デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
時は少し遡り、結婚の悪魔が炎上する旅客機を抱えつつ、滑走路で大根おろしごっこを始める前。
新東京国際空港に勤務する管制官全員が飛行する旅客機を必死に誘導していた。
「
(接近中の旅客機は方位を050(北東)に取り、この空域から離脱して下さい)
《
(成田タワー、こちら全日空287便。状況説明を願う)
「
(悪魔が上空に出現中。直ちにこの空域から避難せよ!)
《
(了解しました。方位050へ離脱します)
各航空機から状況説明を求められたが、成田空港のスタッフが逆に説明を求めたかった!
東京国際空港(羽田空港)の全滑走路が使用不可能になったかと思えば、いきなり戦闘が始まった。
何が起こったか把握する事も出来ず、次々と戦闘機が山脈やC滑走路に墜落していったのだ。
民間人の避難誘導に加えて旅客機の対処に追われるスタッフは、激しい胃痛で苦しんでいた。
《
(パンパン、パンパン、パンパン、成田タワーへ、こちらバル・ベルデ航空114便)
更に南米国家であるバル・ベルデからやって来た航空機からパンパンコールの宣言が発生した。
対応に当たる管制官は気付かなかったが、本日で18回目に発生したパンパンコールであった。
すぐに彼は、同じく胃痛で苦しむスーパーバイザーを挙手で呼び寄せて順番を確認する。
《
(燃料が少ない!残り燃料25分、成田空港への優先着陸を要請する)
それと同時にバル・ベルデ航空と交信を行う管制官は、ここで違和感を覚えた。
(
まず、緊急事態を発した割には
しかも、
「
(バル・ベルデ航空114便へ、こちら成田タワー、パンパン了解)
だが、迷う前にやるべき事をするべきである。
すぐさま返答した管制官は、指示を待つ旅客機にこれからの予定を伝える。
「
(滑走路34Rへの直進進入を許可する)
この指示は、「成田空港のB滑走路を南から直進するようにせよ」という宣告に過ぎない。
だが、旅客機のパイロットたちは、緊急事態宣言をしたのだからすぐに着陸できると信じていた。
「
《
(34R滑走路の視認進入を要求します)
「
(ダメです!バル・ベルデ航空114便へ、貴機の着陸順位は20番目です。遅延が予想されます)
そのせいか、とんでもない単語を聴いた気がした機長は確認の為、管制官に聞き返す事にした。
《
(本機の順位は2番目で正しいでしょうか?)
「...
(…違います!バル・ベルデ航空114便、貴機の着陸順位は20番目です!20番!)
《......
(……了解、20番目、こちらバル・ベルデ航空114便)
格安航空会社であるバル・ベルデ航空は予備燃料を搭載しておらず、すぐにでも着陸したかった。
なのに20番目に着陸進入の許可が下りると知ってパイロットたちは顔を見合わせた。
管制官との通信を切った機長は副操縦士に話しかける。
「
(このままだと、最悪の事態になるぞ)
「
(同感です。すぐにでも着陸しなければなりません)
彼らは母国語であるスペイン語で話し始めたように英語が得意ではなかった。
スペイン語における緊急という意味は、「
故に機長は直訳の英語で 「
だが、 彼が発した英単語である「
「
(日本人の指示を無視しろ)
そのせいで管制官は混乱し、まだ燃料があるが、この状況だと燃料切れになると受け取った。
しかし、既に緊急事態と伝えたので先行機の次に優先されると思っている彼らはそうは思わない。
すぐにでもこんな危険な空域から降りたい気持ちで一杯だった。
《
(メーデー、メーデ、メーデー、日本航空514便です。三番エンジンで火災発生!)
しかし、日本航空の旅客機が発した緊急事態宣言を聞いて航路を譲る事にした。
さすがに彼らを邪魔してまで先行して滑走路に着陸する勇気はなかったのだ。
「
(日本航空514便へ、こちら成田タワー、メーデーを確認した。この後どうするのか報告せよ)
《
(成田空港への緊急着陸を要請する!)
「
(了解しました。日本航空514便へ、方位と高度の報告をせよ)
《...
(…方位090、高度10000フィート、左折できません。右旋回のみを要求します)
戦闘機の悪魔と国防自衛隊の戦闘に巻き込まないように安全な空域に逃がしたはずだった。
ところが、撃墜されたMig-21の破片がボーイング747の右主翼にある第三エンジンを破壊した。
高速で飛ぶ悪魔の風圧で破片が飛び込んだ結果だと知らないパイロットの声は震えている。
「
(日本航空514便、針路100を飛行せよ。成田のILS滑走路34Rに誘導する)
《
(了解しました。右折します。針路100、日本航空514便は同意します)
「
(了解、日本航空514便へ、搭乗人員と残存燃料を報告せよ)
《
(成田タワー、こちら日本航空514便。残存燃料は1時間30分、搭乗人員は532名です)
エンジン火災が発生した旅客機と交信する管制官に緊張が走る。
もしも墜落して全員が死ねば、単独の航空事故では最多となる犠牲者が発生する。
今回の事案では、勤続3年目の航空管制官には荷が重すぎた。
「俺が対応する。126.20の周波数に繋げてくれ」
「わ、分かりました…日本航空514便、お願いします」
「ああ、任せておけ」
そこでベテランの管制官が彼の肩を軽く叩いて自分が対応すると断言した。
いつになく頼りがいがある先輩の姿に責任も対応も任せる事しかできなかった。
「
(日本航空514便へ、126.20MHzの周波数で成田タワーと交信してください。どうぞ)
《
(126.20 MHzで交信します。日本航空514便より)
これで先輩に緊急事態が発生した旅客機の対応を任せる事が出来る。
だからといって業務が楽になる事はない。
先輩の誘導の邪魔にならないように周りの旅客機を指示で動かす必要があるのだから。
「
(日本航空514便へ、こちらは成田タワーです。無線チェックします。感度はどうですか?)
