これは1人の少年が廻った『物語』。

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第1話

■■の出身《世界》では『産めよ増やせよ』が人でも該当する。

それが人々の常識である《世界》。

産まれつき人類は男性であり女性である両の器を持ち産まれることも多い。

■■が生まれ育った『量産再生世界』は一度増えすぎ滅びかけ、

また再生し産み増やし…そうやって再度反映したのだ。

 

その《世界》の1人であったから当たり前だと思っていた自称『少年』は

幼い頃から本が好きでたまに見かける空想上のロマンティックな物語に思いを馳せていた。

だからであろうか、自分の世界の常識に少しばかりの疑問符を抱きながらも

《世界》を生きて成長し、やがてVS能力が発覚しバースセイバーとなり部隊に収集され。

様々な《世界》を渡り仲間と交流していった少年は自分の中で。

『俺の《世界》は少しだけおかしいのではないか?』と疑問を確信にしてしまう。

 

彼は若年の作家のたまごであったから当時それを信頼していた編集に話していたところを

《売れたいジャーナリスト》が作家のたまごの家に片っ端から設置した盗聴器で拾い上げ。

結果見事に餌にされた。

一夜明ければ学校も家も連絡が止まらずメディアでは実名で■■の名前が報道される。

『高校生の作家はこの国の在り方を狂っているといい全人類を敵に回した』と誇張表現を忘れずに。

真面目な顔して生き生きと話すコメンテーター。さぞ数字がいいんだろうな。

 

 

あれから一週間、なおも勢いは止まらず。

少年は部屋から動けぬまま家族に守られ虚と化していた。

『なんでこうなっちまったかな』

自分が《世界》を知った事で、自分の余計なひとことで。自分のせいで。

育ててくれた両親が、罪のない学校が、関係ない友達が、自分を見込んでくれた編集さんが。

多大な迷惑を被ってしまっている。

盗聴器を設置した《元凶》の懐には膨大なカネが入って笑いが止まらないとの噂も耳にした。

当然自分の部屋の前にだって未だに抑えきれなかった奴等が集る。

自分を守ろうとする両親の声を無視してドアを絶えずノックする。

もう無理だろ。この世を去るか。

少年の意識は朦朧と。取材がてらアウトドアに使うはずだったロープに手を伸ばす。

 

少年は部屋の中朦朧としていた頃部屋の前でこのような事が起きていた。

どのみちでけえ音には変わりなく同じ騒音にしか聞こえなかったようだが。

 

「なんだこいつ、突然割って入って来やがって!」「コスプレ?新手の記者スタイルかしら」

「ほっとけ、それよりガキのネタゲットが先ガハッ」「おい何もしてないのに手を出すのは犯z」

「ちょっと私女性よ手を出す気…ぐえっ!」「撤収だ!コイツ話聞かねえ!警察を呼ぶぞ!」

 

去っていく人の群れ。戸惑う両親の声。

それらを見る聞くこともせず少年の部屋のドアの前で立つは

時代錯誤としか言いようのない姿の大男1人。

 

「何もしていない…か」

 

「どの口がほざく」

その顔は普段少年に見せることはほとんどないであろう顔。

憤怒。

 

「うへっ」

その直後。

部屋からもわもわと…見た事のある雲…いや『妄想の種』。

そこからボテっと落ちてきたのは…見知った顔の『バースセイバー』。

地雷ファッションに身を包んだツインテールはすぐさま部屋で騒ぎ出す。

 

「アアアアアアアア■■■■なにイヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 セーフセーフ!!!!!没収没収!!!!!ダメだからね~~~~!」

「は」「なんでお前ここにいんの」

「■■■■おバカ~!その表情!持ち物!!ここは病み女だからその先分かるんだからね!!

 目の前でそんなことしたらここ■■■■を蘇生する!アンデッド化した■■■■と戦う~!!」

 

手に持ったもんをぐいぐい引っ張られればうわ…とドン引きして

自然と手放すし朦朧とした意識が勝手に現実に引き戻される。

本当こいつ…ありがとうな…。

 

「いやお前がバカ。《法則》歪めるから『現地のトラブルには干渉しない』って規則なかったっけ?

