バイオハザード 裏切りと救済の狭間で〜 レオンの人生 作:masayumi
原作:バイオハザード
タグ:バイオハザード レオン S.ケネディ エイダ・ウォン クレア・レッドフィールド レオエイ レオクレ
運命の恋、などと言われても、顔をしかめながら銃を向け合い、揺さぶられ振り回され、疲弊しながらながら、愛し合うことは不幸だと思ったからです。
エイダがレオンのロマンスの相手に選ばれたのは、レオンが壊れた人間になることの 理由の ようなものが必要だったからと聞きました。
心が壊れた 孤独な エージェント。
かわいそうすぎると思いました。
レオンが「ヴェンデッタ」で「こんな人生は望んでなかった」と言っているのを聞いて、未来がなく、誰にも祝福されない恋(国際指名手配の犯罪者と、アメリカ政府のエージェントとの表に出せない恋)をしているより「デスアイランド」みたいに仲間に囲まれて笑っている方がいい、と思ったので。
ジルとクリスのカップルだったら、たとえ 結婚なんかしなくても、パートナーとして明るい未来を過ごしていける。
みんなに祝福される、みたいな感じなので、レオンもそうなって欲しいと、クレアとのカップリングを書いています。
だからこれからも、レオンが笑顔になる レオクレ カップルを書いていきたいです。
→クレア方面から見たレオンの人生です。
第1幕 ラクーンシティ、地下研究所(ナンバリングRE 2)
崩壊しつつあるアンブレラ社の研究所。
煙と火花が飛び散り、頭上の配管が軋む音が響く。
レオンは銃口をまっすぐに向けていた。
その先には、エイダ。
数時間前まで味方で、救いの手だと思っていた女。だが、真実は違った。
「エイダ 全て聞いたよ。君は FBI じゃない」
一瞬顔を曇らせるエイダ。
悲しそうな顔をして、切ない声で語りかける、
「そのまま渡せば良かったのに。G ウイルスを渡して!」
エイダは抜いた銃をためらいなくレオンに向ける。
「俺は捨て駒だったわけだ?」
正義を愛する純朴な 新米警察官の口に、初めて皮肉が浮かんだ瞬間だった。
「これが私の仕事なの。」
エイダは全く表情を変えない。
この女はプロだ……。
レオンの背筋が冷えた。
心の中で諦めがついたレオンは、銃を下ろすと手にぶら下げた、G-ウイルスのサンプルが入った試験管を、わざと揺らして見せる。
エイダの眼差しが鋭くなる。銃を構えたまま、沈黙が流れた。
レオンの喉が乾く。
その時、爆破音が響びき、レオンが立っていた鉄の高架が崩れた。
このままレオンが落ちれば、G ウイルスのサンプルも落ちてしまう。
「撃てよ……」
レオンは心のなかでつぶやいた。
『できないだろ?なにせ俺を撃ったらG ウイルスは地の底だからな』
エイダの指が、わずかに引き金をかすめる。
だが、撃たない。
それはプロのスパイだからか?
一人の女としてか?
