クリスマスライブの話始めたの5月辺りだから本当に長かったな…
それではどうぞ
『じゃあ最後にサプライズターイム!!店長さん!今すぐステージに上がってください!!』
「は?」
星歌は突然の指名に一瞬だけ素に戻ったが、有無を言わさない観客たちの手拍子と歓声に押し出されるようにして、渋々といった体でステージへと上がる。
すると一度ステージ裏へと引っ込んでいた虹夏が、嬉しそうに小走りで星歌の元へと駆け寄ってきた。その両手には、ある物が大切そうに抱えられている。
「ハッピーバースデーお姉ちゃん!!誕生日ケーキでーす!ほら、一口どーぞ!!」
目の前に差し出されたのは、虹夏がこの日のために一生懸命に手作りした特製の誕生日ケーキだった。
見た目は普通のイチゴのホールケーキだが、中央には星歌、その周りにはハートマークを持ってニッコリ笑う【結束バンド】のマジパンが並ぶ、最高に可愛いデコレーションだった。
「お姉ちゃん、こういう可愛い飾りのケーキ好きでしょ?一生懸命作ったから食べて〜」
「私も苦労して手伝ったから時給上げて」
「リョウはつまみ食いしてただけでしょ。それよりお姉ちゃん早く食べてよ」
(……こんな愛が詰まった可愛いの食べられるかッ…!!)
妹の賑やかなおねだりとマジパンの完成度に、星歌は激しく胸を打たれ完全にフリーズしていた。
「いらないならいただきます」
──バキッ!!グシャッ!!!
「!?」
焦ったさを感じたリョウが、フォークをホールケーキのド真ん中へと勢いよくブッ刺し、マジパンはバキバキに砕け散り、形を留めないほどケーキはグシャグシャになってしまった。
感動を一瞬で台無しにされた星歌がステージ上でマジギレを起こす中、虹夏は(こっちの方が、スターリーらしいかもね……)と苦笑いを浮かべていた。
『はい!じゃあお待ちかねのプレゼントターイム!』
そのまま星歌へのプレゼントタイムへと突入した。
まずは、この会場に来られなかった新宿FOLT勢からの贈り物がステージ上へ運び込まれる。
【SIDEROS】を代表してヨヨコから届いたのは、なんとスターリーの入り口前に設置された、パチンコ屋の開店祝いに置いてあるようなド派手な巨大花輪。さらに高級ハムギフトセットと電報の3点セットだった。
思考回路がひとりと完全に一致しており、これには星歌や【結束バンド】の面々も苦笑いを浮かべていた。
続いて紹介されたのは、【SICK HACK】の3人からのプレゼントだった。
まずイライザから贈られたのは、彼女が夜な夜な執念で描き上げたという、少し個性的な絵柄のお手製同人誌。
志麻からは、大人の女性への最高級の気遣いとして、DI○Rのフレグランス・メイクアップ・スキンケアの最高級ライン一式セットで、総額30万円以上。
きくりからの贈り物は、ハイブランドであるPRA○Aのショルダーバッグで、こちらも価格は30万円以上。
星歌は総額60万円を軽く超える超高額なブランド物の数々と、後輩たちのバグった金銭感覚に圧倒されて引き気味になっていた。
「ここまで高価なモン渡さなくていいのに…でも、大切に使うか」
今の【SICK HACK】は全国アリーナツアーを全公演ソールドアウトさせるほどの超人気バンドであり、インディーズの枠を完全に飛び越え知名度も人気も上がり、目まぐるしく忙しい日々を送っているはずだった。
それなのに大学時代に面倒を見ていた頃と何一つ変わらず、今でも自分を尊敬する先輩として特別に慕ってくれている。わざわざ忙しい合間を縫って、自分のためにプレゼントを選んでくれたというその事実が何よりも嬉しかった。
後輩たちの変わらない真っ直ぐな気遣いが身に染みて、星歌は心の中で深く感謝していた。
『えー!次はあたしたち【結束バンド】からプレゼントです!』
「今年はちゃんと用意した」
「時間かけて選びました〜♪」
「……」
虹夏はホットアイマスク、喜多はアロマディフューザーをプレゼント。どちらも女子高生っぽさと星歌への癒しを重視した心配りのされたプレゼントだった。
「何してんの?リョウも早く出しなよ」
「リョウ先輩は何を用意したんですか?やっぱり古着とかですか?」
「フッフッフッ……そう急かすなよ。とっておきを用意したから」
いつものようにどこか不敵な笑みを浮かべ、リョウが差し出したのはUSBだった。
「店長。31歳の誕生日おめでと」
「応、年齢は言うのはやめろ。でもありがとな──ってなんだこれ?USB?」
「大丈夫、絶対店長が喜ぶやつだから。とりあえず周りから見えないようにこっそり見てみて。あと手に入れるのに凄く苦労したから時給上げて」