 …そういう気は失せた。ありがと。でもどうしたらいいかわかんねえ。

 俺がこの《世界》の在り方に疑問を抱いた事で俺の大事な人たちが巻き込まれた」

 

「そこに関しては今後のこの《世界》の者たちに託すしかないな。

 おれ達はあくまで異世界の《災厄》問題を解決する存在だ」

 

ドア越しに聞き慣れた声だ。迷わずドアを開けて大男を招き入れる。

大男は後ろを確認し人はやってこないと判断し中に。

大男が入ればすぐに再度部屋の鍵を閉めて大きく息を吐く少年の姿。

目の前に甘えられる2人がいれば当たり前のように■■は感情が爆発した。

 

「…どうしたらいいんだよ!巻き込んだ親父とおふくろと友達と学校と編集さんと…

 俺のせいでいろんな人犠牲になってんだぞ!?見捨てろってか!?」

 

「今は落ち着けという方が無理かもしれない。

 だがおれ達はあくまでダーザインから下った指令を全うすることしかできない、そこは理解してくれ。

 

 ひとまず場所を変えるとしようか。《運び屋》氏、すまないが最寄りの《穴》まで頼む」

 

《運び屋》と呼ばれれば窓の外にド派手なサイバーネオンのデコトラが浮かぶ。

最もVS能力持ち以外にはそのイカした車体は伺えないのだが。

 

「了解、ナビのセッティングもオーケーだよ。

 《穴》の前まではこいつで送るからそこから先は徒歩でダーザインに帰ろうか、

 本部直通の《門》は確か近いルートがあったはず、案内するとしよう」

 

運転席からは中年男性が見える。

「ごめんね全員荷物扱いってことで」と3人を窓から荷台に乗せてデコトラは走り出す。

 

ダーザイン本部の祭高戦隊部室から少し離れたヤマトの外れの祭高戦隊シェアハウスに移動。

デコトラからデカめのレンタカーに乗り換えた運転役の男性とはここで別れ

今は誰も居ないこのシェアハウスの一個室を『使用中』にして話を続ける。

 

「まず■■のいた《世界》に関してだがおれ達は干渉することは難しい、

 事情はあとで説明がある。

 周囲の人間全員に記憶処理を行い

 あの世界の「■■ ■■」という存在を消去することになる。

 肉親や身近な人間の記憶がなければいくら嗅ぎまわっても何も出まい、やがて自然に収まろう。

 おれ達が出来るとしたらこのくらいであろうからな。

 

 …お前の疑問符も確かにそこに意見としてあるのかもしれない。

 だがそれで《世界》として成り立っているのならそれが《世界》だ。

 …今回はお前の種火に油を撒き薪をくべ関係ない者が群がったようだがな…。

 記憶処理を行えば居場所もなくなるであろうから…その、なんだ。

 つまるところ帰還困難者と言うわけだ」

 

苦い顔をした。本来ならならなくていいものをなってしまったわけだから当然というものだ。

 

「帰ったところでどっちにしろ居場所ねえし帰還困難者でいいよ別に。

 親にも友達に編集さんにも…合わせる顔もうねえ…。

 

 そうなりゃ俺もこのシェアハウス借りる感じか。

 共同生活自体は問題ねえ。

 …しかし今までのあらゆる人間関係から俺が消えるのはキツイな。自業自得か。

 

 てかあの場になんで春一桜と心愛と…あと知らんおっさんがいた感じ?

 もし《災厄》案件じゃないならいる必要が別段ないわけだし」

 

少年は疑問符を投げれば春一桜はこんどは穏やかな笑みで返すだろ。

 

「…■■が来月誕生日だと聞いたからな。

 せっかくなら祝いの品をと心愛共々こっそりと計画をしていたんだ。

 あの《世界》でのバースセイバーは現在お前ひとりであり通じる《穴》も不安定、

 監視を兼ねてという言い分を通して現地でどういうものがあるのか、

 下見をしてしようとな。もちろん監視の仕事も忘れずに。

 

