同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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018. 暗殺

 

三代目の所へ向おうとする俺達の後方から閃光が瞬き、爆音が鳴り響くのを感じた。おそらく音響閃光弾を使ったのだろう。あれを使えば数的に不利であっても、いくらかは優位に戦闘を進められる。無理はせず退き際さえ見逃さなければ生存の確率は上がるはずだ。

 

隣を走るホヘトを見ると歯をくいしばりながらも白眼で後方を警戒してくれているようだ。俺はこいつらの期待に応えなければならない。

 

無事に火影邸に着き、執務室の扉を開ければ三代目以外の姿は無かった。イタチとシスイはまだ会合の最中だろうが、根の者がいないか気がかりだったのだ。三代目が警備している暗部を下がらせようとするのを止めさせ、話し始める。

 

「三代目、報告したい事があります」

「なんじゃ、まだ会合の最中であろう」

「ダンゾウに襲われたんです。この地点にすぐ増援を送って下さい!」

 

俺とホヘトだけでここへ来た事を不審がる三代目の言葉に対して食い気味に答え、地図を書いた紙を渡す。三代目はすぐに直轄の暗部を手配してくれた。

 

慌しくなった室内が落ち着くと、俺達が囮を使った事など三代目に報告していなかった部分を含め、ダンゾウの行動を説明した。

 

「ダンゾウ、あやつめ……」

 

ダンゾウについては三代目も疑っているようだが、木の葉の為に動く男だと信頼もしているのだろう。それ以上は何も言わなかった。シトウ達については俺達が行くとまた狙われる可能性もあったので、暗部を手配してくれて助かった。

 

「ところでお主はシスイが狙われる事を知っておったのか?」

「知りはしませんでしたが、可能性の一つとしては考えておりました。俺はダンゾウを信用などしていません」

 

三代目は目を伏せたまま黙って聞いている。うちはと里の不信感だけでなく、里内部の不信感も大きくなっている事に心を痛めているのかもしれない。しかしこちらは黙ってはいられない。

 

「実際にその不安は当たりました。改善しようとする三代目を妨害したんですよ?ましてやシスイの目を奪おうとまで!さらに言えば何故ダンゾウが写輪眼を持っているのです?」

「何故あやつが写輪眼を持っているのかはワシにもわからん。しかしその様な行動に出た以上、処罰はするつもりじゃ」

 

ここで三代目がどんな罰を下すにせよ、死罪にはならないだろう。しかし力を持ち過ぎたダンゾウの力を削ぐ事くらいは出来るだろう。

 

「報告します」

 

そうしていると暗部の一人が音も無く室内に入って来た。カカシだ。俺をちらりと見て報告するのを躊躇ったのだろうが、三代目が頷くのを見て報告する。

 

「指示があった地点に向かったところ、確かに戦闘が行われた痕跡が有りました。それに……猟犬のベストを着た遺体を三体確認しました」

「クソが……」

「交戦した相手ですが、残された血痕から見るに四名以上は死亡している様なんですが、遺体は何処にもありませんでした」

 

カカシから齎された報せは最悪の物だった。シトウ達が死んだ、俺を守る為に。その事実を受けて知らず知らずの内に拳を強く握り締めており、手からは血が流れていた。

 

「カカシ、部下を丁重に運んでやってくれ、頼む」

 

このまま野晒しにしておくわけにはいかない。仮面を着けた暗部相手に名前で呼んでしまったが、カカシは黙って頷くと部屋から出て行った。部下の死はこの件が解決するまで発表出来ないだろう。余計な疑念を招くわけにはいかないのだ。

 

部屋の空気が淀み、誰も言葉を発する事もなく夜も更けて来た頃、シスイとイタチが火影邸へとやって来た。

 

「三代目、ヨフネ隊長、作戦は成功です。フガクさんは里が変わるなら和解も止むなし、うちはに犠牲を出すわけにはいかないとみんなに説明しました。当然反発も有り、まだまだ時間は掛かるでしょうが、とりあえずクーデターを免れることが出来ました」

「そうか、それは何よりじゃ」

 

