闇の華は偽りに咲く 〜見た目ラスボスの美少女たちは、俺の前でだけポンコツに戻る〜 作:フレラガ
「……」
「ミライ、魔力は温存しておくのよ?」
「は、はい! 分かりました!」
未開区域に入っての道中。平和な今までと違い常に緊張が漂っている。ザミアは無言で警戒し,アメリアとミライも魔力の相談をしながらいつでも戦闘に入れるように備えている。
小さな魔物が襲いかかってくる程度であれば追い払えるが、どこで大物が来るかも分からない。常に緊張に晒され続けているこの状況では、訓練されている馬といえど消耗が激しい。
だからこそ、ここで俺とリズのふたりでの提案をする。
「……先行?」
「ああ、俺とリズが道の安全を確保する。その間に休憩をしておけば、今後の道中が楽になるだろ?」
「でも、いいの? ふたりも大変でしょ」
「大丈夫」
その言葉を聞いて悩んだようなザミアだったが……頷いて許可を貰う。
ザミアも、ここから先は安全に気をつかいゆっくり進む法が消耗も激しくなるからこそ、誰かがリスクを取らないといけない事を判断してくれたようだ。
「んじゃ、行ってくる」
「任せて」
「はい~、お気を付けて~」
司書さんにも見送られながら、俺はリズについて馬車を離れて行く先の斥候をする。
……この提案は、何者かによる人為的な妨害が企まれている可能性を考えてもある。誰かの罠があるというのであれば、分断された際に何かが起きるのではないか?
そうであれば、その際に相手の存在をはっきりとさせた方がマシだとリズと相談した結果だ。最悪、襲われても俺が犠牲になる可能性だけですむ。
(まあ、言ったら怒られるだろうけどな……)
どうしても思考の癖が抜けない。自分が役に立てないのならば、張るべきは命だろうという考え方は染みついている。このコミュ力に問題のある彼女たちを残して死ぬわけにはいかない。せめて、なんか上手くやれる下地を残さないと……
「どうしたの?」
「ああ、いや色々と考えてた」
余計な思考に頭を埋めていると、リズからそんな風に声をかけられる。どうにも、このことについて考えると変な方向に思考がいってしまってよろしくない。
……俺も緊張しているのかもしれない。未開区域の森林の中で、下手に考え込めば悪い方向に進んでいくのは当然か。
「あの木を倒して誘い込んできたのは、どういう相手だろうな。リズとして予想はあるか?」
「分からない。山賊?」
「……山賊なぁ。未開区域を根城に出来るような奴らがいるなら、そっちで食えるんだよな」
未開区域では常に魔物の脅威にさらされる。だから、山賊や盗賊と言われる存在は、居たとしても管理区域だ。未開区域を根城にする盗賊などがいないとは言わないが……今回に関してはその可能性は薄いと考えている。
(王都に続く未開区域の道だ。襲えば討伐対が組まれる。更に通る人間の護衛もレベルが高い。割に合わない)
人を襲うという方法を選んだ盗賊が、このような危険な魔物が現れる道を選んで通るような実力に自身のある怪物を相手にするリスクの高い場所を選ぶ可能性は低い。もっと入り口だったり俺達が進んでいた道中の街道の方が可能性は高い。
「……んー、分からん」
「大丈夫。私が守る」
……情けないような心強いような……複雑だ。
ふと、俺はリズに確認を取るべきことを聞いておく。
「……リズ、もしも相手が犯罪者だったりしたらどうする?」
「捕まえる」
即答。そこには何の躊躇いもない。
……捕まえるか。その言葉になんというか、ちょっとだけ安心してしまった。
「まあ、リズはそうだよな」
「?」
「一応、言っておくが……いざという時に正当防衛は成立するからな。もしも、どうしても自分が危ないって状況なら相手を殺すのも覚悟していい」
「……それは、怖い。おじいちゃんもよくないって言ってた」
無表情……ではない。リズなりに、恐怖を感じているように表情を変える。
冒険者というのは魔物だけではない。時には未開区域に逃げ込んだ犯罪者や、戦果を奪おうとする悪徳冒険者を相手に戦うことになることもある。その際には命を奪うことは許されている。
……時には害意を持った人を相手に戦う事もあるのだ。
「分かった。なら、その時には全力で逃げて皆と合流するようにしよう。あくまでも、権利があるだけだ。選ばなくても良い手段だからな」
「ん……ユーマは経験はある?」
