陰の実力者のお友達   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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ひとまず第一期分はおわり
ただ書きたいのを書きたいだけだったのにこんなにお気に入りが増えるとは思いませんでした。
感謝の極み
しばしゼンゼロの方をメインにしつつ列伝の書きたい部分やえっちなやつも書けていければいいなぁ(願望


25 ひとまずのおわり

こうして、王都に出現した魔人シャドウと、魔獣スカーは、武神ベアトリクスとアイリス王女によって撃退された。

だが、オリアナ国王であるゲールク陛下を殺害したローズ王女の行方はいまだ知れず。

魔人や魔獣に関する〝シャドウガーデン〟なる秘密結社の全容もいまだ明かされぬまま、騎士団は総力をあげ、一連の事件の主犯と思わしきシャドウを捜索している…。

 

それが、表に向けた見出しだった。

 

 

<失態だな。ドエム・ケツハット>

 

鏡のような通信機のアーティファクトから、そんな声が聞こえる。

ドエムはそれに跪きながら答えた。

 

「申し訳ございません。ですが、王家が手中にある以上、あの娘がこのまま姿を消すことなどありえません」

 

王を失ったオリアナ王国は、これから大きく動くだろう。

あの女が無視できるはずはない、とドエムは踏んでいた。

 

<だといいがな。あまり失望させてくれるなよ、ドエム・ケツハット>

「はっ」

 

 

「あまり背負い過ぎない方がいい。人では力の及ばない存在は多い。ましてや、あなたはまだ幼いのだから」

 

蒸気列車の乗り場にて、ベアトリクスはアイリスと会っていた。

正確にはアイリスが見送りに来た感じだが。

彼女の傍らには護衛なのか、青い髪の男性騎士もいる。

 

「大丈夫です。…立ち止まってなどいられませんから」

 

前髪の陰に覗く目つきが、どうにも危うく見える。

それにかける言葉が見つからず、ベアトリクスは「そうか…」と短く返事をした。

やがて出発を知らせる汽笛がなる、ベアトリクスは列車に乗り込んだ。

椅子に腰を下ろしながら、ふぅ、と短く息を吐く。

 

「ワタルも見つからなかった。…上手くいかないことばっかりだ。学生のようだったし、時間も合わなかったのかな」

 

ベアトリクスはまぐろなるどの包み紙で作った折り鶴をふと取り出してみやる。

 

「けど、楽しいこともあったし。またゆっくり頑張っていけばいい。…合間に戻って彼に会うのもいいかもしれない」

 

列車に揺られながら、ベアトリクスは外の景色を眺めていく。

 

 

列車に揺られてるのは、ベアトリクスだけではなかった。

学生であるワタルとシドもまた、学校行きの列車に乗っている。

 

「いつまで仮校舎なんだ?」

「ねぇ知ってる? 校舎の建て替え工事、ミツゴシの資本が入るんだって!」

「うっそ! それじゃあ学園と一緒に、制服も新しくなったり!?」

 

そんな噂がちらほらと聞こえてくる。

列車に揺られながらいつものメンツをキョロリと見まわして

 

「あれ、そういやヒョロは?」

「あぁ、なんか長期のバイトがどうとか言ってましたよ」

 

バイト…まあどうせ借金関係だろう、知ったことではない。

 

「それはそれとして、ブシン祭の時のアレ、すごかったですね!」

「? アレって?」

 

シドが聞き返す

 

「アレです、魔人シャドウと、魔獣スカー!」

 

魔獣、という言葉に響きにワタルは少しぴくりとした。

なんで魔獣やねん、とツッコミたいが、飛翔体の姿はどう見ても魔獣にしか見えない。

複雑な気分だ。

 

「僕も実家から帰る時に見ましたけど、王都中を覆いつくす魔力の光、まるで地獄の窯が開いたような恐ろしい光景でした。時計塔のほうを見ると、大きなコウモリみたいなやつもいましたし! あれが魔獣スカーなんでしょうね」

 

(僕やで)

 

「惜しかったなぁ、僕も王都にいれば怖がってる女の子たちを慰めたり…」

 

叶わぬ妄想をしているジャガをしり目に、シドとワタルは目を合わせつつ

 

「少し目立ちすぎたかな」

「かもね」

「もう少し陰に潜まないと」

 

それぞれがそれぞれの考えを巡らせて、その日、その日は過ぎていく───

 

