様子のおかしいハリー・ポッターさん(10代)   作:夜風ミシェル

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3.隣人を信じよ

 

 代表者選考の結果発表である。

 ボーバトンからはフラー・デラクール。

 ダームストラングからはビクトール・クラム。

 ホグワーツからはセドリックだ。揃いも揃って美男美女なので、顔で選ばれた可能性が微レ存。

 ⋯⋯そんなことを考えていたら、用が済んだはずのゴブレットに再び火が灯った。

 驚く僕たちの前で、ゴブレットは、一枚の羊皮紙を吐き出す。

 

「⋯⋯ハリー・ポッター」

 

 ダンブルドアは冷静に、その名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 存在しない四人目の代表者。

 それは三校の間にどよめきを起こした。

 寮に戻ってきたハリーを、グリフィンドール生一同で囲い込む。

 

「おいおい、どうやって年齢線を出し抜いたんだよ」

「そもそもホグワーツ生じゃなかった⋯⋯?」

「そうなんだよ。実は既に退学処分を受けた身で」

「嘘ついてんじゃねーよ」

 

 雑な嘘に、僕はツッコミを入れた。ハリーは指をチッチッチ、と振る。

 

「僕は入れてない。⋯⋯きっと誰かが、『ハリーこそ代表に相応しい!』と思って名前を入れたんでしょ」

「笑わせんな。誰が君を推すんだよ!」

「酷すぎて草」

 

 友達なのに⋯⋯と泣くハリーは、放っておくことにした。

 まぁ、八割は冗談のつもりだ。成績優秀、かつ目立ちたがり屋。誰かが出来心で入れたとしても納得できる。

 ⋯⋯でも誰が?

 

 

 

 

 

 あれから一週間が過ぎた。だが、ホグワーツでは尚もハリーのことで盛り上がっている。大半の人はハリーの話を信じ(「ハリーならドヤ顔で年齢線を出し抜いた手法をペラペラ喋るだろ」という謎理論)、彼の名前を書いた人物を特定しようとしていた。特定班、頑張れ。

 一方、ハッフルパフは悲しそうだった。自寮が脚光を浴びる数少ないチャンスだったのに、ハリーが話題を掻っ攫っていったからだ。だが、セドリックが宥めたことで両方を応援するようになった。セドリック、君はホグワーツの良心だよ。

 そんなこんなでマルフォイ主導で製作された『ホグワーツの代表選手を応援しよう』バッジは飛ぶように売れ、ハーマイオニーはメラメラと闘志を燃え上がらせていた。

 彼女はバッジを売り、その売上金で屋敷しもべ妖精の待遇改善を訴えるキャンペーンを行おうとしているのだ。だが如何せんデザインが酷すぎる。『S・P・E・W』という文字を掲げているのだ。誰が胸元に『反吐』と書かれたバッジを付けるというのか。

 

「おかしいわ⋯⋯。ハリーとセドリックの顔面を貼り付けただけじゃない。あんなバッジのどこがいいのよ」

「シンプルに顔がいいからだろ」

 

 僕は胸元のバッジを軽く叩いた。優しげに微笑むセドリックの顔が、薔薇を咥えて流し目をするハリーに変わる。ホストで草。

 

「⋯⋯確かにインパクトはあるわね。顔を使うってのは悪くないかも」

 

 そう呟いたハーマイオニーは二日後、バッジを改良した。

 手渡されたバッジを見て、僕は目ん玉をひん剥いた。

 『S・P・E・W』の文字は削除され、代わりに置かれたのは屋敷しもべ妖精の生首。リアルを追求したのか、首の切断面からは赤黒い液体がポタポタと垂れている。瞳は虚ろで、血涙を流している。怖いよ。なんだよこのホラーなデザインは。

 徹夜明けのハーマイオニーさんは元気いっぱいだった。

 

「でね! これを触ると⋯⋯ほら!」

 

 絵が明滅し、笑顔の屋敷しもべ妖精が拡大表示された。首はちゃんと繋がっている。

 

「どうかしら? 屋敷しもべ妖精の現状とこれからの未来をうまく表現できたと思うのだけど」

「今すぐ廃棄しろ」

 

 顔を使えばいいってもんじゃないぞ!