《
(成田タワーへ、こちら日本航空514便、感明度5(非常に良好でばっちり聞こえる状態))
ベテランの航空管制官が無線の感度を相手に確認すると問題なさそうである。
しかし、パイロットの発音から操縦に気を取られていると判断。
「
思い浮かんだ単語を英語に変換する余力を操縦に向けさせるべく日本語で発言を許可した。
やはり、祖国で慣れ親しんだ言語の方が彼らにとっても楽になると考えたのだ。
《成田タワー、こちらは副操縦士です。使える滑走路を教えてください》
「B滑走路のみです。A滑走路には不時着機があり、C滑走路は瓦礫の山となっています」
日本語で旅客機のパイロットに報告する管制官は、C滑走路の方で爆発があったと理解する。
戦闘機の悪魔に撃墜された国産戦闘機がC滑走路のど真ん中に堕ちたのだ。
既に滑走路は、無人の緊急車両の列で封鎖されているとはいえ…生きた心地がしない。
《安全に着陸できそうな
「東京国際空港は閉鎖中、代替空港は未だ発見できていません」
《右翼が炎上しており、油圧が低下し、操縦が難しい…です。…第4エンジンが停止しました》
滑走路に堕ちたのが旅客機や貨物機じゃない事を祈りつつ彼らに衝撃的な事実を告げる事にした。
「日本航空514便、高度6千フィートまで降下してください」
《了解です》
「それと落ち着いて聞いてください…」
《…なんでしょうか?》
「只今、先に
本来であれば、
ところが、既に先行で2機も
ただ、この激戦区で無事に着陸体勢になれるはずもなく何度も着陸復航を繰り返していた。
《……あ、ああ。機長、◆〇×亜えN…あ、すみません。本当に滑走路はないんですか?》
副操縦士の発言をかき消す大音量の警報を聞いた管制官は、死角となっているA滑走路を見る。
あそこには事故調査の為、カタミチ航空49便のボーイング737が滑走路の右端で駐機している。
これは、16Rから進入した結婚の悪魔が早期に滑走路が使えるようにした工夫であった。
「日本航空514便、34Lの着陸を許可します。不時着機が駐機してますので左に寄せてください」
ICAO(国際民間航空機関)が定めた規則よりも、自分の航空管制官人生を終わらせてでも…。
必死に乗客を無事に地上へ届けようとする乗員たちに応えようとしたのだ。
(ああ、親父…これでいいよな……?)
だが、彼は致命的なミスをした。
既にバル・ベルデ航空114便がA滑走路の16Rから無断で着陸しようとしていた事。
なにより、専用の回線を用いていたので彼らに無線内容が伝わらなかった。
《確認しますが、34Lで
「
(日本航空514便、こちら成田タワー、滑走路34L、着陸を許可します。風は20度から4ノット)
《
(滑走路34L、着陸を許可、日本航空514便が実施します)
規則を破った彼の気遣いが致命的な重大インシデントを招く。
滑走路への着陸許可を日本語で発言したせいで、パイロットを混乱させたのが最たる例である。
「旅客機の安全規則は、犠牲になった先人の血で書かれている」というのは、伊達ではないのだ。
「……オイ、悪い知らせがある」
「なんだよ……コーヒーの品切れか?」
同時刻、非番だった管制官たちが身支度を整えて管制塔に向かって歩いていた。
本来ならば私語は厳禁なのだが、同僚の顔が真っ青だったので内容を聴く事にした。
「仙台空港のB滑走路で
「…は?」
同僚から悪い知らせがあると聴いて遂に旅客機が墜落したと身構える。
適当なジョークで気を紛らわせてくれるかと願っていたら…最悪の事態だけは避けられたようだ。
「B滑走路って2500m*3だろ!?それがダメなら松本空港も富山空港も使えんぞ!?」*4
「ついでに名古屋飛行場も関西国際空港も大阪国際空港も神戸空港も受け入れ拒否しやがった」
「あっちは戦場じゃないだろ!?なんで無理やりでも送り出さない!?」
「そこに至る航路が戦闘空域のせいで送り出せないんだ!」
戦闘機の悪魔を生け捕りにしたいというたった1つの願いのせいでこうなった。
そんな事実を知る由もない彼らは、本気で頭を抱えていた。
ただ、悪い事は畳みかけるように襲って来るものである。
「大変だ!!A滑走路付近でミミズの悪魔と触手の悪魔!…とにかく悪魔が暴れてるぞ!!」
突然、扉が開いたと思ったら警備員の叫び声が通路に響き渡る。
「とにかく人手が足らん!力を貸してくれ!!」
「俺らは管制官の交代要員だぞ!?お前らだけでなんとかしろ!!」
警備員は、2名の男性職員を発見し、追加要員として参加して欲しいと懇願した!
だが、心身ともに疲弊した管制官に代わって業務を行う予定の管制官は抗議する。
「そもそもこうなったのは…!お前らが仕事してねぇせいだろうが!!」
「それになーにがミミズの悪魔だ!それくらい…」
それにミミズの悪魔くらい大した事なさそうだと彼らは思っていた。
空港の安全を守る職員がその程度の悪魔に怯えているのが気に喰わなかったのだ。
「「「あっ…」」」
その瞬間、地震が発生したかと思うと誘導路を見渡せる窓の先で大ミミズが走る姿が見えた。
大量の蒸気を噴き出しながら全長200mまで伸びた大ミミズが時速200kmで駆け抜けていった。
巨体から蒸気と共に噴き出した高熱の血液が窓を染めていったので見間違いではない。
「…な?手に負えんだろ?」
さっきの化け物が、マスコミを追い払う為に生み出されたと知らない管制官たちは絶句した。
悪魔が空港の敷地内を平気で闊歩する異常事態に乗客や空港スタッフは大混乱に陥っている。
《
(お客様にお知らせします。ターミナル内の通路内で走らないでください)
《
(落ち着いて行動し、緊急放送または係員の指示に従ってください)
空港のターミナルビルで館内放送が流れており、ここでは女性スタッフが呼びかけていた。
しかし、ここまで大惨事になれば、館内放送を聞く余裕などない。
「放せ!!これは報道の自由の弾圧だぞ!!」
「そうだそうだ!!」
身の危険を感じて避難する民衆がパニックで騒動を起こすならまだ良かった。
銃の悪魔がもたらした教訓により、マスコミの報道が政府によって弾圧されているこのご時世。
目の前に発生した大スクープに指を咥えて待っているほど彼らはアホではなかった。
「急げ!!」
「スクープが俺たちを待っているぞ!」
「この機を逃すな!!ペンは銃の悪魔より強し!!」
特にこの騒動に乗り遅れた情報週刊誌の記者や地方のテレビ局のスタッフがやらかした。
なんと、京成電鉄*5の線路に次々と侵入し、徒歩で空港を目指す者が後を絶たなかった。
これのせいで公共交通機関が全て麻痺し、ついでにタクシーも使えなくなった。
「危険です!!下がってください!!」
「退け!!役立たず共!!俺たちは今起こっている現実をお茶の間に伝える必要があるんだ!!」
「取材ならあとでいくらでも受けます。ひとまず係員の避難誘導に従ってください!」
「あそこが抜け道だ!!行け行け!!包囲網を突破してスクープを手に入れるぞ!!」
自称、中立と宣うマスコミのせいでまともに避難誘導どころか少ない人員を更に裂く事となった。
それどころか両親を探して泣き叫ぶ子供を集団で取り囲んで撮影し、記録に残そうとした。
「いい加減にしろ!!マスゴミがあああ!!」
「助けてくださいー!集団ストーカーに襲われてマース!」
「お前らだよ!このクズ共が!!窃盗犯もセクハラ犯も御用だ!!逮捕だ、逮捕する!!」
あまりにも好き放題するマスコミに警官や警備員、空港スタッフの堪忍袋の緒が切れる!
