魔都精兵の英雄   作:若人の気紛れ

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毎度文章の後半になるにつれて、どうも表現が単調になっていってしまう……。


緑谷出久と六番組①

 組長会議を終えてすぐさま、僕たちは『陰陽寮』という施設で身体検査を受けていた。

 検査中、顔中にシワを刻んだ陰陽寮の寮長から並々ならぬ感情が込められた視線を向けられていたが、声をかけようとするといつの間にか姿を消しているため、終ぞ会話を交わす事は無かった。敵意等の悪感情は感知しなかったため、悪い人ではなさそうだけれど……。

 

 CT検査や採血等、本格的な検査を半日ほどかけて終えると、僕たちはようやく解放される。

 現実世界である『現世』では、今頃深夜の時間帯。

 そんな時間の変化すら曖昧にする魔都の外気に触れながら、神社のような出立ちをしている陰陽寮の石畳の境内を歩く。

 敷き詰められた小石を眺めながらしばらく彷徨いていると、優雅に手を振る出雲さん、彼女の隣で腰に携えた刀に手を当てる羽前さん、そして入口の鳥居に背を預けて腕を組む、二番組組長の上運天美羅さんが待っていた。

 

「お疲れ様、ふたりとも」

 

 出雲さんが柔らかい声で僕たちを労わる。

 

 組長会議では、彼女は公平に徹して静観を貫いていたけれど、その実態はかっちゃんが五番組で治療中、僕たちに総組長の性格などの事前情報を提供してくれていた。彼女の助力がなければ、今こうして陰陽寮の敷地をフラつく機会すらなかったかもしれない。

 

「とりあえず、これでお前たちが人間である事は証明される。お前たちを快く思わない者もいるだろうが、しばらくすればそういった目もなくなるだろう」

 

「だと良いがな」

 

「ははは……」

 

 思わず僕は苦笑いを浮かべる。この世界では能力を持つことが出来ない男性が差別を受ける、いわゆる「男尊女卑」の社会構造となっている。僕らが居た世界でも、"無個性"や"異形型個性"の人たちに対する差別があるが、どこの世界でも、こうして何かしらの差別が存在するのだろう。

 羽前さんの言う通り、結果を示して信頼を勝ち取る事で、僕たちへの風当たりも弱くなるだろうが、それと並行して、彼らの力になれるべく、何か出来ないものだろうか。

 

 さて、魔防隊に保護される事になった僕たちは、これから保護兼監視を担当する組の寮の管理人として住み込みで働く事になる。

 組み分けとして、かっちゃんは醜鬼が大量に出現する鬼門の位置にある二番組に。裏鬼門に近い位置にあり、空間操作の能力を所持する出雲さん率いる六番組に僕の身柄が委ねられる。

 

「つーコトで、お前の監視を任せられた魔防隊二番組組長の上運天美羅だ」

「会議では俺たち相手に良い威勢だったが、俺の下ではしっかりシゴいてやるから覚悟しておけコラ」

 

「面白れェ、精々席を奪われねェよう、足元固めておくンだな。組(ちょー)さんよ」

 

「かっちゃん……」

 

「ハハッ、イイなお前!俺好みに生意気だ」

 

 面を合わせたかっちゃんと美上運天さんが視線を火花で散らしている。早速下剋上を狙っているかっちゃんだが、上運天さん率いる二番組の気質を考えると、案外これで上手くやっていくかもしれない。

 

「んで、ソイツは天花のトコの組に行くのか」

 

「えぇ、元々は六番組が二人の保護を受け持つつもりでいたのだけれど、総組長の提案でね」

 

 どうやら総組長は僕たちに対する監視のしやすさと分散、そして鬼門と裏鬼門の戦力補強の目的で、二つの組に分けたらしい。

 確かに、相互間の連絡や万が一の脱走など、僕たちの動きは大幅に制限される一方、僕たちが醜鬼が多く出現する場所に配置される事で、より迅速に魔都災害の対応にあたる事ができるといったメリットもある。