そう星歌の耳元でヒソヒソ言いながら、リョウはどこからか星歌の私用のノートパソコンまで引っ張り出して手渡してくる。
「寝言は寝て言え。つーか勝手に人のパソコン持ち出してンじゃねェよ。一体なんなん……」
怪訝そうな顔で画面を覗き込んだ、まさにその瞬間だった。
星歌の動きが、まるで時を止められたかのようにピタリと凝固した。
「………なッ!!!?こっこれはッ!!!?」
画面に映し出されたのは、なんとシラフ状態のきくりのデジタル写真集だった。
写真館でプロのカメラマンに撮ってもらったもので、枚数は400枚以上の大ボリューム。
衣装はきくりの高校時代のセーラー服から始まり、ピュアクレッシェンド(廣井きくりの深酒日記3巻16話参照)、スク水、バニーガール、チアガール、ミニスカサンタコス(去年とは別ver)、ナース服、某ゼロから始める異世界アニメのメイド服といった、イライザの用意した際どいコスプレ衣装がこれでもかと盛りだくさんに詰め込まれている。
しかも全てのカットでオドオドとした内気さ全開で、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに視線を泳がせている。その表情は、陰キャ美少女大好きな星歌の歪んだ性癖を120%完璧に射抜いた、この世の奇跡のようなセレクションだった。
経緯としては、偶然街で星歌のプレゼントを吟味していたきくりとイライザ(付き添い)に遭遇したリョウが、詐欺師ばりの口八丁で言いくるめて協力をこじつけた代物だった。
そして肝心の撮影代に関しては、イライザが「きくりの新しい扉開くヨ〜♪♪」とノリノリになって全額出してくれたため、リョウ自身は元手0円でこの写真集を用意する事が出来たのである。
「マジかよお前…!!こんなモンどうやって…!!」
「苦労したんだよ。廣井さんに必死で頭を下げて頼み込んで(嘘)、私のなけなしの有り金全部叩いて(大嘘)、店長のためを想って準備したんだから(ギトギトの虚言)」
「……」
「どう?こんな店長好みの廣井さん、今後二度と見られないよ?しかも今の【SICK HACK】の人気と知名度を考えたら、この廣井さんの写真集の付加価値は計り知れない。プレゼントとしては最高でしょ?」
「……」
星歌はゴクリと息を呑み、羞恥に悶える画面の中のきくりと、目に¥マークを浮かべている目の前のクズを交互に見つめた。
「………………来月から1700円にしてやるよ…」
「シェァアアアアッ!!」
時給アップをもぎ取ったリョウは、何処ぞの緑の勇者が回転斬りを繰り出すような謎の怪声を上げて、ステージの上で大喜びするのだった。
『じゃあ、ラストはぼっちちゃん!』
「……」
虹夏の明るい声を合図に、ついに星歌の本命である、ひとりの出番が回ってきた。
しかし──
(どうしよう!店長さんの誕生日プレゼント何も用意してない!!というかこの企画ライブそのものが店長さんへのプレゼントだと思ってた!!!)
そう、彼女は星歌の誕生日プレゼントをすっかり買い忘れていたのだ。
誰か一人でも事前にメッセージを送り合っていればこのような地獄は回避できたはずだったが──
『プレゼントを用意するのは当たり前よね~♪』
『去年も渡したし…』
『わざわざ連絡するまでもないよね~』
──と、喜多もリョウも、果てはリーダーの虹夏でさえ「言わなくても分かるよね?」という謎の信頼スタンスを崩さず、情報のすり合わせすら行わなかった。
報連相が1ミリも機能していない、これが【結束バンド】というバンドの恐ろしいリアルだった。
「(どうする!?とりあえず現金でも渡す!?いやダメだ!クリスマスの飾り付けに有り金全部使い切って今は手持ちがない!!…………正直に忘れたって言おう。後日改めて、店長さんにプレゼントを……)あっあの…実は……」
『なんとぼっちちゃんは去年のクリスマスに、120万円以上する最高フルスペックの○acBook Proをプレゼントしてたんです!』
「!!!?」
ひとりが意を決して真実を告白しようとした瞬間、虹夏がマイク越しにフロアの全員へ向けて衝撃の実績を暴露した。
「ブランド品なのは間違いない。今のぼっちの財力なら、ワンチャン宝石とか高級車だってありえる」
「!!!!?!?!?!!?」
「やっぱりオーダーメイドだったり?どちらにせよ今回も凄いプレゼントを用意したんでしょうね〜!ほらほら!ひとりちゃん早く出して!」
「!?!?!?!?!?!?!!!!?!!?」
(ヤバ━━━━いッッ!!!!周囲のハードルだけが勝手に上がっていく!!!何か!!私のポッケに数億円規模の何かはなかったっけ!?)
