増税クソイケメン   作:覆面生徒

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デスゲーム

 学内にあるカフェにて珍しく姿を見たクラスの男子の中に、怪我をしたらしく学校を2日休んだ池の姿もあった。

 登校してきた池は転倒した際に強打したらしい腹を庇うような仕草を何度かしており、いつもより元気がないらしく、山内や須藤が茶でも奢って励まそうって流れであったらしい。

 いつもの奴の様子ってのをよく思い出せないが、大人しくしているならどうでもいい。

 

「庵治征十郎。話がある」

 

 もうカフェにいる時点でその存在感が大き過ぎて気付いてはいたが、お互い声を掛け合うことを普段からしない。

 あっちも上級生の女子と待ち合わせ中で、お互い一人だとしても意外な行動だ。

 

 前髪をかき上げる仕草は高円寺の癖のようなもの。それはわかっている。

 でもうちは毛根が脆弱なの。自然体であろうことはわかるが、俺の前でこれみよがしにやってるように見えるから、それ止めな? 

 

「おん? どしたん? お前から話し掛けてくるなんて──女にはもう飽きたか? なら俺に来るのはわからんでもねえけど……ハグくらいならしてやろうじゃないかワッハッハ」

「君は相変わらずの物言いだねえ」

 

 この広げた手はどうすんだ。ハグせーへんのか。

 

「んで何? 俺この後ヨガあんだけど。あ、下ネタじゃねえからな? ガチのヨガな」

「ハッハッハ」

「何笑てんねん」

「さて、庵治征十郎、プライベートポイントを幾ら保有している?」

「あ? これまた下品なこと聞いてくんだな──ギリ3桁ってとこだよ。それがどしたよ?」

 

 3桁とはいえすぐに支出予定にあり、Dクラスの女子複数名を一気に開封予定だったりする。

 

「ひとつ、アドバイスをしてやろうかと思ってね」

「アドバイスねえ……」

「君も言っていただろう。施しを受け取らない者が嫌いだと。私も同意見だ。受け取りたまえ」

 

 財布の中身を前フリで聞いてくるってことは……そっち関係の話だろうから、アレか? 

 卒業時に保有するポイントを学校側が換金してくれるってやつに介入にして、個人間取引に持っていく手段のことを言いたい? 

 いや、そんなのお互い3年の上級生と絡みがあるから知ってて当たり前だけど、アドバイスってよりはこいつは確認しに来たのか? 俺がその手の手段に打って出るかどうかを。

 

「もしかして俺が例の換金手段を使うんじゃねえかって思った?」

「ほう……入学当初にポイントを借り受けようとした君ならば、当然知るところになるか」

「そりゃな……んで高円寺はその手段は取るなよって言いたいわけ?」

「手を出すにしても小遣い稼ぎ程度に留めておくべきだろう。何故ならその方法のみでAクラスへ移籍を果たした生徒は皆無だからねえ──それに仮に上手く事が運んだとして、君にはそのような平凡な手段を選んでほしくはないのもある」

 

 なるほど? 過去に2000万ポイントを個人で集めた生徒が存在しないっていう眉唾の通説があるけども……。

 でもこの方法に限ればわりと信憑性があるのか? 学外の権勢をなるべく利用させないっていう学校側の方針があれば、換金ポイントへの過度な介入は一定のラインを超えるとお咎めがある場合があるとかか? 

 だからこそ3年になるまでは換金について説明がなされないわけだろうし、うーむ。

 

「へえ……そこまでは調べられてなかったわ。あんがと、高円寺きゅん」

「……構わないとも。では失礼する。励みたまえよ、庵治征十郎」

「ういーっす。この貸しはいずれ」

「ハッハッハ、この程度で貸しとはならないさ。安心したまえ」

 

 男前なやっちゃな。好き。

 

 

 

 ■

 

 

 

「明後日、三宅の誕生日だぞ」

「そうだね。どんな風に祝おうか?」

 

 クラスメイトの中でも三宅は親しくしている奴だし、奮発するし気も遣う予定。

 

「ん? あの野郎、長谷部に祝ってもらう感じだったりしね? よー話しとるし」

「ああ、そうかもしれないね。でも二人は付き合っていたりはしないようだけど、どうなんだろうね」

 

 俺が三宅と話してると長谷部は混ざって来ないし、俺も三宅が長谷部と話していたら邪魔をしないようにしているので俺と長谷部はほぼ絡みがなかったりする。

 