満面の笑みのシスイだったが、俺達の暗い顔を見て何か有ったのだと察したようだ。イタチはシスイの動揺を誘わない為にもまだ話していないらしい。やはりシトウ達の事は俺から言うべきだろう。

 

「シスイ、イタチの影分身に付けていた護衛の第一小隊だが、ホヘトを除いて全滅した」

「え?」

「ダンゾウがお前の別天神を狙って襲撃を仕掛けて来たんだ。それで俺を逃がす為にあいつらは……」

「そんな……」

 

明るかったシスイの顔がみるみる暗くなっていく。五年以上任務に出ていて死者は無かったというのに、まさか里内でのトラブルで出す事になるとは思わなかったのだろう。それも一度に三名も。だがここでずっと黙っているわけにはいかない。

 

「これからだが、シスイとイタチには継続して会合には出席して貰う。何かあればすぐ三代目と俺に報告してくれ。あいつらの犠牲を無駄にしない為にも何としてでも食い止めるぞ」

 

ここで挫けている場合では無いのだ。悲しむのは成功した後、三人の墓前に報告してからで良い。そうでないと顔向け出来ない。

 

「もうすぐダンゾウがここへ来る。イタチよお主は一先ず帰るんだ」

 

二人を待っている間、三代目がダンゾウを問い質す為に執務室へ呼び出していた。そろそろ来る頃合いだ。まだイタチとの繋がりを見せるには早い。シスイと同様に狙われる可能性だってある。イタチは俺達に頭を垂れるとすぐに姿を消した。

 

イタチが部屋を出て行って間も無く、暗部に連れられてダンゾウが入って来た。そのあまりに堂々とした立ち振る舞いからは何の罪悪感を感じ取る事が出来ず、思わず怒りが込み上げてくる。

 

「ダンゾウ様、どういうつもりです!」

 

普段は温厚なホヘトもダンゾウの様子を受け、俺より先に切れていた。だがそれも当然である、彼らはホヘト直轄の部下だったのだ。俺よりも長い時間を共にすごしている分、感情を抑えきれなかったのだろう。

 

「そう吠えるな。それに今はこんな所で議論している場合ではなかろう」

「惚けるな!貴方は木の葉の同胞を殺したんですよ!」

「そんな証拠が何処にある?」

 

俺とホヘトという証人を目の前にして、よくもそうぬけぬけと言う事が出来るもんだな。腹芸もここに極まるというものだ。こいつの必要性や合理的な考えを全否定するつもりはない。それこそ人目につかぬ功績も多いだろう。だが、絶対に俺はこいつを認めてはやらない。

 

「それにだ、言った筈だ。こんな所で議論している場合ではないと」

 

その不遜な物言いに俺達がまだ掴んでいない情報を入手している事を悟った。そして、とんでもない情報をダンゾウは告げる。

 

「先ほど、うちはフガクが何者かに殺害されたとの情報が入った」

 

淡々と告げられたその内容はこのタイミングで最悪の報せだった。俺達が僅かに固まっていると、それを嘲笑うかのように話し始めた。

 

「警務部隊を見張らせておったワシの部下からの報告だ。どうやらお主達の作戦は結果的に失敗したようだ。おそらく和解を模索し始めたフガクに対し、過激派が詰め寄って殺してしまったという処だろう」

「貴様……どうあってもうちはを滅ぼしたいのか!」

 

これには思わず俺がキレた。まだ会合が終わって数刻しか経っていない段階で、そして自分が呼び出されたタイミングでこの情報を持って来られては疑わざるを得ない。

 

「何を勘違いしておる。ワシではない、あやつらが自分達で滅びの道を歩もうとしておるだけだ」

「貴様が手を下したのではないと申すか」

「そうだヒルゼン。しかし、万全を期す為に慎重に行動していたフガクが殺されたとなると、奴らが暴発するのも時間の問題だろう」

 

ダンゾウはいつも通りの無表情だが、どこか嬉しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。それに事態の急変で紛らわそうとしているのかもしれないが、看過出来ない事が残っている。

 