 

 

 

*****

 

 魔法薬学の授業中に、ハリーは呼び出しを受けた。代表選手の集まりがあるらしい。

 

「スネイプ先生の授業を途中退出する程心苦しいことがありましょうか、いや、ない。全く、運営はよく考えるべきですよねスネイプせんせ!」

「皮肉がお上手なようで」

「ああ先生、悲しまないで!」

「うるさい。早く行け」

 

 スネイプは小蝿でも追い払うかのように右手を払った。ハリーは喚きながら教室を出ていく。

 

「あいつのメンタル強すぎるだろ」

 

 隣のシェーマスが呟いた。

 呼び出されたハリーはその後、取材を受けたらしい。日刊予言者新聞でも、三大魔法学校対抗試合のことが取り上げられた。

 記事を書いたのはリータ・スキーター。父からはあまり良い話を聞かない記者だ。偏向報道、脚色が酷いらしい。だが、ハリーを取り上げた記事は概ね事実で構成されていた。多分、素のハリーが読者に受けるキャラクターだったからだろう。捏造しなくても、数字が取れると踏んだようだ。

 友人からの応援メッセージとして、他寮からのコメントも付されている。スリザリンからは、名前こそ掲載されてはいないがマルフォイが選ばれていた。

 

「こんなバッジ作ってさ。大丈夫なの?」

 

 僕はマルフォイに尋ねた。例の如く、こそこそと空き教室で密会だ。

 今、ハリーは第一の課題に向けて計画を練っている。なんでも、ドラゴンが出てくるらしい。チャーリーが「今年は早く会えるかも」と言っていたのはこれが理由だったのか。

 

「大丈夫、とは?」

 

 怪訝そうなマルフォイ。「だってほら、お前はハリーを疑ってるんだろ。応援していいの?」と言うと、合点がいったように肩をすくめた。

 

「それとこれは別。今年はクィディッチがない分、ここでホグワーツが勝ってくれたら満足だ」

 

 割り切った思考である。

 マルフォイは咳払いをした。

 

「まずは事実確認をしたい。ハリーの話はどこまでが真実なのかを明らかにしよう」

「おっけ」

 

 僕はポケットからメモ帳を取り出した。ペラペラとめくり、該当箇所を示す。

 

「えっと、ハリーは『ジニーからその本を回収した』と言っていたね。ジニーからの証言も取れたよ」

 

 ハリーは、「僕の本が誤ってジニーの大鍋の中に入っちゃったみたい」と言って黒い本を回収していったらしい。大分前のことだが、ジニーはしっかり覚えていた。

 

「つまり、父上が闇魔道具を忍ばせたことも事実か」

 

 マルフォイは表情を曇らせた。そして、「うちの妹に何してくれてんの? はぁん?」と静かにキレる僕に気付くと、気まずそうな顔で懐から金貨を取り出した。

 

「十ガリオン」

「だからお金で解決しようとすんのやめろ」

 

 と言いつつ僕は慰謝料を回収した。後日、ジニーにお小遣いとして渡してあげよう。最近、髪飾りとかリップで金欠らしいからね。

 

「となると、父上の『概ね正しい』が意味するのは、『テリー・マイケル・リドル』が不正解、といったところか」

「そうとは限らないでしょ。話自体は合っているけれど、それが全てではない場合もある」

 

 ハリーが黒い本のことで注意したのは事実。しかし、ほかにも何かを言った結果、ルシウスを動揺させたパターンだ。

 テリーの真偽を確かめたいのなら、本人を見つけ出せばいい。だが、名前だけで見つかるかどうか。それにもし存在しなかった場合でも、延々と探すことになる。

 いないことを証明するのは難しい。悪魔の証明だ。

 はっきり言って、手詰まりだった。僕たちは探偵でもなければ情報屋でもない。しがないホグワーツ生なのだ。

 

「もう、やめよ?」

 

 僕は言った。

 

「僕はもう降りる。──事実は粗方明らかになったことだし」

「は⋯⋯? ここまで来て離脱? お前だって気になるだろ、ハリーのまね妖怪とか!」

「ううん、別に」

 

 僕は嘘をついた。

 全く気にならないわけじゃない。だって、あのハリーが恐怖を覚えるほど大切な人なのだ。話を聞きたい気持ちはある。

 そして、少しばかりの妬心も。

 しかし、他人の領域にずかずかと入り込むその危うさを、僕は知っている。

 僕はルーピンを思い出していた。彼は人狼だと知っても差別しなかった友人に感謝していた。一方、人狼だと知られたことに後悔もあった。

 勿論僕は、ルーピンの友人──ハリーの父親たちの、秘密を暴く行為が悪だとは思わない。それでルーピンの心は救われたわけだし。

 だから、僕はよく考えて行動したい。

 

「大体、お前がやるべきことはハリーを探ることじゃない。父親に、闇の魔術との関わりを断つように言うことだろ」

 