100万円以上する中継カメラを取り上げたり、フィルムを電子レンジでチンしたり!
暴れ回った挙句、事件の証拠だとして乗客の持ち物を窃盗した新聞記者がリンチにされた!
いつ、撃墜された戦闘機やその破片、ミサイルが建物に降って来るか分からないというのに!
(何やってんだこいつら……)
やっぱ、人間って愚かだな…と思うミミズの悪魔に化ける結婚の悪魔の分裂体であった。
しかし、死人を出すなと分裂元に命令されたのでこれを見逃す事ができない。
(ぎゃおおおおお!!食べちゃうぞおお!)
仕方なく建物の一部を破壊して彼らに向かって脅迫するように血塗れの巨体を誇示する。
さきほどまで隣人に向かって醜い争いをしていた人類は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「ホント、人間って愚かじゃな」
もちろん、アホな事をやるのは一握りである。
しかし、緊急時では、理性によって抑圧された気持ちが解放されるものだ。
悲しい事にこういった事態が起きると、火事場泥棒が発生する。
「せっかくワシが来てやったというのに…」
第二ターミナルビルに居る血の魔人は、騒動を受けて駆け付けた。
だが、比較的安全だったここは大半の民間人を避難させる事に成功したようだ。
「ふむ、ここはペットショップか。…ニャーコの土産でも買うか」
せっかく血の悪魔の英雄譚や武勇伝を見せつけようとしたパワーはがっかりした。
しかし、ペットショップらしき場所があったのでニャーコの土産を確保しようとした。
「なんじゃここ?ペットショップなのにペットにもフードにも値札がない?」
店内を軽く物色したパワーは、ここをペットショップと勘違いしたが、実際は違う。
乗客のペットを預かる施設であり、ゲージに収容されているペットは売り物ではない。
当然のことながら、棚や冷蔵庫に置いてあるペットフードも非売品であった。
さすがに人命が最優先だったので動物たちはここで放置されていたのだ。
「なるほどのー!後払いのキャッシュレスを採用してるのか!さすが空港!新時代じゃな!」
この光景を見たパワーは、後払いのキャッシュレスシステムを採用した無人販売店と勘違いした。
ずいぶん未来を見てやがる……!!
「特に気に入ったのは値段じゃ!」
パワーは、ニャーコのお土産の為にキャットフードを次々とハンドバックの中に入れていく。
値札が付いておらず、後払いと勘違いしている彼女は金を払う気がない。
要するに100%OFF、つまり自覚せずにキャットフード缶の窃盗を開始した。
どうせ、あとでマキマかあのクソ上司が代金を支払ってくれると考えていた影響もあった。
「チギャウ…チギャウ…ソレ泥棒…」
つい最近、気絶から復帰したサメの魔人は、彼女の蛮行を止めようとした。
「泥棒?人聞きが悪いを言うな、ウヌは…。ワシはちゃんと金を払うつもりだったぞ?」
「でも、財布ない」
「そうじゃ、ここに来ると分かってたなら財布を持ってきたというのに…」
サメの魔人の指摘にパワーは溜息をつく。
彼女の財布は、マイクロバスに置いてきてしまい、一文無しだったのだ。
「そもそもウヌは、ここが何のショップなのか知っているのか?」
「知らない」
「昨日泊ったホテルと同じじゃ!ラウンジのドリンクは、タダで飲み放題だったじゃろ?」
「ウッ、確かに…」
ビームは明らかにパワーが変な行動をしていると理解しているので彼女の行動を咎めていた。
ところが、ホテルの例を出されてしまい、無料でドリンクを飲めたのは事実だと認めた。
無料で飲み放題だと結婚の悪魔が発言しており、実際にその通りだったのだ。
「よし、4個のキャットフードで充分じゃ。さすがに高級な缶だとは思えんが…問題ないじゃろ」
「そうかなー?そうかも?」
「さっさと皆と合流するぞ。今度こそ凶悪な悪魔を倒してワシの伝説を皆に見せつけるのじゃ!」
一時的に公安対魔特異4課の管理下から外れたパワーは好き放題していた。
だが、そんな彼女たちの行動を監視している者たちが居る。
「容疑者は2名、ブロンド髪に赤い角を生やしたボンキュッボン、おっぱいボインボインの女性。そしてサメの頭の被り物をして上半身が裸のガリマッチョ、海パン野郎の変態だ」
警備員は無線で窃盗犯の特徴を伝えるが、この緊急事態では正気では居られなかった。
大パニック状態なのであえて表現を大袈裟にして分かりやすい説明をした。
「アサノリ、行くぞ!」
「そうだな、ヒルノリ。たまには俺たちのカッコいいところを監視カメラに映してやろうぜ!」
応援が駆けつける前に窃盗犯が移動しそうだったので2名の警備員は行動を開始した。
ただ、こういった異常にすぐに気付けるのが、パワーである。
「むっ、ビーム。走って皆と合流するぞ」
「ハーイ」
マキマに御用になる前は、食い逃げ犯として追いかけられた経験がある。
そのおかげで2名の制服を纏った人物たちが自分たちを狙っていると気付いた。
「もっと走れ!!ワシらが遊んでいると判断されたらマキマにお仕置きされるぞ!!」
「ハイ!!」
人間の死体に乗り移って弱体化した悪魔とはいえ人間より遥かに身体能力に優れている。
あっという間に成人男性の全速力の走行を振り切ってみせた。
「ま、待て!!」
時速60kmで走っているのかと思うほど急加速した窃盗犯たちには無力だった。
あっという間に豆より小さくなった2人の姿を見て駅伝常連だったヒルノリはショックを受ける。
「こちらアサノリ、2名の窃盗犯は第一ターミナル方面に向かって逃走中。どうぞ」
相方であるヒルノリは無線で情報を伝達していた。
しかし、彼らの進撃はここまでだった。
「な、なん…なんだこれ」
まるで世界大戦と呼ばれる戦争を撮った白黒写真に写っていたような光景が広がっていた。
遠くに見えるC滑走路からは、いくつもの黒煙が天空まで登っている。
上空を見上げれば、多くの戦闘機や旅客機が飛び回っており、空が狭く見える。
「ひ、ひい…」
「あれが無線で聴いたミミズの悪魔……デカすぎるぞ…」
そしてA滑走路を目指した彼らは、遠くからでも見える大ミミズを目撃!
