デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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51話 愉快な戦争の悪魔の眷属たち+自称母の襲来

(さすがマキマさんだ、やっぱ、すげぇよあの人は…)

 

 

デンジが目覚めた時には全てが終わっていた。

またしても死んでしまったのだが、それよりも感動していた。

 

 

(へへへ、マキマさんとの旅行、めっちゃ楽しい~!)

 

 

あれだけ楽しみにしていた江の島旅行であるが、想像以上に楽しかった。

あのマキマさんが普段では見れない格好をして楽しむ姿を堂々と凝視できる。

それだけで幸せなのに旅行2日目にしてなんか物足りない自分の気持ちに応えてくれた。

 

 

(俺、マキマさんと出会えて本当に良かった…!)

 

 

憧れの女上司に何かしてあげたいのだが、デンジは何をすればいいのか分からなかった。

だが、江の島周辺の海で釣った魚を調理して提供できると知ってデンジは頑張った。

たった1匹しか釣れなかったものの彼女に魚料理を提供し、褒めてもらえたのだ!

 

 

(へへへ、次はなんだろうなー)

 

 

今まで誰かに指示された事しかできなかったデンジだが、最近は自発的に動ける様になった。

いつか、マキマさんを旅行を誘える男になろうと努力していく所存である。

心臓病と貧困で苦しんだ過去が夢みたいだが、彼はその事も忘れない。

 

 

「やっぱ、悪魔をぶっ殺したり、ぶっ殺されたりするのが俺には似合ってるな~!」

「悪魔を討伐するなら分かるけど、デンジ君が死ぬのは違うんじゃないかな~?」

 

 

マキマが江の島旅行を計画して実行したと勘違いするデンジから本音が漏れる。

その本音を聴いたレゼは、デンジが死ぬ事を普通だと感じて欲しくないのでそれは否定した。

 

 

(こんなの絶対、可笑しいよ…)

 

 

レゼはソ連に道具として使い潰される前提で任務を遂行する事しかできなかった。

そんな劣悪な環境と洗脳で生きていた彼女からしてもデンジは異常だった。

 

 

「人間君、気分が悪そうだね」

「むしろ、なんで()()で酔わないと思った?」

 

 

一方、今まで劣悪な環境に居たせいで早川アキの気分は優れなかった。

それを見た天使の悪魔の指摘に怒る気力も無かった。

 

 

「パワーを見なよ。自分が飛行機を操縦したと妄言を吐く余裕があるよ?」

「アイツは早々に気絶してたからな。ある意味では幸せな奴だ」

 

 

アキは未来の悪魔から()()()()()()()()()()()と予め知らされていた。

だからといって悪魔の発言を信じる事も出来ず、ずっと機内で地獄を見た。

 

 

「だから!ワシはウヌらを救った救世主なのじゃ!ちゃんと操縦した実感も残っておる」

 

 

無駄にでかくなっている胸に右手の親指を突き立てるパワーは相変わらずだった。

自分が航空機を操縦した実感があると言っても信じてもらえない現状に不満のようだ。

呆れを通り越して苛立ちを隠せない蜘蛛の悪魔に話しかけるほど彼女は違和感に気付かない。

 

 

「へえ、パワーちゃん。面白い事を言うね。後で詳しく聞かせてくれないかな?」

「…ひぇ」

 

 

だが、マキマが発した一言でパワーは震え始めてデンジの背後に向かって駆け出した。

さすがにデンジの前ではお仕置きをしないと考えて行動したものだったが…。

 

 

「マキマさん!旅行ってこんなに楽しいんですね!俺、知らなかったですよ!!」

「…楽しんでもらえて良かったよ」

 

 

デンジの能天気さにはレゼやパワーはおろか、マキマすら困惑するものだった。

 

 

(予想外の出来事が続いたね…)

 

 

航空事故の悪魔を支配して裏から事件を操っていたはずのマキマはいくつかミスをした。

まずはデンジとレゼを隔離するのに失敗し、自身の能力を解く行動をされてしまったのだ。

そのせいで彼女の支配から脱した航空事故の悪魔が本気に殺しにかかって来てしまった。

 

 

(部下が思った以上に優秀だったからなんとかなったけど…)