だがその刹那、足場が崩れた。
エイダの体は奈落に引き込まれ、鉄骨にしがみつく。
G-ウイルスのケースが手から滑り落ち、深い闇へと落ちていく。
「エイダ!」
差し伸べられた彼女の手にすがりつく。
だが、彼女は手を離した。
「!」
「レオン、あなたは生きて……」
彼女の思いやりが滲んだ声と、切ない まなざしに胸が締め付けられた。
涙がこぼれそうになる レオン だが、次の瞬間 彼は見た。
奈落に落ちていくG ウイルスのサンプルを、真剣な目で追うエイダを。
先ほどの 切なげな女の表情は消え、そこには 冷徹なスパイの顔があった。
ああ…この女はプロだ。
それに比べて自分は、なんて弱くて惨めな生き物だ。
残ったのは空虚な手のひらと、胸を裂くような痛み。
呻き声を上げながら、レオンは必死に這い上がる。
彼女を信じたのは、愚かさだったのか。
それとも、信じたかった自分の弱さか。
炎に照らされた研究所の廊下で、レオンはひとり立ち尽くした。
彼の胸の奥で、初めての「裏切り」が深い傷として刻まれていった。
[newpage]
第2幕 ヨーロッパの辺境の村(ナンバリングRE 4)
アシュリーを探し屋敷を探索するレオンに、急に背後から襲いかかる影。
赤いニットドレス、ハイヒールのブーツ。
銃を構えたレオンの前に現れたのは、忘れられない女だった。
「エイダ……」
声が震えそうになるのを、必死に抑える。
あのラクーンシティから6年。
やはり生きていた彼女の噂を聞いたのは、エージェントとしての訓練中だった。
「久しぶりね、レオン」
艶やかな微笑み。
再会を喜ぶでもなく、ただ挑発するような声音だった。
「どういうつもりだ? ここで何をしている?」
銃口は彼女に向けたまま。
だが、内心では分かっている。
彼女の目的はいつだって任務、取引。
人間的な感情で語り合える相手ではない。
「相変わらずね。真面目で、融通が利かない」
エイダは軽く肩をすくめ、橋の手すりに身を預けた。
「彼女は手遅れよ。もう諦めなさい」
「俺の任務の邪魔をするな」
信じたくても、信じられない。
惹かれてしまうのに、突き放される。
その矛盾が、彼女に会えない間もレオンを苛んできた。
沈黙が、二人の間に重く降りた。
やがてエイダは踵を返した。
「また会いましょう、レオン」
赤い影が闇へと溶けていく。
銃を握る手が震えていた。
レオンは歯を食いしばり、吐き捨てるように呟いた。
「……くそっ」
再会の喜びなどなかった。
ただ、理解不能な女に振り回される苛立ちと、消えない迷い。
それが、彼の心に重く積み重なっていくのだった。
[newpage]
第3幕 空港にて(ディ ジェネレーション)
ハーバード ビルの SWAT の要請を受け、レオンは、逃げ遅れた人たち、その中に含まれる 上院議員を救うために現地に向かった。
襲い来るゾンビの中を切り抜けて、上院議員がいるらしい 部屋へ突撃すると、そこにいたのは 6年ぶりに再開したクレアだった。
「クレア……」
ラクーンシティで、シェリーと3人で手を取り合い、このまま 平和になったら何をしたいか 話し合っていた。
シェリーはクレアの養子になりたいと言い、どんな家に住みたいかなど彼女と2人で話していた。
そんなシェリーを、災害孤児が一時的に集まる施設に預ける クレアは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
兄を探している身の女子大生に、子育て などできるわけがない。
クレアのことだ。
おそらく、シェリーを家族にすることも本気で考えたろう。
俺は何も言わず、彼女の方に顔を向けて静かに横に振った。
そんなクレアが兄のクリスを再び 探しに出た後、俺はシェリーの安全を保証される代わりに、アメリカ政府のエージェントとなる道を選んだ。
ラクーンシティの夜を生き抜いた同士。
訓練中のエージェント候補生だった俺は、話すことも顔を見ることもできなかった。
そのまま 歳月が流れ、俺はもうすぐ28歳、彼女は26歳になっていた。
一緒にゾンビたちが蠢くロビーを作って上院議員を救出し、敵の陰謀渦巻く地下施設で再びクレアとともに戦い、勝利を収めた。
特殊部隊員 アンジェラに2人で手を振り別れを告げると歩き出す。
今回の事件では様々なものが心に浮かんだ。
こんな気持ちは久しぶりだった。
孤独と裏切りが当たり前だった、エージェント、 レオン ・S ・ケネディの仕事の中で、おそらくこれが初めての、周りの仲間全てを信頼して戦ったものだということが。
アンジェラ、今は亡き特別部隊の隊員たち。
そしてもちろん クレア。
厳しい戦いだったが、胸の奥では、長い間閉ざしていた何かが、わずかに解け始めているのを感じていた。
7年前のラクーンシティの惨劇。
そして1年前、スペインの村でエイダに翻弄され、愛着と不信感、裏切りへの恐怖に心をすり減らした自分。
あの時の疲弊は、今、ここにいる自分にはなかった。
無表情ながら、肩の力が自然と抜けた。
拳を握りしめたまま、ふっと息を吐く。
久しぶりの深呼吸。
まるで、長い間麻痺していた神経が、少しだけ目を覚ましたかのようだった。
ヘリが到着し、機体に乗り込む前、レオンはふとクレアを見つめた。
「……また会えるかな? 今度はその、もっと普通の場所で」
クレアは小さくうなずき笑顔で言った。
「ええ、そうね」
ヘリは轟音を立てて離陸する。
窓越しに見える緑のハーバードビル。
微かに揺れる空の風景。
レオンは肩の力をさらに抜き、無表情ながらも、確かに穏やかな安堵を感じていた。
[newpage]
第4幕 任務と友情の間(インフィニット ・ダークネス)
ホワイトハウスのロビー。
昼下がりの光が大理石の床に反射し、静寂の中に人々のざわめきが微かに混じっていた。
今回の仕事でチームを組むチームメンバーについて歩いていると、不意に後ろから、レオン 、と声をかけられる。
「クレア、久しぶりだな……」
ハーバード ヴィルで会って半年ぶりだろうか?