さすがに自分たちの手に余ると判断し、持ち場である第二ターミナルに引き返した!
彼らが引き返して歩き出した瞬間、戦闘機の破片が降って来た。
「アカン、死ぬわコレ」
「三十六計逃げるに如かず!逃げるんだよォ!」
「おーい、待ってくれ!俺を置いて逃げるなァ!」
さきほどまで自分たちが居た場所に破片が降って来て間一髪、回避した。
そのまま窃盗犯を追えば、死ぬと自覚して警備員たちは全速力で逃亡した。
一方、あれだけ空を騒がせていた戦闘機の大半が戦闘機の悪魔によって撃墜された。
これにより、少しだけ空が穏やかになると思われた。
《
(このあたりは敵の制空権下だ。悪魔から目を離すな)
ここまで日本の領空を荒らされて政府も国防自衛隊の上層部も黙って放置するわけがなかった。
遂に国防航空自衛隊の虎の子部隊が戦闘機の悪魔が暴れる空域に接近している。
《
(司令部は、作戦展開機の50%の喪失を確認している…)
浜松航空基地から飛び立った早期警戒管制機の3機がこの事件の対処を行なう事となった。
率いて来た部隊の全てを指揮するA-50Jの
《
(更なる被害も予測している)
かつて日本の防空体制を根幹から揺るがした事件があった。
1976年9月、実戦配備して1年も経っていないアメリカ軍の最新鋭機F-15が函館空港に着陸した。
日本の領空を超低空で偵察飛行をした際にエンジントラブルでやむを得ず緊急着陸したのだ。
これが後に国防航空自衛隊の体勢そのものを変えた【バンディット中尉緊急着陸事件】である。
「
(それでも、我々は日本の空に平和を取り戻さなければならない)
1940年代に発生したアメリカとの戦争の危機は避けられたが、その代わりに軍部が暴走。
その結果、大日本帝国軍は解体されて国防自衛隊となり、大陸の資産を全て放棄した。
それから約30年後、またしても節目の年にアメリカによる執拗な干渉を受けた。
《
(我々は、どんな犠牲を払ってでも日本の領空を奪還する!)
同じ常任理事国であるイタリア王国と違って海で隔てだけで超大国に挟み込まれた日本列島。
アメリカ軍の最新鋭機を奪取したいソ連軍と、奪還したいアメリカ軍の板挟みとなった。
戦争も辞さない超大国の圧力に当時の日本の政治家が取れる選択肢などほとんどなかった。
そんな時であった。
女の子の姿をした悪魔が当時の内閣総理大臣に手を差し伸ばしたのは…。
《
(レッドインパルス全機へ、状況を報告せよ)
国防航空自衛隊 第1航空団 飛行群 第11飛行隊 “レッドインパルス”
1976年の9月に行う予定だった第1航空団創立20周年記念式典が流れた結果、全てが変わった。
翌年にソ連防空軍のアグレッサー部隊を顧問にし、“戦技研究班”という部隊は変革した。
同じく浜松航空基地に所属するソ連製の早期警戒管制機の指揮下、8機のSu-27MJが編隊を組む。
《
(こちらレッドインパルス1、スタンバイ)
《
(レッドインパルス2からレッドインパルス8、スタンバイ)
更に2番機を通して全機がいつでも命令を遂行できると断言した。
これ以上、日本の空を荒らさせまいと最精鋭部隊はやる気満々であった。
《
(準備は完了、戦闘態勢は万全)
《
(単独交戦は許可しない。4機で1機を仕留めろ)
それ以上に管制官の発言に苛立ちが見える。
日本の空を守る航空部隊の再建は最低でも15年以上かかるほどの大損害を被ったのだ。
《
(了解しました。メテオロン1へ、こちらレッドインパルス1。新兵装の使用許可を要求する)
《
(レッドインパルス1へ、こちらメテオロン1、あなたには新兵装の使用する権限があります)
《
(了解、メテオロン1へ、こちらレッドインパルス1、交戦許可を要請する)
《
(レッドインパルス1へ、戦闘機の悪魔との交戦を許可する)
あっさりと戦闘機の悪魔との交戦許可が下りてしまった。
周りには民間航空機が飛行しており、地上にはいつもと同じ日常を送るはずだった人々が居る。
本来であれば、彼らを守る為の軍事組織は、手段と目的を見誤った。
《
(レッドインパルス1、交戦)
《
(レッドインパルス2、交戦)
《
(レッドインパルス3、交戦)
《
(レッドインパルス4、交戦)
かつて日本の航空部隊の広告塔であった曲芸飛行隊は、ソ連の試作機運用部隊になり果てた。
1996年の4月2日に初飛行してから4ヶ月も経過しない内に実戦投入が行われる新機体。
その機体群を目撃した戦闘機の悪魔は、彼らの絶望を求めて新手の部隊の迎撃に向かう。
《
(レッドインパルス5、交戦)
《
(レッドインパルス6、交戦)
《
(レッドインパルス7、交戦)
《
(レッドインパルス8、交戦)
Su-27を魔改造したSu-27MJは、推力偏向ノズルを採用した新技術検証用の専用機である。
外観はカナード翼付きのSu-27Mと差はほとんどないが、システムは大幅に変わっている。
別の世界線では、Su-37と名付けられた機体を操るパイロットに迷いは無い。
《
(目標、有効射程圏内。レッドインパルス1から各機。ミサイル発射せよ!)
