放課後……
悠人はホームセンターや100円ショップに立ち寄り、麻縄、タコ糸、極細の銅線、園芸用の防鳥ネット等……
所謂、「繊維が束になったもの」を買い漁っていた……
お小遣いの大半が謎紐類に消えていくのを見て、レジの店員が不審そうな目を向けていたが、今の悠人には気にする余裕などない……
自室に戻ると、悠人は机の上にそれらの資材を並べ、じっと観察を始めた
「……まずは、構造の理解からだ」
彼は一本の太い麻縄を手に取り、それを指先で丁寧に解していく……
太い一本の縄は、数本の細い紐が捩(よじ)り合わされてできており、その細い紐は、さらに無数の細微な麻の繊維が絡み合うことで構成されている……
一つ一つは、簡単にちぎれてしまうほど脆い繊維……
しかし、それが幾重にも組み合わさり、互いに摩擦を生み出し、束となることで、人間の体重すら支える強靭な「縄」へと昇華する……
「人間の筋肉も同じだ。一本一本の筋繊維は細くても、それが束になって連動することで、爆発的な怪力を生み出す……なら……」
ーオーラを無数の繊維に形状変化させれば……?
悠人は目を閉じ、夢仙人に叩き込まれた「燃」の感覚を呼び覚ました……
腹の底の火種から、じわりとオーラを練り上げる。それを腕の血管、神経、そして「筋繊維」の並びに沿うようにして、ゆっくりと指先へと流し込んでいく……
浸(シン)……
悠人が編み出した、新しいオーラの運用方……
それは、通常の練(レン)や堅(ケン)と違い、戦闘よりも肉体の本質的な強化などに向いている……
つまり、筋肉の配置や内蔵の状態など肉体の認識をするのに向いているということである……
それを用いて、彼は筋繊維をより深く学ぼうとしていた……
オーラの“性質”や“形状”を変化させる事に長けた変化系……
その修行法、それは変化させる対象への強いイメージである……
無数の細い、それこそ視認することが難しいだろうそれを、彼はイメージし続ける……
立ち上るオーラが、煙のような形から徐々に繊維の様に細く。無数に……
まるで産毛の様に細かい無限といえる量の線となって立ち上る……
「……集束(しゅうそく)、そして連動」
呟きながら、悠人はそれを右指に集め、少しはなれた机の上にあるペン立てに向けて軽く振るう……
-ヒュオッ
瞬間、それらは捻れあい……
三つ編みの様に絡まり、1本の縄となってペン立てに絡まり、悠人の指の動きで戻ってくる……
ペン立てと共に
「うぉっ!?」
-パシッ!!
それを慌てて受け止める悠人……
縄となっていたオーラを見ると、パララ……っと解れると同時に霧散した……
「(……できた……!)」
それを見た彼は、数日の悩みが無くなり安堵したと同時に喜び、考えていたことをやり始める……
今度は繊維状にしたオーラを、右腕に隙間無く巻き付け、持ってきていた道端の石を右手で握りしめる……
暫くすると……
-ピシッ!……バキンッ!!
石にひびが広がりそれは砕けちった……
「出来た、筋肉の疑似性質変化……!!」
通常、変化系の発を作る際、電気や炎といった触れることが出来ないものを対象とする場合難易度が高いが、悠人がやったのは形状変化を用いたオーラを使って更に筋肉の性質を作るという技術である……
「発の名前はまだ決まってないし、すぐに消えちゃうから実戦にはまだ早いけど、この分ならすぐにできる!!」
石を砕いた瞬間、繊維状にしたオーラは解除されてしまったが、手応えが十分に感じた彼は、再び繊維状にし、熟練度をあげる……
迫り来る一年後の為に……
下手したら、さなの代わりを自分がする必要があるかもしれない為に……
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悠人が発の熟練度をあげている一方で……
「……」
一人の青年が、自室で弓を手に立っていた……
三日月を思わせるデザインのそれを持ち、彼はうなずく……
「……よし……」
小さく息を吐き、足を開いて呼吸を整える。すべての動作の起点となる「足踏み」から、彼の『素引き』が始まる……
腰を据え、弓を正面に構える。そこから両腕をすっと頭上高くへと掲げた。大気をつかむような、淀みのない動き……
ここからが、肉体と弓との対話だ……
頭上から、円を描くようにして弓を引き下ろしていく。左手で弓を押し込み、右手で弦をたぐり寄せる……
矢はつがえない……
しかし彼の目には、確かに存在しない一本の矢が、まっすぐに標的を見据えているのが映っていた……
ギィ……と、弦と弓翼が軋むような微かな音が静寂に響く……
弓の反発力は、見た目に反して想像以上に強い……
もし、力任せに引けば、フォームは一瞬で崩れてしまう……
彼は呼吸を意識し、背中の大きな筋肉へと意識を集中させた。腕で引くのではない、体幹で、背中で弓を受け止める……
限界まで引き絞った位置――「会(かい)」に至る……
引き絞られた弓は、今にもはち切れんばかりのエネルギーを蓄え、彼の肉体に強烈な負荷をかけてくる……
本来なら、ここから矢が放たれる。しかし、素引きにおいて「離れ」はない
満ち満ちた緊張感のなかで数秒……
彼はその極限の負荷に耐えながら、自分の骨組みが、筋肉が、正しい位置にあるかを内省するように確かめていた……
やがて、引き絞ったパワーを暴発させないよう、細心の注意を払いながら、ゆっくりと、しかし確実に弓を元の姿へと戻していく……
「ふぅ……」
弦が元の位置に収まると同時に、彼は大きな息を吐き出した……
張り詰めていた空気が一気に弛緩し、部屋に時間が戻ってくる……
-コンコン
「翼、夕飯なんだけど何か食べたいのあるかし、ら……」
ノックされた扉から、一人の女性が入ってくる……
-あ、やべ……
翼と呼ばれた青年は女性を見て顔を青くするや否や、持っていた弓が霞のように消えた……
しかし、それを見た彼女はジト目を彼に向けていた……
「翼、私言ってるわよね?……部屋で素引きしないで、って……?」
「はい、すみません……」
-タラリと冷や汗になりながら謝る翼……
しかし、彼女の口撃は止まらない……
「なにも素引きするなとは言わないわよ?……大学の推薦も、弓の腕前で貰ったんだし……でもね?家の中で、ましてや"クレール・ド・リュンヌ"でやらないでくれるかしら?危ないから」
「すまん……」
-全く……
彼女はため息を吐きながら、回れ右をして部屋を出る……
その前に
「今日はかなえ、バンドの人達と打ち上げするからメルとみふゆも一緒に食べるから、今日は唐揚げにするわよ?」
「あれ?今日みふゆいるんだ?」
-今日両親いないらしいのよ……
その言葉を聞きながら、共に部屋を出る青年……
彼のいた部屋の写真には、五人の女性たちと青年の写真が飾ってあった……