今仕事で海外にいるはずの彼女が、なぜホワイトハウスに?
彼女も微笑む。だが、目の奥には心配と戸惑いがあるのが見て取れた。
たくさんの言葉を交わしたい気持ちは山ほどある。
だが、任務のため、時間を割くことができない。
彼女が見てくれと渡してきたスケッチブックには、明らかに厄介事が描かれていた、
「……無茶するなよ」
彼女を守りたい気持ちと、任務の責任の間で、胸が締め付けられる。
連絡もままならないまま、作戦は始まる。
数日後、ホワイトハウスの暗い地下基地で、再び二人は顔を合わせた。
クレア、また 危険なことをやっているのか。
君はどうしてそう 俺を心配させるんだ。
俺はただ君に、穏やかな毎日を過ごして欲しいだけなのに。
戦闘を終え、基地から脱出した後、俺は小さなケースを手にしていた。
今回の事件の証拠となるものだ。
事件を解決させるためにそれを渡せ、表に出す、というクレアに俺が突きつけた答えはノー、闇に葬る、だった。
「ディナーの誘いに来てくれたのかと思った」
それは 軽口であり、願望でもあった。
彼女と知り合って長い。
何度も一緒に戦った。
しかし プライベートの時間はどれだけ過ごせただろう?
だが俺は エージェントだ。
俺はプライベートを一緒に過ごしたいという願望と、彼女への友情を捨てて、国家と、俺の信じる正義をとった。
そしてそれがその時、世界で最も信頼していた人間の背中を見ることになってもだ。
クレアは静かに背を向けて歩き出す。
レオンはその背中を見つめ続ける。
信頼できる友人、普通の生活、ピザを食べに行くような日常。
もう自分には手の届かない世界だと、改めて胸に言い聞かせる。
「……普通の生活は、俺にはもうない」
小さく呟き、闇の中を目指す。
それでも、少なくとも彼女の安全を願い、去らせることができたことに、わずかな安堵を感じた。
[newpage]
第5幕 ロマンスの夜
ニューヨークの高層ホテル。
任務の途中、情報の受け渡しのためにレオンはエイダと落ち合った。
豪奢な廊下を抜け、薄暗い部屋に入る。窓の外では満天の摩天楼が見えた。
エイダは迷いなく椅子に腰掛け、脚を組んだ。
「相変わらずね。任務に忠実で、真面目すぎる」
レオンはコートを脱ぎ、銃をデスクに置いた。
「遊んでる余裕はない。情報は?」
彼女は薄く笑い、胸元に挟んだ小さなケースを見せた。
「知りたいなら……これが答えの一部」
ウイルス関連の情報が詰まったディスク。
レオンの目がわずかに揺れる。
欲しいのは確かにそれだった。だが、差し出し方があまりに挑発的だ。
「……そっちは何が欲しい?」
「欲しいもの?」
エイダはゆっくり立ち上がり、レオンに近づく。
強い香水の匂いに息が詰まる。
「言えば与えてくれるの?面白い人ね……」
その瞬間、距離が一気に詰まった。
張り詰めた糸のような緊張感。
レオンの手が無意識に彼女の腕をつかむ。
「エイダ……」
強く 彼女の唇を奪う。
抱きしめた体をなであげると、そのまま 胸元に手を伸ばし、ケースを抜き取る。
そして彼女を自分の体から引き離した。
「……情報はもらった。これでお別れだ」
冷たく言い放ちながらも、胸の奥が苦しい。
彼女の表情が一瞬だけ曇ったのを、見逃さなかった。
「そう。やっぱり臆病なのね」
エイダは肩をすくめ、皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「……好きに解釈しろ」
ディスクを受け取ると、レオンは背を向けた。
振り返れば、何かを失う気がしたから。
ドアを閉める直前、ドアの向こうから彼女の声が追いかけてきた。
「また会いましょう、レオン」
返事はしなかった。
ただ胸の奥に残ったのは、言葉にできない迷いと
「彼女を突き放さなければならない」という痛みだった。