「付き合ってる感じはしねえけど、きっかけ次第で付き合う感じだろ。どっちも単独行動が多いからそのきっかけが少ねえだけどでな」

「そっか。うん、庵治くんは恋愛経験が豊富そうだもんね」

「フンッ! まーな!」

 

 絡みがなくとも見えてくる部分というのもある。俺は恋愛強者だからして。

 知識の源泉のほとんどがレディコミと女性陣の家族がするどろどろとした雑談からだけども。

 

「つっても外野があれこれ予想したって的外れなこともあっけどな」

 

 恋愛強者とはいえ恋愛シミュレーションゲームで上手く選択肢を選べない俺だったりもする。

 なので過剰な自信は危険。

 

「そうなの? でも僕は、その……誰とも付き合ったことがないから、こういう話になると庵治くんが頼りになるよ」

「は? おま……え? 結構告白されてね? ああ、そっち? 許嫁がもういるとか、そういう?」

「い、許嫁はいないよ。それに僕はたぶん女子を好きになったことがないんだよ」

 

 平田、くん? 

 

「マジ? それはちょっと……ある意味羨ましいなオイ! 誰も好きにならないでいいなら、自分だけを愛し続けられるってことだろ? は? ちょっとどころじゃなくね? お前のその性癖を俺に寄越せ!」

 

 平田にその特性は勿体ない。活かしきれていない。俺ならもっと上手く扱える。

 

「わっ! ちょっと庵治くん! つ、掴まないでくれ!」

「平田ァ! この手ぇ離さへんでえ! しっかり掴んどるからなあ! 殺すでえ!」

「や、やめてくれ庵治くん……プハハハハ、脇腹を掴まないでくれっ!」

 

 ほうほう、もっと分厚くなれとの指示をちゃんと聞いているようで、腹回りの筋肉が入学当初よりも増加している。

 

「……ふう。まあ、平田も自己愛を拗らせてるってんなら俺の同志だ。許してやろう。同志平田」

「ハァハァ……ありがとう。同志庵治」

 

 最近は平田もこうしてこちらのノリに戸惑わずにさらっと合わせてくれるようになった。

 

「で、どうすっかー、三宅の誕生日。もうあいつに明後日の予定聞いて──あ、平田って長谷部の番号知ってる?」

「うん、知ってるよ」

「じゃあ長谷部に三宅のこと祝うのか聞いて、祝わないってんなら俺らで肉でも食わせに飯屋行くって感じで、長谷部が祝うってんなら俺らは何か日持ちする系の消え物渡す感じでよくね」

 

 基本野郎の恋路はどうでもいいけど、三宅きゅんは幸薄そうだから心配。

 

「そうだね。でも消え物となると、何が良いだろう」

「洗剤とか石鹸の詰め合わせとか?」

「洗剤? 僕は食べ物を想像していたけど、洗剤や石鹸を誕生日に贈って喜んでもらえるのかな?」

「実家住みじゃ微妙でも一人暮らしみたいな状況の今なら嬉しくね? 部活やってるあいつなら使用量も多いだろうし、あいつの使ってる洗剤やら石鹸の銘柄なんて簡単にわかるだろ。買い置きがあんなら、他のちょいお高い消耗品を贈ればいいんじゃね」

 

 一人暮らしの切り詰めている学生はドラマでよく見るから俺は詳しい。

 奴らは妙に身嗜みが整っているし、食費よりも洗剤をはじめとするあっち系の支出が高いはず。

 三宅も例に漏れず清潔さを保っているし、あっち系のはず。

 

「なるほど……そう聞くとそれでいい気が……いや、もう洗剤や石鹸以外あり得ない気がしてくる」

「真面目かっ。つーか長谷部次第だろ。メッセージでもいいから早いこと聞いとけよ」

「うん、早速聞いておくよ」

 

 ──翌日。

 残念ながら三宅は長谷部から祝ってもらう予定がなかったようで、結局野郎三人で肉──評判と値段がそこそこ以上の焼肉屋へと足を運ぶことになった。

 当然三宅の分は奢りで好きなだけ食べろと言ってあるし、当日の昼食時はあまり共にしない俺と平田で三宅を誘い、山菜定食を鬼のように勧めて奴の食に対するモチベーションを上げておいた。

 

「う、うめえ……肉ってこんなに美味かったんだな……」

「焼肉ってビール呑みたくなるのなんなんだろうな」

 

 ビールってビジュアルがずるいと思う。ものすごく美味そう。

 

