冬木に転生したアクセルの最弱職、第五次聖杯戦争に参戦する。 作:猿野ただすみ
怒濤の原作介入から一夜が明けた。俺は目覚めると同時に、とんでもない事実に気がついた。
いや、ちょっと待て。確かにゲーム内設定では、士郎がバーサーカーに襲われて明けた日の朝は2004年の2月1日。まさに今日だが、その日は日曜日なのだ。しかしゲームでは、何故か学校へ登校するシーンがある。この辺の矛盾は、後に日付管理を変えて火曜日に変更になったりもしたが、今、俺が経験している聖杯戦争では、普通に日曜日である。おい、これって士郎達の行動はどうなるんだ?
《どうしたの? 何だか混乱した感情が流れ込んできたんだけど》
クリスが念話で訊ねてくる。これは、説明しとかないとまずいよな。俺はクリスに、たった今気がついたことを説明した。
《……それは確かに、判断に苦しむ状況だね。でも、そこは腹を括るしかないんじゃないかな?》
《おい。何、
《いや、だって、どっちみちカズマくんが介入して、本来の流れとは変わってるんだよ? だから、これもその一端と捉えるしかないよ。後は月曜日に登校して、違いがあるかを判断するって事で》
く。確かに状況は、かなり変わってきている。一番の違いは、イリヤの俺への関与だ。まだ答えを保留にしてるが、イリヤは俺に同盟を申し出た。この行動は【Fate/stay night】ではあり得ない展開だ。
俺はこの申し出を受けるべきか、断るべきか。受ければ確実にルート展開が読めなくなる。いや、3ルートのどれとも違った展開になる可能性が高いだろう。だが断ると、キャスターに対しての対抗手段に問題がある。アサシンクラスでの召喚とは言え、クリスでも葛木先生の相手は厳しいと思う。俺自身の戦闘スタイルも、搦め手が得意な相手には向かないし。
《……なあ、クリス。俺、イリヤと同盟を結ぶべきかな。それとも断った方がいいのか》
《昨晩も言ったけど、それは今を生きるカズマくんが決めること。……って言いたいところだけど、あたしはカズマくんを助けるために召喚されたんだから、少しは助言するよ。
まず、この聖杯戦争は既に二つのルートから逸れ始めてる。かといって、どの流れからでも士郎くんの行動次第で突入できる三つ目のルートにはなって欲しくない》
そうだ。三つ目のルート、正確には展開だけど、こちらは間桐桜の精神状況に左右される。つまり、ゲームと違うタイミングでも突入する可能性があって気が抜けないのだ。
《だったら今は、同盟を受けるか断るかじゃなくて、
……同盟を受けたいか受けたくないか、か。そうか。そんな単純な話だったのか。だけど、それでも一旦、イリヤとは話をしないといけないな。
俺がそう、考えをまとめていると。
ピンポーン
安っぽいチャイムの音が響き、しばらくして。
「和真ー! あなたにお客さんよー!」
階下から母さんが声をかける。って、客? ……まさか。
俺が階段を降りて玄関に目をやると、そこには。
「カズマ、来たわよ」
「……イリヤ」
そう。そこには予想したとおり、イリヤがいた。一歩下がった後ろには、アインツベルンのホムンクルス、セラとリーゼリットが控えている。
「ちょっと和真、このお嬢さんと知り合いなの?」
「ああ、ええと…」
母さんに聞かれて口籠もる俺。さすがに聖杯戦争やら魔術やらを語るわけにもいかない。
「実はわたし、彼に助けられたんです。車道を横断していたら、信号を無視した自動車が突っ込んできて。彼は危険を顧みず、わたしを突き飛ばして事なきを得ました」
ああ、なるほど。そこから話を広げるのか。
「それでお礼をしようと思っていたのだけど、名前だけしか聞いていなかったので捜し当てるのに時間を要して、ようやくここに辿り着いたというわけです」
ふむ。中々上手い着地点だ。しかしイリヤ、既にこの設定を考えてきたな? 俺だってあと数秒時間をかければ、適当な理由をでっち上げる自信はある。だがイリヤからは、そういった間を一切感じなかった。まあ、来訪するに当たってそれくらいの準備は当たり前か。
「はぁ、聡いお嬢さんね。それにしても、身を挺して人を助けるなんて和真らしくないじゃない」
「おいこら、息子の善行にずいぶんなこと言うな?」
