鼻歌混じりに道路を歩く。スキップでもしそうなくらい機嫌がいい。何といっても今日は私の大好きな友達と一緒に遊ぶ日なのだ。休みの日を聞いてからユウカ先輩にこの日に仕事を入れないでくださいと頼み込んで、その分のシワ寄せ分をきっちりこなし。この日を迎えたのだ。
今日は私にしては早く起きて、ノア先輩にお願いして、綺麗に髪を梳いてもらい。前にもらった髪飾りで髪を纏めてもらった。ノア先輩みたいな髪型も憧れるが、やっぱりいつもの髪型がいいのでエンジニア部にお願いして二つに分けてもらったもので髪を留める。デザインをほぼ変えることなく別れた二羽の鳥が太陽に向かって羽搏く様子を描いた髪飾りは一種の芸術作品のようだ。鏡で見て出来栄えに満足してノア先輩にお礼をいって待ち合わせ場所に歩いていく。
待ち合わせ場所であるミレニアムタワー前の広場前に着く。約束の時間までまだ少し時間があるが、どうせ彼女のことなのでもう来ているだろう。
ベンチに座る彼女を見つけて、思わず頬が緩む。また多少距離があるが、彼女の頭はよく目立つ。ヒマワリ色の髪に毛先は私と同じピンク色なのだ。見間違うことはそうない。その目立つ髪をボブカットに切り揃えている。今日は休みということで、いつもの保安部の制服ではなく、前に贈ったカフスボタンを綺麗に縫い込んだ制服を着ている。ほぼ毎日目にするが、その度に嬉しくて胸が高鳴る。
暇潰しだろうかタブレットを眺めている。漫画でも読んでいるのか、それともノア先輩に勧められた本でも読んでいるのか。真剣な眼差しで画面を見詰めている。一枚写真でも撮りたいが怒られるので止めておくとする。
ゆっくりと彼女に近付いていく。こちらに気付いたようでゆっくりと顔が上がる。とび色の瞳が目に飛び込んくる。宝石のように輝く彼女の瞳が好きだ。活発でコロコロと表情を変える彼女によく似合っていると思う。割とたれ目気味なのを気にしているようだが、そんなところも可愛いと思う。
「にはは。じゃあ行きましょうか」
ミツルギちゃんがタブレットを制服に仕舞い込みながら隙なく立ち上がる。彼女の方が背が高いため、若干見上げる形になるが、それもまた楽しみの一つであると私は思っている。ゆっくりと歩きだすのに合わせて足を動かす。こちらの髪の毛に、というか髪留めに視線が注がれるのが分かる。それがまた嬉しくて頬が緩む。多分今日は頬が緩みっぱなしだ。
今日の目的は、特にないが。最終目標だけは決まっている。ミレニアムタワーの屋上まで登ってホログラムの流星群を見ることだ。何でもエンジニア部の人がシャーレで先生と話をしていて星の話になったそうで、そこから発展して流星群の話になり、今は時期的に見えないから自分で作ろうと決意して作り上げたとか。今から見るのが楽しみだ。
試験的に1週間程試してみて、その後問題点を洗い出していき製品として売れるかどうかテストするそうで、今度一週間は毎日違った流星群を見れるとSNSで告知されていた。因みに流星群に前に使ったホログラム花火の機能を足して堕ちる花火にする案もあったらしい。結局没になったらしいが、その案が通っていたら割と騒ぎになりそうである。
ふらふらと目的もなく歩き、気になる店があれば店内を物色し、面白そうなものやら便利そうなものやらを眺めて遊ぶ。自立起動型電卓とかチョーカー型の目覚ましだとか、便利なのか分からないものを見てはあーでもないこうでもないと言いあいながら時間を潰す。そんなことをしていたら私のお腹が空腹を訴えた。慌ててお腹を押さえる私の姿をミツルギちゃんは優しく微笑んでいる。羞恥で顔を真っ赤にしながら睨むも軽く頭を撫でられる。
「じゃあご飯食べにいこうか」
「何処行きますかね」
お店を出て飲食店が多くある通りに向かって歩く。今の気分はなんだろうか。何でもいいから取り敢えずお腹に入れたい気分だ。通りが近くなったのもあっていい匂いがしてくる。何とも健康に悪い。通りに着けば、お客さんがあちこちで列をなして並び洪水のような有様だ。隣を歩くミツルギちゃんを見上げれば、彼女もこちらを向いていたのだろう。とび色の瞳に私の姿が映る。
「何か食べたいものはある?」
