ようこそ、元軍人がいる教室へ   作:名無しの生徒

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第3話 元軍人、自己紹介を行う

「ねぇねぇ、入学式が終わったら色んなお店見て行かない?」

 

「いいね、十万ポイントもあれば何でも買えるし。私、この学校に入れて本当に良かった!!」

 

 茶柱先生が教室から居なくなると生徒達は十万ポイントという大金を貰い浮き足立ち始め、買い物に行こうという話を始めていた。

 

「皆、少し僕の話を聞いてもらってもいいかな?」

 

 そんな中好青年という言葉がピッタリな男子生徒が手を挙げた。

 男子生徒が手を挙げると、騒がしかった教室は静まり返り、全員の視線はこの男子生徒に移っていた。

 

「僕らは今日から三年間同じクラスで過ごす仲間になる。だから今から自己紹介をして、一日でも早く皆が仲良くなれたらと思うんだ。それに入学式までまだ時間もあるし、どうかな?」

 

「賛成ー!! 私達、まだ皆の名前知らないし」

 

 男子生徒の提案はほとんどの生徒達が考えていたが、口に出すことが出来ないものだった。

 男子生徒の提案に対して一人の女子生徒が口火を切ったことで、迷っていた生徒達が一人、また一人と賛成を表明して行く。

 

「じゃ、まずは提案者の僕から。僕の名前は平田洋介、中学では普通に下の名前で呼ばれることが多かったから、気軽に洋介って呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、その中でもサッカーが好きでこの学校でもサッカー部に入部するつもりなんだ。よろしく」

 

 提案者である平田洋介という男子生徒は緊張することなく模範的な自己紹介をする。

 平田の自己紹介は少佐から学んだ自己紹介に近いものだった。

 特に少佐は「イケメンがサッカー」という言葉を使えば必ず女子からモテると言っていたが、その言葉通り平田の周囲に居る女子生徒達の目は既にハートマークになっていた。

 やはり少佐の言う通り「イケメン」と「サッカー」の組み合わせは凄いものだ。

 

「これは僕の勝手な提案なんだけど、端の人から自己紹介を始めてもらいたいんだけど…………いいかな?」

 

 平田は強制せず、あくまでも自然と自己紹介の確認を取る。

 突然指名された女子生徒は戸惑った様子を見せていたが、周囲の視線もあり、直ぐに立ち上がった。

 だが見方を変えれば平田の言葉に応えようとして、慌てて立ち上がったようにも見える。

 

「わ……私は……井の頭……こ……こ…………っ」

 

「頑張れ!!」

 

「慌てなくっても大丈夫だよ!!」

 

 言葉が詰まってしまった井の頭といえ女子生徒は頭が真っ白になってしまったのか、言葉が出ないまま表情が青ざめて行く。

 すると、他の生徒達から励ましの言葉が飛ぶ。

 だが、それは井の頭にとっては逆効果だったようで、口に出そうとしていた言葉は喉の奥に引っ込み、教室に長い沈黙が流れる。

 そして追い打ちを掛けるように一部の女子生徒達から失笑が起き始めてしまう。

 

「慌てないで、ゆっくりでいいよ」

 

 そんな中一人の女子生徒からそんな言葉が投げ掛けられた。

 この女子生徒の言葉は「頑張れ」や「大丈夫」と同じような言葉に見えるが、持つ意味は全く違うものだ。

 井の頭のような極度の緊張状態にいる人間に対して「頑張れ」や「大丈夫」という言葉は周囲に合わせるように強制している言葉にも取れてしまう。

 しかしその一方で女子生徒の「ゆっくりでいいよ」や「慌てないで」という言葉は相手に合わせる意味を持つ言葉である。

 この女子生徒の言葉で落ち着きを取り戻したのか、井の頭は小さく深呼吸をしたあと、再び自己紹介を始める。

 

「わ……私は井の頭……心と言います。えと……趣味は裁縫とかで編み物が得意です。よ……よろしくお願いします」

 

 井の頭は言葉に詰まることなく自己紹介を終えると、何処か恥ずかしそうな仕草を見せながら腰を下ろす。

 そんな井の頭にみーちゃんが声を掛けていた。

 どうやら、みーちゃんも俺と同様に友達が出来たようだ。

 

「次は俺だな。俺は山内春樹。小学校のころは卓球で全国に、中学では野球部でエースで四番。だが今はインターハイで膝を怪我してしまいリハビリ中だ、よろしく」

 

 みーちゃんや数人の生徒達の自己紹介が終わり、一人の男子生徒が勢いよく立ち上がり自己紹介を始める。

 だが、この山内春樹という男子生徒の自己紹介は最初から最後まで嘘にまみれたものだった。

 もしこの嘘にまみれた自己紹介がウケ狙いなら気にすることは無いのだが、日常的に嘘をついているなら、これから山内と関わる際は色々と注意しなければならないな。

 何故なら嘘というものは時に命を脅かし、時に仲間からの信用を失ってしまうものだからだ。

 

「じゃ、次は私だね!!」

 

 山内の嘘にまみれた自己紹介が終わり、元気よく立ち上がったのは井の頭に声を掛けていた女子生徒だった。

 

「私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達は誰一人この学校に進学していないので一人ぼっちです。だから早く皆の顔と名前を覚えて、友達になりたいと思います。そして、私の目標はここに居る全員と仲良くなることなので、この自己紹介が終わったら連絡先を交換してください。それから放課後や休日は色んな人と沢山遊んで、沢山思い出を作りたいので、どんどん誘ってください!!」

 