◇◇◇

 

「カゲノー男爵領…」

 

アルファに案内されたところは、シド・カゲノーの父、オトンの領地だった。

カゲノー、という響きに、思わずローズはまぐろなるどの包み紙を見やる。

何の変哲もない、ただの紙。

今となっては、それだけがローズとシドを繋げる唯一のお守りだった。

 

「待たせたわね」

 

何やら準備を終えたアルファがこちらに向けて歩いてくる。

 

「ここからは歩いて向かうわ。魔剣士の足なら夜には着く」

「今から歩いて、夜、ですか…?」

「あの山の向こう…獣人たちの森を抜けて、そのまた奥」

 

アルファの後ろを、ローズはついていく。

 

「それは、魔獣の生息域なのでは」

「かつて、この地を訪れた彼らは、〝霧の龍〟と、その番人と戦った。倒された龍は、彼らがこの地を治めることを認め、龍の吐息を吹きかけた」

「龍…」

 

目撃情報があるにはあるが、ここ百年は討伐された記憶がない、伝説の存在。

 

「あと、この霧は猛毒よ」

「えっ」

「離れないで。逸れたら死ぬわ」

 

先に言ってほしかったと思うのはたぶん間違いではない。

ローズはそう言わなかったが。

やがて進んでいくと、急に視界が晴れた。

 

「ここは…」

 

日の光が降り注ぐ、白い古城。

何より目を引くのが、まっすぐにそびえ立つ、シャドウの立像*1…美しい出来だ。

 

「古の都、アレクサンドリア。…ここが我らの拠点よ」

 

アレクサンドリア。

書物や文献で名前だけは見たことがある。

この場は、書物では決して描くことのできない美しい都だ。

周囲には田畑が広がり、見たこともない作物が実っていて、少女たちが収穫している。

 

「カカオの収穫ね。あれがチョコレートの原料よ。いずれ、貴女にもやってもらうことになる」

「あれがチョコレートに…? もしかして、ミツゴシ商会は、〝シャドウガーデン〟の…」

 

アルファはそれにくすり、と微笑んだ。

チョコレートはミツゴシでしか商品になっていない、原料も製法も何一つわからない菓子なのだ。

二人は城門を抜けて、城の中に入る。

アルファは少し周辺を見回すと、一人の女性に向かって歩き出した。

 

「ラムダ」

「! アルファ様」

 

アルファの呼びかけにラムダと呼ばれた女性はアルファに体を向ける

ラムダは灰色の髪に金色の瞳の、褐色肌のエルフだった。

長身で、しなやかな筋肉をしていることが、ボディスーツの上からでもはっきりわかる。

 

「新入りよ。鍛えなさい」 

「はっ」

 

アルファはそう言うと古城のほうへと歩いていく。

 

「あとはあなた次第。力を示しなさい───」

 

そう言ってローズに激励ともとれるような言葉を言うと、ラムダとローズを残して去っていった。

 

「私はラムダ。新入り、ついてこい」

「は、はい」

 

彼女の後ろをついていくと、城の裏手に出た。

そこには多くの少女たちが鍛錬に励んでいた。

人見て分かる…全員かなりの実力者だと。

 

「664番、665番」

 

「っ?」

「お呼びでしょうか!」

 

何やら片方はパンを食べており、その片方に組み付いてる黒髪の女性が返事をする。

 

「来い、新入りだ。貴様らの分隊に入れる」

「了解しました!」

 

そう元気に665が返事をしたときだ。

 

「よっと」

 

上空から誰かが現れ、ラムダたちの近くに降り立った。

降り立ったのは───なんとワタルだ。

手には何か袋を持っている。

ローズは目が点になった。

 

「わ、ワタルく───」

「スカー様、なぜこちらに?」

 

え? とローズは言葉が途絶えた。

よく見ると特訓していた数々の少女たちも彼を見て特訓を中断しているような。

それを見たラムダはすかさず檄を飛ばした。

 

「貴様ら! 誰が手を止めていいといった!!」

 

そう言われるや否や少女たちはまた訓練に戻っていく。

それらを見届けるとワタルは笑みを浮かべつつ

 

「相変わらず厳しいな、ラムダは」

「生き残る力をつけるためです。それで、スカー様…改めて伺っても」

「うん。アルファから報告が来てたんだ。新入りが入るってね。…だから、その顔を見に来た」

 