「だってあなた、この間まで引き籠もりのニート、引きニートだったじゃないの」
「引き籠もりとニートを足すな!」
というか、どっかの駄女神みたいなこと言ってんじゃねえ。
「そもそも外に出てたんだし、引き籠もりじゃねえから。学校に在籍してて求職関係ないから、ニートでもないし」
「あら。じゃあ穀潰しの方がいい?」
「ごく…」
くそう。あいつと違って俺の
「……ねえ、二人とも。そちらのお嬢さんが笑いをこらえてるよ?」
二階から降りてきたクリスが、階段の途中で立ち止まって俺と母さんに声をかけた。言われた俺はイリヤを見ると、顔を背けて肩をピクピクと震わせている。多分セラがいる手前、淑女として一生懸命我慢してるんだろうが、ひとりで来ていたら絶対に笑い転げてたはずだ。後で目に物見せてやる。
「あ、あら、ごめんなさい。こんな場所で立ち話もなんだから、どうぞ上がってください」
体裁を整えた母さんは、イリヤ達を家へ招き入れた。
リビングに通されたイリヤは椅子に座り、セラとリーゼリットは背後に控える。母さんは椅子を勧めたが、セラは「使用人として、主と同じ席に着くわけにはいきません」と固辞をした。
母さんは菓子と
「お嬢様! 無闇に口にされては…!」
「おいおい。俺はマスターだけど、あくまで一般人だぞ。姑息ではあるけどそれで命を狙う度胸はねえよ」
そもそも前世でも、モンスターは倒しても人殺しはしていないし、そんな度胸もない。まあ、殺してやりたいって思った奴はいたけど、よほどの聖人君子でもない限り、大概の人間はそんな思いを抱くことがあるはずだ。
「しかし、貴方のサーヴァントはアサシンと聞いてますが?」
そう言ってクリスを見る。
「ああ。あたしとしてはアサシンなんてクラス、不本意なんだよ? 人だって殺したことないし」
そのかわり、悪魔に対しては言葉どおりの意味で地獄送りにしてたけどな。
「しかし…」
「セラ、大丈夫よ。カズマは基本、ヘタレだから」
「ヘタレ言うな」
やっぱり後で判らせたる。
「……お嬢様がそうおっしゃるのでしたら」
渋々ながら、セラは折れたようだ。
「カズマ、アサシン。セラがごめんなさい」
「いや、聖杯戦争の最中だし、疑われるのは仕方がないと思ってるよ」
「あたしも同じ意見だよ。あ、それから、あたしのことはクリスでいいよ。どうせ名前からはあたしの素性なんてわかんないし、訳あって[神野クリス]って名前でこの家のお世話になってるから」
「わかったわ、クリス」
なんか既に、クリスとイリヤの仲が良くなってる気がするんだが。
「ところで、この飲み物は何なの? 変わった香りだけど」
「それは日本の夏の風物詩、麦茶だ。大麦を煎った物を煮出した飲み物だよ。今じゃ水出しで出来る市販品もあるしペットボトル飲料にもなってるけど、母さんは凝り性で、昔ながらの作り方をしてるんだ」
その分市販のものと違って、煎り加減や煮出し加減の違いで毎回味が変わってしまうが、母さんの場合は先にも言った凝り性のおかげで、今では味も香りも安定している。それに俺個人としてはこっちの方が好みだ。単純にお袋の味的なものかも知れないが。
「……若干の癖はありますが、サッパリとして飲みやすいですね」
イリヤに促されたサラがひと口飲み、感想を述べた。
「だろ? それにコーヒーや紅茶と違ってカフェインも入ってないし、ミネラルが含まれてるから、喉が渇いたときや夜に飲むのにも最適なんだぞ」
最も俺は夜型人間なので、むしろコーヒーのお世話になる方が多いけど。
「なるほど…。日本の伝統的な飲み物も侮れませんね」
セラの関心事がおかしい気もするが、少しでも警戒を解いてくれたようなので良しとしよう。
「……さて。雑談もこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょう?」
おいでなさった。イリヤの本題。即ち、同盟についての俺の答え。
「その前に確認したいんだが。昨晩…日を跨いでるから実質今日だけど、俺が話したことはこの二人にも話してあるのか?」
「ええ。カズマには悪いけど、セラとリズとは共有させてもらったわ」
「いや、それも仕方がないとは思ってるよ。ただし…」
