オルクセン自動車史〜世界は如何にして白エルフの作った自動車に憧れたのか〜   作:味家

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ヴィッセルワーゲン タイプ28

ペルシェたちがセンチュリースターに視察に行ったあと、公式にオルクセン連邦から国民車計画を一旦凍結、工場設備も一旦戦車と軍用車の生産ラインに変更するという事になった。

ペルシェはかなり反対していたが凍結のかわりに、工場設備の建設にかかる費用と工員は国家と陸軍が出すという事になり、必要が無くなったらヴィッセル・ワーゲン社に明け渡すという事になった。

この時期にはヴィッセル・ワーゲン社が正式に設立され、トップにはヴィッセル社社長のヴェスト・レギンが兼任で務める事となった。

この時もペルシェはかなり怒っていたが、レギン息子の懸命な説得と前述の条件を引き出した交渉術でなんとか宥める事に成功した。

ペルシェは取締役・設計責任者として名を連ねる事となり、国民車計画は見事に暗礁に乗り上げたが土台は完成したという事だ。

 

この時ペルシェとラーべはアスカニアに近い事務所兼自宅からヴィッセン市へと疎開していた。

2人は高所得者向けの郊外の一軒家をヴィッセル社から提供されたが断り、工場労働者向けの工場に近いジードルング…所謂集合住宅に移り住んだ。6階建の1DKで風呂シャワートイレ別。単身者用としては十分な広さであったが、寝室に2つベッドを置いたら手狭になるのでオーク用ベッド…人間族で言うダブルサイズのベッドを用意して2人で寄り添い寝る事にした。

別の部屋も用意すると言われてたがペルシェは

「久しぶりに抱き合って寝るのも悪くない」と断った様だ。

 

そして大体一年が過ぎ、星欧全体の情勢が一層悪くなった頃。

 

オルクセン北部の軍事訓練所に一台の車が走っていた。

ペルシェが開発していた国民車とは異なるプレスラインが入っている箱型でオープントップのボディ、オフロードを走る為の高い車高、現代でいう小型のバギー車の様な車であった。

 

その車こそがヴィッセル・ワーゲン タイプ28

 

キャメロットが制作を依頼した軍用車の完成系である。

 

箱型のシンプルなボディから通称「キューベルワーゲン(バケツ自動車)」とも呼ばれ、後の連合軍が戦うアウェルカ戦線やグロワール南部戦線、そして少数であるが東部戦線でもロヴァルナ軍が投入し戦時中に大きく活躍、後世の各国軍用車に多大なる影響を及ぼした。

 

ボディは軍用車だが中身はほぼオルクセンの開発中の国民車と同じである。しかし、最初の車高を高くしてボディを軍用車仕様にしただけの試作車を見てキャメロットの軍人が、

 

「広い土地を優雅に走れそうな車ですなぁ。」

 

と言い、全てを察したオルクセン側は1.8m以上あった全幅をコンパクトにする為にシャーシを新たに開発する事になった。

そこで使われたのがペルシェが一番最初に作っていて国民車の試作品として最初に事務所から引っ張り出された車…元は他のメーカーの試作車ではあるが、そのシャーシが求められていた物と合致していた為、それを改良して使う事となった。

また、広い車内を実現する為に使われたシフト類も信頼性の観点からフロアから伸びるシフトレバーになり伝達もワイヤーではなくてロッドタイプになった。

そしてこれは機械式LSDが付いたパートタイムの四輪駆動で悪路走破性は車体の軽さも相まって抜群、エンジンも空冷で後部にある為前からの銃撃に耐え、どんな環境でも走れるという車となった。

 

そして水陸両用の軍用車「ジュビムワーゲン」も開発された。こちらはヴィッセル・トラクターの技術を使った軍用車であり、ギアを変えるとプロペラが作動して水上を移動できるというものになっていた。

 

キャメロットはこの試作車の性能を見て手放しで素晴らしいと賞賛し、国民車工場が完成する以前から軍用車としてヴィッセル社内で先行生産、納入されることとなった。

 

これを見たオルクセン陸軍もオルクセン仕様に改造されたキューベルワーゲンを導入する事にし、こちらは元々の国民車の設計を使用した陸軍向けのオーク仕様、内務省国家憲兵隊向けの輸出用と同じキューベルワーゲンを導入する事が決定した。