「そ、そう? 僕はどちらかというとお米が進むよ」

「ふーん……てか三宅って長谷部とは全然進展ねえの?」

「……そんな関係でもねーし」

「んなこと言って、あいつが他の野郎と付き合いだしたら『俺には弓道があるんだ』とか言ってシリアスモード入るのが三宅じゃろ」

 

 この未来予想はかなり確度だと思う。

 あと人参を網の中央に置くな、平田。

 そのカルビはもう焼けてるからはよ食え。

 

「んなことねーよ。つーかお前らはどうなんだよ」

「俺ら? 俺らは頭と心が壊れてっから誰かを好きになるとかできねえよ。たぶん」

「は?」

 

 網の上の肉をひっくり返そうとした三宅がぽかーとしているが、手を止めるな。

 

「庵治くん。らって……それは僕も含まれてるの?」

「え? 違うっけ? お前って誰かを好きになったことないんじゃないっけ?」

「そうだけど、まあ……そうだね」

「俺にしても好きな女はできても、自分以上に好きになれるかっつーと微妙だし……この中じゃ三宅が一番まともに甘酸っぱい恋ができそうだから期待してんの」

 

 三宅は甘酸っぱい主人公を張れるポテンシャルを持ってると思うし。

 

「んだよそれ」

「あ、揶揄ったりするためじゃねえからな? お前ってなんつーか、諦め良さそうだからさあ……ヤキモキする展開になる前からケツ叩いてやんねえとって思えんだよ」

 

 そう、諦めることに耐性があるというか閾値が低そうというか、そういう感じが甘酸っぱい度が高いわけだけど、それはそれで弱点というか「もうっ! バカっ! なに格好つけてんのよっ!」度も相応に高くなるわけで。

 

「やっぱ意味わかんねーよ」

「僕は庵治くんが言いたいこと、少しわかる気がするよ」

「な! 平田、な! お前には銀の征十郎くん人形をやろう、な!」

 

 平田は生徒会での事務仕事を頑張っているようだし、ここは奮発してやろう。

 

「銀? 銀もあるんだね。ありがとう庵治くん」

「……金じゃねーのか」

「金もあるの?」

「三宅? 金なんてないよな?」

「……ああ、ないな」

 

 もうっ! バカっ! 

 

 

 

 ■

 

 

 

 そういえば三宅の誕生日からしばらくして7月20日は、Bクラスの一之瀬の誕生日だった。

 奴の過去を知っているので身に付けるようなものは避け──生徒会役員同士の繋がりを強化すべく事前にメガネに用途を伝えて生徒会室を借り受けた上で一之瀬を呼び出し、真っ暗な生徒会室に戸惑っていた一之瀬を驚かせる形で、有名どころのバースデーソングメドレーを熱唱してやった。

 手作りのケーキはおまけであるのに、あの女はそちらの方に喜んでいた感が強かったしケーキ作りの助手でしかなかった平田への感謝の弁の方が多かった気もしなくもないが──謎に号泣していたし、俺の歌声に感激していたに違いない。

 平田も一緒になって謎に泣いていたわけだから俺の歌効果であるはず。

 

 

 

 ■

 

 

 

 7月の半ば過ぎからゆるーい感じで時が流れ、1学期の始業式をそのまま迎え、そのままゆるーい感じで夏休みの間を豪華客船でのバカンスを楽しむべく我々は針路を南に向けて出港した。

 若干の船酔いに苦しんでいる三宅は船室で休んでいるので、平田だけを伴う形で船上にて大海原をぽけーっと眺めていたところ声が掛かった。

 

「少しいいからしら?」

「堀北さんに、綾小路くん? どうしたんだい?」

「庵治くん、あなたに少し話が──」

「おい邪魔だ! どけよ不良品どもっ」

 

 俺や平田ならばまあ、許そう。

 でも急に怒声を上げて突き飛ばした相手というものが悪過ぎる。

 カットインしてきた集団の先頭に立つ──このAクラスの男子は、えっとモブ過ぎて名前がすぐ出てこない。

 顔と名前をばっちり記憶するのが得意だってのに、感情の起伏に左右され過ぎだろ、俺。

 

「おおっ!? モブのクソ陰キャがイキり散らして何してん? うぜえからどっか行けや」

「ッ! あ、庵治か……Dの分際で」

 

 声小っさ! このモブの縮こまる速度が段違い過ぎて征十郎、困惑。

 

「こちとらDの分際でも生徒会役員様だぞ? おん?」

 

 でもやらかした相手が悪過ぎる。征十郎、憤慨。

 

「チッ。相手にしてられるか。オイ行くぞ」

 

 あの野郎、これで済まさねえからな。

 

