ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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47.圧縮訓練① / LANZAS GEMELAS

「昨日話した通り、まずは“仮免”取得が当面の目標だ」

「はい!」

 

翌日、まだ夏休み中ではあるものの登校するよう言われていたA組の生徒達は、全員が教室に集合していた。

 

教壇に立った相澤が、昨日示唆していた“仮免”についての話を始める。

 

「ヒーロー免許ってのは、人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。仮免といえど、その合格率は毎年5割を切る」

「仮免でそんなキツイのかよ…」

「そこで、今日から君らには一人最低でも二つ…」

 

相澤は扉の外に指で合図を送った。

扉がガラリと開き、ミッドナイト、エクトプラズム、セメントスの三名が堂々と教室に入ってくる。

 

「必殺技を作ってもらう!!」

 

「必殺技!!!」

「学校っぽくてそれでいて」

「ヒーローっぽいのキタァア!!!」

 

心踊る授業内容にクラス全員のテンションが上がる。

 

「必殺!コレ、スナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」

「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押しつけるか!」

「技は己を象徴する!今日日必殺技を持たないプロヒーローなど、絶滅危惧種よ!」

 

相澤を含め、プロヒーローの教師を4人も動員するという豪華さである。

 

「詳しい話は実演を交え、合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γ(ガンマ)へ集合だ」

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

USJ、そして林間合宿を経て、ネリエルのコスチュームはいくらか改良されている。

それらの具合を確かめるようにあちこち動かしつつ、ネリエルはクラスメイトと共に体育館γ(ガンマ)に集合した。

 

「トレーニングの(T)台所(D)ランド(L)、略してTDL!!!」

 

若干危ないネーミングだが、体育館γ(ガンマ)は床が全てコンクリート製で広々とした、夢の国とは程遠い殺風景な空間だ。

 

「ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ。」

 

『セメント』の“個性”を持つセメントスは、体育祭前にネリエルのために山岳地帯を模した地形を作ってくれた時と同じように、それらの床を自在に操ってみせた。

 

「なーる」

「質問をお許し下さい!」

 

ビシ、と飯田の手が真っ直ぐに上がる。

 

「何故仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!!」

「順を追って話すよ、落ち着け」

 

ヘルメットに隠されているが、鬼気迫る表情が想像できる勢いで飯田から質問が飛び出したが、相澤が宥める。

 

「ヒーローとは事件・事故・天災・人災…あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然、その適性を見られることになる。情報力・判断力・機動力・戦闘力、他にもコミュニケーション能力・魅力・統率力など、多くの適性を毎年違う試験内容で試される」

「その中でも、戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」

「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」

 

相澤、ミッドナイト、セメントスの解説にエクトプラズムが補足を続ける。

 

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハナイ。例エバ…飯田クンノ“レシプロバースト”。一時的ナ超速移動、ソレ自体ガ脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル」

「アレ必殺技でいいのか…!」

 

例に挙げられた飯田が、感動した様子で天を仰いだ。

 

「なる程…自分の中に、『これさえやれば有利・勝てる』って型を作ろうって話か」

「そ!先日大活躍したシンリンカムイの『ウルシ鎖牢』なんか、模範的な必殺技よ。わかりやすいよね」

「中断されてしまった合宿での『“個性”伸ばし』は…この必殺技を作り上げるためのプロセスだった」

 

準備に入っていたセメントスが、巨大な岩山をコンクリートで形作る。

エクトプラズムが“個性”を使い、彼の分身を生み出していく。

 

「つまりこれから後期始業まで…残り十日余りの夏休みは、“個性”を伸ばしつつ必殺技を編み出す———…圧縮訓練となる!」

 

生徒達を威圧するように、エクトプラズムの分身達が岩山の上に居並ぶ。

 

「尚、“個性”の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えていくように。プラスウルトラの精神で乗り越えろ、準備はいいか?」

「———…ワクワクしてきたぁ!!」

 

声にこそ出さなかったが、ネリエルもまたワクワクと弾み出すような気分で、腰にセットしている新たな(・・・)サポートアイテムへと手を伸ばす。

 

