パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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気象が変動激しすぎて気圧差で死にかけてます。
皆さんもご自愛を。






報告37:氷雪

 

「これにて閉幕となります」

 

 ものの数分で、襲ってきた全身スーツの人たちは雪の中に倒れることになりました。命までは奪ってないようですが、完全に気絶しています。

 ブルックさんの剣術は、その目で見切れないほど鮮やか。お見事です。

 

「ふーむ、色々と厄介な香りがしますねぇ」

 

 クルーはバラバラ、謎の豪雪地帯に襲ってくる勢力。

 かなりピンチな場面だと思うのですが、ブルックさんは落ち着いています。寧ろ、どこか楽しんでいる節さえありました。

 私としては、魚人島と同じくぼんやりSCPの気配を感じますし、ジョーシーも心配なので、あまりうきうきとはできないところです。

 

 メイは、私にくっつきながらも、多少怯えているみたいです。ブルックさんや男たちにというよりは、状況に、でしょうか。

 安心させるよう首元を撫でれば、控えめにすり寄られます。おおよしよし。怖くないですよ。

 

 とはいえ、このままずっと船で待っているのも如何なものか……、男たちを船外に出すブルックさんを眺めていると、プルルルと電子音のようなベル音が雪の中に降りました。

 伝電虫の待機音ですね。どうやらブルックさんが通信をかけたみたいです。

 

『もしもーし!? こちらウソップ!!』

「ああウソップさん、聞いてくださいよー! 私、気づいたらカイロスさんと一緒にサニー号に二人っきりになっていて!! 皆さんどこかへ行ってしまったんです!!」

『は、ハァー!?!?』

 

 ウソップさんの顔を真似た伝電虫が、驚愕の表情に変わります。いつ見ても、不思議な虫です。それを一般的な連絡手段として用いているこの土地の皆さんも、不思議です。

 財団がアノマリーとして登録しても、おかしくない現象がたっぷり詰まっています。研究者の方々は苦労していることでしょう。

 

 情報共有を行い、合流の判断をだしましたが、無事にできるでしょうか。私の意地として死なせませんが、やはり行方不明の皆さんへの不安も募ります。

 ジョーシーは、無事でしょうか……。

 

「ウォン」

「――?」

 

 私に大人しく撫でられていたメイが、首元を大きく動かした感触がして、そちらを見ればいつの間にか、メイの口にアルミ缶が咥えられていました。現代日本では馴染みのある、コンビニや自販機で売っているそれです。

 差し出された缶を手に取ると、手のひらにじんわりとした温かさが広がります。あったか〜い、コーンスープの缶でした。

 私の震えた手を感じたのでしょう、優しいメイからの手助けでした。

 

「――」

 

 私は、言葉にも文字にもすること無く、彼をもう一度撫でると、缶のプルタブを開けてゆっくりと中のスープを一口いただきます。

 チープですが、それ故の安心感のある、コーンの甘味が口の中に広がっていく。コーンの粒ではなくクルトンが入っているタイプのもので、スープを吸ったパン生地がじゅわっと香ばしい味わいをプラスしてくれています。

 ほっと一息、登ってきた不安ごと飲み込めた気がします。

 

「おや、やはり寒かったですか」

[いえ、メイから少し、“安心”を貰っていました]

「ヨホホホ、心細さはなかなか追い出しにくいものです。合流するまで、私のことも存分に頼ってくださいね。腕……もとい、骨が鳴りますなんてヨーホホホ!!!」

 

 陽気に笑うブルックさんも、メイのスープもとてもありがたいです。ジョーシーは私とはずっと一緒でしたし、囮となってくれた分、不安が大きいのでしょう。

 メンタルカウンセリングはどうしても専門外です。自分のそれも、コントロールが難しい。

 こんな時こそ、仲間を頼るべきなのでしょうね。

 

 飲み終わった缶は、メイが回収してくれました。

 どうやら私を一時的な同伴者として認識したのか、ジョーシーの隙間を少しでも埋めてくれるためか、私にひっついて離れません。

 オオカミとしてはさほど大きくないサイズですが、私の身長だと、メイはなかなかにボリュームを感じます。もう少し私が小さければ背に乗って走れそうなくらいは。

 私の周りをクルクルと寄り添うメイも、ここでは頼もしい仲間となるでしょう。

 

「とはいえ、ここで待つばかりというのも暇ですねぇ。少し降りて、雪だるまでも作りましょう!」

 

 そう言って、ブルックさんが陽気にタラップを降りていくのに続きます。雪を踏む音が、ギュムッともフカッとも聞こえました。

 深雪は、歩き方にコツがあると聞いたことがありますが、詳しく覚えてません。相当に積もった雪は、踏むだけで鳴る楽器のようです。

 調子に乗ってフカフカと足踏みしていたら、雪に足を取られて転びかけました。

 メイがとっさに支えてくれなかったら、雪まみれになってましたね。

 雪の中に飛び込んで、跡をつけるのも楽しそうですが、自然をあまり舐めるのもよくありません。特に、ここはおそらく敵地ですから。

 ほどほどに行きましょう。

 

「お上手ですねぇ」

 

 ぎゅっぎゅっと雪を手のひらで握って、なんとなく、クマさんの形に整えてみます。

 雪といえばスノーマンかうさぎがメインでしょうが、私はクマ派なので。

 私の手のひらで作れる雪玉は大きくありませんから、ちんまりとした雪クマが、サニー号近くの沿岸に鎮座します。

 お裁縫のためには、器用な手は欠かせません。

 隣に、ネコと、オオカミの雪玉も作っておきましょう。ガイコツは……事件性がありますね。

 

