夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
「ごめんなさいね、エルザ。この泡二人用なの」
※大嘘である。
年末にあったらしいプリナちゃんの妹さんの命日。行先はあの遺跡があった湖。
お墓参りみたいなものって考えると付き添いにしたってぞろぞろ行くようなもんじゃない。それにこの街に来た時みたいにプリナちゃんの泡で飛んで移動するつもりだから、あまり人数増やして負担掛けるのも悪い。……ってのは、そうなんだけど。
「だから、その……な?」
「わぅ……」
耳ぺったんしっぽしゅんって垂れて、本当に捨てられた子犬みたいな顔するエルザを見てると罪悪感がひどい。「置いてかないで」って泣きそうになってるの見るとついよしよしして希望を叶えてあげたくなっちゃう。
ただ、話はプリナちゃんにとって本当に大事な、今はもう二度と会えない家族のこと。俺を連れていくことに意味があるんだろうけど、この街に来てからの付き合いのエルザに踏み込まれたくないこともきっとある。妹さんと全然関係のない人間なんだからなおさら。
「行って帰ってせいぜい三日くらいだから!エルザは強い子元気な子。な?」
「はい、です……」
そういうのはエルザも頭ではちゃんと分かってるんだと思う。でもさびしくなるのが我慢できない。元々冒険者パーティー追放されたこともある子だし、独りになるのが人一倍不安って言うなら俺はそれを笑ったり責めたりなんてとても無理だ。
だからって今回は事情が事情だし、プリナちゃんに我慢してとも言えない。残念だけど、エルザにはおるすばんをお願いするしかなかった。
「ほら帰ってきたら新年会!また三人で楽しくパーティー!
いつもエルザに頑張ってもらって大変だと思うけどさ、期待していいんだろ?」
「……。ふふ、はいですっ。エルザ頑張ります!」
「よしきた。じゃあお願いな」
「いってらっしゃいです、ミュートさん!」
背中ぽんぽんしながら説得したら、なんだかんだで最後には笑って送り出してくれた。
戻ってきたら三日分全力でわしゃわしゃなでなでしないとなー、と思っていると。
「………ミュートはエルザを甘やかし過ぎです」
この街に来る時と違って、周りを観察しながら進む必要がなくてそこそこ速く飛ぶ泡の中。
景色の流れ方からして新幹線くらいはスピード出てそう。泡なのに。
まあ、これを操ってるのはプリナちゃんだから、制御ミスって弾けたり落っこちたりなんてことはないんだと思う。当のプリナちゃんはほっぺたに空気入れてぷくーっと膨れてるけど。
「えい」
「ぷふっ!?もう、ミュート!!」
やわらかくてすべすべなほっぺをつっついて空気抜き。ふざけられて余計にぷんぷんするプリナちゃん可愛い。……つまり、『プリナちゃん可愛い』な茶番をやってくれるくらいにはそんなに怒ってない。
「ほら、エルザっていつも家事とか俺達のためにすごく頑張ってくれてるじゃん。
だからあの子が喜ぶことは基本なんでもやってあげたくなるっていうかさ。軽くなでなでするだけで全力で喜んでくれるから、余計に」
「そういうところ。悪意を受け流すのがとても上手なのに、好意に対しては素直に好意を返すのがあなた様の美徳だとは、分かっていますが」
「照れるぜ」
「ふふ、よしよし」
「プリナちゃんのなでなで!癒される最高!」
「………こうして全力で喜んでくれると、本当に追及しづらくなるのですけど」
お互いが密着する泡の中でいちゃつくのは前と変わってない。でも恋人になったばかりだったあの時と、何か月も一緒の家で同棲した今だと空気感も違ってくる。いい意味でやわらかい、って感じ?会話のテンポとかスキンシップとか、お互いが心地いいやり方を分かってるからかな。
そういえばエルザのいない二人きりっていうのでも、いつもと空気感が違ってる気もする。プリナちゃんといちゃついてる時は基本気を使って気配を消してくれてるけど、同じ家の中に居るっていう意識はあるもんな。
もちろんエルザを邪魔だなんて思ったことはない。でも本当の意味で誰にも気を使わないでいい二人きりって思うと、いつもよりもっと大胆にべたべたしたい欲もわいてくる。
ただ、今は目的が目的。あんまり浮かれてへらへらするのは妹さんに悪い。
「プリナちゃん。妹さんがどんな子だったのか、聞いてもいい?」
「………。はい、聞いてください」
