同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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008. 襲撃

  

巻物の奪還も無事に終わり、俺とホヘトは北東部の陣へと戻ったが、何やら慌ただしい。自分の準備が終わったのか、俺たちの荷物までまとめているトンボに声をかける。

 

「何かあったのか?」

「やっと帰って来た!渦潮隠れの里が襲撃されてるみたいなんだ!衣類や食糧、丸薬や医療パックまで全部まとめといたから、忍具の準備だけ早くして。あと、そこに軽食作ってあるから食べといて」

「お、おう」

 

そういうと他にも準備などするのだろう、飛び出して行った。

 

「あいつ、良い嫁さんになるな」

「男ですけどね」

 

 

 

それから急いで、また俺たちは渦潮隠れの里へと向かっていた。どうやら巻物強奪でさえ囮だったのか、犯人を倒して程なく襲撃されたようだ。こうなると霧隠れと雲隠れの連中は共同戦線を張ったのだろうか。不確定要素が多く雲隠れの連中にも警戒しなければならないかもしれないが、里を落とされてはどうにもならない。

 

渦潮隠れもそう判断して援軍を求めたのだろう、他の沿岸部の警戒にあたっていた班も続々と里に向かっているようだ。

 

「よし、ここで他の班と合流する。揃うまでの間に戦場の情報を探るぞ」

「すぐに向かわなくても良いの?」

「俺たち一班で出来ることには限りがある。個別で主戦場へ援軍に行くよりも、まとまって行動した方が作戦に幅が出る」

「わかった。しかし揃うまで何もしないのは、時間がもったいないな」

「ええ、ですからツメさんとホヘトで偵察してきて下さい。この先に高くなって箇所がいくつかありそうなんで、そこから戦況の把握をお願いします。黒丸も頼むぞ、後で特製干し肉あげるから」

「ふん、そんな物無くても行くさ。ほれさっさと行くぞ」

 

黒丸は格好をつけて走って行った、けど今度から尻尾と涎を抑えてから言うんだぞ。

 

 

 

ホヘトさん達が偵察から帰って来たタイミングで、ちょうど全ての監視班四小隊が揃った。俺たちのすぐ後に来た二班は、中忍二名に下忍二名。最後に来た班は俺たちと同じ上忍一名に中忍三名の構成。これなら充分に戦えそうだ。

 

渦潮隠れの里は海からほど近い丘の窪地、いわゆるカルデラの中心にある。そのため外縁部は小高くなっており、そこに防衛ラインを張って交戦しているらしい。

 

「ホヘト、詳しく説明してくれ」

「里を中心に今、俺たちがいるのは二時の位置です。敵は五時から九時の位置に展開していて、こちらはその敵に呼応する形で防衛しています。先ほどから、こちらの別動隊が準備をしているようでした。おそらく敵の手薄な十時の位置から側面を突こうと行動するつもりだろう」

「よっし!それだけ分かってりゃ充分さ、さっさと俺らもその別動隊に合流しようぜ。俺が敵を蹴散らしてやるさ!」

 

最後に来た班の上忍がそう言い、飛び出して行こうとする。俺が説明する度に嫌そうな顔をしていたから予感はしていた。

 

「待て!我々は観測地点に一班残したうえで、他の三班で四時の位置から敵に奇襲をかける。敵の両側に奇襲をかければ、包囲出来るかもしれない。仮に包囲出来なくても合流して味方をフォローできる」

「は?コネと運に恵まれて成り上がった小僧が、偉そうに言ってんじゃねえよ!」

 

あまりにも早い上忍への昇格への反発、恐れていたことが最悪のタイミングで起きてしまった。推薦上忍が相談役と火影でありコネなのは間違いない、例え名のある首を討ち取ったとしても周りはそうは見ない。

 

まったく、こんな馬鹿が上忍になれるなんて。戦争ってのは嫌だ。ま、俺も戦争中じゃなきゃ無理か。

 

「待て!あんな遠いところまで行っても到着した頃には奇襲は終わってる!別動隊も本隊と合流しているぞ。それよりも……」

「分かった分かった。貴様はそうやって調子に乗って講釈たれてろ。そんで一人で勝手に死んでろ、俺を巻き込むんじゃねえよ。まともな奴は俺についてこい!」

 

上忍は俺の言葉を聞かず、俺の班以外を連れて別動隊の方に向かって行った。

 

「坊ちゃんが調子乗りやがって」

「ほんと家柄だけの奴って嫌だよな」

「ここで俺らも手柄上げれば上忍になれるかもな」

「おう、そしたらあっという間に火影になってお前らをこき使ってやるさ」

「おうおう、勝手に言ってろ」

 