 運がいいのか悪いのかあの《世界》の現実を見てしまってな。

 そこで祀り上げられたお前も。

 バースセイバーは組織であり仕事だ、情で動くべきではないことは承知の上。

 それでもおれは気が付いたら知り合ったばかりのバースセイバーをヘルプで呼んだ。

 このままではお前自身が危ないと本能で悟った、これは心愛もだ」

 

つまりは■■のためを思って向かった■■の《世界》で。

■■の現実を目の当たりにして■■の命を救って今共にここにいることになる。

 

春一桜の話を聞き終えて。

ためいきひとつ、クッション握りしめて。

先程まで落ち着いていたのにまた震えだしちまうんだ。

 

「運、よかった。めっちゃよかった。少なくとも俺は。

 あのままアイツ等が部屋のドアずっと叩いてたままだったら俺は迷わず死んでた。

 生きてたってきっとどこにも居場所なかった。きっとあいつらのいい道化にされてた。

 ありがとう。始末書なら何枚だって書くから。何べんだって頭も下げるし。

 俺思ったより死ぬのって嫌だったのかも。

 まだ積んでる本沢山あるし書いてない話だって…」

 

震える背を優しく撫でる。

かつての村の兄弟を思い出すかのように。

 

「…きっとお前は置いてきた周りのことも心配で仕方ないだろう。

 それでも自分が生き延びたことを最優先に考えろ。

 生きる事を誉と思うお前は正しいのだから。

 

 これからはおれ達と共に再度人生を歩むことになるであろう、

 今は気持ちが追いつかずとも構わん。少しずつな。

 部隊への報告はまとめておれが入れておこう」

 

報告の類は慣れているので任せてくれ、

そう緩く笑いながら撫でていた背を軽く叩くか。

 

背を押された気がして。

クッションに伏せてた顔をばっと起こして思い立つ。

 

「再度人生を歩むね」

「んじゃまずは■■止めるか」「改名しよ」

 

それはその場にいた春一桜と

ちょうど戻ったお菓子や飲み物、数日分の生活用の諸々をお買い物していた心愛。

2人を「「?」」とさせるには十分な台詞であり、

「春一桜、ペンとメモどこ」と聞いて言われるままに渡す春一桜は

かなりレアな戸惑う姿の春一桜であったとか。

 

「■■■■こうなると切り替え早いもんねえ…」

 

ちょっとぽかんとはしたけれど心愛も切り替えはまあまあ早いし

それどころかちゃっかり便乗していいように思いつくしなんなら悪知恵が働く。

そういうのは任せて♥と言わんばかりに妄想フルスロットル。

 

「ぢゃあ見た目も思い切って変えちゃおうよお!

 新たな自分になるなら外見を変えるのも大事っていうかあ~♥

 大元のベースは変えないほうがらしいかもだけどお、そ~だなあ…

 髪は色も髪型もガッツリ変えると大分違うよねえ!だから思い切るのおススメ!

 普段はオールバックにしてたし次は髪を下ろしデフォもいいと思う~!

 服は■■■■の高校生らしさは現状維持したいからあ、

 ダーザインに居る時は学生服っぽい服を普段着にしたらいいんじゃないかなあ?

 ■■■■の《世界》ってネオンギラギラ派手めな服がデフォなんだよねえ~、

 それもカワイイけど■■■■ネイビーとかの落ち着いた系やっぱ似合う印象~

 せっかくヤマト滞在するなら色々試そうねえ♥ここが全額奢っちゃう♥

 もち靴も色々合わせたいなあ~学生服ならローファーにスニーカーにぃ…

 色だけでもバリエーション色々あるからおためしもありでえ~、

 今までがローファーだったから次スニーカー?別の革靴でも良さげ…へへ…へへ…」

 

「この女止めてくれ怖い」

やべえスイッチ入れちまったよ…とばかりにヘルプを求める。

最もそれを発動したのは■■なんだが。

 

「と…とりあえず心愛が買ってきてくれた飲み物でも入れるとしようかな…ははは…」

 

なんかいろいろと茶葉や粉のカフェ飲み物とか買ってきてくれたので1つチョイス。

お手軽にお湯だけで作れるインスタント飲料のチャイ。温まり香り甘いいい感じのやつ。

■■は覚えていないかもしれないが彼は以前これを「うま」なんてお気に召していたから。

 

