同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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期待が高かった分不安でいっぱいです。



016. 修羅

   

守護忍十二士のクーデターに伴い大名の警護とクーデターの阻止の任務にあたった俺達は、その過程の中で木の葉の財政を担当しているダンゴウを救う事も出来た。おかげで予算は増額だ。

 

そもそも木の葉の里の収入は、大きく分けると収入が多い順に任務料、火の国からの予算、里内からの税収といった三つである。

 

任務料の多くはそのまま忍達の給料となり、一部は里に収められている。その収められた金額で上役や退役した忍の給与、支給される忍具の購入資金に充てられている。ちなみに国境警備は国からの依頼という形をとっている。

 

里内の税収はそのまま里の運営にあてられているが、当然これらのお金だけでは木の葉はやっていけない。そうした不足分を火の国からの予算に頼っているのだ。

 

暗部についても、その予算から費用が賄われているらしい。だからこそ暗部は主に火影の直轄にあるとも言えるのかもしれない。

 

そして今回、“猟犬”が正式名称となった俺達の部隊は、給与は従来の任務料体制のままだが、装備品などの費用については国からの直接支給される事となった。ダンゴウ様々である。

 

音響閃光弾や特別製のゴーグル、さらには俺のレールガンの弾についてもこの予算から捻出する事が可能だ。さらには国から認められた正式な部隊となった事で服装を揃える事も認められた。

 

本当はそれぞれの戦場に適応した迷彩服が欲しかったのだが、流石にそれ程の予算を費やす事は出来ない。なので基本は木の葉従来の服装のまま、ベストを濃いグレーとする事にした。

 

ちなみにこのベストの肩の所には白いラインが入っている。第一小隊はラインが一本、第二小隊はラインが二本と一本ずつ増えていき、第四小隊はラインが無しとなっている。また中隊長の俺は左腕にグレーの腕章を巻く事になった。あとは目立つ渦巻きマークの着用をやめたぐらいである。

 

統一された服装で全員が初めて集合した時は、自分達が認められたのだと実感することが出来た。やはり服装は人を高揚させる効果があるらしい。

 

しかし認められたからといって、仕事が少なくなるという事はない。先日までも俺達にとっては、通常任務となってきている国境警備にあたっていた。停戦条約がまだ結ばれていない水の国方面への警戒だ。

 

哨戒任務というのは長期任務となりやすく、三週間ぶりに里へ帰って来た。ちなみにあのクーデター未遂からは既に一ヶ月が経っている。働き詰めだった俺達には二週間の休暇が与えられた為、久しぶりに平穏を満喫するつもりだ。

 

 

 

しかしその目論見は三日目にして崩れ去ってしまった。昨日任務に出ていた紅から里に戻ったと連絡を受け、俺は紅の家に向かった。

 

すると守護忍十二士に代わる護衛の目処が経ち、里へ帰って来ていたアスマと鉢合わせしてしまったのだ。帰って来ている事は知っていたが、避けていたのに会ってしまった。紅の家の前で。

 

「……ヨフネ」

 

仕方ないとはいえ、こいつの友人を殺して気不味いというのに、最悪な場所で会ってしまった。流石にまだあの事は知らないだろうが……嫌だ。

 

「お前、こんな所で何やってんだ?」

 

ど直球にアスマからの質問がやって来た。もう見逃し三振でも良いから逃げ出したい。

 

「まあ、昨日紅に呼ばれてな」

 

だが、そういうわけにもいかず過去最高の冷や汗をかきながら正直に答えた。

 

「そうか、なら今日はあいつ家にいるんだな」

「えっ?知らなかったのか?」

「……悪いかよ」

 

(ギャァァァ!俺ひょっとして地雷踏んだ?)

 

しかし、この相当に気不味い空気をぶち壊せる人物がやって来た。俺達とも顔馴染みの能天気な後輩、アンコである。さあこの空気をぶち壊してくれ!

 

「あれ?ヨフネさんにアスマさんじゃん!二人とも里に帰って来て早々、紅さんを巡って修羅場ですか?」

 

待てェェェ!そんなぶち壊し方は望んじゃいないんだよ!むしろ悪化したわ!