「特に希望はないですねー」
「天ぷらでも食べるか」
彼女も何処でもよかったのだろう。適当に視線を彷徨わせて一軒の店に目を止める。そちらの方に目をやれば、周りの店と比較してお客さんが少ないように見える。多少は待つだろうが直ぐに順番が来るだろう。彼女に返事を返して列に並ぶ。
そんなに待たされることなくテーブル席に案内される。窓からは先程まで私達が待っていた辺りだろう道路が見える。通りを歩く人の姿の中にはミレニアム生の姿も割と混じっているので知り合いがいるかもしれない。いや、私は割と顔見知りは少ないが。
内装は何だったか百鬼夜行の方をイメージしているのか変わったデザインだという印象を受ける。あっちこっちに視線を投げているとテーブルに水を置かれる。店員さんに軽く微笑まれ、また顔を赤くする。慌ててメニュー表を開きさっと目の通す。美味しそうなものが沢山並ぶが、好みでいいだろう。
「何にします?」
「私はこのエビフライ定食でお願いいたします」
「うん。私は彩り定食で」
注文を取り、繰り返して確認して店員さんが去っていく。気が動転してしっかり見てなかったが、スケバンの子がバイトをしているようで。大変そうだなと他人事に思いつつミツルギちゃんに目をやれば、楽しそうに目を細めたまま流れるように水を一口飲み喉を潤す。私もつられて水を飲めば、冷たさが舌先から胸の奥へと流れ込み、喉の渇きが癒える。
気になったのでミツルギちゃんが言っていた彩り定食とやらをメニュー表で探せば、エビフライと白身魚のフライに茶碗蒸しまでついているちょっとお得なセットだ。よく見れば本日のおすすめとか書いてあるのを発見する。
「え、ずるくないですかミツルギちゃん。茶碗蒸し付きとか」
「お前がよく見てないからだろう」
全くの正論を吐かれぐうの音もでない。
「次は何処に行く?」
「そうですね。適当にウィンドウショッピング続けてもいいですけど」
次に何をするかを話していく。私としては何処でもいいのだ。私の大好きな友達と一緒にいられるなら。
そんな話をしていたら、注文した品が届き。テーブルに並べられる。私が頼んだ定食は中央にデンと3匹のエビフライが並んでいて、その下にキャベツが敷かれている。ご飯とみそ汁にお漬物。何とも美味しそうだ。ミツルギちゃんの方はというと、私と同じくエビフライに白身魚のフライと私の頼んだものと殆ど変わらないが、やはりはっきりと違うのはフライの横に置かれた茶碗蒸しだろう。上品そうな器に盛られて、とても美味しそうに見える。…私も単品で頼むべきだろうか。
それとは別に目を引くのは、少し深さがある空の器がついていること。何に使うのか店員さんが説明してくれたが、どうやらこの店のオリジナルソースもあるようで、それ用の器だとか。何とも贅沢な店だ。
そんなことを考えている私の脳内なぞ知らぬ存ぜぬとばかりに、先ずは白身魚のフライを食べると決めたようで、たっぷりとタルタルソースをつけて一口で半分程頬張るミツルギちゃん。サクッと何とも食欲をそそる音がする。そのままご飯を一口。幸せそうに頬張る彼女。
「…食べにくいんだけど」
「あ。ごめんなさい」
あまりにも美味しそうに食べているのでジッと見てしまった。慌てて意識を自分の食事に移し、エビフライを箸で掴み。タルタルソースを少しつけて口に運ぶ。先ず酸味とコク。衣が簡単に砕け、奥からエビの旨みが私の口内に広がる。合わせるようにご飯を何口か。
「おー!美味しいですね」
「うん。いい店だ」
二人して感想を言い合い。食事を続ける。あっという間に一本目を食べ終え。二本目はレモンをかけて頂くとしよう。レモンを指で軽く押すと、溜まっていた香りがふわっと立ち上がる。全体にかかるようにレモンを動かして、エビフライを浸していく。
「かけ過ぎましたかね」
「そんなもんじゃないか?」
箸でエビフライを掴み口に運ぶ。レモンの酸味がよく効いていて、エビの旨みとよく調和しているように思う。こちらを心配そうに見ているミツルギちゃんに小さく手を振って大丈夫だとアピールする。それで安心したのか食事に戻るミツルギちゃん。