「おれは雑兵、そして既に死している。

 発展している世界と今を生きる者に関してはさほど詳しくはないが

 生きる者たちの背を押す事はできる。

 今後どれだけ現世に留まっていられるかすらも分からぬが

 主…月代立夏が隊長である限り

 おれは『祭高戦隊』の地縛霊にして防人として在ろうと思う。

 それが雑兵霊:春一桜として在るべき姿だからな。

 

 それとは別としておれは■■と心愛の友人だ。

 同じ時期に正式に部隊員となり共に戦う事も多く共に行動したり仲良く過ごす時間も多い。

 おれはその在り方から単独行動も多いからな…

 長く付き合える友という居場所があるだけで嬉しいんだ。

 死してから再度友人に恵まれるのも面白い縁ではある。

 だからこそこの縁を大事にしたい」

 

チャイを入れられついでに春一桜に

「落ち着かねば■■の半径〇Mから近寄らせぬように処するぞ」

そのように本気のトーンで言われたためさすがに落ち着かざるを得なくなった地雷腐女子。

春ピってえ…真面目さんだからやる時は本気でやる漢なんだよねえ…

 

「このチャイ本当安いのに美味しいんだあ~おすすめ♥今度ブランド教えるねえ~♥

 …なんていうか…■■■■がこんな目に遭うなんてここ想像してなかったなあ…。

 いろいろな《世界》があるからいろいろなことがあって当然なんだけどお、

 こんなに身近な人のところで起こるだななんてねえ。

 

 いや、っていうかまぢで許せないんですけど!?何あいつら!?

 テラスフィア年齢的には■■■■って子供なんだよ?

 いい大人が子供1人の部屋に寄って集って騒ぎながらドア叩いて!サイテー!

 春ピが追いかえしてくれてスッキリしたもん、始末書はここも手伝うよお!」

 

普段は妄想だの弱音だのばかりの心愛が珍しく本気で怒りの色を見せる。

それ位目の前の彼に起こったことに対することが許せないのだろう。

 

「落ち着いて。彼等に関してはあの《世界》の住人には間違いないわ」

 

ふと現れた眼鏡の女性。

怒りをあらわにする心愛に至って冷静に釘を刺す。

 

「本人にはいい薬になったんじゃないかしらね。

 軽率に自分の《世界》のことに疑問符を持つことは《世界》を否定すること。

 特にあの世界は一度滅びかけたからか統率がしっかり取れて《法則》も強い、

 反逆者には過敏になっているし君はまだ《世界》の保護下の学生という立場。

 

 …『量産再生世界』の件は発生後《災厄》案件と確認、認定されてます。

 こちらの件は現在主に諜報課、情報工作課に対応中よ。

 詳細は終わってから話しましょう。

 今は巡り廻って生き抜いた君のメンタル確保が優先」

 

「………」

 

突如現れた女性に至って普通に。

いやあれ?って態度で少年は普通に声をかける。

 

「なんでしれっとここにいるんですか編集サン。

 ひょっとせずともバースセイバーでいらっしゃります?」

 

「それに関しては僕から説明いたしましょうか」

 

そう顔を出すのは『祭高戦隊』の最古参。

 

「隊長殿が長期離席中で僕が今は部隊とさせていただきます。

 今回の件は僕「纏」ともう1人の頭脳班「音峰」、

 そして祭高実働班リーダー格「踊名」の3人で担当をいたします。

 

 編集の八神さんは同じ情報部、史料編纂室のバースセイバーだそうで。

 最も君が同じバースセイバーだと知ったのは編集に着いた後からだとか、

 そこはご本人から聞いた方が信頼できるんじゃないかな」

 

「記憶処理及び機関困難者申請に関しては問題なく通るでしょう。

 これからはこのシェアハウスの仲間ですね、よろしく。

 

 あとはそちらの編集さんが何故か僕より早く言ったとおりです。

 暴動があれば僕等ではなく実務隊、規模によっては対応部。

 今回僕等は広報課ではなく『祭高戦隊』部隊として動く」

 