「戦闘ノ腕ヲ磨キタイ者ハ我ガ相手ヲスル」

「特殊なフィールドとか、的が欲しい人は俺に言ってね」

「技名のアドバイスや魅せ方のアドバイスもできるわよ!」

 

これほどまでに万全のサポート体制を整えられる雄英の手厚さは段違いだろう。

ネリエルはサポートアイテムをアタッチメントから外しつつ、早速『カモシカ』へと変身して駆け出した。

 

「うぉお!!?」

「続け続け!」

「やんぞー!!」

 

ネリエルの勢いにつられて、他の生徒達も一斉に走り出す。

ネリエルは、大きな岩山の一つの頂上へと一気に駆け上がり、頂上に辿り着くと同時に『カモシカ』となっていた下半身を人のそれに戻した。

 

「ム?格闘訓練ノホウニスルノカ?」

「はい!よろしくお願いします!」

 

体育祭前は地形踏破の訓練を行なっていたが、今のネリエルの目的は違う。

岩山の上にいたエクトプラズムの一人に戦闘訓練を申し込み、一代目と同じく『槍』型に整えられてはいるが、中身はかなり異なるペッシェ謹製のサポートアイテムを構えた。

 

「ソレガ、新タナサポートアイテムトヤラダナ。扱イニ慣レル為ノ相手ヲスルノハ構ワンガ、“個性”ハ使ワナクテイイノカ?」

「はい、まずはこのままで。いざ“個性”が使えない時に振るえなくては意味が無いですから」

「ホウ…イイ心掛ケダ。デハ構エロ」

「お願いします」

 

エクトプラズムがすらりと片足を上げる。

対して、ネリエルは『槍』の円錐形の穂先をエクトプラズムに向けた。

一代目と同じく両端に潰された刃が備わった構造ではあるが、もう片方の穂先は、円錐ではなく円筒形へと変わっている。

 

「我ニモサポートアイテムノ詳細ハ共有サレテイル。何デモ試シテ見ルトイイ」

「はい!」

 

両脚を失っているというハンデを抱えながらも、戦闘用軽量義足を取り付けて脚技を磨き上げたエクトプラズムの戦闘能力は脅威だ。

ネリエルは油断なく腰を落として構えた。

 

「………」

「……——ふっ!!」

 

その姿勢から、ほんの少しの沈黙を挟んで一気に飛びかかる。

 

カァン、と堅い音と共に、初撃はエクトプラズムの義足に弾かれた。

しかし、ネリエルは間髪入れずに槍の穂先を引き戻し、エクトプラズムの胴を横薙ぎに狙う。

 

「はっ!」

「良イ動キダ」

「ありがとうございます!」

 

槍を突き出し、時に薙ぐ。左手は時折槍に添えて補助するだけで、ネリエルは槍をほとんど右手の腕力だけで自在に操っている。

 

そしてエクトプラズムは、ネリエルから繰り出される突きや薙ぎ払いに脚技のみで対応し、その全てを捌いていく。

 

「ふ…っ!」

「ム…!」

 

数合打ち合った後、喉を狙って突き出された穂先を、エクトプラズムが初めて打ち払うのではなく、体の動きで避けた。

 

それを見届けて攻撃を止めたネリエルは、姿勢を整えて軽くエクトプラズムに頭を下げる。

 

「ありがとうございます。だいたいの感覚は掴めました」

「…ソウカ。一ツ聞キタイノダガ」

「はい?」

「ドコカデ槍術ヲ習ッテイタノカ?堂ニ入ッタ動キダッタ」

「いえ……」

 

ネリエルは首を横に振り、少し黙り込む。

どう説明したものかと悩むのは、ネリエルの槍術は『前世』由来のものであり、今のネリエルも理論的ではなく本能的に槍の扱い方を分かった上で戦っているからだ。

 

「…なんとなく?です」

「ナントナク」

「はい。なんとなく」

「……ソウカ。ナントナクカ」

 

エクトプラズムがどこか呆れた様子で、岩山の下へと目を向けた。

 