 

「ど、どどういう事だ?アンコ」

「えっ?だってヨフネさんと紅さんって付き合ってるんじゃないの?前に団子屋の新作が出る日に朝早くから並ぼうとしてたら、ヨフネさんが紅さんの部屋から出てくるのを見たんすよ。あ、大丈夫ですよ!誰にも言ってないですから」

 

おいいいいい、一番マズい相手に言ってんじゃねーか!……まさか、あんなに早い時間に見られているとは思いもしなかった。アスマはというと、俯いて拳を握り締めプルプルと震えている。

 

「ひょっとしてやらかしちゃいました?……あ!うちは用事があるんで、これで!」

 

シュタッと敬礼をかまして、アンコは逃げ去って行った。残されたのは二人と重たい空気だけである。

 

「ヨフネ」

「ハイ!」

「今から俺と決闘しろ!」

「ハイ?」

 

 

 

それから二時間後、俺は第三演習場にいた。何故かこういう時に限って、揃いも揃って暇をしていた同期達も演習場に集まっている。ってホヘトやシスイまでいるじゃないか。

 

「なんでお前達までいる?」

「アンコから話を聞いたガイさんがゲンマさんに。ゲンマさんから僕達だけ教えてもらいました」

 

人の口に戸は立てられぬとはよく言ったものだ。って広げ過ぎだろ、アンコォ!あいつあの後も覗いてたな。

 

「ヨフネ、シズネが聞いたら悲しむよ?」

 

待て待てトンボ、このタイミングでそんな気になる情報をぶっこんでくるな!

 

「ヨフネ、準備は良いか?」

 

既に殺気を漲らせたアスマはチャクラ刀を構えている。お前殺し合いでもするつもりなのか?

 

「良いけどさ、これって何の為の決闘なんだよ」

「まだしらばっくれるつもりか!」

 

そう言ってアスマが突っ込んで来た。190㎝の巨体だが、かなり早い!しかし俺が身長が低いとはいえ、パワーで負けることはない。雷刀を構えて鍔迫り合いに持ち込んだ後、思い切り弾きかえす。

 

「お前、決闘で紅の事を解決しようとでも思ってんのか?」

「それ以外の何がある!」

 

アスマは再度構えて、今にも飛び掛かって来そうな勢いで叫んだ。

 

「そうか……気が変わった。本気で相手してやるよ、反抗期の糞餓鬼!」

 

八門遁甲・開門……開!

 

俺は自分の中のリミッターを外す。さらに脚にチャクラを集中させ、その場に土埃を残し、瞬時にアスマの後方に移動する。

 

「早い!」

 

観客の誰かが声をあげたが、それを無視して腰の辺りに蹴りを入れる。アスマは咄嗟に反応して前方に転がったが威力は殺しきれなかったようだ。

 

「お前は紅の事を物だとでも思ってるのか?こんな決闘であいつの心をどうにかしようなんざ、甘すぎんだよォっ!」

 

転がったままの状態のアスマに更に追撃をしようとすると、いきなり起き上がり手裏剣を投げつけて来る。

 

(四つ!こんなもんで俺がやられるとでも……いや、これは!)

 

「手裏剣影分身の術!」

 

手に持った雷刀で捌こうとしていた手裏剣が目の前で分裂するように増えていく。その数は既に二十を超えている。最初から飛んで来たのなら、その程度は問題無いのだが、飛びながら増える手裏剣の全てや叩き落すのは難しい。

 

「ヨフネ!」

 

紅がこの場面で俺の名前を呼び、火に油注いだが、開門を開いたままだった俺は捌くのを諦め、横に大きく飛んで避ける事にした。

 

「火遁・豪火球の術!」

 

すぐにそれを追撃するように、これまた派手な術が飛んで来るが、それは地面に向けて拳を放ち、岩を捲れ上がらせ防いだ。

 

電磁砲を使えばあっと言う間に決着が付くのだが、あれは手加減出来るような術ではないから、アスマに使うわけにはいかない。だが俺はガイほど八門遁甲を使える訳ではない為、開門が開いている時間は約一分だけだ。その間に決着をつけなければならない。

 

もう一度、脚にチャクラを集中させ、今度はアスマに正面から突っ込む。同時に腰に下げた水筒に右手を伸ばし、チャクラで水を掌に吸着させ、その手でアスマの口と鼻を覆うように顔を掴んで地面に叩きつけた。

 

「ゴハッ!」

 

アスマは息が出来ずもがくが、俺の怪力はそう簡単に振りほどく事は出来ない。人はコップ一杯の水で溺れてしまうのだ。チャクラが少ない俺なりに考えた、力技の水牢の術である。

 

最初はもがいていたアスマだったが、力を振り絞って右手の刀で俺を斬り付けようとして来た。仕方なく手を離して刀を躱し、アスマを木に向かって蹴って一旦距離をとる。

 

