2週間ぶりくらいですね。もうちょいペースを上げていけたらなと思う今日この頃です。
あと物語のテンポも良くしていきたいなぁ。
感想お待ちしてます、それでは本編へどうぞ。
世界が、崩れ落ちていく。
世界を、絶叫が震わせる。
世界が、新たに誕生する。
いや、それは新しい世界ではない。本来あるべき世界だ。
魔女である彼女にとって、自分だけの世界が正しいのだ。
____ただいま、ワタシのセカイ。
悪魔の支配から解放された少女は、思うがままに踊り出す。
<鹿目まどか>
昼間のように明るかった魔女の結界が壊れていく。そして、壊れた端から廃ビルが空へと突き上がり、無人の街が出来上がっていく。
その内の一つのビルに、見上げるほどに巨大な蛇が……魔女化した沢渡ちゃんが巻き付いた。
「沢渡ちゃんッ……そんなッ……。」
ビルよりも高い位置に持ち上げた沢渡ちゃんの頭が地上を見下ろしている。その仕草はつい先ほどまで見ていた沢渡ちゃんの姿とはあまりに違っていて、もうアレは沢渡ちゃんではないのだと嫌でも理解させられる。
それでも、私は沢渡ちゃんに呼び掛けずにはいられなかった。
「沢渡ちゃん!落ち着いて!!魔女はもう倒したんだよ!!お願いだから戻って来て!!」
喉が張り裂けそうなほどに叫んで、沢渡ちゃんに呼び掛ける。
すると、周りを見渡していた沢渡ちゃんが私の方へと顔を向けた。
「沢渡ちゃん?」
もしかして私の声が届いたの?
そう思い、私は微かに希望が見えたような気がした。でも、それは私の勘違いだった。
沢渡ちゃんの巻き付いているビルの窓から、白いナニカがいくつも這い出してきた。
違う、アレは白ヘビだった。沢渡ちゃんの使い魔である白ヘビが次々と現れ、私の方へと向かってきている。
白ヘビたちは私と仁美ちゃんを囲うと、鋭い牙を見せつけてチロチロと舌を伸ばして見せた。
(逃げ……ないと。)
私はやっと気づいた。沢渡ちゃんは魔女になったんだ。いや、元々魔女ではあったんだと思うけど、沢渡ちゃんは心まで魔女になってしまったんだ。
幸いにも、まだ私の背中の方には白ヘビたちは集まっていなかった。背を向けて走り出せば、まだ逃げられる道は残っていた。
(逃げないと!)
私は仁美ちゃんを落とさないようにしっかり背負い直すと、後ろに下がって走り出そうとする。
その瞬間、肩に掛けていた学校のカバンからナニカが飛び出した。
「うぐッ!?」
途端に呼吸が苦しくなる。首を誰かに締め付けられているかのようで、強い圧迫感で頭が白く染まっていく。
霞んでいく視界に見えたのは、私の鼻先で舌を伸ばした白ヘビだった。
(そう、だった……私のカバンには、沢渡ちゃんの、使い魔が…………。)
早く振りほどかなくちゃいけない。だけど、頭が真っ白になってどうすればいいのか分からなくなる。
視界がチカチカと瞬く。
……何も見えない。
…………周りで誰かがクスクスと笑っている。
…………『人殺し』『裏切者』『偽善者』『薄情者』…………
…………
…………『ごめん、なさいッ。私の、せいでッ……』…………
…………
__死…………。
「ゴースト、握り潰して。」
耳元でぐしゃっと何かが潰れる音がした。
すると突然、首の圧迫感が一気に無くなった。遠くなりかけていた意識も戻って来て、肺が酸素を求めて急いで呼吸をして、その苦しさでゲホゲホと咳き込んだ。
ぼやけていた視界もゆっくりと焦点が合わさっていく。すると、私の視界の中に黒の革靴を履いた誰かの脚が見えた。
「遅くなってごめんね。ちょっと道草食ってたんだ。」
頭の上から聞き覚えのある声が聞こえ、重たい頭を上げてその顔を見上げた。
そこには、私を背にして沢渡ちゃんと向き合っている、姫野さんとゴーストちゃんがいた。
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<姫野>
ゴーストに指示を出し、まどかちゃんとお友達の子?を囲んでいた白ヘビたちを殲滅する。
一先ず周囲の安全を確保できたのを確認すると、見上げた先で私達を見下ろしている沢渡ちゃんを睨んだ。
「ゴースト、悪いけど沢渡ちゃんの状態を確認できる?」
『……姫野、アレは、
「ホントに?……まったく、一体何がどうなっているのやら。」