 

 

更に結婚の悪魔が想定以上に航空機を操縦できる技能と知識があるのも驚いた。

契約者の記憶や技能を継承する能力ではない事は知っているので全て自前の技能だったようだ。

 

 

(空港に足止めされちゃったな…)

 

 

羽田空港にトラブルが発生したのもマキマの仕業だが、想定よりも大変な事になってしまった。

最短で復旧する滑走路すら5時間以上の時間が掛かるという事で成田空港は大混雑となった。

夏の長期連休が近いという事もあり、地上も空も大騒ぎだ。

 

 

(そろそろ来そうだけど…タイミングが悪いね)

 

 

対魔特異4課のメンバーが成田空港に来たのは偶然ではない。

しかし、餌にしていたデンジとレゼが来るのは想定外だった。

 

 

(…レバノン料理、食べたかったな…)

 

 

これにより、素早く事を済ませる事が不可能になった。

事前に調べていたレバノン料理店に行けそうにもない。

とりあえず、係長に何か仕掛けたいのだが、残念ながらこの場に居ない。

緊急着陸してきた航空機に駆け付けた職員の対応を全て任せたのだから。

 

 

「どうしようかなー」

 

 

ターミナルビルの一角の窓から滑走路を眺めるマキマは、たった今降りて来た航空機を見る。

これから起こる大惨事から間一髪逃れたと思うとなんだか不思議な気持ちになった。

実際に航空事故に巻き込まれると思わなかった彼女は、少しだけ事故を恐れる気持ちを理解した。

理解しただけで同情する気もなかったし、思考回路はズレたものであったが。

 

 

「マキマさん!次は何があるんですか!?」

 

 

陰謀が仕組まれているとは気付かないデンジは笑顔でマキマに質問した。

彼の脳内では素晴らしい時間が到来すると本気で思い込んでいるようであった。

 

 

「デンジ君」

「はい」

「江の島旅行が中止になっちゃったね」

「ええっ!?」

 

 

なので事実を告げると、デンジは衝撃を受けた様で固まってしまった。

まるで餌がもらえると思った犬が、飼い主に放置されてショックを受けた感じである。

その姿に既視感があるマキマであったが、デンジはそれどころじゃない。

 

 

「なんで!?」

「さすがにあの規模の事故だと事情聴取があるよ。だからこれで旅行は終わりだね」

「そんなー」

 

 

航空事故の悪魔との戦闘すら旅行の計画の一環だとデンジは勘違いしていたのだ。

更なる刺激を求めていた彼は、肩の力が抜けて両腕が胴体の手前にぶら下がった。

 

 

「でも楽しかったでしょ?」

「はい!」

 

 

デンジの反応から彼は幸せになりつつあると実感できる。

すぐにでも次の一手を打ちたいのであるが、あえて興味がない存在の気を惹く事にした。

 

 

「生きているとね、予定外の事が起こったり、自分が望んだ結果が得られない時があるものだよ。でも、それが人生なの。望むものが全て叶う世界なんて私は嫌だな」

「え?望んだものが手に入るならそれで良いじゃないんですか?」

 

 

残念がるデンジにアドバイスをするマキマは、改めて窓を見る。

 

 

「デンジ君、人間ってね。頑張って努力や苦労をして手に入れる事で人は初めて成長するんだよ。何かを求めるだけなのは赤ん坊だけなんだ。夢を叶えたいなら我慢するのも大事だよ」

「は、はい…」

 

 

改めて憧れの女上司の背中が遠く感じるデンジは、彼女の発言を肯定する事しかできなかった。

 

 

「我慢できない飼い犬は躾けないといけないの。だからデンジ君はそんな駄犬にならないでね」

 

 

またしてもデンジに振り向いたマキマは、右手の人差し指を立ててそっと彼に近づけた。

少しだけ首を傾けて微笑む仕草は、さきほどまで挫けていたデンジの心を鷲掴みした。

 

 

「大丈夫です!!」

「今回は残念な結果で終わったけど。…また誘うから安心して」

「はい!!」

 

 

言う事を聞く素直な犬が好きなマキマだが、言葉と裏腹にデンジの顔を見ていない。

むしろ、彼女が見ているのは彼の胸部だけであった。

 