「…少シ気ニナルコトガアル。ソレト今ノ動キヲ見ルニ、コノフィールドデハ狭イ。下ニ行コウ」

「分かりました」

 

岩山の上から滑り降りていくエクトプラズムの後に続き、人型のまま同じく広場へと滑り降りる。

そこにはいつの間にかオールマイトが現れており、生徒達にアドバイスを授けていた。

 

「オールマイト!こんにちは!」

「やあこんにちは、ネリエル少女!元気そうで何よりだ」

 

オールマイトはあちこちに包帯を巻いたままで、真の姿(トゥルーフォーム)である。

しかし爽やかな笑顔はそのままに、ネリエルに向かって明るく手を振ってきた。

 

「ミッドナイト。少シ見テクレ」

「それはもちろんいいけれど。どうしたのかしら?」

「オーデルクントノ模擬戦ダ。我ガ二体(・・)デ相手ヲスル」

「…あら?そんなに?」

 

分身の言葉を受け、広場にいた本体のエクトプラズムが頷いてさらにもう一体の分身を口から出す。

二体のエクトプラズムの分身がネリエルに向かって構えを取ったが、他に広場にいた生徒達は明らかにネリエルが不利な状態に少しざわめいた。

 

「エクト先生と二対一…!?」

「大丈夫かよ、そらネリエルはつえーけど…」

 

ネリエルは特に気にすることなく槍を構えると、岩山でネリエルの相手をしていた分身が口を開いた。

 

「先ホドノ戦闘。手ヲ抜イテイタナ?」

「え?いえ、手を抜いたというより、ウォームアップのつもりで」

「イイヤ、最後ノ話ダ。我ヲ消スマイト攻撃ヲ止メタ」

「それは…そうですが」

 

喉への突きが避けられた先に戦闘を続けると、エクトプラズムを倒せるという確信があったのは間違いない。

ネリエルがそう認めると、二体のエクトプラズムの分身が脚を高く構える。

 

「我ガ消エタトコロデ『分身』ハマタ出セル。ソレヨリモ、全力デプルスウルトラヲ実践シナイホウガ問題ダ」

「ソウイウコトカ。ナラバコチラハ殺ス気デ行コウ。ソチラモ死ヌ気デカカッテコイ」

「……分かりました」

 

ネリエルはそう言って、深く腰を沈めた体勢へと構えを変える。

 

重い槍を地面と平行に構え、後ろへと強く引いた姿勢から、ネリエルは力強く地を蹴った。

狙いは頭、間違いなく人体の急所である。

 

「ヌッ!」

 

ネリエルの突きを、狙われた左の分身がぎりぎりのところで避ける。

槍を突き出して腕が伸びきったネリエルに、右の分身から上段からの蹴りが放たれる。

 

「はっ!」

「防グカ…!」

 

しかしネリエルは右手で強引に槍を振り戻し、義足を弾き飛ばす。

右の分身は体勢を崩し、代わりに左の分身が足元を薙ぎ払うような蹴りを繰り出した。

 

対して、ネリエルの反撃は同じく脚での蹴り返し。

しなやかな筋肉に覆われた長い脚が、義足を逆に蹴り上げて大きな隙を作り出した。

 

そして、がら空きになった胴へ槍の穂先を突き込む。

だが横から伸ばされた義足の先に、突きは方向を変えさせられる。

 

「これは…!!」

「学生とは思えないほど、ハイレベルね……でも…」

「………」

 

オールマイト、ミッドナイト、相澤の注目がネリエルとエクトプラズムの分身二体との模擬戦に集まっている。

そのレベルの高い戦いに、他の生徒達の中にもぽかんと口を開けて見入ってしまっている者がいた。

 

「ムッ!?」

「はぁっ!」

 

ネリエルは、無理な体勢からだったためそれほど蹴りに力を込められていなかった義足を左手で掴み、思いきり振り回した。

さすがに分身が転ぶことはなかったが、よろけながら距離を取ることを余儀なくされる。

 

その間に、一気にもう一体の分身への距離を詰めたネリエルが、大きく槍を振りかぶった。

 