 

「だが、ソイツを天花に任せられるのか?一応天花に勝ったんだろ?」

 

「問題ない。天花が同じ相手に遅れを取ることなどはない。それにその時は、我々七番組も参戦し、反逆者を捻じ切る」

 

「それに、出久くんもそんな事しないでしょう?」

 

「そうなのか?」

 

「は、はい!ししししっかりとお勤めさせていただきます!」

 

「このタイミングでクソナードになンじゃねェよ!テメェが疑われたら元も子もねェだろがッ!」

 

「……まあ、お前の判断を信じる」

 

 やがて陰陽寮の敷地を出ると、出雲さんが能力で空間にゲートをつくる。先に上運天さんと共に二番組へと飛ばされるかっちゃんを前に、僕は向き合う。

 

「かっちゃん」

 

「ん?」

 

 東京都に匹敵する広さを誇る魔都の中で、これからは容易に接触する事は困難になる。

 それに危険が蔓延る魔都では常に最悪の事を考えておく必要がある。もしかしたらこうして会話を交わせるのは最後になるかもしれない。伝えておきたい事は今のうちに伝えておくのが先決だろう。

 かっちゃんに伝えておきたい事。いの一番に言っておきたい事はやっぱり───

 

「大丈夫だと思ってるけど、間違っても目上の人に向かって『死ね!』とか『ぶっ殺す』とか、それに類する言葉は使っちゃダメだからね?」

 

「それがテメェの最後の遺言(ことば)にしてやろうか?」

 

死ねェッ!!

 

BOOOOM!!

 

────────────────────

 

 チリチリフサフサとなって盛り上がった髪を靡かせながら、周囲を取り巻く荒れ果てた景色が一変する。出雲さんと(ついでに羽前さんと)手を繋いだ僕は、本日より配属される六番組寮の前に立っていた。目の前に聳える木造建築で建てられた旅館のような屋敷。建物の造りは明治時代によく見られた西洋館に酷似しており、周辺が平地である事も相まって、かなり目立っている。

 

「ここが六番組の寮……まるで旅館みたいですね」

 

「『魔都陰陽道』に基づいて造られているそうだ。周囲には強力な結界が張られているから、醜鬼も中には入って来れん」

 

「魔都陰陽道?」

 

「京都の陰陽道の魔都版みたいなものだよ。それより、さ……中に入って」

 

 出雲さんに促されて、僕たちは中に入る。寮の内装はモダンに凝っており、家具や小物が所狭しと並べられているため、全体的に小洒落た雰囲気となっていた。

 

「ただいまー。……っとこの時間はトレーニング中かな。八千穂たちを呼んでくるから、出久くんと京ちんは先に上がって待ってて」

 

 そう言うと、出雲さんは寮の奥へと消える。言葉に甘えて靴を脱ぎ、ヒーローコスが入ったカバンケースを抱えながらリビングのソファに座って待つ。

 ここでふと、僕は同行していた羽前さんに気になっていた事について訊ねてみる。

 

「そういえば、この世界では男性は能力を所持できないんですよね」

 

 真向かいのソファに座る羽前さんが答える。

 

「ああ。体質的な問題かは定かではないが、桃の能力を持てるのは女性のみ。例外は……お前たちは一応グレーだが、例外は存在しない」

 

「そうだとすると、以前羽前さんと行動を共にしていたあの男の人って……」

 

 僕は記憶を巡らせる。彼や羽前さんと対峙したのはほんの一瞬だったが、僕たちと年齢が差して変わらない男性が、獣のような異形の姿に変身し、僕に一撃をお見舞いしようとしていた。地面に掌跡を残すほどの威力。あの攻撃を諸に受けていたら、きっとタダでは済まなかっただろう。

 

「優希の事か。アレは私の能力による産物だ。私が授かった能力の名は無窮の鎖(スレイブ)。自らの奴隷とした生命体の潜在能力を引き出し、使役する能力だ」

 