いつもプリナちゃんの後ろを姉さま姉さまと言ってついて来る、お姉ちゃん大好きな子だったこと。
プリナちゃんもそんな妹が可愛くて、面倒を見たり遊び相手になってあげたりして、そのたびにとても嬉しそうにする素直な子だったこと。
意志の強いところもあって、モンスターと戦うプリナちゃんを心配して一緒のパーティーに無理やり入ってきたこと。
誠実で真面目な男と恋に落ちて、妹が先にという複雑な気持ちになりながらも、きっと幸せになってくれると――――思って“いた”こと。
プリナちゃんは妹さんのこと大好きだったんだなって、いいところばかりを精一杯褒めるいいお姉ちゃんなのが話を聞いててすぐ分かるのに。内容と裏腹にその話し方と表情はどこまでも乾いていて、何かとんでもなく大きな“後悔”が伝わってくる。
封印される前のプリナちゃんがその子の死んだ日と場所を知ってるって時点で、バッドエンドにしかならなかった物語。しかもその場所は、プリナちゃんが封印されてたあの湖。
それ以上のことは話さなかったし聞けなかった。話してるうちに目的地についたっていうのもある。
あの痛くて苦しかった、でもプリナちゃんに出会えた、俺自身複雑な気持ちしかない遺跡が沈むあの湖に。
「「………」」
出発するときに花屋でアドバイスを聞きながら選んで買ってきたお参り用の花束を湖に浮かべて、しばらく祈る。名前も顔も知らない、クリスマスも初詣でもお盆休みもハロウィンも全部やる無宗教な日本人の祈りが何の足しになるのか知らないけど、気持ちだけでも。
そう長い間待たずに、隣のプリナちゃんが顔を上げた気配がした。
「もういいの?」
「はい。……元々、あの子にひとこと言わなければいけないと思っていただけなので。
でもただあの子の
「そっか」
慰めの言葉は見つからないけど、そもそもプリナちゃんがそんなものを欲しがってないのもなんとなく分かる。
俺に出来るのは、ただ黙って傍に居ることだけだった。
「じゃあ帰るか」
「………実は、せっかくここに来たのですからもう一つやっておくことが」
「やっておくこと?」
「あの遺跡の『もんすたー』を津波で全滅させて押し流した時に、大量の『どろっぷあいてむ』がこの湖の底にばら撒かれてまして」
「…………。あ、あー」
言われてみればそうだった。
「当時周辺情勢が分からずすぐにでもここを離れたかったのと、やっと外に出られたミュートの気持ちを考えるとそんなことを言い出せなかったのもあるのですが―――ミュートさえよければ回収作業、しませんか?」
「いいの?この湖は妹さんの亡骸が沈んで、ってさっき―――」
「―――いいのです。もう跡形も残っている訳はありませんから」
あと、生活の糧を全てミュートの稼ぎに依存しているのにも思うところが、と恥ずかしそうにごにょごにょするプリナちゃん。そこ気にする必要ないのに、って言っても気にしちゃうのはしょうがないよね。封印から目覚めて俺を助ける時に津波で全滅させたモンスターの戦利品は、もともと全部プリナちゃんのものなのが当たり前だし。
というわけで。
しんみりはしたけどすぐ調子を切り替えて―――無理やりに、っていう意図もあるだろうけど―――湖の底お宝回収イベントが突発開催されるのでしたとさ。
…………。
ミュートは当然知らず、プリナも“そう”と認識しなかったため気付いていないことではあったが。
このストレプト湖底に眠る遺宝のうち、最も質の高いものはと問えば当然に
ミュートを連れて遺跡から浮上中のプリナに通りがかりに瞬殺された存在とはいえ、格としては『
銘は
【禰、穢……ッ】
水底の汚泥の中、翡翠色の眼光が仄暗く明滅し始めた。
ミュートくんと順調にいちゃいちゃが深まってるので、過去の感傷に浸る余裕のあるプリナちゃん。なのでここで過去が追いかけてくるイベントをひとつまみ♡(外道)
>独りになるのが人一倍不安
いいえ、ごすずんに「置いてかないで」アピールしてるペットの心理が100%です。
>クリスマスも初詣でもお盆休みもハロウィンも全部やる無宗教
それは無宗教とは言わない定期。
>死者蘇生X
死した存在を、その直前の状態で浮世に呼び戻す
死した存在を、『その直前の状態で』浮世に呼び戻す
死した存在を、『 そ の 直 前 の 状 態 で 』浮世に呼び戻す
………人の心、ありますか?(二重の意味で)