思わずため息が出てしまう。だって、こんなことは公安対魔特異課が設立されて以来起きなかったことだからだ。
魔人の暴走自体は過去にもいくつか事例はある。銃の魔人がその最たる例だ。彼女は魔女から魔人に姿を変えられた後、魔女として暴れていた頃の記憶に絶望し、精神が崩壊しかけて暴れたことがある。だけど、その時も彼女は最終的に魔人化した状態で保護され、完全な魔女へと逆戻りすることはなかった。
これに関してはマキマさんが私に教えてくれたことがある。機密によって秘匿されている情報らしいから全ては教えてもらえなかったけれど、マキマさんは私にこう言っていた。
『全ての魔人は私の制御下にあるの。だから万が一暴走しても、私が命令すれば必ず言うことを聞かせられるんだ。』
つまり、マキマさんがいる限り全ての魔人は暴走することはありえない。
逆に言えば、マキマさんがいなくなると、魔人たちを制御できる人がいなくなるということ。
(まさか、ね…………。)
脳裏に嫌な想像が過る。それを振り払うために、私はゴーストに話しかけた。
「ゴースト、マキマさんとは連絡取れる?」
『……ダメ。やっぱり繋がらない。……でも、死んではいない、と思う。』
「その根拠は?」
『………………私が、
ゴーストは数拍の間口にする言葉を悩んだ後、私にそう答えた。
なるほどね……『ゴーストがまだ正気だから、マキマさんの制御は生きている』と。つまり、マキマさんは生きているけど沢渡ちゃんだけがその制御から外れてしまったということかな。
「なら、沢渡ちゃんをさっさとマキマさんの所に連れて行かないといけないね。」
『……でも、マキマ、どこにいるか、分からない。』
「それはまあ、探していれば見つかるんじゃない?とりあえず、沢渡ちゃんを大人しくさせないと始まらないで、しょッ!!」
言い切る前に建物の陰から襲い掛かって来た白ヘビを、懐から抜いた拳銃で迎撃する。
魔力で強化した弾丸が白ヘビを貫通し、魔力の残滓となって霧散した。
ガリガリと頭上で鱗とコンクリートが擦れる音がする。見上げれば、沢渡ちゃん__いや蛇の魔女は全身をうねらせてこちらに向かって体を伸ばしてきていた。どうやら使い魔だけでは私を殺せないと踏んだらしい。
「ゴースト、民間人二人を守りながら、蛇の魔女と戦える?」
『……できるよ。……だって、私、腕はいっぱいあるから。』
「オーケー!てなわけでまどかちゃん、ゴーストが君たちを守ってくれるから、そこから動いちゃダメだよ!」
私は苦しげに喉を押さえているまどかちゃんにそう伝えると、蛇の魔女に向けて走り出した。
蛇の魔女は使い魔を呼び出して私に向けて攻撃を仕掛けてくる。私は向かって来る蛇の群れを睨みながら、素早く魔力を練り上げた。
魔法で構築したタバコを口にくわえ、肺一杯に吸って煙をフゥーッと吐き出した。その煙は私の手の中で刀の形に変わり、生成した武器を構えて飛び掛かってくる使い魔どもを正面から切り伏せた。
私の固有魔法は、生成した煙を自由自在に操ることができる魔法だ。重さや質感を本物そっくりに再現でき、その斬れ味は使い魔どもの固い鱗もバターのように切り裂けるんだ。
ふと、視界が暗くなる。
直ぐに横へと跳び、頭上から襲い掛かって来た蛇の魔女の攻撃を避ける。
蛇の魔女が地面に激突し、周囲に砂塵が舞う。視界が一気に悪くなり、何も見えなくなる。
その瞬間、砂塵を突っ切って巨大な影が現れた。それは目にも留まらぬ速さで私の上半身を抉り取った。
しかし残念。それは”私”じゃない。
「ハズレ!”本物”はこっちだよ!!」
蛇の魔女と同じように砂塵を突き破って踏み込み、手にした刀で蛇の魔女の胴体に切り付けた。
私の不意打ちに驚いたらしい蛇の魔女が小さく飛び跳ね、大きな隙を晒す。そこへゴーストの不可視の腕が次々と襲い掛かり、バンバンバンバンッと張り手の勢いで蛇の魔女を打ち付け、長大な蛇の身体を無理矢理地面に押さえつけた。
「イイよ、ゴースト!そのまま抑えてて!!」
『……分かった!』
親指を立てながらゴーストに指示を出すと、そのまま私は大量の煙を吐き出して10体ほどの分身を生み出し、地面に縫い付けられた蛇の魔女へと殺到した!