[newpage]
第6幕 東スラブ共和国 地下の再会(ダムネーション)
東スラブ共和国。
戦火に包まれた大統領府の地下基地。
崩れたコンクリートの中、レオンは銃を構えて暗闇を進んでいた。
闇と静寂、そして……
「久しぶりね、レオン」
背後から聞こえた声に、心臓が跳ねる。
振り向けば、黒いスーツ姿の女が、銃をこちらに向けていた。
その顔を、忘れたことなど一度もない。
「……エイダ」
銃口を彼女に向け返す。
互いに一歩も譲らぬ睨み合い。
数年前のホテルの夜が、鮮明に蘇る。
あの時、踏み込めなかった距離。
あの時、突き放した言葉。
「ねえ、あの夜の続きは、いつできるのかしら」
辛辣な言葉。
レオンの心臓が強く打った。
「今じゃないことは確かだ」
自分の心を隠し、鼻で笑うと吐き捨てるように言う。
「ひょっとして……私のこと、焦らしてるの?」
軽やかな声の奥に、棘がある。
非難とも、寂しさともつかぬ感情が、彼女の表情をわずかに曇らせた。
彼女はフックショットを使って中に舞い上がりながら行った。
「この町はもうすぐ浄化されるわ」
ラクーンの再来か?
空から魔王が降ってくるのか?
レオンが 皮肉っぽく笑った。
その言葉を背中で受け止めながら、闇の中へ歩き出す。
振り返らない。
そうすれば、また揺さぶられてしまうから。
だが、胸の奥では理解していた。
どれだけ拒もうとしても、彼女の存在は消えない。
その矛盾こそが、俺を最も疲弊させているのだ。
[newpage]
第7幕 空白の5年間 友情の再生
ホワイトハウスの陰謀が、静かに表舞台に現れた。
テレビのニュースでは、アメリカと中国の関係を揺るがそうとした一部の関係者が逮捕されたと報じられている。
クレアはテレビ画面を見つめながら、胸の奥で小さな安堵を感じた。
「……レオン、あの男を止めたのね」
かつてホワイトハウスの事件で、互いに背を向けた決別の記憶。
その時の悲しみや喪失感が、今や一瞬にして薄れるような気がした。
任務のために友情を断念せざるを得なかったレオンも、5年の月日をかけて、確かに事件を解決してくれたのだと理解する。
彼女はすぐに電話を取り出した。
受話器越しに、少し照れくさそうに声を震わせながらも、確かな喜びを込めて言う。
受話器から聞こえてきた声は、間違いなくかつての戦友の声だった。
「テレビで見たよ。レオン……事件、解決したのね」
向こうから聞こえてくる落ち着いた声。
「ああ、無事に。これで 世界は安泰だ。君にも何事もなくてよかった」
5年の空白。
そんなものがなかったかのように、電話越しでも、互いの存在を信じられるできる感覚が伝わる。
これまでの断絶、もどかしさ、すれ違い、すべてが少しずつ溶けていく。
「……よかった。本当に」
クレアは小さく息を吐く。
「……電話でしか話せないけど、これからも友人でいよう」
レオンの声は、以前のような冷たさはなく、穏やかさを帯びていた。
画面越しに見た報道の一件が、二人の心をつなぎ直す。
それは大きな戦場や任務の中ではなく、日常の静かな場所で起きた小さな奇跡のようだった。
しばらく沈黙が流れたあと、クレアが軽く笑う。
「そうだ、ディナーでもどう? あの時に行けなかったから」
「おいおい、君はニューヨークにいるんじゃないのか?俺は ワシントンだぞ。」
「そうよ、この電話で一緒に」
「……電話で?」
レオンは予想外の申し出にポカンとする。
「ポテトチップスとビールを持ってくるわ。買ってきたベーグルサンド もあるし。レオン は何かある?」
言っている内容がわかったレオンは、微かに笑みを浮かべ、冷凍庫を開けてピザを取り出す。
「いいだろう。じゃあ、乾杯しよう」
画面越しに、クレアも同じように手元の飲み物を持って微笑む。