去り際にあの上忍の班にいた中忍が、口々に何かを言っているが、そんなことに腹を立てている場合ではなかった。

 

「ヨフネ君、どうする?」

「一班だけになったからな……よし、最初の観測地点まではみんなで行こう。移動しながら作戦案を伝える」

 

俺たちも行動を開始した。観測地点も確認しておきたかった。

 

「まずは俺が一人で最初の観測地点に残るから、ホヘトをリーダーにして他にも観測地点となりえる場所が無いか探して欲しい。あればトンボに結界法陣を張らせて下さい」

「分かりました、 隊長はどうするんです?」

「観測地点なんだから見通しは良いんだろ?何とか一人で狙撃してから合流する。俺も結界法陣は張れるしね」

「敵に遭遇したら殲滅で良いよな?」

「そうですね、敵の感知はツメさんと黒丸、トンボに任せます」

「なら、俺は観測地点の発見ですね。っと着きました」

 

そこは岩場で身を隠すことは出来ないが、手前の戦場と里内部までが見えた。ここならば狙撃可能だ。

 

「それじゃ、敵斥候部隊の殲滅、及び観測地点の確保をよろしく。無理はしなくて良いです。コン平の分身を一体預けるからすぐに呼んで下さい」

 

俺がそう言うとコン平の分身が、ホヘトの胸ポケットに潜り込んだため、不自然に膨らんでしまっていた。

 

「狭いところが好きだから、入れてやってくれ。では頼んだぞ」

「「「おう」」」

 

みんなが行くとすぐに俺も準備をする。一人での狙撃は初めてだがやるしかない。岩場に伏せて雷刀を両手に持ち腕を突き出し、念力で望遠鏡を目の位置に固定する。距離は直線距離で2km、弾を考えるとこれが最大射程だ。まずは一発撃ってみる。

 

しかし、狙いよりもだいぶ手前へずれた位置に着弾する。おかげで敵からの攻撃と警戒され、こちらの方角からも身を隠していた。

 

だが、隠れている位置が分かればそれごと撃ち抜けば良い。弾丸に風のチャクラを纏わせ、敵の遠距離部隊を狙う。巻物奪還から少し時間がたってチャクラが回復したとはいえ、あの時に六発ほど撃っているから、これからの戦闘で近距離戦のみ行うとしても後三発が限界だ。

 

先程のズレを考慮して照準を合わせ、一発、二発、三発と弾が音を置き去りにして飛んでいく。一発で確実に当てて倒せるほどの技量は無いため、全て撃ち尽くした。

 

望遠鏡で確認すると、さすがに遠距離部隊を壊滅させてはいないが、見えない攻撃に警戒して攻撃の手が緩んでいた。これで五時の位置の戦場はこちらが多少は有利となるだろう。

 

その後、起爆札を四枚取り出して今いる地点を囲むように四方に設置し、結界法陣を張った。結界法陣とは四方に貼られた起爆札のエリア内に敵が入り込むと起動する、時限トラップのことだ。

 

最後の起爆札を設置し、結界法陣を張る。その後で枝を利用し味方に分かるように枝を地面に刺してサインを作った。そこまでしてようやくコン平のナビの元、ホヘト達の元へと向かった。

 

「おかえりなさい、一人でやる狙撃はどうでした?」

 

ホヘトがニヤニヤしながら聞いてきた。そんなに失敗した話が聞きたいのか?どうせお前ほどのセンスはないですよ。

 

「思ったよりも難しいな。四発撃って何とか敵の遠距離部隊にダメージを与える事が出来た」

「えっ、そんなに撃ったんですか?ということは」

「そうだ。これから先は近接戦闘しか出来そうにない」

 

雷刀を持っているからといって無理をしすぎたかもしれない。ただ身体強化を使えばそれなりに戦えるし、身体強化が使えなくなっても俺には剣術もある。

 

「ならホヘトとヨフネのツートップだね。あたしと黒丸に中距離は任せな」

「はい、トンボは後方からの支援を頼む」

「分かったよ」

 

ツメさんが即座に提案してくれ陣形が固まった。あとは観測地点での様子を確認して作戦を詰めなくては。

 

「そちらはどうでした?」

「観測地点は三箇所、それぞれにトンボが罠を仕掛けた。敵との遭遇は無かったぞ」

「了解です。既に味方の別働隊が十時の位置から攻撃を始めたころです。こちらの方向に敵が流れてくる前に奇襲をかけます」

 

上手く味方も呼応すれば、左右から敵が退き中央部分は混乱するだろう。まあ、そう上手くいくとは思えないが。

 