編隊長機の発言によって編成機が一斉に戦闘機の悪魔に向かってミサイルを発射した。
その光景を目撃した戦闘機の悪魔と一緒にくっついている戦車の悪魔は違和感を覚える。
8発のミサイルが発射されたというのにRWR*7が反応しなかったのだ。
「あ…?なんだあの撃ち方?」
C滑走路を破壊して入手したコンクリート片で投擲する結婚の悪魔も違和感に気付いた。
飛行するミサイルの内、1本が並列するミサイルに命中し、爆発して四散する。
もう2発が回避行動を取る戦闘機の悪魔から狙いを外して旅客機に向かって飛んでいった。
「赤外線誘導型かよ!!正気かあいつら!?」
それを見た悪魔たちは、IRST*8を用いて発射された赤外線誘導型のミサイルと気付く!
戦闘機の悪魔はフレアを焚いてR-27ET*9を回避し、結婚の悪魔は投擲でミサイルを撃墜した!
(シーボルト!飛来するミサイルは全て撃墜しろ!民間航空機も普通に犠牲になるぞ)
(了解!)
(カナデ!お前も…(邪魔しないで!!)お前ェ!!もう許さん!!)
このミサイルは、航空機が発する熱源を標的にするので普通に民間航空機が犠牲になる代物だ。
そのせいで結婚の悪魔は、分裂体にミサイルの撃墜を呼びかける羽目になった。
なお、戦闘機の悪魔も敵機が赤外線誘導ミサイルを撃って来るとは想定外だったようだ。
戦車の悪魔と一緒に『マジかよコイツら…』と驚愕し、思わず反撃が遅れてしまった。
《...
(…34Rの滑走路を離脱してB2の誘導路にいます。第二ターミナルへの誘導を要求します)
《
(ポン・ベネット航空334便、こちら成田グラウンドです。誘導路のB2、B、Kを経由しまして、第二ターミナルのスポット71へ走行してください)
《
(B2、B、K経由でスポット71に向かいます。こちらポン・ベネット航空334便)
戦闘機の悪魔がレッドインパルスと交戦を始めたおかげで34R滑走路に次々と旅客機が着陸した。
メイトリックス・エクスプレス1919便に続きポン・ベネット航空334便も滑走路から離脱した。
次は、最後に
「日本航空514便はどうしました?呼びかけても応答しませんが…」
「別の場所で
B滑走路の着陸誘導を担当する管制官がスーパーバイザーに日本航空の便について質問した。
彼曰く、誘導しなくて問題無いと発言したが、担当する管制官は発言に違和感を覚えた。
「本当によろしいのでしょうか?こっちに一報が届いてません」
「
「りょ、了解です!」
しかし、さっさと航空機を着陸させなければ大惨事は免れない。
戦闘機の悪魔が別の空域に移ったので速やかに着陸誘導をしなければならない。
上司に急かされて大切な事を忘れた管制官は、次の便の着陸指示を下す事となった。
《
既に34L滑走路を
対地接近警報装置(
直感で
「機長!大丈夫です!絶対に降りられます!」
「そ、そうだな…!」
操縦に精一杯の機長に代わって副操縦士がそれ以外を担当していた。
右翼は完全に炎上しており、いつ機内まで延焼するのか分からない。
酸素マスクは垂れた汗と油でびしょ濡れになっている。
《
あと、もう少しで滑走路に着陸できる。
計器を見るどころか、高度読み上げの音声を聞く余裕すら機長には無かった。
《
総飛行3300時間、ボーイング747で飛んだ機長は見事に傾いた機体を立て直して着陸を試みる。
操縦以外の全てを担当する副操縦士は、機長を信じて無言を貫く。
《
対地接近警報装置が10フィートを知らせた直後、確かに滑走路に着陸する振動がした。
これで減速すればいいと思った瞬間!
「なんだ!?ぎゃああ!?」
「機体が
右翼にあった第三エンジンが大爆発し、右翼が折れた。
その衝撃でボーイング747は大きく左に傾いて機体上部が滑走路に激突する事になる!
空を見上げる着陸ギヤは何もない空間で空回りしており、代わりに機体の上部が地面に向かう!
《こ、こんなああああ゙あ゙あ゙!!》
《やだあああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!》
滑走路34Lに着陸許可を出した管制官の耳にパイロットたちの断末魔の叫びが鳴り響く!
せっかく滑走路に辿り着いたのに彼らの努力が無駄になったのだ。
このまま機体上部が滑走路と接触し、大炎上する未来しか残されていない。
「日本航空514便、日本航空514便、応答してください!!」
頭の中では最悪な事態になったと分かっていても、人間はそれを否定したいものである。
機長たちの叫びが終わったと同時に航空管制官は、彼らに向かって何度も呼びかける。
それが無駄だと分かっていても…。
「……こ、こちら日本航空514便。ここは天国ですか?意外と、現世…なんですね」
「こ、こちら成田タワー。いえ、現世です。まだ生きてます。私が生きてますから」
ところが、副操縦士の発言を聞いて管制官は驚いた。
思わずジョークを言ってしまうほど彼は想像だにしなかった結果に驚愕した。
「クソが!!」
別に航空機が滑走路で爆発して乗員と乗客が全滅したところで結婚の悪魔は気にしない。
むしろ、絶望して死ぬ人間共の叫びを想像するだけで楽しくなる。
何なら532人が奏でる絶望的な叫びをポップコーンを味わいながら鑑賞しても良いくらいだ。
しかし、ここで死なれると責任を問われる為、仕方なく彼らを救っただけである。
(血を……痛い)
文字通り身を削った結婚の悪魔は、無敵ギミックを解除している。
そのせいで瀕死状態になっており、分裂体に血の供給を願い出るしかなかった。
しかし、事件はこれだけでは終わらなかった。
「バル・ベルデ航空114便が16Rに向かって進入中!担当官、何をやっている!?」
「
「いいからさっさと
何故、無事なのか疑問に思った瞬間、A滑走路を管轄する管制塔が異常を検知した。
着陸許可していないのに16RからエアバスA340が進入しようと試みていたのだ。
このままだと34Lで侵入した日本航空514便と激突する!