「その前にお前には答えるべき質問が残っている。俺達を襲ったのは何故だ」

「お主も聞いておっただろう。ワシは疑り深い性格でな、今まではシスイを信じておったが、今回の事で別天神とやらがいつ木の葉に向くかも分からなくなった。シスイとはいえ、うちはだ。危険は早い段階で摘んでおくに越したことはない」

 

結局はこいつの前で別天神の作戦を伝えた俺の判断ミスという事か。おそらく今の言葉は真意だろう。だが俺からすれば別天神以上にダンゾウの方が信用ならない。

 

「なら……何故奪おうとした」

「ワシならばより効果的に扱えると思ったまでよ」

「何様のつもりだ!」

 

思わず俺とホヘトは声を荒げた。ダンゾウが別天神を木の葉に対して使わないという保障もない。人は駄目でも自分は良いだと?そんな我が儘を聞いてられるか!そう俺が言おうとすると三代目に手で制された。

 

「もはやお主の独断専行を許してはおけぬ。根は本日をもって解散、相談役の任も解く。お主は処分が決まるまで謹慎しておれ」

「なっ!」

 

三代目もかなり頭に来ていたようだ。この決断を自ら下した事に俺達もダンゾウも驚いている。だが当たり前の話なのだ、ここまでして処罰が無いと思える方がおかしい。

 

この場はダンゾウの謹慎とフガクの件の捜査を火影直轄の暗部にも行わせる事だけが決まり、一旦解散する事になった。

 

 

 

ダンゾウに処罰が下されたからといって、うちはとの溝が埋まる訳ではない。むしろ一族をまとめていたフガクが殺された事によって、今後の動向が全く分からなくなった。

 

フガクが殺された翌々日、俺は葬儀に参列していた。シスイが配属された時から何度か会った事があり、殺された原因を作ったのが俺達であるとの罪悪感からである。しかし一族以外の参列者に対する視線は冷たい。これでオビトの時と合わせて、うちはの葬儀は二度目だが毎回居心地が悪い思いをしている。特に今回は里との緊張が高まっている状況でフガクは殺されたのだ。うちはが里側に犯人がいると考えても不思議ではない。

 

葬儀が終わり不自然じゃない程度にイタチ達家族に挨拶を済ませる。サスケは訳も分からずただただ泣き続けていた。妻であるミコトさんは気丈に喪主としての役目を務めていた。どうやら事件当日は夫より先に家に帰る事で難を逃れたらしい。

 

俺は居た堪れない気持ちで葬儀を後にし、火影邸へと向かった。そこで三代目とシスイが集めた情報を交換する事になっていた。部屋に入ると既に全員が揃っていた。イタチは一族から尚も疑われている為、当分の間は直接火影邸に近づかないよう決めており、この場には不参加だ。

 

「これで揃ったの、うちはの様子はどうじゃ?」

「一族では里に対する不信感がこれまで以上に渦巻いています」

「やはりそうか」

「フガクさんの遺体からは右眼がくり抜かれていました。一族にとって誇りである写輪眼をくり抜くなど一族の者ではあり得ない。和解しようと考え始めていたのに里は暗殺を決行した、多くの者がそう考えているようです。しかし事件の夜から姿をくらましている一族の者がいるのも確かです」

「それは誰だ?」

「若手武闘派の中心人物、うちはイナビです。俺が不肖ながら一族の若手の中核を担っているんですが、それが気に食わないのか衝突する事も有りました」

 

その名前は確か要注意人物のリストに上がっていた。となるとダンゾウの言う通り、うちはの跳ねっ返りが事を起こしたとでも言うのだろうか。

 

「ふむ、警務部隊からもそう聞いて、暗部の方でも全力で捜索しておるが、手掛かりすら掴めておらん。その警務部隊じゃが、新しい部隊長をうちはヤシロにするとの申請が来ておる」

「どんな人物です?」

 

若手で実力もあるとはいえ、この二日間何の手掛かりも無いとなると共謀者がいる可能性もある。ヤシロなる人物についても気になって聞くと、シスイが説明してくれた。

 

「フガクさんも認める切れ者でタカ派の代表です。しかしフガクさん程のカリスマ性は有りません」

 