 

今回、軍事訓練所でこの車が走っているのはその習熟訓練なのだ。

 

「おお!これは凄い!これならどんな道でも走れるぞ!」

オーク仕様のキューベルワーゲンに楽しそうに運転するのはオルクセン陸軍最高司令官、アロイジウス・シュヴェーリン元帥。その隣には頭が揺れて気分が悪そうな国軍参謀本部総長のエーリッヒ・グレーベン、後部座席には国家憲兵隊隊長のイレリアン隊長とアンファングリア騎兵師団長代理のラエルノア・ケレブリンが顔を強張らせ、ボディにしがみつきながら乗っていた。

 

キューベルワーゲンも一応は4人乗りであるが大柄なオーク2名が乗って大丈夫かと皆思ったが、キューベルワーゲンは軽快に走って行く。正に狙った通りの性能を発揮したのだ。

 

「楽しそうだねぇ…」

ペルシェはシュヴェーリンの運転よりもその同乗者をみてニヤニヤしている。その隣でラーべは心配そうな表情をしていた。

写真には残っていないがラリーの様なジャンプまで決めていたのだからシュヴェーリンはさぞかし楽しい一時だったのだろう。同乗者にはたまったもんではなかったが。

 

「はっはっは!最高じゃった!わしも個人的に一台貰おうかの!」

満面の笑みを見せるシュヴェーリン、その後ろでは3名が倒れて介抱されている。

ラーべやヴィッセルワーゲンのドワーフ達は敢えて目もくれずに走行後のキューベルワーゲンのチェックを行っている。

「そう言われなくても、こんなのよりもう少ししたらみんなに乗ってもらえる様な物が出せますよ。」

「おお、そうじゃったな!それは失敬した!…おい!マルリアンも乗らんか!楽しいぞ!」

シュヴェーリンが興奮気味に声を掛けた先には内務省国家憲兵隊顧問のダリエンド・マルリアンが憲兵隊の兵士数名と共に居た。正にエルフの少女という風貌をしており、ペルシェ自身もかなり若い見た目で止まってしまっているがマルリアンを一目見た時最初は「エルフの子供…あぁ小っちゃいおばちゃんやった。」とか思ったそう。

「うむ、前線へ兵力や物資を迅速に届けるという面では素晴らしい物だな。馬車よりも速度も高いし、もう一つのは水上も走行出来るという…成程、他国が先んじている物をこの様な完成度で作成出来るのは素晴らしい物だな。」マルリアンは冷静に言った。

「但し…余り興味が湧かないな。それに、じいさんの運転では乗りたくない。」

「なんでじゃ?わしらがちゃんと新しい物に触れなければ、下も扱おうとは思わないぞ。」

「確かにその通りたが…今日はやめておこう。ちゃんとじいさんが乗ってくれたんだ。後は下に乗ってもらおう。」

「そう言わずに乗れば良いのにのう?ペルシェ殿?」

「ええ…」ペルシェは頷く。

「見るだけ、言葉だけ、学ぶだけでは感じれないものはたくさんあります。実際にやってみて、直接触れて、体験してそれでやった方が絶対に感じる物は大きいと思います。どれだけ事務所で図面と睨めっこしてやっとこさ完成して乗ってみたらやっぱりダメだったなんてありますからね…車作りなんて、それの繰り返しですから、やってみないと分からない所なんて沢山あるんですよ。」

「まあ…確かにそうだ。その通りだ。まあそれはじいさんの方がよくわかるのだろうな。」

シュヴェーリンはマルリアンの問いにうむと頷いた。

「ですから、今あたしはこの車に対して乗ってみて素直な感想が欲しいんですよ。だからマルちゃん……さんにm」

「おい今私のこと『マルちゃん』って言わなかったか!」

マルリアンはカッと目を見開く、やってしまったという顔のペルシェ、爆笑するシュヴェーリン。

その近くで車のチェック中のラーべか吹き出して肩を振るわせ、他のドワーフ達を困惑させていた。

 

この時、オルクセンで習熟訓練がされていたのはキューベルワーゲンだけではなかった。

キューベルワーゲンや大型トラックで牽引する野外炊事車、名を「Fk-97」と言う。ゴムで作られたタイヤを装備した人間族で言う大型の炊事車、これでもオルクセンでは「小型」なのだから驚きだ。

