イタチはシスイの思惑通りに万華鏡写輪眼を開眼したが、やはり別天神ではなかった。シスイについては遺体は見つかっていないが、直前の行動などを改竄し自殺と判断されるように既に手配している。
口封じの為に殺されたイナビの死体も本来であれば利用したかったのだが、根はダンゾウが謹慎処分を受けて解散させられており、今はこれ以上人目に着くような行動は出来なかったのだろう、完全に証拠を消す事を決めたらしい。
しかしダンゾウはどこまでも足を引っ張ってくれる。これだけ動いても結局は原作通り、というよりもあいつは自分の思惑通りに事が進んでいると感じているだろう。三代目には報告したが証人の二人が話せなくてはどうする事も出来ない。事態が収束するまでは、暗部による監視の強化しか処分も下せないだろう。
だが思惑に簡単に乗る訳にはいかない。俺も色々と手を打っている。シスイが懐に入れていた遺書もイタチの元へ連れて行く前にシスイに少し修正させている。
争いに疲れた
これ以上"道"に背くことは出来ない
このままではうちはに未来は無い
そして、オレにも……
いかにもシスイらしい端的な文章だ。最初に直接見せてもらった時には、曖昧でどうとでも取れたので少し直接的にうちは批判に捉えられるように訂正させたのだ。
これを見た警務部隊はシスイが一族のクーデターに疲れた結果、自殺したと判断するだろう。しかしフガクさんが殺された後でもある。他殺の線を消し去る事は出来ないだろうが、おそらくイタチに容疑の目が向く可能性は少なくなる。ここでイタチに監視がつけば動きにくくなる為、それは避けたかった。
シスイの跡を継いで若手の中核を担うようになったのは、ヤクミという人物だ。彼は若いながらもフガクさんの側近として働いていた為、シスイいなくなった後、その座に座る事になった。ただシスイが穏健派だったのに対して彼はタカ派であり、今後より一層クーデターに近づく可能性がある。
そんな中、三代目に上役筆頭のシカクさんに警務部隊と交渉を持つよう進言し実行された。もちろん名目上は待遇についての意見交換という形でである。ただ里側としては一定の譲歩を見せたのだが、話し合いは平行線で交わる事はなさそうだった。うちはからの要望はこちらの予想を大きく上回る物であったからだ。
一,警務部隊の主要ポストは継続して、うちは一族を充てる事
二,九尾事件の真相究明及び、事件発生時の対応についての総括を公表する事
三,うちは一族から上役筆頭、もしくは相談役への就任
四,居住の自由化
この四つの要求をして来た。もちろん理解出来る物もあるが、九尾事件の真相究明など不可能な事から、上役筆頭への就任など里内からの反発が予想される物まである。しかもこれが最低条件と言っているらしい。
交渉の仕方がなっていないとシカクさんも呆れていた。通常交渉とは最初に大きく出て、折衝により落とし所を探る物である。そればかりか一族の要望を纏められていないという事で要望が減るどころか増える可能性すらあるらしい。もし真相究明して、犯人がオビトだと分かったらどうするつもりなのだろう。いっその事バラしてやりたくなる。
ただし里側から譲歩の姿勢を見せた事で穏健派は揺れているようだ。不満が全て解消されなくとも人が死ぬよりかはマシという考えを持ってもおかしくない。そんな穏健派をまとめてもらおうと、俺はフガクさんの妻であるミコトさんと会う事にした。
「お忙しいところすみません」
「いえ、それより主人の件で何か新しい事が分かったのですか?」
こうして初めて面と向かって話すのは初めてだが、うちはらしい黒髮の美人だった。葬儀の時もそうだったが、今もしっかりとこちらを見返す事の出来る強い女性でもあるようだ。
「今日は別件です……単刀直入に申し上げます。私はうちは一族にクーデターは起こさせたくないんです。私に協力して貰えませんか?」
ミコトさんが息を飲むのが分かった。夫を殺されたばかりの人にこういった事を頼むのは無神経だと言われるかもしれない。しかしいつの世も同情されるという事は武器になり得るのだ。夫や父親が亡くなってその意志を継ぐ、そういって出て来る政治家は後を絶たないのもその為だ。ぜひ揺れている穏健派の中心人物になってもらいたい。その思いを胸に俺は畳み掛けるように説得する。
「フガクさんは亡くなられる前の会合で里と融和する方針に切り替えていたそうじゃないですか。私はそれに反対する勢力に殺されたのではないかと考えています」