もはや「何も用意していません」とは口が裂けても言えない絶対絶命の状況。今のひとりは夏休みの宿題を丸ごと忘れたまま、先生に提出を迫られる小学生くらい切羽詰まっていた。
あまりの恐怖に脳の防衛本能がバグを起こしたひとりは、パーカーの袖から物理的に何本もの腕を生やし(千手観音ぼっち)、全身のポケットというポケットをマッハの速度で弄る。
(あっ詰んだ。レシートとセミの抜け殻しか入ってない……)
しかしポケットの中身は、何日か前にコンビニでもらったクシャクシャのレシートと、今朝自宅の庭で見つけて物珍しさに拾ったセミの抜け殻のみ。
完全に小学生男子のズボンの底に眠っていそうな呪いのラインナップしか入っていなかった。
「おい、まだか?」
「ぼっちちゃん、勿体ぶらずに早く渡しちゃってよ〜♪」
「ひとりちゃん、今夜のトリよ!」
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!このままじゃ『プレゼント用意しなかったで賞』で死刑にされる!!どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ!!!)
星歌はまだかまだかと期待でソワソワし始め、虹夏や喜多も笑顔でプレッシャーをかけながら急かし始める。
「あぁ、ひとりッ…!今すぐ助けてあげたい…!!僕が身代わりになってステージに割って入っちゃダメかな…!?」
「いやダメに決まってるでしょ。ここで親子関係がバレたらどうすンの?」
「つーか、もう素直に忘れたって言えよ」
「RoÉ、お前ひとりちゃんの性格知ってるだろ?それが出来たら今までの人生で苦労してないって」
ステージ袖で見守る【NEW GLORY】の4人も、完全に四面楚歌で追い詰められて茹でダコのように赤くなっているひとりを見て、気が気ではなかった。
特に父親であるNaokIは、愛娘の絶対絶命のピンチにハラハラし始め、今すぐにでもステージ上に乱入して娘を抱きしめて守りたいと、衝動的に駆け出しそうになっていた。
限界まで圧縮された空気の中、ひとりは助けを求めるようにステージ袖へ視線を走らせ、NaokIとバチッと目が合った。
その瞬間ひとりの脳裏に、かつての台風ライブの前にお父さんからかけられた、あの力強い言葉がフラッシュバックした。
『音で黙らせてやれ。視線全部、掻っ攫ってやれ』
(──そうだ…今こそお父さんの言葉を実行するんだ。物がないなら、私にはこれしかない!私は…ギターを持ったバンドマンなんだから!!!)
恐怖の臨界点を突破したひとりはギターのストラップを肩にかけると、マイクに向かって声高に堂々と宣言した。
「あっ!!私は店長さんに歌をプレゼントします!!」
『!!?!!?!!?!!?!!?!?!?!!?』
その瞬間、【結束バンド】のメンバーはもちろんのこと、他の演者もフロアの客も、全員がマイナス100度の絶対零度で凍りついた。
(ちょっぼっちちゃん!歌のプレゼントは…貰った側がどうリアクションしていいか分からなくてドン引きされる地雷プレゼント堂々の第1位だよ!!?)※下北沢調べ
(お金のない売れないバンドマンが恋人に押しつける独りよがりなプレゼント第1位!そんなオリジナル曲を作る暇があったら必死にバイトして何かまともなの買ってこい第1位!の地雷中の地雷なのに!!)※下北沢調べ
「ちょちょちょちょ!ぼっちちゃん!!一旦やめ──」
危険を察知した虹夏が慌てて止めに入ろうとしたが、ひとりは完全にトランス状態へと突入しており、ギターをジャカジャカと激しく掻き鳴らし始めていた。
『WHOA━━━!!!yeah!yeah!!yeahー!!!』ジャガ♪ジャガ♪
「嗚呼…あたしの企画ライブ終わった……」
時すでに遅し。
凄まじい声量で叫び始めたひとりの姿に全てを悟った虹夏は、完全に死んだ目をして、そのままおとなしく成り行きを見守り始めるのだった。
『星歌♡Forever』
Lyrics : Bocchi
Produced : Bocchi
今でも忘れねェぜmemories
一匹狼で孤独の中突っ走ってきたけれど
あの日俺を拾ってくれた店長さん
オメーに心を奪われたんだheartbreak
初めてのハコがこのスターリーで本当に良かったぜ
心からサンキューなyeah…
さっきの店長さんのギターソロ〜
バリバリに俺のSoulに響いて離れねェぜEndless Time
だから俺は誓うよBig up!