燃料は灯油を用いた物であり今までよりもずっと使用が楽になっており、冷却式刻印魔術版が搭載された保冷トラックと共に行軍する。

こちらもキャメロットに輸出されて使用されたそうだ。

 

本日は調理訓練として秋津洲海軍とオルクセン海軍の交流時に伝わったカレーライスを調理していた。

「ハジメチョロチョロナカパッパ…」技術がいる秋津洲産、オルクセンの農事試験場育ちの白米を魔法を唱える様に呟き、炊事車で炊飯する調理班のオークの隣で別の炊事車でブイヨンで煮込んだジャガイモ、人参、鶏肉のスープに小麦粉とカレースパイスをブイヨンで伸ばしたカレールーを入れるエルフ。またその近くで缶詰のヴルストを湯煎する者、付け合わせのサラダを作る者と賑わっている。

誰かが言ったかオルクセンは秋津洲の次に食事に拘る国、軍事糧食だろうと本気である。

「うん、この匂いだーっ!炊けたぞ!炊けたっ!」炊飯担当のオークが蓋を開けると艶々と輝く銀シャリがお目見えする、そしてスパイスの香りも訓練所に広がって行く。

今回の献立はヴルスト付きのチキンカレーライスにサラダと最近大規模養鶏で値段が下がったゆで卵。

「美味い!」

「コメの炊き加減も最高!」

「カレーもちょうど良い辛さで最高だ!」

「これはもう定番だぜ!」

皆が美味い美味いと舌鼓を打ち大多数がお代わりを希望するなどカレーライスは大絶賛。

そして午後の訓練も順調に進み、今回のキューベルワーゲンと野外炊事車の訓練は文句なしの成功に終わったのだった。

 

無論この後輸出用キューベルワーゲンは軍用車として星欧を駆け回る事になる。

そのキューベルワーゲンが駆け回った後の星欧には、このシャーシがベースとなった自動車が2台走る事となる。

 

一つは戦後西アスカニアの産業支援として作られた人間族用タイプ1「ヴィッセル・ワーゲン タイプ04」、通称ビートル。

 

そして、ペルシェが自身のブランドとして初めての自動車「ペルシェ365」である。

 

 

 

さて此処からはどの記録にも残って無い所謂オフレコの様な者である。

 

 

昼食が終わった午後の習熟訓練、先ず最初に気付いたのはイレリアンであった。

ペルシェと2人並んで話し合っているラーべを何と無く見ていた。

ラーべはこの様な表舞台には出る事は少なく、ペルシェの裏方として支えている側面があった。

なのでペルシェの相棒兼助手が見れる事が少ないのでどの様な人物かと見ていたのだ。

エルフによくある金髪蒼眼、髪をポニーテールで纏めていて、どこか目元は力強さを感じていて…

 

イレリアンはハッとした、この顔、何処かで…と、同時に瞳を潤わせた。

「まさか…いや、本当に…」

イレリアンは本部に居るマルリアンの元へ向かった、考えるより先に体が動いた。

本部でマルリアンはシュヴェーリン以下オルクセン陸軍と話し合っており、突然来た涙目のイレリアンに驚きの表情をしていた。

「マルリアン閣下…少し、確認して貰いたい事が…ラーべさん…ラーべさんを見てもらいたいのです。」

「ああ、ペルシェの隣のやつか…」

「よく、良く見てもらいたいのです。もしかしたら…」

周りもなんだなんだと寄ってきた。

マルリアンはラーべの顔を本部のテントの幕を開けて覗く。そして、そのまま固まってしまった。

「どうされましたか、閣下」テント内に居た陸軍参謀のオークがマルリアンに問いかける。

「…どう言う事だ?」マルリアンは幕を閉めて声を震わす。

マルリアンの脳内から色々な記憶がフラッシュバックした。

彼女は瓜二つなのか…いや、本物だ。あの顔立ち、あの表情はよく覚えて居る。

彼女は死んだはず…だが推定だ。死に場所さえ分かっていない、もしその他があるならば、巨狼の腑に入って居るか、『生き延びていた』かだ。

 

そして、この後の言葉に本部に居た者達はどよめく事になる。

 

「カランウェンだ…髪型が変わって気付かなかったが…間違いない、本物の、カランウェンだ…」

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