「こんなふうに一緒にディナーができる日が来るなんて、思わなかったよ」
「うん、私も。でも、少しでもこうして話せるだけで嬉しい」
ピザを頬張り、飲み物を口に運びながら、二人は昔話や軽口を交わす。
「レオン、5年前より少し丸くなったんじゃない?」
「……ああ?丸くなったって、俺が太ったってこと?見えるのか?」
クレアの笑い声が電話越しに響き、レオンの肩の力がさらに抜ける。
孤独で疲弊していた日々を思い出しながらも、今は安心できる時間。
任務や陰謀とは関係のない、ただ友人としての会話。
それだけで、レオンの心は静かに満たされていった。
「また近いうちに会おう、クレア」
「うん、絶対に。今度はもっと普通の場所で。そうだ、近いうちに 兄さんにも会って」
電話を切るとき、レオンは小さく息をついた。
肩の力は抜け、久しぶりに味わう穏やかな安堵が、心の奥に広がっていた。
[newpage]
第8幕 邂逅 ワシントン支所にて
ワシントンD.C.郊外、BSAA支所のロビー。
昼下がりの光が大理石の床に反射し、白い壁を柔らかく照らしていた。
クレアは、どこか緊張したような、それでいて嬉しさを隠せない表情をしていた。
隣を歩くレオンは、無言のまま。
しかし、その眼差しの奥には、過ぎ去った戦場の残像がまだ焼き付いていた。
廊下 歩く男たちは皆、軍服、戦闘服に身を包んでいる。
それを見ると、自分が 訓練生だった頃を思い出す。
「ここにいるの。」
クレアが足を止め、指で奥の執務室を示した。
ドアが開き、屈強な男の影が現れる。
鋭い視線を持ち、それでいて人懐っこい笑みを浮かべる男、BSAAの 生きた伝説、クリス・レッドフィールドだった。
「ようこそ、レオン・S・ケネディ。」
互いに名乗る必要もなかった。
彼らは既に、クレアを通して存在を知っていた。
しかも お互い、対バイオテロの世界では知らぬもののない凄腕の戦士だ。
ただ、目の前に立つことでようやくその噂の存在が現実となる。
10分。
2人に与えられたのは、それだけの短い会話だった。
「バイオテロは、人間の欲望と傲慢が生み出す。」
クリスは机の上に置いたファイルを指で軽く叩きながら言った。
「だから俺は、可能な限りの力で、それを叩き潰す。」
レオンは静かに頷く。
「俺も同じだ。俺の始まりはラクーンシティだった。そこで クレアと出会い 一緒に戦ったんだ
。でも ラクーンシティは知っての通りだ。これ以上、俺は人の命を失いたくない。」
声にわずかに滲む苦渋を、クリスは理解するように見つめ返した。
そして、不意に二人の間に笑みが生まれる。
重苦しい会話であっても、同じ方向を見ていると気づいた瞬間に、心の距離は一気に縮まった。
「……あんたとは、いい仲間になれそうだ。」
クリスが手を差し出す。
レオンは短く息を吐き、しっかりとその手を握った。
憎しみの連鎖を断ち切るため。
撲滅へ全力を注ぐため。
彼らの間に交わされた言葉は、わずか数分だった。
だが、その約束は何年にも渡って心に残る確信となった。
支所の外に出ると、午後の光がやわらかく降り注いでいた。
レオンの横で、クレアはどこか安心したように笑みを浮かべる。
「……やっと会わせられた。」
彼女は小さく呟いた。
「一度でいいから、レオンに兄を紹介したかったの。私の自慢の兄だから。」
レオンは驚いたように彼女を見やり、ふと笑みを返す。
「……ありがとう、クレア。」
その表情は、クレアにとって久しぶりに見る安堵の笑顔だった。
彼女は幸せそうに歩き出す。
まるで、兄と友をつなげられたことが自分の使命だったかのように。
そしてレオンは思った。
この絆が、これから先の戦いで必ず力になる。
ワシントンの空は、どこまでも高く青かった。
[newpage]
第9幕 なぜ、俺を……(ナンバリング6)
