夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
超久しぶりな気がするギルドの愉快な面々。
「明けましておめでとーございまーす!」
「まーす!」
正月明け初出勤でギルドへ。こっちの世界にあけおめの挨拶があるかは分からないけど、エルザはこういう時絶対乗っかってくれるので助かる。
ネタが通じなくてスベった時に、一人だけ気まずいのと仲間が居るのとじゃやらかした感がダンチなのだ。
【にぅ……!】
『ステイ、ですよ』
うにはプリナちゃんに抱っこされたままなんか不服そう。そこに一瞬エルザが「ふふん」みたいなドヤ顔で視線送ったの見えたんだが、この子たちはいったい何の次元で張り合っているんだろう。
まあでも街中にモンスターが居ると大騒ぎだから、ヴェール付きプリナちゃんと一緒に『隠蔽』掛かってないといけないんで、外ではその腕の中で大人しくしているしかないことを理解してるうに。
そんなわんことにゃーこの攻防は置いとくとして。
「「「………」」」
誰もリアクション返してくれない。「髪の色すげー変わってんじゃん、イメチェン?白とかブリーチ痛くなかったん?」とかそんな雑談も返してくれない。
や、まあ腫れ物扱いもいい加減慣れましたとも。いいもんいいもん、俺にはエルザが付いてるからぼっちでスベってる訳じゃないもん。エルザだってクリスマスに贈った三角耳付き帽子とひらひらスカートの改造衣装で、首輪と合わせてシスターかっこはてな状態だけど誰もツッコミ入れて来てないもん。
あとクロケおねーさんはお仕事だから絶対反応してくれるし。
「ミュートくん係」で高い給料もらってるの聞いてるんだ。
そんな風に半分スネて悲しい思考なの自覚してる状態で受付に行くと、いつもの受付嬢が澄み切った表情で出迎えてくれた。……なにごと?
「どしたんクロケおねーさん。なんか『透き通る世界が見える』みたいな顔して」
「明鏡止水の境地で客を出迎える受付嬢―――シュールですね!」
後ろで毒が漏れてる気がするわんこはさておいて、首をかしげながら話しかける。
ギルド制服をゆるっと着崩して、髪をふわふわ巻いて、あまり高級感のないアクセであちこちデコってるギャル風おねーさんはいつも見るカッコだ。ここまで行くと逆に黒髪なのが違和感だけど、そういえばこの世界で髪染めって見たことないんだよね。髪色の薄さで
じゃあブリーチもこの世界にないだろとかそんなセルフツッコミはさておき、きゃぴきゃぴしたおねーさんが浮かべるには不似合いな悟りの表情を向けられると、びみょーに身構えてしまう。
そんなこっちの反応に気付いているのかどうか、穏やかに笑ったままクロケおねーさんは語った。
「ねえミュートくん。私これでもこの街で生まれ育って、それなりに愛着もあるのよ。郷土愛って言うと、なんかこっ恥ずかしいけどさ」
「は、はぁ……?」
「だからね、最近思うの。もしなんかやらかしてこの体が消し炭になっても、パーシャルが廃墟に変わる光景をこの目で見ないで済むのならそれは幸せなことなんじゃないかって」
「????」
なんか世界が滅ぶ系の夢でも見たんだろうか。イマイチ話が読めない。
「元々アリにとって人を見上げるのと象を見上げるの、どっちも誤差なんだし。ミュートくんが“白”になったからって今更慌てることなんて何もないわよね」
「そうかな……そうかも……?」
いや、どういうことなのか本当にさっぱり分かんない。まあクロケおねーさんの中でなんかが解決したっぽいのでいいこと、なのかな。
「そうだ。ミュートくんが来たら、ギルド長のところにお通ししろってことになってたわ。お願いできる?」
「ヴァリスさんが?いいけど、なんだろ?」
その受付嬢からのお知らせで、新年一発目の『サンダーラット』のお仕事は救出依頼じゃなくてギルド長への挨拶になるみたいだった。
関係者スペースの奥、もうおなじみになった面談室にエルザと(うにを抱えたプリナちゃんも連れて)進んで行き、指定席のソファに座る。ほどよくふかふかしてて心地よくて好きなんだよねこれ。
「「………」」
いつものこわーい顔のメガネギルド長が対面に来てるけど、さて今回はどんなお説教かなぁ(諦め)
「年末に発生した不自然な霧と、大陸中央方面から迫ってきていた飛行種の
………うん、やっぱそれだよね。
挨拶もなしに直球で切り出された話は、予感してたとおりに年明け前の妹さんの件だった。あの蛾の怪獣が増殖して空一面どこまでも遠く埋め尽くすのを、俺は上空から見てたわけだし。千キロ以上離れてそうなこの街からでも、全力全開の電撃で焼き尽くすのはばっちり観測できたらしい。
ただ別にやましいことをしたわけじゃない。流れ弾というか流れ雷がどっかに落ちた可能性とかはあるけど、仮にそれで誰かが死んだとして俺を恨むのはご勘弁だ。あんな浴びた物を茶色いスライムになるまでドロドロに腐らせて溶かすような鱗粉、世界中にまき散らされる前にあの子を止めたこと、別に褒められたいとは思わないけど「もっとうまくやれた」なんて赤の他人からけなされる筋合いはもっとない。
だから俺がやったこと自体を隠す必要はないんだけど、プリナちゃんのことを話すわけにはいかないから、なんで戦うことになったかはうまくごまかす必要はあった。大丈夫、エルザがちゃんとカンペ用意してくれてる。
「霧はよく知らないけど、出かけたところにアレが居てさ。ヤバいなーと思ってビリビリしただけだって」