「……この世界の男性って、そんなに社会的地位が低いんですか…?」

 

「おい待て、なにか誤解している。断じてお前が思ってるような殺伐とした関係ではない。あくまで相互間で結ばれた主従関係だと思ってくれたら良い」

 

 良かった。さすがに近世の欧米諸国のような世界観ではないようだ。

 それにしても、羽前さんの能力。もし彼女の能力を僕に作用させたら、《ワン・フォー・オール》の出力を更に引き出す事が出来るかもしれない。

 

「羽前さんの《無窮の鎖(スレイブ)》って、僕に対しても使えますか?」

 

「は!?お前、変態か!?」

 

「なんで!?」

 

 また何か踏んではいけない地雷でも踏んでしまったのか。

 轟君曰く、「デリケートな部分にズケズケと首を突っ込んでくる、意外と」らしい。

 そうこうしている内に、六番組の組員を呼びに行っていた出雲さんと、先程までトレーニングをしていたのか、トレーニングウェアを着て、首にかけたタオルで汗を拭いながら、二人の組員がリビングに足を踏み入れた。

 

「ふわぁ〜、ん〜?あれ、ほんとうにおとこの子だぁ〜」

 

 間延びしたような女の声が耳に届く。

 声の主は、どこか気の抜けるような穏やかな表情を浮かべながら、口元に手を添えて大きく欠伸をしていた。彼女はそのまま眠たげな顔で、ニカッとこちらへ屈託のない笑みを浮かべている。

 続いて僕は、その隣に立つ人物へと視線を横へと滑らせる。

 ……見覚えのある人物。確かあの人は……。

 

「む、六番組(ここ)に来たのはお前じゃったか」

 

「その節は僕の友人であるかっちゃんがすみませんでしたぁぁあ!」

 

 昨日、いやこの時間だと一昨日。出雲さんと共に僕たちと交戦した青緑のツインテールをした小柄な女性に、僕は思わず背筋を伸ばして頭を下げる。

 

「なぜお前が頭を下げる?兎に角顔を上げよ。それでは話が出来ぬ」

 

 彼女の困ったような言葉を受け、顔を上げると、彼女は気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「お前たちに非は無い。寧ろ謝罪すべきは私様たちの方じゃ。事の発端は私様らの早とちりじゃしな」

「故に、お前が気負う必要はない」

 

 彼女の言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。彼女に関しては、かっちゃんと口論してた時の苛烈なイメージが強かったため、もしかしたら真っ向から拒絶される覚悟もしていた。しかし、意外と人が良いのかもしれない。あわよくば、かっちゃんとも和解をしてくれたらいいのだけれど……。

 

「それはそれとして、あの金髪小僧は一度ブン殴らなければ気が済まなぬがな」

 

 拳をかち合わせて悪どい笑みを浮かべる。二人の相性を考えると、まだまだ時間がかかりそうだ。

 

「それじゃあ改めて……ようこそ《六番組》へ。私は"出雲(いずも)天花(てんか)"。魔防隊六番組組長を務めてるわ」

 

「私様は"(あづま)八千穂(やちほ)"じゃ。六番組副組長を任せられておる」

 

「六番組組員の"若狭(わかさ)サハラ"だよ〜。よろしくね〜」

 

 三人が簡単な自己紹介をする。これから彼女らと同じ屋根の下でお世話になるんだ。とにかく僕も自己紹介をしないと。

 

「よ、よろしくお願いします!ぼ、僕は緑谷出久と言います!しばらくの間、お世話になります!」

 

「はい、よろしくね」

 

 出雲さんがにこやかに微笑み、手を差し出す。友好と信頼の証だろう。迷う事なく、僕は差し出されたその手を握り締めた。

 

 

 

 

「ところで緑谷出久よ。……お前、なぜ故アフロになっておるんじゃ?」

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