ヤシロが一族を纏め上げる事が出来れば良いが、それも難しそうだ。また姿を消したのが急進的な若手武闘派、新しく隊長となったのもタカ派の中心人物となると内部の自作自演の可能性も高い。結果的に彼らの立場はより強固な物となっている。

 

だが結局はイナビを見つけない事には真相が分かる事は無い。継続して捜索をすると共にクーデターの危機については、遅過ぎたかもしれないが話し合いによる解決を図るという事になった。さしあたっては、うちは内の勢力図を鮮明にする事が先決だ。何も収穫の無いまま、イタチとの集合時間となり解散となった。

 

「シスイ、ところで瞳力はどうだ?」

 

執務室を出てる寸前、シスイに確認をする。こいつも自身の能力を、また使えるようになるとはいえ犠牲にしている。それにこの力には分からない事が多過ぎる。

 

「右眼は使ったばかりなので、まだまだ元には戻りませんね。左眼は第三次忍界大戦で使ったので八年は経っているんですが、やはりまだ戻りそうもありません。別天神を開眼した者は少ないので、文献も僅かしか有りませんが、どうやら十数年は必要な様です」

「そうか、結果として無駄に使わせてしまったな」

「隊長の所為ではありませんよ。こんな事になるなんて俺も予想していませんでした」

 

そう言いながら出口に近付いたので、スッとシスイが離れた。猟犬部隊という事もあり、一緒に居てもおかしくはないが、警戒するに越した事はない。外では極力人目を気にして行動する様にしていた。

 

「じゃあ俺は一足先に例の場所に向かうぞ」

「では一旦施設に寄って、後から行きます」

 

 

 

下に南賀ノ川が流れる谷に着くと既にイタチが来ていた。父親が殺されたばかりだというのに、まだ十三歳とはとても思えない程しっかりしている。冷静に事実を受け止め、その影響を考えているようだ。

 

「父を殺した犯人が判明したとしても、クーデターは止めるのは難しくなりましたね」

「そうだな、今はあくまで先延ばしになっているだけだ。もう話し合いによる解決しか残されていないだろう」

「……険しい道のりですね」

 

イタチの言う通り、話し合いが解決する見通しはない。だがやらない事には始まらない。話し合いの中からより効果的な解決方法を模索するしか無いというのが、全員の共通認識だった。

 

「里側が何処まで譲歩出来るのかが鍵だな。あとお前とシスイにはやってもらいたい事がある」

「なんでしょうか?」

「クーデターの反対派のリストを作って欲しい。手元にはフガクさんが居なくなる前の物しかない。今の情報が知りたいんだ。全否定の者、武力行使には反対の者の二つに分けて欲しい」

「なるほど、父の影響力を見る事でヤシロさんの統率力を測り、尚且つ一族の反対派を纏めるつもりですね」

「それしかないだろう」

 

交渉は一方向からだけするのではなく、多面的に行った方が効果的なはずだ。しかしリストを作れと言っただけで、すぐにそこまで推測できるとはさすがイタチである。そのままお互いに案を絞り出しながら検討を続けた。

 

「しかしシスイは遅いですね」

「そうだな少し探してくる。イタチは待っていてくれ」

 

時間を空けて来るとはいえ時間が経ち過ぎている。どうも嫌な予感がする。シスイが辿りそうな迂回ルートを急いで逆走しながら探す。

 

「ヨフネ隊長……」

「どうしたシスイ?!」

 

人の気配を感じて立ち止まると、木の影からシスイが出てきた。しかし服はボロボロとなり、閉じられた右眼からは血を流していた。

 

「ダンゾウに……根の者に右眼を奪われました」

「何だと?!監視している暗部は何やってる!」

「それよりも早くイタチの所へ!」

「おい、何を考えている?」

 

俺は知っている。この状況になったシスイが何をしようとしているのか。だがそんな事は認められない。認めてやるものか!