アスマは木にぶつかった衝撃か、溺れそうになったせいかはわからないが咳き込みながら、こちらの方を睨んでいる。

 

「……なんでお前はいつも俺の前にいるんだ」

 

息を整えたアスマが語りかけてきた。伸びた無精髭、ボロボロになった服のせいで、まるで浮浪者の様だというのに、その鋭い眼光は未だ心が折れそうにもない。

 

「そんな少ないチャクラしかないのに実力をつけて、親父や里からも信頼されて、ましてや紅まで!なんで俺が欲しい物を全て手に入れてるんだよォ!」

 

アスマはそう叫ぶと何かを引くような仕草を見せた……ワイヤーか!先ほど飛ばした手裏剣影分身で使われた手裏剣が飛んで来ると思い振り返ると、そこには何もなかった。

 

「ガハッ!」

 

後ろに気を取られた隙を狙われ、アスマに顔面を殴り飛ばされてしまった。クソっ騙された。

 

「へっ!一発喰らわせてやったぜ」

「……ふざけんじゃねえよ」

 

俺はそう呟きながら、口元の血を手の甲で拭って、アスマと再び対峙する。

 

「ふざけんじゃねえぞ、アスマァ!話を聞いてみればグチグチと女々しい事ばかり言いやがって!」

「良い顔になったじゃないか。ムカついてたんだよ、お前のいつも余裕そうな顔が!」

 

なんで俺がこんな面倒な事に巻き込まれなきゃいけないんだよ。顔がムカつくだ?知るかそんな事!必死な顔を見せる事が頑張っているとは限らないんだろ。それにこっち電磁砲無しで相手してやってんのに、バカスカ術使いやがって。

 

「隊長、それはいけません!アスマさんが死んでしまいます!」

 

頭にきた俺は無意識に鉄球を身の回りに浮かべていたようだ。シスイの声で我に帰り、鉄球をポーチに納める。スッと深呼吸して、再度話かけることにした。

 

「お前、自分が何やってきたか分かってんのか?」

「何のことだ」

 

アスマは本当に分からないのか、訝しんだ声をあげる。これだけ感が悪かったら、紅もそりゃ苦労するわな。

 

「そもそもお前はなんで里を出て行ったんだ?」

「俺は認めてくれる人の所へ行っただけだ。お前には分からないだろうがな」

「ああ分からねえな。相手には認めて欲しいクセに、その相手を認められないようなお前の考えなんざ、分からねえよ!」

 

せっかく心を整えたというのに、またイライラしてきた。この際だから全てブチまけてやる。

 

「認めてくれる大名の所へ行ってどうなった?お前は木の葉を裏切る寸前だったじゃないか。三代目に認めて欲しくて結果だけを追い求めた結果がそれだ!お前も少しは三代目の立場になって考えてみろ!任務にしたって味方の過半数を戦闘不能にした隊長を褒めてやれるはずがないだろ!火影だぞ。里のミライを護らなきゃいけないんだ。いい加減、親離れしやがれ!」

 

演習場が静まり返った。聞かされた内容についてかもしれないが、俺がここまで熱く話している姿が珍しいのかもしれない。

 

「お前はただ逃げただけだ。いや、守護忍になれば認めてくれるとでも思ったのか?」

「黙れ黙れ黙れ!」

 

アスマが聞きたくないという風な様子を見せているが、容赦なく畳み掛ける。

 

「それに里から出て行く時、お前は紅に何て言われた?」

「それは……」

「思い出せないなら教えてやるよ。お前は紅の告白を振り切って出て行ったんだよォ!」

 

そう言って今度は俺がアスマの頬を殴ってやった。アスマは殴られた勢いで膝をついた。

 

「紅がどれだけ悲しんだかお前は知ってるのか?少なくともここにいる同期の方が、お前よりは知っている」

 

アスマはダメージのせいか、話を受け止めたせいか分からないが、膝をついて黙ったままだ。

 

「そんな紅を俺達が見捨てるわけないだろ!それなのに勝手に出て行った奴が、戻って来た途端に掻き乱しやがって!何でも思い通りにならないと気が済まないのか!」

「全てが思い通りのお前には言われたくねえよ!」

 

アスマが右足で俺にローキックをして来た。俺はそれをガードして、右足でアスマの側頭部を狙う。反応して腕を上げてガードするが、俺の力はそんな事では止まらない。ガードした腕ごと吹き飛ばす勢いで足を振り抜いた。