 一緒にしゃがんで雪を楽しんでいたブルックさんでしたが、私がどうにかアフロのドクロを作ろうと雪を捏ね回していると、ふと立ち上がりました。

 そして、すぐさま背後から剣戟の音が聞こえてきます。高い金属音は、打ち合いの激しさを聴覚にありありと伝えてきました。

 

「っ――!?」

「と、突然なんですかアナタ!? 私たち、ただ雪だるまを作ってただけですよ!?」

 

 ブルックさんの困惑声に、マスクの男たちでは無いと判断し振り向くと、なんだかSCP記事の合成写真として掲載されていそうな珍妙な光景がありました。

 

 上半身のみの首無し侍が、アフロのガイコツと剣で戦っています。

 

 わぉ、これが財団の言う“異常”じゃないなら、なんなんでしょうね、これ。

 ブルックさん相手に、片腕で立って打ち合う姿は、オバケとも言い難い「何か」。

 服装と、使ってる剣が刀なので、おそらく侍や東方の剣士と存じますが、SCPの気配は無く、正体全く不明。

 

 敵意はあるみたいですが、何に怒っているのか、こちらをどう認識しているかもわからない……なんでしょうか? アレ。

 新世界の不思議として、片付けていいものでしょうか?

 メイも、困惑しながら戦いを見守っています。

 

 戦闘に関しては、本当に専門外ですから――と、ブルックさんが怪我をした時のために構えていると、雪の影の中からまた何かが飛び出してきました。

 

「ええっ!? こんな所にカワウソが!?」

「――!! ――!!」

「そしてなんでその方に攻撃をって、コチラにも!? あー! なんですかなんでですか!?」

 

 極寒の吹雪の中、飛び出してきたのは半透明のカワウソでした。

 半透明ですが、若干の黒色を帯びた氷のカワウソ。それが正しい形容でしょう。そのカワウソは、侍に飛びかかったと思うと、ブルックさんにも襲い掛かりました。

 ですが、その行動は攻撃的ながらも小動物の攻撃反応として、ブルックさんの剣に容易く受け流されています。侍の方は、若干、引っ掻き傷に痛そうにしていますが。

 

 侍はやはりわからないですが、こちらはわかります。

 SCP-317-FRこと、“液体カワウソ”です。

 お水でできたカワウソさんで、凍ると攻撃的になります。逆に、液体や気体の状態になると、温和になります。

 水分として生物に摂取されると、何かしらの方法……嘔吐などで外に出てきます。

 まぁやはり、お水でできたカワウソというのが、一番簡潔でわかりやすいですね。

 

 こちらは私の管轄なので、通信機にサインを送った後、SCP-317-FRだけでも回収しようと、少しブルックさん達に近寄ります。

 ブルックさんは、侍とカワウソの二重攻撃になかなか焦っている様子。そもそも、何故敵対しているのかわからないですしね。

 

「カイロスさん!? 危ないですよ!」

 

 侍から離れ、ブルックさんを狙ったタイミングでカワウソを捕獲。そのまま抱きかかえて離れます。

 カワウソは暴れますが、私を引っ掻いても出るのは綿なので、残念ながら効きません。

 宥めるように撫でつつ、なにか温かいものを、とメイに頼もうとすると、どう察したのか、既にぬるま湯が溜められた小さい洗面器が用意されていました。

 

「――! ――! ……――」

「ワォン」

 

 ぬるま湯に浸し、お湯をかけてあげると、じんわりと固体が液体へ変化していき、カワウソの攻撃性も大人しくなってきました。

 流石に完全解凍は無理でしたが、あやすようにチャプチャプお湯を揺らしたり、撫でたりしていると、ほんの少し警戒を解いてくれたようです。

 

 ある程度慣れた、懐いた相手の場合、攻撃性の減少が確認されていますから、私やメイを認識してくれると助かります。

 ちゃ〜ぷちゃ〜ぷ。

 私は敵じゃありませんよ〜。害しませんよ〜。

 溶けかけの氷と言える状態になって、ようやくカワウソは辺りに腕を伸ばすのをやめました。

 

 ケロケロとカエルの声が聞こえてきそうな洗面器に、ゆったりくつろいで浸っています。

 一先ず、液体カワウソの確保は完了しましたが……。

 

「カイロスさーん! ちょ、と、一旦逃げましょう!! ヤダーコワイもー!!」

 

 侍のほうは、いつの間にか刀を二本に増やして襲いかかるばかり。

 流石のブルックさんも、不気味なのか退却を選んだ様子です。まぁ、アフロのガイコツと頭と下半身が無い侍、どっちが怖いかと聞かれると……ね。

 洗面器とバスケットを持って、メイにも問題がない事を確認して一緒に走ります。

 洗面器の水面が波打ちますが、液体カワウソは本体の水と他の水を分けて考えられるようなので、余程じゃなければ欠損は起こりません。

 転ばないよう、安定して走れるよう、積雪時の走り方をちゃんと覚えておけばよかったですね……!

 

「も〜ヤになっちゃう! ヤになっちゃいますよ!! なんですかあの体キモいヤダー!!」

「――、――」

「あ、両手塞がってるのでメモ書けないんですね。ではその分私が叫びます。もぉ〜〜ヤダーー!!!」

 

 べ、別に私はキモいとかは、思ってないですけどね……??








◇液体カワウソ、ゲットだぜ!
コンポタの缶の底に残ったクルトンがなかなか食べられず苦戦した。いつも正解の飲み方がわからない。
本質が安全だからか、同じSCPだからか、動物系SCPには懐かれやすい。ただ「人間にも懐く」もの限定。クソトカゲとかは無理です。
ブルックとカイロスではコンパスが違いすぎるので、たぶん逃げてる途中で抱えられます。
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