ゴシャン、と重い音と共に、分身の頭が穂先の根元あたりで潰される。

 

「うわ…!」

「マジかよ!!?」

 

煙のように消えていく分身を見送ることもなく、ネリエルはすぐさま槍ごと体を回転させ、もう一体の分身へ狙いを定める。

 

『カモシカ』となっておらずとも高い身体能力を持ち、爆発的な踏み込みができるネリエルの力強い突きが、過たず分身の喉を貫いた。

 

「……!」

「終わりました」

 

血払いをするように槍を振り下ろす。

エクトプラズム二体からの攻撃を捌ききった上に、圧勝してしまったネリエルに周囲がざわついた。

本体のエクトプラズムがそれを見届け、軽く頷く。

 

「……ナルホド、何ヲ懸念シテイタノカガ良ク分カッタ。ドウダ、ミッドナイト」

「ええ、分かるわ。効果的だけれど、ヒーロー(・・・・)の(・)戦い方(・・・)では無いわね!」

 

「え………」

 

ネリエルとしてはうまく動けたと思っていたのだが、プロヒーローからのまさかの酷評である。

オールマイトも苦笑いをしていた。

 

「なんというか、野生動物のような動きだったね」

「良い例えね、オールマイト!」

「ウム。カナリ荒ッポイ戦イ方ダ」

「…確かに、そうですね。“個性”の影響か…?」

 

ネリエルの戦闘スタイルは、オールマイトが例えたようにまさに野生的な動きを主体とする。

正統な槍術など使わず、槍は右腕一本で力ずくで操り、逆の手では掴みや殴りを織り交ぜる。

脚からは鋭い蹴りまでもが飛び出す動きは、超攻撃的と言えば聞こえはいいが、なりふり構わない所謂喧嘩殺法に近い。

 

相澤は“個性”の影響かと推測しているが、単に戦闘種族である破面(アランカル)としてのネリエルの戦い方がそのまま反映されているだけである。

それでは確かにヒーローらしく(・・・・・・・)はないだろう。

 

「そうね、一つアイデアがあるわ!」

「ミッドナイト先生……!」

 

酷評されて沈みかけたネリエルに、ミッドナイトが希望の手を差し伸べる。

ミッドナイトはネリエルに近づいてきて、サポートアイテムである槍、その円錐形ではなく円筒形になっている穂先のほうを指差した。

 

「このサポートアイテム。確かここも変形するんじゃなかったかしら?」

「はい、そうです。こうして…」

 

ペッシェが設計してくれた槍の構造は、余す所無くネリエルの頭の中に入っている。

それらの仕様を思い出しながら、ネリエルは槍をくるりと回した。

 

「よっ、と」

 

円筒形のほうの穂先を前にして、柄を強く握り込み、一定の角度で素早く動かす。

そうすると、仕込まれた機構が動いて円筒形の穂先は四つに分割され、槍の先端に細長い盾がくっついたような形へと変形した。

 

「こんな感じです」

 

周囲の、特に男子生徒から「おおぉっ!!」と歓声が上がる。ガチャン、ガチャンと音を立てながら変形する槍の姿に心奪われたらしい。

 

「いいわね。このまま盾を使って、守る時の立ち回りをやってみてくれない?」

「分かりました。エクトプラズム先生、お願いできますか?」

「ウム」

 

ミッドナイトに言われた通り、盾を垂直に取り付けた形になった槍を腰溜めに構え、左腕を肩ごと盾の裏に添える。

盾の幅は細長いが、体の半分は隠れるので半身になればかなりの範囲を守ることができる状態だ。

 

「行クゾ」

「はい!」

 

出現したエクトプラズムの分身が、早速ネリエルに飛びかかってくる。

ネリエルは左足を前に、右足を後ろに大きく引いて低く構え、体の前に構えた盾でその蹴りを受け止めた。

 

「フッ!!」

「は…!」

 

ガン、ガァン、と何度も何度も分身から重い蹴りが叩き込まれる。

しかしネリエルは地に根を張ったようにしっかりと脚を踏み締め、それら全てを盾で受け切る。

 