「
(バル・ベルデ航空114便へ、着陸復航せよ。滑走路上に渋滞(航空機)あり)
慌てて管制官は、16Rに向かってA滑走路に進入しようとする航空機に着陸をやり直せと命じた。
バル・ベルデ航空114便と日本航空514便が合体して
旅客機同士の正面衝突で、航空事故で最多の777人が犠牲になる可能性があったからだ。
「
(管制官が何か言ってますが…)
「
(不時着機(カタミチ航空49便)の事を言ってるんだろう)
「¿
(このまま着陸して大丈夫でしょうか?)
「
(心配するな、俺たちはアレを回避できるぞ)
ところが、バル・ベルデ航空114便の乗員はその指示を無視した。
そのせいでそのまま着陸を続行した結果、旅客機同士が正面衝突する危機が発生した。
さきほどの旋回で不時着機の位置を確認していたからこそ、機長は着陸を続行したのだ。
「
(機長、目の前に旅客機が居ます!)
「
(やべぇ!着陸復航!上がれ!上がれ!!…うわあああああ!!)
まさか滑走路にもう1機、駐機しているとは思わなかった!
さすがに母国語より英語が飛び出したが、それだけで衝突が回避できるなら苦労しない!
「またバカ来やがった!!」
新手のバカを目撃した結婚の悪魔は、激怒しつつもこの旅客機を受け止める羽目になった。
いつも責任逃れをして悪魔に全てを押し付けて来る日本政府上層部に苛立ちながら…。
「むむむ?」
結婚の悪魔による出血大サービスでA滑走路に駐機した航空機はすぐに乗客を降ろし始めた。
緊急避難手順に従って乗員が避難誘導し、乗客を第一ターミナルに導いていく。
「なるほど…」
そんな状況下で窃盗犯であるパワーがA滑走路に駆け付けた。
逃げ惑う民衆を見てようやく自分のやる事を理解した!
「ワシの出番じゃな!ここは…」
そう思った瞬間、SU-27MJの残骸が血の魔人の目と鼻の先に降って来た!
運良く飛び散る破片を無傷で回避できたが、そのショックで動けなくなった。
一瞬だけ何が起こったか分からない彼女は上空を見上げる。
「ひぇ……」
機銃でミサイルを撃墜したり、とんでも機動を行なう航空機たちが見えた。
さすがにあの戦闘に介入できないと感じて地上に居る悪魔を見る。
アホみたいな機関銃で上空を射撃したり、ミサイルを放つ戦車の悪魔を発見した。
ついでに肉片を飛ばして機銃やミサイルを撃墜するミミズの悪魔っぽい何かも見つけた。
(これは無理じゃ…)
一瞬で実力差を理解したパワーはすぐに逃亡しようと試みた。
「久しぶりだな!戦車の悪魔!今度こそお前を討つ!」
「早川先輩、今度こそやってみせますよ…!」
ところが、早川アキと荒井なんとかが戦車の悪魔と交戦するようである。
さすがに彼女から見ても蛮行過ぎてドン引きした。
「奇襲すればいいのに…」
「殺せれば問題ありません。できるだけ苦しめて殺しましょう」
天使の悪魔が溜息を吐きつつ、寿命武器を生成しようと試みる。
そんな彼に言い聞かせるように蜘蛛の悪魔が何かを言っていた。
危機的状況になると逃走する為に身体能力が向上するパワーは思った。
「うわ……ワシの出る幕はないな」
A滑走路に墜落した航空機の残骸の影に隠れるパワーは、自分の出る幕はないと判断。
急いでこの場所から逃げ出そうと、駐機している旅客機に向かって走り出した。
「あれ?行かない?なんで?」
パワーを追いかけて来たサメの魔人は首を傾げつつ、すぐに彼女を追いかけた。
「うおおおおおおお!この程度の坂!ワシは負けん!!」
旅客機の出入り口から伸びるスロープを無理やり登ったパワーは操縦席に向かう。
カタミチ航空49便の事件のおかげで、ここが飛行機を操縦する場所だと分かっていたのだ。
「公安のデビルハンターじゃ!すぐにエンジンを起動し、ここから退避しろ!!」
そこには、なんで駐機できたのか疑問に思っていた機長と副操縦士が居る。
結婚の悪魔による作業のせいで却ってパイロットに混乱をもたらす事になっていたのだ。
そんな彼らに向かってパワーは、自分の伝えたい事だけを発言した!
「¿
(この女は誰だ?どっから現れた?)
バル・ベルデ航空114便の機長は、突然に話しかけた来た女に驚愕した。
既にパイロット以外は避難したと分かっているからこそ不審者に驚いたのだ。
「
(よく分かりませんが、“デビルハンター”と“エンジン”について何か言っていますね)
副操縦士は、不審な女が発した単語の中でデビルハンターとエンジンだけ聞き取れた。
なんでこんな事を指図されるのか分からないが、彼女の顔を見ると人外に見える。
「
(これからどうしましょうか?)
