剣鬼が弟子に人生をそのまま奪われるお話   作:@abc

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令嬢の記憶 2

喉元に残る、あの乾いた枝の感触。そこから蘇る、死の予感。

 

それが、彼女にとっての「福音」だった。これこそが、私の求めた存在。家柄に跪く腰抜けでもなく、知略に怯える凡夫でもない。知略も、魔力も、理屈もすべて力ずくで粉砕する「絶対的な力の象徴」。これこそが、私の生涯をかけて飼い慣らすべき、唯一無二の「神」なのだと。

 

だが、その狂信にも似た確信は、二年という長い月日の中で、一人の男によって執拗に汚され続けた。

 

「――はいはい、そこまでだ。お前、また全力出したな。壊した盾は後で弁償だから覚悟しとけよ」

 

緊張感の欠片もない、薄っぺらな凡夫の声。

あの冴えない教師だ。彼は、令嬢が「神」と崇める少年の首元を後ろからひょいと掴み、掃除のサボりを叱るようにその頭を乱暴に撫でる。

 

令嬢は校舎のバルコニーから、その光景を見るたびに肺の奥が焼けるような嫌悪感を抱いた。

彼女にとって、それは神への冒涜だった。少年は血に濡れた刃として、孤独な頂で殺戮を司るべき存在なのに、あの教師は彼を「ただの生徒」として扱い、血肉の通った「人間」の側に繋ぎ止めようとする。安っぽくてくだらない物を渡し、下らない世間話で彼の鋭利な魂を鈍らせようとする。

 

(彼は『力』そのものなのよ。あんな男に安らぎを与えられていい存在じゃない……!)

 

二年生の間、彼女は彼からその人間性という不純物を抜き取るための工作を重ねた。孤立させるための風説、友情を壊すための罠。しかし、時間は残酷なまでに彼女の目論見を裏切った。周囲の友人たちの厚い信頼と、あの教師の助言が、彼女の策略をことごとく無力化し、彼を日向へと引き戻してしまったのだ。

 

令嬢が影から彼を見つめるたび、そこには彼女が望む「無慈悲な力」としてではなく、不器用ながらも周囲と調和しようとする「一人の少年」の姿があった。それは彼女にとって、耐え難い堕落に他ならなかった。

 

そして今、三年生の春。最悪の「不純物」がもう一つ、桜吹雪と共に現れた。

 

「――みっ、つけたぁぁぁ!! 師匠――ッ!!」

 

静寂を切り裂いて現れたのは、編入生の少女だった。

彼女は周囲の視線など一顧だにせず、一目散に「彼」へと飛びついた。

 

「ああ、やっと見つけましたよ師匠!3日ぶりですね。 まだ稽古をつけてほしくて、追いかけてきちゃいました! 私、やっぱり師匠がいないとダメなんです!」

 

無邪気な「愛弟子」を完璧に演じる少女――いや、そう“演じている”だけの少女。

周囲は微笑ましい再会だと目を細め、あの教師までもが「賑やかになっていいな」と油断をしている。だが、窓越しに見下ろす令嬢の瞳だけは、その少女の「擬態」を即座に見抜いていた。

 

裾を掴む指の、わずかな強さ。師を見上げる瞳の奥に、一瞬だけ周りの相手を品定めするような冷たい光。

 

(……あの子、狙っているわね。私とは違う意味でしょうけれど、けれど同じくらい深く、彼に囚われているのかしら)

 

令嬢が彼を「支配すべき絶対的な力」として渇望しているのに対し、その少女は彼を「自分を地獄から救い出した唯一の救世主」として仰いでいる。それは敬愛ではなく、運命という名の鎖で彼を自分だけに縛り付けようとする、寄生にも似た執着。

 

令嬢の胸の内に、ドス黒い炎が燃え上がる。

神を「人間」に繋ぎ止めようとする愚かな教師。

神を「救世主」として私物化しようとする、弟子の皮を被った同族。

そして、彼を「不器用な友人」として消費する、救いようのない友人共。

 

「私の神を、これ以上『人間』の泥にまみれさせることも、あんな女の玩具にされることも許さない。……誰一人として、彼を安らかに眠らせることなんて、私が許さないわ」

 

手の中で粉々に砕けた扇子の残骸を地面に捨てる。もはや、公爵家という名ばかりの権力も、洗練された魔導という力でもまだ彼を手にするのには足りない。

彼女に必要なのは、家柄も道徳も友情も持たない、ただ自分と同じように彼に狂い、圧倒的な力を跪かせたいと願う、本物の“暴力”。

 

「……そろそろ、私にも使える個人的な『手足』が必要ね」

 

令嬢は静かに、けれど確固たる足取りで歩き出した。

令嬢の瞳には、かつての高慢な美しさはなく、ただ一人の男を奈落へと引きずり戻すための、冷徹な殺意と熱狂だけが宿っていた。

 

「待っていなさい、私だけのあなた。貴方の周りのすべてを焼き払い、もう一度、あの夏のような無慈悲な姿に戻してあげるから」




令嬢ちゃん (学生時代)
剣鬼くんの力に魅せられた人
でも、彼が皆んなに囲まれているのは解釈違いなんだ
特に先生が嫌いで、蛇蝎の如く嫌っている
でもその力の化身である剣鬼くんを、私の前に跪かせたいなと思っている

弟子ちゃん (学生時代)
人の前では擬態をしている
しかし、令嬢ちゃんには何故か見抜かれている模様
この時期はまだ、師匠と一緒に暮らせたらいいなと思っていた

剣鬼くん (学生時代)
先生や同級生に絆されてかなり丸くなっている
具体的には喧嘩をふっかけられても話し合いで解決をしようとするぐらい
多分ここら辺が剣鬼くんの人生で一番楽しかったであろう時間
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