HERO×HERO   作:ティファールは邪道

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5話:波紋と自覚

「おい緑谷! マジなのかよこれ!?」

 

「昨日、SNSでバズってた動画の緑の布って、お前の個性なのか!?」

 

翌朝、教室のドアを開けた瞬間、出久はかつてない密度のクラスメイトたちに囲まれてしまった……

 

「え……ちょっ……何!?どうしたの!?」

 

「これだよ、これ!!」

 

混乱する出久の眼前に、スマートフォンが突きつけられる

 

画面の中で再生されているのは、粗い画質ながらも、猛スピードのワゴン車の手前から幼い子供を電光石火で引き抜く、ミントグリーンの鮮烈な光の帯と、それを持つ出久の姿だった

 

「あ、えっと、それは……その……」

 

昨日、病院から帰宅した後に役所へ提出した個性登録の変更……

 

先程、職員室にも書類提出し、それを確認した教師は驚きながらも良かったな、っと言ってくれ、朝の朝礼でも生徒に先生の口から伝えることを言われていた出久……

 

それより早く、現代のネット社会は「無個性の中学生が突発的に個性を発現させて人助けをした」という奇跡の瞬間を拡散していたようだ……

 

今まで憐れみと嘲笑の対象でしかなかった「デク」に、羨望と驚愕の目が向けられていた……

 

「う、うん……条件が特殊過ぎて、今まで出せなかったようで……俗にいう"晩成型"?っていうらしいよ?」

 

「晩成型にも程があるだろ! カッケーじゃん!」

 

「それで、どんな個性なんだよ? 見た感じ固そうだけど!」

 

「――どけ」

 

地を這うような、低く、爆発寸前の声が教室の喧騒を両断した

 

群がっていた生徒たちが、その声を聞いた瞬間、蜘蛛の子を散らすように距離を取る……

 

そこに立っていたのは、爆豪勝己だった

 

その掌からは、パチ……パチチと、持ち主の極限の不快感を示す火花が不規則に爆ぜている……

 

「かっ、ちゃん……」

 

「おい、デク」

 

爆豪は出久の胸ぐらを掴み、机に叩きつけるようにして顔を近づけた

 

それにより呻き声をあげそうになった出久は、彼を刺激するのを防ぐため我慢した……

 

その赤色の瞳には、信じられないものを見たという拒絶と、底知れない怒りが渦巻いていたから……

 

「テメェ、俺をコケにしてたわけじゃねぇだろうな……あぁ!? 無個性だからって諦めたフリして、裏でコソコソ力を隠し持ってやがったのか!?」

 

「違うんだ! 隠してたわけじゃ……っ!」

 

「じゃあ何だ、あの動画はよぉ!!」

 

爆豪の怒号が響く……

爆豪にとって、デクは「自分の後ろをトボトボついてくるだけの無力な存在」でなければならなかった。それが、自分の知らない「力」を、それもプロ顔負けの精度で発揮してみせた。その事実が、彼の傲慢な自尊心を激しく切り裂いていた……

 

「こ、個性を……持ってたんだ!元々!!ただ条件が特殊すぎて、今まで発現できていなかったんだ!!」

 

そう言いながら、出久は爆豪の腕を掴んで離そうとする……

 

以前なら恐怖で目を逸らしていた……

 

だが、発を生み出したことで自信が生まれた出久の目は、もう爆豪の脅しに屈することはなかった……

 

その静かな光に、爆豪は一瞬、言葉を詰まらせる

 

「……チッ、ふざけやがって」

 

爆豪は忌々しげに胸ぐらを放すと、自身の席へと戻り、それ以上言葉を発しなかった……

 

しかし、その背中からは、かつてない強烈な対抗心がメラメラと立ち上っていた……

 

_______________

 

周囲の環境が激変したことで、出久の鍛練もまた、爆発的な加速を見せることとなった……

 

「個性が発現した」という大義名分を得たことで、もう現実世界でコソコソと隠れて能力を使う必要はなくなったのである……

 

「『練』――そして、具現化!」

 

放課後、いつもの海浜公園……

ゴミの山がそびえ立つ砂浜で、出久が気合と共にオーラを放つと、彼の背中から一寸の狂いもないミントグリーンのマントがバサァッ、とはためく……

 

これまでは幻覚のようだったそれが、今は完全に現実の物質としてそこに存在する

 

「よし、やるぞ……!」

 

その声と共に出久が念じると、柔らかな布地だったマントが刃のように薄く、平たい板のように変形したら瞬時に重厚な金属の光沢を帯び、硬質化する……

 

出久はそれを山のようにつまれた鉄パイプに叩きつけた

 

ースパァァァンッ!!