「おお…!ネリエル少女は守りも上手いのか!」

「すごい…」

「やっぱやべーな、ネリエルは」

「女騎士………」

 

ただ受け止めているだけではない。

槍の穂先は一代目と同じくネリエルの角を原料としており、円筒形に加工されていたのもあって表面が湾曲している。

そのため、蹴りの軌道をしっかりと読み切った上で、うまく角度をつけて受けなければ、逆にネリエルの体勢が崩されてしまう。

 

ネリエルがエクトプラズムというプロヒーローからの本気の蹴りを受けていられるのは、見た目からくる印象以上に巧(・)い(・)ためなのである。

 

「……フム。悪クナイナ」

「ええ、ええ、そうね!!」

 

しばらくして蹴りの乱打を止めたエクトプラズムの代わりに、ミッドナイトがずいっと身を乗り出してきた。

 

「とっても力強くて、素晴らしく安定感がある!これなら、市民にも頼り甲斐のあるヒーローとして見てもらえるはずよ!」

「本当ですか!」

 

ミッドナイトからの高評価に、ネリエルは顔を輝かせる。ミッドナイトは頬を上気させながら、少し早口で言葉を続けた。

 

「ええ!だからね、ネリエルさん。貴女はギャップ萌えを狙いましょう!」

「ギャップ…もえ…?」

 

意味がよく分からず首を傾げたネリエルに対して、ミッドナイトは力強く拳を握っている。

心なしか鼻息が荒い。

 

「そう!普段は盾を主体の戦い方にして、守るほうに重点を置くの!」

「守る……」

 

ネリエルははたり、と瞬いた。

 

「貴女の対応力なら出来ないことじゃないはずよ。そして、普段は凛とした背中で市民を守る女騎士が、いざという時には……超攻撃的なスタイルに変貌する!!これこそがギャップ萌えよ!!」

「な、なるほど…?」

 

ネリエルを押し流すほど勢いのついたミッドナイトを、エクトプラズムが制止する。

 

「ミッドナイト。趣味ニ走リスギダ」

「あらごめん遊ばせ。でもきっと受けるわ、そうじゃない?」

「…マァ、ソウダナ」

 

案自体はエクトプラズムも認めるところだったのか、素直に肯定する。

 

「ソレニ、ソノ案ナラオーデルノ攻撃的ナ姿勢ヲ捨テナクテイイノハ利点ダ」

「確かに」

「先ホドヒーローラシクナイトハ言ッタガ、恐レズ攻撃ニ出ラレルノハ間違イナク長所ダ。無理ニソレヲ潰ソウトハシナクテイイ」

「はい!ミッドナイト先生のアイデアならできそうですし…やってみます!」

「ええ、頑張って!」

 

的確なアドバイスをくれたエクトプラズムとミッドナイトにお礼を言い、盾での動き方を確かめるために自主練をすることにしたネリエルに、広場で訓練をしていた切島と上鳴、峰田、緑谷が駆け寄ってきた。

 

「ネリエル、おまえやべーな!?エクト先生二人に勝っちまうとか!」

「そのサポートアイテムのギミックかっこよすぎだろ!ちょい見せてくんね!?」

「ネリエルさん、ぼっ、僕もいいかな!?サポートアイテムのアイデアが欲しくて…!」

「女騎士……!」

 

口々に話しかけてくる四人、若干一名は趣旨に合わない発言をしているが、ネリエルは快く受け入れる。

 

「これどーゆー仕組み!?」

「こうやって…握りながら動かすと、盾に変形したり棍棒に戻せるの。盾を使ったスタイルが良さそうだから、磨いていくつもり!」

「カッケェ…!」

 

盾に変形させた時と同じく、柄を握り込んで素早く動かすと、また円筒形に戻る。上鳴は少年心を刺激されたのか、目をキラキラと輝かせている。

 

「こ、これ、名前はあるの?」

「うん、あるよ!兄がつけてくれたんだけど…」

 