ミツルギちゃんもエビフライを食べるようで、テーブルに備え付けてある容器からこの店のオリジナルのソースだろうものを空の器に注いでいる。瓶を傾けると、とろりとしたソースが重力に引かれるようにゆっくりと落ちていく。香りがふわりとこちらまで立ち上る。
「おーいい匂い」
「ミツルギちゃん私のも注いでください」
そう言って空の器を差し出せば、苦笑しながらも殊更丁寧にソースを注いでくれる。礼をいって最後のエビフライをソースに浸す。真っ黒いソースに浸されたエビフライを零さないようにしながら口に運ぶ。ソースをまとったエビフライを噛んだ瞬間、衣の「サクッ」という軽い破裂音。その奥から、エビのぷりっとした弾力が立ち上がる。ソースの甘酸っぱさがその弾力に絡みつき、噛むたびに味がゆっくりと広がっていく。
「ここ当たりだなー。今度先輩方に紹介しよう」
「ですねー。私も今度ユウカ先輩とノア先輩に紹介します」
きっと喜んでくれるでしょう。可愛い後輩が先輩のために美味しいお店を紹介するんですから。その時の先輩方の様子を思い浮かべながら箸を進める。さっきまで揚げ物ばかり食べていたので、今度はキャベツだ。ミツルギちゃんはドレッシング否定派だが、私はかけて食べた方が美味しいと思う。まぁ無断でかけて拳骨くらってからはやってないので勘弁してもらおう。キャベツにドレッシングをかけて箸を入れ、そのまま口に運ぶ。口内にドレッシングの酸味とキャベツの甘さが広がる。続けてご飯を口に運んでしっかりと噛む。うん。美味しい。ご飯がいつの間にか空になり、何とも寂しい気分に襲われるが、空腹感はほぼ消えたのでよしとする。
キャベツを食べ終え、お味噌汁をゆっくり啜る。チェーン店のよくある顆粒出汁と合成味噌だと思っていたが、予想外に丁寧な味がして、思わず唸る。こちらを訝し気に見るミツルギちゃんに首を横に振って大丈夫だと示し、味噌汁を飲み干す。一息に飲んでしまったが勿体なかっただろうか。セミナーでユウカ先輩が作ってくれるものも美味しかったが、こちらも中々なものである。満足だ。満腹である。ゆっくりとお腹を擦り、満腹感に浸っているとミツルギちゃんが茶碗蒸しを美味しそうに食べているのが目に入る。
「あ、茶碗蒸し頼むの忘れてました!」
「あーまた今度な」
思わず声をあげる私に冷たく返すミツルギちゃんに恨めし気に呻けば、溜息と共に木製のスプーンが私の前に差し出される。その上には銀杏と茶碗蒸しが乗っている。思わず視線を向ければ、綺麗な笑顔で有無を言わせぬ様子でスプーンを私の口に向かって突き出してくる。口を開ければ、私の口内に優しくスプーンが侵入する。甘い卵の風味と銀杏の感触が口内を満たす。口を閉じ切る前にスプーンが引き抜かれ、さも当然のようにそのスプーンを使って残りの茶碗蒸しを食べ進める。このままでは、喋れないので勿体ないが銀杏を噛み砕く。銀杏のほろ苦さと少量だが卵の甘さが混ざり合う。飲み込むのが勿体なく感じるが一息に飲み込み、胸の奥に幸せを流し込む。
「で、お味は?」
「めっちゃ美味しいですけど、急に何するんですか」
「今更気にすることないだろうに」
にやにやとこちらを眺めるミツルギちゃんに赤くなった顔を隠すように下を向く。何度もされてるししているが、照れる物は照れるのだ。いつの間に置かれたのか未だに湯気が立つお茶を飲む。熱いお茶が喉を通り、微妙にささくれだった心を癒してくれる。ミツルギちゃんも茶碗蒸しを食べ終わったらしく食後のお茶を楽しんでいる。ようやく落ち着いてきた動悸を宥め、本題に入る。
「で、今度は何処行きますか」
「割と時間があるからゲーセンとかか?」
「おーいいですね。コテンパンにしてあげますよ」
にははと笑いながら挑発すれば、分かりやすいくらい片眉が跳ね上がる。乗ってくれているのは分かっているが、何とも楽しい瞬間だ。
支払いを済ませ、二人で外に出てゲームセンターを目指す。ミレニアムタワーの近くにネル先輩おすすめの店があるのでそこを目的地にミツルギちゃんに纏わりつきながら歩いていく。
