうとする弥彦の背中は、どこか体格以上に大きく見えた。
「行くぞ、小南、長門。こいつらは信用できない!」
橙色に、青と赤が続いていく。小南が未だ混乱しているのか動こうとしない長門を、心配そうに振り返った。雨に濡れながら突き進む弥彦は、長門なら心配はいらない、とでも言うかのように、振り返らなかった。
「……毎日同じ時間に、ここにいる」
「お前もいずれ……気付くことになる」
オビトがグルグルを着ている▶︎まだ万全の体ではない
と思っています。
テーマが重たいので難しい。理解が深くないこともあり、雨隠れ関連はボロがもうまろびでる感じで……。