たとえ有名になれなくても
俺たちはこの場所で歌い続けるぜForever〜
ここに骨を埋める覚悟はもうできてる闇カルテル
怖いモンはねェぜPut your hands up
バンドの喜び教えてくれてサンキューなyeah…
店長さんに感謝〜♪
ついでに虹夏ちゃんにも感謝〜♪
しじみ帝国とNEW GLORYと店長さんのバンドメンバーにも感謝だぜ~Thanks to You All
巡り合わせに感謝神様マジ感謝卍
この無数の星で出会えた事それすら奇跡oh♪
これからもずっとよろしくなinfinity…
地獄絵図とは、まさにこのことである。
【結束バンド】の3人は完全に死んだ目をして徹底的に他人のふりを決め込み、フロアの観客たちは可哀想なものを見る目をして、他の出演者も腫れ物に触るような視線でひとりをそっと見つめていた。
「あははははははwwwwwヤバいwww腹捩れるwww」
(やっぱひとりちゃん、NaokIさんの娘だわ)
「………」
ステージ袖の暗がりでLavielは床に崩れ落ち、過呼吸になりかけるほど大爆笑している。
その横でRoÉは、突拍子もなくはっちゃけるひとりの姿を冷ややかに見つめながら、しっかり父親の突飛な血を受け継いでいることに納得しつつも(親が親なら子も子だな)と静かに達観していた。
一方、Kyoyaは完全に無言。自分がやらかしたわけでもないのに見てるこっちが耐えられないと言わんばかりの猛烈な共感性羞恥に駆られ、【結束バンド】のメンバーたちと同様に、現実逃避するように明後日の方向を向いていた。
そして、肝心の父親であるNaokIに関しては──
(ひとりィ~~~!!こんな立派に人前で歌を披露できるようになって…お父さんは…お父さんは誇らしいよぉぉぉ〜〜!!!)
滝のような大号泣をキメながら、誰よりも熱い拍手を愛娘へと送っていた。
すると、そのステージ袖の様子をいち早く察知したフロアの観客たちの間で、一気に驚愕と動揺の嵐が巻き起こり始める。
「えっ?待って……NaokIさん、めちゃくちゃ泣いてない?」
「あっあの超ド級の地雷ソングで泣いたの…!?」
「もしかして…実はもの凄くいい曲なのかな?」
「こっ…これが?」
「…いや、【NEW GLORY】のNaokIさんがそこまで感動するくらいなんだから、ウチらの感性が追いついてないだけで、実はガチの名曲なの……かも?」
共感性羞恥MAXのバカ曲だったはずが、あの世界的アーティストであるNaokIが涙を流して認めるほどの曲なら、きっとこれは音楽史に残る至高の芸術に違いない──そんな盲目的なファンたちの勘違いのギアが急激にトップに入り、フロアは一転してヤケクソ気味な大絶賛の嵐へと変貌を遂げた。
「……いっいいぞー!!!」
「すっ…素晴らしい!!」
「ブラボー!!!」
「なっなんか聴けば聴くほど…心に染みる…かも……?」
「お…音源化してくれー!!」
「お前が人間国宝ー!!!」
当のNaokIは「あんなに人見知りだった娘が人前で恥ずかしがらずに歌いきっている」という純粋な親心に感動しているだけだったのだが、客たちがそれを知る由もない。
【結束バンド】のメンバーたちは、圧倒的なアーティスト効果の恐ろしさと、世の中の流行とはこういう何気ない勘違いと悪ノリから巻き起こるのだと、身を以て実感させられていた。
そして、その特等席で歌を浴びた星歌はというと──
(こんな、こんなストレートで愛のこもったラブソングを私のために…!!やっぱりぼっちちゃんは…世界一優しくて愛おしい子だ!!!大好き!!!!!)