店内に入るとそこかしこから電子音が響き渡る。相変わらずやかましいがそれがいいのだ。何を最初に遊ぶかときょろきょろと視線を彷徨わせ、クレーンゲームに目を付ける。ガラス越しに並ぶ景品たちが私を呼んでいるのだ。救わねばなるまい。コインを投入しアームを動かす。アームが景品の耳をかすめ、わずかに持ち上がった瞬間、身体が熱を持つ。そのまま行く末を見守れば、無情にも落ちた景品が「コトン」と音を立てる。横で見ていたミツルギちゃんが軽く首を振るのが見えるが、私はこんなものでは諦めないのだ。
「で、一時間粘って成果がよく分からんぬいぐるみ一個か」
「あれは絶対アームが悪いんですって!?」
一体何枚のコインが犠牲になったか忘れたが、成果としてはミツルギちゃんが言った通りぬいぐるみ一つだけだ。黒いボディにデフォルメした骨のようなデザインの顔のどことなく惚けた顔が印象的なそれをセミナー制服のポケットに突っ込みながら文句を言う。
多分、モモフレンズの仲間だと思うが確証がない。私はこういう可愛いものにあまり触れてこなかったのだ。隣にいるミツルギちゃんも欠片も興味がないらしくしきりに首を捻っていた。
「次はレースゲームでもやりますか」
「ん、いいよ」
二人して筐体に乗り込み、シートに腰を沈めハンドルを握る。カウントダウンが始まると、二人の呼吸が自然と揃っていく。アクセルを踏み込む音が同時に響き、筐体の振動が足元から一気に駆け上がる。カーブに差し掛かるたび、ハンドルを切る角度、ブレーキのタイミング、それらで段々差をつけられる。最終直線で何とか巻き返しを図るも1秒程差をつけられて負けてしまう。悔しくて、もう一度頼み込んで勝負をし。今度は私の勝ち。ミツルギちゃんを軽く煽り、もう一度。それを何度も繰り返す。
「いやーすっかり真っ暗ですね」
「ちょっと遊び過ぎたな」
二人してゲームセンターで遊び回り、思い出して時計を見れば、結構な時間がたっており。慌てて店を出る。この時間なら晩御飯はコンビニで済ませた方がいいかもしれない。
「コンビニ寄ってタワー上がるか」
「ですねぇ。取り敢えずおにぎりと温かいものが欲しいです」
二人してミレニアムタワーの近くのコンビニに入り、目当ての物を購入してセミナー室を目指す。セミナーまで行けば給湯室が使えるので電子レンジも温かいお茶もある。今の時間なら人もそういないだろう。レジ袋とミツルギちゃんをお供にセミナー室に到着する。何人か残っていたようで声をかけられたので笑顔で応じてミツルギちゃんと共に入る。給湯室の電子レンジに商品を突っ込みボタンを押す。ミツルギちゃんは手慣れた手つきでお茶を用意してくれている。
「そういえばユウカ先輩は?」
「何か古代史研究会の方で問題があったらしくて呼ばれてたよ」
「ほえー大変ですね」
この時間なら大体いるはずの先輩の姿がなく理由を聞けば、また何か問題が起きたようで。少しは大人しくできないものか。私を見習ってもらいたいものだ。
「コユキちゃんとミツルギちゃんはこの後、屋上でイベント見るの?」
「ですです。ご飯食べたら行きますよ」
「いいなー。私も明日非番だし見に行こうかな」
「またユウカ先輩に怒られますよ」
他愛もない会話をしながら、おにぎりの包装を剥がして口に運ぶ。うん。美味しい。農業技術研究部と海洋生物研究部が共同開発したおにぎりだそうで、今までの物とは各具材の旨みが違うとか何とか。私は美味しければ何でもいいので違いが分からないが、ノア先輩が長々と解説してくれていたのできっと違うのだろう。電子レンジの稼働音が止まり、商品を取り出す。今日買ったのは豚汁である。蓋を開ければ立ちのぼる何とも美味しそうな匂いに、箸を伸ばして肉を掴み口に運ぶ。思っていたより柔らかくて、噛むたびにじゅわっと旨みが広がる。大根もにんじんも、ほろっと崩れて甘い。予想外にお腹が減っていたのだなと思いながら、あっという間に食べ終える。
ミツルギちゃんが淹れてくれた温かいお茶を飲みつつ眺めれば、何が美味しいのかドレッシングのかかっていないサラダを黙々と食べている。こちらの視線に気付いたようで小さく手を振ってくれたのでこちらも振り返して、残りの食事を急いで終わらせにかかる。