そう、最初に蛇の魔女の攻撃を受けたのは、私が魔法で生み出した煙による分身体だ。私の魔法が再現できるのは武器だけじゃなく、自分自身も複製することができるんだよね!ワンマンアーミーと言えるほどの規模を作れるわけじゃないけど、多くても魔女を5体まで同時に相手することができる。元々は煙で目くらまししかできなくてゴーストに頼りっぱなしだったんだけど、師匠や姉弟子の指導のおかげでここまで私は強くなった。
私と分身達の総攻撃で蛇の魔女へと次々に攻撃を加えていく。刀で斬り、ハンマーで叩き、銃で撃ち抜き、ナイフで滅多切りにする。
しかし、通常の魔女よりも数倍強い蛇の魔女はこの程度では仕留め切れない。私達の攻撃を浴びながらも蛇の魔女は長い体を動かし、ゴーストの拘束から逃れようとする。そんな蛇の魔女の逃走を許すまいとゴーストは更に腕を増やして完全に蛇の魔女を封じ込めにかかった。
そうして全身を拘束された蛇の魔女はもはや身じろぎすることもできず、抵抗のできないその身体に分身たちと共にさらに苛烈に攻撃を仕掛けた。
(これなら後は時間の問題だね。このままゴーストに抑えてもらいながらダメージを与えて、蛇の魔女を倒して沢渡ちゃんのグリーフシードを回収する!)
沢渡ちゃんは魔女となって暴走してしまったけど、それなら通常の魔人化の処理に通せば魔人に戻すことは可能かもしれない。もしくは、マキマさんに引き渡せばもう一度制御を取り戻すことができるかもしれない。
今回の街一つを襲った大規模な魔女災害。裏には間違いなく手引きした存在がいる。そして、これだけの魔女に同時に干渉する手段を持つ存在は、マキマさん以外には”奴ら”しか考え付かない。
”インキュベーター”__奴らに対抗するには、一人でも多くの戦力が必要だ。ここで沢渡ちゃんを失ってしまうわけにはいかない。
(あと、少し!!)