NaokIに負けず劣らず、顔をぐしゃぐしゃにして大号泣していた。星歌の脳内では、もはや都合のいい美化フィルターが限界突破している。
(こんな下北の小さいハコに憧れの【NEW GLORY】を呼んでくれて、極上のサンタコスまで見せてくれて、最後にこんな素敵な歌まで用意してくれて!!本当に、本当にありがとう!!NaokIさんといいぼっちちゃんといい……本当最高の親子だ!!!尊すぎる!!!!!)
(……お姉ちゃん喜んでるし、結果オーライ…なのかな?)
地獄から始まったプレゼントタイムだったが、奇跡の着地を見せたことで、虹夏はツッコミを諦めてそのまま温かい目で静観することにした。
すると予想外の高評価に、ひとりは完全に調子に乗り始めた。
『あっ…へへwあっ…アリーナセンキュー!!!(限界コミュ症特有のイキり声)』
『うおおおおおおおおお!!!!ご・と・う!!ご・と・う!!ご・と・う!!GO・TO・H!!』
『(あぁ^〜!承認欲求が^〜!承認欲求が満たされるぅ^〜!!)あっ…うへへw…それじゃあ期待に応えてもう一曲──あっ弦切れた…』
『はーい!!プレゼントタイム終了でーす!!!』
さらにノリノリになって二曲目のイントロをジャカジャカと鳴らそうとしたひとりだったが、調子に乗って力を込めすぎたせいで弦が破断。
その隙を虹夏は見逃さず、マイクを強奪して割って入り強制終了させるのだった。
『え…え〜!それでは最後に出演バンド全員で写真撮影を行いたいと思います!!出演者の方々は全員ステージに出てください!!』
虹夏の後を引き継ぎ、喜多の弾けた声によるアナウンスが響き渡ると、一度ステージ袖に引いていたメンバーたちが再び続々とステージの上へと集結してきた。
【結束バンド】、【しじみ帝国】、そして主役である星歌たちが並び立つ中、最後に【NEW GLORY】の4人が再びステージへと姿を現したその瞬間──フロアからは、それまでの熱狂をさらに塗り替えるような、凄まじい黄色い歓声が地鳴りのように沸き上がった。
ドームやスタジアムを揺るがす世界のトップアーティストたちが至近距離で再び目の前に現れたのだ。観客たちのボルテージは文字通り最高潮に達し、ハコ全体が割れんばかりの拍手と歓喜の悲鳴で激しく震え出す。
『は〜い、演者のみなさん並んでくださいね〜。それと、せっかくの素敵な主役なんですから、店長と虹夏さんは中央に詰めて座ってください』
ここで喜多からマイクをバトンタッチされたPAさんが、いつもの穏やかで優しいトーンのまま、ステージを包み込むように柔らかい声で呼びかけた。
ステージ上では歴史的な一枚のための完璧な並び順が整えられていった。
配置は今夜の主役である伊地知姉妹を中心に据え、星歌、虹夏、ひとり、NaokI、Kyoyaの5人が中央に固まる形となった。
(うおおおおおッ!!?ぼっちちゃんとNaokIさんがこんな至近距離に!!!?!?)
(やった!!Kyoyaさんの隣だ!!)
星歌にとっては、まさに奇跡のような立ち位置だった。
自身の両サイドを挟み込んでいるのは、世界一可愛くて愛おしいひとりと、もう片方は人生を捧げて憧れてきた【NEW GLORY】のNaokI。さらに妹の虹夏の隣にはKyoyaがぴったりと並ぶ。憧れの神様をこれ以上ない至近距離に迎えた姉妹は、完全に脳内がバグって舞い上がっている。
その中央の熱狂をさらに引き立てるように、左右のメンバーたちがそれぞれの個性を爆発させていた。
フロントマンとしての絶対的なカリスマを放つLavielの両サイドに並んだ【しじみ帝国】のメンバーは、今夜の最高の熱気にすっかりあてられ、半ばノリと勢いに任せて憧れのスターの肩を組もうと腕を伸ばすと、Lavielはその動きを察して、先回りするように自分からその身体をグッと力強く引き寄せ、ガシッと肩を組んでとびきりの笑顔を弾ませたのだ。
(ふあああぁぁぁああ!!Lavielさんが!!私と肩を組んでくれた!!!)
(ヤバいヤバいヤバい!!!これ一生ものの思い出になる!!!)
