同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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009. 邂逅

  

渦潮隠れの里は壊滅状態となったが、それでも心が折れなかった渦潮隠れの忍による必死の攻勢により、霧隠れの忍たちを撤退させることに成功した。彼らは不利になったと理解した途端、例の呪印に囚われた忍たちを殿として利用し、あっさりと撤退して行った。

 

こちらの被害は言うまでもなく甚大で、特に防御結界を張るために里に残っていた、うずまき一族を始めとする忍たちはほぼ全滅してしまった。俺たちも生き残った木の葉の忍を集め被害状況の確認を急いでいた。

 

「そうか、監視班の生き残りは俺たちの班とお前だけか、サンタ」

「はい、僕たちが到着した頃には、ヨフネ隊長の仰っていた通り奇襲は成功し、さらには本隊とも合流していて、こちらが戦況を優位に進めているところでした」

「やっぱりそうなったか。でもどうして、その状況で君以外は死んだんだ?」

「戦況が膠着し始めた頃、自分たちでこの状況を打破すると言って、周りの制止も聞かずにみんなは飛び出したんです。僕も反対したんですが臆病者はそこで怯えてろと言われて……その後、敵に混戦に持ち込まれてしまいました。それから他の隊長たちは見ていません」

 

他の監視班の戦いは、生き残った忍から聞けば聞くほど酷いものだった。監視班は普段は戦場では手柄をあげにくい為か功を焦ったのだろう。同情は出来なくは無いが、それにしたって戦況に混乱をもたらしただけとは同じ木の葉として恥ずかしい。

 

結果、生き残ったのは反対した山中一族の下忍、山中サンタだけだったようだ。子供にも分かることをあの上忍は気付かず、多くの死傷者を出すきっかけとなってしまった。

 

「サンタ、お前が気にすることじゃないさ。いいか、立場が上になったからといって全員が視野が広くなるとは限らないんだ。逆に視野が狭くなる人間だっている。本来の目的を言い訳にしてね」

「……でもヨフネ隊長やカカシ先輩は僕と三つしか違わないのに立派に上忍をやっています」

「今はね。でも長くやっていると駄目になる人だっているんだ。木の葉の為に自分も強くなるというのと、自分が強くなれば木の葉が強くなるというのは、似ているようで違うんだ」

「それは……なんとなくわかります」

「そのことを覚えていれば、あの人たちのようにはならないさ」

 

 

 

とりあえずサンタは俺たちの班に組み込む事にして、次に渦隠れの里に駐留していた部隊の被害を確認した。こちらは負傷者はいるものの、どうやら全員無事だったようだ。

 

しかし、これらのことにより渦潮隠れの忍は木の葉に対して不信感を抱いたようだ。そもそも、その下地はあったのだ。初代火影はどうか知らないが、うずまき一族は人柱力が死ぬたびに一族から一人を木の葉に身売りすることで、同盟を維持してきた事実は変わらない。

 

そんな中、渦潮隠れの危機にも関わらず、彼らからしてみればたった二個中隊しか寄こさず、主戦力は被害無し。しかも被害が出た部隊は戦場を混乱させただけだ。しかも厄介なことに死体が見つかっていないのだ、これでは逃亡も疑われてしまう。馬鹿は死んで尚、迷惑をかけてくれていた。

 

おかげで居心地が悪いったらありゃしない。流石に霧隠れを手引きしたと思っている人は殆どいないだろうが、俺たちが積極的に助ける気がない、見捨てる気だと考えている人は多いみたいだ。

 

その為、この居心地の悪さから逃げるために俺たちは夜間の見張り役を買って出ることにした。俺も倒れてから一日以上経っており、チャクラはある程度回復している為、腕は折れているもののとりあえず動けるので、コン平と見張りをすることにした。

 

「まったく、碌に休めやしない。あそこにいるよかマシなんだけど……」

 

思わず、愚痴も出るってもんだ。今の俺は戦闘があんまり出来ないってのに、こんな事でもしないと何休んでんだって目で見る奴もいる。コン平頼みだけど外で寝といた方がまだマシな気がした。

 

「クゥォン!」

「コン平さん、まじっすか」

 

最悪だよ。何でこんな時に敵なんて見つけるかね。上手く隠れとけよ、全く。

 

「ん?敵は俺と変わらない子供一人か」

 

それならばどうにかなるかな?縛ったうえで尋問して最悪の場合、敵意剥き出しの相手なら殺せば良いか。

 

「なんだ、コン平?」

「キュー、コンクォン」

「そうか、鎖による呪印を付けられた女の子がいるのか……掴まっても碌なことにはならんよなあ」

 

忍って凄いよね。いつの間にかコン平の言いたい事が伝わるようになってる。人語話せないから他の人には伝わらないけど。

 

「ま、とりあえず行ってみるかね」

 

 

 

どうやら崖の下にある小さな洞窟の中で傷を癒しているらしい。トラップを張る余裕も無かったのだろう、コン平からは何も報告はない。

 

奥に進んで行くと同年代の茶髪の女の子が岩陰で気絶していた。まずは縄で縛って拘束する……ロリコンちゃうからな!