逆手に持った刀を振りかぶり、蛇の魔女の額に向けて振り下ろす。
この一撃で、トドメ___
ぎょろり
その瞬間、蛇の魔女が鎌首をもたげ、私の視線と交わった。
沢渡ちゃんは魔法を使うのが苦手らしい。だから傷を回復させるのに時間はかかるし、物に込められる魔力の量も微量らしく、他の魔人や魔女、或いは魔法少女の魔法に干渉することも難しいと言っていた。だけど、それはあくまで”汎用的”な魔法に限った話だ。
沢渡ちゃんがイナリちゃんのように多くのウィッチハンター達と契約している理由。それは、彼女の持つ強力な”固有”魔法が関係している。
敵の位置を正確に把握し、魔力の流れを的確に読み取り、不意を突いて死角から強襲する。それが沢渡ちゃんの得意とする戦法。
単純な殺し合いならば___相性さもあるが___沢渡ちゃんに勝てるウィッチハンターは極一部に限られる。
”蛇睨み”
(ッ!?身体が、動か…………。)
金縛りにあったように身体から自由を奪われる。その影響は分身達にまで伝播し、攻撃の手が一斉にピタリと止まった。
そして、動けない私の目の前で蛇の魔女が霧となって霧散した。
(どこに___)
その時、結界内に建ち並ぶ廃ビルの陰から、ナニカが飛び出したのが見えた。
”藪蛇”___”丸呑み”
「…………あ?」
気が付けば、私の身体は半分だけしか残っていなかった。
重力に引っ張られ、地面に背中から叩きつけられる。肺の中の空気が全部抜けて、上手く呼吸できないまま身体が必死に酸素を求めた。
「姫野さん!!」と誰かが私を呼んだ。首を動かせば、ゴーストの手に守られているまどかちゃんがいた。
泣いているのかな?それもそうか、今の私、身体の半分無いんだもんね。
(はは……、お子様には、刺激がちょっと、強すぎた、ね。)
「姫野!!」と叫びながら空から降りてくるゴーストを残った右手で制しつつ、全力で魔法を稼働させる。すると体の断片から煙が噴き出し、失った肉体を補完した。
『姫野!大、丈夫!?』
「うん、大丈夫。このくらい平気だから。」
心配して駆け寄って来てくれたゴーストに返事をしながら立ち上がる。だけど足に力が入らず、ふらっと身体がよろけてしまった。地面に手を突くと、ぼたぼたと赤い染みが地面に広がった。何かがおかしいと思い手で顔を触ると、手にべったりと血が付いていた。次に手を眼帯と同化しているソウルジェムに触れれば、表面が僅かにざらついており、指でなぞってみればソレがソウルジェムの亀裂だと分かった。
これは…………まずいね。
『姫野、ソウルジェムに、傷が……。』
「ね。……まいったな~これ。身体に力が入んないや。」
『……姫野、逃げよう。無理に戦う必要は、無いよ。』
「確かにね。でもさ、逃げられると思う?」
見上げれば、蛇の魔女がチロチロと舌を伸ばしながら私達を見下ろしていた。私の分身たちもさっきの奇襲で全部壊されて煙になり、蛇の魔女を包んで光を反射している。かなり大ピンチだっていうのに、その光景を神秘的だなぁと思ってしまった。
『姫野、私が、時間を稼ぐ。私なら、アイツを止められる。その間に、姫野はあの子達を連れて、逃げて。』
「……ゴースト。」
『大丈夫。私には、攻撃は当たらない。だから、気にせず行って。』
ゴーストはそう言うと私を後ろに下がらせ、蛇の魔女の前に出た。
たしかにゴーストの言う通り、ゴーストは元幽霊の魔女だから、普通の攻撃はこの子の身体をすり抜けて当たることはない。
だけど、蛇の魔女に体のほとんどを食われた私は理解した。アイツはゴーストを殺すことができる。今ここでゴーストを置いて行けば、ゴーストは蛇の魔女に食べられて死んでしまう。
(それは、嫌だ。)
相棒を失いたくない。もう目の前で仲間が死ぬところなんか見たくない。ゴーストを死なせたくない。
蛇の魔女へと挑もうとするゴーストに手を伸ばす。その時、脳裏にいつの日かのマキマさんとの会話が蘇った。
『姫野ちゃん、私は今から変なことを言います。』
『なんですか突然。マキマさんはいつも変じゃないですか。』