 

(人間の概念から生み出された悪魔も人間と同じだね)

 

 

はなからデンジを見ていないマキマは、彼だけが持っている大切な物が欲しいだけだ。

だが、今のままでは手に入らないからわざわざ回りくどいやり方をやっているのだ。

 

 

「聞いたかパイセン、またマキマさんが誘ってくれるそうだぜ~?」

「ああ、その前にお前に常識をたくさん叩き込まないとな」

「うげ!?」

 

 

馴れ馴れしい態度でアキ先輩に呼び掛けたデンジは先輩の怒りを買った。

旅行が終わったら大目玉を喰らうのが確定したと察した彼は悲鳴をあげる。

 

 

「プリンシさん」

「なんですか?」

 

 

そんな中、ベンチに座る荒井ヒロカズは横に座る蜘蛛の悪魔に呼び掛けた。

 

 

「なんで公安で悪魔と戦おうと思ったんですか?」

「合法的に殺戮(さつりく)できるからですよ」

 

 

蜘蛛の悪魔は血の気が多い。

前にバディになっていた公安職員が悪魔に人質にされた時、容赦なく悪魔ごと殺害した。

セラフィムほどではないが、隙を見せると公安職員すら害する存在が彼女である。

 

 

「じゃあ、なんで俺なんかと組んでくれたんですか?」

「命令だからです。邪魔するならあなたも排除しますよ」

「…分かりました」

 

 

幸いにも荒井は彼女の怒りを買った事はないが、いつまで続くか分からない。

バディだったコベニが辞職すると聴いたのでしばらく彼女と良好な関係を保つ必要がある。

 

 

「お団子買ってきましたが、食べますか?」

「食べます」

 

 

何かと気遣いができる荒井は、蜘蛛の悪魔の不興を買わないように努力をする。

彼女の返答を受けて団子を差し出した彼は、ゆっくりと軽く息を吐いて両手の指を組む。

 

 

(俺、姫野先輩みたいにやっていけるのだろうか…)

 

 

公安のデビルハンターは、殉職率と辞職率が異様に高い職種である。

係長の言う通り、ある程度の目途が立ったら辞職するのが一番良いかもしれない。

そう考えていた彼は、外から異様な音を聴く事となる。

 

 

「なんじゃ?」

 

 

真っ先にそれに気づいたのは、血の魔人であるパワーだ。

 

 

「おお!野球のサイレンじゃ!懐かしいのー。まだワシが――」

 

 

けたたましくなる耳障りなサイレンを聞いて彼女は、真っ先にその答えを出す。

確かにそのサイレンなので誰も否定はしないが、その後の発言には耳を貸さなかった。

 

 

(来たね)

 

 

サイレンを聞いたマキマだけがそれが何を意味するのか知っている。

カタミチ航空49便の成田空港緊急着陸を受けて各地のマスコミが集っている。

そんな中、あの悪魔はきっと大惨事をしでかしてくれるのだろう。

いや、()()()()と言った方がいいだろう。

 

 

「ん?」

 

 

パンパンと軽く手を叩く音が聞こえたのでデンジはその音がした方に振り向く。

そこにはさきほどと違って真剣な顔つきをしたマキマが佇んでいた。

 

 

「これは異常事態だよ。いつでも動けるように臨戦状態で待機して」

 

 

これから何が起こるか分かっている彼女は、あえてその事を黙って命令を下す。

一方その頃、空港職員や消防担当、事故調査官に問い詰められていた結婚の悪魔も異変に気付く。

 

 

(……これは)

 

 

甲子園で鳴り響くサイレンではなくガチの空襲警報など久しぶりに聴いた。

マキマが目的としている悪魔が接近している事を示しているが、おそらく戦いにならない。

何故なら多摩飛行場や入間基地の連中が真っ先に対応し、全て悪魔に叩き落とされるからだ。

 

 

(マジで来るのかよ…)

 

 

緊急着陸の件で詰められている方がマシだった。

少なくともこれから起こる大惨事は無関係だと公安上層部や政府高官に言えるから。

 

 

(嫌だな…)

 

 

