その時歴史がまた動かなかった   作:dwwyakata@2024

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真面目な人ほど。

壊れたときには恐ろしいのです。







4、壊乱の果てに

キルヒアイス同盟軍総司令官とともに、同盟軍四個艦隊がオーディンを制圧したのは。キルヒアイスが五十三歳になったときである。

 

キルヒアイスは、やっと戻ってきたかと思った。

 

オーディンを制圧する過程で四度の戦闘があったが、既に帝国軍は事実上存在しておらず、海賊同然の者達や、雑多な門閥貴族の私兵を蹴散らしただけだった。

 

そしてオーディンに降り立ったキルヒアイスは見た。

 

既に其処は、完全な廃墟だった。

 

見渡す限り、焼け野原。

 

時々ルドルフの像の残骸が散らばっている。

 

誰も住んでいない。

 

オーディンには大きな市街区がいくつも存在していたが。それらはどれもこれも。門閥貴族のためのものも、市民や帝国騎士のためのものも。

 

等しく焼き払われて、再建もなにもなかった。

 

新無憂宮の跡地に向かう。

 

既に完全に焼き払われ、略奪されつくしたそこには、多数の雑草が生えていて。昔宮廷で飼われていたらしい鹿が草を食んでいた。

 

野生化した有角犬が散見されたので、始末するようにキルヒアイスは指示しておく。

 

あれは人を襲う。

 

ただ、人などもう、ここにはほとんどいないだろうが。

 

実家の跡地も見に行った。

 

ラインハルトとアンネローゼの家があった場所も。

 

きれいに何もかもがなくなっていた。

 

キルヒアイスは、ふっと笑った。

 

兵士達が周囲でおびえているのがわかった。

 

これが帝国首都星の今のありさまだ。

 

一部のレスキューは、必死に生存者を探して駆け回っている。

 

あれから年月がたって、今ではユリアンミンツが同盟の元首をしている。その過程で、同盟はなんとか空中分解を免れた。

 

だが何度も独裁者まがいの最高評議会議長が出て、クーデター未遂まで起こった。

 

キルヒアイスは見ていただけ。

 

自分が同盟元首になっていたら、或いはもっと早く惨劇を収束させることができたかもしれない。

 

だが、その気はなかった。

 

豚を丸呑みした大蛇は、しばらく身動きすらできなくなる。

 

そういった状態になった同盟は、一世代以上かけて、やっと膨大な難民を同化させ、そして民として定着させた。

 

キルヒアイスとしては内乱でも起こってくれれば面白かったのだが。

 

そうはならなかった。

 

だが、それは別にどうでもいい。

 

胸元のロケットをいじる。

 

ラインハルトとアンネローゼの髪がそれには納められている。

 

二人の魂もだ。

 

ラインハルト様。

 

宇宙を手に入れることはできませんでした。

 

でも、宇宙を貴方に捧げることはできました。

 

貴方は喜ぶことはないでしょう。

 

これほどの惨禍、これほどの地獄。

 

ですが私は、あなたたちを無惨に奪い、その命を省みすらしなかったこの宇宙が許せなかったのです。

 

故に私なりの復讐をさせていただきました。

 

私は地獄に落ちるでしょう。

 

ですが、その時は。

 

天国から、私という道化の滑稽なダンスを、楽しんでいただければ何よりです。

 

そう、内心でつぶやく。

 

そしてキルヒアイスは、わずかにあちこちで生き延びていた市民を救出すると。その中に紛れていた門閥貴族の……今では見る影もない乞食を、容赦なく引っ立てさせた。

 

同盟はどうにか安定したが、統一勢力としてはあまりにも無惨な国力だ。

 

そして、今帝国を制圧して回っているいくつかの艦隊からは、あまりの惨状に目を背けるばかりだという報告が来ている。

 

近々全ての制圧は終わる。

 

だが、試算で現在の人間の数はおよそ二百十億。

 

人類は半数を失ったことになる。

 

これでエイリアンでも攻めてくれば面白いことになるのだがとキルヒアイスは思う。だが、それすらもはやどうでもいい。

 

帝国の完全制圧まで、オーディンを制圧してから一年少しかかった。

 

それが終わったとき、キルヒアイスは私費を投じて、オーディンに墓標を建てた。

 

その墓標には、私の愛する者達とだけ刻んで、ずっと身につけていたロケットをしまった。

 

兵士達が困惑している中、キルヒアイスはブラスターを取り出すと。口にくわえて自分の脳髄を撃ち抜いていた。

 

誰も、反応すらできず。

 

満足げに死んで行ったキルヒアイス同盟軍総司令官の様子を、見守ることしかできなかった。

 

 

 

ヤンはキルヒアイスの死を、統合作戦本部長の席で聞いて。年老いた頭をかき回していた。

 

おそらくキルヒアイス提督は復讐を達成したと思ったのだ。

 

自分もあまり長くはないだろう。

 

帝国領は全て支配下においたが、ほとんどが空白地帯だ。疲弊しきった上に、帝国の門閥貴族が蓄えていた膨大な富は苛烈な内戦でほとんど全てがちりと化してしまった。

 

同盟も状況はよくない。

 

今ユリアンが必死にまとめているが、空白地帯をこれからどうするか。

 

国内に抱え込んでしまったいくつもの爆弾をどうするのか。

 

それらを一つずつ片付けていかなければならない。

 

ユリアンも昔の優しい青年だった頃から、明らかに様子がおかしくなっている。

 

ジェシカも最後は凄まじい形相を常に浮かべていて。

 

最終的にはストレスが原因で脳の血管を切ってしまったのだが。

 

ユリアンもそうなるのではないのか。

 

そうヤンは心配していた。

 

「ヤン提督」

 

「どうしたんだい」

 

まだ若い准将が、声をかけてくる。

 

同盟による勝利のパレードが行われる。

 

それに出てほしいと言うことだった。

 

これほどむなしいパレードは、他にあるだろうか。

 

誰も勝利などしなかった。

 

この歴史は呪われた世界線なのかもしれない。

 

歴史学者を志望していたのに。今ではヤンはそんなことすら考えるようになっていた。

 

空虚なパレードに出る。

 

市民は冷め切っている。

 

誰もが知っているのだ。空白地を大量に抱えたこと、門閥貴族どもをたたきのめしたところで、どうせ経済なんて改善しないことを。

 

完全破壊されたもいいところな帝国のインフラは、いちから再構築しなければならない。

 

それは誰がやるのか。

 

市民の税金でやるのだ。

 

それでも、ヤンが姿を見せると、わずかながらの歓声が上がる。

 

ヤンはそれを受けながら、死ぬまでになんとか少しでも状況を改善できるだろうか。

 

そう、かないそうにないことを思うのだった。

 

 

 

(終)







悪夢の連鎖の果てに、一応の結末は来ました。

人類は半減し、全てに大きな傷を残しながら。

生き残った自由惑星同盟も、おそらく明るい未来はないでしょう。

これはそういうifの物語です。



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