世界基準のボーカリストに見事な神対応で肩を抱かれた【しじみ帝国】のメンバーは、あまりの光栄さとイケメンっぷりに内心で狂喜乱舞しながらも、一生の思い出にするべく必死にカメラを見つめていた。
対照的にRoÉはステージの端っこのポジションへと陣取り、床にグッと片膝をついた姿勢で佇んでいた。周りがお祭りのように騒ぐ中、彼だけは一切媚びることなく、鋭い視線をカメラへと真っ直ぐに向けている。
そのブレないクールな格好良さと圧倒的な覇気に寄り添えた星歌の元バンドメンバーも、声にならない悲鳴を上げながら必死にポーズをキープしていた。
トナカイ姿のままどこか誇らしげなリョウと、サンタコスで可愛らしくピースサインを決める喜多も周囲をガチガチに固め、最高に鮮やかな彩りを添えている。
後ろの観客たちはバンドタオルや両手を大きく掲げ、全員が歴史の一片になるべく、弾けんばかりの笑顔で最高のポーズを作り上げる。
マイクを置いて再びカメラの前に戻ったPAさんが、ファインダーを覗き込み、フロア全体に響くように穏やかに呼びかける。
「は〜い。それじゃあ撮りますよ~3.2.1──」
──カシャッ!
◆
数時間後──スターリーから少し離れた地下パーキング。
ひとりは助手席のドアを開け、見慣れた父親の車へと滑り込んだ。
「あっ…お父さんただいま。遅くなってごめん」
「いいよいいよ、お父さんもずっとライブの余韻に浸ってたからね。それじゃあ帰るか」
「うん」
エンジンが静かに始動し、車は夜の下北沢を滑り出す。フロントガラスの向こうに流れていく街灯の光が、二人の横顔を交互に淡く照らした。
「お父さん、出待ちとか大丈夫だった?私あの後お店の片付けとか掃除手伝ってたから、外の様子がよくわかんなくて」
「大丈夫だよ。スターリーから出た時も、機材の片付けの時も、誰も待っていなかったから。民度のいいファンばかりで本当に助かったよ」
「そっか…よかった」
「それよりひとり!さっきのひとりの歌のプレゼント、あれは本当によかったぞ!お父さん本気で感動して号泣しちゃったよ!やっぱり僕の娘だから、素晴らしいアーティストの才能を受け継いでるな!」
「あっへへ…wやっぱりお父さんには、私の音楽に込めたSoulが伝わっちゃったか〜。あっあの瞬間は完全に下北沢の風と一体になって、フロアのオーディエンス全員を私の世界へ連れていけた確信があったからね…!フヘヘ…!」
最悪の地雷プレゼントだったはずの歌を、世界トップのアーティストに正面から大絶賛されたことで、ひとりはこれでもかと調子に乗りまくって不敵な笑みを浮かべた。
そんな娘のイキりムーブすら、直樹は「さすが僕の娘だ!」と親バカ全開で優しく受け止めている。
しばらく話し込んだ後、ひとりは調子に乗っていた顔から少し真面目な表情に戻り、真っ直ぐに感謝を告げた。
「改めて、お父さん本当にありがとう。お客さんも、店長さんも、そして虹夏ちゃんも……みんなあんな笑顔で終わりを迎えられて、本当によかった」
「どういたしまして。僕もお客さんの顔を一人一人しっかり見ながら演奏できて本当に楽しかったよ」
「はは……まぁ、お父さんたち大体ドームとかスタジアムばっかりだもんね」
直樹はハンドルを握りながら、バックミラー越しに小さくなった下北沢の街を見つめ、ふと優しい笑みを浮かべた。
「それにしても、今回の【結束バンド】の演奏……本当によかったぞ。バンド加入したばかりの頃は『全然みんなと合わせられない』ってよく言ってたのに、本当に成長したな」
「……うん。いつまでも下手なままじゃ、【NEW GLORY】と対バンできないからね」
「あはは!言うようになったなぁひとり!……今度やる時は、お互いもっと有名になって、もっとデカい会場でやろうな」
「うん……!私たちも、お父さんたちに負けないくらい大きくなるから…!」
「あぁ。楽しみにしてるよ、ひとり」
───
──
─
こうして【結束バンド】の初となる自主企画のクリスマスライブは大成功で幕を閉じた。
後日──【結束バンド】とスターリーの公式SNSに、あの伝説の集合写真と全バンドのライブ映像をまとめたリキャップ動画がアップされた瞬間、世界中の音楽シーンが蜂の巣をつついたような大騒然となった。