うん、ふわふわした説明。逆にどこをどうツッコめばいいか迷うよね。それでいていつもの俺の言動から見て不自然じゃない感じがさすがエルザ、俺のことよく分かってる。
ギルド長も反応に困ったようにメガネを直しながら、鋭い目つきでとりあえずの質問を投げてくる。
「断崖山脈の向こうまで遠出の用事が?」
「お墓参り。ちょっとね」
「………そうか」
他人の墓参り事情を深掘りする奴はそうはいないっていうか、もしやる奴が居たら色々ヒトとして大事なものが死んでる。故に追及できない。
あえて質問しやすい部分の説明を最初に言わず、残しておいて問われたらそれ以上続かない回答をしてそこで議論を
(わふふっ♪)
(はいはい)
隣で「ほめてほめて」オーラを出すエルザの喉をくしくししてやると、ご満悦の気配が伝わってくる。
多分誰の入れ知恵か見透かしてるんだろうなーって感じのギルド長は、朝からなんか疲れた顔でエルザを無理やり視界に入れないようにこっちをガン見しつつ、いきさつじゃなくてアレがどんな怪獣だったかの話にスライドしてくれた。色々察した上で見逃してくれたんだろうけど、気遣いには甘えることにして毒蛾がどんだけヤバいやつだったか特徴を伝える。
「予言の“五つの闇”とやらか。だが明らかに『月を裂く』ではなく、該当しそうなのは
予言の年を待たずして『英雄様』ではないカスミ・ユウトがそれを討伐したことといい、聖典が明らかに狂っているわけだが、何か言うことはあるか聖教徒」
そこでギルド長はものすごく嫌そうにエルザに顔を向ける。喉を撫でられてリアルに「ごろごろ」とかうなってる女の子に関わりたくないのは、まあちょっと分かる。それネコなんじゃないの、とか言う以前の問題だもの。
「わぅ?よく分からないですけど、英雄様の
「…………はぁ」
しかも教典がおかしいと言われてこの平和なコメント、本格的にシスターかっこはてなになりつつあるエルザ。信仰心isどこ。
もうぐだぐだになった空気をさすがの鬼畜ギルド長もどうしようもないのか、話をまとめにかかった。
「依頼もなく、他国で発生した
だがこのパーシャルに住まう一個人として、この街にまで被害を拡大させたであろう存在を撃破したこと、その偉業に対して相応の敬意と礼を惜しむつもりはない。―――感謝する」
「うぇっ!!?」
『………』
めちゃくちゃプライド高そうなのに、いきなり頭下げられてビビる。あの戦い自体
けど……うん。命がけで戦ったんだ、感謝されて悪い気はしない。
「頭上げてよ。気持ちは受け取ったからさ」
「了解した。だが、言葉だけで報いたと言い張るつもりはない。要望があれば、この身の及ぶ範囲で叶えるが?」
「………いきなり言われても、うーん」
このギルド長マジメな人なんだな、とちょっと認識を改めた。もちろん誠意100%じゃなくて借りを作りっぱなしがマズイとかパフォーマンスとかそういう面が無い訳じゃないんだろうけど、こうやって筋をきっちり通すタチだからギルドなんてデカい組織をまとめられてるんだろうな、って。
それに対して何も言わない方が失礼な気もしたから、ふと思いついたことを返した。
「じゃあおいしい店紹介してそこで食べさせてよ。
ギルド長ならいいとこ知ってるんでしょ?」
「――――。ああ、候補をまとめておく」
お金の心配はないけど、高級料理の店とかいきなり入りづらいし、どこにどんな店があるかもまだ知らないところがあるし、せっかくだからね。
そんな話があった次の日にはもう何件かの店の案内と招待状が用意されてて。
個室でパーティー料理4人前ってお願いしたらどの店も聞いてくれたんで、プリナちゃんやうにもいっしょに超おいしいごはんを楽しむことができた。
お仕事早くて的確!さすがギルド長!
…………。
「マスター、機嫌良さそうですね」
「アクティか。いや、どこぞのバカを思い出しただけだ。
何かある度に高いメシと酒をタカって来たバカを、な」
―――本当に勘の良い奴め。だが助かった、この借りは必ず返す。
―――かてえこと言うなよ、相棒のピンチに命張らないでどうすんだっての。まあ気にすんなら今日もメシと酒はお前のおごりな!
「………そんなこともありましたね。兄さんとミュートさん、性格は全然違うけど、お人よしなところはちょっと似てるかも」
「こちらの予測を越えて跳ね回るところもな。―――今日は呑むか」
「おつまみ、用意しますね」
(はきゅううぅぅ♡兄さんのこと思い出しておセンチになってるマスター可愛いぃぃ♡♡♡)
ほんわかする話のつもりだったのに最後で台無しだよアクティちゃん。君もいっしょにしんみりするべき場面じゃないのん?
>この世界で髪染めって見たことない
髪色で
>なんか世界が滅ぶ系の夢
世界を滅ぼす系の巨大毒蛾の大群が1000兆ボルトの電撃で全滅する光景。霧の中でクロケおねーさんにそこまで具体的なものは見えてないが、誰がどんな規模でやらかしたのかなんとなく理解してしまった結果、なんか悟った。
―――愛するものが壊れる光景を見ずに死ねるなら、それは幸せなことなんだって。だからミュートくんの地雷踏んでプチっと殺される心配でびくびくする必要ないよね!()
>さて今回はどんなお説教かなぁ(諦め)
またなんかやっちゃいました?とは言わない。
>あえて質問しやすい部分を最初に言わず
なんかどっかの幼女が得意そうな話術テク。
>信仰心isどこ
全部ごすずんのためのもの。それはそれとして、『英雄様』の本意を