「……それで何が仰りたいのかしら」
「ご主人が亡くなられた事で今迄と比べ、より過激な考えを持つタカ派の人々が台頭してきていると聞いています。このままでは里と双方にとって不幸な出来事となりかねません。その一方で里側が歩み寄る姿勢を見せた事で穏健派人々も増えてきています。しかし彼らには中心となる人物がいません。その役目を貴女にやって頂きたいのです」
ミコトさんは夫やまだ幼い子の事を思い浮かべているのか目を閉じてじっとしていた。やがて考えがまとまったのだろう、口を開いた。
「貴方の考えは双方にとって有益かもしれません……でも私には不思議でしょうがないんです。あれだけ頑固なあの人が唐突に融和を打ち出すなんて……寡黙な人でしたが、何かに悩んだら必ず私にだけは相談してくれていました。だからどうにも私にはあれが、あの人の本当の意思とは思えないんです」
鋭いな、流石は夫婦といったところか。別天神の事を知らなくても、脅迫でもされたのではないかと考えたのかもしれない。
「それはご協力頂けないという事でしょうか?」
「……今日は主人に焼香して下さり、ありがとうございました」
もう帰れと暗に言われてしまっては仕方がない。彼女はおそらく俺の訪問の事も話すつもりはないのだろう。穏健派の中核を担える人はこの人しかいないと思っていたのだが……これ以上説得をした所で無駄となる可能性は高い。
俺はちょうどアカデミーから帰って来たサスケに挨拶だけして、その場を後にした。
結局は元々穏健派で今は忍を引退している、煎餅屋の亭主であるテヤキさんにまとめ役をお願いした。優しく一族のタカ派からも信頼されている人物だが、人をまとめられる程の力が有るわけではなかったらしく、多数工作は期待したほど上手くはいっていない。
それにどうやら時間もないらしい。最近、うちは一族の者が頻繁に空区へ出入りしているのを国境警備中の猟犬部隊が確認している。またそんな里が警戒を続ける中、昨晩にうちはがフガクの死後初めてとなる会合を行ったのだ。
ただ一族全体という訳ではなく働き盛りの男衆を中心としたタカ派の人物のみだが、どうやらミコトさんも参加したとの事である。もちろんイタチも参加しており、その報告の為に三代目に相談役の二人に俺、そして監視役を伴ってはいるが何故かダンゾウまで来ていた。
「謹慎中の方が来られているようですが」
「里の一大事だ。そんな事も言っておれんだろう」
(……自分で言うなよ)
謹慎しているとはいえ情報を得て指示を出す程度はわけないだろう。自分の思い通りにいっている為か、ダンゾウは尚も余裕の表情を崩さない。全員が揃った事を確認してイタチの報告が始まった。
「うちは一族は木の葉に革命を起こす決意です。明日の夜、決起集会が行われます」
「なんじゃと?!」
最後にイタチが放った言葉により部屋の空気が一気に重くなったが、やはり一番最初に動いたのはダンゾウだった。三代目に向かって言い放つ。
「うちはにクーデターは起こさせん、その思いだけは儂もお主も同じはずだ」
「うむ……」
三代目が頷いたのを確認してダンゾウが立ち上がった。どうも素直に謹慎先の自宅に帰るわけではなそうだ。三代目もそれを感じ取ったのかダンゾウを引き止める。
「待てダンゾウ、まだ結論は出ておらん」
「うちは一族が準備している以上、儂らも準備せねばなるまい」
「……良いな、準備だけじゃぞダンゾウ」
おい三代目、何言ってんだよ。謹慎中ということを忘れたのか?それにこの局面で自由に動かれては俺の計画が崩れてしまう。何としても止めないといけない。
「待って下さい。謹慎中の者に権限を与えるなんて何を考えているんです。ルールは偉いからといって破って良いものではありません。ダンゾウ様には大人しくしておいて貰いましょう」
上層部は例外を作り過ぎている。それも例外は極一部の者達、すなわちここにいるメンバーに対してのみである。民主主義を導入しろとは言わないが、反発ばかり招くやり方は間違っている。
「ヨフネよ、そう熱くなるな。この状況じゃ仕方あるまい」
「……ダンゾウの処罰について減刑を望むというのですか?」
ダンゾウから何か言ってくるかと思ったが、意外な事に婆様がダンゾウを擁護してきた。だが婆様とて容赦はせん。
「そうじゃ、こやつは野心家で疑り深い性格をしておるが、常に里の事を考えておる。表をヒルゼン、裏をダンゾウこの状況が一番上手くいっておる」
