メティスを飲み込む前とはいえゼウスである
格を下げない苦戦や敗北は、相手をとても選ぶ
印欧祖語に伝わる天空神ディエウス・プテールを源流とする最も古き神の一柱。
ギリシャ神話のみならずローマ神話のユピテル、インド神話のディアウス、その息子たるインドラ。
メソポタミア神話のマルドゥク、エジプト神話のアメン、北欧神話のテュール或いはトール、中国神話の天帝。
キリスト教の聖四文字、ゾロアスター教のアフラ・マズダー、スラヴ神話のペルーン。
その他様々な神話・宗教に影響を与え、類似性が見られる極大の英雄神。
天空・雷・父を象徴する最も有名な神である。
文明を剥がす暴風が吹き荒れている。
「女神アテナよ!
「
知恵の女神は真実を紐解く。敵の能力を把握することは戦略の土台であるために。
「時と共に信仰が移ろい、インド神話の神々の王の座がインドラから変遷した先」
「
「『毒を飲み干す』権能を奪ったということか!」
「破壊の権能は奪えなかったが───結果的に正解だったな」
破壊神シヴァの権能。宇宙を攪拌したときに出た毒を引き受け、飲み込み、妻パールヴァティーがのど元を抑えることで全身に毒が回るのを止めたことから生まれた力。
宇宙を攪拌したとき、なぜ毒が出たのか?
それはヴァースキという大蛇を網として使ったせいである。その蛇は攪拌の苦しみで毒を吐いたのだ。
それは、単なる毒への耐性にとどまらない。
「
乳海攪拌によって出てきたのは毒だけでなく、宝や酒、神すらも生まれたのだ。
月はその一つ。
この権能は逸話の再現。
乳海攪拌の逸話の通り、シヴァ/ゼウスは夜天で最も大きな星を戴いているのだ。
天空とは古代より人々が手を伸ばし、しかし届かない聖域である。
現代では鉄の翼でその領域を侵すことは出来るものの、それでも自らの手で触れることは叶わない。
人の力では、天に挑むことは出来ない。
「────オオオオォォッ!」
しかしここに居るのは神話に名を刻む
鋼の肉体で月光を弾き、英雄は神に殴り掛かる。
超人の脚力は空を踏み台に、天へ挑む権利を与えた。
しかし、天に挑むには人はあまりに小さく、脆い存在である。
「‥‥『月』では、止まらぬか」
「ならば思い知れ。
それは
「ぐフ───っ」
しかし落ちた衝撃も陥没した地面も、彼は気にしない。いや、気にしている場合ではない。
天が昼より光り輝いている。およそ視界に映る全ての雲に雷が存在しているが故に、空は真っ白に染まっている。
「これなるは
「
「っ、来るぞヘラクレス!
冥府の女神アテナは知っている。その雷がどれほどの威力か。
ティタン神族を地底に封印し、不死の怪物すら葬り去った雷霆。
杖であり槍であり矢であるその雷こそ、天空神ゼウス最大最強の武器。
受ければ死以外に道はなく、抗うことなど出来ない。
「これは運命である。受け入れよ」
「───
宇宙を焼く雷が、放たれた。
それは盾だった。素晴らしい意匠の盾だった。
中央には
盾の外周はオーケアノスが取り囲み、一つの世界を描いている。
白く、黒く、赤く、青く、黄金で、虹のように光り輝く盾だった。
楯は一つではなかった。
光り輝く盾を中心に円を描くようにまた異なる世界を持つ盾が、風と雷が合わさった盾が、革が何枚も重なった楯が、単なる円形の楯が。
取り囲んで一つの楯となっていた。神の盾と人の楯が合わさった、奇妙な楯だった。
その楯が、雷を、受け止めて───
目を焼くような強烈な光と、耳を潰すような轟音だけが世界の全てだった。
ウゥッ、とか、ぐ、アアァァッ!とか、声にならない音を口から出したはずだが、全てかき消えた。
女神の闇を容易く引き裂き、雷は楯に突き刺さった。宇宙を焼く雷を楯で阻んだ。
一瞬で盾は白熱し、楯は黒く焼けて、身体はその重みを思い知った。
腕が軋む。手首が折れそうになる。肘が逆方向へ引き伸ばされる。
肩の関節が外れかけ、背中の筋肉が一斉に悲鳴を上げた。
脚は腰から下が地面に埋まって、あまりの重みに大地が耐えられていない。
「まだ……終わっていない……!」
それでも、負けるわけにはいかない。
自分に盾を託した英雄達が、「負けるな」と遺した彼等がいた。
「この身は
「ゼウスよ!オリュンポスの神々よ!
楯はヒビ割れ、大地は砕け。
そして。
白だけの世界に色が戻った。轟音は遠くへ去った。
岩盤は砕け、山は崩れ、大地は雷に裂かれた。
正しく評価するならば、この程度で済んだのは幸運だった、というのが妥当だろう。
宇宙を焼く雷霆は、たった一人の男と楯に阻まれ、大地を傷付ける程度で済んだのだ。
「流石我が息子、と言うべきか」
「単身で我が雷霆を受け止めたその偉業、神々ですら成し得ないだろう」
しかし代償もまた大きい。楯は壊れ、英雄は立ち上がれない。
「───
雷が再び天を覆った。人は意地を見せつけ、偉業を成し、しかし天には敵わないのだ。
さて。気を取り直して、
このゼウスはシヴァから対毒の権能を奪っているわけだが、シヴァが何故毒を受けたかと言えば、《蛇》が居たからである。
大蛇を宇宙の攪拌に用いたからこそ毒や宝、神、月などが現れたのだ。
つまりシヴァが毒を受けたということは、逆説的に毒を吐いた《蛇》がいるということであり。
この逸話を再現する権能を奪ったゼウスにとっての《蛇》と言えば、必然的にソレだろう。
「───!」
最初に気付いたのはゼウスだった。
神にあるまじき過去の恐怖が、生命の危機を思い出させた。
それに遅れて、地中海が大きく盛り上がった。
底から巨大な山が押し上げられたかのように、水面が数百、数千という高さまで持ち上がる。
巨大な壁となった海水が、空へ向かって立ち上がった。
水が滝のように落ちて。
そして、ゼウスは影を見た。
『火』を吐き、《鋼》を退ける《蛇》。
己の天敵の影を、神々の王は見た。
アテナ
考えてた作戦が全部消し飛んだ。イレギュラーが多すぎる。
闇を広げることで攻撃を緩和しようとしていたが相性悪すぎ。
ヘラクレス
人の意地を見せつけたが大神に勝てるわけないだろ!
ゼウス
結構ギリギリ。不意打ちの毒をなんとか対処しようとしたら天敵がやってきた。
この後天敵に負ける(ネタバレ)
天敵
ギリシャの《蛇》。
無常の果実を食べて弱体化する前の、出鱈目でべらぼうな怪物。