ヘレナは妹・デボラの名を叫びながら、繭の中で変貌していく姿を見つめるしかなかった。
その刹那、背後から飛来した矢が、怪物と化しかけたデボラの胸を貫いた。
「……エイダ。」
レオンの口から、その名が自然と零れ落ちた。
紅のブラウスをひるがえし、影の中から現れた女。
彼女の瞳は、幾度となく欺かれ、そして救われてきた過去を呼び覚ます。
多賀レオンはすぐに気を取り直した。
シモンズと行動を共にしているという噂が、冷たい疑念となってレオンの指に銃を握らせる。
「お前が……シモンズに雇われているのか?」
低く、押し殺した声。
エイダはわずかに微笑むと、ためらいもなく一歩、また一歩と彼に近づいた。
赤い布が闇の中で揺れるたびに、レオンの視線がわずかに揺らぐ。
「答えを知って、どうするの……レオン?」
挑発とも、慈しみとも取れる声。
引き金にかけたレオンの指が震える。
次の瞬間、彼女は小さな金属片を差し出した。
光を帯びるデータチップ。
「これを持っていきなさい。あなたの無実を証明できる。」
レオンの目が大きく見開かれる。
なぜだ。なぜ彼女が自分を――。
「どういうつもりだ、エイダ……?」
かすれた問いかけ。だが答えは返らない。
エイダは背を向け、軽やかに階段を上がっていった。
夜風が吹き込み、屋上に出るとヘリの轟音が空気を震わせる。
赤い影が、旋回する機体に飛び乗った。
「エイダ!」
レオンの声は、プロペラの騒音にかき消された。
なぜ……俺を助ける?
シモンズと組んでいるのなら、ここで撃ち殺すほうが筋じゃないのか?
東スラブ共和国でお前が奪ったプラーガは……奴のためじゃなかったのか?
なのに、なぜ証拠を俺に渡す?
俺を利用するためか?
俺を翻弄するのが、そんなに楽しいのか?
それとも……本当に俺を……?
わからない。いつだってそうだ。
信じたい気持ちと、疑わざるを得ない現実。
その二つの間で、俺は何度も彼女に傷つけられ、そして救われてきた。
……俺を見ているのか。
それとも俺をただの駒として扱っているのか。
答えは闇に溶け、夜空を切り裂くヘリは遠ざかっていった。
「何をしてるの、レオン。早く追いかけなさい」
通信機からヘレナの声が聞こえる。
だがレオンは首を横に振る。
しばしの沈黙のあと、重く落ち着いた声で言った。
「いや……いいんだ。」
「拘束しなくていいの? 国際指名手配犯よ。今ならまだ間に合うわ。早く追って!」
「エイダの拘束の役目は、クリスに託した。俺たちには俺たちの任務がある。」
彼の視線は、闇に消えたヘリの残光を追っていた。
心の奥で「なぜ、俺を……」という問いが響き続ける。
だが次の瞬間、迷いを振り払うように顔を上げる。
その瞳に宿ったのは、揺るぎない決意だった。
大統領の名誉を守るため。
テロを止めるため。
[newpage]
第7幕 ― 新しい仲間と共闘(ヴェンデッタ)
オレゴンの山奥。
雪まじりの 冷たい風が吹いている。
レオンはホテルのバーで、酒瓶を手にしながら沈んでいた。
DSOチームの仲間をすべて失った先日の惨劇。
あれから、何度も頭の中で繰り返し死者たちの顔を思い浮かべていた。
「小さい頃、俺はどんな大人になりたかったのか……」
警察官の制服を初めて着た時。
小さい頃からの夢が叶ったと胸を躍らせた。
そのまま着任初日の ラクーンシティで、全てが変わった。
次々と襲い来るゾンビ、タイラントが頭に浮かぶ。
そしてあの女の顔が。
「少なくとも こんな人生は望んでいなかった……」
小さく呟く。
孤独と悲しみを慰めるのは、ただアルコールだけだった。
その時、レストランのドアから大柄な男と、対照的な小柄な女の2人が現れる。
「レオン、協力してくれ。クリスだ」
振り向く 気力もなかった。
またか、またなのか!