二代目となるネリエルが携える『槍』のサポートアイテム。

一代目は特に何の名前も付けていなかったが、二代目にはペッシェによって銘が付けられている。

その名は———

 

「『双角槍(ランサス・ヘメラス)』」

 

誇らしげな表情の手元で、くるりと回された槍の穂先が白く光る。

 

「私の角から作られてる槍。穂先にもそれぞれ名前があるよ」

「どんな名前なの?」

「こっちの、盾になるほうが『角堅盾(バレーラ)』。こっちが『角碇槍(アンクラ)』」

「なんかカッケェ!どういう意味なんだ?」

「『角堅盾(バレーラ)』はその名の通り盾だよ。『角碇槍(アンクラ)』は…見せたほうが早いかな。ちょっと離れててね」

 

ペッシェが作ってくれた槍を自慢したいネリエルは誇らしげに槍を構え、上鳴たちを少し下がらせた。

 

四足歩行へと変身し、円錐形の穂先を前にして肩越しにガシャリと構える。

 

「……——ふっ!」

 

短く息を吐くと共に、思いきり地面を踏み締めて槍を押し出す。

これは槍そのものの投擲ではない。

ネリエルが力を込めて投げることで、『角碇槍(アンクラ)』だけが柄から分離されて飛んでいく仕組みになっている。

 

「分裂した!!」

「めっちゃ飛ばすじゃん!?」

「すごい…!」

 

『角碇槍(アンクラ)』は柄とワイヤーで接続されている。ワイヤーを伸ばせる最大距離は約20mであり、ワイヤーとその巻取り機能が槍の重量の大半を占める。

 

『角碇槍(アンクラ)』は誰も使っていない岩山の一つへとぐんぐん飛んでいき、着弾。

同時に、『角堅盾(バレーラ)』と同様に穂先が四つに裂け、その裏側に収納されていたツメ(・・)がぐるりと前に回った。

がっしりと着弾箇所に返しのついたツメが引っかかり、『カモシカ』となったネリエルの体重を支えられるほど強く固定される。

 

「ワイヤーアンカー!?」

「そういう、ことっ!」

 

手元に残った柄と、岩山を掴んだアンカーを繋ぐワイヤーはピンときつく張っている。

その張りを緩めるようにワイヤーを少し動かすと、ツメの開きが少し緩んで岩山からアンカーが外れた。

 

「それで…こう!」

 

柄には小型だが強力なモーターが仕込まれている。柄の一部を握り込むことでそれを起動すると、ワイヤーが勢いよく巻き取られていく。

ガァン!!と大きな音を立てながら『角碇槍(アンクラ)』は柄の先へと激突し、元の円錐形へと戻った。

 

「…今は伸ばすだけにしたけど、跳躍を合わせれば空中で姿勢を変えられるし、高いところから降りたりする時にも使えると思う。すごいでしょ?」

 

ネリエルがにこりと微笑むと、男子生徒達は若干引きつった顔をしていた。

 

「勢いやべえ…フツーの奴が使ったら肩抜けるんじゃね??」

「すごいけど…そうだね。僕は無理だな…」

「俺ならなんとかやれるか…!?」

「キケンな女だぜ、ネリエル…」

 

ネリエルは軽々と手の中で回してみせるが、『カモシカ』の大きさで誤魔化されているだけで、槍は大きさも重さもかなりのものだ。

 

腕を故障していてあまり使えない緑谷や、“個性”の方向性が違ったり体格の問題で上鳴や峰田も扱えないだろう。

唯一扱えそうなのは切島だが、手に得物を持つのは彼の肉体一つで完結する『硬化』の強みを消してしまいかねない。

 

結果的にあまり参考にはならなかった様子ではあるものの、ネリエルの巧みな槍捌きを見た彼らは満足そうだった。

 

「情報交換ヲスルノハ構ワンガ、サスガニ動キヲ止メスギダ。コレ以上ハサボリト判断スルゾ」

 

そう言いながらやってきたエクトプラズムの分身の一体に、緑谷達は慌てて解散する。

ネリエルも自主練へと戻り、『今』の新たな槍の扱い方を磨き始めた。

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