 ほとんどの生徒達が直ぐに自己紹介を終えていく中、櫛田桔梗という女子生徒は更に言葉を続けて行く。

 恐らく今後、櫛田は平田とどうように男女ともに人気が出ることになり、平田とともにこのDクラスを引っ張って行く存在になるだろう。

 だが何処か櫛田から不穏な気配を感じるのだが……何なんだろうか……。

 

 しかし、他人の自己紹介を批評している場合じゃ無いな。

 合格発表の前から少佐とともに自己紹介の練習は何度も重ねて来たが、いざ順番が近付くと不安が強くなる。

 そして自己紹介はそんなことを考えていくうちに進んで行く。

 

「じゃ、次は…………」

 

「自己紹介……? はっ、俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねぇよ、やりたい奴だけでやれ」

 

「うんそうだね、僕にこの自己紹介を強制することは出来ない。でもクラスで仲良くしていこうとすることは悪いことじゃないと思うんだ。でも不快な思いをさせたのなら謝りたい」

 

 平田は次の生徒に視線を送る。

 しかし次の生徒は自己紹介をするどころか強烈な睨みを向けて、今にも食って掛かりそうな勢いだ。

 だが平田は臆すること無く赤髪の男子生徒を真っ直ぐに見つめて頭を下げる。

 すると一連の流れを見ていた一部の女子生徒達は赤髪の男子生徒を睨み始めた。

 赤髪の男子生徒は何か言いたそうな素振りを見せていたが、言い返すことも無くそのまま立ち上がり、教室から出て行ってしまった。

 そしてこの赤髪の男子生徒に続くように、数名の生徒達も自己紹介を拒否して教室から出て行く。

 

「皆、悪いのは彼らじゃない。勝手にこの自己紹介の場を設けた僕だ。だから責めるのは彼らではなく、僕を責めて欲しい」

 

「そんな……平田くんは悪くないよ!! あんな人達はほっといて、自己紹介を続けようよ!!」

 

 数人の生徒達が自己紹介を拒否して教室を出て行ったあと、一部の女子生徒から批判的な言葉が出始める。

 すると平田が立ち上がりこの場を収めようとする。

 他者から見ればこの平田の行為は素晴らしいものだが、自己紹介を拒否した生徒達はこの言動が鼻につき自己紹介を拒否したのだろう。

 そして長いものに巻かれるという、言葉通り大半の生徒達は自己紹介を続けて行く。

 

「俺は池寛治。好きなものは可愛い女の子で、嫌いなものはイケメンだ。彼女は随時募集中だから、みんなよろしく!! もちろん、可愛い子か美人を期待しているぜ!!」

 

「すごーい、池くんかっこいいー」

 

 池寛治という男子生徒も山内とどうようにウケを狙ったのか、本気で言ったのかは分からないが確実に女子生徒達の反感を買ったのは間違いないだろう。

 すると自己紹介が終わった瞬間、一人の女子生徒が無表情でそんな言葉を投げ掛けた。

 他者から見ても百パーセント嘘の言葉だと分かるが、当の池は真に受けたのか少し恥ずかしそうにしていた。

 

「それじゃ、次の人自己紹介をお願い出来るかな?」

 

「フッ、いいだろう」

 

 平田は長めの前髪を手鏡で確認しながら、クシを使い無駄に整えている金髪の男子生徒に自己紹介をお願いする。

 すると金髪の男子生徒は貴公子のように微笑んでみせるが、どこかふてぶてしい態度が見え隠れする。

 そして他の生徒達とどうようにその場で立ち上がり自己紹介をすると思ったが、あろう事か机の上に両足を乗せて自己紹介を始めた。

 

「私の名前は高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ。以後お見知り置きを、小さなレディー達」

 

 高円寺六助という男子生徒の自己紹介はクラスというよりも、異性である女子生徒達に向けてのものだった。

 肝心の女子生徒達は特に目を輝かせること無く、どことなく変人を見る目で高円寺を見ていた。

 だが当の高円寺は特に気にする素振りを見せずに言葉を続けて行く。

 

「それから私が不愉快と感じる行為を行った者には、容赦なく制裁を加えていくことになるだろう。その点には十分に配慮したまえ」

 

「え……えーと、高円寺くん。その不愉快に感じる行為は何かな?」

 

「言葉通りの意味だよ。しかし一つ例を出すなら、私は醜いものが嫌いだ。もしそのようなものを目にしたら、果たしてどうなってしまうやら」

 

「ち……忠告をありがとう、気を付けるようにするよ」

 

 平田は「制裁」という言葉に不安を感じそう聞くと、高円寺は前髪をかきあげながらそう答える。

 どうやらこのDクラスには高円寺を筆頭に一癖も二癖もある生徒達が集まっているようだ。

 

「えーと、次はそこの君お願い出来るかな?」

 

「……俺の名前は黒島真也。小学五年生から中学卒業までの五年間グアムに住んでいた。だが問題無く日本語は話せるからそこら辺のことは気にしないで欲しい。趣味は筋トレでスポーツ全般が得意だ。これからよろしく」

 

 そんなことを考えていると、俺の順番が回って来た。

 一瞬頭が真っ白になったが、直ぐに少佐との練習を思い出しながら自己紹介を始める。

 そして少佐との練習が実を結び無事に自己紹介を終えることが出来た。

 その後俺の次に指名された男子生徒は動揺しながら立ち上がるも、一瞬にしてその表情は機械のような無表情に変わった。

 だが男子生徒の自己紹介は中途半端なものになってしまい、乾いた拍手を受けながら、綾小路清隆という男子生徒はそそくさと席に座る。

 

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