 どうせ、マルフォイ邸には未だに危険な闇魔道具が眠っていることだろう。それを然るべき機関に持っていくよう、マルフォイは促すべきなのだ。

 

「ジニーのことも謝罪はないし」

「金は渡しただろ!」

「その考え方やめたら?」

 

 マルフォイは押し黙った。もう話すことはないだろう。

 僕は席を立って、教室の扉に手を掛けた。教室を出る直前、少しだけ後ろを振り返ってマルフォイを見た。

 

「僕はハリーを信じるよ」

 

 まね妖怪は僕じゃなくても、死にそうな顔で駆け寄ったというハリー。

 その含意が何であれ、事実は事実だ。

 それを信じたいと思う僕は愚かだろうか。

 

 

 

*****

 

 第一の課題当日。

 僕とハーマイオニーはワクワクしながら、眺めの良い観客席を陣取った。

 ハリーがどうやってドラゴンを出し抜くのかは知らない。彼は作戦を教えないまま、ただ「見てなよ」とだけ言って別れてしまったのだ。

 とはいえ心配はしていない。むしろ知らないからこそ楽しみが増すってもんだ。

 試合はセドリック、フラー、クラム、ハリーの順で行われる。ドラゴンが守る金の卵を奪うというのが課題内容だ。

 セドリックは岩を犬に変えて陽動作戦を取った。 

 フラーは魅了呪文でドラゴンを眠らせた。

 クラムは結膜炎の呪いでドラゴンの目を攻撃した。

 いずれも、減点要素はありつつも金の卵を獲得した。

 

「いよいよね」

 

 ハーマイオニーは両手を組んだ。

 最後に登場したハリーは、欠片も緊張を見せずに観客に向けて両手を振った。ホグワーツ生は胸元のバッジをハリーの顔に切り替えることを忘れない。

 競技場の中央に座すのは、凶暴なドラゴンと知られるホーンテール。

 ハリーは近くの岩陰に隠れると、杖を掲げた。

 

「アクシオ・ファイアボルト!」

 

 呼び寄せ呪文だ。

 バグマンの声が響く。

 

「果たして箒は──やってきた! 皆さん、東の空をご覧ください!」

 

 釣られて顔を向けると、空を駆けるファイアボルトが視界に入った。ハリーは一目散に走り出すと、ひらりとファイアボルトに飛び乗る。

 

「乗った! そしてホーンテールが吐いた炎を避ける!」

 

 巧みな箒の技術に、バグマンは興奮を隠さなかった。勿論それは観客も同じで、競技場は大盛り上がりしていた。

 

「かましたれハリー!!」

「頑張ってぇぇ!!」

 

 卵を取るには、その近くに留まるドラゴンをどうにかしなくてはならない。ハリーは挑発するように箒を左右に揺らしたり、杖先から氷の塊を飛ばしたりしていた。

 そして、ついにドラゴンが翼を広げた。

 

「っ、飛んだ!」

 

 僕は思わず座席を立った。瞬間、ハリーが姿勢を低くして一気に急降下した。

 狙うは金の卵──ッ!

 だが、ハリーが奪取する前にドラゴンが振り返り、卵の盗人に火を吹いた。

 殺気を読んだハリーは首を後ろに捻り、杖を振った。

 

「プロテゴ」

 

 ドーム状に盾が展開され、炎が二つに裂けた。

 

「素晴らしい! 大人が使うのも難しい呪文を易々と繰り出した!」

 

 バグマンの解説に、僕は驚いた。あの魔法、そんなに難しかったのか、と。

 

「⋯⋯ハリーって、練習している素ぶりもないのに色々な魔法を使えるわよね」

 

 ハーマイオニーの、半ば独り言のような呟きに僕は頷いた。

 ハーマイオニーが優秀な理由は分かる。毎日欠かさず復習して理論を徹底的に頭に叩き込み、その上で実践練習を行っているから。

 でもハリーはそうじゃない。

 才能があるから? やはり『生き残った男の子』だから、特別なんだろうか。

 僕の疑問を他所に、ハリーは凍結呪文を使ってドラゴンを足止めする壁を作る。

 ドラゴンの咆哮が氷の壁を破壊すると同時に、ハリーが卵を掴んだ。

 降り注ぐ氷の破片。

 その中でハリーは金の卵を掲げてみせた。

 

「よっしゃぁぁぁぁ! よくやった!!」

「凄いわハリー!」

 

 僕はハーマイオニーとその場で飛び跳ねた。

 所要時間は最速、かつ無傷。

 ハリーは暫定一位の高得点を叩き出した。

 

 

 




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