風呂場でふと思いつきました

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決議案:ジム入会について

浅野健、28歳。

彼は今、ある一つの選択を迫られていた。ジムへの入会である。

ここでは、彼がその選択に至るまでの過程を見てみよう。

 

 

 

身体安全保障理事会は、五つの常任理事臓器と九つの非常任理事臓器からなる、身体における最高意思決定機関である。

常任理事臓器とは、脳、心臓、肝臓、肺、胃の五器官であり、現実の安保理同様、拒否権を有している。

 

 

さて今回、筋肉と骨が共同で「ジム入会」を求める決議案を提出した。

これは過去にも何度か提出された案であり、そのたびに脳と肺が拒否権を行使してきた経緯がある。

 

 

今回も同様の結果になる、というのが一般的な見方だった。

事実、会議の場でも脳と肺の代表は否定的な意見を述べていた。

 

 

しかし、異変は全臓器の代表が意見を言い終えた後に起きた。

肺が途中退席したのである。

 

 

周知のとおり、拒否権は「反対」の意思表示をしなければ発動しない。

賛否を表明しなければ棄権となり、投票結果に影響を与えない。

 

 

つまり肺の行動は、決議案に対する消極的賛成を意味していた。

 

 

これに慌てたのが脳である。

肺と共に反対の立場だった脳は、このサプライズを事前に知らされていなかった。

 

 

会議は一時中断となり、脳の代表は肺の代表を問いただしに向かった。

肺の返答はこうだ。

 

 

これは政府、すなわち肺全体の意思であり、ジム入会に賛成する方向へ舵を切った、という。

 

 

健はすでにアラサーであり、三十歳を目前に控えている。

先輩たちからは、「三十を過ぎると一気に体にガタがくる」「老いが急に進行する」と散々聞かされていた。

 

 

その情報は、耳を通して肺にも届けられていた。

 

 

元来、肺は運動によって活動量が増えることを理由に反対していた。

しかし、身体全体がいずれ確実に衰えていくのなら話は別である。

 

 

少し走っただけでゼエゼエと息を切らす上司の姿を目にし、肺は運動への参加に前向きになったのだ。

 

 

一方その頃、脳政府は慌ただしく動いていた。

肺が消極的ながらも賛成に回った以上、脳も対応を変えざるを得ない。

 

 

脳がこれまで決議案に反対していたのには、明確な理由があった。

それは、健の性格である。

 

 

健は、ベ●ッセの通信教材を買っては積み、始めた日記もすぐにやめてしまう、典型的な三日坊主だった。

今回のジムも、すぐに飽きて辞めてしまうのではないか――脳はそれを強く危惧していた。

 

 

しかし、常任理事の中で脳だけが孤立した今、脳の立場は大きく揺らいでいた。

そもそも脳内にも、決議案に賛成する勢力は多い。

脳内厚労省や防衛省がその筆頭である。

 

 

彼らに言わせれば、三日坊主は入会の障壁ではない。

それは入会後の問題であり、ジムに行ってから考えればよい、という理屈だった。

 

 

そして賛成派は、この機を逃すまいと一気呵成に攻勢へ転じた。

 

 

脳政府は決断を迫られた。

無論、ジムは健康に良い。それは疑いようがない。

しかし、三日坊主で辞めてしまえば、残るのは時間と金の損失だけである。

熟考の末、脳は一つの決断を下した。

 

 

 

修正決議案の提出である。

 

 

体験入会をする。

これが、脳にとっての妥協点だった。

 

 

まずは実際に体験し、ジムの雰囲気や続けられそうかを見極める。

その上で、本格的に入会するかどうかを決める。

 

 

事実上の先延ばしではあるが、情報を揃えてから再度判断するという、これ以上ない現実的な提案だった。

 

 

最終的に、この修正案は可決され、健はジムの体験入会に足を運んだ。

 

 

その後、健がジムにどハマりすることになるのは

また、別の話である。


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