 

右眼に傷を負っているようで、雑に包帯が巻かれていた。取り外すと眼球には傷は無いが、右眼周辺に火傷をしていた。

 

「あとは右手と腹部か。結構酷いな、チャクラも弱まっている」

 

気絶していたので一旦縄を解き、服を脱がしてから、ロリコンじゃないと自分に言い聞かせながら再度縄を後手に縛った。呪印にチャクラを吸われ過ぎたせいで気絶しているようだ。止血だけして、とりあえず解呪することにした。

 

「コン平頼むぞ……狐式・五芒星解印!」

 

コン平を五角形の頂点に配置し印を結ぶ。すると少女を中心に地面に五芒星が描かれ始めた。これは自来也様から教えてもらった五行封印を基にしている。あれは片手の五指に五行のチャクラを込め、対象に打ち付ける形で封印の術式を刻み込む超高等忍術だ。

 

俺は雷と風に強い適性を持つが、その他は水に若干の適性が有るのみだった。その他は修行したところで習得出来そうにない。水に関してだって俺は水場でようやく1ℓを操れる程度だった。

 

そこで前世での陰陽師をイメージして五芒星の頂点に俺のチャクラを纏わせたコン平を配置することで、ただのチャクラでも発動が可能となるように改良したのだ。

 

封印に関しては五行封印程の拘束力はないが、その反面、五芒星解印では弱まった呪印程度なら解除できる等、汎用性が高くなった。

 

ーーーパキィッ!

 

「よし!鎖が壊れた!初めて実戦で使ったから不安だったんだけど……」

「……う、うぅん……ん?」

 

鎖が壊れると少女は目を覚ましたようだ。縄を解かなくて正解だな。

 

「良かった、目を覚ましたか」

「っち!誰ですっ……くっ!」

 

俺が声をかけると飛び退いたが、すぐに膝をついてしまった。

 

「はいはい、お約束の反応ありがとう。怪我してんだから無理すんな」

「お約束?」

「気にすんな。ってかそれより身体隠すとかしなくて良いのか?」

「なっ、ななな何をしたんです!変態!」

「ロリコンちゃうわ!子供相手に興奮するかボケ!手当てしただけだよ!」

 

そういうと俺から前を隠すように凄い勢いで後ろを向いた。念のため身体を確認していたようだったが、すぐに首元から鎖が無くなっていることに気付いた。

 

「……無い、鎖が無くなってる」

「ある意味ラッキーだったね。気絶する程度までチャクラ吸われてたから、壊すのは割りと簡単だったよ」

「貴方が?」

「まあね。まだ止血しかしてないから横になってよ」

 

そう言うとようやく素直になってくれたようだが、やはり恥ずかしいのだろうと思い、胸元を服で隠して横にさせた。

 

「貴方、木の葉の忍ですよね?なぜ敵の私に優しくしてくれるんですか?何が目的です」

「うーん、まずは鎖が解除出来るのか試したかったのが一つ。次に情報を少しでも喋ってくれないかという期待かな。あとは……まあ女の子をこのまま見殺しにするのは目覚めが悪いからってのが理由かな」

「そうですか。素直なんですね」

 

そう言いながら、はにかむ少女は可愛かった。

 

「ありがとう。そういえば君の名前は?あー下の名前だけでも良いから教えてよ。なんて呼べば良いか分からない」

「別に私が苗字を言ったところで、鬼灯一族みたいな名門ではないから困りませんよ。私は照美メイ。遅くなりましたが、助けて頂いてありがとうございます」

「え゛っ」

 

思わず変な声が出てしまった。俺って本当についてないよな。こいつって五代目の水影でしょ?って事は俺が手出ししなくても助かったんじゃ……捕虜として突き出すわけにもいかないから、逃亡の手助けするしかないじゃん。

 

「き、気にすんなよ。俺はうたたねヨフネだ、よろしくな。答えられる範囲で構わないから、良かったら質問に答えて」

「分かりました」

「まず、あの鎖だけど死の恐怖を強制的に失くさせた上で、命令を守らせるってことで間違いないよな?」

「そうです。三代目水影様に対して批判的な立場を取る者に対して、死を恐れぬただの駒として動くよう命令されていました」

 