うんざりしながらも、覚悟を決めるしかない感覚が胸に走る。
逃げるわけにはいかない。
俺は常に誰も信じることができない世界で、一人で戦う。
クリスはいい仲間に恵まれているが、任務のためにそれを失う。
俺たちは状況も戦い方も違うが、違う形の地獄を抱えている。
クリスとレベッカ、BSAAの仲間たちとともにロサンゼルスへと向かうオスプレイの中、レオンは冷え切った手を握り直す。
オスプレイの中で、簡易な作戦会議が始まる。
互いに情報を出し合い、役割を確認し、敵の動きを想定する。
いつものDSOでの作戦では、孤独に自分を戒め、すべてを自分で抱え込む必要があった。
しかし今は違う。
「レオン、こっちをカバーしてくれ」
「了解だ、ボス」
簡単なやり取りの中で、互いを信頼し協力する。
孤独に押し潰されずに任務を遂行できる。
その感覚に、レオンは不思議な暖かさを覚えた。
戦場でさえ孤独ではない。
仲間がいる。
それだけで、嘘のように心が軽くなる。
ロサンゼルスでの事件を解決し、クリス、レベッカと共にオスプレイで帰還する中 思った。
飲んだくれの休暇は、もう必要ない。
「明日から、ちゃんと生きてみせる」
心の中でそっと誓う。
孤独の中で任務を背負うのではなく、仲間と協力し、笑い合いながら戦う。
それが、今の自分に与えられた新しい日常。
少しずつ取り戻すべき日々の始まりだった。
[newpage]
第8幕 孤独から信頼へ(デスアイランド)
夜明け前の海は静かで、波がほのかに月明かりを反射している。
レオンは単独で水中バイクに跨り、DSOからの指令を受けて島へ向かっていた。
孤独の中、任務だけが彼を支えている。
デスアイランドの廃墟のような通路を進むたび、緊張感が身体を張り詰めさせる。
しかし、すぐに伝説のBSAA隊員ジル・バレンタインと出会う。
初対面ながら、彼女がクリスの仲間であり、超有名な凄腕の隊員だと知っていたレオンは、無言のまま自然に共闘の態勢を取る。
「レオン、先に進むわよ」
ジルの短い指示に、レオンは頷く。
彼女の動きは正確で冷静、だが仲間を守るという意思がはっきり伝わる。
牢の中で人質となっていたクリスとクレアを発見。
「クリス! クレア!」
短い呼びかけで、彼らは安堵と驚きの表情を浮かべる。
レオンは迅速に鍵を開け、人質を解放する。
「これで少しは仕事が楽になるな」
皮肉交じりの軽口を呟きながら、仲間たちと共に出口へ向かう。
刑務所の外で待ち受けていたのは、巨大なサメ型BOW。
戦闘は熾烈を極めるが、互いの信頼と連携で乗り越えていく。
ジル、クリス、クレア、レベッカ、それぞれの動きを見極め、助け合いながらBOWを制圧する。
勝利の余韻に浸りながら、向かえのヘリが着陸すると、レオンの顔からは久しぶりの笑みがこぼれた。
「よし、みんな無事だな」
レオンは、任務の緊張だけでなく心の中に温かさを感じる。
孤独な戦士ではなく、信頼できる仲間と笑い合える戦士。
それが今の自分だと実感する。
ヘリの中で、レオンは皮肉のない軽口を仲間たちに投げる。
「おい、ジル。次は俺に見せ場を譲れよ」
「それは無理ね」
と笑うジル。
クリスもクレアとレベッカも微笑む。
レオンの心は重くもなく、孤独でもない。
ただ、安心と温かさに包まれている。
その時、こちらを見ている影の ようなものが、ヘリの窓から デスアイランドを眺める クレアの目に映った。
女性…?いや 気のせいね。
クレアは気を取り直すと、みんなにコーラを配り ヘリの中で 軽い 乾杯をした。
乾ききったレオンの喉を、コーラが潤してくれる。
不謹慎かもしれない。
だがまた今度 命がけの任務があったとしても、自分は 乗り切れそうだ。
今の自分には、バイオテロのない世界を目指すという、共通の目的を持った仲間がいる。
こんな人生は望んでいなかった。
だが こんな人生にも、未来があるように今は感じる。
レオンはもう一度、一人一人の仲間たちの顔を見渡す。
そして初めて 、ラクーンシティで死ななかったことを神に感謝した。