いいねの数は投稿からわずか数時間で200万を突破。世界トレンドのタイムラインは──
#NEW GLORY
#結束バンド
#クリスマスライブ
#インディーズの自主企画
#サプライズ出演
#神セトリ
といったワードで一気に埋め尽くされ、文字通りサーバーが悲鳴を上げるほどの爆発的な拡散を見せた。
特にインプレッション数とリキャップ動画の再生数は破格の数字を叩き出し、タイムラインをスクロールするたびに数百万単位でカウンターが跳ね上がっていく異常事態となった。
それもそのはず。
普段の【NEW GLORY】といえば、終演後に公式SNSへライブ写真を数枚ひっそりとアップするだけで、メディアや他バンドとの馴れ合いの露出など今まで一切なかったのだ。
そんな絶対王者たちがキャパ250人の小さなライブハウスで、インディーズバンドと肩を並べ密着して並んでいる。音楽業界の関係者や世界中のファンから見れば、それは歴史に永遠に刻まれるほどの価値を持つ貴重な一枚だった。
さらに、今回のクリスマスライブに運良く参戦できていたファンたちが、ここぞとばかりにSNSで当日の様子や激レアすぎるセットリストを自慢すると、世界中のファンは嫉妬と羨望のあまり絶叫を上げた。
「はい!はい!ありがとうございますッ!!では失礼します!!……よっしゃー!!許可降りた!!さぁ書くわよ〜!タイトルは──」
そして、音楽ライターであるぽいずん♡やみは、『Fusion Impact』に直談判し、奇跡的にオフィシャルの許可を勝ち取ったのだ。
興奮冷めやらぬまま、やみは今回のクリスマスライブの渾身のライブレポートをばんらぼに投稿。世界中のファンに向けて、日本語版と英語版の2バージョンを同時に全世界へ解禁した。
記事の主な内容は、出演した全バンドの緻密なライブレポートと正確なセットリスト。
そして何より、世界中が気になって夜も眠れなかった「なぜ【NEW GLORY】がインディーズの自主企画ライブに出演することになったのか」という、あのリョウの用意した完璧なカバーストーリーであった。
「あの孤高の天才NaokIが、インディーズバンドの熱いDMに心を動かされ、原点回帰ライブとして独断で快諾した」──このオフィシャル(という体のハッタリ)の記事が公開されるや否や、世界中のアクセスがばんらぼへ集中。サーバーがダウンするほどの凄まじい勢いでPV数は一気に跳ね上がり、一晩で世界トレンドの頂点へと上り詰めた。
画面に表示されるリアルタイムの広告収入のグラフを眺めながら、やみは目を¥マークにさせてガクガクと震え、一気に懐を温めていた。
下北沢の地下ライブハウスから発信された、あまりにも規格外なクリスマスの奇跡。
それは【結束バンド】という名前を、一瞬にして世界のリスナーの脳裏へと深く刻み込む、あまりにも鮮烈な大波乱の幕開けとなった。
※おまけ
翌日──スターリー。
「いだだだだ…!!あっやばぃ…全身筋肉痛で死ぬ…今すぐ臨時休業にしたい…あぎィ!!!」
星歌は昨夜のライブの凄まじい反動で、朝起きたら全身筋肉痛を起こしていた。
31歳の肉体に10年分のブランクと聖夜のモッシュやダイブの激震はあまりにも重すぎたのだ。
「店長しっかりしてくださいよ。それに今日だってブッキングライブの予定入ってるでしょ…」
「すまん無理マジで動けん。…あぁクソッ!昨日調子に乗ってダイブとかモッシュとか参加すンじゃなかった!!…がァ!!いてて…マジで死ぬ……もう家帰って寝たい……」
「店長なんて昨日死ぬほど楽しんでたからいいじゃないですか!!私なんて肉体的にも精神的にも死にかけましたよ!!」
「うおッ!?」
PAさんはいつもの穏やかなトーンはどこへやら、珍しく感情を爆発させて涙目で星歌に訴えかけてきた。
昨夜のクリスマスライブを裏から完全に支えきっていたPAさんの現実は、星歌の筋肉痛など生温く思えるほどに、さらに圧倒的に悲惨だったのだ。
「昨日の【NEW GLORY】のステージ、あれ分業なしのワンオペで回すのどれだけ大変だったか分かってます!?曲とinterludeが隙間なく繋がるから、私は秒単位のタイムシートを凝視し続けて一瞬たりともよそ見ができなかったんですよ!?しかも生ドラムが消えて同期音源(SE)だけになる瞬間に客席の音がスカスカにならないようミリ秒単位でフェーダーを跳ね上げなきゃいけないし、28インチのド級ツーバスとKen Smithの5弦ベースのLow-Bが暴れ狂うから、低音の周波数が飽和してハコが壊れないように常にイコライザーを微調整し続けて指が攣りそうだったんですから!!!」