そう言ってワタルはちらり、とローズを見やる。

視線を向けられローズは少しゾクリとした。

学校で何度か見たはずなのに、今の彼から伝わる圧は、普段と全然違って見える。

思わずローズは駆け寄った。

 

「わ、ワタルくんっ、説明してくださ───」

「気安いぞ貴様」

 

ギロリ、とラムダに睨まれローズは身体を震わせる。

ラムダは続けた。

 

「こちらにおわす方をどなたと思っている。この方こそシャドウガーデン第二の盟主…スカー様にあらせられるぞ」

 

そうラムダが言ったとき、ワタルの身体を黒い螺旋が包み込む。

螺旋が消えた時、そこにいたのは紛れもなくスカーだった。

 

「…わ、ワタルくんが…!?」

 

ローズに衝撃が走る。

ありふれたどこにでもいる男子生徒と思っていたのだが、まさかこんなことが?

現実で起こり得ていいのか?

 

「シャドウガーデンに来てくれて感謝する。色々辛い選択もあっただろう、それでもここを選んでくれたのには、勇気も必要だったと思う。だから、まずはありがとう」

「い、いえ。私は…」

「さて。そんでもっていきなりだけど、一旦ガルルセイバーを返してもらう。いいかな」

「あ、それは、はい」

 

そう言って持っていた袋と一緒にローズは借り受けていたガルルセイバーを手渡した。

彼は袋を受け取ると中から胸像のセイバーを取り出して、何やら頷いた。

そのセイバーを一度地面に降ろすと腰にぶら下げていた袋から、似たような胸像を取り出す。

色が灰色なことと、目の部分が何やらバイザーみたいになってる以外は、ガルルセイバーと同じだ。

 

「こいつは僕がガルルセイバー回収前に作ってたレプリカだ。…いや作ったはいいが全然使ってないんだけど…このまま放置するのも勿体無いからね。君にこいつを託そう」

「い、いいんですか…!?」

「もちろん。そして、これが僕にできる貴女への最後の贔屓だ。…あとは自分の手で掴み取れ、運命も、未来も」

 

ガルルセイバーレプリカの胸像を受け取り、ローズは感覚を確かめる。

まったくもってほとんど本物と同じだ、これほどまでに精工に作成するだなんて…

ワタル、もといスカーはローズがそれを受け取ったのを確認すると

 

「ラムダ」

「はっ」

「あとは任せる。遠慮はいらない」

「サー! イエッサー!」

 

そう言って彼もまた城の方へと歩いていく。

ラムダはローズへ向き直り、彼女へ言った。

 

「666番」

「えっ…?」

「ここでは番号が貴様の名だ」

 

刹那、ラムダの得物がローズの衣服を切り裂いた。

生まれたままとなった彼女は、思わず身体を隠す。

 

「な、なにをっ!」

「言ったはずだ、ここでは番号が貴様の名。もはや貴様は何物でもない、何もかも捨てて、純粋な兵士となれ」

 

刻まれた衣服とともに、一枚の紙が風に舞った。

それはまぐろなるどの包み紙。

ローズにとって一番大事な、彼との思い出が詰まった紙。

目にしたとき、抑え込んでいたシドへの想いが溢れてくる。

きっと、それは、初恋だったのだろう。

試合で戦い、命を助けられ、二人きりで旅行もして。

どれもこれもありふれてるかも知れないが、間違いなく、掛けがえのない大切な思い出。

一週間くらい前は、本当に添い遂げることを夢見てた。

本当に、夢だった。

 

「すべてを捨てろといっただろう」

 

目前で、その紙は刻まれた。

もう道が交わることもない。

刻まれた紙を追いかけるように手を伸ばす…しかし風に拾われたその紙片は無情にも空へと舞い上がる。

まるで、もう触れ合うことができない彼のように。

 

「…ぁ…あ、あああああああああっ…!!」

 

666(ローズ)の慟哭が、夜の闇にこだました。

*1
なお本当はちゃんとスカーの立像も立つ予定だったが偶然その場に居合わせることができたので全力で阻止した




めちゃくちゃどうでもいい余談なのですが、ゼンゼロのオリ主が言ってた特撮が好きな友人はワタルのことです。
転生する前はクラスメイトでした。そんな感じのやつ。

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