「…報道は正しく使えば正しく機能するよ。

 本来の役割は僕達に利を運ぶ。それは分かってくれると嬉しいな。

 

 今回のケースは《災厄》案件、つまりはそういう事だ」

 

「とりあえずはこれだけ伝わればいいかな。

 僕はすぐに戻る、君達はのんびりしていてください。

 甘粕さん、春一桜さん。■■くんを頼みましたよ。

 今の彼には君達が必要だ。支える仲間は何よりも心強く力になる」

 

最後にそう告げて。

「では失礼します」というが早くバイクのヘルメット片手、

メガネの副隊長は足早に去っていった。

 

「…というわけでご紹介に預かりまして。

 もう真面目モード解除でいい■■たん?

 ぼくは美女バースセイバー件彼の編集の「八神」だよ、よろしくね。

 やっぱこの顔だと凛としたデキル女した方が安心されそうで、

 特にさっきのメガネくんとか今のぼく見たらメガネ割れそう」

 

キャッキャ!あっぼくもチャイもらえる―?

すっかりリラックスムードの編集さん。

チャイは春一桜が入れました。

 

「あーこれぼく好きー!多分シリーズ化してるやつだ~。

 ぼくもここでお仕事探そうかな、編集楽しいし」

 

なんか手馴れていそうなのは気のせいだろうか。

とにもかくにも敵意は全くなさそう。

 

『報道は正しく使えば正しく機能する、本来の役割は僕達に利を運ぶ』

 

纏副隊長の言葉を脳内で反芻する。

アレは『本来の役割を果たしていなかった』に過ぎないんか。

言われてみれば日常の天気やニュースってよく使うし信頼するし、

そうか。冷静になれば少しは気は軽くはなるかもな。

 

そんでたまたま俺が配属された先って広報課で。

ラインはズレる気はするけど俺は『利を運ぶ』側になりてえ。

そうぼんやり思っていると編集さんが思ったより早く本性を現している。

完全にこの2人は『大丈夫』だと思ってるなこの人。

 

「………完全に編集さんにナメられてるぞ2人とも………。

 この人がこの態度出すってことは出していい相手だって判断したからだ。

 纏さんがいる時は完全に猫被っていたのが証拠だし。

 すまん、編集さんの相手してて。俺は新たな名付けに忙しい」

 

悪い人じゃねーんだけどさ、なんて言いながら

全てを2人にぶん投げて自分は黙々と改名作業に戻る。

なんとなーく閃きそうではあるかな。

 

一方で心愛はナメられるのなんか日常茶飯事だし

なんなら買ってきたチャイを褒められてめちゃくちゃ上機嫌である。

ギャップ美人さんとか推し確なんですけど!

 

「あっこれの良さわかってくれる人ですかぁ?嬉しい~♥

 今お店とか通販サイト教えますよお、カノニカルのお店ですしい!

 ここテラスフィアの人間だからカノニカルの物は別で調べてるんですよねえ~

 若干違いはあるんですけどお、ここ的にはどっちも大好き♥

 

 あ、もう知ってるかと思いますけどおここはここって言いますう!

 本名は「甘粕 心愛」なんですけどお、こっちなら「心愛」がいいな♥

 「甘粕」ってえ…「カス」が混じっててえ…呼ばれるとヘラるしい…。

 あ、やばヘラってきた…昔思い出してきた…エエーン…。

 ■■■■撫でちゃお…あれ今改名中だから■■■■二号かな?」

 

勝手になでなでしてもう慣れていてシカトされてる最中に

ふとなにか思いついたようで撫でを解除してスマホで調べて。

 

「ねえ■■■■、新しいお名前に「2」って付けない?

 うーんとせっかくならかっこいい漢字にしよっかな…

 あ、これこれ!『弐』!これ入れよ!

 「再び」とか「変わる」って意味があるんだってえ♥」

 

一方でマイナスな理由も書いてあるけどその辺は無視無視!

都合のいい意味しか教えず■■の目の前にスマホをでんと差しだし!