「え?ちょ──」
「それだけじゃないですよ!!?ギターがクリーンから爆音ハイゲインに切り替わる瞬間の凄まじい音圧差を先読みしてBognerのチャンネル切り替えをフォローしつつ他の楽器とのバランスを崩さないようにライン保たなきゃいけないし!曲のテンポに合わせてオートチューンのケロケロ感やディレイの深さをノブで操作しつつ、それが客席スピーカーと共鳴してハウらないように常に音量を監視するっていう耳と手を同時にフル稼働させる反射神経ゲームやらされるし!しかもMCがないからアイコンタクトや表情でクリックが聞こえないとかのSOSサインを出してないか、常に暗いステージを凝視してイヤモニの状況を目視で監視しなきゃいけなかったんです!もし万が一にも同期を流してるPCがフリーズして止まったら、その瞬間1秒以内にマイクの音量を上げるか別のBGMを流すかの緊急判断を迫られる恐怖とずっと戦ってたんですよ!!?もはや精神的拷問ですよ!?たった一つのミスで世界的アーティストのライブが完全に崩壊する過酷な状況だったんですからね!!!!」
「わかったわかった!わかったから落ち着けって!」
「フーッ!フーッ!!」
(コイツ怒るとこんなに怖かったのか…!?)
一息にそこまで言い切ると、PAさんは肩で息を切りながらカウンターに突っ伏した。
昨日のクリスマスライブにおいて一番責任重大で、誰よりも過酷だったのは間違いなく彼女だった。
「店長は良いですよね…自分は大好きなバンドのステージを最前で観れて、その後気持ちよくライブして賞賛されて、みなさんから高価な誕生日プレゼントを山ほどもらえて。……それに比べて私なんて裏方だから誰も褒めてくれないし…ミスったら真っ先に責められてSNSで中傷されまくるし……それに私なんて誰にも誕生日覚えられてないし、そもそも名前すら知られてないし……もうヤダ…」ブツブツ
「げっ元気出せって!そっそうだ!今度のスターリーの忘年会、お前のリクエストの店にしてやるよ!それに好きに奢ってやっから!なっ!?」
「……………じゃあJOJO苑がいいです」
「(コイツ奢りっつった途端に…!)わっわかったよ…JOJO苑な」
財布への大ダメージを覚悟する星歌だったが、全身の激しい筋肉痛にガタガタと苦しめられながらも、昨夜のライブを裏で完璧に成功へと導いた最大の功労者を必死に労うのだった。
「……いつまでも弱音吐いてらンねェし、そろそろ仕事するか……うぅ…全身湿布臭ェ…」
そんな星歌の見えない部分──肩、腕、腰、足の至る所には限界まで隙間なく湿布がベタベタと貼り付けられており、服の上からでも判るほどに不格好な姿に変わり果てていた。
「もう嫌だ…動くたびに湿布のメントールが目に染みる。ていうかちょっと腕を上げただけで骨がパキパキ鳴るんだけど。……嗚呼…もう10代20代の頃とは違うんだな。……若さって…二度と戻らないんだな…」
三十路を迎えた現実のあまりの悲壮感と肉体の衰えに、星歌は涙を流して打ちひしがれていた。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
書ききれなかった他キャラの反応も載せときます。
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ヨヨコちゃん:ZIPPER Shinjukuでのライブをエゴサして賞賛トゥイートを見てニヤニヤしまくるヨヨコちゃん。また余韻に浸ろうとSNSを開いたら結束バンドのクリスマスライブに話題全部搔っ攫われてしばらく凹んだ。
きくり:志麻とリキャップ動画を見て驚く。NEW GLORYが出てたことにも驚くがそれ以上に星歌が演者として参加していたことに驚き、星歌の演奏シーンを見てやっぱり先輩は凄いとキラキラした目で動画を眺める。それと同時に自分達も星歌のライブ観たかったなと悔しがる。
そして唐突ですが、次の話で最終回になります。
是非最後までお付き合いください。