 

激しい金属音が響き、鉄パイプの山が両断されて崩れる……しかし、マントには綻びどころかほつれ一つついていなかった……

 

「次は、"流動性"……!」

 

硬化を解き、今度はマントを新体操のリボンのようにしなやかに操り、崩れたてつパイプの山に巻き付く……

 

そのまま肉体を『堅』で強化し、力任せに引き寄せると、少しパイプが数本崩れて落ちてしまったが他は崩れずに出久のもとまで引き寄せられた……

 

「(すごい……! 夢の中だけじゃ分からなかった、現実の空気抵抗、肉体にかかる反動がダイレクトに伝わってくる……! でも、まだまだオーラの消費が激しい。これじゃあ数分戦っただけでバテちゃうぞ……)」

 

マントを具現化し、維持し、さらに変形させる。その一連の動作は、出久の生命エネルギーを凄まじい速度で貪り食っていく……

 

出久はノートを傍らに置き、マントを出した状態でのダッシュや筋トレを繰り返した……

 

「器(からだ)」を大きくしなければ、この自由自在な「発」を御しきることはできない……

 

砂浜には、出久の汗と、血の滲むような足跡が幾重にも刻まれていった

 

その日の夜

 

眠りについた出久の意識は、いつもの夢の中の静謐な道場へと着地した

 

中央に座る夢仙人は、ちゃぶ台にお茶を置きながら、いつもと変わらぬ大樹のような威厳を纏って出久を迎えた

 

「――ほう、硬さだけでなく形状も操れるとは、中々自由度の高い発になったようだの?……恐らく、無個性だった影響で様々なことが出きるようになりたい、っと無意識に願っていたからかもしれんの?」

 

「なるほど……あと、気になっていたんですけど……」

 

出久は警察や病院で『突発的な個性の発現』って決めつけられ、両親の個性の複合だって結論されたさいに、言い様のない感情が芽生えたのだという……

 

その話を聞き、夢仙人は「ふむ……」と低く喉を鳴らした後、暖かい目を出久に向けた

 

「お若いの。その感情は、お主にとって正しいものだと思っとるよ?」

 

ーそれは、そんな言葉で済まされたということに対する憤りじゃよ……

 

「憤り……ですか?」

 

うむ、っと頷く夢仙人

 

「お主はそれを聞き、そんな言葉で済まされ、努力していたことを否定されたと思ったんじゃよ」

 

ー良いか、出久……?

 

ちゃぶ台をずらしながら、出久の前まですすみ、頭に手を置く……

 

「お主が手に入れたのは、天から授かった『個性』などという便利な道具ではない。己の魂を削り、暗闇を這い回って掴み取った『技術』、すなわち『念』じゃ。誇りを持ちなさい。お主は自らの意志で、運命の理を書き換えたのじゃからな?……それはお主に念を教えた、ワシがよく知っておる。誇れ、お主はお主の世界唯一の念能力者なんじゃからな?」

 

「師匠……」

 

「しかし、浮かれておる暇はないぞ? 先程のマントの能力の行使……流が雑で、無駄が多すぎるわい! 具現化系は発を得てからが本番じゃ……

つまり、ようやくスタートラインに立ったに過ぎん。雄英高校とやらを目指すのであろう? ならば、明日からはさらに容赦のない修羅の鍛練じゃ!」

 

夢仙人の不敵な笑みと、その叱咤激励に、出久の胸の内の迷いは完全に吹き飛んだ。

 

「はい……! よろしくお願いします、師匠!!」

 

道場に、出久の力強い返声が響き渡る……

 

個性社会という大きな舞台の裏側で、少年は本物の「ハンター」としての牙を、着実に、そして鋭く研ぎ澄まし始めていた

 

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