13年前に大暴れした【銃の悪魔】が出現する前に最も人類から恐れられた悪魔が居る。

皮肉にもその悪魔が誕生するきっかけの起因になったのは、銃による発砲であった。

 

 

(やだな…)

 

 

かつて世界を巻き込んだ戦争があった。

他民族と多文化が存在し、列強国の狭間で揺れ続けたバルカン半島は火薬庫そのものだった。

たった1つの事件が列強国の情勢を変えて最終的に世界を巻き込んだ戦争が起こった。

それがWorld(ワールド) War(ウォー)(世界大戦)と呼ばれる戦争である。

その戦争は最終的にバルカン半島から生まれた悪魔によって戦争どころではなくなった。

 

 

(マジでやだな…)

 

 

現在もその悪魔は、ユーゴスラビアの奥地で眠っているとされる。

その存在を生け捕りにしようとするマキマの行動も思考も信じられなかった。

 

 

(戦闘機の悪魔…)

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()が日本の上空に襲来した。

あれから約80年、遥かに発展した航空産業や軍事技術をもってしてもあの悪魔に勝てない。

そう確信しているからこそ結婚の悪魔は、この場から動こうとはしなかった。

 

 

「続きは後にしましょう」

「…え?」

 

 

ところが、内線によって緊急事態と知らされた担当者は取り調べを中断した。

これには、自分は身動きが取れなかったとアリバイを作りたかった悪魔は焦る。

 

 

「ちょっと待ってください。自分はどうすればいいのですか!?」

「それは後で知らせる。ひとまずこの部屋に待機してくれ」

 

 

成田空港の平和と安全を守る職員に「この場に残れ」と指示された。

そのまま慌ただしく誰もが退室し、結婚の悪魔だけ室内に残される事となった。

 

 

(よっしゃああああああああああ!!)

 

 

誰も戻って来ないのを確認した悪魔はガッツポーズをした!

その瞬間、撃墜された戦闘機が偶然にも取り調べ室付近にある誘導路に墜落した。

地面に激突した戦闘機が爆発し、発生した爆炎と爆風が結婚の悪魔に襲い掛かる事となった!

 

 

(クソがああああああ!!)

 

 

全身がミンチより酷い状態になった悪魔は、すぐさま瓦礫と炎をぶっ飛ばす。

5秒足らずで全身を元通りにし、大きく空いた穴から屋外に出た。

 

 

「…ああ、やってるな」

 

 

国防航空自衛隊*1が領空侵犯を行なった存在を迎撃する為にScramble(スクランブル)をしたようだ。

空を見上げるとMiG-21bis-Jが7機、久々の国産戦闘機である烈風Ⅱ*2の3機が交戦していた。

 

 

(予想通り、戦いになってない)

 

 

だが、予想通りに戦闘機の悪魔に歯が立たない。

だってまともな武装をしていないのだから

 

 

(自分のせいだが…)

 

 

23mm二連装航空機関砲*3だけでマッハ3で駆けまわる存在を撃ち落とすのは不可能に近い。

どうしてこうなったかというと結婚の悪魔が生み出した超ド級のムカデを迎撃したせいである。

上空を飛び回る全長30km級や70km級のムカデに搭載兵器を撃ち尽くした結果こうなった。

 

 

(そのせいで人類が作った兵器より悪魔の力を借りた方が良いと諸外国に思われたんだよな…)

 

 

結局、調子に乗っていた結婚の悪魔が生み出したムカデたちはマキマによって討伐された。

この事実は、日本が擁するマキマには絶対に勝てないと諸外国に牽制と警告をもたらした。

なにより諸外国の首脳陣は、悪魔の力を借りようと積極的に国民を捧げ始めたのだ。

 

 

(マキマに支配された…と考えれば納得できるのだが…)

 

 

今思えば、マキマに支配されたせいと他責思考をしたいが、それをやっている場合ではない。

たった今、3機のMIG-21が撃墜された。

その内の2機がターミナルビルに直撃コース、残る1機もB滑走路に直撃しそうであった。

なので落ちていた瓦礫を拾って投擲し、建造物に直撃する前に空中で粉々に破壊した。

 

 

(…あれ?これってやばくない?)