「上手くいっていないからこその今でしょう」
上手くいっていれば、こんな状況にはなっていないのだ。そもそも九尾事件の際にダンゾウが三代目に対し、うちは一族を防衛の任から外すようにさせたのが引き金なのだ。
「ではダンゾウがフガクの下手人との証拠はあるのか?」
思った以上に婆様は現状を理解できていない。確かにフガクさんが殺されていなければ、ここまで急速に悪化する事はなかっただろう。しかし殺されなかったとしても、うちは一族との禍根が全て無くなったとは限らないのだ。そもそも俺は相互不信を解決するのが目的ではないのだ。あくまでイタチによる一族全滅を解決できれば良いと思っていたのだ。そんな思いは表に出していないから伝わるはずもないのだが……
とりあえず今はダンゾウを自由にさせるわけにはいかないのだ。
「それ以前に俺は殺されそうになった」
「……知っておる」
「知っていて尚庇うのか?!」
「みんながお前のように割り切れる性格ではないのだ!」
「その部分を婆様がホムラの爺様と二人で担えば良いじゃないですか!」
己の孫であっても、そう割り切れるなら婆様は担えると思うが、あくまで責任は取りたくないとでも言うのだろうか。婆様の事は尊敬しているのだが、一旦距離を置いたほうが良いかもしれない。木の葉全体を見れるようになってから、よく意見が対立してしまっているのだ。
「待て、身内同士でそう熱くなるな」
ホムラの爺様が熱くなる俺達を止めてくれた。ここで言い争っても何にもならないのは確かだ。
「……分かりました。私はあくまで今回の件に深く関わっているだけの一忍です。だけどこれで最後です。次何かあれば投獄も止むなしという事で良いですね?」
「致し方あるまい」
とりあえず暗部には準備させ、イタチは今夜の会合に参加し何か異変があればすぐに連絡を寄越す事となった。俺は里に残っているホヘトとタシを引き連れて三代目と行動を共にすることとなった。
夜になり会合が始まってしばらくすると、第一級警備体制を知らせる鳶の鳴き声が鳴り響いた。火影の執務室に待機していた俺達も慌ただしくなる。
「すぐに自治区に暗部を派遣し、直ちにうちは一族を拘束ないしは暗殺せねばなるまい」
「ダンゾウよ待て、一族郎等処分する必要はあるまい。こちらにはタカ派の人物のリストがある。そ奴らさえ確保すればよい!暗部は全て儂が指揮する。貴様も一緒に来い!」
ダンゾウは嫌でもうちは一族を壊滅させたいらしいが、最終的には三代目に従う素振りを見せた。実際はイタチをけしかけて暗殺を命じているのだろう。しかし余裕の表情ではなかった。イタチが一族を討ち漏らす事を心配しているのかもしれない。
予め待機させていた暗部は出動するにあたって警務本部へと向かう部隊と会合が行われている南賀ノ神社へ向かう部隊、そしてタカ派としてリストに名前が載っている者の家に向かう部隊の3つに分けられた。俺は三代目が自ら率いている南賀ノ神社に向かう部隊に同行した。夜遅くという事もあり街中には人の姿は見えない。
神社の境内に入ると床板が一部剥がされていた。おそらくこの下に例の石碑があるのだろう。しかしそんなことよりも全員が気になっている事があった。境内に入った時から異常なほど死の香りが充満しているのだ。暗部が警戒しながら下へと潜っていき、すぐに安全が確認され俺達も降りていく。
「酷い……いったい何が」
暗部の一人がそう呟くのも無理はない。室中には百名余りのうちは一族が織り成すように死んでいた。ある者は頭部が割れ、またある者は腕を失くしていた。そして最も多いのは焼死体であった。
「生存者の確認を急げ!また遺体は全て回収せよ。よいか全てじゃ!」
三代目はそう指示を出したが、生存者は絶望的であろう。俺達も一人一人死亡を確認していく中、胸を刺されたミコトさんの遺体も発見した。最後の表情は笑っていた。一体何を思って殺されていったのだろう。
「待て、止まるんだ!」
虚しさしか残らない遺体の確認をしている中、上にある境内がなにやら騒がしくなってきた思っていると、どうやったのか上にいた忍をすり抜けてサスケが階段を駆け下りて来た。おそらく帰りが遅い母親を迎えに来たのだろう。この場の光景を目に焼き付けるよう呆然とした表情を見せている。しかしその目に母親の姿が映ったようだ。