あまり時間をかけることなく食事も終わり、二人してエレベーターに乗り込み屋上を目指す。殆ど揺れることなく動き出す。わくわくする気持ちを抑えることが出来ずにエレベーター内を、正確にいえばミツルギちゃんの周りをうろうろすれば鬱陶しかったのか軽く頬っぺたを引っ張られる。痛そうに身を捩れば楽しそうに笑われ、その顔が嬉しくて私も笑顔になる。
そんなバカなことをしている内にエレベーターは屋上に到達し、チンッという聞き慣れた音を出しながら扉が開く。屋上にはもう何人か先に着いていたらしく。めいめいに集まり、星空を眺めている。今日は一日晴れの予報なので、よく見えるだろう。
我慢出来ずに手すりまで走っていく。後ろからゆっくりとミツルギちゃんの足音が続く。手すりに身を預け空を見上げれば、満点の星空が目に飛び込んでくる。もうこれだけで来たかいがあるというものだろう。隣にミツルギちゃんが立つ気配がして、そっと横目で見る。とび色の瞳が星空を映していて、それだけで胸がまた温かくなる。
「もうすぐですね」
「私、流星群って初めて見るな」
「にはは。私もです」
二人して星空を見上げ、ゆっくりと時間になるのを待つ。会話が途切れるが、気にならない。私としてはミツルギちゃんが隣にいてくれるだけでいいのだ。
『あーテステス。これから流星群のテストを行います』
エンジニア部の放送が届き、屋上にいる人達から歓声が上がる。星が流れる様子が私の視界にも入ってくる。
空の端で、光がひとつ震えた。最初は星が瞬いたのかと思ったけれど、よく見ると、光の粒が細かく分解されるみたいにちらちら揺れている。ホログラム特有の“空気の屈折”みたいな揺らぎが、夜空の黒に薄く滲んでいた。
次の瞬間、光が線になって走り出す。本物の流星よりも、少しだけ軌跡が滑らかすぎる。まるで空中に描かれた数式が、そのまま光になって流れていくみたいだった。尾の部分が微細な粒子に分かれて、風に流されるように散っていく。
「「おおー!」」
思わず声が出た。無数の光が滝みたいに降ってきて、胸の奥がじんわりと震える。無数の光が空の上からこぼれ落ちてきて、本当に滝みたいだ。ひとつひとつが尾を引いて、夜空に細い線を描いていく。その線が重なって、揺れて、消えて、また生まれる。
隣のミツルギちゃんの瞳にも、流れる光が映っていた。その光が反射するたび、とび色の瞳が淡く揺れて、ホログラムの星空よりずっと綺麗に見えた。
空いっぱいに広がる光の滝は、自然の流星群とは違う。
でも、人工だからこそできる“完璧な軌道”と“計算された輝度”があって、見ているだけで胸の奥がじんわり熱くなる。
まるで夜空そのものが、巨大なスクリーンになって呼吸しているみたいだった。
「すご……」
言葉にならない。
ただ、目の前の光景が胸の奥にすとんと落ちてきて、そこから温かさが広がっていく。
光の筋が空いっぱいに広がって、まるで夜空が自分たちに向かって微笑んでいるみたいだった。
光の筋がだんだん細くなっていくのが分かった。 さっきまで滝みたいに降っていた光が、少しずつ間隔を空けながら流れていく。軌跡の残光も短くなって、空気の揺らぎも弱まっていく。ホログラムの粒子が、名残惜しそうに夜空へ溶けていった。
最後の一本がすっと走り抜けて、尾がふわりと散った。
その瞬間、胸の奥がきゅっと締まる。終わってしまったんだ、って思うのに、まだ目が離せなかった。
『ありがとうございました。これで、今回のテストは終了します』
放送が静かに流れて、屋上の空気がふっと緩む。周りの人たちが「すごかったね」とか「明日も来ようかな」とか話しながら帰っていく。
「終わっちゃいましたね」
思わずそう呟くと、ミツルギちゃんが小さく笑った。
「また明日もあるだろ。毎日違う流星群って言ってたし」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に残っていた寂しさが、ゆっくりと温かさに変わっていく。また明日も、この人と一緒に見られるんだと思うと、それだけで十分だった。
夜空はもう、いつもの静かな星空に戻っていた。
でも、さっきまで流れていた光の余韻が、まだ体の中に残っている気がした。
新衣装決まりましたねー
ちょいちょい流れてきて欲しかったので嬉しい限り