『は?そんなことッ……あるかもだけど……。とにかく、今回はそういうのじゃないから!』
『自覚あったんですね……それで、私に何を言うつもりなんですか?』
『……姫野ちゃん、これから先、もし死ぬかもしれないと思っても、諦めちゃダメだからね。たとえ仲間が目の前で死んじゃいそうだったとしても、簡単に命を投げ出したりしたら許さないから。』
『え?それ私に言います?別に私は誰かのために命張るなんてことしませんよ~。ホントどうしたんですか?』
『いいから!頭の片隅にでも置いといて!分かったね!?』
(マキマさん、まさか、あなたの言う通りになるとは思いませんでしたよ。)
自重でブルブルと震える腕をさらに伸ばし、借りているゴーストの腕でその青白い首根っこを掴み、まどかちゃん達の方へと投げ飛ばした。
『ッ姫野!?何を、して___』
「ゴースト、まどかちゃん達を守って。これは”命令”だから。」
『ッ!?なんで!!』
ゴーストはまるでその場に縫い付けられたかのように動けなくなり、私に言われた通りに腕を召還してまどかちゃん達を守る壁として囲っていく。
これはマキマさんが教えてくれた”システム”の一部だ。私達ウィッチハンターと魔人が結ぶ契約と、マキマさんが口にする『契約』は全く違うモノらしい。そこに真の対等関係は存在せず、私達ウィッチハンターが契約している本当の相手は魔人ではなくマキマさんらしい。
そして、マキマさんは一部のウィッチハンターに限り、マキマさんが持つ”他人を支配する力”を契約の中に混ぜて、一度だけ使用することができるようにしてあるらしい。たとえ生存が絶望的な状況になっても、私達人間だけでも生き残れるように。
(相棒であるゴーストを身代りにしてでも、私を生き残らせようとするなんて……やっぱりマキマさんは最低だよね。)
思えば、私は昔から随分とマキマさんに気にかけてもらっていたように思う。聞いていないことまで色々と私に話してくれて、まるで私には全ての真実を知ってほしいみたいな必死さがあった。結局、師匠に頭を殴られて止められていたけど。不愛想だった私のどこがそんなに良かったのかな。
ふと重い頭を上げれば、蛇の魔女の魔力がうねり、次の攻撃を放とうとしていた。私はすかさず魔法を発動させ、周囲を漂っていた煙を蛇の魔女へと収束。蛇の魔女を煙の網に囚え、再びその自由を奪った。
私は地面を蹴り、蛇の魔女の口先に降り立った。手に持っていたタバコは捨て、足先から煙へと変換する。魔法少女の身体に魂は無く、たとえどれだけ傷つこうと、魔力の塊に変換してしまおうと、ソウルジェムに作り替えられた魂に影響は無い。魔法少女としての実力に限界を感じていた当時の私が見出した、肉体を使い捨て出来る魔法少女の新しい戦い方だ。
肉体から変換した煙を、蛇の魔女の口から体内へと流し込んでいく。すぐに異変に気付いた蛇の魔女が暴れ出すけど、体内に入ってしまえばこちらのものだ。
『姫野!!』
遠くからゴーストの呼ぶ声がする。ゴーストはいくつも腕を召喚し、私に向かって手を伸ばしていた。
「”来ちゃダメ”だよ、ゴースト。」
『ぐっ……嫌だ。姫野ッ、私を、置いて行かないでよ……。』
ゴーストの縫い付けられたような瞼が開き、色素の抜けた瞳が顕わになる。人だけを映し、その内に秘められた感情までも見通す呪いの目。
初めて一緒に任務へ行った時に見た、綺麗な目。
『姫野は、優しいね。』
『……私は優しくないよ。』
『私、幽霊の魔人だから、攻撃されても痛くない。でも、姫野は、私を助けた。なんで?』
『……知らない。』
『……私に、死んでほしくなかった?』
『………………。』
『姫野も、みんなと一緒。表情と、考えていること、一致しない。ぐちゃぐちゃに見える。でも心は、綺麗に見える。』
『適当なこと言わないでよ。目の前で死なれるのが嫌だっただけだから。』
『適当じゃない。私の目は見えてる。……綺麗な心は、私は好き。』
『……私よりも善い人なんていくらでもいるでしょ。マキマさんとか。』