「母さん……?なんで、なんで母さんが死んでるの?ねえ!誰がなんでこんな事したの?!誰か何か言ってよ!!」
「お前の兄、うちはイタチがやった。奴は己の一族を嫌い憎んでいた。そこで自分の父親である、うちはフガクを殺しその目を奪い、うちはの同胞と争い事を引き起こした。そしてとうとうこの凶行に及んだのだ」
母親の死体を見てパニックになっているサスケに対しダンゾウが無慈悲な宣告をする。そしてこの言葉は全員に対して言われたものでもあった。その動機が嘘である事は三代目も分かっていただろうが、犯人がイタチであるという事も同時に理解したのだろう否定はしなかった。
「なんで兄さんがそんな事するんだよ!兄さんじゃない!兄さんじゃないに決まってる!!」
「誰かその子を木の葉病院に連れて行ってやりなさい」
三代目の言葉に従い、暗部の一人がサスケを連れ出した。その事により再び静寂が戻ってきた。おそらく全員が詳しく話を聞きたいのだろうが、流石は暗部というべきか黙々と作業を進めていた。そして作業が終わると俺と三代目とダンゾウを残して、他の部隊の応援に出て行った。
「これで全てとは言わんが、一先ずは解決したな」
誰にも聞かれる恐れがなくなるとダンゾウが一安心とでも言うように三代目に言葉をかけた。しかしそれを見過ごせるような俺達ではない。
「何が解決だ。ワシらの喉元に太い骨が突き刺さったという事が分からんのか!」
「なに、ほんの小骨よ」
おそらくここにいる遺体の家族も同様に殺されている事だろう。その数を合わせれば二百人は超えるだろうというのに小骨と表現できるダンゾウを俺は睨みつけた。それは三代目も同じだったようだ。
「ダンゾウよ、もはやお主の独断専行はワシでもかばいきれん」
「三代目……約束通りダンゾウ様は投獄という事で構いませんね?」
「致し方あるまい」
この為に今日の昼に予め全員の前で次に何かあれば投獄も止む無しと了承させておいたのだ。ダンゾウはこの状況にに焦ったのか弁明を始める。
「しかしワシは木の葉の為を思えば」
「里の為というのであれば、うちはも里の者であった」
しかしその言葉を遮って三代目が言葉を重ねた。とりあえずはこれで大人しくなってくれるだろう。ダンゾウの排除という目標は達成する事ができた。
事件の被害は予想していた通りイタチに作らせていたタカ派のリストに載っている者とその家族だけであった。そして家族の方は遺体が消えているものがいくつかあったらしい。おそらく集会所はイタチが襲い、それぞれの家庭を襲ったのはオビトなのだろう。
写輪眼は強力であるがゆえに争いの種となりやすい。生き残ったのはほとんど戦闘力の無い一族の者ばかりだが、ここで血を途絶えさせる事だけは避けられた。この悲しみによって新たに写輪眼を開眼する者もいるかもしれないが、これから相互努力していけば衝突を避けられるはずだ。
事件から一夜明け、俺は三代目に呼び出されていた。呼び出された場所は教えられなければ分からないビルの谷間とでも言うべき所だった。そしてそこには既にイタチ待っていた。
「何か言いたい事があるのだろう。人払をしておいた、この話を聞いておるのは三人だけじゃ」
「ご配慮感謝します」
どうやらイタチとの最後の会話としてこの場を設けたのだろう。そして三代目は何もかも話すつもりらしい。
「まずは礼を言う。これで木の葉は内戦を免れた、里の平和は守られたのだ。しかし他の手段はなかったものかと今も残念に思っておる」
「申し訳ありません」
「謝るのは儂だ。これから里はお前を一族殺しの抜け忍としてビンゴブックに載せ、生死を問わず捜索することとなる」
結果として重荷を背負わせる事になってしまったイタチに対して酷い仕打ちだが、里としてはこうする他ないのだ。イタチも当然ですと答えた。これで十三歳とは恐れ入る。
「これからどうする」
「暁と名乗る組織の手を借りました。その者が約束を違えぬよう側に身を置くことにします」
「暁に入るというのか」
「サスケの命を守る為に三代目もその事を確約願えますか」
やはりこれがイタチの目的だったのだろう、その言葉には力が篭っていた。イタチのその願いはこちらとしても言われるまでもなく、そうするつもりだった。
「お前の弟はこれまで同様、他の子と同じ様にアカデミーに通い、木の葉の忍びとして育つであろう。何一つ不自由はさせぬが、お前への憎しみまでは取り除く事は出来ん」
「その憎しみを背負う覚悟は出来ています」