とりあえずアピールしておく。

 

ペンを回してチャイも飲み干して「おかわり」なんて注文つけて。

 

「アリだな、『弐』入れっか」

 

あっさりと了承する。

更に言えばそこからなんぞ閃いた模様でとりあえず『弐』はメモ。

過去の案は全てくしゃくしゃにしてゴミ箱に入れた。

チャイを入れて戻ってきたもう1人の同期に笑いかける。

 

「春一桜も一文字案出してくれ。

 俺の新しい名前は俺から一文字、心愛から一文字、春一桜から一文字。

 三人で決める名前だ。誰にも突っ撥ねさせねえ」

 

これヤバいな、完全に筆が乗ってる時の感覚だ。

この状況で不謹慎かな。まあこの2人なら許してくれそうじゃね?

俺がこういうやつだって知ってるだろ。

 

大男の口角は緩く上がる。

彼の瞳は瞳孔が同化しているかのように全てが闇のようで暗い。

だが今その瞳に確かに光が宿り輝いたように見える。

時折物語を読みふけっている時もそうだから今が彼の「アガって」いる時か。

ならば友として応えなければな、と首を縦に振り思案しよう。

 

統一性がある方がいいのだろうかと思ったが

生憎そこまで気を回す文字の引き出しは自分にはない。

素直に思いついた一文字を捧げよう。

 

メモを手に取り書いたのは『迅』の文字。

 

「おれは主に多少なり文字の読み書きを教わっているんだが

 その中で気に入っている文字の一つでこれがいいのではないかと思ってな。

 ハヤブサを模した漢字らしい、「迅速に」とよく使われるな。

 今後は何事にも迅速に駆け抜けられる男であれと願う。

 今までだっておれはお前にも頼っていたんだ、少し事情が変わるにすぎん」

 

いつもの豪快な笑みに比べれば穏やかに。

雑兵は再び笑う。心配をするなと言うかのように。

 

「『迅』な。ありがと春一桜」

 

さっと書き加える。貰った漢字は『弍』と『迅』か。さて。

考えながら、この文字を貰った2人に改めて伝えなきゃな。

言葉にしなきゃ伝わらない事だってあるから。口を開いた。

 

「頼ってんのは俺も同じだ、春一桜、心愛。

 春一桜はとにかくでんと強いしよ、心愛はサポート面マジ安心するし。

 たまたま同期で入ったのもあってあのおっさん…隊長に言われて

 三人で一緒に行動する機会が多かったぶん

 俺はこの部隊で2人のことを一番信頼してっから。今更?

 

 部隊の近い年齢の人達は頼れるけどさ…最前線でちょっと恐れ多くて。

 元々そこまでコミュ力高い方でもねーし?

 だから2人にはすごく助けられてるし隣にいると安心する。

 可愛がられてるとでも言うのかな、俺は年上の友達の感覚だけど」

 

今この時だから素直に言える。

2人へ抱いてる感情と感謝の気持ち。

もし単独で部隊に入ってたら今この場にいたのかななんて思ったけど

それは口にしないことにした。

 

「2人が居てくれて本当によかった、ありがとな」

 

メンヘラは涙腺が弱い。自論であり個人差があります。

周りの空気や迷惑など知ったこっちゃないこの女は

珍しくドストレートな感謝を述べられてエンエンウルウルきてしまう。

 

「それは■■■■も同じだからねえええええええっ!!!!

 ■■■■の語る幻影に何度助けられたことかってカンジだしい!

 ここも2人が居なかったらどうなってたかわかんないかもお…。

 仕事できてるどころか今部隊外にもお友達ができてるのヤバ…良き…

 任務は怖いままでもリア充出来てるから全然いい、有難すぎる…♥

 

 春ピの『迅』って文字かっこいいねえ~!