 

 

作戦通り四時の位置の近くまで来てみると、上から見るのと違い予想以上に苦戦していた。相手が死に物狂いなのだ。狙撃の後からこちらが押しているのに、なかなか押し切れない。

 

「マズイな、早めに敵の隙を作らないと。トンボ、派手な土遁を敵にやってくれ。その後は外縁部にいる味方に包囲するよう伝えてくれ。あとどこかに塹壕を作ってくれていると助かる」

「分かった!いくよ、土遁・土石筍!」

 

トンボが印を結び地面に手をつくと、敵の足下から筍のような岩が無数に出現し、何人かを貫いた。それを合図に俺たちは飛び出す。

 

俺は距離をつめてトンボが作った岩を思い切り殴りつけ砕いた。それをこれまた思い切り蹴り飛ばす!

 

「ぐァっ!クソがァなめるなよ!」

 

耐えた敵の一人が俺に向かってくるが、ホヘトが敵のこめかみ目掛けて上から切り落とすかのように掌底で撃ち抜き、敵を地面に叩きつけた。

 

突っ込んで来る他の敵から逃げるように飛び退き、敵が突出してくるのを誘う。

 

「犬塚流・人獣混合変化・双頭狼!」

 

そうすると、ツメさんと黒丸が巨大な二つ首の狼へと変化した。突如現れた巨大な狼に敵が戸惑っている。

 

「驚くのはまだ早いよ、行くよ!獣人体術奥義・牙狼牙!」

 

そう言うと二人?二匹?いや一匹は体を高速回転させて敵に突進して行く。この術は本来、あまりに速い回転をするため、術者自身の視界が奪われるため相手にマーキングする必要があるのだが、これだけ敵が多いと位置なんて関係ない。また回転中は真空を生むため、避けた敵に直接触れないにも関わらず裂傷を負わせていた。

 

ひとしきり暴れたツメさん達が戻って来たタイミングで、一先ずは奇襲は成功かと思いきや、すぐに持ち直してこちらへの攻勢を強めてきた。数の上では圧倒的に不利なこちらは本隊との合流をしたいのだが、そのルートを断とうと攻撃が集中している。

 

トンボを早めに伝令に向かわせたのがせめてもの救いだ。援軍がやってくるまでは耐えるか敵の集中放火を掻い潜るしかない。

 

「囲まれるのだけは避けたいな。ヨフネ隊長どうするよ、留まるか集中放火を抜けるか」

「足を止めたら、こちらの良さはなくなる。突破しよう!」

「そうこなくちゃな!あたしらが本隊へのルートに牽制している連中に突っ込む!その間にあんたらは移動しな」

「だが、それでは!」

「安心しな、突っ込むだけじゃなくて、あんたらの匂い辿って牙狼牙で戻ってくるから」

「え゛っ、それって」

「ちゃんとあんたらは避けろよ。子供もいるんだ生きて帰るさ」

「分かった。頼む」

「よっしゃ!行くぞ、牙狼牙!」

 

巨大な双頭の狼が敵に突っ込むのに合わせて、トンボが作ってくれていた塹壕に向かって、ホヘトさんに続き俺も走り出す。

 

しかし敵もこちらの狙いが分かっているのだろう、ツメさん達の攻撃で討ち漏らした数人が水弾を放ってくる。攻撃は見えるがどうやら避けきれそうにはない。

 

水弾の幾つかが直撃し、体が軋む音をあげながら俺は地面に叩きつけられた。やっぱりあの距離は一番苦手だ。

 

「ヨフネ隊長、大丈夫ですか?!」

「やばいかも、左腕が折れたっぽい。それより早く塹壕まで!敵とツメさんが迫ってくるぞ!」

「では、ツメさんと敵を挟んで一直線になるように移動しましょう」

「そうだな、戻って来るツメさんに敵をやってもらうとするか」

 

折れた腕を庇いつつ、必死に走ってツメさんを誘導するが、俺のせいで敵の接近の方が早くて間に合いそうにはない。俺は丸薬を飲み、折れた左手を念力で動かして印を結ぶ。

 

「雷遁・電磁砲二連!」

 

全身ボロボロの俺からの反撃に敵とホヘトの驚く顔が見えたのを最後に俺は気を失った。

 

 

 

 

 

「……知らない顔だ」

「まだじっとしといてください」

 

天井がなかったが、とりあえず言ってみる。寝かされて医療忍者の女の子から手当を受けているということは、どうやら無事だったようだ。しかし、少し術使っただけでこれだ。

 

