1980年から2000年にかけての20年間は、人類が「物理的な暴力による領土拡大」を完全に諦め、宇宙空間のインフラ構築と、コンピューター・ネットワークによる「見えない支配(アルゴリズム統治)」へと移行した、「冷戦の完成と凍結」の時代です。
大日本帝国の「総力戦研究所」、欧州連合(EU)の「超国家管理機構」、そしてソ連の「閉鎖型イントラネット」。三つの異なる管理社会が、それぞれのシステムを極限まで研ぎ澄ませていった20年間の詳細な軌跡です。
第一期:宇宙インフラの構築とサイバー鎖国の完成(1980年〜1984年)
*1980年:ソビエト連邦、全国自動化情報処理システム『OGAS(オガス)』の完全稼働**
* ソ連は、西側(日本・EU)からのコンピューター・ウイルスの侵入と思想的汚染を防ぐため、外部ネットワークから物理的に完全に遮断された独自のイントラネット「OGAS」を完成させます。これにより、KGBによる国民の完全監視と、計画経済の超高度な演算最適化が実現。ソ連は「情報鎖国(デジタル・アイアンカーテン)」の奥底で、恐るべき耐久力を持つ要塞国家として完成します。
* **1982年:大東亜情報通信網(TJN)の全域接続と『商用日本語OS』の覇権**
* 日本とカスカディア、東南アジア、インド洋沿岸を結ぶ海底光ケーブル網が完成。圏内のあらゆる行政手続きと金融取引は、漢字・カナ・アルファベットを処理するために開発された独自の「TRON派生型OS(帝国標準OS)」に統一されます。これにより、帝都・東京から圏内すべての物流と資金の動きをリアルタイムで監視・制御することが可能になりました。
* **1984年:月面恒久基地『高天原(タカマガハラ)』および『ノイエ・ゲルマニア』の落成**
* 宇宙空間において、日本とEUがそれぞれ月面基地を稼働させます。
* 日本は、使い捨ての超大型ロケット**『イワト』型**の暴力的なペイロードを活かして大量の資材を月面へ投下。同時に、宇宙往還機**『アメノトリフネ』型**をピストン輸送させ、宇宙ステーションを経由して人員を安全に月面へと送り込みました。月面は暗黙の了解のもと、東半球(日本)と西半球(EU)に分割統治されます。
第二期:管理された経済危機と壁の維持(1985年〜1989年)
*1986年:北米中西部・合同農業プラント管理協定(ブレッドバスケット条約)
* 無法地帯となっていた旧アメリカ合衆国の中西部(大平原地帯)に対し、カスカディア(日本陣営)と南部連合(EU陣営)が共同で治安維持軍を派遣。武装難民を武装解除し、この地域を無人の「巨大全自動農業プラント」へと作り変えます。収穫された穀物は両陣営で厳密に等分され、旧アメリカ大陸は「覇権国のための巨大な農場」として完全にシステム化されました。
*1987年:総力戦研究所による「人工的な経済冷却(意図されたデフレ)」**
* 日本国内および共栄圏において、過剰な投資によるバブル経済の兆候を検知した総力戦研究所は、中央銀行の金利と融資枠をアルゴリズムによって強制的に制限。意図的に経済を冷却(ソフトランディング)させます。これにより史実のようなバブル崩壊は免れましたが、社会全体に「完璧に計算された、息苦しくも平坦な安定(Frozen Prosperity)」がもたらされました。
*1989年:ベルリンの壁は崩壊せず(欧州のベルベット・パージ)
* 史実における東欧革命の年。しかし、この世界線のEU(ドイツ第三帝国主導)は、反体制派を武力で弾圧するのではなく、独自の金融ネットワークから彼らのIDを弾き出し「社会的に透明人間化させる」という洗練された手法(ベルベット・パージ)を用いて暴動を未然に鎮圧。ヨーロッパ全土は、徹底的な優生学と高度福祉社会が融合した、冷酷なユートピアを維持します。
### 第三期:永遠の冷戦とデジタル通貨の胎動(1990年〜1994年)
*1991年:ジュネーブ三極頂上会議(新ヤルタ体制の恒久化)
* 史実でソ連が崩壊したこの年。スイスのジュネーブに、大日本帝国総理大臣、EU総統、ソ連邦共産党書記長が集結。互いの勢力圏への干渉を永久に放棄し、中国大陸の分断固定化、南米の中立化、宇宙空間の棲み分けを確認する巨大な条約を締結します。ここに、世界は「永遠の三極冷戦(エンド・オブ・ヒストリー)」へと突入します。
*1993年:楚公(中国南部)の経済特区化
* 中国大陸の親日政権である「楚公」が、共栄圏の巨大な工場(世界の工場)として本格稼働。安い労働力と引き換えに、日本の最新インフラが投下されます。北部の親ソ政権との国境線には、ベルリンの壁を凌ぐ長大な「無人自動迎撃システム(センサー網)」が敷き詰められました。
*1994年:カスカディアにおける「見えない階級社会」の完成
* カスカディアは、表面上は極めて豊かなハイテク社会を享受していました。しかし、その実態は、遺伝子と学力テストのデータによって幼少期から「帝国の官僚層」「現地の管理者層」「単純労働層」へと完全に選別される、非情なデータ階級社会となっていました。
### 第四期:千年紀へのカウントダウンと新世界の確立(1995年〜2000年)
*1995年:南米統合市場(メルコスール)の「絶対中立」宣言**
* 日本、EU、ソ連のどの軍事同盟にも属さない南アメリカ大陸が、独自の経済連合を強化。ブラジルとアルゼンチンを中心とするこの地域は、三極すべてと等距離で貿易を行う「したたかな非武装地帯」として、独自の繁栄と文化のガラパゴス的進化を遂げます。
*1997年:大日本帝国、完全デジタル通貨『新円(デジタル・エン)』の導入試験**
* 紙幣と硬貨の廃止に向け、総力戦研究所は共栄圏全域の金融決済を完全に電子化するプロジェクトを始動。すべての国民の収入と支出が中央サーバーでトラッキングされ、「脱税」や「地下経済」が物理的に不可能な社会が完成します。これは究極の治安維持システムでもありました。
*1999年:Y2K問題(2000年問題)における「三極の奇妙な共闘」**
* 年号が2000年に変わる瞬間に発生しうるコンピューターの誤作動(特にICBMの偶発的発射)を防ぐため、この年だけは日本、EU、ソ連のトップエンジニアたちが極秘裏に協力。互いのシステムの深淵を覗き合いながら、人類滅亡の危機を回避するためのパッチ当て作業が行われました。皮肉にも、アナログインフラを残していたソ連のシステムが最も安全であることが証明されます。
*2000年:ミレニアム(新世紀)の幕開け**
* 2000年1月1日。核戦争の炎に焼かれることもなく、世界は静かに新世紀を迎えました。
* 夜空には、日・欧の巨大な宇宙ステーションが星のように輝き、地上では数百億のデータトラフィックが飛び交っています。暴力と血の匂いは完全に消え去り、代わりに「法」「アルゴリズム」「経済的依存」という見えない鎖が、すべての人類を適材適所の幸福(檻)の中に配置し、生かしている時代。