強い少年である。三代目と目配せしてイタチに隠している事を白状する。
「イタチ、お前にはもう一つ謝らないといけない事がある、シスイの事だ」
イタチは訝しげな表情をしている。それもそうだろう、自分が殺したと思っていた親友について切り出されたのだから。
「あの激流に飲まれたから遺体が見つからないんじゃない。実はあれは俺とシスイの芝居だったんだ。シスイは生きている」
「は?」
俺がイタチの表情を確認するとポカンとして口を開けていた。まだ固まっているが詳しく説明してやる。
「お前との待ち合わせ場所に来る前のシスイは確かに死ぬ気だった。自分が死ぬことで別天神がお前に発現すれば良いと思っていたようだ。だが俺もあいつは治療すれば治す事が出来たから殺したくはなかった。そこで一つ条件を出したんだ。それが川へ身投げする事だ。そうすれば下に待機させていた部下にシスイを回収させて治療をする事が出来た。今は猟犬の施設で治療を受けている」
川に飛び込むという条件にシスイは分からないという表情をしながらも了承してくれた。川からタシに引き上げられる事は伝えてはいなかった。生きて治療を受けていることに気づいたシスイは訳が分からないといった具合だった。
「お前の事だ、もう気づいているかもしれないが万華鏡写輪眼の開眼条件は大切な人を自分で殺す事だ。その為にシスイは自分の命を顧みずあんな事をしたんだ。正直フガクさんが殺された時点でうちは一族の全員を救う事を俺は諦めていたんだが、シスイが死んだタイミングを利用して里側から譲歩を示す事で穏健派に多数工作を仕掛けられれば、一部の者だけでもを救うことができると思った。そして穏健派の中心人物として俺はミコトさんを選んだんだ。断られてしまったけどな。ちなみにこの事は三代目にも事後報告にはなってしまったが知らせていた」
ネタばらしというわけではないが、イタチが里を出る前に全てを知らせておきたかった。といってもイタチが暗殺を決行するのを知っていて利用した事までは言う事ができないが。あえてシスイが死んだ後もリストをイタチに作らせたのは、穏健派を生き延びさせるためだったのだ。
「だから母さんは最後にあんな事を……母は俺に殺される前に『私も少しは役に立てたかしら』と言っていたんです。その意味がようやく分かりました。きっと母は父が殺された後も自分が会合に参加する事で潜在的なタカ派までも纏めたかったのでしょう。後顧の憂いを断つ為に」
笑顔で死んでいったのはそういうことだったのか。今回の事件で俺は自分の事を冷酷な奴と思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。俺にはそこまで冷酷な手を打つ事は出来なかった。俺は自分が今回の件の主導権を握っていると思っていたが、結局はミコトさんの掌の上での事だったのか。
「ヨフネさん、シスイの眼を返しておいて下さい」
そう言ってカラスを呼び出そうとしたイタチを手で制す。
「シスイからの伝言だ。『お前が里を出ても道を踏み外さないか、俺が見ててやる。一緒に連れて行ってくれ』だそうだ。それに奴の眼には他にも心当たりがあるしな。ダンゾウからシスイ自身の眼とフガクさんの眼を取り戻して移植させるつもりだ。構わないか?」
「はい、父の眼をあの人が持っている事は許せませんし」
それもそうだ。その言葉に頷いてから、懐からお金が入った袋を投げてやる。
「俺からの餞別だ。現金で悪いがあって困る物じゃないはずだ。猟犬の予算から出しといたから遠慮なく使え」
「もう行くがよい。里を包む結界の術式はそのままにしておく。サスケのことが心配なら、いつでも忍び込んで参れ」
「貴方達のその優しさをうちは一族が理解しなかったことが残念です」
「なに儂はただ甘いだけよ。それゆえにこの悲劇を生んだのだ」
イタチは俺達に礼をして姿を消した。俺はまた会う機会があるだろうか。今はただあいつの無事を祈ってやる事しかできない。そう思っていると三代目が急に俺の方を向いた。
「ダンゾウがいなくなった今、儂はお前にこれからもっと頼る事となるじゃろう。警務部隊の再編と暗部の再編をやらなければならない。いずれにしても国境警備や極秘任務など人手が足りなくなるだろう。そこでじゃ……今後は猟犬を連隊規模とするがよい」
「は?」
設定には猟犬連隊の中隊長以上を記載しています。興味のある方はご覧になって下さい。