少しだけ落ち込んだような声で言うリズ。
……恐らくだが、言いつけ以上にリズ自身が同じ人を相手にするのを怖がっているのかもしれない。手段としてはあるだろう。だが、リズ自身が優しいのだ。まあお爺ちゃんの言いつけで変な方向性になっているところもあるが。それでも、俺は彼女の優しさを好ましく思うから否定をしない。
「俺もない。まあ、覚悟はしてるが……俺は弱いからなぁ」
まあ、そういうわけだ。覚悟をしても倒せないという悲しい結論である。
「リズは選んでもいい。捕まえて警備に突き出すっていうのは正しい。だけど、生け捕りってのは危険が大きい。だから、リズは自分を大切にしてくれ。それは俺との約束だ」
「うん。約束。ユーマも自分を大切にして」
「……ああ、分かった」
先程、言った手前否定出来なくなってしまった。
……それでも、正しいリズの言葉に頷いて俺は彼女と約束をするのだった。
「倒した」
「お疲れさま……こっちは特に動きはなしだ」
次なる休憩所候補の場所を見つけて、周囲の露払いをする。周囲で獲物を狙っていた小型の魔物は既にリズによって討伐されたようだ。
斥候であるリズは、こうした戦いで言うならうちのチームでは誰よりも強い。凶悪な魔物になれば魔力によって異常に強化された皮膚は岩のように硬くなり、吐息には毒を混じらせる。
しかし、そこの段階まで至らない魔物であればリズのもつナイフでもアッサリと倒す事が出来る。言ってしまえば、火力と言う分かりやすい問題がなければリズに勝てる魔物などそうそう存在しないのだ。
(……まあ、斥候自体が魔物対策のスペシャリストだったらしいからなぁ)
王都に向かいながらの道中で懐かしい記憶を思い出す。
『知ってるか? 冒険者ってのは俺達斥候のことを呼んでたんだよ。元々は危険を察知して、露払いをして開拓をするために道なき道を掻き分けるスペシャリスト。それが俺達ってわけだ』
一度だけ行った王都への道中で保護した銀等級冒険者のひとりから聞いた話だ。
『というわけで斥候になれ。斥候こそが最高の職業だ。分かるか? 便利屋だの雑魚狩り専門だのスカしてるのがモテないだの言われるのは全て風評被害だ。な? わかるだろ? というか魔物を打ち倒すのは本来は別の話なんだよ。未開区域を切り開く職業として……』
……ああうん。余計な記憶まで蘇った。だから今まで思い出さなかったんだな、俺。
「ユーマ?」
「ああ、いや。リズは本当に斥候として成長したなと思ってな」
「ん」
嬉しそうにするリズ。実際、俺が見てきた中でもかなり優秀だ。
まあ、銅級ラインでしかないが……もっと慎重に探りながらコソコソと移動するのが多くの斥候だ。しかし、リズは違う。最も効率的で的確なルートを選び取り、最速で自分の仕事をこなす。リスクはあるかもしれないが、それを補う速度なのだ。
「しかし、リズは毎回あんだけ早く動いてミスがないのが凄いな。俺なら半分の速度でもミスしまくるぞ」
実際に見たことのある銀等級冒険者でも、リズほどの速度はない……というか、リズがおかしいと言えばおかしい。
木の上を飛び跳ねながら、完璧に情報を記憶して俺達に運んでくる。常に最高速度でミスなるマルチタスクをこなす。自分で考えて何かをするのは苦手だが、自分がやるべき役割がはっきりしていれば時間内にこなしきる……冒険者じゃなくても成功しそうなレベルだ。
「スキルのせい」
「リズのレアスキル……『才気煥発』だっけか。それが関係してるんだな」
「ん」
スキルの持ち主から、能力について話を聞ける珍しい機会だ。なにせ、スキルは感覚による者が多く人によっては全く話が変わってしまう。それに、この世界の人間からすれば足が速い、口笛が上手いのような特技の延長線上に存在するのだ。
特にレアスキルは、貴重であり中々きく相手がおらず、あまり他人に話さない事が多い。だからこそ、リズから教えてくれるのは嬉しい。
「でも、せいっていうのは?」
「お爺ちゃんがいなかったら、私は死んでたから」
「……は?」
「だから、このスキルは嫌い」
「それってどういう」
思わず足を止めてリズに話を聞こうとして……
「……っ!?」
リズに俺は投げ飛ばされる。逆鱗に触れたのかと思ったが、俺がいた場所に数本のナイフが降り注いだ。
「は!?」
「敵」
……どうやら、俺達は謎の襲撃者に狙われる事になったようだ。