『マキマ?マキマはめっちゃくちゃ。心が見えない。でも、変なこと考えてるのは分かる。』
『変なこと?』
『うん。マキマ、姫野を見るといつも、”ゲロチューの人”って、考えてる。』
『は………………”ゲロチューの人”?あのマキマさんが私を?』
『うん。』
『……くっ、はは、なんだそりゃ。』
『姫野、笑った!』
『……笑ってないし。とりあえず、帰ったらマキマさんを問い詰める。そんで名誉棄損罪で夜ご飯奢ってもらお。』
『もう、刑が決まってる。ふふ、マキマ、可哀そう。』
『マキマさん売ったのゴーストだけどね?』
『ふふ、確かに。』
それからだ。ゴーストと正式にバディを組んで、ウィッチハンターとして仕事するようになったのは。
…………懐かしいな。
『姫野ぉ……!』
「……ゴースト。」
身体を煙に溶かしながら、蛇の魔女の中へと入っていく。
最後まで見えなくなるその時まで、ゴーストと見つめ合う。
最期に、これだけ伝えよう。今まで恥ずかしくて言えなかったけど、今しかないから。
「ゴーストは、死なないでね。私が死んでも、ずっと、その目に覚えていて欲しいから。」
ごめんね、ゴースト。
先に逝ってるね。
___________
___________
___________
<鹿目まどか>
目の前で、姫野さんが沢渡ちゃんの口の中に消えていった。
そして、_____
ドオンッ!!!!!!
沢渡ちゃんのお腹の中で、何かが爆発したみたいに大きな音が鳴った。沢渡ちゃんは口からたくさんの血を吐いて、そのままズシンと倒れて動かなくなった。
辺りに黒い煙が立ち込める。
その中で、ゴーストちゃんが座り込んで泣いていた。
『姫野ぉ……ぐすっ…………。』
「ゴーストちゃん…………。」
肩を震わせるゴーストちゃんに手を伸ばそうとして、できなかった。
掛けられる言葉が見つからなかった。大切な人を失う悲しみを知らない私には、なんて言えばいいのか分からなかった。今のゴーストちゃんに何を言っても、慰めにもならないと気づいてしまった。
「姫野さん…………。」
ギュッと手を握りしめる。ただただ、無力な自分が憎かった。見ていることしかできず、守られるだけだった自分が、憎かった。
___私が魔法少女なら助けられたかもしれないのに。
心の中の私が、そう言って私を指さしていた。
ピクッ
「ッ!?」
その時、視界の端で何かが動いたのが見えた。
顔を上げれば、そこにはボロボロになった身体を持ち上げる沢渡ちゃんがいた。全身から真っ黒な血を流し、顔の形も歪んでいた。
だけど、沢渡ちゃんは確かに起き上がった。そして、途端に全身を大きく揺さぶると、大きく開いた口からナニカが飛び出した。現れたのはなんと、傷一つない身体を持った沢渡ちゃんだった。
沢渡ちゃんは傷だらけの身体を脱ぎ捨てると、再び廃ビルの上へと巻き付き、大きな口を薄く開けて私達を見下ろした。
『”脱皮”!?まさか、まだそんな力が……。』
「そんな、こんなのって、無いよ。」
足に力が入らず、ペタリとその場に座り込んでしまう。
姫野さんが最期まで頑張ったのに、それも無駄になってしまった。
沢渡ちゃんも正気に戻る様子はない。またたくさんの使い魔を呼び出して、私達を取り囲もうとしている。
助けに来てくれる人もいない。
これが、絶望。
全ての希望が、零れ落ちていった。
___運命は変わらず。命は儚く消えていく。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の話に納得いかない方がいるかもしれませんが、後々の展開を考えるとこうするしかありませんでした。他の作者の方々ならもう少し上手くやれたんだろうなぁと思ってしまいますが、僕の拙い技量と書きだめしないやり方ではこれが精一杯でした。
もっと姫野さんとゴーストに焦点を当てた話を書けばよかったかなぁと思う今日この頃。
次回はなるべく早く書けたらなと思っています。気長にお待ちください。
【最後に一言】
感想は待ってますが、誹謗中傷はやめてくださいね。