「もちろん、他には洩らす気なんてないわ」
俺が念押しする前にイリヤは答え、セラとリーゼリットも頷いた。そうか。このメンツなら信用できるし、取り敢えずは気兼ねなく会話が出来るって訳だ。
「わかった。それで本題ってのは同盟についてだろ?」
「そうよ」
「……なら、俺としてはイリヤと同盟を結びたい。ただ、条件というか、お願いしたいことがいくつかあるんだが…」
「お願い?」
聞き返すイリヤに、俺は説明を交えてお願いを口にした。
そして時間は進み。
「ええっ! しばらく和真とクリスちゃんを、そちらのお宅へご招待したい!?」
「はい」
驚く母さんに、セラがひと言返事をする。
「お嬢様が、日本に滞在する間は歳の近い方と一緒にいたい、と言われたので、こちらのカズマさん、そしてクリスさんをご招待してはどうかという話になりました。カズマさんに関しては、お礼の意味も兼ねて」
「そうなんだよ。本当は和実も連れて行きたいところだけど、別荘は郊外の森にあるっていうし、そんな遠くから小学生を学校に通わせるわけにはいかないからな」
もちろん最初から連れてく気はないが、「歳の近い」という理由である以上、こういう説明をしなくちゃ一緒に行く羽目にもなりかねない。
「……和真は学校へ通うのか?」
今まで黙って聞いていた父さんが俺に訊ねる。
「ああ。ここで休んだら、あっという間に自宅警備に逆戻りする自信があるからな」
「……カズマくん。そこは自慢する所じゃないよね?」
クリスに突っ込まれたが、俺は無視を決め込む。それと学校に通い続ける理由はそれだけでなく、士郎や凛、ワカ…慎二、桜、そして葛木先生の動向を把握する必要もあるからだ。というか、そっちの方がメインの理由である。
「お兄ちゃんだけずるいー! 私も行くー!」
……和実、わがままを言わないでくれ。じゃないとお兄ちゃんは、お兄ちゃんは…。
「和実、わがままを言うんじゃありません。和真が言うとおり、遠くから学校に通うわけにはいかないでしょう?」
「うぅ~」
ああ、そんな目で見ないでくれ。お兄ちゃんの心が揺らいでしまうじゃないか。
「カズミちゃん。いい子にしてないと、カズマくんに嫌われちゃうよ?」
「う…。私、大人しく待ってる…」
クリスに言われて渋々納得する和実。心配しなくても、お兄ちゃんは和実の事、嫌いになんかなったりしないぞ。
「……カズマって、シスコンだったんだ」
「シスコン言うない」
イリヤ、後で覚えてろ。
家を出てリズ ── リーゼリットと呼んだら、本人から「リズでいい」と言われた ── の運転する自動車の中。少ししてからイリヤが口を開く。
「これで良かったのね、カズマ?」
「ああ。このまま家にいたら、家族が狙われるかも知れない。まあ、離れてても狙われるときは狙われるけど、その可能性は出来るだけ低くしておきたいからな」
そう。同盟にあたってイリヤに頼んだのは、俺とクリスをアインツベルン城に匿ってもらうこと。家族を、巻き込みたくはなかったから。……はは、まったく。これじゃあ、
「それで、次はリンに会うんでしょう?」
「……不義理を働くんだ。おかしな話だが、そこはやっぱり筋を通しておきたいんだよ。それで遠坂先輩の居場所は?」
「まだ、シロウの家を動いていないわ」
「そうか」
俺は気が重くなりながら、短く答えた。やがて自動車はゆっくりと衛宮邸の前に止まる。俺とクリス、更にイリヤが下車し、衛宮邸の門を潜る。
カラカラカラ…
「遠坂先輩」
「佐藤くん。それにイリヤ」
突然来訪した俺達に、しかし彼女は驚いた様子も見せない。おそらく、霊体化して屋根の上から見張りをするアーチャーの念話で、情報を得たんだろう。だが同時に警戒の色は濃い。
「あなた達、いったい…。まさか」
「ああいや、別に戦いに来たわけじゃない! 約束を反故にしなきゃならなくなったから、謝罪に来たんだ。一応、筋は通しておきたいから」
「約束の反故?」
凛はこちらに胡乱げな目を向ける。それに答えたのはクリスだ。
「ええと、学校であたしが言ったこと。あなたが勝ち上がったときにマスターを助けてくれるなら、あたしは棄権してもいいってやつ」
「ああ、あれね。……なるほど? 佐藤くんはイリヤと同盟を組むことになったんだ」