 

「参ったな、隊長は何もかもお見通しですか」

「さあな弱気なお前の考えなど知らん!」

「聞いて下さい。万華鏡写輪眼の開眼には一つの条件があります。それは……最も親しい友を殺す事です」

「何を言ってるんだ!」

 

そんな事は知っている。知っているからこそ認められない。お前が死んだってクーデターを止める事は出来ないんだ。

 

「俺をイタチに殺させる事で万華鏡写輪眼を開眼させるつもりです。イタチが別天神を開眼する可能性もあります」

「そんな可能性は無い!それにまだお前は助かるじゃないか。諦めるな!」

「いくら隊長だって、そんな事言い切れないでしょ。今の状況を考えるとこれが最善です」

「…………分かった。とりあえずイタチの所へ急ぐぞ。但しだ!条件を飲んでもらうぞ」

「“条件”ですか?」

 

 

 

 

 

「シスイ?!何があった?」

 

俺が肩を貸して谷まで連れて行くとイタチが駆け寄って来た。ここまで焦った顔を見るのは初めてだ。

 

「ここへ来る途中、うちはイナビと会った。奴は嵌められたと言ってたよ」

「一人で行ったのか?」

「いいから聞け。奴は会合の帰り道、ダンゾウがうちはを潰そうとしている事、写輪眼を持っている事をヨフネ隊長から聞いたと言っていた」

「そんな事あるはずがない。だってあの時、ヨフネさんは三代目の所に居たんだぞ」

「そう、あるはずがないんだ。しかしイナビはヨフネ隊長とダンゾウが対立している事を知っていた。その上でヨフネ隊長に扮した何者かがイナビにダンゾウを襲わせようと画策したらしい。イナビはダンゾウが会合の夜、前回俺達が襲われた寺に現れると聞いて待ち伏せをした。そして情報通りそこに現れたダンゾウを背後から襲って右眼をくり抜いたんだ。だが気付けば自分の足元に居たのはフガクさんだったと言っていた」

 

おそらくは幻術にかけられ、フガクさんをダンゾウと認識させられていたんだろう。フガクさんは裏切る筈のない若手に対して、あまり警戒していなかったのだろう。しかしフガクさんは何故あそこにいたのだろう。

 

「奴が幻術に気づいた時には、根の者達に囲まれていたらしい。くり抜いた右眼は奪われたが、あの寺の奥に見える山まで逃げて潜伏していたそうだ。しかし今日になって山狩りが始まり追われるようにして出てきた所へ“偶然”俺がいたらしい」

「あの山は確か根の管轄下の筈。どうりで暗部も見つけられないわけだ。こうなると父さんの殺害は実行犯がイナビで、黒幕はやはりダンゾウか。ではお前の右眼もやはり根が?」

「そうだイナビすらも罠だった。ダンゾウはあえて泳がせて俺の元へ誘導したんだろう。二人で話している時に根の者に襲撃され、右眼を奪われてしまった。奴はなりふり構わず自分のやり方で里を守るつもりだ。おそらく左眼も狙われる。その前にこの眼をお前に渡す」

 

そう言うとシスイは自分の左眼を指を入れて取り出した。俺は思わず顔を背けてしまったが、イタチはしっかりと見届けたようだ。手渡された左眼は口寄せしたカラスに持たせようだ。

 

「確かに受け取ったぞ。それでおまえはどうする?」

「今のままでは、うちはのクーデターは止められそうもない。もしクーデターが起きれば他国が必ず戦争を仕掛けて来るだろう。だが俺が死ねばいくつか状況が変わるだろう。遺書も置いて来た。ただ俺を殺すのはお前だ、イタチ。そうすればお前も万華鏡写輪眼を開眼できる」

「な、なにを言っている」

「万華鏡写輪眼を開眼するには親しい者を殺さなければならない。今なら俺を突き落とすだけで良い」

 

そう言ってシスイはイタチの手を取りつつ、崖の淵に立った。

 

「ほらしっかりしろ」

 

シスイはイタチの右手を自分の胸に押し当てた。

 

「やめてくれ……」

「じゃあなイタチ。一族の名誉と里を守ってくれ」

「……シスイ」

 

シスイはそう言い残し、イタチに無理やり自分を押させて崖の下へと消えて行った。

  


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