「戦況はどうなりました?仲間は?」

「貴方達が敵を引きつけてくれたおかげで敵を分断して、今は四時と十時の位置で戦闘が激しくなっています。お仲間さんは傷を負ってはいますが、全員あなたよりは無事です」

「そうか。あ、ところで俺ってどんな状態?」

「順番が違います。もうそっちが先でしょ。左腕の骨折と打撲、それにチャクラ切れ。寝てたらすぐに動くことは出来るようになるで……」

「ヨフネ君!」

 

医療忍者の話を遮り、凄い勢いでトンボが飛び込んできた。これが美人な女性なら嬉しいんだけどな。

 

「コン平が目が覚めたって教えてくれたんだよ」

「クォン!」

 

コン平が手に顔を擦りつけて来るので、頭を撫でてやる。

 

「そうか、トンボの呼んでくれた味方が間に合ったんだな」

「遅れてごめんね」

「お前のせいじゃないさ。あの腹立つ上忍が言ってた通り俺が調子に乗ってたのさ」

「それでもあの人たちがいたら!」

「……関係ないさ。いなくなったのに決行したのは俺だ。観測地点の防衛に専念すべきだった」

 

いや本当に調子乗ってたわ。超電磁砲もあんなポンポン撃って。中距離で手数の多い術や大規模な術に弱いとは分かっていたけど、ただの水弾にやられるとか。

 

「ところでヨフネ君は気付いた?敵の首に鎖が着いてたの」

「ああ、ほとんどの奴らが着けてたな」

「あれね、行動を縛る呪印が刻んであったみたい。たぶん死を恐れないようにする呪印みたいだって言ってた」

「それであんなに死に物狂いだったのか」

「どうやら反対側の敵もつけてるみたい」

「……だとすると、マズいかもしれない」

 

敵の両側の奴らが捨て駒扱いということは、敵本隊はまだ温存されてるってことだ。何か仕掛けるつもりだろう。

 

「早く呪印を解除して、情報を聞き出さないと」

「鎖は本人のチャクラを使って強化されてるみたいで、気絶する位にチャクラを使い切るか、死なないと解除も切ることは出来ないみたい」

 

全くタチが悪い。味方も本隊の不気味さには気付いてるはずだ。これしか打つ手はないのか?

 

「本隊も流石に気付いてるだろう?何か手があるのか?」

「よく分かんないけど、どんな攻撃でも防げるって自信があるみたい」

 

何か嫌なフラグ建てたかな?里内部で治療受けるより、ここにいた方が安全かもな。

 

未だに戦闘は続いているようで、絶え間なく金属音が聞こえてくる。ふと遠くの空を見ると竜巻でも起こったかのように、二箇所で海水が巻き上げられていた。それと同時に里の上空に暗雲が立ち込める。

 

「マズい、奴ら高域術式を使うつもりだ!全てはそのための陽動か、仲間を犠牲にして」

 

高域術式とは発動に八名ほど忍者を必要とする忍術のことだ。あらかじめ数年かけチャクラを封印した巨大な巻物が必要となるが、状況に合わせて忍術の選択が可能である。しかし射程距離が短く、発動にも時間がかかる上、発動術者は難しいチャクラコントロールが必要など制限もあるが、発動してしまえば並みの術では防げない。

 

さらに海面が盛り上がり、それが二匹の巨大な龍を形取る。龍は上空へと昇り里を目掛け落ち始めた。

 

すると、里から上空に向けて結界が張られた。なるほど、確かにかなり強力な結界なのだろうが、二匹の龍に対するにはあまりも小さい。

 

ーーーッザァァァアア

 

まるでスコールのように里に海水が降りかかる。あれでは中心部は水没してしまっただろう。しかも、それだけではなかった。里の上空に立ち込めていた暗雲から紫色の閃光が走ったのだ。

 

ーーードォゴォォン

 

自然発生の雷よりもはるかに太い雷が里へ落ちた。水龍はこの雷での被害を増やすためのものだろう。里のいたる所から煙が立ち上り始めた。

 

「……完全にやられた」

「……敵の攻勢が強まるだろうね。僕も前線に出るよ。ヨフネはここにいること!今は役立たずだからね」

 

トンボにしっかり釘を刺されてしまった。……悔しい。この状況で何もできないなんて。医療班は徐々に島の北東部の方向へと撤退していく。

 

 

 

 

 

里が壊滅した後、渦隠れの部隊に徹底的に攻撃を加え、捨て身の攻撃をされては敵わないと考えたのか、敵はすんなりと撤退していった。ここからは国同士の話となるだろう。

 

渦隠れの里は事実上消滅したのだから。

  


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