 

 

A滑走路は、緊急着陸したカタミチ航空49便の事故調査のせいで閉鎖されている。

C滑走路(横風用滑走路)*4もさきほど結婚の悪魔を巻き込んだ爆発のせいで使えない。

羽田空港の全滑走路が閉鎖されている状態で近隣の航空基地も使えない状況である。

 

 

(やべぇ!B滑走路を死守しないと大惨事になる!!)

 

 

名古屋空港に向かえない便は、松本空港か富山空港に向かう必要がある。

だが、羽田空港に向かうはずだった便も加わる為、管制官が旅客機を捌ききれるわけがない。

燃料切れで酷い目に遭ったが、同じ目に遭う機体が60機を超えるのも時間の問題であった。

 

 

(なにより、アイツ!!仕返しに来やがったな!!)

 

 

戦闘機の悪魔を生け捕りするなら簡単である。

適当に成田空港にいる人間から死なない程度に血を奪い取って結界を張ればいいのだから。

しかし、それができないのは、単純に日本政府やマキマから許可されていないだけではない。

戦闘機の悪魔にしがみ付いている戦車の悪魔が居るのが問題だった!

 

 

(こん畜生が!!)

 

 

すぐさまC滑走路に跳び乗った結婚の悪魔は、思いっきりコンクリートを踏みつける!

アスファルトと違って固いせいで半径50m程度のクレーターを作る事しかできなかった。

それだけで充分である。

細かく砕かれた大量の破片が宙を舞っている間に片っ端から蹴り出して攻撃を仕掛けた!

 

 

(やっぱ、コイツ嫌いだわ…!)

 

 

それと同時に戦車の悪魔から供給された空対地ミサイル20発が戦闘機の悪魔から発射された!

成田空港に向かって放たれた14本の槍は、散弾と化した瓦礫に撃墜された!

また、1本のミサイルは射線に割り込んだ3機のMIG-21とパイロットと引き換えに阻止された。

 

 

(カナデ!!B滑走路を死守しろ!死なない程度に民間人から血を奪ってでも守れ!)

(了解しました!小動物の捕食は…)

(ペット以外の小動物の捕食を許可する。なんなら絶滅させても構わん)

(ありがとうございます)

 

 

残った5本のミサイルは、カナデという女に化ける結婚の悪魔の分裂体に撃墜された。

すぐに彼女に死守命令を下し、神奈川県に待機していた2体の分裂体に緊急召集をかけた!

 

 

(あのアホは……すぐに来ないだろうな)

 

 

千葉公安対魔1課の副隊長であった因幡ナオミのロールプレイをする分裂体には期待していない。

あくまで化けた女職員を演じ続ける狂犬に構うほど余裕はなかった。

 

 

(増援が来るまで耐えるしかねぇ…!)

 

 

分裂し過ぎて弱体化が激しい結婚の悪魔は、分裂体の合流を待つ必要があった。

その時、B滑走路に着陸しようとしたノースウエスト航空のB-747が騒動を受けて着陸復航した。

その機体に向かって空対空ミサイルが6発、発射された。

 

 

(邪魔だ!!)

 

 

慌てて瓦礫を拾って4発撃墜、カナデも1発撃墜したが、1発がターミナルビルの死角に入った。

そのせいで撃墜できなかったが、どうやらマキマによって撃墜されたようで無事に危機を脱する。

…わけもなく東京湾及び成田空港上空で飛び回る全ての旅客機に危機が迫っている。

 

 

(戦闘機の悪魔の生け捕りは無理だ!!)

 

 

マキマの目的は、戦闘機の悪魔の生け捕りである。

あのカタミチ航空49便騒動もその一環であると結婚の悪魔は察している。

だが、さすがに民間人と旅客機と滑走路を守りながら生け捕りするのは不可能に近い。

それはマキマも認識している。

 

 

(こんなはずじゃなかったな…)

 

 

本当は別の空域で戦闘機の悪魔を生け捕りにするつもりだった。

成田空港の上空で戦闘が発生したのは、彼女としても不本意である。

 

 

(さすがに私も動かないと…)

 

 