さすがは凛。飲み込みが早くて助かる。
「そうなんだ。魔術師的にはどうだかわかんないけど、このまま黙ってるのは卑怯な気がして気が引けたんだよ」
「まったく、律儀なことね」
「本当に」
呆れる凛に同調するイリヤ。もちろん俺の方が甘いのはわかってる。騙し合い、裏をかき合う戦争でこんな事言うのは愚の骨頂だろう。だが。
「これは、俺なりのけじめだ。初めから騙す気なら別だけど、あの時のアサシンの、そして俺の気持ちに嘘はなかった。だから謝りに来ただけだ」
凛は奇異の眼差しで俺を見るが、少しだけ感心した雰囲気も醸している。とはいえ感心されるほどのことではない。単に良心が痛んで、そこから逃げ出したかっただけである。
「ま、わかったわ」
「あと、学校で会ったときは普通に無視してくれて構わない。基本的に学校へこんな戦いを持ち込みたくはないから。なんか用があるときは、普通に先輩・後輩として声をかけるから、そっちもそうしてくれるとありがたいかな」
「了解。……それにしても、あなた本当に一般人?」
いけね。前世じゃパーティーのリーダーだったせいか、つい作戦指示みたいなノリで言っちまった。
「……MMOで仲間とチャットしながらプレイしてるから、その影響じゃないか?」
「……MMO? チャット?」
ああ、そうか。遠坂凛は機械音痴だった。
「……多人数が同時参加するコンピューターのゲームで、通信を取り合いながらやってたんだよ」
「あ、ああ、そうなの」
この説明でも、何とか理解するのが限界だったみたいだ。
「ところでリン。シロウは?」
イリヤが突然話を変える。いや、俺に助け船を出してくれたのか。そしてそれは、凛にとっても助け船だったようだ。
「あ、士郎なら居間にいるわ。藤村先生と間桐さんが来てて、色々と話をでっち上げてる最中よ」
それ、士郎に任せて大丈夫か? 【Fate】だと嘘が苦手だったはず。まあ、その辺はセイバーが何とかフォローするか?
……おや、待てよ?
「今、衛宮くんじゃなくて士郎って言ったけど、もしかして遠坂先輩と衛宮先輩も同盟組んだんですか?」
俺の質問に凛は、しまったといった感じに顔をしかめる。どうやら遠坂家の呪い、うっかりを発動させてしまったようだ。
もちろんこの二人の同盟はほぼ確定してたことだが、そのタイミングが少しばかり早い。これも俺の介入が原因なんだろうか。
「……そうね。シロウに挨拶でもしていこうかしら」
「……何を企んでるの?」
イリヤに対して警戒を高める凛。その様子を呆れ笑いを浮かべてイリヤは返す。
「義理とは言え、私はシロウの姉よ? 弟の顔を見に来て何が悪いの?」
「う…。つまり、不意を突いて攻撃を仕掛けたりはしないって言うのね?」
「当たり前でしょう?そんなのは小者のすることだわ」
……すんません、凛さん、イリヤさん。それ、俺の戦闘パターンっす。
「……わかったわ。そのかわり…」
「安心しなさい。一般人に私がシロウの姉だとか、キリツグの娘だなんて言わないから。カズマと同盟を結ぶ以上、余計な被害や混乱を起こす気はないもの。あの仮面の悪魔との約束もあるしね。そうね。キリツグとお母様が旧知の仲だったということにでもしておくわ」
うん。俺も仮面の悪魔(偽)も、両方俺なんだけどね。しかし、イリヤが考えた言い訳が原作と一緒だな。まあ、奇をてらってもしょうがないし、俺が介入したからってそこは変わらないか。
そんなわけで俺達は、衛宮家に上がらせてもらうことになった。クリスがひとっ走り、車内に残るセラとリズにもお伺いをたて、セラだけがついてくることになったが。
さて。早速原作介入第二幕となったか。果たして、鬼が出るか蛇が出るか。
凛と士郎の同盟が早まった理由
凛「(ううん。あの悪魔との取り引きで、極力人を殺さないことと、呪いが解決しない限り聖杯を使用しない、って事で話がまとまったけど…。わたし達以外の三陣営には一切関わりがないことなのよね。しかも向こうは手加減なんか一切しないだろうし。そうなると、わたしとアーチャーだけで挑むには分が悪すぎるわ。……仕方がない)衛宮くん。話があるんだけど」
といった感じですね。つまり和真の予想どおり、原作介入が原因です。