「ウヌらは馬鹿か!?ワシはエンジンを起動して避難しろと言ってるのじゃ!」
「
(見る限り、コイツは悪魔に見える。エンジンを起動してずらかるぞ)
スペイン語で確認を取る副操縦士の発言に苛立つパワーは、改めて自分の目的を発言した。
その様子を見た機長は、彼女の顔を見て悪魔と判断した。
どうせ燃料切れで止まると分かっているのでエンジンを起動し、副操縦士に避難を呼びかけた。
「うむ、最初からこうすればいいのじゃ!あと、日本に来るなら日本語の勉強を…おらんな…」
エンジン始動のチェックリストを行なった機長たちはすぐに後部座席から避難した。
それを見送るまでも無く腕を組んで独り言を言うパワーは、大切な事を言いそびれた。
「戦車の悪魔と戦わない?みんな戦ってる!」
「分かっておる。だが、役割分担が重要なのじゃ!」
「役割分担?」
ここで駆けつけたビームがパワーに公安対魔特異4課のメンバーと合流しないのかと問いかけた。
しかし、逃げる気満々の彼女は、息をする様に嘘をつく。
「いいか、あのまま戦うと銃撃で蜂の巣になったり、黒焦げになる!」
「そうそう!」
「だからこの飛行機を使って悪魔と戦うのじゃ!」
財布を置いて来たマイクロバスに戻りたいパワーは飛行機を操縦して元の空港に戻ろうとした。
しかし、馬鹿正直に言うとビームに止められる為、戦う為に飛行機を操縦すると発言した。
「おお!!すごいすごい!!」
「ああ、ワシは飛行機を操縦できるのじゃ!ワシの雄姿を目撃し、語り継ぐが良い!!」
いつも虚言癖を馬鹿にされるパワーだが、ビームはその理由を理解していない。
なので本気で彼女が航空機を飛ばすと信じていた。
パワーも自分がついた嘘を信じて左側の席に着席した!
「ふむ、思った通りじゃ!」
目の前には、操縦する為に使うレバー、両足の置き場にはペダルがある!
これを見たパワーは自分が操縦できると確信した!
(わしは賢いからのうー。早川の運転を見てばっちりじゃ!)
以前、車の助手席に座ったパワーは、早川アキの運転をしっかり見ていた。
パーキングブレーキを降ろしてシフトギヤを何かにセットしてアクセルペダルを踏んでいた。
だから同じ様にすれば、飛行機も発進できると思っていたのだ!
「まずはパーキングブレーキを操作するのじゃ!」
「おお!!」
エンジンを始動したならまずはパーキングブレーキを触る。
偶然にもパワーは【PARK BRK】と書かれたハンドルっぽい何かを触った!
既にエンジン自体は動いているのですぐにでも発信できそうである。
(なんか変じゃ…)
しかし、パワーはこの機体に違和感があった。
何故かクラッチペダルとアクセルペダルしかなかった。
早川アキが運転していた車内と違って真ん中にあるはずのペダル。
フットブレーキが何故か無いのでどうやって機体を停止するのか分からない。
(ははん?なるほど!)
だが、魔人の中で一番賢いパワーはすぐに理解した!
パーキングブレーキがサイドレーバー式だけではなくペダルを踏むタイプもあると知っている!
(アクセルペダルを踏まなければいいのじゃな!)
アクセルペダルから足を離せば減速する。
そんな当たり前の事を思い出したパワーは、右側のペダルを思いっきり踏む!
彼女の脳内には、エンジンが最大出力で動き出すという妄想が溢れていた!
「あれ?」
しかし、残念。
それは
このままパワーはエアバスA340を発進できずに燃料切れで飛び立てないはずであった。
「コレ?弄らない?」
だが、横で様子を見ていたビームは、思い出した事があったのでそれを実行する事にした。
これを触ったのは、さきほどの出来事を思い出したからだ。
「なんじゃ?」
「ココ触る!」
機長席の窓に激突して侵入したチェンソーマンの血の匂いを彼は嗅ぎつけて操縦席に進入した。
その時、右側に座る女悪魔が操縦桿を握りながら真ん中のレバーを弄っていたのを目撃した。
だからとりあえず、ここを弄ってみようと思ったのだ。
「4つあるが?」
「このレバーを全部、押す!」
4個あるレバーを全て真ん中まで行く様に前に倒した。
あくまで前にしか押せなかったからこうしただけである。
「おお!動いた!!よくやったビーム!」
「やった!やった!」
全ての
喜びを分かち合う2人であったが、水を差すように大音量の警報が機内に鳴り響く!
「今度はなんじゃ!?」
エアバス機は、チェックリスト通りに作業が履行してない場合、発進できないと警報が鳴り響く。
それはボーイング社の機体など他の航空機にも存在するが、エアバス社はこう考えた。
どんなパイロットにも些細なミスがいつ、発生しても可笑しくないと!
そこで【T.O CONFIG】ボタンを押すと、ディスプレイに【ECAM MEMO】という通知をする事にした。
「うっさいのー!」
こうする事で、離陸するには、何が足りないのかディスプレイに条件を表示させて失敗を防ぐ。
エアバス社は、人間にはミスがあるからシステムでそのミスをカバーしようと考えた!
どんなに気をつけても、カン・コツに頼る習性があるのでシステムでそれを防ごうとしたのだ!
「何の警報か分からん」
「えぇ…」
本来なら【T.O CONFIG】で離陸条件を満たしたか確認する必要があるが、パワーは知らない。
それどころか
さすがに彼女の発言を聞いてヤバいと気付いたビームであったが…。
「機体は動くし、問題はないじゃろ」
「ほんとぉ?」
【MASTER CAUT】が点灯し、エアバスA340はパイロットに離陸できないと警報で知らせる。
だが、機体が少しずつ加速しながら動くのを身で感じたパワーは、問題無いと判断した。
本当に飛べないのであれば、エンジンもシステムも強制的に止まると本気で思っていたのだ。
「見ろ!ワシは目の前の飛行機を回避した!これでも信じられないのか?」
「うーん…」
右の
ボーイング747の左翼との衝突をギリギリ回避したのを目撃したビームは文句が言いにくい。
確かに彼女の発言通りであるので否定できなかった。
「ワシを信じろ!!」
残念ながらパワーの習性を理解していないサメの魔人は、彼女の行動を止める事が出来なかった!
パイロット気分であるパワーは、角にぶつからないようにヘッドセットとシートベルトを填める!
《
(バル・ベルデ航空114便へ、直ちに停止せよ!バル・ベルデ航空114便へ、直ちに停止せよ!)
すると、A滑走路を担当する管制官が発進を始めたエアバスA340に呼び掛ける声が聴こえた。
《
(バル・ベルデ航空114便、その場で待機!直ちに停止せよ!止まれ!止まれって言ってんだ!)
なにやら誰かが無線で何を叫んでいるが、パワーは英語が全く分からない。
それどころか、ずっと腹の内に貯め込んだ想いが溢れ出て来た!
そして相変わらず英語で話しかける相手に彼女の堪忍袋の緒がついに切れた!