日本政府から契約を持ちかけられたマキマは、とある条件と共に承諾した。

日本列島に住む日本国民を悪魔も含む外敵から守るのが彼女の使命である。

よって、成田空港及びその空域で民間人が死ぬ事を防がねばならない。

 

 

(さて、どうしよう)

 

 

やり方はいろいろあるせいで逆にマキマは選択をすぐに決める事ができない。

ある程度は臨機応変で対処できる結婚の悪魔に任せるとして、やる事は1つである。

 

 

「プリンシ」

「はい、お呼びでしょうか」

 

 

マキマの問いかけに床から出現した蜘蛛の悪魔が応える。

 

 

「デンジ君と共闘して戦闘機の悪魔の興味を空港から逸らして」

「承知しました。すぐに実施します」

「ありがとう」

 

 

戦闘機の悪魔は、マキマに操られた航空事故の悪魔に騙されてやって来た。

いや、ユーゴスラビアの元首を脅して日本に来させたが正しいかもしれない。

どちらにせよ、デンジの捕縛及び身柄確保を目的としているのは同じである。

 

 

「これで無駄に血を流すのは避けられるね」

 

 

戦争の悪魔の眷属を使って姉に嫌がらせをするのがマキマの目的の1つであった。

余計なおまけまでくっついてきたが、誤差でしかない。

もうすぐ自分の野望を達成できると確信しているからこその戯れをやりたいだけ。

 

 

「でも、やっぱりここで戦って欲しくなかったな…」

 

 

それでも時と場を選びたいものである。

興味がない男にこの世の真理を語ったつもりの女悪魔は、不本意な結果に不満である。

迎撃の漏れがないのを確認しつつ次の一手を打つ事にした。

 

 

(うおおおおおおお!!)

 

 

マキマですら冷や汗を掻く状況下でこの騒動に歓喜する悪魔が居た!

それは成田空港の南東から飛んでやって来た!

 

 

(息子たちよ!私は帰って来たぞおおおお!!I'm(アイム) Back(バック)!!)

 

 

眷属の気配を感じ取った戦争の悪魔が激戦区に飛び入り参加したのだ。

彼女は、現世に生まれた直後、チェンソーマンに復讐を誓った。

 

 

(私はここだ!!)

 

 

だが、あっさりと近くに居た悪魔に瞬殺されて鳥の肉体を乗っ取るという生き恥を晒した。

それでも、頑張って耐えた甲斐もあり、息子たちの雄姿を見た瞬間、動いたというわけだ。

 

 

(私の力の一部となれ!!そして一緒にチェンソーマンに復讐しよう!!)

 

 

夜鷹の肉体を乗っ取ったせいで人間界で碌な暗躍ができなかった。

それも、眷族の力を借りれば問題ない!

何度呼びかけても反応しない銃の悪魔に失望した母親は残った子供たちに協力を強要する!

 

 

(…えっ?)

 

 

ところが、彼女に誤算があった。

まずは、自身の眷属にすら雑魚悪魔と見られてしまった事。

空を飛ぶ能力以外、ニワトリの悪魔にすら劣る戦闘力だから仕方なかった。

 

 

(うわああああああああああ!?なんで!?私はお前たちの母親だぞ!?)

 

 

よってユーゴスラビアの元首の契約で動く戦闘機の悪魔は、攻撃を行なった!

30mm機関砲という肉体に掠めなくても即死級の攻撃手段に戦争の悪魔は驚愕する!

回避行動をした戦争の悪魔は、なんで自分が攻撃を受けるのか理解できない。

 

 

(ぎゃあああああああああああ!?)

 

 

なにより、ここは旅客機で過密状態の空域である。

高速で回る旅客機のエンジンから発せられる後方乱気流に巻き込まれる事となった。

上昇と下降を繰り返す気流の渦に囚われてしまった。

 

 

「いやあああああああああああ!?」

 

 

更に周りを飛ぶ旅客機に配慮した結婚の悪魔による投擲攻撃も飛んでくる。

アホみたいな速度で飛んでくるコンクリート片を辛うじて回避する戦争の悪魔は涙目だ。

 

 

(チッ、外したか)

 

 

ちなみに結婚の悪魔も騒動に便乗した雑魚悪魔を認識しており、ついでに攻撃を行なっていた。

 

 

(……やけに機敏だな)

 

 

音速の6倍で飛んでいくコンクリート片を何度も回避するのを見てさすがに疑問に思う。

ただ、戦闘機の悪魔と戦車の悪魔のタッグに警戒しているので分析する暇はなかった。

 

 

 

(たすけてええええ!!)