効果は予想通りだ。それにしても三代目水影か……四代目やぐらに対してマダラが写輪眼で操っていたのは分かっていたが、三代目もやっぱり……

 

「なあ、三代目水影様ってそんなに反対の立場取る忍多かったの?」

「大戦の始まる数年程前から多くなったみたいです。育てた下忍候補を殺し合わせていた時点で反対する者が増えたらしいのですが、ある年の卒業試験で桃地再不斬という忍が同級生を皆殺しにしたのです。その時からかなり増加してます」

 

となると、再不斬もある意味マダラの犠牲者か。このタイミングでマダラが暗躍しているとなると、四代目が完璧な人柱力と呼ばれるのも写輪眼で三尾をコントロールしていたからかもしれないな。

 

「そうか、ならメイも卒業試験がきっかけで反対に?」

「はい、今回の襲撃に関しても渦の国は水の国からはあまりに遠く対したメリットもないのですが、里にいる者は女子供関係なく皆殺しと言われていました。理由も分かりません」

 

となると、やはり人柱力候補の撲滅が目的なのだろう。

 

「クーデターとかはまだ起きそうにないの?」

「水影は里で一番強い者がなる習わし、そうそう叛逆はできません」

 

それでも何年か後にこの子はやるんだよな。

 

「なら、君がやれば良い。何年先になるかは分からないけど、仲間を集めて力をつけるんだ」

「え?でも、私は今から……その、捕虜になるのでは?」

「俺が逃がしてあげるさ」

 

こうなれば、逃すしか俺に道はないからね!

 

「どうして私にそこまで優しく?」

 

貴方は水影になる人です。平和のためにも霧隠れの里に戻って下さいってか?そんな本当の事なんて言えるか!

 

「こ、こんな可愛い子を殺すなんて俺には無理だよ。戻ったからといって無事とは分からないけど」

「か、可愛い?!私が?!」

 

メイは顔を真っ赤にして、あたふたし始めた。あまり耐性がないのか?今は煽てとくに限るな。

 

「そうだよ!どうせなら霧隠れに革命も起こしてほしいな。そうすれば平和になって、また君と会えるかも!」

 

何故か頭が爆発するような音が聞こえた気がする。あーこれ、ひょっとするとやってしまったのかな?煽てすぎたかも。なんとなく気まずい雰囲気になりつつあったので、治療に専念する。

 

「はい、これで応急処置は終了。右眼の辺りの火傷の跡は多分残らないと思うよ。より詳しい治療は専門の人から受けてね」

「ありがとうございました。でもヨフネさんは医療忍者ではないのですか?」

「俺はどちらかというと感知タイプの忍だよ、多分」

 

そういえば改めて、自分の事を考えるとどのタイプに分類されるのか分からなかった。感知が出来て、電磁砲による遠距離、身体強化を利用した接近戦、応急処置程度の医療忍術……器用貧乏になりそうな気がしてきた。

 

「どうしたのです?!いきなり項垂れてしまって」

「いや、ちょっと現実的な未来を想像してしまって。それより脱出方法なんだけど、何か海を渡れる方法とか有る?」

「鯨の口寄せ獣と契約しています。まだ呼び出せるのは小さいですが、きっと里までは運んでくれると思います」

「わかった。なら警戒区域の図を描くからそれを避けるように脱出して。あと三時間で交代の時間だからそのタイミングでね」

「いろいろとありがとうございます」

「感謝は脱出できてからで良いよ。俺はそろそろ戻らないとマズいから行くよ」

 

そう言って立ち上がり、洞窟の出口へと向かおうとすると、背後から声をかけられた。

 

「例え失敗しても感謝の気持ちは変わりません。また貴方に会えるように私も頑張ります。頑張りますから貴方も死なないで下さいね」

 

俺はヒラヒラと後ろに手振って出て行った。

 

 

 

持ち場に戻り、交代要員が来たところで沖の方から鯨の潮噴きが見えた。どうか無事に生き残って、霧隠れの里を平和にしてくれよ。

 

「ヨフネ君、木の葉は集まれって駐留部隊の人から連絡があったよ」

 

俺が打算ありありの心でメイを見送っていると、トンボが呼びに来た。おそらく里からの交代要員とすぐにでも入れ替われるよう、俺たちも撤退の準備に取り掛かるのだろう。この状況下で退くことにより、不信感は決定的な物になるかもしれないが、それが里の決定なら従う他ない。

 

 

 

こうして俺たちの渦の国での任務は終わった。

  

 





久しぶりに実家に帰り、車を走らせること約十分、NARUTOの一楽のモデル店“一楽”に二年ぶりくらいに行ってみました。
するとなんということでしょう、四月に閉店してしまったというではありませんか。2014年最後のショックな出来事でした。

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