 

「……確かにお前から見れば上手くいっているように見えるかもしれない。だがな俺の思い通りに全てがなるなら、オビトやリン、四代目が死ぬ事は無かったよ!」

 

こっちがどれだけ悩んで、努力して今の状態になる事が出来たのか、みんなは知らない。だがそれらを勝手に否定する事は絶対許さん。

 

「……確かに俺はお前を妬んでるだけだ。変わる事も必要かもしれない……だけど、それでも俺は紅を諦める事だけはできない!俺は紅が好きなんだ!」

「……だってよ紅」

「「「「へ?」」」」

 

俺のあっさりとした言葉でみんなが一瞬あっけにとられながらも、泣き腫らした目と頬を林檎の様に真っ赤にした紅に視線が集中する。

 

アスマが頭に血が上り過ぎて紅がいる事忘れ、みんなの前であんなこっぱずかしい告白までしたのだ。恥ずかしがり屋の紅からすれば当然かもしれない。

 

紅は涙を拭い、アスマの前に行った。

 

「あ、あああんた、どんだけみんなに迷惑かけたか分かってんの?」

「スマン」

「謝るのは私に対してじゃないでしょ!ま、いいわ。そ、それであんたはどうしたいのよ」

 

良くねえよ。まずはしっかり謝らせんかい。気丈なように振舞っていたがやはり動揺は隠せないらしい。

 

「でもヨフネは……」

「人の事を気にしない!あんたはどうしたいの!」

「紅…………俺と結婚してくれ!」

「「「「え?」」」」

「嫌よ」

「「「「え!」」」」

 

アスマいきなりぶっ飛び過ぎだ!そこは付き合ってくれの間違いだろ。それで紅もどういうつもりだ。この流れだと答えはハイじゃないのか?

 

「でも、付き合うって事なら考えてあげても良いわよ。結婚なんて……二人の将来像はハッキリしてないし、収入だって……」

 

ああ、結婚に対しての返事なのね。紛らわしい奴らだな。まだみんなは事態についていけてない様なので、俺が声を掛けてやろう。

 

「おめでとう紅」

「ありがとうヨフネ」

「「「「え?!?!?!」」」」

 

こいつらはまた揃いも揃って同じ反応しやがって、打ち合わせでもやってたのかよ。

 

「なるほど、そういう事か」

「おい、イビキどうなってんだ?俺にはさっぱり理解できんのだ、教えてくれ!」

 

流石は拷問部隊員と言うべきか、イビキは真っ先に理解したようだ。逆に珍獣はどこから理解出来ているのかも分からん。

 

「どういう事も何も、俺は最初から紅とアスマをくっつける気でいたよ。ここに来る前から、こうなる様に仕組んだのさ」

「なに格好つけてるのさ、途中は完全に頭に血が上ってたでしょ」

 

……トンボよ、水を差してくれるな。

 

「ま、これだけみんなが集まるとは、流石に予想してなかったけどな。本当は二人で決闘して、アスマが告白したら紅が出てくる予定だったんだけどな……アンコ」

「ヤバッ!」

 

アンコが隠れて見ているのは分かっていた。逃げ出そうとしたようだが、ハンドシグナルで合図を出して、すぐにゲンマとシスイに捕まえられていた。

 

「すまんなアンコ。条件反射で動いちまった」

「アンコ、心配しなくても大丈夫ですよ。いくら隊長でも殺しはしないし、嫌でも強くしてくれます」

「ごめんなさいいい」

 

こういう迷惑な奴はきっちりと躾けてやらないとな。

 

 

 

この後、一応アスマから形だけの謝罪はされた。気持ちがこもっていたかどうかは分からない。今は時間が解決してくれる事をただ願うばかりだ。

 

その場は解散となるはずだったのだが、久しぶりに全員が揃ったからと、みんなに謝った後に何処かに行ってしまった紅とアスマを除いてみんなで飲みに行くことになった。

 

 

 

「ねね、ヨフネさんやい」

「なんだいカカシさんよ」

「結局さ……お前って紅としたの?」

「さあね」

  





皆さんいかがでしたでしょうか?
実は違うパターンも用意して有るので、本作完結後にIFとして投稿する予定です。

さて今回、原作開始直前の話についてのアンケートを行いたいと思います。詳細は私の活動報告に記載しておりますので、そちらでお答え下さい。ご興味がある方はご協力をお願いします。

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