 なんか成り立ちと言い説明と言い春ピらしいチョイスって感じだしぃ、

 込めてる思いもすっごい素敵~♥男らしさもあって良き♥」

 

褒めつつ涙腺はなんとか止まった。

鼻は出たのでチーンとかんだ。自由な女。

 

3人での縁を大事にしているのはおれだけではなかったか。

もちろん察してはいたし2人の信頼はしっかり感じてはいたものの

改めて口にされるとさしもの雑兵も照れが出るというものだ。

 

「出会いこそは偶然の同期でそれまではバラバラだったのにな。

 今では主とご家族、同じくらいに落ち着く2人だ。

 

 以前『最近よく2人で行動しているな!すっかりコンビだガハハ』と

 言った時の2人がそれはもう大変だったからな…。

 ■■は「何勝手に自分をハブにして寂しいアピしてんだバカ」と怒り

 心愛は「春ピ見捨てないでここ春ピもいないとだめなのおおお」と

 その…すごい号泣した顔でおれに引っ付かれて

 2人を宥めるまで時間がかかってなんてこともあった。

 

 実感をしてしまった。おれもまた2人にとって大事な者なのだと」

 

ただの使われ雑兵が死後にこのように幸せでいいのだろうか。

この先がより幸せであるよう、目の前の彼に問いかけようか。

 

「…最後の一文字は決まったか?」

 

シェアハウスに設置されてるタブレットをお借りして

既に決まった『弍』『迅』を見合わせながら漢字検索を繰り返す。

 

「こういうのって廻り合わせで」

 

なんてぼやいていると「あ」って思いついたかのように

タブレットをシャカシャカ動かしてメモをシャカシャカと書き出して。

ペンは止まる。

 

「えーっと今は…12月14日か。

 

 『廻弍 迅』。読みは『かいじ じん』。

 廻り廻って弐度目の人生を迅速に駆け抜ける。

 

 今日が『廻弍 迅』の誕生日。

 以後俺は『廻弍 迅』。よろしく」

 

「帰還困難者の改名手段くらいダーザインにはあるだろ。

 隊長いないんだっけ、副隊長にあとで申請しとこ」

 

驚くほどあっさりと■■を喪って新たな名を名乗る。

 

別段前の名自体は嫌っている訳でもなかったが

あの名のままでは出身《世界》を引き摺るままだから。

これからはこの名を名乗る、と同時に。

 

「…俺まだ外出しちゃまずいかな。買いたいものあんだけど」

 

外出をご所望だ。やること終えたら今度はアクティブ。

 

一部始終をチャイを飲みながら見守っていた。

元々VS能力者と知らず児童作家としての才能を買って編集業をしていたが

彼の筆が最近更に活き活きとして表現もより豊かになったのは

きっとこういうことなんだろうなとそっと笑みを浮かべて。

 

「…改めてよろしく。ぼくは元々君の腕を買って出会ったからね。

 カノニカルでの作家名は改めて考えよっか、こっちでも作家業しよう!

 広報課なら脚本業も出来るだろうから食い扶持増えるよ、やったね!

 

 それとまだ外出はおすすめしないかなー、一種の病み上がりだもん。

 ここちゃんだっけ?ぼくとショッピングいかない?

 買い物ついでにカノニカルのいいお店教えてよ~!」

 

キャッキャ!寄り道して道草食いまくる気満々だ!

予想通りに八神編集は心愛を連れて長らく帰ってこなかったそうな。

その間男衆はお片付けして溜まった疲れで爆睡してたとか。

 

翌朝。

用意された自分の部屋から出てきた『廻弍迅』は昨日と様変わり。

昨日までの制服は念のためにダーザイン側で処分して制服っぽい新しい服。

髪は色も髪型も何もかも変えてぱっと見誰か分からないレベル。

万一出身《世界》からなにやらあってもやり過ごせるようにとの意図もある。

 

大分イメチェンしたよなーとは自分でも思うけど

ダーザインでやる事は変わらんし俺自身の性格は変わらんし能力も変わらんし。

 

ただここまでガッツリ変わるの悪くねえなーとは思う。

渡辺や美咲さんが見たら多分めっちゃ驚くんじゃね?

あーまた渡辺と美咲さん、俺と心愛のよくつるんでる4人でどっか行きたい。

春一桜も都合あえば連れてきたいんだよな、今度誘うか。

 

そんなことを考えながら既に待機済みの名を分け与えてくれた2人と

レンタカーで本部まで乗せていくと待機している編集さんが待機している。

あれだけあって翌日に仕事かマジか…確か広報課のイベント受付だっけ。

休んでるより動いてた方がマシって言ったの俺だけど俺向きの仕事じゃねえ。

 

「ぶっちゃけ怠」と呟けば「おれ達は仕事を選べる立場ではなかろう」と

春一桜からド正論が飛ぶ。それはそうなんだが怠いもんは怠い。

 

「大丈夫だよお♥受付に来る人はみんな他人でおいもだと思えば楽なんだよ♥」

心愛からはアドバイスを受け取った。いやそうなんだがなんかその例え。

 

「本当興味ないことはどうでもよさそうだな君は!