「ほと──綾小路、でえじょうぶ?」

「ああ。問題ない」

 

 本当だろうか? 征十郎、心配。

 

「一応医務室行くか? ご本尊──んほん! どっか打ってっかもだし」

「ご本尊? 庵治くん?」

「いや、これくらいなら平気だ。咄嗟に手すりを掴めたしな」

「その御心に感謝します」

 

 やっぱりこちらの想いを隠さずに合掌しとこ。心が広すぎて(ふち)が見えやしねえし。

 一切の揺らぎの無い目を見ればわかってしまえる──仏小路様は真に御仏で在らせられる。

 

「……オレは人間のつもりなんだが」

「ええ、随分と俗物的なね。御仏とは正反対よ」

「ハハハ、いつにも増して手厳しいなオマエは」

 

 明らかな擬態。でもその御姿で在られるというのなら、こちらが合わせるべき。

 

「──んで堀北は俺になんか用?」

「あなたはこのバカンスをどう見ているのかしら?」

「2年と3年の女子と引き離されたロミオの気分かしら」

 

 手すりをバルコニーに見立て、悲観に暮れる姿を大袈裟に表現しつつ答える。

 平田、今です今です。撮れ撮れ──よし、撮ったな。

 視線だけでこちらの考えを理解する域に達した平田は日々成長していて素晴らしい。

 

「くだらない冗談を聞きに来たわけじゃないわ。あなたの考えを教えてちょうだい」

「かの有名な戯曲をご存知でない? 回りくどい言い方にはなっちまうけど、それが答えなんだけどな。堀北にはわかんなかった?」

「……それがあなたの答えというのなら、考えてみるわ」

「うん」

 

 早く言いなさい。その考えを顔に出し、伝える。

 

「……ありがとう」

「あいよ。あと綾小路を俺の前で下げんじゃねえ。普通に遺憾」

「綾小路くんとあなたは──」

「遺憾。この庵治征十郎がとても遺憾に思ってる。ティボルトになりたくないなら止めろ」

 

 堀北は嫌いじゃないけど、この言動だけは許せない。

 俺の目の届かない場所にまで手を伸ばすつもりはないけど。

 

「そ、そうね、善処するわ……これで失礼するわね」

「ういー、ばいばーい!」

「ば、ばいばい」

「……オレも言うのか?」

 

 言わないで。恐れ多い。

 

「綾小路は言わんでもいいよ。またな」

「あ、ああ。またな」

 

 ふう。柄にもなく緊張しちゃったよ。手汗までかいたのって野球してた時以来かも。

 

「あの堀北さんを言い負かすとは……やっぱり庵治くんはすごいね」

「言い負かしてたか? 親戚の小せえのと話してる感覚なんだけど」

「うーん……そう言われてしまうと、しっくりと来るような気も?」

「堀北は周りに甘えてんだよ。女であるとか優等生であるとか、面が多少マシってのがあっから許されてきただけで。あれが男でバカでブサイクだったらどうよって話で、あいつはあいつで計算してあのムーブしてんだよ」

 

 とはいえ、それこそがあいつの『らしさ』であり、可愛い部分でもあると思う。

 男でギリ優等生で顔が大変に良くて無礼な立ち振る舞いを続ける身近な存在のせいではない。

 それに綾小路への対応云々は冗談だし。半分はな。

 そもそも表立って下げ過ぎるのは仲の良い相手同士であっても見ていて気分が良いものじゃないし。ああいうイチャコラは裏ですりゃあいい。

 

「……辛辣、だね」

「わりかし真理だろ」

「それで……ロミオの気分というのはどういうことなの?」

 

 言えない。適当ぶっこいてただなんて今更言えない。

 

「たまには平田も自分なりに考えてみ。お前ももう生徒会役員様だろ」

「うん。そう、だね。僕も……少し考えてみるよ」

 

 ふう。とはいえ上級生との会話や生徒会にある閲覧可能な資料から見るに、このバカンスの間に特別試験とやらが行われるのはほぼ確実と見ていいだろう。

 そして、その内容もおおよそ予想はついている。

 あのメガネが出発前に「バカンスを存分に楽しんで来い」とわざわざメッセージを寄越したほどだし──構造がかなり特殊なこの豪華客船。この逃げ場のない限られた空間を活かして、疑似的なデスゲームが開催されるはず。

 

 まずは櫛田を殺して、その面を拝んでやろう。

 

 

 




無人島試験編に入る前の分を投稿し忘れていました。
今度こそ書き溜めるので更新が止まります。
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