「うっさい!!いちいちアメリカ語で話すなァ!!ここは日本の空港じゃろ!?日本語で話せ!!ここは一体いつからアメリカの植民地になったのじゃ!!日本語で話さないなら無視するぞ!!」
ここで彼女は、4つの
それを見たビームは、急いで副操縦士の席に着席し、シートベルトを填めた!
70.2ノット(時速130.0km)まで急加速したエアバスA340は、大空に向かって飛び立とうとする!
「今じゃ!」
サイドスティックを引いたパワーは、このまま機体が飛び立つ…と思っていた。
「無限の彼方にさあ行くのじゃー!…あれ?」
もちろん、時速130km程度で120トンほどの機体が飛び上がるわけがなかった。
しかも、右の
「と、飛ばない!?なんで!?」
その結果、少しだけ浮き上がった機体は大きく傾きながら右折して滑走路を飛び出した。
運がいいのか、悪いのか。
血を欲したせいで早川アキたちを殺しきれなかった戦車の悪魔が佇む場所に向かった。
「なんでじゃ!…うぎゃあああああ!?」
パワーが操縦するエアバスA340は見事に戦車の悪魔を巻き込んでしまった!
奇しくも、結婚の悪魔のように地面に引き摺られるが、戦車の悪魔はたまったものではない!
既にミサイルを3回直撃し、公安のデビルハンターの攻撃で出血が激しかった。
「なっ……」
「ええ…?」
呆然とする早川アキや荒井ヒロカズの眼前で航空機は燃料切れで停止した。
「わ、わしはひこうき、パイロット…」
「ううっ…チギャウ…チギャウ…」
戦車の悪魔がクッションになったおかげで魔人たちは衝撃で脳震盪を起こすだけで済んだ。
しかし、120トンの機体が時速130kmで激突して400mほど引き摺られた戦車の悪魔は死んだ。
おお!戦車の悪魔よ!時速130kmで走行するエアバスA340に轢かれた程度で死ぬとは情けない。
(今だ!!)
誰もが衝撃的な光景で動けない中、真っ先に動いた悪魔が居る!
夜鷹の肉体を借りた戦争の悪魔が眷属の肉体に触れようと試みたのだ!
死骸に触れさえすれば、ようやく鳥の肉体に頼る必要が無くなるからだ!
(あああ!?)
しかし、強力な悪魔の死骸をそのまま残す訳がない。
ミミズの悪魔に化けるシーボルトという名の結婚の悪魔が死骸を丸呑みにした!
そのまま露出した地面に溶け込んで同化した地中に姿を隠した!
(私の眷属を返せ!!)
地面に着地した戦争の悪魔は、くちばしと翼を使って何度も地面を叩く!
そんな事をしても戦車の悪魔は返って来ないと分かりつつも無駄な行為をしてしまった。
だが、彼女の無駄な努力は異音によって終了する事となる。
「「「グルルルルルル!!」」」
(グルルル…?)
なんか狼の唸り声がしたので彼女はゆっくりと振り返る。
(あ…)
そこには、全身と口が血塗れの白狼の悪魔が3体、唸り声を出して佇んでいた!
そしてその背後には、やたらと殺意剥き出しの公安のデビルハンターが居る!
「そこで何をしているの?……ああ、言わなくてもいいわ」
元千葉公安対魔1課の因幡ナオミ副隊長は、古巣を荒らされて激怒していた!
速報を聞いて急いで駆けつけたものの新東京国際空港は無残な状態であった。
そこに雑魚悪魔が我が物顔で振る舞うように空港の地面で遊んでいる。
「そこまで苦しんで死にたいのは理解した」
アセチレンガスとガソリンを混ぜて火遊びをしている状況みたいなもんだった。
マキマや結婚の悪魔に八つ当たりできないからこそ雑魚悪魔に怒りをぶつける!
「ブラックドック、ティンダロス、ヘルハウンド!この悪魔を徹底的になぶり殺しにしなさい」
結婚の悪魔から分裂した最古の存在であるナオミは、彼女から派生した分裂体に惨殺を命じた。
戦闘力ならミミズの悪魔や触手の悪魔に化ける分裂体より遥かに強い白狼たちはすぐさま動く!
(うひゃああああああああ!?)
101匹も居る白狼の悪魔に化ける分裂体の中で、やたらと執念深く残虐な性格の3匹である。
軽率な行動をした戦争の悪魔は、1年以上も不眠不休で逃げ回る事が確定した。
「ぐっ……」
その頃、アメリカ製やソ連製の機体の残骸が転がるC滑走路で新たな戦闘機が墜落した。
キャノピーを突き破ってパイロットが滑走路に転がり、瀕死状態になり呻き声を溢す。
(これが、死か…)
レッドインパルス隊の編隊長は、体当たりと引き換えに戦闘機の悪魔に大打撃を与えた。
だが、その代償は重かった。
自分はすぐに死ぬと理解する。
(ああ、いいな…)
全てを受け入れると、ここまで気持ちが楽になると彼自身が驚いている。
今までのありとあらゆる全てがどうでもよく感じた。
(んー、チェンソー…?)
視界が真っ赤に染まる中、チェンソーが鳴り響く音を聴いた隊長はそのまま力尽きた。
瞼を開いたまま、意識は深淵に沈んで二度と浮上する事は無かった。
「よぉ~く!考えたんだけどよぉ~!!」
戦闘機が墜落したというのにチェンソーを鳴らす男はそんな事を気にしない!
それどころか、大怪我を負った戦闘機の悪魔の前で堂々と発言していた。
「お前んをぶっ殺せばァよォ!!勲章やボーナス!貰いたい放題だろォ!?」
ようやく自分がチェンソーマンという自覚を持てたデンジは小物みたいに勝ち誇る!
両手の中指を立てるように両腕のチェンソーを稼働させながら突き立てる彼は宣言する!
「そんでェ!!今度は俺んが!!マキマさんを!!江の島旅行にィ!!誘うんだア!!」
要するに強力な悪魔をぶっ殺す=大金と名声が手に入るとデンジは認識した!
そしてその功績があれば、マキマさんと一緒に江の島旅行ができると考えた!
だから彼は、目の前の大物をぶっ殺そうと両腕のチェンソーを振り回す!
「さっさと死にやがれ!!」
目の前に居る悪魔が自分を狙うユーゴスラビア王国の刺客と気付く事も無く交戦を開始した!