 どうせ朝ごはんもエナドリで済ませる気でしょ着いたら食わせるから乗りな!」

さすがよく知ってる。朝って食わなくてよくねって思いながら後部座席に。

 

「…あの一週間ちょい何だったんだろうなって思えるくらいなんですけど。

 他の《世界》じゃずっと色々あって…俺んとこはまだマシな方だったんかな」

 

「《世界》で起こった《災厄》を比較するのはよくないな。

 それは物差しで測るようなものではない、任務が下れば等しく解決すべき案件だ」

 

「…そっか」

 

後部座席の廻弍と春一桜の会話をふと耳にして八神は口を開く。

そう言えば伝え忘れたことがあったねと言いだしを始め。

 

「《最前線世界》みたいな測り方はあるけどね~。

 さすがにその辺りは十星が関わるレベルだから…

 

 あーあと君の出身《世界》に関してだけどね~。

 今回の件は《災厄》案件ではあるけれど発現したてで《世界》のごく一部、

 人員不足のダーザインは大事になるとね~早めに対処をってカンジだった模様。

 つまり《世界》は大分今まで通り、あの騒ぎって実はそこまでだった。

 さっき春一桜くんが比較するなと言ったばかりだけど結果は報告しとこう。

 

 君の《世界》は今回で狂うくらいおかしくはなってないという事~。

 あの《世界》にはあの《世界》の《法則》と《可能性》があってそれが当たり前で

 君はたまたまそこに疑問符を持ってしまった、それだけのこと。

 

 《災厄》案件だったことで動いている情報部や現地対応してる人たちがいる。

 君達も知っての通りダーザインとバースセイバーはしっかりやってるし大丈夫~。

 いろいろ思うことはあるだろうけどぼく達にできることってもうないから

 気にせず第二の人生謳歌しちゃいなさい、ぼくも背を押します。

 

 というわけで…着いた!お仕事モード入りまーすキリッ」

 

八神は以降別れるまで真面目にバースセイバーとして対応している。別人。

なお彼女は祭高戦隊に関わってはいるものの部隊に加入する予定はない模様。

朝食を一緒にする予定が緊急の仕事が入り彼女とはここでお別れ。

 

「八神さんありがとうございましたあ~♥

 行こっかあ2人ともお、この通路広いし食堂まで並んで歩こ♥」

 

「えっなんで、いいよ目立つから戻れ戻れ」

 

「嫌~横で見てないと逃げて朝ごはんサボりそ~ここも前はサボってたから分かるもん」

 

「経験者は語るといったところか…あまり褒められたものではないがな。

 仕事まで食堂で過ごすのは賛成だ!おれも久々に食堂のプリンが食べたい!」

 

「春一桜もやっといつものテンションに戻ってきたな。

 気付いてなかったと思うけどお前ずっとガチ雑兵モード入ってたからな」

 

「春ピがずーっと真面目なままなのはここ久しぶり?いや初めてかもお…

 でもやっといつもの春ピに戻ってちょっと安心かもお!

 食堂のプリン美味しいもんねえ♥みんなで食べよ♥」

 

「…ム、そうであったか…全く気付いていなかったな。

 とにかく今のおれの気分はプリンだ!そして朝飯も追加だ!

 一緒に食うぞ!『廻弍』!」

 

「………分かった、なんか胃に入れる。」

 

初めて呼ばれた新しい名前。

少しだけこそばゆいのはなんでだろうな。

 

 

 

 

 

 

ふとしたことで少年の人生は狂い、やがて廻り。

 

弐度目の人生として幕を開ける事となる。

 

縁あって命が助かればあとは迅速の如く。

 

その開いた幕を力強く駆け抜ける。

 

彼が主役の新たな人生の物語として。


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