 

 

なんとか激戦区から抜け出した戦争の悪魔は管制塔の窓に近づく。

傍から見ると夜鷹が窓に擦り寄っている姿にしか見えないだろう。

 

 

(ああ!?)

 

 

そこで戦争の悪魔は衝撃的な光景を目にした!

自分より格下であった末妹が成田空港の管制塔内で陣頭指揮をしていたのだ!

 

 

(お前!!どうやって人間界に来た!?)

 

 

しかも、地獄に居た頃と変わらぬ肉体を目撃した戦争の悪魔は、格下の妹に嫉妬する!

自分がここまで苦しんでいるのに…なんで遥か格下の妹が現世を満喫しているのかと!

 

 

(ん!!)

 

 

ついにマキマもガラス越しから自分を見つめて来る存在に気付いた。

 

 

(私を無視か!!ふざけんな!!格下の癖に!!地獄では逃げ惑っていた癖に!!)

 

 

ところが、マキマですら目の前に居る存在が自分の姉だとは気付かない。

如何せん、自分じゃ歯が立たないほど狂暴だった姉の印象が強すぎたのだ。

よって、今の戦争の悪魔は横断歩道を渡ろうとしたら白線の上を移動する羽虫に過ぎない。

 

 

(この私を無視するな!!いつも私に喧嘩で負けた癖に安全地帯だからって調子に乗るな!!)

 

 

別に殺す価値すらないとマキマに思われていると想像できない戦争の悪魔は翼で窓を叩く!

しかし、マキマからすればすぐにでも殺せる雑魚悪魔としか認識できなかった。

四姉妹の中で最も嗅覚に優れる彼女ですら、あの夜鷹が自分の姉と認識できないほど弱かった。

 

 

(オイ!!いくらなんでも音で気付け!!)

 

 

なにより、マキマには雑魚悪魔を無視できる余裕も理屈もあった。

更に騒ぎ立てようとした戦争の悪魔は、殺気と視線に気付く!

 

 

(あ……)

 

 

振り向くと時雨カナデという女の肉体に化ける結婚の悪魔の分裂体と視線が合った。

旅客機の操縦では役立たずだった彼女でも戦闘となれば話は別である。

 

 

「頂戴…!」

 

 

超音速で突っ込んできた触手は、偶然にも戦争の悪魔の前で通りかかったツバメに突き刺さる。

呆気にとられる戦争の悪魔の前で触手が鳥を握り潰して捕食の光景を見せつけた。

 

 

「頂戴、頂戴。血肉を頂戴!」

 

 

成田空港におけるバードストライクの要因であるヒバリとトンビを喰い尽くした悪魔は呟いた。

背中から生えた触手の大群は、200羽以上のハシボソガラスやツバメだった肉塊を弄んでいる。

釣り上がった口角からは血が垂れており、犠牲になった鳥たちの怨念と無念が感じられた!

その異様な光景を目撃した戦争の悪魔は、すぐさま逃亡を図る!

 

 

(いやあああああああああああ!!)

 

 

結婚の悪魔の分裂体が雑魚悪魔(戦争の悪魔だと気付いてない)を始末するとマキマは予想した。

その予想通りに分裂体のカナデは、慌てて逃げ出した夜鷹の姿をした悪魔の追撃を開始する!

こうして颯爽と乱入した戦争の悪魔は、末妹から歯牙に懸けられずに逃げ惑う羽目になった。

 

 

*1
旧軍の陸軍飛行戦隊と大日本帝国海軍航空隊をルーツとする航空戦力。現実世界の航空自衛隊とは別物

*2
ソ連からMIG-23の技術提供を受けた日本が再設計し、生産した国産機。現実世界におけるF-2

*3
MiG-21の後期型やMIG-23に搭載されているガスト式機関砲

*4
現実世界の成田空港のC滑走路は、過去にいろいろあったせいで2029年の3月末に完成を目指している

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